圭一の恋人選びの部活動から数日が経過する。レナを刺激しないように、その話題についてはもはや禁忌となり、学校では徐々にほとぼりが冷めたように思えた。しかし、この話題は意外な所に飛び火していた。それは雛見沢の町内会だった。
魅音の恋人、それは将来の雛見沢のリーダーを決めるのと同義と言っても過言ではなかった。そうなると町内会が無視できるハズもなかったのだ。
話が伝わった原因は入江だった。とある町内会の会合の後、酒などが振舞われ、役員などのメンバーと軽い宴会となった。その席で、何の気なしにただの笑い話程度に圭一の恋人選びの話をしたのだが、それが公由村長の耳に入ったのだった。
そうして古出神社の敷地内にある集会所に、改めて町内会の役員たちが集められ、圭一の恋人選びの議題が話される事になった。そして、司会の公由村長が開始の挨拶を始めた。
「それでは本日はご多忙の中、ご足労いただきありがとうございます。本日は事前にお伝えした通り、前原家のご子息、前原圭一くんの恋人選びについての議題です。現在圭一くんは魅音ちゃんと、竜宮さんとこの娘さん、礼奈ちゃんとどちらを恋人にするかで意見が割れてるらしい。問題は恋人候補に魅音ちゃんがいる事ですね。魅音ちゃんの恋人となったら将来の雛見沢のリーダーだ。そのため、町内会の意向も確認しなきゃいけないと思ってね。そこで、皆さんの意見を聞かせて欲しい」
さて、竜宮レナは本名は竜宮礼奈である。
レナは過去の辛い事や嫌な事を忘れて雛見沢でやり直すため、れいなから『い』の字を取ってレナと自称している。言わばレナはクラスメイト内だけの通称であって、事情を知らない人たちはレナの事を本名である礼奈と呼んでいるのだった。
すると参加者の一人が言った。
「ではまず公由村長の意見を聞かせてください。村長はどう思ってるんですか?」
「私はねえ、圭一くんは見どころのある若者だと思ってるよ。彼が雛見沢のリーダーになってくれるんなら、何も問題はないんじゃないかなあ」
すると、別の男が言った。
「確かに圭一くんには熱いハートや行動力はあると思う。しかし、彼は向こう見ずで計画性がないように思える。彼はリーダーというより切り込み隊長くらいのポジションが相応しいんじゃないですか。つまり、竜宮さんとこの娘さんとくっついた方が良い」
すると、また別の男が言った。
「いいや、彼は無鉄砲に見えて内面はクールで
「しかし、だからと言ってお魎さんにまで無礼を働いたんだぞ。しかもお魎さんを殺して次期頭首をただちに魅音ちゃんに据えようとしたり、そんな事許されていいのか!」
「許すも何も、そのお魎さん自身が認めてるんじゃないか。あのトラブルの後、園崎家はお魎さんの号令で圭一くんの行為を全面的にバックアップしていたんだぞ」
更にその意見を後押しするように別の男も言った。
「それだけじゃない、噂によると茜さんだって『魅音か詩音、好きな方を持っていけ』というような事まで圭一くんに言ったそうじゃないか。お魎さんと茜さんからあそこまで認められる男なんてそうはいないぞ」
「しかし彼は雛見沢に来てまだ日が浅い。今どきの若い者は田舎なんてすぐ飽きて、あっさり都会に出て行っちまう。彼を認めるには実績が足りなすぎる。もっとじっくり彼の人間性を見定めるべきだ」
「そうだそうだ、それに思春期の子どもの成長に関わる大事な時期にこんなとこに引っ越してくるなんて、きっと都会で何か、いられなくなった事情があるに違いない。竜宮さんとこの娘とくっつくならともかく、魅音ちゃんと一緒になるなら、まずは前原家の身辺調査も必要じゃないか」
結局、町内会の意見も完全に分かれてしまい、ついには取っ組み合いの喧嘩にまで発展しかけた。そこで、公由村長は自分の手では収拾がつかないと判断し、急遽御三家筆頭である園崎お魎をこの場に呼び出す事にした。
