西暦2019年、謎の怪現象により全人類と燕が石化した。管理者のいなくなった科学文明は崩壊し、そのままおよそ3700年が経過する。そして文明崩壊後のストーンワールドと化した世界で千空は石化から回復する。そして千空は誓う、科学文明の復活を。
さて、科学文明が崩壊したストーンワールドだが、何故か石化を免れた人達がおり、数十人規模の集落を作って生活していた。そんな中、千空は村の住人のコハク、クロム、スイカの3名と出会い、仲間にする事に成功する。
しかし、科学文明の復活のためにはまだまだマンパワーが足りなかった。そこで、千空は紆余曲折を経て、ラーメンを作って村人の胃袋を掴む作戦に出るのだった。
ちなみに現時点でのストーンワールドには米、小麦は存在しておらず、狩猟生活で得られる食材が主で、何と言っても食料難は大きな問題となっていた。
そこで千空は村の周辺に大量に自生している猫じゃらしに目を付ける。そして猫じゃらしを脱穀し、製粉する事で、何と猫じゃらしを使ってラーメンを作るのだった。
さて、原作では麺作りの工程は描かれたがスープ作りの工程は描かれていない。今回は知られざるスープ制作の秘話を紹介していきたいと思う。
千空は猫じゃらしを製粉し、それでラーメンを作る。そして試作品を皆で食べた。
「ほう、これがラーメンか。なかなか美味いものだな」
「ハ! 私もこんな物初めてだ。悪くないぞ千空」
クロムとコハクは猫じゃらしラーメンを褒めるが、千空はその反応を観察し、物足りなさを感じた。
「なかなか美味い、悪くない、か…」
このラーメンで村人の胃袋を掴まねばならない。だがクロムとコハクの反応を見る限り、普段よりちょっと美味しい食事をしている、程度のものだ。とても村人の魂を揺さぶって自分の思い通りに働いてもらうようになるほど心を掴めるとは思えなかった。
そんな風に感じながら、千空はスイカの様子を見てみる。が、スイカは箸があまり進んでいなかった。
「どうだスイカ、ラーメンの味は?」
「うーん、スイカにはちょっと渋い気がするよー」
猫じゃらし麺はお世辞にも美味いとは言えなかった。しかも、子どもであるスイカには猫じゃらし特有の臭みと渋さが勝ってしまい、食べる事すらままならなかった。
「このままじゃダメだ、こんな物ラーメンじゃねえ」
「そうなのか? 俺には分からんが」
「このままじゃただの猫じゃらし麺入りの塩スープだ。もし文明時代の奴らにこれを出してみろ、100億%全員が箸を置く。村人達にしたって、これじゃせいぜい『たまに食いたくなる』程度の代物だ」
ラーメンのスープには複数の野菜を煮込んでダシを取った塩スープが使われていた。人によっては十分美味しいと思う者もいるかも知れなかったが、千空にはどこか淡白に感じられて物足りなかった。そう感じられた要因に、たまたま千空の家の近所にとても美味しいラーメン屋があり、父親とよくラーメンを食べに行っていた事もあるかも知れない。ラーメンの味わいに対して千空の舌は肥えており、妥協をする事が許せなかった。
「厳しいな千空。俺には十分だと思うけどな」
「いいや駄目だ、こんなのをラーメンだと言って出したら俺は詐欺師になっちまう。科学者とは真理の探究者だ。真理を探究する者が嘘つきになってどうする! 今の俺たちには、もっと中毒性のある、もっと村人を支配できる、もっと脳をダイレクトに揺さぶる『うま味の暴力』が必要なんだよ!」
「とは言えどうするんだ。俺達にラーメンのアドバイスはできないぞ」
「ああクソ、どうすりゃいいんだ。せめて醤油か味噌でもあればもっとまともなスープが作れるんだが、どちらも大豆が必要だ。今から大豆を手に入れて種まきから始めても収穫までに時間がかかり過ぎる。この世界は調味料が圧倒的に少ねえ、何か1mmも方法はねえのか…」
千空は顎に手を当てて考える。そして数瞬の後、歯を大きく剥き出し、ニヤリと笑う。
「くっくっく、思いついたぞこいつをもっと美味くする方法を。科学の力でこいつを正真正銘のラーメンに進化させてやろうじゃねえか。そそるぜこれは!」
千空はコハクに言った。
「おい、今からニワトリは調達できるか?」
「ニワトリ? どうするんだ、卵でも取るのか?」
「いいや、こいつの骨を使う」
「それは駄目だ。ニワトリは卵を産む貴重な鳥だ。ダシを取る事などに使ったら、余計に村人の反発心を買ってしまうぞ」
「じゃあ、何でもいい、そこらにいる鳥を獲ってこれねえか?」
「ハ! それなら任せてくれ。いくらでも獲ってきてやる」
そうしてコハクは弓を取り、鳥を捕まえに行った。その間に千空とクロムとスイカはスープ作りの準備をする。
寸胴鍋に大量の水を入れ、いくつかの野菜をぶつ切りにしダシを取り始める。
「千空、このスープに鳥から取ったダシを加えるのか?」
