漫画アニメ短編集&救済の物語   作:クリリ☆

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ドラゴンクエスト3【ニートの僕が他力本願で世界を救ってしまった件 ー後編ー】 そして伝説へ

ルイーダの酒場を出ると、悟空はおもむろに人差し指と中指を額にあて、目を閉じる。何をしてるのかな? と思うと悟空が言った。

 

「あっちの方角から悪くて強い気を感じる」

 

「えっ?」

 

「恐らくこの悪い気が魔王だ」

 

悟空は空の遥か彼方、方角で言うと北西、あるいは西北西の方向を指し示す。どうやらその方角に魔王バラモスの城があるのだろうか。

 

「どうしようか。オラの舞空術ならひとっ飛びだけど、さすがに二人抱えて飛ぶのはなあ。もしかしたら途中で敵に襲われるかも知んねえし」

 

「飛行魔法なら私も使えるよ」

 

そう言うと、フリーレンはその場にふわりと浮いて見せた。

 

「ユウシャ、おめえは飛べるか?」

 

「いや、僕は無理です」

 

「そっかあ。うーん、どうすっかなあ。おめえ、ひょろっこいし、ユウシャを抱えてじゃあまり飛ばせねえしなあ」

 

まさか、悟空は一気にバラモス城まで飛んで行って魔王バラモスを叩くつもりか!? いや、普通は魔王を討伐と言ったら、もっと色々な手順を踏むものなんじゃないのか。

などと思っているとフリーレンが言った。

 

「それじゃ、悟空と私で魔王城まで先行しよう。そしたら私は行った事のある場所に行く魔法(ルーラ)でアリアハンまで戻って、ユウシャと合流してからまた魔王城まで行くよ」

 

「おお、それいいな。それじゃフリーレン頼む」

 

「ええ、任せて」

 

そう言うと悟空も宙に浮き、僕の方に手を軽く振って挨拶をする。

 

「それじゃユウシャ、ちょっと魔王の城まで行ってくるから待っててくれよな」

 

「あ、はい」

 

そう言うと、悟空とフリーレンは凄まじい速さで飛び立ち、数分で空の彼方に見えなくなってしまった。何だろう、あの二人は完全に規格外だな。そもそも僕が行っても足手まといになるだけだし、いっそあの二人だけで魔王を討伐した方がいいんじゃなかろうか。

それはそれとして、特にやる事もない僕は近くにあった木の下に座り背中を預ける。軽く息を吐きながらアリアハンののどかな光景を眺めると、視界の隅にスライムと大ガラスが見えた。が、距離が離れているためか、特に襲ってくる様子はない。普段は家に閉じこもっているが、たまには日向ぼっこも悪くないな。

 

そうして20分程はぼんやりとしていただろうか。そんな僕の頭に突如ある閃きがあった。

そう言えば僕の父さんが勇者なんだよな。つまりは、母さんは勇者の血筋とは何の関係もない一般人って事だよな。王様は母さんと子供を作ろうと企んでいるみたいだけど、仮に王様と母さんの間に子供が出来たとしても、それは勇者の血筋とは何の関係もないただの凡夫なのではないか。むしろ、もし王の家系から勇者を出したいのなら、姫様を僕に嫁がせるべきではないか。

 

そもそも、もし僕がこの冒険で命を落としたら、完全に勇者の血脈は途絶えてしまう。それは人類全体にとっての損失ではなかろうか。ならば、今僕がやらなければならない事は魔王討伐の冒険ではない、子作りだ! 相手が姫様とか贅沢は言わない、誰でもいいから嫁をくれ! ぱふぱふさせろ! とにかくこれを王様に提案すれば、少なくとも今回の冒険は差し止めてもらえるかも知れない。そうだ、そうしよう。

 

僕は王様に冒険の中断を提案すべく立ち上がった。すると、立ち上がったと同時に、僕の目の前に大きな光の玉が現れたかと思ったら、それがフリーレンになった。どうやらバラモス城から行った事のある場所に行く魔法(ルーラ)でアリアハンに帰ってきたようだ。

 

「ただいま」

 

「あ、おかえり。ところで、二人には申し訳ないんだけど…」

 

