弱小野球部〜人生の教え〜   作:トータス検二郎

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第六話

 

 

「あーまじでおもんない サッカー部入ればよかった」

 

グチをこぼすのは控えサードのホンジョウ。

 

 

「ほんまやで アサイ先生のままやったらぜったいもっとおもろかったのに」

 

私も決まって不満を言う。

 

 

 

アサイ先生というのは1年生のときに顧問だった先生である。

今の3年生は2年生まではほんとうに生き生きと野球をしていた。

しかし 顧問が替わっておもしろくなさそうなことが多かった。

それを見ているからこそこの野球部に希望を持てなかったのだ。

 

「まじでまた顧問替わらんかな」

「あいつおる間は無理やろこのチーム」

 

 

辛辣な発言は元レギュラーでケガをしているセンターのヒロタ。

カワタ同様いつもチームの輪の中心にいる彼だったがここ数ヶ月元気がない。

もちろんケガをして戦線離脱していることもあるだろうが それよりも練習試合のある一幕によるものだと思う。

 

 

ケガをしていても常にベンチを明るくし 盛り上げ上手なヒロタ。

この練習試合も少し負けていてムード良くなかったところにキャプテンが声援で思いっきり噛んだ。

 

 

「おいおいキャプテンどうした」

 

 

それをうまくいじるヒロタ。

ベンチが和みキャプテンも気を取り直して声援を送り直すところで

 

 

「おい なにがおもろいんじゃ!」

 

 

突然の怒号 先生からの意味のわからない苛立ち。

一瞬にして凍り付くベンチ。

 

それ以降ヒロタはほとんどベンチで声援を送らなくなった。

そのことが先生を余計に苛立たせることを知っていながら。

 

 

「いや でもヒロタはケガ治ればレギュラーやって!むしろなってもらわな困る」

 

私はヒロタのことが人間的に好きでレギュラーに戻ってほしかった。

 

 

「無理やろあいつ俺のこと嫌いやもん」

「ほんま好き嫌いでメンバー決めるんやめてほしいわ」

「お前も嫌われてるもんな」

ホンジョウも同じく私は好きだが先生には嫌われている選手。

 

 

メンバー発表の後 ヒロタとソウダが復帰した。

 

ソウダは先生とキャプテンとどのような話があったのかわからないがなぜかこのタイミングでしれっと復帰した。

冬の練習は本当にきつく しんどいものであるためここをさぼったと見られるソウダは肩身が狭いのではないかと心配もあったが なんとかチームになじんでいそうだった。

ただサードのシオイリや控えセカンドに回ったシュンはあまりいい顔をしていなかったように思う。

 

私は10番をもらった。

 

今大会は1年生で初めて背番号をもらう選手も多く 逆に言えば2年生でもらえない人も何人かいた。

 

 

赤点をとったエースのウミノ。

ケガが長かったセンターのヒロタ。

最近まで行方をくらませていたソウダ。

冬練習でケガをしてしまったウノシュン。

そしてなぜか控えサードのホンジョウ。

の5名がベンチを外れる結果となった。

 

 

ホンジョウが外れた理由は正確にはわからないが どうも先生の迷いを振り切るようなものがあったのではないか。

サードはシオイリで行くという。

実力が上でもレギュラーになれない現実を見てしまった。

 

 

それでも大会直前に千載一遇のチャンスが巡ってきた。

Aチーム対Bチームの紅白戦である。

前述のベンチ外5名はBチームに入ることになっていた。

そしてBチームのキャプテンは私。

スタメンも私が決めた。

勝つためのオーダーを組んだ。

 

 

 

 

Aチーム

1番ライト    アサダ   (秋春ライトレギュラー)4→9

2番セカンド   アラキ   (キャプテン)10→4

3番キャッチャー ツブラヤ  (秋春キャッチャーレギュラー)2→2

4番ファースト  ワキタ   (秋春ファーストレギュラー)3→3

5番ピッチャー  カワタ   (秋大会ピッチャー控え)11→1

6番センター   ナカノ   (秋大会レフトレギュラー)7→8

7番ショート   モンマ   (秋大会ショート控え)14→6

8番レフト    ナルセ   (春大会レフトレギュラー)9→7

9番サード    シオイリ  (秋春サードレギュラー)5→5

 

