漫画アニメ短編集&救済の物語   作:クリリ☆

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今回のお話は史実や科学的根拠を元にしたフィクションです。
できるだけ史実や科学的根拠、客観的事実で構成していますが、ある程度の自己解釈も含まれますのでご容赦ください。
ここの内容をもっと知りたい、などのご意見がありましたらお知らせください。

これは特定の宗教への勧誘ではなく、あくまで『歴史上のデータとしての聖書』を科学的に分析する試みです。
ですが、ある程度の宗教色もありますので、苦手な方はここでバックしてください。

このエピソードは『創造論&進化論(1、2話)』、『高次元(4話)』の内容を含みます。もしこの話から読み進める場合、( )に書かれたストーリーも併せて読まれると、より理解度が高まると思います。


【原作あらすじ紹介】
西暦2019年、世界を襲った謎の緑色の光線により全人類は石化してしまう。
それから3400年、文明は全て崩壊。ストーンワールド(石の世界)と化した世界で復活を遂げた千空は、科学文明の再興と、全人類の救済、そして怪光線の正体を暴くために動き出す。

【登場キャラ紹介】
石神 千空(いしがみ せんくう)
16歳の高校生。自作ロケットで宇宙に行くのを夢見て、日々様々な実験を行っている。
あらゆる分野の科学知識に精通しており、ストーンワールドで起こる様々な困難を科学知識を活用して乗り越えていく。服の胸元に【E=mc²】と書くほど、科学を絶対的な信条にしている。

大木 大樹(おおき たいじゅ)
千空の幼馴染みで大親友。千空の実験を日常的に手伝っている。
ストーンワールドでは無尽蔵の体力と、超人的な馬鹿力で、千空をリーダーとする科学王国で肉体労働を全般的に担う。難しい事を考えるのは苦手で、暴力反対の平和主義。

浅霧 幻(あさぎりゲン)
メンタリスト&マジシャン。
元は千空と敵対する『ツカサ帝国』に所属していたが、科学王国に将来性を感じ、千空につく。人心掌握の天才で、内政から敵対勢力との駆け引きまで、作中のありとあらゆる場面で超級の活躍をする。コーラが大好き。



Dr.STONE【科学で聖書を解き明かせ!⑤】最凶のメンタリスト・悪魔

 

Chapter18 『悪魔という存在』

 

 

窓の外、地平線に沈みゆく太陽が、燃えるような朱色を室内に投げかけている。千空はパイプ椅子を逆向きに座り直し、カチカチとマウスを鳴らしてモニターのバックライトを点灯させた。その青白い光が、逆光の中で千空の顔を不気味に、そして鋭く浮き彫りにする。

 

「いいかデカブツ。ここからの話は少々特殊だ。純粋な科学というよりは心理学的、あるいは神学的な領域に踏み込む。それと、あえて『聖書の概念』というルールに則って話を進めるぜ。……つまり、このルールを信じねえ奴には、ただの退屈なおとぎ話に過ぎねえってことだ」

 

「分かったぞ! 聖書というルールに基づいた仮説というわけだな! ならば聞かせてくれ、聖書における『悪魔』とは一体、どういう存在なんだッ!?」

 

大樹が身を乗り出すと、千空はホワイトボードの端に、『悪魔=天使長ルシファー』と書き込んだ。

 

「悪魔は元々、創造主の直属……天使長の『ルシファー』だと言われている。こいつが傲慢っつうバグを起こして闇堕ちし、天の軍勢の3分の1を引き連れて謀反を起こした」

 

「おお、まさに神話そのものだな。それで、その謀反の結果はどうなったんだ!?」

 

「結果はルシファーの惨敗だ。ルシファーは天の住処を追われ、地上へと叩き落とされたと言われている」

 

「地上? この3次元の事か?」

 

「そいつは分からねえ。この世界が11次元だとすれば、地上が11次元を指す可能性もあるし、それ以下の可能性もある」

 

千空はニヤリと笑い、ホワイトボードの『ルシファー』の文字をペンで囲った。

 

「あるいは、逆に3次元未満の『低次元』、……1次元や0次元だ」

 

「3次元未満……!? そんな場所が存在するのか!?」

 

「ククク、理論上はな。例えば、奴らが0次元(点)や1次元(線)の存在だとしたら、3次元に住む俺たちの目には絶対に見えねえし、物理的に接触することもできねえ。物理法則への直接介入ができねえ説明もつく。……だが、空間の移動制約や干渉の仕方を考えりゃ、4次元以上の『高次元』である可能性の方が高いだろうな」

