シーン① 【 セーラの逆襲 】
セーラはどんな苦難も必死に耐えてきた。ラビニアのいじめに対しても、『いじめる側も辛い』という謎理論を心の支えにして耐えてきた。そんなセーラも作中でキレた事が一度だけある。
馬小屋が全焼した際に、ミンチン院長はそれをやったのがセーラだと一方的に決めつけセーラを罵倒する。そしてついにセーラはキレて『院長先生に優しくしてもらった事は一度もない』、『ここを家だと思った事は一度もない』と反論し、そして学院を出て行った。
そんなミンチン院長も、セーラがダイヤモンドプリンセスとして返り咲いた際には、もっと優しくしておけば良かったと強いショックを受け、強く心身を衰弱させた。更には実の妹であるアメリア先生も、院長先生をここぞとばかりに罵倒して、セーラにキツく当たっていた報いをそれなりには受けた。
しかし、散々セーラをいじめておきながら、まったく制裁を受けない者もいた。それがラビニアである。
そんなセーラは、父の墓参りと、正式な遺産相続のため、インドへ一時的に帰国する事にした。船が出る直前、ラビニアはセーラに行った。
「私、あなたが帰って来る前に学院を卒業するの。だからもう二度とあなたに会う事はないわ。あなたはこれから素敵なダイヤモンドプリンセスになってね。私は大統領夫人になるわ」
ラビニアとの今生の別れ。そう思ったらセーラは今までされた怒りがふつふつと湧いてきた。
「あら、それじゃ大統領がお可哀そうだわ」
「なんですって!?」
「だって、あなたほどいじわるな女の子は他にいないもの。あなたと一緒になる旦那様は一生不幸ね」
「言ったわねセーラ」
ラビニアは怒りを露わにする。しかし、セーラは涼しい顔でそれを受け流して言った。
「ところで、私が使用人になってから辛かった事はたくさんあったけど、一番辛かった事は何か、ラビニアに分かる?」
「知らないわよそんなの。寒くて臭い馬小屋で寝泊まりしてた事かしら」
「いいえ違うわ。もっと辛くて、思い出すだけでも身の毛のよだつ、おぞましいものよ」
「何よ、勿体ぶらずにさっさと言いなさいよ!」
「それは、あなたの専属メイドにされかけた事よ!!」
そう言うと、セーラはラビニアをキッと強く睨みつける。
「あれは最悪だったわ。あなたのお父様がまともな人だったから助かったけど、もしあなた専属のメイドになっていたらと想像すると、吐き気がするわ。きっと耐えられなくて首を吊っていたわ」
その時、船の汽笛が鳴った。
「あら、もう出航の時間だわ。それじゃラビニア、ごきげんよう。大統領夫人とか絶対にあり得ない妄想を楽しんでね」
言いたい放題言ってすっきりなセーラなのだった。
シーン2 【 悪役令嬢は小公女を救いたい 】
セーラが使用していた特別室は、セーラ没落後は空室になっていた。しかし、ラビニアがそこを自分の特別室とする事になった。そして、それと同時にラビニアはセーラを自分専属のメイドにしたいと言い出した。
いきなりの提案にミンチン院長も戸惑いを見せた。しかし、ハーバード家からの支援はミンチン女子学院の生命線であり、明確に拒否する事もできない。そこでミンチン院長はその決断をセーラに委ねた。
「分かりました。ラビニアさんが元クラスメイトをメイドになさると言うのであれば」
それを聞いてラビニアの父親は驚きの表情を見せた。
「ラビニア、彼女が元クラスメイトとはどういう事だ。私はあやうく、彼女に恥知らずなお願いをする所だったじゃないか」
そう言うと、父親はラビニアを
「待ってお父様、これには理由があるの!!」
「理由だと? どのような理由があるというのだ?」
父親は上げた手を一度下ろす。
「それではお父様、改めてセーラの着ている衣服を見てください」
「衣服だと?」
そう言われ、父親はセーラの全身を改めて見直してみる。
「まあ、こう言っては申し訳ないが、いくらメイドとは言え、あまりにも粗末な衣装のようだな」
