「オレがショート……?」
「早く行けクラヤマ!」
無理だ できない ショートは花形ポジション 野球人生で一度もやったことがない。
そう思ったのと同時にこんな日がいつか来るかもと待っていた自分もいた。
小学生と中学生の野球経験で外野を専門にしていたのは小学4年と6年の何ヶ月かだけ。
高校で外野を選んだのは内野でやっていく自信が無かったからだ。
それでもグローブは外野用ではなくオールラウンド用を買ってもらった。
「クラ!また二遊間組めるやん」
「アラーキーいろいろ教えてな」
セカンドにいるのはアラキ 小中の時に私がセカンド アラキがショートで二遊間を組んでいたことがある。
「クラがショートかー 結構大変やで」
「クラヤマさん よろしくお願いします」
「うん よろしく シュン モンマ」
彼らはソウダの控えショートの二人。
2年生のウノ と1年生のモンマ。
ウノのことはシュンと呼んでいるが別段親しいわけではない。
むしろ人を少し見下す傾向がある彼に苦手意識があった。
守備ははっきり言って下手だがバッティングと足の速さには目を見張るものがある。
背番号は16。
モンマ 体つきは大きいがバッティングはぜんぜん良くない。
ベンチ入りメンバー内で私レベルに打てないのは彼くらいだろう。
守備の形がおそらく先生の理想通りで いわゆるお気に入りである。
背番号は14。
♢
秋の大会一回戦を迎えた。
私は結局ベンチで応援していた。
一週間ショートノックの成果としてはボロボロだった。
ゴロを捕るのが極めてへたくそで丁寧に形を教えられてもしっくり来ない。
先生の教えがしっくり来てないのはわかっていたがやはりどこかぎこちない。
教えは左足で捕って そこから前へ歩くように一歩踏んで そこからステップ3歩で投げろ というものだ。
外野手時代からこの助走が苦手でよく苦戦したものだった。
今日のスタメンショートはシュンでもモンマでもなくソウダだった。
「良かった ソウダがスタメンショートで」
ソウダについて今まで堅実だと思っていたが ショート守備をやってみてわかったことがある。
どうも彼の動きは固い。 なんというかカクカクな動きというのは大げさだが なめらかさが足りない感じはする。
さらに変化があった。
小さなアサダが外野手へ正式にコンバートされたのだが それによりアラキとの併用が可能になり打順が変わった。
アサダが2番から1番 ソウダが1番から3番 そしてアラキが2番となった。
さらに控えセカンドの枠にはシュンが選ばれた。
本人はショートにこだわりがあったようだが先生の指示では仕方ない。
控えのショートが3人も必要ないので誰かが押し出されるのも当然かもしれない。
(控えショートに2人もいらないかもしれないが)
あとどうやら私は外野との併用でユーティリティ的に使うプランは無いらしい。
その証拠にあの後一度も外野練習に参加していない。
相手チームについては私立のちょっと強いところである。
私たちは普通の公立高校で弱小高校といっても差し支えない。
大阪は上が飛び抜けているため目立たないが甲子園レベルの私立が多い。
今回の相手はその少し下のランクとなっていた。
過去に甲子園に出場した経験もあるチーム。
その相手にうちのチームは善戦していた。
初回こそウミノの調子が上がらずに2点を取られてしまうもののその後は粘りのピッチングで4回2失点。
打線は3回まで無安打だったが 4回の裏に火がつく。
「アサダー先頭頼むで!」
「任せろ!」
手に汗握る2ストライク3ボール。
背が低いためかどうも制球がつけづらそうにしているピッチャー 背番号は1。
大事な初戦に無名の公立相手でもエースを起用しているようだった。
カットを何度かした後にフォアボールを勝ち取るアサダ。
「よーし!」
「ナイス選アサダ!」
「走っていいからな!」
ベンチ内の雰囲気もよくなる。
アサダが塁に出ると何かが起きそうな予感がある。
2番はキャプテンのアラキ。
早くもバンドの構え。
「なにするんやろ」
やっぱり試合を見ていて わくわくする選手が出ていると楽しい。
アラキもその一人。
1~4番の打順が回ってくるとわくわくしっぱなしになる。
「行けアラーキー!なんでもしたれ!」
「ゆさぶってええよ」
「転がせ転がせ!」
1球目ボール ランナーも動いていない。
2球目 コツン
「ナイスバントー!」
「一球でええとこ転がしたで!」
「うますぎるやろ さすがキャプテン!」
さあチャンスで回ってくるのはうちのクリンナップ。
3番左のソウダ 4番右のウミノ そして5番右の大砲ワキタ 通称ワッキー。
「初球外角来るで」
ランナーが2塁にいる場合にバッターにやられて嫌なことは3塁へ進まれること。
3塁にランナーがいれば一つのミスで一点を失うケースになってしまう。
ピッチャーキャッチャーのバッテリーエラーでも点が入る状況。
弱小高校に初回の2点しか取れていないこともあり点差は詰められたくない。
左バッターに引っ張られるとほとんど3塁へ行ってしまう。
安直なキャッチャーならそれを嫌がり外角へ投げてくると推察しソウダに進言した。
私の進言に 素直に耳を傾けてくれる数少ない選手。
「うん」
ソウダの頷きにはおそらく私と同様のことを考えていたような顔つきが見られた。
バット引き(兼補助キャッチャー)の務めはこうした直前のバッターと話せるのがいい。
キィン
初球の外角ストレート系のボールだった。
鋭い打球は三塁線を詰めていたサードのさらに左を抜けるヒット。
2塁ランナーのアサダは悠々とホームへ帰還。
打ったソウダも2塁へ。
ワーワー
会場が沸く。
選手の父兄さんたちの応援の声が響く。
ベンチ入りできなかったメンバーの声も。
ベンチの声だって負けてはいない。
シオイリやカワタを筆頭にどんちゃん騒ぎ。
次のバッターであるエースのウミノも続き 俊足?のソウダがホームへ還って同点。
「これはあるかも」
この回は後続が倒れ2点止まりだったが勝てるかもといった雰囲気になってきた。
「カワタ用意しとけ」
「はい!」
先生の声が聞こえた。
今の指示は控えピッチャーのカワタに準備を促すものだ。
つまりエースウミノを代える可能性がある。
初回以来1点も与えていないウミノの交代は寝耳に水だったが さすがにそれは無い。
おそらく相手ベンチに先手を打っているアピールのためだと思っていた。
そして5回も無失点に抑えてベンチに戻ってきたウミノ。
「よしよしナイスウミノ」
「なんか調子ええわ今日」
「ほんま初回もったいなかったな」
「しかもナイスバッティンやったし」
「この回勝ち越すぞ!」
「ウミノ 次センター入れ」
絶望感のある独裁的一言。
やはり交代 先生はこういう半分半分の交代が好きだった。
夏の大会も練習試合も全部これ。
そしてウミノの調子が上がってきた今回についてもこれ。
臨機応変という考えをどこかに捨ててきたのかもしれない。
一つの成功体験をずっと追いかけているようにも感じた。
それでも私たちは先生の元で野球をするしかない。 ほとんど奴隷に近かった。