漫画アニメ短編集&救済の物語   作:クリリ☆

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【前書き】
『DEATH NOTE』を読まれた方で、その破壊力と存在感、ご都合感は『まるでドラえもんの秘密道具みたいだ』と思われた方はいらっしゃいませんか? 恐らく私以外にもきっとそういう方がおられるのではないかと思います。

非現実の死神のノートではなく、科学の結晶である未来道具としてのデスノート。その空想をようやく形にする事ができました。【自分用メモ】にタイトルを発表してから約一年。ようやく完結までのプロットが完成です。

最底辺小学生(のび太) VS 最高峰名探偵() の異次元の頭脳戦。是非最後までお付き合いください。


ドラえもん ✕ DEATH NOTE【①:のび太と死神のノート】

 

「ドラえもぉぉぉん!!」

 

のび太は階段を二段飛ばしで駆け上がり、部屋のふすまを叩きつけるように開けた。顔は泥と涙でぐちゃぐちゃだ。頬は赤黒く腫れ、お気に入りの黄色いシャツにも泥がこびりつき、襟元はよれて歪んでいた。

のび太はドラえもんの姿を見ると、噴水のような大量の涙を流しながらドラえもんにすがりついた。

 

「どうしたんだいのび太くん?」

 

何度繰り返されたか分からない様式美。その理由は分かりきっている。本当は聞くまでもなかったが、いつものお約束通り、ドラえもんはのび太の答えを確認する。

 

「ジャイアンとスネ夫にいじめられたんだ。悔しいよ、何か道具出して~」

 

いつものように仕返しの道具をねだりながら泣き叫ぶ。さらに畳をどんどんと叩き、悔しさと無念さをアピールしている。

 

「で、きみはどうしたいの?」

 

「あんな奴ら、殺してやりたい。死んじゃえばいいんだ。ねえドラえもん、何かそんな道具ないの?」

 

「あるよ」

 

「えっ、あるの!?」

 

するとドラえもんは腹のポケットに手を突っ込み、真っ黒な一冊のノートを取り出した。表紙には『DEATH NOTE(デスノート)』と書かれている。

 

「デスノート!」

 

「何だいこれ。ノート?」

 

そのノートはのび太が学校で使っているどのノートとも違っていた。光を一切反射しない、まるで深い夜の闇を切り取って綴じたような底知れぬ黒さと、まるでこの世の物とは思えない異質な存在感があった。

 

デスノートに興味が移り、のび太は泣き止んだ。ドラえもんからノートを受け取ると、中を開いてぱらぱらとページをめくる。しかし中はただ罫線が引かれているだけの真っ白い紙が綴られているだけだった。

 

「これは死神のノートさ。使い方はとても簡単。殺したい相手の顔を思い浮かべて名前を書くだけ。すると名前を書かれた相手は40秒後に心臓麻痺で死ぬ。死因を書けば心臓麻痺以外でも、その死因の通りに死ぬんだ」

 

「さすがドラえもん。そんな道具が欲しかったんだよ」

 

のび太はタケコプターでも出してもらった時と同じような手軽さでノートを手にし、いつもの勉強机へ向かった。端に置いてあるペン立てから少し先が丸まった鉛筆を取ると、早速ノートに名前を書こうとする。その行為には少しの淀みもない。あまりに軽快なそのテンポに、ドラえもんは心臓が口から飛び出しそうになる。

 

「ちょっと待ってのび太くん。そのノート、本当に使うつもり!?」

 

「そうだけど何?」

 

のび太は、ノートを使う事に何の躊躇(ためら)いも感じていない。それはドラえもんにとっては完全に想定外だった。ドラえもんは『きっとのび太にそんな度胸はない』あるいは『優しいのび太くんが本当に使ってしまう訳がない』と、のび太の事を信じていた。

ただ「殺してやりたい」と気安く口にした行為を諫めたいだけだった。生命の尊さ、殺すという事の重みを考えるきっかけになればと思っただけだった。

 

「のび太くん、人を殺すという意味をもう一度よく考えてみてよ。それはきみが思っている以上にとても重くて恐ろしい事なんだぞ」

 

「そんな事関係ないよ。殺してやる、殺してやるんだ!」

 

「のび太くん!」

 

だが、ドラえもんが思っていた以上にのび太は軽薄で浅慮だった。しかも平常な精神状態ではなかった。ジャイアンとスネ夫から暴行を受けた直後であり、のび太はひどく激昂していた。

 

耳をすませば息遣いや心臓の音まで聞こえてきそうな程に部屋を静寂が支配する。そんな中、カッカッ、っと鉛筆が紙の上を走る音が、妙に大きく部屋に響く。そして、そのテンポは全く衰える様子はない。