そう言いかけたが、フリーレンは僕の言葉に構わず、僕の手を繋いできた。

ふと僕は今までの人生を振り返ってみるが、僕の記憶には母さん以外の女の人と手を繋いだ記憶は一度もなかった。人生初の女の子の手。フリーレンの手は、僕よりほんの少しだけ冷たくて、そして柔らかかった。そんな風に思っていると、突然目の前の景色がアリアハンののどかな光景から、何やら不気味な雰囲気のものに変わった。どうやら僕がドギマギしている間にフリーレンが行った事のある場所に行く魔法(ルーラ)を唱えたのだろう。ふと気付くと僕の隣には悟空もいた。

 

「よっ、待たせたなユウシャ」

 

「あ、いえ」

 

「それじゃ、いっちょやってみっか」

 

やる気満々の悟空を目の前にし、何となく冒険の中断を言い出しにくくなってしまった。っていうか、ルイーダの酒場を出てからおよそ30分。まさかもうラストダンジョンとは。

 

「それはそうと、城門が閉じられているみたいです。このままでは中に入れませんが、どうしましょうか」

 

「ああ、それなら…」

 

フリーレンが何かを言いかけたが、それをお構いなしに悟空が言った。

 

「よし、ここはオラに任せてくれ。かめはめ波でぶっ壊してやる」

 

「かめはめ波?」

 

悟空は肩幅より少し広めにスタンスを取り、両手を前方に突き出して、手の付け根同士をくっつけ奇妙な構えをとる。

 

「かぁ、めぇ、はぁ、めぇ…」

 

そう言いながら突き出した手を自身の身体の方へ引いていく。すると、手中に凄まじいエネルギーを内包した球体が、ゴゴゴゴゴと唸りを上げて出現する。マジか、素人でも分かる。これ絶対ヤバいヤツ。

すると悟空が両手を前方に突き出した。

 

 

「…波ー!!!!!!!」

 

 

自身の身長ほどもある直径の凄まじい閃光が放たれ、バラモス城の城門を破壊する。それどころか、バラモス城の反対側の城壁まで貫通し、完全に風穴を開けた。何というか、控えめに言って化け物なんじゃないかと思った。

しかし、僕には一つの懸念があった。

 

僕は先日読んだ絵巻物『この素晴らしい世界に祝福を!』のとあるワンシーンが思い出された。同書にはめぐみんという魔法使いの女の子がいるのだが、彼女は爆裂魔法を撃つ事を日課にしている。その爆裂魔法の威力は凄まじいのだが、問題点が一つあった。その爆裂魔法を撃つと、めぐみんは精魂尽き果て、指一本動かせなくなり、結局主人公に背負ってもらって帰宅するというのがお約束となっていた。

 

これから魔王軍の本拠地に乗り込むというのに、こんな凄まじい技を使ってしまって、もしこのまま悟空が動けなくなってしまったら、後はもう僕とフリーレンで戦うしかない。しかし、はっきり言って僕は戦力外だ。とても魔王軍の精鋭と戦えるとは思えない。しかし、僕の不安を嘲笑うかのように悟空は元気ハツラツとしていた。あれ程の技を撃ったのに疲労はないのだろうか。

 

「あの、悟空さん、大丈夫ですか?」

 

「ん、何がだ?」

 

「いや、こんな凄い技を撃った後で体力は大丈夫ですか? まだ戦えます?」

 

「ああ何ともねえ。ちょっと小腹は減ったけど、ようやく身体も温まってきたってところだな」

 

すると、あのかめはめ波の威力と悟空のタフさには流石にフリーレンも呆れている様子を見せる。

 

「それにしてもあんな高火力の魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)は私も見た事ないわ」

 

魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)? オラのはかめはめ波だぞ」

 

「呼び名は違っても発生機序は同じでしょ。体内の魔力を純粋な破壊エネルギーに変換して撃ち出す魔法」

 

「いや、オラのは魔力じゃなくて気だよ」

 

「あなたが気と呼んでいるもの、それは一般的には魔力と呼ばれているものよ」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。あなた、本職は武闘家のようだけど、どうやら魔法使いとしても一流の資質を持っているみたいね」

 

「オラが魔法使い?」

 