Bチーム

1番ライト    オオノ   (春大会ライト控え)外→19

2番セカンド   タキタ   (秋春セカンド控え1年)20→14

3番センター   ヒロタ   (秋大会センターレギュラー2年)8→外

4番ピッチャー  ウミノ   (秋大会エース2年)1→外

5番サード    ホンジョウ (秋大会サード控え2年)15→外

6番レフト    タイラ   (春大会レフト控え1年)19→15

7番ショート   クラヤマ  (主人公兼語り手2年)17→10

8番ファースト  ハラ    (春大会ファースト控え2年)外→13

9番キャッチャー アサヒヤマ (春大会キャッチャー控え1年)外→12

 

 

Aチームの人員が去年の秋終わりと変わっている点がレフトである。

元々オオノが起用されていたが先生がキャプテンに相談した結果2年のナルセが優先されたと考えられる。

私が大きなエラーですぐに交代した練習試合でナルセは無難に試合を終えていた。

 

うちのメンバーの話をすると、元クリンナップのソウダについて、眼の手術明けであまり調子が上がっていないようだったのでスタメン起用をしなかった。

 

今回セカンドに起用し私と二遊間を組むのは1年生のタキタ。

秋の練習試合では一時期A戦での出場もあった選手だが すぐに影が薄くなってしまった。

 

ショートに私が来たことによるウノシュンのセカンドコンバート。

それにより出場機会は減っていた。 

 

それでもB戦の後半でコンビを組む彼との守備は好きだった。

丁寧でテンポの良い守備には非凡なものを感じる。

バッティングも背が小さいながらにパワーがあり 小技も効く2番タイプの選手。

 

 

さらに今試合で初登場の選手の紹介をしておく。

7番のハラと9番のアサヒヤマ。

ハラは私たちの代で少し浮いており 会話が苦手なタイプの選手だった。

選手としては投げるのが下手でよく暴投を放っていた。

唯一マシンのストレートを打つのが得意という選手。

 

 

アサヒヤマは私よりバッティングがうまくない珍しい選手。

ただ守備能力は抜群で秋大会後にコンバートされたキャッチャーというポジションで才能を開花させ B戦スタメンの地位を確固たるものにしている。

 

 

試合はAチームの先攻で始まった。

 

野球はピッチャーで8割近く決まるというが こちらのピッチャーはエースのウミノ。

やはり圧巻のピッチング。

初回を3人で終わらせる。

 

「よっしゃナイス サクヤ(ウミノの下の名前)!」

ヒロタが嬉しそうに声をかける。

 

「クラ この試合勝とうや」

 

Bチームのモチベーションは高い。

先生のもとを離れた試合 水を得た魚のよう。

 

 

初球

 

カキィン

オオノの鋭いスイングがボールを捉えセカンドの頭を越えていく。

 

「初球 ストレート系で入れてくるで 思いっきり行ったれ」

 

 

今日はBチームのキャプテンという立場から各選手にある程度進言できる。

キャッチャーのツブラヤはストライク先行でカウントを優先させるリードしかできない上に ピッチャーのカワタは細かいコントロールが効かない。

 

さらに 

 

 

「ナイスオオノ!」

「三塁行けるぞ」

 

 

ライトのアサダは肩が弱くいつも山なりの送球。

中継に入るセカンドのアラキは遠投の効く選手では無く 

ショートのモンマは捕ってから投げるのが遅い。

 

「よっしゃー!」

塁上で叫ぶオオノ。

「来たーノーアウト三塁!」

「いけるぞいけるぞ」

 

 

正直に言うとこの時点で勝ったと確信していた。

そのためこの時も 私ならアサダはレフトで使うし 1年のモンマをどうしても使いたいならサードかなーとかのんびり考えていた。

 

 

キャプテンとしてもう一つ仕事があった。

それはバッターとランナーにサインを出すこと。

 

 

「いやクラ ノーサインは無いって」

「うん さすがにバントとスクイズくらいは決めとこや」

「そうやで ガチで勝つためにやろ」

 

「待ってくれオレの話聞いてくれ 理由3つ言うわ」

 

 

試合前の打合せ

ノーサインで行きたかった私はなぜか猛反対を食らってしまった。

仕方が無いので一から自分の意見を言うことにした。

 

 

「一つ目はバントなんか無くても皆やったらカワタ打てると思うねん むしろアウトもったいない」

「みんながみんな打てるとは思ってないで オレなんかは自信無かったらバントするし」

「ただバント必要なんって点差近い時だけやろ?」

 

「この試合ははっきり言って圧勝したいって思ってるからバントは無し」

 

 

 

「二つ目はツブラヤに頭使わせたい」

「サインは無いけど適当にサインは出すよ しかも見てたら解読できそうなサインを出す」

「ツブラヤって先生の指示でサイン見るやん それで結果出したいはずやねん」

「特にオレの打席でリードとかそういうの全部ごちゃごちゃにしたるわ」

 

