日露戦争の帰還兵の杉本と、アイヌ民族のアシㇼパは金塊を追う旅の途中でヒグマの子供を保護することになった。しかしそれでは旅は続けられないからと、一度アシㇼパの集落へ行くことにした。アイヌ民族はヒグマの子供を保護した場合、一定期間飼育した後、神の下へ送る習慣があったためだ。
そうしてアシㇼパのチセ(家)に行くと、そこにはフチ(祖母)がいたため、杉本とフチはそれぞれ自己紹介をする。だが、杉本はアイヌ語が分からない。逆にフチは日本語が分からないため、二人が意思疎通を図るためには、どちらの言葉も分かるアシㇼパが通訳する必要があったのだ。
そんな中、フチが言った。
※「 」は日本語
『 』はアイヌ語です
祖母『アシㇼパは山に入ってばかりで女の仕事ができない。縫い物や織物も女の仕事が出来ない女はアイヌの夫を持つこともできない。もうすぐ入れ墨すべき年であるのに嫌だと言う』
アシㇼパ「入れ墨は嫌だって言ってる女の子は他にもたくさんいる。フチは古い!」
祖母『杉本の旦那、この女の子を嫁に貰ってくれ。孫が心配で私はこの世を去る事もできない』
杉本「お婆ちゃん、俺になんだって?」
しかしアシㇼパは、まさか自分を嫁にもらってくれと言っているとは恥ずかしくて言えず、適当な嘘でごまかしてしまう。
アシㇼパ「うんこ食べちゃ駄目だって」
アシㇼパは味噌を
杉本「うんこじゃないんですよお婆ちゃん、味噌なんですよ。そうだアシㇼパさん、お婆ちゃんに俺の味噌愛を伝えてくれ。俺は味噌を愛している。食材として好きというだけじゃない、そこにあるだけで安心感が違うんだ。もう毎晩抱いて寝たいくらいだぜ」
祖母『おいアシㇼパ、杉本さんはなんと言ってるんだ?』
アシㇼパ『ええと、一緒にいると安心感がある。毎晩抱いて寝たいほど愛していると言っている』
すると祖母は驚いてしまう。
祖母『いや、確かに嫁にもらって欲しいとは言ったが、お前はまだ子供じゃないか、まだそういうのは早い、あと3年待て!』
杉本「なあ、アシㇼパさん。お婆ちゃんは何て言ってるんだ?」
アシㇼパ「ええと、まだ早い、あと3年待てと言っている」
杉本「確かに味噌は何年も熟成させると美味くなると言うが、とても3年も待てない。今のままでも十分美味い! そうだ、今からそれを証明する。最高の味噌料理を作ってやるぜ。ちょうどさっき取ってきたウサギがある、これでチタタプ(我々が叩くもの)の味噌鍋を作ろう。アシㇼパさんも手伝ってください!」
そう言いながら作業の邪魔にならないように、杉本は外套を脱ぎ始める。
祖母『おいアシㇼパ、杉本さんが急に服を脱ぎ始めたが、一体何と言ってるんだ?』
アシㇼパ『とても3年は待てない。今のままでも十分だから、今からそれを証明するから私に手伝ってくれと言っている』
すると祖母は今度は怒りを覚えた。
祖母『むむ、良い人そうに見えたが所詮は和人(シサム)か。こやつはアイヌ民族を侮辱しておる。私の目の前でアシㇼパと男女の営みを行おうなど、完全な侮辱だ。元族長の妻として、こいつを生かして帰すことはできん!』
そう言うと祖母はチセ(家)の奥に置いてある弓矢を取りに歩き出した。この矢にはヒグマが10歩歩くまでに絶命するほどの強力な毒が塗られている。この毒にかかれば、いくら【不死身の杉本】の異名を持つタフな杉本であっても一たまりもない。
しかも杉本はアイヌ民族に対しては侮辱どころか敬意の念を持っている。年下であり、まだ子供である自分でさえもさん付けて呼ぶ杉本を、自分の苦し紛れの嘘から始まった勘違いで殺されてしまう事は、さすがに気が引けて、アシㇼパは祖母に必死に勘違いである事を説明した。
祖母『なに、アシㇼパの話ではなく、味噌といううんこに似た調味料の話をしただと!? あやうく、本気で杉本さんを殺めるところだったわ馬鹿モン!!』
そうしてアシㇼパは祖母からメチャメチャ怒られ、アシㇼパの通訳初体験はくそみそな結果に終わったのだった。
おしまいw