 

ドラえもんはここに至ってもまだのび太を信じていた。何だかんだ言ってもきっと名前を書くはずがない。いくら虐められていると言っても、たくさんの冒険を共にして友情を深め合った仲だ。きっと土壇場で筆が止まる。

 

(のび太くん、きみは、本当に書いてしまうのかい…)

 

ドラえもんの目にはのび太の持つ鉛筆が二人を貫く冷たい刃物のように見えていた。だが、のび太本人にはただの鉛筆であり、ただの文字としか映っていなかった。

そして、ドラえもんの思いも空しく、のび太は二人の名前を書き上げる。

 

「さあて書いたぞ。早速二人がどうなったか見てこようっと!」

 

階段を駆け下りていくのび太の足音を聞きながら、ドラえもんはその場にへたり込んだ。

 

「あああ、なんて事を…」

 

ドラえもんの描いたシナリオはこうだった。

デスノートを出せばのび太は震えあがり、『やっぱりこんなの使えないよ』と泣きついてくるはず。そこで命を奪う事の恐ろしさを、自分が優しく説いてやるはずだった。

 

ドラえもんは震える手で机に開かれたままになっているノートを覗き込む。そこには乱暴な筆跡で『ジャイアン』、『スネ夫』と書かれていた。

 

「のび太くん、ボクは諦めないよ。大丈夫、きっときみはまだやり直せる」

 

そうしてドラえもんはある準備をし、それからのび太が帰ってくるのを待つ事にした。

 

 

 

のび太は全力疾走する。胸の中にあるのは得体の知れない高揚感だ。あの憎たらしい二人が、今ごろ空き地の真ん中で転がっている。やったぞ、これで僕の平和は守られたんだ。そう思うと、先ほど殴られた頬の痛みも忘れる事ができた。

 

5分程走るといつもの空き地が見えてきた。のび太は塀の陰に隠れ、息を殺して中の様子を伺う。

 

「それにしてものび太のヤツ、ケッサクだったね。ジャイアンに殴られてダンゴムシみたいに転がってさ」

 

「ああ、ここ最近の中でも一番の手応えだったぜ」

 

そこには、先ほどまでと全く変わらない様子で、土管に座って談笑しているジャイアンとスネ夫の姿があった。

 

「えっ、どうして、もう40秒以上経ってるハズなのに!?」

 

のび太は固まった。心臓麻痺どころか、二人とも顔色一つ変えていない。

 

「なんだよドラえもん、何が誰でも殺せる死神のノートだ。ただのインチキ道具じゃないか」

 

のび太は一気に緊張感が抜け、思わず隠れるのも忘れて二人の前に姿を現してしまう。

 

「おう、のび太じゃねえか」

 

呆然とするのび太を目ざとく見つけ、ジャイアンは土管の上から飛び降りる。

 

「ジャ、ジャイアン、スネ夫…」

 

「どうした、まだ殴られたりなかったか?」

 

ジャイアンはポキポキと拳を鳴らす。スネ夫も意地悪な笑みを浮かべて、のび太を囲い込むように歩み寄ってきた。

 

「なんで君たちは生きてるんだよ。デスノートに名前を書いたハズなのに」

 

「ああん、なんだぁ?」

 

ジャイアンは意味の分からないという表情を浮かべる。だがすぐにスネ夫はピンときた。

 

「ジャイアン、きっとドラえもんの道具だよ。ぼく達に何か仕掛けたんだ」

 

「ははーん、なるほどな。頼みの道具が、不発に終わった訳だ」

 

図星をつかれ、のび太は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。

その間もジャイアンとスネ夫はじりじりとのび太との距離を縮めてきた。

 

「待ってよジャイアン、これには深~い訳があって…」

 

「問答無用、もう一回身体に教えてやる!」

 

「…うわあぁぁぁ!!」

 

のび太の悲痛な叫びが夕暮れの空き地に虚しく響き渡った。

 

 

そうして全身をこれでもかという程殴られたのび太は、先ほどまでとは違い、今度はフラフラとした足取りで、一段一段、ゆっくりと階段を上ってきた。のび太は部屋に戻ると、ドラえもんを睨みつける。

 

「ドラえもん、何が死神のノートだよ。全然死んでなかったじゃないか」

 

「それはそうだよのび太くん、きみがちゃんと説明を聞かないからだ」

 

「説明って何だよ?」

 

「デスノートの効果を発揮するにはいくつかのルールがあるのさ。きみの書いた名前はルールから外れてたから無効だったんだよ」

 

「どんなルールだよ!」

 

「それは、本名をフルネームで書かなければいけないのさ」

 

「本名をフルネーム?」

 

