弱小野球部〜人生の教え〜   作:トータス検二郎

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第四話

 

試合は結局負けた。

 

あの後6回を0に抑えたカワタだったが 7回に2点 8回に1点 9回に3点と計6失点

特に9回の3点は8回に1点差まで追いついていたから余計にがっくり来た。

 

8対4で負けた。

試合に出た選手はスタメンとカワタの10人。

ほとんど控えの選手を使わない。

これもナカムラ先生の特徴だった。

 

秋の大会が終了し モチベーションが下がると思われるかもしれないが弱小校にそんな感傷はない。

 

あるのは毎週のように行われる練習試合。

大会があろうが無かろうが変わらない日常。

 

 

とは言っても変わったこともある。

ソウダが来なくなった。

なぜか急に来なくなったのだ。

 

A戦のショートレギュラーには1年生のモンマが選ばれるようになった。

そして私はB戦のショートスタメン。

二遊間を組むのはレギュラーのアラキではなく控えのシュン。

これが冬までの定位置になった。

 

B戦は基本的にスタメンが5回くらいまで出場し 交代で秋にベンチ外だった選手が出場するような流れになっている。

特に1年生にとってはこの少ないチャンスでいかにアピールするか大事な舞台でもあった。

 

そこでなぜか私は9回までの出場が多かった。

 

私がショートにコンバートして間もないというのもあるのか 慣れさせてくれるようにしていたのかもしれない 少しショートにこだわりのあったシュンの目が痛かった。

 

 

このB戦のよいところは結構自由に立ち振る舞えるというところにある。

1年生も多く のびのびプレーができて楽しい。

サードはホンジョウがつとめており 試合中にも冗談を言い合ったりとこれまた楽しい。

 

私の打順は9番。

フルイニングでの出場が多いため打席数は気にならないが B戦でも一番打てない認定なのかとつくづく思う。

 

11月頭にA戦で3番センターのヒロタがけがをした。

寒くなっているこの時期にけがをする選手は少なくないが 彼の離脱は痛手だった。

 

秋の大会でも6番で2本のヒットを打っており 打線の主軸の一人。

ヒロタはいつもウミノが登板を終えてセンターを守るときにはレフトへ移動する。

使い勝手のよい選手でもあった。

 

この後センターを任されるようになったのはいつもレフトを守っていた1年生のナカノ。

そして空いたレフトのレギュラーを巡った争いが始まった。

新チーム発足当時B戦レフトスタメンだった私は その第一線にいられたかもしれないと思ったりもしたが ショートになった今となっては関係ないことだった。

 

 

候補は3人。

B戦レフトのタイラ B戦ファーストのオオノ。

この二人は1年生の中心人物。右と左の大物打ち。

そしてB戦ライトの2年生 ナルセ チーム唯一の左投げ選手。

足が速く筋肉量もチーム随一の選手 秋の背番号は9。

 

 

レフトの話をする。

レフトというポジションは野球のポジションの中で最も守備に重きを置いていないと考えている。

小中学生の頃は一番下手くそな選手をライパチくんと呼んだりしてできない人が最初にするポジションの象徴はライトだった。

 

野球を始めたての人は右バッターが多く ライトよりレフトに強い打球が飛ぶことからライトは軽視された。

しかし 高校になると左の強打者も少なくなく 3塁への遠投という点でレフトよりライトに守備が上手な選手を置く傾向にある。

 

つまり レフトに必要な能力はバッティング。

打撃能力の乏しい私のコンバート理由がネガティブなものであるという結論になりそうなので ここらでこの話は終えようと思う。

 

 

カキィン

「また打ったやん」

「あいつあんなうまかったんや」

「春の大会一桁あるで」

 

11月の三週目 A戦レフトに起用されていたのはB戦のファースト オオノだった。

オオノは左打ちで 離脱した二人 ソウダとヒロタに似たタイプだった。

それでいて思い切りがよくガッツにあふれていて2年生との関係も良好でかつイケメン。

その反面 コンタクト率にやや不安があり 守備は正直全くうまくない。

 

入学時はショート希望だったが 守備センスが乏しく出場機会を求めてファースト転向。

そこからレフトになったがそのコンバートは成功だろう。

B戦メンバーの台頭はうれしいものだ。

 

 

ここだけの話 私はレフトの守備に自信を持っていた。

元々中学生までは常にチームで一番下手なスタメンの位置で試合に出ており 特に守備が抜群にうまかったキャプテンのアラキがいたため全く自信がなかった。

エラーも多く試合の貢献度も低い私が自信を持つなど難しく また コーチ陣も私をいじられ役にして 極端な言い方をするとストレスのはけ口にしている様子が見られた。

 

