漫画アニメ短編集&救済の物語   作:クリリ☆

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小公女セーラ【悪役料理人は小公女を救いたい】③院長室の攻防・相棒はセーラ

モーリーを懐柔する作戦は上手くいった。というより、俺の想像をはるかに上回る成果を上げた。

俺はセーラやベッキーに優しくするのと同じだけモーリーにも優しくするように振舞い、ささいな事でも感謝の言葉を伝えるようにした。

 

さらには俺でもできそうな簡単な業務をいくつか引き受けた。そうする事により、モーリーにも時間的なゆとりができたのか、今までセーラとベッキーには仕事を割り振るだけだったが、時に作業のコツを教えてやったり、あるいは一緒に作業を行ったりするようになった。

 

その結果、セーラとベッキーの家事スキルが向上したばかりではなく、セーラやベッキーからは、してやった事に対して一つ一つ感謝が述べられた。

裏表のないセーラやベッキーからの純粋な感謝の気持ちや尊敬の眼差しは、モーリーの承認欲求を大いに満たした。

 

1を与えてやれば2にも3にもなって返ってくるのが嬉しいのか、モーリーはセーラ達に物を教えるのが楽しくてしょうがない様子だった。

 

そんなある時、たまたまモーリーがセーラに対して謝罪をする場面に出くわした。

 

「セーラ、今まであんたにキツく当たって悪かったね。私も何だかムシャクシャしてて、ついあんたに強く当たっちまったんだよ」

 

「いいえモーリーさん、私も仕事の要領が悪くて、モーリーさんにもどかしい思いをさせていたんだと思うわ。それに、お父様を亡くした悲しみで頭がいっぱいで、きっと目の前の現実に気持ちを向け切れてなかったんだと思います」

 

「いいや、悲しいのは当然さ。そんな時こそ、本当なら私があんたの親代わりになってやらなくちゃいけなかったのにね」

 

「ありがとうございます、モーリーさん。私、実は最近モーリーさんをお母様のように思えてくる時があるんです。私、小さい頃にお母様を亡くしてしまったから、モーリーさんと一緒にお仕事をしていると、もしお母様が生きてらっしゃったら、こんな感じなのかしらって思うんです」

 

「何言ってるんだい。あんたの母親はもっと上品で、こんな仕事しないだろ」

 

「もしかしたらそうかも知れません。でも、こうしてモーリーさんと一緒に働いていると、すごく楽しいんです」

 

「嬉しい事言ってくれるじゃないか。あんたはもう私の娘だよ、セーラ」

 

「はい、モーリーさん」

 

そうしてモーリーはセーラの頭を撫でてやっている。まさか、モーリーとセーラが和解どころか、本当の母娘のような絆を育むまでになるとは全く想像もしていなかった。俺が言うのも何だが、人とは変われば変わるものだ。

 

 

俺がジェームスに転生した時はまだ寒かったが、今は初夏の装いだ。正確な日時は数えちゃいないが、もう半年ほど経過したのだろうか。

その間にセーラの栄養状態は改善され、骨と皮だけの飢餓状態だったセーラの身体も、今では少し丸みを帯びている。肌ツヤも良くなり、バサバサだった頭髪もしなやかでサラサラだ。

毎日の業務終わりには、屋根裏部屋に戻る前に必ず入浴するよう義務付け、清潔も保持できている。

 

作中では、買い出しの最中に街で遭遇した見ず知らずの富豪の男の子から『母親から聞かせてもらったマッチ売りの少女にそっくりだ』と言われて、いきなりお金を恵んでもらった事がある。あるいは雨の中、必死に買い出しに来れば、物乞いだと思われて冷たくあしらわれてしまった事もある。

 

心身共にズタボロだったセーラはもういない。没落したとは言え、さすがは元ダイヤモンドプリンセス。例えボロは(まと)っていてもその輝きは隠しきれない。

セーラと一緒に食材の買い出しに行くと、街ですれ違った人が振り向いてくる。さらには市場の人達がセーラと一緒だと何かとサービスしてくれる。おかげで仕入れの費用がますます浮くようになった。

 

更に業務内容の見直しも行った。

今までは毎日教室を授業開始前、昼休み、放課後と掃除していた。放課後は生徒が誰もいないのだから、朝の掃除は必要ないのではないかと提案し廃止させた。

 