そうして呼び出してから1時間後、ようやく何名かの介添え人に連れられてお魎がやってきた。表情は険しく、公由村長はお魎が明らかに不快感を抱いている事が分かった。
「すまないねお魎さん。実は前原さんとこのご子息の前原圭一くんが魅音ちゃんを恋人候補にしてるそうなんだ。それで、町内会としても放っておけなくてさ、一応どうしようか話し合っていたけど、なかなか意見がまとまらなくてさ。それでお魎さんを呼んだんだよ」
するとお魎は公由と会衆の面々を不機嫌な表情のまま怒鳴りつけた。
「このダラズが! 人の恋路を邪魔したらいけんね!」
「でもさ、もし魅音ちゃんと付き合うとなったら、将来の雛見沢の顔役だよ。それが、町内会の意向をスルーじゃ、さすがにマズいんじゃないかなあ」
「ワシは魅音を信頼しとる。魅音が選んだ相手なら誰であっても文句は言わん」
「でもさあ、魅音ちゃんだってまだ高校生だよ。そういう細かな所まで判断できるのかなあ」
「魅音は園崎家が子どもの頃から教育してきたんね、ただの女子高生とは違う。それに、もうそういう時代じゃないんね。若い
「そうかい、お魎さんがそこまで言うなら分かったよ。後はお任せするよ」
「ったく、やっと分かったんかい、このダボが」
公由村長もまだ言いたい事がない訳ではなかったが、お魎さんにあそこまでストレートに否定されては、もはや何も言い返せなかった。そして、圭一の恋人選びの件は、飛び火に飛び火して、お魎の一喝でやっと落ち着いたのだった。
と、思いきや・・・。
圭一は学校の帰り、少し寄り道して駄菓子屋でジュースを購入しようとした。商品を手に取り、店のおばちゃんに渡した。するとおばちゃんが言った。
「あら、圭一くんいらっしゃい。魅音ちゃんとは付き合ってどれくらいになるの?」
全く考えてもいなかった質問に、圭一はあっけに取られて一瞬固まった。
「えっ、何の事ですか?」
「ほら、圭一くんと魅音ちゃんが付き合う事になったからって、町内会で村長さんやお魎さんが話し合ってたって聞いたよ」
「それ、誰から聞いたんですか?」
「ええっと、誰からだっけ? ちゃんとは覚えてないけど、みんな話してたよ」
「ええー、みんなが話してたって、マジですか!?」
「あら、違ったのかい?」
「まあ、そういう話もありましたが、一応保留になりまして・・」
圭一は困ったように苦笑いを浮かべる。だがしかし、人の口に戸は立てられない。噂は尾ひれはひれが付き、どんどんエスカレートしていく。中には魅音とレナが圭一を奪い合って刃傷沙汰にまで発展したという噂まで出て来た。
しかも、当事者がいくら事情を説明しても、それが曲解され、ますます変な方向に話が進んでいく。
だがしかし、それはもしかしたら単純な噂話だけの問題ではない可能性もある。中にはお魎の意向を都合よく汲み取って、圭一と魅音をくっつけようと故意に噂を流した者もいるのかも知れぬ。だがしかし、それはもう分からない。もはや圭一達はただ黙って、噂が沈静化するのを待つしかなかったのだった。
そうして今日も、残暑の続く平和な雛見沢に、ひぐらしのなき声が元気に響き渡るのだった。
ひぐらしのなく頃に
恋多し編 おわり☆
おまけ☆
その他の人物に圭一の恋人はどちらが相応しいか聞いてみた。
富竹ジロウの場合
「そうだなあ。被写体として写真を撮るなら、圭一くんとレナちゃんの方が制服とセーラー服で一体感があって良いかも知れないなあ。ぼくは圭一くんにはレナちゃんの方が合ってると思うよ」
鷹野三四の場合
「ごめんなさいね圭一くん。レナちゃんは雛見沢の風土や歴史を調べる、私の大事な研究仲間なの。だから、男にうつつを抜かしている暇なんてないのよ」
大石蔵人の場合
「うーん、そうですねえ・・」
(園崎家の動向を探るのには、介入しやすい窓口的な存在が必要ですねえ。前原さんならその役割にちょうど良いかも知れませんねえ)
「前原さんには、園崎さんの方がお似合いだと思いますよぉ、んっふっふ」