「そう。例えばジャイアンというのはきみらの間でしか通用しない通称、あるいは愛称(ニックネーム)だろ。それじゃ効果が発動する訳がない」

 

「じゃあ、スネ夫は、骨川スネ夫って書けばいいって事?」

 

「そういう事。でものび太くん、もう一度ようく考えてみて。人を殺してしまうという事は、その人の夢や未来や可能性を奪うって事だよ」

 

「ふぅん、それで?」

 

ドラえもんは必死に説得をするが、心身ともに傷ついている今ののび太の心には全く響かなかった。

 

「それに、人が死ぬって事は、その人だけの問題では収まらない。その人を取り巻く環境にも影響を与えるって事さ。つまり、最も直接的にはご家族だね。ジャイアンやスネ夫にだって家族はいるだろ」

 

「だったら、ぼくの思いはどうなるのさ!」

 

「きみの、思い…」

 

「そうだよ。彼らの夢や未来や可能性、家族のためにぼくに犠牲になれっていうのかよ!」

 

のび太の叫びが狭い六畳間に反響した。窓の外からは、近所の子ども達が家に帰る楽し気な声が聞こえてくる。だが、この部屋だけはまるで酸素が薄くなっていくような、酷く重苦しい静寂が満ちていた。

 

赤い夕陽が部屋に差し込み、のび太とドラえもんが作る影が、天井に届かんばかりに伸びていた。

 

「前にテレビで見た事があるけど、世の中にはいじめを苦に自殺してしまう人だっているじゃないか。つまり、いじめっていうのは殺人に等しい重罪だよ。だったらその罪は裁かれるべきじゃないのか!」

 

「のび太くん…」

 

少々粗削りだが、のび太の論理(ロジック)には筋が通っているように思え、ドラえもんは反論する事ができなかった。

 

「どいてドラえもん」

 

のび太はドラえもんの丸い体を乱暴に押しのけ、再び勉強机に向かった。机の上に無造作に転がっている鉛筆を拾い上げると、デスノートの『ジャイアン』、『スネ夫』と書かれている行をじっと見据えた。

 

「のび太くん、今ならまだ引き返せるよ」

 

「ドラえもん、止めても無駄だよ」

 

「のび太くん…」

 

ドラえもんの悲痛な呼びかけは、もはや祈りだった。

だがのび太の手は止まらない。一画一画、怨念を込めて鉛筆を走らせる。紙を抉る音が先ほどよりも低く重く、静寂な部屋に響き渡る。のび太の手はかつてないほどに力が入り、鉛筆の芯が激しく摩耗していく。

 

「書いたぞ…。これで40秒後だ」

 

デスノートには、稚拙で震えた文字だが、『ごうだたけし』、『ほねかわスネ夫』とはっきりと記入されていた。

 

のび太は机に置かれた目覚まし時計を食い入るように見つめた。

 

1秒、2秒…。

 

部屋を支配するのは時計の刻む針の音と、二人の荒い息遣いだけだ。

 

30秒、31秒…。

 

のび太の息遣いが更に荒くなる。

 

39秒、40秒…。

 

40秒が経過するが、室内は特に何も変化がない。

 

「あの、もう二人とも死んじゃったのかな?」

 

「多分ね…」

 

「ぼく、ちょっと見てくる」

 

のび太は居ても立ってもいられなくなった。

先ほどと同じように階段を駆け下りて外に出る。今度はドラえもんものび太について行った。

 

空き地まで行くと、その入り口付近には物凄い人だかりができていた。遠くからサイレンの音が聞こえてくる。恐らくは救急車のものだろう。

 

「あ、あ…。ドラえもん、すごいたくさんの人がいるよ」

 

「そりゃあそうだろうね」

 

のび太の耳に喧噪の中から聞こえてくる立ち話が入ってくる。

 

「いや、何でも空き地で遊んでいた子どもが倒れてたんだってよ」

 

「ああ。発見された時にはもう心臓が止まっていたとか」

 

「二人同時だなんて、何か怪現象でもあったのか。毒ガスとか、謎の怪電波とか…?」

 

そんな中、到着した救急隊員が機敏に動き、土管のすぐ傍らで倒れている二人をストレッチャーに乗せていく。ジャイアンの身体は大きく、ストレッチャーからダラリと片腕が力なく垂れた。だが、その手は下がったままピクリとも動かない。隊員がその姿勢を素早く直すと、すぐに救急車に運び込んだ。

遠巻きにその様子を見守っていたが、のび太には二人の生気のない青白い顔がかすかに見えた。

 

「し、死んでる、死んでるよ…」

 

するとドラえもんは目を閉じると冷たく言い放った。

 