他にも、今までは正面玄関も毎日デッキブラシで磨き上げていた。汚れが目立つ時や特別なイベントがある時ならともかく、そんなに毎日やる必要はないだろうと、正面玄関の清掃は軽く掃く程度にした。その他にも過度だったり無駄と思われる業務を全て見直すと、業務量を3分の1程度減らすことができた。

 

しかもセーラとベッキーの家事スキルの向上や、しっかり食事を与えている事から身体に活力がみなぎり、動作が機敏になった結果、一日の労働時間を半分にまで短縮する事ができた。にもかかわらず、学院内の美化は今まで以上に清潔に保たれていた。

 

業務の空き時間は自由時間とした。ベッキーは昼寝などをし、セーラは本を読んだり勉強する時間に充てていた。

もはや俺にできる事はもうやり尽くしたのではないだろうか。後はこのまま時を待ち、セーラが大富豪の娘に返り咲く時を待つばかりだと思われた。そんな時、ちょっとした事件が起こった。

 

 

セーラが上階を清掃するために、水で満たされたバケツを持って階段を上っている最中、ラビニア達がセーラにぶつかってきた。もちろんわざとである。その拍子にセーラはバケツを手放してしまうのだが、そのバケツが階下を歩いていたミンチン院長の頭の上に落ち、水を被ってしまったばかりか、階段から転落してしまう。

ミンチン院長は、状況を確認しないまま一方的にセーラの仕業だと決めつける。そして俺はミンチン院長から呼び出され、罰としてセーラの食事を丸1日抜くように命じられた。

 

ああ、確かにこんなエピソードあったなあ。いくら俺が厨房や、メイドとしての業務をコントロールできたとしても、ラビニアや院長からのいじめは管轄外だ。しかも、作中に起こる出来事の多くが、正確な発生日時が分からないのだ。

 

さて、その日の夕食の事である。俺は院長の命令を無視して4人分の賄いを作った。そしてセーラにも食卓に着くように声を掛ける。しかし、セーラはそれを拒否した。

 

「気にするなよセーラ。院長の言葉など聞く必要はない」

 

「ありがとうございますジェームスさん。でももしバレてしまったら。私、空腹なら耐えられます。でも、私のためにジェームスさんが罰を受けてしまったら、その方がずっと辛いんです」

 

「なあに、院長の目は節穴だ。バレやしないよ」

 

「いいんです、お気持ちだけで十分です」

 

セーラは夕食を摂るのを頑なに拒否した。セーラは一度言い出したら決して引かない。

作中でも、父親が死んだ直後、セーラはその死を悼むために喪章をつけた事がある。ミンチン院長はセーラに喪章を外すように命じるが、セーラは一歩も引かず、ついには院長の方が折れて喪章の着用を許可した事があった。

不器用というか頑固というか、もっと器用に立ち回れればこんなに辛い思いをせずに済んだだろうに。

 

だがまあ、現在のセーラの栄養状態ならば1日くらい食事を抜いた所でどうという事もないだろう。しかし、それでは俺がラビニアやミンチン院長に負けた気がして面白くなかった。セーラのためというより、もはや俺自身の意地のために何とかセーラに食事を摂らせたいと考えた。

 

「ところでセーラ、お前はクリスチャンだったよな?」

 

「はい、ジェームスさん」

 

「ならば、少し聖書の話をしようか」

 

「聖書のお話?」

 

作中セーラは幾度となく教会に行き、お祈りするシーンがある。あるいは、道中でお金を拾ったときには教会に献金しようと持って行った事もあった。

セーラは敬虔なクリスチャンであると言えよう。果たしてセーラに俺の聖書知識がどこまで通用するだろうか。

 

「お前は聖書の中に『隣人について偽証してはならない』という言葉があるのは知っているな?」

 

「はい、ジェームスさん。モーセの十戒(じっかい)ですね」

 

「ああそうだ。では今回の一件、隣人について偽証しているのは誰になる?」

 

「それは、院長先生の言いつけを破り、食事を頂こうとしている私、でしょうか?」

 

「いいや違うな。隣人について偽証をしているのはラビニアだろう」

 

「ラビニアが?」

 

「ああ。だってラビニア達の嫌がらせでバケツが院長の頭に落ちたんだろう」

 

「はい、ジェームスさん」

 