 

千空はホワイトボードに、『神&天使12~∞、悪魔&堕天使4~11、人間3』と書き足した。

 

「いずれにしても、だ。悪魔は創造主や天使よりも低い次元に落とされた。再び反旗を翻したくても、もはや管理者の領域には手が届かねえ。だから奴らは、やむを得ず……システムの末端にいる『人間』にちょっかいを出して、間接的にエラーを起こさせることしかできねえ存在になってるのさ」

 

「……っ! つまり悪魔は、世界そのものを壊す力はないが、人間を騙して『自滅』させることならできる……。そういうことか、千空!」

 

「正解だ。物理的なハードウェアを壊せねえなら、ソフトウェア……つまり『脳』をハックするしかねえ」

 

「脳をハック、やはり悪魔は悪いヤツなのだな!!」

 

大樹の純粋な問いに、千空は小指で耳をほじりながら、空を見上げた。

 

「ああ悪い。擁護の余地は1ミリもねえ、純粋な悪だ。ただ、聖書には悪魔は様々な姿で登場してくる。時には『光の天使』のような、正義の味方の振りだってする」

 

「正義の味方だと? 悪魔は人間の味方もするのか?」

 

「いいか雑頭(ざつあたま)、偽札を作るとしたら、相手にバレねえように本物そっくりに作るだろ。正義感の強い人間を騙すなら、正義の味方を装った方が騙しやすいってだけの話だ」

 

「なるほど。確かにそうだな。一見して偽札と分かったら、誰も受け取らないからな!」

 

「頭に角の生えたような分かりやすい悪魔なんてただの空想の産物だ。……それはそうと、悪魔を説明するのに面白い、うってつけのモデルがいるぜ」

 

千空がキーボードを叩き、動画サイトの検索欄に一つの名前を打ち込む。

 

 

 ――『メンタリスト・あさぎりゲン』。

 

「おおッ! この顔は見たことがあるぞ! よくテレビに出ている有名人だな!」

 

「こいつはメンタリスト、あさぎりゲン。相手の心の機微をミリ単位で見抜くスペシャリストだ。心理学と言語学、さらにはマジックの技術まで組み合わせて、人間の思考を意のままにハックする人心掌握の天才だ」

 

クリック一つで再生された動画。そこには、左右で色が分かれた奇妙な髪型の男が、飄々とした笑みを浮かべて映っていた。

 

『どうもー。僕の名前はあさぎりゲンだよ、よろしくね。さてさて、みんな「自分は自分の意志で行動している」なーんて思ってないかな?』

 

画面の中のゲンは、手元でトランプを流れるように操りながら、カメラの向こう側を透かして見るような目で語りかける。

 

『でもね、人の心って実はとっても単純。ジーマーで簡単に操れちゃうんだ。例えばさぁ、君が「信じたいもの」を見せ、「疑いたいもの」を否定する。たったそれだけで君は僕の書き換えたシナリオ通りに動き出す。……ま、マジックなら「不思議ー!」で済むけど、これが現実の人生だったら……ちょっと怖いよねぇ?』

 

ゲンがトランプの一番上をめくると、『ジョーカー』のカードだった。それをビリビリと破り捨てる。

 

『それにさ、常識って何だろう? 君にとっての常識と他人にとっての常識って本当に同じ? 早寝早起きって何時に寝て何時に起きる事を指すの? きっとみんな答えはバラバラ。君の常識って本当に正しいの?』

 

ゲンがもう一枚トランプをめくると、再び『ジョーカー』が現れた。

 

『あれれ、さっき破り捨てたハズなのにねぇ。君が見ているものって、本当に真実なのかなあ? 誰かがついた嘘を、君が真実だと思い込んでいるだけかも知れないよ?』

 

そこで動画を止める。暗転したモニターには千空の鋭い眼光が反射していた。

 

「この、人を騙して操る、ゲンという男が悪魔の化身という事なのか?」

 

「勘違いするなよデカブツ。こいつのはあくまで『エンタメ』だ。人を楽しませるためにやっている。……だが、悪魔(サタン)の野郎は違う。奴らに善意など1ミリも存在しちゃいねえ、100億%純粋な『悪意』をもって、お前の意思をハックしに来る」

 

「それは悪い事だ!」

 