 

「最後三つ目はオレがサインに責任が持てへん!」

 

 

 

バシッ

「ボール フォア」

 

2番打者のタキタがフォアボールを選ぶ。

 

 

私のサインを見てか何回かスクイズ警戒のために外しを入れてきた。

サインというのは体のあちこちを触ってバッターやランナーに作戦を伝えるものである。

 

簡単なものだと例えば手首をキーと決め そのあとどこを触ったかで作戦を振り分けるというもの。

手首 → あご は盗塁

手首 → 帽子 はバント

といった具合で。

 

 

私は1回のサインであえて手首を一度しか触らない それもわざとらしくやってみた。

タキタも演技派であるためバントの構えなんかを見せてくれる。

そうするとキャッチャーのツブラヤはさっきのサインは「バントの構え」というサインなのかな

とか勝手に思ってくれたら嬉しいな といった程度のものである。

 

 

 

そんなサインを出してるフリでフォアボールという最高の結果。

ツブラヤは警戒してますよ といった先生へのアピールが好きだった。

 

 

ノーアウト一塁 三塁でバッターは巧打が魅力の左バッター ヒロタ。

ノーサインに反対だったようだが 納得してくれたみたいだ。

 

 

 

「ボール」

 

 

やはりバッテリーはランナー二人を警戒して なかなかバッターに集中ができていない。

フォアボールで一塁三塁なら走らなくていいとタキタには伝えてある。

ただ一塁ベース上でちょろちょろしている。

 

こういうところでもタキタの野球センスが光る。

 

 

 

1ボール1ストライクの三球目

 

 

カキィン

 

ショート左に鋭いゴロが飛ぶ。

 

中間守備 ショートのモンマは反応が遅れ グローブに当てるだけ。

 

 

「あっ 」

 

その間にランナーが生還し先制。

 

 

「来たー!」

「ナイバッチヒロター!」

 

Bチームのベンチは大騒ぎ。

 

 

ここで私が嬉しかったのはBチームとして選んだ選手以外の1年生たちも嬉しそうだったこと。

あるいは Aチームの選考状況に不満があるのはレギュラーボーダー付近の選手だけではないかもしれない。

多くの選手が先生に不満を持っている可能性が高い。

そう思えることが嬉しかった。

 

 

その後もBチームはカワタを攻めたてた。

エースのウミノは凡退するも 

サード控えホンジョウのタイムリー

来年キャプテン候補筆頭タイラのタイムリー

私のバント

ハラのきれいなセンター前

 

 

一挙5得点をあげた。

 

 

 

そして3回を終える頃には0対8となっていた。

紅白戦のため残すはあと2イニングス。

「じゃあ選手交代しよっか」

 

 

強豪チームよろしく選手を交代することにした。

正直この試合にこれ以上価値はない。

ただBチームがAチームをぼこぼこにし プライドを傷つけた という過程があれば十分だった。

 

これでレギュラー選考も見直しがあるだろうと思って。

 

 

 

投手  ウミノ   → イケダ  (1年生ピッチャー)外→外

捕手  アサヒヤマ → クラヤマ (主人公)17→10

一塁  ハラ    → エノキ  (1年生サード兼ファースト)13→外

遊撃  クラヤマ  → マキサカ (1年生内野手)外→16

中堅  ヒロタ   → ソウダ  (眼の治療明け)6→外

右翼  オオノ   → モトミヤ (2年生控えライト)外→17

 

 

キャッチャーは中学までやっていたポジションの一つだ。

ショートでのレギュラーが難しければ守備の貢献度が高くレギュラーの能力では負けてないと思えるポジションはキャッチャーだけだった。

 

もちろんバッティング能力はツブラヤとは雲泥の差。

しかし ここでキャッチャーとしての能力アピールをしようと そのために1年生投手のイケダとレギュラー陣を利用させてもらう。

 

 

 

イケダは1年生唯一のピッチャー専任選手で B戦でよく先発している。

ピッチャーとしての能力は平凡といった感じだが よく先生に怒鳴られるポイントがある。

 

 

「前来んな!!」

 

これはボールを投げてキャッチャーからの返球を待つときにマウンドの前に来る。

そしてボールを受け取って後ろを向き少し歩いてマウンドを上る。

この動作が先生の中では無駄だと考えているのだろう。

いくら言っても治らないこのクセを嫌っているようだった。

 

 

 