「では、もし今回の件で神が罰を下すとしたら、その対象は誰になると思う?」

 

セーラはもう答えは分かっているようだ。しかし、言葉にする事にためらいがある様子だ。しかし、意を決して言った。

 

「それは…、ラビニアだと思います」

 

「しかし、実際に院長が罰を下したのはセーラにだった。つまり、神の判断と院長の判断が異なっている訳だ。ではセーラ、お前は神の言葉と院長の言葉、どちらの言葉に従うんだ?」

 

「私は、神様の言葉に従います」

 

「ならば、今お前が目の前の食事を摂る事に、神の目から見て何か問題はあるか?」

 

「いいえ、ありません」

 

「そうだろう。不当な罰にいちいち付き合う事に何の正当性もない。てな訳で食べようか。早くしないと食事が冷めちまう」

 

「はいジェームスさん、ごめんなさい」

 

ようやくセーラが食卓に着く。ベッキーもその様子を見てホッとした表情を浮かべた。

 

「そうですともお嬢様。お嬢様は何も気になさる必要なんてないんです。みんなラビニアさんが悪いんですから」

 

「ありがとう、ベッキー」

 

するとモーリーが言った。

 

「それにしても驚いたよ。まさかあんたが聖書の話を持ち出すとはね。しかもセーラの説得に成功しちまうなんて。あんた、いつからそんなに信心深くなったんだい?」

 

「さあなあ。もしかしたら神様がセーラに食事を与えたくて、俺に知恵を貸してくれたのかもなあ」

 

俺は適当に誤魔化す。実際、作中でもセーラが道で拾ったお金を教会に届けた時に、神父が「それは神様があなたに与えたものだ」と言っていて、それをセーラも受け入れていた。偽証をしてはならないという言葉はあるが、まあ、人を思いやる優しい嘘なら問題ないだろう。

 

「まあ、あんたの場合はだらしない腹してるからね。いっそ院長先生のお仕置きをくらって2、3日食事を抜くくらいがちょうどいいんじゃないのかい」

 

「ひでえよモーリー、そんなに食事を抜いたら腹ペコで動けなくなっちまう。そうしたら院長先生や生徒さんも含めて全員俺のお仕置きに付き合ってもらうからな」

 

「まあ、ジェームスさんったら」

 

セーラがクスっと笑う。そうして、ようやく夕食となったのだった。

 

 

翌日、俺とセーラはミンチン院長から呼び出され、院長室に向かった。2人が一緒に呼び出されるなんて珍しい。

 

「失礼します院長先生、何かご用ですかい?」

 

「ジェームス、セーラに食事は与えていませんね?」

 

「ええ、もちろん」

 

「その割には今朝からセーラの血色が良さそうですが?」

 

「そうですか。セーラは普段から食うや食わずの生活ですから、身体が慣れちまったんじゃないですかい?」

 

「では、本当に食事を与えていませんね?」

 

「もちろんですよ院長先生。俺らにセーラを庇う義理なんてないですから。むしろ、下手にセーラを庇って給金を減らされたくないですからね」

 

するとミンチン院長は、続けてセーラに聞いた。

 

「セーラ、あなたはジェームスの言うように、本当に何も食べていませんね?」

 

俺は正直ドキリとした。俺はこの程度の尋問なら適当に嘘をついて誤魔化せるが、セーラはどうだろう。というより、セーラまで呼び出すとは、むしろ俺の方まで疑われてるんじゃないだろうか。

 

「はい院長先生。私は昨日から何もいただいてません。その、実は今もお腹の虫が鳴きだしてしまわないか心配で…」

 

セーラはお腹に手を当て、恥ずかしそうな表情を浮かべる。

 

「ならば結構です」

 

セーラがミンチン院長に対し、サラリと偽りの報告をし、俺は内心驚いた。セーラだったら嘘がつけず、素直に答えてしまうんじゃないかと思ったからだ。

恐らくミンチン院長の方も、セーラがこのような芝居までして自分に偽りの報告をするとは夢にも思わないだろう。俺はセーラに真意を聞いてみたかったが、ミンチン院長は更に俺に追求してきた。

 

「ところでジェームス、最近食事が美味しくなりましたね」

 

「えっ、そうですか。ありがとうございます」

 

「味も良くなりましたが、一番の変化は具材です。今までより肉や魚が増えましたね」

 

