NPO法人ネイチャさん十五歳   作:稗田之蛙

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新人のメロディちゃん

 NPO法人。それは特定非営利活動を行う団体のこと。

 主な活動内容は多岐に渡り、社会福祉や地域振興などがその代表例か。

 メロディは慣れない事務仕事をこなしながらも、机に置いていた開きっぱなしの参考書を目に入れた。

 そこにはNPO法人として認定される為の条件分野について記載されている。

 

1.保健、医療又は福祉の増進を図る活動

2.社会教育の推進を図る活動

3.まちづくりの推進を図る活動

4.観光の振興を図る活動

5.農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動

6.学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動

7.環境の保全を図る活動

8.災害救援活動

9.地域安全活動

10.人権の擁護又は平和の推進を図る活動

11.国際協力の活動

12.男女共同参画社会の形成の促進を図る活動

13.子どもの健全育成を図る活動

14.情報化社会の発展を図る活動

15.科学技術の振興を図る活動

16.経済活動の活性化を図る活動

17.職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動

18.消費者の保護を図る活動

19.前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動

20.前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動

 

「……複数該当する場合もあるんだっけ」

 自分たちが所属している引退ウマ娘協会についての活動内容は主に17号の『職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動』が該当するが、ウマ娘に向けた支援活動という性質上から1号と6号と13号、及び関連する組織と連携する事から19号に該当している。

 簡潔にいえば「どれか一つの活動しかやってはいけない」という事はないのだ。無論、他の組織に任せるべき事柄はあるにせよ……。

 そう考えながら目の前にある書類に再び目を戻した。メロディは組織が支援する人達の情報をデジタルデータとして管理・保管する為に、パソコンへ入力する作業をこなしている。

 この作業は地味だが時間が掛かる。特に、メロディはトレセン時代はトレーニングに励んでばかりだったからパソコンというのをあまり扱った事がない。ゆえにタイピングが遅い。

「うぅ、情けなや……」

 へろへろとしたタイピングを目の前に、思わず口から弱音が漏れる。それがネイチャに聞こえたのか、慰めるように声をかけられた。

「遅くても大丈夫だよ。今は仕事を覚える期間だから、ゆっくり確実にね」

 ネイチャはキーボードを打ち続けるメロディへ優しく諭してから、彼女も自分の仕事に取り掛かっていた。

 

 NPO法人に助けられた人間が、NPO法人へ就職する……というのは、特別珍しい事例ではない。

 特に、第17号『職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動』を活動として掲げている法人組織自体が受け皿として機能している場合もある。

 しかしそれはこの不況の中で他人を雇用する余裕が少ない事の裏返しでもあり、NPOが設けた受け皿の数も限りがあるのも現実である。

 メロディからしてみれば、そもそもの話……「手や足に不自由がある者を誰が好き好んで雇おうか」という話である。彼女は目の前の書類と自分の右足に目をやってから、ふうと溜め息を吐いた。

 

「うん、間違い部分なし。お疲れ様!」

 データ入力を終えてナイスネイチャ直々にチェックを受けてOKサインが出ると、メロディは安堵で溜息をまた一つ漏らした。

「お、お疲れ様でした」

 ホッと一息吐く彼女を見て、ネイチャは優しげな笑顔を浮かべる。

「これも大事な仕事だよ。これからキミが担当する仕事で、積み重ねたものが彼女達の未来に繋がるの」

 そう言われて、メロディは少し考え込んでから、再び口を開く。

「……"踊ったり歌ったり出来ないウマ娘"を雇ってくれる場所って、どこにあるのでしょうか」

 その言葉を受けてネイチャは意図を汲み取るように逡巡してから、静かな声でメロディへと問いかける。

「あるよ。いっぱいね」

 ネイチャは落ち着いた素振りで、メロディの机の上に置いてあった参考書のページをパラパラとめくり始めた。

「アタシ達が向き合っていくウマ娘で、特に支援が必要な子って、どういう子が当てはまると思う?」

 彼女が問いかけると、メロディは考え込む。

「身体に何かしらの障がいを抱えたウマ娘。レースの事故などで後遺症が残った子」

 メロディは自分の頭に浮かんだ言葉を並べ立てた後、続きの言葉を発した。

「その中でも特に、身寄りがなく保護者や監督者もいない子は最優先に。関係各所と連携して、早急に事態に対処していく必要がある……ですよね?」

 その答えを聞いて、ネイチャは満足そうに頷いた。そして参考書の内容を示してから言葉を続ける。

「そういう子達には、まず、この参考書に書いてある通り最低限でも生きてはいける程度の援助が国から用意される。希望するなら専用の雇用枠を開いてる企業とかにだって就職活動は出来る。でも『その当人達が援助してくれる制度や雇用枠がある事を知らない』って事がとっても多いんだ」

 そこまで言ってからネイチャはパソコンにある情報データに目を向けて、言葉を繋げる。

「その逆に、支援する側からそういう"個"を認知出来ていない状況もまた多い。病院や学園とも連携して、彼女達がセーフティーネットからすり抜けないようにしっかりと認知していかなければならないの」

 そこで一度話を区切ってから、マウスホイールを動かして情報データがどれだけあるかをメロディに簡単に示してくれた。

 そこには、今現在の支援対象のウマ娘の名前がずらりと並んでいる。

 

『レディメロディ』

 

 メロディはその中に、自分の名前が載っているのを一瞬だけ認識して、視線が泳いだ。他にも、様々な名前があった。

 ネイチャはパソコンを操作しながら、話を続けた。

「目を逸らしたくなるのは当然の事。なんたって、アタシ達が活躍していたトレセン学園では夢や希望であふれていた。誰にとってもね。けど、いざ夢から覚めてしまって、生きる希望さえ無くしてしまったら? そんな子達に"まだ別の形で夢も希望も残ってる"って事を教えるのが、アタシ達のお仕事の一つってコト」

 ネイチャは明るく振舞っていた。メロディには、彼女の優しい笑顔が眩しかった。

 きっと、この人は今までに大勢のウマ娘と向き合ってきたのだろう。そんな確信が持てた。

 だからこそ、この業界に入って一ヶ月にも満たない自分が彼女の役に立てるのか、メロディは少し不安だった。

 しかし、そんな不安を吹き飛ばすように、ネイチャがのんびりとした声で言った。

「まあ、メロディちゃんなら大丈夫だよ。しっかりしてる子だし、物覚えもいい。何よりアタシなんかより真面目だからさ」

 そう励ましてくれた事で、メロディの心に芽生えた不安は少しだけ小さくなる。

「あとさ、なーんか放っておけないんだよね。メロディちゃんの事。なんかこう、娘みたいな感じっていうのかな?」

 困ったように笑う(米食いてー顔)ネイチャを見て、思わずメロディは釣られて笑ってしまった。お互い、そこまで年は離れてない。

 ただ、それはそれとして、そうやって自分を認めてくれる人がいるというのは悪い気分ではなかった。

「そうですね……ネイチャさんの顔に泥を塗らないように、困ってるウマ娘さん達の為に、私も頑張ります!!」

 少なくとも自分は誰かの役に立っていて、そしてそれは決して無駄なものではないのだから。

 

 だから"音"を奏でられなくなった今でも、メロディは頑張ろうと思えた。

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