「そうなのよお父様。セーラは父親が亡くなり、会社が破産してお金が払えなくなった途端、着ていたドレスまで全て脱がされ、学院内にあった一番粗末な衣服を当てがわれたのよ」
「なんと酷い」
「しかも無給で朝から晩まで働かされて、それに屋根裏部屋で寝泊まりをしているのよ。私、以前屋根裏部屋に興味本位で行った事があるのだけど、寒いし埃っぽいし、おまけにネズミまで出るのよ。あまりに酷い所で私、そんな所とても居られなかったわ」
「なんて事を、このような小さな娘に…」
「でも私の専属メイドになれば、重労働からは解放されるし、もっと良い服を着せてあげられるわ」
「そうか、それは救ってやらなければいけないな」
そう言うと父親は改めてセーラに向き合って言った。
「お嬢さん、是非ともうちの娘の専属メイドになってくれないか。君の悪いようにはしない」
「分かりました。それでは、お受けいたします」
「そうか、それはありがたい。それではうちの娘をよろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
セーラはラビニアの父親に深々と頭を下げた。
するとラビニアがセーラに近づいてきた。
「それじゃセーラ、早速洋服屋に行くわよ。そんな粗末な衣装じゃ、ハーバード家の品格が疑われてしまうわ」
「はい、ラビニアさん。いえ、これからはラビニアお嬢様とお呼びするべきでしょうか?」
「今まで通りでいいわ。今更ラビニアお嬢様だなんて、背中がむず痒くなるもの」
「それではラビニアさん、でよろしいでしょうか?」
「それでいいわ。それより、あなた少し臭うわね。ちゃんとお風呂に入ってるの?」
「いえ、あまり…」
「それならすぐシャワーを浴びてきなさい。これから特注品のオーダーメイドのメイド服を買うんだから。身体の採寸だってしてもらうのよ。そんな不潔じゃ連れていけないわ」
「はい、ラビニアさん」
すると続いてラビニアは、セーラの手を摘まみ上げ、それをマジマジと見つめた。
「あなたの手汚いわね。ヒビとアカ切れだらけで、それにゴツゴツしてて、とても女の子の手じゃないわ」
「あの、ごめんなさい」
「ダメ、許さない」
するとセーラは申し訳なさそうに俯いてしまう。そしてラビニアは父親に向かって言った。
「お父様、洋服屋の後にお薬屋さんに寄ってくださらない? セーラにハンドクリームを買ってあげたいの」
「もちろんいいとも」
「ありがとうございますお父様」
すると再びラビニアはセーラに向かって言った。
「セーラ、あなたにハンドクリームを買ってあげるわ。毎日塗って、一日も早く治しなさい」
「ありがとうございます、ラビニアさん」
セーラの目に涙が滲んでいた。
「ラビニアさん、どうして私にこんなに優しくしてくれるの?」
「べ、別に、あなたのためじゃないんだからね。そんな手でお世話されても、そのたびに手が目について、こっちの気分が悪くなるだけなんだから」
「はい、ラビニアさん」
「ああそれと、あなたには24時間、いつ御用を申し付けるか分からないわ。だから、今後はこの部屋があなたの控室よ。まあ、あなたのプライベートスペースは無くなってしまうけれど、屋根裏部屋よりはここの方が暖かくて過ごしやすいでしょ?」
「はい、ラビニアさん」
「それじゃお父様。セーラのためにベッドも一つ用意してくださらない? 固いマットで身体を痛めてしまっては私のためのお仕事に支障が出てしまうから、上質な物を用意していただきたいのだけれど」
「ああ、それなら任せなさい。上質なベッドを用意させよう」
「ありがとうございます」
するとラビニアはセーラに言った。
「それじゃ早くシャワーを浴びてきなさい。あなたにはハーバード家の威信にかけて最高のメイド服を仕立ててもらうんですからね」
「はい、ラビニアさん」
そうしてセーラはラビニアの使用人となった。
そして、アメリカの原油会社は時流に乗り、大発展を遂げた。ラビニアは社交界から財政界まで様々な分野で活躍した。その傍らには常に、セーラも付き従っていたという。
おしまい☆