「そりゃ、育ち盛りのお嬢さん方に、必要な栄養をと思いまして」

 

「それは大変結構ですが、問題は仕入れ費用です。明らかに今までよりも仕入れ費用がかかっているハズです。ですが、私はここまであなた達に預けている金額を変えてません。にも拘らず、今まで以上に高額な仕入れができているのはどういう事ですか?」

 

一瞬褒められたのかと思ったが、そんな甘いものではなかった。明らかに俺に疑いの目を向けている。今までは恐らく、仕入れ費用の一部をモーリーが着服していたのだろう。

俺がセーラと買い出し行くようになってから、一切着服はしていない。そのため、今までよりも仕入れにたくさんのお金をかけられるようになり、その分具材も豪勢になっていた。それが、まさかこんな形でミンチン院長に着服の可能性に気付かれるとは、完全に想定外だった。

 

正直俺はミンチン院長を少し甘く見ていた、いや、軽く見ていた。単なる意地悪な婆さんくらいにしか思っていなかったが、経営者としての観察眼は本物だ。

確かミンチン院長はかなり過酷な経済環境の中で育ってきたという事を記憶している。その分、学院の経営状況には、本当に一切の妥協を許さないのだろう。

 

「えっと、それは…」

 

どうしよう、何も言い訳が思いつかない。何か何でもいいから誤魔化さなければ。

俺が言いよどんでいるとセーラが答えた。

 

「すみません院長先生、それはきっと私のせいです」

 

その言葉を聞いた瞬間、院長の手がピタリと止まる。眼鏡の奥の瞳が細められ、鋭い視線がセーラに向けられる。

 

「あなたのせい? あなたが仕入れ金をくすねていたのですか!?」

 

院長は机に身を乗り出し、取り調べを行う執行官のような威圧感でセーラを問い詰める。セーラは静かに、そして申し訳なさそうな表情を作り、ミンチン院長を見つめ返す。

 

「違います院長先生。私一人が買い出しに行っても、子どもだからといって足もとを見られていたんだと思います。最近はジェームスさんが一緒にいてくれるおかげで、市場の人達がすごく丁寧な対応をしてくれるんです。それで、今は同じお金でも前より良い品がたくさん買えるようになったんです」

 

「そうなのですかジェームス?」

 

「確かにそうかも知れません。以前は痛みかかった食材も多く、料理に使えず廃棄した分も多かったので」

 

セーラの助け船で何とか誤魔化せただろうか。とりあえず俺もそのまま便乗した。しかしミンチン院長の追求はまだ終わらない。

 

「なるほど、そういう事ですか。つまり、以前の食事が今より貧相だったのはあなたが原因という事ですね?」

 

「はい院長先生」

 

「ならばセーラ、その罰としてお前にはもう一日食事を禁止にします」

 

「はい院長先生」

 

「ちょっと待ってください院長先生。セーラに一人で買い出しに行かせていたのは俺です。だったらその責任は俺がとるべきでしょう?」

 

「えっ、あなたが?」

 

さすがのミンチン院長も俺にまで罰を与えるつもりはなかったようだ。予想外の俺からの提案に戸惑いの表情を見せる。しかし、振り上げた拳の下ろし先が見当たらなかったのか、ミンチン院長も引くに引けなかった。

 

「いいでしょう。ならばジェームス、あなたの監督責任という事で、食事を一日禁止とします」

 

するとセーラは泣き出しそうな表情で俺を見上げる。恐らくセーラとしても自分が泥を被る事で、事を納めたかったのだろう。それが裏目に出てしまい、申し訳なく感じている様子がうかがえる。

だが俺は小さく笑みを浮かべ、セーラにウインクを返した。

 

「ひでえよ院長先生、そんなに食事を抜いたら腹ペコで動けなくなっちまう。そうしたら院長先生や生徒さんも含めて全員俺のお仕置きに付き合ってもらいますよ」

 

昨晩の夕食のやり取りの時のフレーズを俺はそのまま再現した。セーラはすぐにそれに気付き、思わず吹き出しそうになった。だが院長の顔には怒りと驚きが入り交じり、唇はワナワナと震えていた。

 

「ジェームス、あなた自分の職務を放棄する気ですか!」

 

「いやあ、俺も働きたいんですが、この身体は燃費が悪いもんでね。小まめに飯を入れてやらないと動かないんですよ」

 

