「ウマ娘がトレセン学園を卒業した後は、どう過ごすか知ってる?」
仕事休憩の昼休み。二人のウマ娘がファミリーレストランで食事をしていた。
質問をされた方のウマ娘は長く艶のある栗毛の髪が特徴的な、"スーツに着られている"という表現がよく似合ういかにも若手の社会人。
対して質問した方のウマ娘は、髪型はツイテールと若々しいのにどこか落ち着き払った表情が印象的な。糊の利いたスーツが似合う、ベテランの社会人といった風体のウマ娘。
「はい! 大規模な大会であるドリームトロフィーなどに出場したり、ライブに出演するアイドルとして活躍したりするんですよね!」
元気よく答える新人のウマ娘に対して、ベテランのウマ娘は落ち着いた様子で口を開く。
「うん、一部はそうだね。でもそれだけじゃない」
彼女はゆっくりと首を振ると、優しい微笑みを浮かべながら続けた。
「結婚して家庭に入る子もいる。レースから離れて、普通のOLとして就職したりね。アタシやキミみたいに事務を勉強し始める子もいっぱいいる」
そして、言葉を一旦区切ると怜悧な眼差しを浮かべてこう付け加えた。
「酷な話だけど、トレセン学園の卒業生には足を壊して走れなくなった子だっている。そうでなくとも、ライブで歌い踊るという夢を諦めざるを得ない事情の子だっている。アタシ達が手助けしていく相手っていうのは、つまりドリームトロフィーやライブから遠のいた子達なんだ」
淡々と話す彼女の言葉を、若手のウマ娘は真剣な表情で聞いていた。
若手のウマ娘の名は、レディメロディ。彼女に対して、親しい口振りながら真剣さを込めて、対面の相手は問いかける。
「メロディちゃん。これからキミが働く職場っていうのは、そういった子たちを応援する仕事でもあるんだ。今までのように楽しいことだけを追いかけるんじゃない」
真剣な目で見つめる相手に、レディメロディは一瞬気圧されるもすぐに姿勢を正して返事をする。
「私は、絶対に後悔したくないんです。なんたって自分の将来が不安になった時、相談できる人がいるのは心強いですから!!」
その返事を聞いて、対面のウマ娘は少し安心した。彼女は小さく頷くと、再び優しい声色に戻って語りかける。
「うん、それじゃあ、ちゃちゃっとご飯食べてお仕事頑張ろうか!」
ウマ娘向けのNPO法人『引退ウマ娘協会』。そこは少し昔、トレセン学園で『ブロンズコレクター』と謳われた一人のウマ娘によって創設された組織。
創設されて、もう10年以上経つ。最初はNPO法人規定を通る最小人数だったものの、今では数十人のスタッフが所属する大きな団体となっていた。
その組織の代表を務めるウマ娘の名は、ナイスネイチャ。今年で三十五歳になる。なお、未だに独身らしい。