「ええ、魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)に、さっきは飛行魔法だって使えてたし。他には使える技はないの?」

 

「そうだな、あとは瞬間移動とか、界王拳だな」

 

「瞬間移動もすごいけど、界王拳ってどんな技なの?」

 

「そうだなあ、スピードやパワーや防御力が何倍にもなる技だな」

 

「なるほど、いわゆる自己強化(バフ)系魔法ね。かなり技のバリエーションが広いね。これならちょっとコツを覚えたら他の魔法もすぐ習得できるかも」

 

「じゃあさフリーレン、この戦いが終わったらオラに稽古つけてくれよ。オラもっと強くなりてえんだ」

 

「いいよ」

 

「やった、サンキュなフリーレン」

 

そう言うと悟空は満面の笑みを浮かべる。

それにしてもこの二人、これから魔王軍の本拠地に乗り込むというのに不安や恐怖はないのだろうか。もしかしたらこのまま二度と帰って来れないかも知れないのに、そんな緊張感や焦燥感などが微塵も感じられない。何というか、ただの日常というか、クリアできて当たり前のミッションをただこなしに行くだけのような、そんな感覚。

 

「それと、ふと思い出したんだけど、悟空さんがかめはめ波を撃つ時、フリーレンさん何かを言いかけてませんでした?」

 

「ああ、それなら扉を開ける魔法(アバカム)が使えるよって言おうとしたんだけど、必要なかったね」

 

 

そんな風に雑談をしていると、悟空が開けた風穴から魔王軍の精鋭部隊の魔物がワラワラと集まってきた。いよいよ本格的に戦闘開始だ。

しかし、悟空とフリーレンが見事な連携を見せ、現れた敵を一瞬で始末していく。遠方の敵をフリーレンが魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)で撃ち抜き、その隙間に残った魔物を悟空が肉弾戦で仕留めていく。今朝会ったばかりだというのに、信じられないほどの完璧な連携で、姿を現した敵はほぼ一瞬で溶けていく。

 

ちなみに後日、この時の戦いの事を二人に聞くと、悟空は「オラが倒して欲しいと思った敵をフリーレンが倒してくれたから楽だったよ」と答え、フリーレンは「私が倒して欲しいと思った敵を悟空が倒してくれたからやりやすかったね」と、まるで申し合わせたような事をそれぞれ答え、もはや一流同士にしか分からない領域で完全に思考が一致していたようだ。

 

そうして悟空とフリーレンが敵を始末し続けて30分程が経過する頃には、もはやバラモス城内はもぬけの殻になっていた。魔王軍の士気は完全に喪失し、わずかに生き残った魔物も悟空が開けた風穴から城外に逃げ出してしまった。

 

「なんだ、もうしめえ(終わり)か?」

 

「そのようね」

 

「まさか、もうバラモスまで倒しちゃったとか?」

 

すると、悟空は人差し指と中指を額に当て、目を閉じる。

 

「いや、まだでっけえ気が残ってる。どうやら魔王は地下にいるみてえだな」

 

「それじゃ行きましょう」

 

そうして、ようやく僕達はバラモス城内に足を踏み入れる。途中迷路みたいに入り組んでおり、やっぱ城ってこうだよな、アリアハン城の単調な構造は危機感がないなと改めて感じた。最初は普通に歩いていたが、あまりの複雑さに、途中から悟空が壁を壊して最短距離を行き始めた。気を察知する能力のおかげでダンジョン探索も楽々だった。そうしてついに地下への階段を見つけた。

 

「この下に魔王がいるみてえだな。それじゃ行くぞ、ユウシャ、フリーレン」

 

「ちょっと待って悟空」

 

「どうしたフリーレン?」

 

「まだ宝箱を回収してないよ」

 

「宝箱?」

 

「うん、せっかくの魔王城の宝箱だよ。きっと希少(レア)アイテムがあるに違いない」

 

そうしてせっかく地下への入り口を見つけたが、僕達はあえて引き返し、バラモス城を歩き回って宝箱を回収する。途中で『魔神の斧』や『不幸の兜』などの怪しげなアイテムを見つけては、フリーレンは満足そうに微笑む。

 

