錬金術師のロロナは
元々はロロナの師匠のアストリッドがアトリエの代表を務めていたが、ロロナの頑張る姿勢を見ている内に『自分も錬金術師として再出発したくなった』と、アトリエをロロナに任せて出て行ってしまった。そんな訳でロロナはアトリエの店主として、お客様から依頼を受けて、製品を納めていた。
さて、そんなロロナには一つの趣味があった。それは、人の名前にニックネームを付ける事である。友人はもちろん、それが初対面の人だろうが、目上の人だろうが、会う人会う人お構いなしにニックネームを付けていく。
例えばクーデリアならクーちゃん、リオネラならリオちゃん、ステルケンブルクならステルクさんと呼び、例を挙げれば枚挙に
そんなロロナのアトリエに今日もお客さんがやってきた。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ、錬金術のご依頼ですか?」
「はい」
「ではお名前と希望する品物を教えてください」
「私はオッペンパイマーと申します」
すると名前を聞いてロロナはちょっと考える。
「ええと、オッペンパイマーさんだから…、オッパイさん!」
すると、それを聞いて客は怒り出してしまう。
「なんだそのけしからん名前は! これではまるで、おっぱい好きの変態紳士みたいではないか。まあ、否定はできぬが」
「あ、そこは否定されないんですねw」
「馬鹿者、笑っている場合ではない!」
「ごめんなさ~い」
そうして、客は怒って帰ってしまった。
「あう~、ホムちゃん、お客さん帰っちゃったよ」
「マスターが悪いと、ホムは思います」
「そっかぁ、気を付けなきゃねえ」
そうして反省している内に次の客がやってきた。
「たのもう」
「あ、いらっしゃ~い」
落ち込んでいたのも束の間、来客があればあっという間に切り替えて笑顔で応対する。
「まずは名前を教えてください」
「私は、セッツァー・クスロスと申します」
ロロナはまたちょっと考える。
「セッツァー・クスロスさんだから、セック……」
ロロナがそこまで言いかけた時、ホムが慌ててロロナの口を塞いだ。
「マスター、それ以上言ってはいけません!」
「な、なあにホムちゃん、ビックリしたよ」
「とにかくそのニックネームは駄目です。別のものにしてください」
「もう、変なホムちゃん。それじゃあ、セッツァー・クスロスさんだから~、セクロ……」
再びホムがロロナの口を塞ぐ。
「それもいけませんマスター!!」
「ええ~、何なに、どうして~」
「どうしてもです!」
すると客がまた怒り出してしまった。
「何をやっているんだお前たち。そもそも人の名前で遊ぶんじゃない。私をバカにしているのか!」
「そんなつもりは全くないです~」
しかし、結局その客も怒って帰ってしまった。
「また帰っちゃったよホムちゃん」
ロロナはガックリと肩を落として溜息を吐く。
「マスター、お客様にニックネームを付けるのは止めた方が良いと、ホムは思います」
「ええ~、駄目だよ~、ニックネームを付けるのは私の生きがいなんだもん」
「ところでマスター、ホムもマスターのニックネームを考えました」
「え、私のニックネームをホムちゃんが。嬉しいなあ、教えて教えて!」
先ほどまで落ち込んでいたのが嘘のようにロロナは元気いっぱいでホムに食いついてきた。
「ヘタポンというのはどうでしょう?」
「ヘタポン? ちょっと可愛いけど変なニックネーム。それに私の名前と一文字も被ってないけど、何か意味があるの?」
「ヘタレポンコツ娘でヘタポンです」
「それは酷いよホムちゃん~」
などとやっている内にまたお客さんがアトリエにやってきた。今度は男性の二人組だった。
「いらっしゃいませ、お名前を教えてください」
「私はフェラルド・チオードといいます」
「俺は弟のイマラルド・チオードだ」
「ええと、フェラルド・チオードさんと、イマラルド・チオードさんだから……」
そうして、結局チオード兄弟も怒って出て行ってしまった。
そしてついにホムが我慢の限界を迎える。
「マスター、このままでは深刻な客離れがおきてしまいます。アトリエの存続危機です!」
「ええー、それは困るよ。師匠が帰ってくるまでアトリエを守らなくちゃいけないんだから」
「だったらもう、ニックネームは禁止にしてください」
「そっかあ、残念だけどアトリエを守るためなら仕方ないよねえ」
ロロナはガッカリして思いっきり肩を落とす。
そうしてホムによるニックネーム禁止令が出されたある日、ロロナのアトリエに1人の女性客がやって来た。
「私は東の島国から来た、
「いらっしゃいませ結画賀唯さん。今日はどのようなご依頼でしょうか?」
ロロナは笑顔で出迎える。だがしかし、女性客は訝し気な顔をする。
「どうしましたか、結画賀唯さん?」
「あの、このアトリエではニックネームで名前を呼ばれるという噂を聞いたのですが?」