「違うよ、彼らは死んだんじゃない、きみが殺したんだ」

 

「ぼくが、殺した…」

 

先ほどまでは死んでしまえばいいと思っていたはずなのに、実際に倒れている二人を見て、のび太の顔から急に血の気が引いていく。

さらに、心臓が口から飛び出るんじゃないかと思うほど激しく脈打ち、さらには喉の奥から何か熱いものが込み上げてきた。

 

のび太はすぐに側溝まで行き、込みあがって来たモノを吐き出した。

 

「大丈夫、のび太くん?」

 

「どうしよう、ぼくが、ぼくのせいで…」

 

頭の中が真っ白になったのび太は、その後どうやって帰ったかも覚えていなかった。

ただ、部屋に帰って呆然自失となって椅子に座っていると、母親から緊急連絡網が回ってきた事を知らされた。

 

どうやら二人は救急搬送された後、心肺蘇生が試みられたが、その甲斐なくそのまま死亡が確認されたとの事だった。

 

もちろんそんな事は報告を受けるまでもなく分かっている。分かっていたハズなのに、のび太は涙を堪える事ができなかった。いまだかつて感じた事もないほどの深い後悔と罪悪感を感じた。

 

 

翌日、学校では緊急の全校集会が行われた。

体育館の床から伝わるシンとした冷たさが、のび太の足の裏を刺すようだった。校長先生の悲痛な声が、高い天井に反響しては消えていく。

 

隣に並ぶクラスメイト達のすすり泣きが、のび太の耳にはまるで自分を責める告発の声のように聞こえてきた。

更に、のび太の視界の隅に静香ちゃんの泣いている姿が見えた。

 

こんな事は望んでいなかった。まさか、静香ちゃんまでも悲しませてしまうとは…。

そうしてのび太は改めて、自分の犯してしまった罪の大きさを思い知った。

 

「ただいま」

 

「おかえりのび太くん」

 

「ねえドラえもん、デスノートを貸して?」

 

ドラえもんの表情が強張った。まさか、のび太が罪の意識に苛まれて自分の名前でも書いてしまうんじゃないかと思ったからだ。

 

「今更何に使うつもりだいのび太くん? まさか、自分の名前を書くつもりじゃないだろうね?」

 

「違うよドラえもん。そんな事してもジャイアンたちは浮かばれないだろ」

 

「じゃあ何に使うのさ?」

 

「犯罪者を裁くんだよ」

 

「犯罪者を裁く? 何を言っているんだきみは?!」

 

「ぼくは一晩考えたんだ。殺してしまった彼らに報いるには、せめてデスノートを使って世の中を少しでも良くすればいいんじゃないかって。だったら、世の中の悪い人をみんな裁いて少しでも良い社会になったら、あの二人の死が少しでも報われるんじゃないかと思ってさ」

 

「無茶だよそんなの、見た事も聞いた事もないよ。できる訳ないよ」

 

「でもやるしかないんだ。それに、こんな事でもしないと、ぼく自身が罪悪感で押し潰されちゃう」

 

「なるほど、つまり君にとっては贖罪という訳か」

 

「しょくざい?」

 

「罪滅ぼしって意味さ」

 

「そうだね、そうだよ。ぼくが今できる事はこれくらいしか思いつかない」

 

やれやれ、悪い人をみんな間引いて世の中を良くしようだなんて、まるで小学生の発想だ。あ、小学生か。のび太の提案を、ドラえもんは実にのび太らしい考えだと思った。

 

だが、暗闇の中で立ち止まらず、自らの意志で再び立ち上がろうとしているのび太を、ドラえもんは応援したい気持ちになる。

 

「キミの覚悟、分かったよ。やれるだけやってみよう。ぼくも協力する」

 

「本当かいドラえもん!?」

 

「ああ、こうなってしまった責任の一端はぼくにもある。だったらキミの背負う十字架をぼくも背負う義務がある」

 

「ありがとうドラえもん。ドラえもんがいれば百人力だよ!」

 

「ただし、これはもう後戻りできないぞ」

 

「分かってるさ、僕はもう前に進むしかないんだ。さあやるよドラえもん。犯罪者のいない、優しい世界を作りに!」

 

のび太の瞳に宿った光は、かつてのひ弱な少年のものではなかった。胸に秘めるのは覚悟と勇気、そして強い贖罪への思い。

 

部屋を照らす午後の無機質な陽射しが、机の上に置かれた『デスノート』の表紙を冷たく光らせる。遠くからは定時を告げるチャイムの音が鳴り響いてきた。

 

そうしてのび太の血塗られた救済と断罪の戦いが静かに幕を開けるのだった。

 

 

続く☆

 

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