「……だがしかし、騙された本人に騙された自覚はねえ。それどころか、時には善意や正義感までも操ってくんだよ。まさに……史上最凶のメンタリストだということだ」

 

大樹の額から一筋の汗が流れる。千空はホワイトボードに『神⇔悪魔』と記入していく。

 

「聖書によると悪魔は元々創造主の手下、一天使に過ぎない。高次元の存在ではあるが、大した能力は持っちゃいない。それに物理法則に直接ハックする事もできねえ。しかし『奇術(マジック)』と同じ、既存の物理現象を応用して奇跡に見せかけるような事をする。それと、最凶最悪のメンタリズム、これが悪魔の常套手段だ」

 

 

 

Chapter19 『悪魔のメンタリズム』

 

「……ところで、デカブツ。その最凶のメンタリズムが、人類史上初めて炸裂した瞬間の記録が残ってやがる。舞台は、人類最初の居住区……『エデンの園』だ」

 

千空はマーカーを走らせ、ホワイトボードにリンゴのような果実の図を描いた。

 

「エデンの園……! アダムとイブの話だな! 蛇がイブをそそのかして、禁断の果実を食べさせたというアレかッ!?」

 

「正解だ。だが、そのプロセスが最高に『悪魔(メンタリスト)』してやがる。いいか、神が人間に出した命令はシンプルだ。『園のどの木からでも自由に食べていい。だが、善悪の知識の木からは食べるな。食べたら必ず死ぬ』。……100億パーセント明確なルールだろ?」

 

千空はニヤリと笑い、蛇を描き足した。

 

「そこへ蛇(悪魔)がやってくる。奴はいきなり『食え』とは言わねえし、嫌がる相手に強引に食わせもしねえ。あくまでも自分の意思で食わせるように仕向けるんだ。まずは質問の形をとって、イブの脳に小さな『バグ』を流し込んだ。……『園のどの木からも食べてはならないと、神が言ったのは本当ですか?』とな」

 

「……っ! 質問の形を借りて、記憶を揺さぶったのか!?」

 

「そうだ。神は『どの木からでもいい(肯定)』と言ったのに、悪魔はわざと『どの木からもダメ(否定)』なのかと聞いた。否定的な前提を脳にブチ込むことで、イブに『神様はケチなんじゃないか?』っていう不信感の種を植え付けたのさ。ゲンのマジックと同じ、ミスディレクションだぜ」

 

「ミスディレクション?」

 

「自分の都合の良い方向に、相手の意識を引き付けるテクニックだ。悪魔の手口は、現代の心理学の観点から見ても、実に巧妙だ」

 

千空はホワイトボードの果実を、ギザギザのノイズで塗りつぶした。

 

「イブが『いえ、食べてはならないのは一本だけです。死ぬといけないから……』と、少し自信なさげに答えた瞬間、悪魔は畳み掛けた。……『決して死にません。それを食べれば、あなた方も神のようになって、善悪を知るようになるからです』。……これこそが究極の逆転パッチだ」

 

「死ぬことを恐れるイブに『死なない』と嘘をついたのか!」

 

「その上で『神のようになれる』とメリットを提示した。その瞬間、イブにとっては『ノーリスク・ハイリターン』だ。そりゃ、手を出さねえ訳がねえ。……結果、人間はエデンを追放され、死という有限のプログラムを背負わされることになった。……悪魔のメンタリズムで、人類のOSは『永遠』から『滅び』へと書き換えられちまったんだよ」

 

大樹はホワイトボードに描かれた蛇の図を凝視し、戦慄した。

 

「……たった一言の嘘が、人類全ての運命を変えてしまったというのか。……恐ろしい、恐ろしすぎるぞ悪魔ッ!!」

 

千空はホワイトボードの「蛇」から「イブ」、そして「アダム」へと矢印を引き、その線をドス黒いマーカーで太く塗りつぶした。

 

「……だがよ大樹、悪魔のメンタリズムの真に恐ろしいところは、蛇に騙されたイブが、今度はアダムをハメやがったことだ」

 

「なんだと!? アダムは悪魔が直接手を下したわけではないのかッ!?」

 

「ああ。悪魔に脳のOSを書き換えられた人間はな、今度は自分自身が『バグの運び屋』になっちまうんだよ。騙された人間は、無自覚に、あるいは正義の皮を被って、今度は自分の周辺にいる者を騙しにかかる。……負の連鎖の始まりだ」

 

「悪魔は人間自身を、騙しの手口に利用すると言うのかッ!?」

 