「前来てぜんぜんええで」

「えっでもあれ先生にめっちゃ怒鳴られますよ」

「あー そんなん気にせずオレだけに集中してくれ あとカーブめっちゃ投げてもらうから頼むで」

「はい!」

 

 

4回表

Aチームの攻撃

ウミノは3イニングスで打たれたヒットはナカノの1本のみというところで降板となったため

打順は2番のアラキから。

 

 

「久しぶりちゃうん キャッチャーやるん」

 

小学生時代から一緒のアラキが声をかけてくる。

 

 

「うん 今日よかったらA戦狙うかもしれん」

「まじ?ツブラヤ強敵やで」

「まあBでアラーキーとバッテリー組みたいってのもある」

 

 

 

アラーキーは持ち前のコントロールでA戦に出た後はB戦でピッチャーをすることもあった。

中学生以来のバッテリーを組むノスタルジーもあったし アラーキーを一番うまくリードできるのは私だという自負もあった。

 

 

 

 

私がイケダの欠点だと考えていたのはクイックの下手さとメンタルの弱さだった。

まず取り組んだのはメンタル面で気にさせないこと。

 

 

「あとランナー出てもクイックしすぎなくてええから」

「それじゃあ盗塁が 」

「オレのこと信用してないな?」

「あ いえ そういうわけじゃ 」

「わかってるて それよりバッター勝負で!点差あるし気楽に行こう」

「はい!」

 

「ただクイックのサイン一回だけ出すからその時だけやってもらうから」

 

 

 

「ボール フォアボール」

 

やはりうまい。

 

アラーキーに何球か粘られた後 はっきりとわかるボールで四球。

相手がやられて嫌なことを平然とやってくるバッター。

 

 

ノーアウトのランナーを出してAチームのクリンナップへと繋がる。

 

3番キャッチャー ツブラヤ

 

 

 

「クラ キャッチャーやる気あるん?」

「うん 紅白戦やしやっていいかなって」

「 キャッチャーってそんな甘くないで」

 

 

むっとした表情でピッチャーの方を向くツブラヤ。

今さら自分以外がキャッチャーをやるのが許せないのかもしれない。

 

 

 

一球目 カーブ

 

「ストライク 」

 

 

私が考えるイケダの長所は何と言ってもこの大きく曲がりブレーキの効いたカーブ。

ツブラヤとイケダがバッテリーを組むことは少ないが ツブラヤは捕る際 このカーブに一瞬腰を浮かすほどの性能だった。

 

 

二球目 カーブ

「ストライク 」

 

 

三球目のサインはクイックで投げるストレート。

バシッ

「ストライク バッターアウト」

 

 

 

この回はアラーキーと4番のワキタにフォアボールを選ばれたが他の3人をきっちりと抑えて0封。

 

クリンナップのツブラヤとカワタ。

ウミノから唯一安打を放っているナカノを仕留めたのは高評価だろう。

 

ベンチではウミノやヒロタが明るく迎えてくれた。

 

「イケダええ球ほるやん!」

「B戦でもあれくらいのやつ見せてくれよ」

「そうそうナイスピー イケダ!」

 

「なんか今日調子良いかもしれないっす」

「それならフォアボール2個も出すなよ」

 

 

 

良い雰囲気だ。

ヒロタが先生に叱責されて以来 ベンチで久しくこのような雰囲気を感じていない。

 

 

 

4回のマウンドにもカワタが上がる。

 

8点をとられて意気消沈といったところだったが それでも途中でノックアウトというわけにもいかない。

Aでリリーフするとしたらキャプテンのアラキだったため自分で自分に交代というのもハードルが高い采配だろう。

 

 

 

「あのクイックのやつってクラが前話してたプロ野球のやつ?」

 

話しかけてきたのはこの回からライトを守っている2年のモトミヤ。

この選手とはベンチ仲間で仲が良く ホンジョウ同様冗談を言い合える仲。

しかし 野球IQがお世辞にも高いと言えないモトミヤからの意外な質問だった。

 

 

「え まじで よくわかったな」

 

「なんかクラが前日のプロ野球観てテンポ一緒で打たれたって言った帰りのミーティングで先生が同じこと言うてたから印象残ってるねん」

「そうそう 遅い球同じテンポで続けたら 速いテンポに着いてこられへんかなって」

 

「すごいな ツブラヤからスタメン取れるんちゃうん」

「え そうかな そんなすごい?」

「なに言うてんねん そんなわけないやん ほんま調子乗りすぎやろ」

「え 手のひら返しやば」

 

 

 

モトミヤは真顔で言ってきた。

冗談か本気かわからない言動が彼はうまかった。

 

 

 

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