だがしかし、とある宝箱を開けたが、それは宝箱に擬態した魔物(モンスター)だった。すなわちミミックである。ミミックはフリーレンに襲い掛かると、そのままフリーレンの上半身を一飲みで咥えこんでしまった。

 

「た、大変だ、フリーレンさんがミミックに食べられちゃった。早く助けなきゃ」

 

僕は慌てるが、悟空はその様子を腹を抱えて笑っている。

 

「悟空さん、笑ってる場合じゃないですよ。フリーレンさんが!」

 

「ハッハッハ、でもよ、この姿見たら…」

 

仕方がないので僕はフリーレンの腰に手を回し、フリーレンを全力で引っ張った。ちなみに女性の腰なんて初めて触った。フリーレンのウエストは、僕の想像よりずっと華奢で細かった。

そうして何とか引きずり出した後、フリーレンは魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)でミミックを仕留めた。

 

「もう悟空、笑い過ぎだよ。もし死んじゃってたらどうするの?」

 

でえじょうぶ(大丈夫)だ、世界樹の葉があれば生き返れる」

 

「そういう問題じゃないでしょ」

 

「悪かったってフリーレン。でも実際ピンピンしてるじゃねえか」

 

「まあね」

 

するとフリーレンは僕の方に振り向く。

 

「ユウシャもありがとね。おかげで助かったよ」

 

「いえ、無事で良かったです」

 

「そう言えば助けてくれた時、手が震えてたね。怖かった?」

 

「いえ、怖さより助けなきゃって必死だったんですが、その、女の人の身体に触れるのは初めてだったので、緊張してしまって」

 

「ふうん、そっか」

 

それだけ言うと、フリーレンはおもむろに手を伸ばし、僕の頭を撫でてくれた。

 

そうして地上の宝箱をようやく回収し、先ほど見つけた地下への階段を下りる。地下は当然暗い。途中の通路には松明(たいまつ)が焚かれている。

そして暗い通路を抜けると、いよいよ魔王の玉座があった。そこにかなり大きな魔物が鎮座している。どうやらこいつが魔王バラモスのようだ。

 

「ついにここまでやってきたか。この大魔王バラモス様に逆らおうなどと身の程をわきまえぬ者たちじゃな。ここに来たことを悔やむがよい! 再び生き返らぬよう、そなたらのハラワタを喰らい尽くしてくれるわ!」

 

そう言って魔王が立ち上がる。はっきり言って僕はここまで全く何もやってこなかった。せめて、最後の戦いくらいは役に立たなくては。そう思うと、僕は無意識の内にひのきの棒を握る手に力が入った。その様子を悟空が察したのか、悟空が僕とフリーレンに向けて言った。

 

「なあユウシャ、フリーレン、悪いんだけどさ、魔王との闘いオラに一対一でやらせてくんねえかな?」

 

「えっ!?」

 

「だってよ、いくら相手が魔王だからって、大勢で一斉にかかるなんて、何ていうか、フェアじゃねえ」

 

僕はビックリした。しかし、驚いたのは僕とフリーレンだけじゃなく、バラモスもだった。

 

「貴様、このバラモス様と一対一で闘いたいだと、たかだが人間風情がナメるでないわ!」

 

「ナメてねえよ。たとえ相手がどんな悪いヤツでも、オラは正々堂々闘いたいだけだ」

 

悟空はバラモスを睨みつける。悟空はバラモスの威圧感に全然恐れていない様子だった。僕なんか、出来ればここにいたくない。土下座すれば見逃してもらえるなら、迷わず土下座でも何でもするだろう。

するとフリーレンが言った。

 

「いいわ悟空。ただし、この戦いは人類の命運を左右する戦いよ。もしあなたが負けると判断したら、迷わず助っ人に入る。それでいい?」

 

「ああ、分かった」

 

「ユウシャもそれでいい?」

 

「はい、お願いします」

 

悟空は少し不服そうだったが、それ以上はフリーレンも譲歩しないだろうと察し、悟空はフリーレンの提案を受け入れる。

 

「待たせたなバラモス。それじゃ、一騎打ちでやろうぜ!」

 

そう言うと悟空はバラモスに向かって戦闘態勢に入る。

 