「まあ、半分正解だな。楽しみに見とけ、
そうしてコハクが獲ってきた鳥を羽根を毟って鍋に投入していく。そうして1時間ほど煮込んでいくと鍋に油が浮いてきた。その様子を見ながらクロムが言った。
「お、良い感じにダシが取れてきたんじゃないのか?」
「いいや、面白くなるのはまだまだこれからだ。それよりもっと火力を上げるぞ、手を動かせ」
鍋の周りには手作りの
「おいまだか千空。一体いつまでこんな作業を続けるんだ」
2時間もの間、必死に空気を送り続け、皆の手は筋肉疲労でフラフラになった。
「そうだな、そろそろだな。よしお前ら、鍋を見てみろ」
クロムが鍋を覗くと、鍋の中のスープが白くなっていた。
「何だこれは、無色だったはずのスープが白くなっているぞ。これは一体何なんだ!?」
「これこそ乳化現象だ!」
「乳化現象? 何だそれは、炎色反応みたいなものか!?」
「いいか、基本的に水と油は絶縁体になっていて混ざり合わねえ。だが、鳥の骨や皮から溶け出したコラーゲンをぶち込んで長時間水と油を対流させる事で、本来なら混ざり合わねえコイツらをコラーゲンが仲介役となって強引に手を繋がせてやるんだ。そうすると湯は白く変色する。これこそが乳化だ。そそるぜ、この科学の白濁スープはよ!」
寸胴の中のスープをかき混ぜると、どこまでも白い。表面だけじゃなく、全体が完全に白くなっていた。千空はそのスープを掬って丼に入れ、猫じゃらし麺を投入する。
「御託はいい、こいつを食ってみてくれ」
そうして皆で試食を始める。今まで見た事もない白いスープに、皆の箸を持つ手に緊張が走った。
だが、鼻腔をくすぐる良い香りに食欲と好奇心が高まり、ついには麺を掴んで一口啜った。すると皆が驚きの表情を浮かべる。
「すごい、濃厚なのにまろやかさがある、こんなスープ初めてだ!」
「さっきまでよりずっと美味しいんだよー!!」
スイカが丼を抱えて叫ぶ。それを千空は小指で耳をかきながら不敵に笑う。
「名付けて科学流・猫じゃらし鳥
「やったな千空、これなら村人の胃袋をばっちり掴めるぞ!」
「それにしても不思議なんだよー。スープを変えただけで麺は何も変えてないのに、どうして麺まで美味しくなってるんだろう?」
「そりゃ簡単な事だ。ただの塩スープじゃ猫じゃらしの
「うーん、スイカには難しいよー」
「とにかくラーメンって食い物は、麺をスープに絡めて食うもんだ。スープが美味くなれば麺まで美味しくなるのは道理だろ?」
「おお、やっと意味が分かったよー!」
先ほどは箸がほとんど進まなかったスイカが、すごい勢いでラーメンを啜り、喜んで食べている様子に千空も満足気に笑みを浮かべる。
「ちなみに豚(イノシシでも良い)の骨で同じ事をすりゃあトンコツラーメンもいける。たが、あいつは獣臭さが強すぎる。まずはクセのねえ鳥のうま味で村人共の脳をダイレクトにハックしてやるのさ。そして、もし鳥白湯で物足りなくなったら、その時にはトンコツラーメンを出してやる。こいつもそそるぜ!」
そうして作ったラーメンを村人たちに振る舞った。そのラーメンは大成功で、千空の協力者を一気に獲得するに至り、村の近代化、科学王国化に大きく前進したのだった。
そんな中、村人にこっそり混じってあさぎりゲンが猫じゃらしラーメンを啜る。
(いやあ、ジーマーで驚いたね。まさかストーンワールドで、こんな美味しいラーメンが食べられるなんて。もしかしたら千空ちゃんについた方が、もっと美味しい物が食べられるかも知れないねえ。例えばコーラとか…)
猫じゃらしラーメンは村人たちの心だけでなく、千空の敵対勢力『ツカサ帝国』の
そして、ゲンは科学の持つ一側面、グルメの発展を千空に期待するのだった。
おしまい☆
【制作こぼれ話】
うちは夕食時に家族そろってアニメを見る習慣があるのですが、2026年1月現在見ているのが【Dr.STONE(1~2期)】です。
先日猫じゃらしラーメン回で家族の一人が「麺はともかくスープはどうしたんだろう。ただの塩スープじゃ納得できない」と言ったのが、本作を作るきっかけとなりました。
なお、うちの近所に常に行列ができる鳥白湯の美味しいラーメン屋があり、私もそこのラーメンが物凄く好きなため鳥白湯を作るエピソードを思いつきました。
ちなみに個人的にコーラがメチャメチャ好きなため、コーラのために身体を張って働く浅霧ゲンがお気に入りキャラです。
もし私もいきなりストーンワールドに放り込まれて、原始的な生活を送る事になったとしたら、そんな生活の中でもしコーラが飲めるとなったら、きっとそれだけで泣いちゃうくらい嬉しいだろうなと思いました。
ちなみに先日ダイソーでDr.STONEのアクリルキーホルダーとアクリルブロックを1つずつ買ったら、どちらもスイカでした。そんな訳で現在キーホルダーにはスイカが付いております。