私がうまければそのようなことは無かったのか 性格によるものなのかはわからない。

 

 

守備に自信を持った理由を3つ。

 

1つ目は守備機会の少なさ レフトの守備機会は一番少なく一年生から試合でエラーをしたことがない。

2つ目は肩の強さ 同級生の間で四番目くらいに肩が強くコントロールも結構良かった。投手による三塁への牽制暴投のカバーリングからホームでランナーを刺したこともある。

3つ目は硬球が合っていた。 軟式はよく跳ねるためバウンド合わせが難しいが 硬式ではグローブを下から持って行くだけでボールが収まる点が良かった。

 

ショートで出場したほぼ全ての試合で私はエラーしていた。

ほとんどが ボールがグローブに収まらないファンブル系のエラーだった。

 

 

11月の最後の練習試合で事件が起こった。

それはレギュラーショート 1年生のモンマの体調不良で休み。

私はA戦のスタメンに抜擢された。

 

 

「クラ!二遊間やな いつもと逆やけど」

「アラーキー……」

 

「クラーお前なんでおるん?」

「シオイリ まあモンマが休みやからしゃあなしで出たるわ」

 

「クラがそこおるん新鮮やわ」

「ウミノ!打たせてこ!」

 

「クラさーん 頼んます!」

「ナカノー オオノー 後ろ任せたでー!」

 

 

初めての経験 景色が全く違うように感じた。

試合の入りでいつも隣り合った選手と声をかけるようにしていた。

周りとの連携を図るため 自分の緊張をほぐすため

それがA戦の舞台でもいつも通りできたのは安心した点の一つだ。

 

与えられた打順は9番。

普段A戦スタメンのモンマは7番バッターだったが その枠では無く 9番のシオイリが7番を打ち私が9番になった。

 

ちなみに8番バッターは秋に5番を打っていた体格の良いワッキーで この 油断を誘いやすい8番に大物打ちを入れて影の4番にする といったことも先生の好きな作戦の一つだった。

 

いかにも打ちそうなバッターを8番にいれる意味は無いのではと未だに思う。

それともミスフルのダブルチャンス打線のような意図なのだろうか。

 

 

6回の表 3対3の同点の場面。

相手はなんでもない公立高校。

 

ショートに飛んできた打球 この試合三度目のエラーが炸裂した。

足が動かない 手が動かない 動揺が隠せない

本当に全く違う舞台のように いつにも増して体が動かなかった。

 

 

「ウノ 行けるか?」

「はい」

 

セカンドにコンバートされたはずのシュンがこっちにやってくる。

「クラ 交代や」

力なくベンチへ戻る 足取りは軽くないが重くもなかった

 

「どんまいクラ」

「今日はしゃあない」

「切り替えて応援しよ」

 

 

A戦のショートを守るプレッシャーに勝てなかった。

入学当初ショート希望の選手は多かった。

アラキ ホンジョウ ソウダ ウノ カワタ(ピッチャーのサブポジとして)の5人。

実に入部した17人中5人がショートのノックを受けていた。

そこから全員がコンバートされ私が2年生唯一のショートになっていた

そのプレッシャーに負けた。

 

ショートに入ったシュンがエラーをした。

「どいつもこいつも」

先生がベンチで苦言を呈する。

シュンのエラーに一瞬ほっとしたが 先生の声ですぐに引き戻された。

 

 

試合は結局9対6で敗れた。

次こそはという気持ちはあまり起こらなかった。

12月から高校野球は3ヶ月間対外試合が禁止ということも良かったかもしれない。

 

いつも私はB戦のキャプテンのような役割をしている。

Aに出た選手達は試合補助やダウンに回るのだが私はベンチで応援していた。

 

B戦控えのサードである1年生のマキサカがショートで出ていた。

「うまい……」

 

マキサカはセンスの塊のような選手だった。

上背が無く長打を打つ力はないものの その他の項目でオールAと言っても差し支えないように思える選手。

 

先生に嫌われていなければA戦のショートは彼だっただろう。

嫌われている理由はホンジョウと似ており プレーが軽い 必死な姿勢が見えない という類いのものだった。

 

一度聞いたことがある。

「先生の言うとおりやろうと思ったことないん?」

 

マキサカは少し考えてこう答えた。

「んー だって言うとおりにやってもおもんないじゃないすか」

 

マキサカは先生が教えたステップで捕球および送球をしていない。

 

 

 

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