「初めてだよ、わしをここまでナメた人間はな! 魔王を侮辱した罪は重い、すぐに後悔して地べたを這いつくばらせてやろう!」

 

そうして悟空とバラモスは玉座の前でぶつかり合う。身体のサイズはバラモスの方が何十倍も大きい。が、悟空もパワーでは全然負けていなかった。それどころか素早くバラモスの後ろに回り込み、回し蹴りを叩きこむ。バラモスもイオナズンを悟空に浴びせ応戦する。

 

目の前で激しい攻防が繰り広げられるが、ついに決着の時が来た。

悟空がバラモスの一瞬の隙を尽き、かめはめ波を放つ、バラモスはそれに激しい炎を吹きかけて応戦する。かめはめ波と激しい炎は、二人のちょうど中央部でぶつかり合う。その威力は拮抗し、激しい火花を散らした。しかし、少しずつかめはめ波の威力が激しい炎を上回り、徐々に衝突部がバラモスに近づいていく。そしてついにバラモスは堪えられなくなり、ついにかめはめ波の閃光がバラモスを包んだ。

 

「ん、、がァ、アアアァ~!!!!」

 

断末魔の叫びを上げ、バラモスはかめはめ波の閃光の中に消えていった。ついに悟空が単騎で魔王バラモスを討伐してしまった。

 

「うおおおお、やったぞー!!」

 

悟空は勝利の雄たけびを上げる。フリーレンは悟空のあまりの強さにちょっと呆れ気味に笑みを浮かべている。

結局僕は何もしないまま魔王を討伐してしまったのだった。

 

 

 

そうして僕達はアリアハンに戻ると、王様に魔王討伐の報告を行い、パーティーは一度解散となった。僕はとりあえず自宅に帰る。すると母さんはキッチンで昼食の準備をしていた。

 

「ただいま」

 

「あらお帰りユウシャ。ちょうどお昼にする所よ。一緒に食べる?」

 

「うん」

 

「そう言えば、旅の仲間は見つかったの?」

 

「うん。っていうか、もう魔王倒してきた」

 

「えっ? 今なんて!?」

 

「魔王バラモスを倒してきたよ」

 

「何言ってるのよ。まだほんの1、2時間前に家を出たばかりじゃない」

 

「いや、それが本当に魔王を倒しちゃって…」

 

僕は悟空とフリーレンと一緒にバラモスを倒した事をかいつまんで説明する。

 

「…そんな訳で、今夜はお城で魔王討伐の祝賀パーティーやるよ。母さんと爺ちゃんも招待されてるから後でお城に行こう」

 

「え、ええ…」

 

母さんは半信半疑ながらも、一応は僕の言葉を信じてくれた。しかし、あまり嬉しそうな様子には見えなかった。

 

「どうしたの母さん。魔王を倒したのに嬉しくないの?」

 

「母さん、正直言うと魔王討伐とかどうでも良かったの。ただ、この冒険を通じてユウシャが一人前の大人になってくれれば」

 

「えっ?」

 

「あなた、明日からどうするの?」

 

「まあ、また家でのんびりするかなあ。あ、そうそう、明後日は国を挙げての祝賀パレードもあるからね」

 

「うん、そう。分かったわ…」

 

どうやら母さんは僕がニートに戻る事にガッカリしたようだった。しかし、社会が僕をニートにする事を許さなかった。

 

祝賀パレードの翌日、悟空とフリーレンは誰にも何も言わず、忽然と姿を消していた。恐らく、邪魔者が入らない所で、悟空の修行を始めたのだろう。また数日で戻って来るかな、と思っていたが、それ以後彼らが表社会に出てくる事はなかった。マイペースな彼らの事だ、きっと何処かで元気にしているのだろうと思う。

 

しかし、魔王討伐の当事者が僕だけになってしまった事から、僕は世界各地で魔王討伐の講演会の講師として呼ばれ、引っ張り凧となった。いかに仲間内で僕が重要な働きをしたかを、なるべく嘘にならないように出来るだけ大袈裟に力説した。大衆は僕の話を目を輝かせて聞き、そして僕を称賛した。

