ここは北側諸国の城塞都市、グラナト伯爵領の城壁の外。月明かりに照らされた荒野に数千の首なし騎士たちが物言わぬ軍勢として立ち尽くしていた。その中心で優雅に腰を下ろし、指先で金の天秤を弄ぶ魔族がいた。七崩賢の一人、断頭台のアウラである。
フリーレンはその軍勢を軽々と片付け、ついにアウラと一対一で対峙する。するとアウラはフリーレンの魔力を確認すると冷笑を浮かべ、揚々と天秤を掲げながらフリーレンに歩み寄る。
そしてアウラが
アウラは自身の魔力がフリーレンを上回っていると確信し
アウラの一切の自由を奪ったフリーレンは、たった一言を言い放つ。
「アウラ、自害しろ」
それだけ口にするとフリーレンは踵を返し、その場を立ち去ろうとする。一人残されたアウラは自身の持つ剣の刃を自らの首筋に当てる。涙を零しながら「ありえない…」と言い、アウラは自身の首を搔き切ろうとする。
しかし、フリーレンはふと思いついた。
「止まれアウラ、自害は禁止だ」
するとアウラの手がピタリと止まる。
「何よフリーレン、どうするつもり。もしかしてじわじわいたぶってから殺すつもりかしら?」
「違うよアウラ。どうせお前はもう私に逆らえないんだ。だったら殺すまでもないだろ。だからこのまま私のために色々と協力してもらおうと思ってね」
「冗談じゃないわ、誰があんたなんかの思い通りになるもんですか。それならいっそ自ら命を絶った方がマシよ」
そう言うとアウラは剣を持つ手に力を込める。しかし、その刃を引くことはできなかった。
「意外に馬鹿なんだねアウラ。私今自害禁止だって言ったよね」
「くっ…」
「それじゃアウラ命令だ、私とフェルンとシュタルクの旅の手助けをして欲しい。それと、魔族以外のあらゆる種族への一切の危害を加える事は禁止する。それと、私の身の回りの世話をしてもらおうかな」
「ちょっとちょっと、注文が多過ぎでしょ。どんだけの魔力差があれば、そんなに複数の命令を重ね掛けできるのよ」
「さあね。倍くらい? まあ、今までずっとフェルンの手を煩わせてきたけど、これでようやくフェルンに迷惑をかけずに済みそうかな」
そうしてフリーレンは旅の手助けだけでなく、身の回りの世話までアウラに押し付ける事にしたのだった。
その翌朝、宿屋のベッドの上にて。
アウラは起きたてで寝ぼけ
「おはようございますフリーレン様、朝の支度の時間です…」
そこまで言ってからフェルンはアウラを見て固まった。
「ちょっと、どうしてあなたがここにいるんですか? フリーレン様のお世話をするのは弟子の私の務めなんですけど」
「別に私だってやりたくてやってる訳じゃないわよ。フリーレンに命令されて仕方なくやってるの」
「だったらすぐに止めてください。起きたてのフリーレン様をモフモフして、サラサラの髪をサワサワするのは私の特権なんです」
するとアウラは下卑た笑みを浮かべる。
「あら、そう言われると譲りたくなくなるわねえ。いいわ、この務めは私がやるわ」
「ちょっとフリーレン様、アウラに身辺のお世話をする命令を取り消してください。その代わり、私に意地悪するのを止めさせてください」
「うーん、意地悪って定義が難しいんだよね。考え方一つでいくらでも抜け道があるし、意地悪の自覚がなければ何の抑制にもならないし」
「だったらもう始末しちゃってください」
「でもアウラって結構有能だよ。戦闘面じゃフェルンより強いし、それにフェルンとシュタルクの対魔族用の実戦訓練の相手としてこれ以上の適任者もいないよ」
そう言われ、フェルンは憎々しげにアウラを睨みつける。アウラは冷笑を浮かべ、軽やかに受け流した。
「まあいいですよ。でも、明日はもっと早起きして私がフリーレン様のお世話をします」
「あら、だったら私はもっともっと早起きしてフリーレンの世話をしてやるわ」
「だったら私はもっともっともっと早起きしてフリーレン様のお世話をします」
「だったら私はもっともっともっともっと早起きして…」