俺は腹を押さえて申し訳ないという表情を浮かべる。

 

「何でしたらたまには生徒さんを連れて外食でも行ったらどうですかい? きっと生徒さんたちも喜びますぜ」

 

ミンチン院長の眼球が右に左にぐるぐると流れる。恐らくは今頭の中で生徒たちを外食に連れていった場合の費用を必死で計算してるのだろう。

人は追い詰められた状況で逃げ道を提示されると、そこにしか目が向かなくなるという。食事抜きが駄目なら減給でも何でも他の罰があるだろうに、今のミンチン院長にそんな事を考える余裕はなさそうだ。

 

そして外食のコスパの悪さに観念したのか、諦めたように言った。まあ、食事という最強のライフラインを握っている以上、もはやこちらに負けはない。

 

「結構ですジェームス、この一件は不問とします。ただし、これからも引き続きあなたがセーラの買い出しに同行するように。よろしいですね!」

 

「了解しました、ミンチン院長」

 

「結構です、下がってよろしい」

 

「では失礼します院長先生」

 

俺とセーラは院長室を出ると、心の中で大きく安堵の溜息をついた。それにしてもまさか、セーラの咄嗟の機転で俺の方が助けられるとは思わなかった。

 

「すまんセーラ、助かったよ」

 

「いいえジェームスさん。いつも助けられてるのは私の方よ」

 

「でも、まさかこんな形でお前に嘘をつかせちまうなんて。汚れ役は俺だけでいいと思ってたのに」

 

「ちっとも平気よ。だってジェームスさんは真実な方ですもの。ジェームスさんを守るための嘘なら、きっと神さまだって許してくれるわ」

 

まさか昨日の今日で、こんなに大化けするとは。清廉潔白で、忍耐しか知らなかったセーラが、(たくま)しさと狡猾さを身に付けたというべきだろうか。

 

俺はただセーラの防波堤になってやればそれで良いと思っていたが、そのパワーバランスが大きく変化しようとしている。もしかしたら俺がセーラを守る必要がなくなる日はそう遠くないのかも知れない。

 

 

そうして院長室での呼び出しが終わり、厨房で一息ついていると、突然扉がノックされアメリア先生が中に入って来た。

 

「失礼いたします」

 

アメリア先生が厨房に来るなど、これまた珍しい。するとアメリア先生はポケットからそっと小さな包みを出した。

 

「これ、セーラさんに差し上げてください」

 

見るとそれはビスケットだった。

 

「いいんですか?」

 

「はい。私、セーラさんが不憫で。あんなに小さな子に食事も与えないなんて。なのに、お姉さまったらあの調子ですから」

 

「ありがとうございますアメリア先生、でも大丈夫です。院長先生には内緒ですが、実はセーラにはちゃんと、食事をやったんです」

 

「あら、そうだったんですか?」

 

「セーラ自身は拒否したんですがね、セーラが腹ペコで動けなくなったら俺とモーリーの仕事が増えちまうもんでね、無理やり食わせてやりました」

 

まあ、アメリア先生に話したところで院長にバレる事はないと思うが、万が一バレたとしても無理やり食べさせた俺が悪いという事にしておきたい。

 

「で、このお菓子はどうします?」

 

「まあ、せっかくセーラさんのために用意したものですから、そのまま差し上げてください」

 

「そうですか、それじゃ遠慮なく。セーラにはアメリア先生からの差し入れだと伝えておきますよ」

 

そう言って俺はアメリア先生は厨房を出て行った。アメリア先生は本当に優しい先生だ、ミンチン院長に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものだ。

そうして俺はアメリア先生からの差し入れのビスケットをセーラに渡す。するとセーラはみんなで食べたいと言い出し、俺たち使用人のお茶請けとなった。

 

とりあえず今回のトラブルは、回避はできなかったものの、セーラへのダメージは最小限で食い止める事ができた。だがしかし、あのイベントだけは是が非でも回避しなければならない。作中、セーラが最も号泣した破滅イベント、フランス語教師のデュファルジュ先生の帰国イベントだけは…。

 

 

 

続く☆

 




おまけ☆

小公女セーラアニメ視聴ガイド。
今回のエピソードは第23話『親切なパン屋さん』がかなりベースになっております。もしお気軽にアニメが見れる環境であれば、これを機に見てみると面白いかもです。
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