また、魔王討伐の手記を本にしたら、それも飛ぶように売れた。まさに僕は時の人となり、毎日を忙しく過ごした。

 

しかも嬉しい事はそれだけではなかった。王様が僕に姫を(めと)ってくれと頼んできた。きっと僕の大衆人気に目を付けたのだろう。王様は正直、国民からあまり好かれていなかった。しかし、僕を王室に取り込むことで王様自身の支持率を上げる狙いがあったようだ。まあ、王様の思惑はともかく、姫様と結婚できるのなら拒否する理由は全くない。

 

さらにさらに嬉しい事は続いた。ある日、冒険を終えた父オルテガがひょっこり家に帰ってきたのだ。正直、父さんはすでに死んだものと思っていた。それに僕はほとんど父さんとの思い出がない。帰ってきたと言ってもあまり実感が湧かなかった。しかし、父さんにすがりつき、号泣する母さんを見て、僕は不覚にももらい泣きをしてしまった。

 

それに、父さんを一人で旅立たせてしまったと責任を感じていたルイーダさんのお母さんも、父さんが無事に帰ってきた事で、ようやく胸のつかえもなくなる事だろう。

 

ちなみに父さんに、「どうして冒険の合間に家に帰ってこなかったの?」と訊ねると、「どんどん僻地に冒険が進行して戻る暇がなかった。それに行った事のある場所に行く魔法(ルーラ)を使える仲間もいなかったしな」と答えた。

そこで僕は「だったら行った事のある場所に行く道具(キメラの翼)を使えばいいじゃないか」と言うと、「なんだそれは? 美味いのか??」と言った。

信じられない、まさか今どきキメラの翼を知らない人がいたなんて。

 

人というのはあまりにもショックな事があると声が出なくなるもんなんだなあ。僕は父さんに文句を言おうとしたが、ノドがつっかえて声が出ず、酸欠の金魚のように口だけをパクパクさせてしまう。その様子が可笑しかったのか、母さんが涙を拭いながらクスっと笑った。まったく母さんはなんで笑っていられるんだ。母さんが父さんの一番の被害者なのに。

 

それでも、そんな母さんの笑顔に何だか僕まで救われたような気がした。思えば今まで僕は親孝行らしい親孝行をした事が一度もない。魔王を討伐した日でさえ、母さんはむしろ不機嫌なように見えたくらいだった。

 

魔王討伐に際して、はっきり言って僕は何もやってはいないけど、それでも悟空やフリーレンが魔王討伐に行くきっかけ作りくらいにはなったのではないかと思う。そう思うと、少しは親孝行できたのかなと思った。

 

 

そうして今日も、僕は勇者として世界平和の祈りを捧げる。

 

 

精霊ルビス様、今日も世界が平和でありますように。

 

素晴らしい明日が来ますように。

 

新たな魔王が生まれませんように、

 

 

少なくとも僕の存命中だけは…。

 

 

 

おしまい☆

 




【制作こぼれ話】
この作品は当初は、ルイーダの墓場で勇者とルイーダさんがワイワイするだけの小ネタ程度の構想でした。
勇者がルイーダさんに勇者だと認めてもらえないネタや、いきなり最強キャラばっかりを紹介してもらえるネタをそれぞれ独立したネタとして、いくつかまとめて終わるつもりでした。
そんな中、『勇者がニートで王様がそれを嘆くネタ』を思いついたのですが、『もしかしたらこのエピソード、くっつけられるんじゃないか』と思い、起・承・が出来上がりました。しかし転・結をどうしようか、いっそ魔王討伐までやっちゃうか、と思い至りました。
魔王を討伐するなら最強のメンバーが必要だなと思い、『中編のおまけ』で当初武闘家枠の悟空、魔法使い枠のフリーレンを、おまけ枠から本編に移し、現在の形になりました。

そして作品公開から数か月後、ある日フリーレングッズで、ミミックに食べられるフリーレンのフィギュアが発売されているのを見て『そう言えばフリーレンが登場してるのにミミックやってないじゃん』と、これは絶対外しちゃいけないヤツだと思い、慌てて宝箱回収エピソードを加えました。後から加えたにしては、自然な流れでできたんじゃないかと思っております。むふーw
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