いつまでも言い争いを続けるフェルンとアウラを見ながら、「朝はもっとゆっくり寝てたいんだけどなぁ」とフリーレンは溜息を吐いた。
その夜、フェルンはフリーレンの入浴中に浴室前の脱衣室にやってきた。衣服を脱ぎ、バスタオルを巻く。今までは師弟の間柄であり、フリーレンに対して一歩引いていたが、アウラの積極的な様子を見てなりふり構っていられなくなった。普段はプライベートスペースとして遠慮して入らなかった浴室内にフェルンは足を踏み入れる。
「失礼しますフリーレン様、お背中を流しに来ました…」
だが、そこまで言ってフェルンは再び固まった。何と、そこにはアウラがおり、フリーレンの背中を洗っていたのだった。
「アウラ、どうしてあなたがここにいるんです? もうフリーレン様のお世話をしろという命令は解除されたはずですが?」
アウラはフェルンを見ると、待ってましたとばかりにニヤリと笑う。
「そんなの私の勝手でしょ。別に『フリーレンの世話をしてはいけない』という命令は受けてないわ」
フェルンはアウラに言っても無駄だと思い、フリーレンに言った。
「フリーレン様、お背中を流すのを私にやらせてください。私の方がもっと丁寧に、もっと愛を込めて洗えます。何なら背中だけじゃなく、頭から足の先まで全身お洗いしますよ」
すると、フリーレンが答えるより先にアウラが言った。
「愛って何よ、重いわね。それに過剰なサービスは時間の無駄よ。それより私の方が必要な場所を的確に効率良く洗う事ができるわ。今の時代は
「やれやれ、あなたはフリーレン様の事を何も分かっていませんね。フリーレン様ほど
「うるさいわね、とにかくここは手が足りてるのよ。あなたはその若さゆえのハリというか、無駄にボリュームのある身体、浴室が狭くなるから出て行ってくれないかしら」
「それを言うならあなたこそ、500歳以上も生きている高齢者じゃないですか。そんなお年寄りがへそ出しコスチュームなんか着て痛々しいですよ。もっとご自分のお歳を考えてください」
するとフリーレンがちょっぴり涙目になって言った。
「フェルン、それ地味に私に刺さるんだけど」
「あっ、し、失礼しました。決してフリーレン様をお歳と言っている訳ではなくてですね…」
(この娘、イジリがいがある本当に良いオモチャだわ。人間との旅も存外に悪くないわね)
フェルンが慌てて弁明する様子をアウラは楽しそうに見つめていた。
フリーレンはちょっと面倒くささも感じたが、それと同時にこの賑やかさにどこか心地良さを感じるのだった。
おしまい☆
【おまけ】浴室のその後…
「アウラ、シュタルク様のそばをそんな はしたない恰好でうろつかないでください」
「仕方ないでしょ、長湯してのぼせちゃったんだから」
そう言いながらアウラは上着のシャツをバサバサと大袈裟に扇ぎ、わざと少し胸元を着崩した。
「ですから、そういう破廉恥な行為はやめてください。シュタルク様もシュタルク様です、鼻の下伸ばしちゃって」
フェルンは不機嫌そうに頬を膨らませる。
「別に俺、何もしてないのに~」
アウラの加入でフェルンの気苦労は絶える事がないのでした。
おしまいw
【制作こぼれ話】
私は趣味でデジタルカードゲームのシャドウバース(現在はシャドウバース ワールドビヨンド)をプレイしているのですが、2026年1月現在シャドウバースはフリーレンコラボを開催中です。そしてなんと、運営様からプレイヤー全員にアウラスキンがプレゼントされました。
私もアウラスキンがお気に入りでずっと使っているのですが、アウラは対戦で負けると剣を首筋に当て「ありえない…」と言って自害するシーンが再現されます。今月だけでこのシーン何度見た事か。
で、毎度毎度自害しようとするアウラが不憫に思えてきて、何とか救済できないかと思いついたのが本作でした。
今回はアウラを生存させてみましたが、もし皆さんが思う『アウラにさせたい屈辱的(?)な雑用』等がありましたら是非感想で教えてください。楽しいネタがあったら、おまけや番外編として更に書き加えるかも知れません。