「ああ、それはちょっと諸事情で禁止になってしまい、これからはちゃんとお名前で呼ぶ事になったんですよ」
「そうですか。むしろ私はニックネームの方がありがたかったのですが…」
「どうしてだろう。結画賀唯さんは名前に何か問題があるのかな…」
ここまで来てロロナはハッとする。
「あっ、フルネームで呼ぶと『ケツが
「ああ~、その名前で私を呼ばないで~」
女性客は泣きながらアトリエを飛び出してしまったのだった。
「ホムちゃん、もうニックネーム禁止令、止めようよぉ」
「ダメです。さっきのお客様は例外中の例外です。名前というものは、親からもらった大切なものですから、気軽に変えてはいけないのです」
「そんなものかなあ」
「そんなものなんです!」
などと言ってると、今度は王国騎士であるステルケンブルク・クラナッハがアトリエにやってきた。
「いらっしゃいませ、ステルケンブルクさん」
そう言われ、ステルケンブルクは一瞬固まった。
「あの、どうしたんですかステルケンブルクさん?」
「ロロナの方こそどうしたんだ。ステルケンブルクさんなどと、何だかよそよそしいではないか」
「ああ、実はホムちゃんからニックネーム禁止令が出されちゃいまして。それでこれからはちゃんとお名前で呼ぶ事にしたんです。あ、もしかして騎士様だからステルケンブルク様と呼んだ方がいいですか?」
「いや、いい。むしろ今まで通りステルクさんと呼んでくれ。いや、むしろ最近ではステルクさんでも物足りなくなってきていたのだ。この際、スケさんでも、スーくんでもいい。私をニックネームで呼んでくれ!」
「ええっと、どうしようかなあ…」
ロロナは困ったようにホムを見つめる。その表情からは、ステルケンブルクをニックネームで呼びたくてしょうがないという思いが溢れていた。
「ねえホムちゃん、ステルクさんだけは例外って事でダメかなあ?」
「ダメですマスター。一度前例を作ってしまうと、いくらでも例外が生まれてしまいます。ここは心を鬼にして耐えてください」
するとステルケンブルクがカウンター越しに身を乗り出し、物凄い勢いでホムに頼み込んで来た。
「頼むホム、俺はロロナにニックネームで呼ばれる事が生きがいなのだ。日々の業務の束の間の癒しなのだ! 心のご飯なのだ! このままでは俺は何を楽しみに生きていけば良いというのだ!」
「ですが、このままではアトリエ存続の危機で…」
「それならば問題ない! 俺は王国からアトリエの管理も任されている。何があっても絶対に俺がロロナを、もとい、アトリエを守ってみせる!」
そしてステルケンブルクの強引な力技でロロナのニックネーム禁止令は完全撤廃となったのだった。そうしてロロナは今日も、楽しそうにアトリエに来るお客さんにニックネームを付けるのだった。
それにしてもホムは思った。
そんなにマスターの事が好きなら、さっさと結婚してニックネームじゃなく、『旦那様』とでも呼ばせたら良いのではないか、と。
おしまい☆
おまけ☆ 【錬金術師にとって最も重要なこと】
ロロナの錬金術の師匠であるアストリッドは、とにかく可愛いものが好きである。その中でも最も好きなもの、それはロロナであった。可愛いロロナをいじるのがとにかく大好き。そんなアストリッドは、ロロナを弟子にした時、ちょっとした悪戯をした。
アストリッドはアトリエの外にロロナを連れ出し、道端に置かれているタルの前にやってきた。
「ロロナ、これから錬金術師として最も重要な事を教える。心して聞け」
「はい師匠!」
「ではロロナ、これが何だか分かるか?」
「えっと、タルですかね」
「そうだ、タルだ」
「それがどうしたんですか師匠?」
ロロナはちょっと首をかしげる。
「いいかロロナ、錬金術師はタルを見たら『タル』だと言わなければいけない鉄の掟がある。古今東西、歴代のあらゆる錬金術師が皆やってきた事だ」
「えっ、どうしてですか師匠?」
「どうしてもだ。代々錬金術師はそういう決まりなんだ。どれ、ちょっと言ってみろ」
「はい師匠。タル、これでいいですか?」
「駄目だ、もっと可愛く言ってみろ」
「ええー、どうしてですか師匠?」
「そういう決まりだからだ。タルを可愛くタルという事が錬金術師にとって最も重要な決まりなのだ。ほら、もう一度」
「タ~ルw これでどうですか師匠?」
するとアストリッドはロロナを見て締まりのないだらしない表情を浮かべていた。
「うむ、いいぞ。その感覚を忘れない内にもう一度だ」
「タ~ルw」
「うん、いい。やっぱりお前には素質がある」
「何の素質ですか師匠?」
「何って、錬金術に決まっているだろう。さあ、仕上げにもう一度!」
「タ~ルw」
「ああ、イイ…」
「タ~ルww」
「あああぁ、最高だぁぁwww」
失神しそうなほど恍惚の表情を浮かべるアストリッドを見て、本当にこんな師匠で大丈夫なのかと心配になったロロナなのでした。
おしまい☆
アトリエシリーズ恒例の、『タ~ルw』、ロロナちゃんもすっごく可愛かったですねw