「イブはアダムに言った。『これを見て、すごく美味しそうだし、賢くなれるんですって。あなたも食べてみて?』とな。……悪魔の悪意を、イブは『善意』としてアダムにプレゼンしやがった。アダムは神の命令を知っていたはずだが、信頼するパートナーからの善意という最強の『ソーシャル・ハック』に抗えなかった」

 

「……っ! もし俺も(ゆずりは)から何かをプレゼントされたら、きっと何の疑いもなく喜んで受け取ってしまうだろうな……」

 

 

 

Chapter20 『最強の嘘』

 

千空はホワイトボードに描いた「蛇」の図を、ペン先でコツコツと叩いた。その硬く乾いた音だけが、夕闇に沈み始めた室内に不気味に響き渡る。

 

「……ところでデカブツ。現在進行形で、この世界に最も深く浸透しちまってる『悪魔の嘘』が何だか分かるか?」

 

「最も浸透している嘘……?」

 

大樹は眉間に皺を寄せ、太い腕を組んで唸る。千空はその様子を薄暗いモニターの光に照らされながら、ニヤリと口角を吊り上げた。

 

「ああ、世界中の人間が、あるいは神を信じる者すら騙されている最強の嘘だ」

 

大樹は必死に思考を巡らせるが、その答えに辿り着く気配はない。千空は溜めを作るように一拍置き、冷徹な一言を放った。

 

「……『人間は偶然の進化で生まれた。だから神なんて必要ねえ』だ」

 

「な……!? いや、千空。それはどちらかと言えば、現代の『常識』じゃないのか……?」

 

驚きのあまり大樹の声が裏返る。千空は面倒そうに小指で耳をほじりながら、一時停止された画面の中でジョーカーを破り捨てるゲンの姿を指差した。

 

「ハッ、常識が真実とは限らねえって、さっきのメンタリストの野郎も言ってたじゃねえか。……いいか、生命の起源が進化かどうかというプロセスと、創造主の存在の有無。本来そいつは別ベクトルの問題だ。だが、悪魔の野郎はそこを巧妙に結びつけやがった。『進化で説明がつくなら、神なんて必要ねえよな?』ってな」

 

「実際、神がいなくても『進化』という手段があれば、この世界は出来上がるんじゃないのか……?」

 

食い下がる大樹に対し、千空は再びマーカーを手に取った。ホワイトボードの余白に、凄まじい速度で数式が書き込まれていく。

 

「ククク、確かに今まで誰もがそう考えた。むしろ、今でもそう思ってるヤツの方が圧倒的に多い。だが、科学が進歩すればするほど、その『偶然』が起きる確率のあまりの低さに、科学者どもは頭を抱えることになっちまった。生命に必要なタンパク質一つが偶然組み上がる確率は、宇宙の寿命を何兆回繰り返しても全然足りねえ」

 

千空のペン先が、ホワイトボード上で鋭い音を立てる。

 

「あまりの確率の低さに、ついには多宇宙論(マルチバース)という理論も生まれた。『宇宙は無数にあって、無数の宇宙の中から、たまたまこの宇宙に偶然人間が生まれた』とほざきやがる。もはや狂気の沙汰だ」

 

「まるで『なろう系のネタ』のようだな。本当に科学者が言ったのか!?」

 

「もちろんガチだ。ただし、現状ではこの説を裏付ける現象は何も観測されちゃいない。いや、多宇宙論を信じる連中にとっちゃ、この世界に人間がいること自体が、理論が正しい証拠という訳だ」

 

「宇宙が無数にあるなど、それはあまりに妄想が過ぎるだろう!」

 

大樹は腕を組んで、腑に落ちないという表情で首を捻る。

 

「他にも偶然による進化論が完遂できる可能性は『サルがランダムにタイプライターを叩いてシェイクスピアを書き上げる確率より低い』なんて比喩するヤツも出てくる有りサマだ。今じゃ、その可能性のあまりの低さに、『進化論を遂行するには神の介入が必要だ』、『世界が偶然でき上がる可能性よりも、高度な知的設計者がいる可能性の方が高い』なんて結論にいたる研究者も多い」

 

「まさか、最先端の研究をする科学者と俺たちの間に、そこまで認識の差があったとは……!」

 

大樹はボードに並ぶ数字の列を凝視し、圧倒される。千空はマーカーを指先で弄びながら、さらに追い打ちをかけた。

 

「ちなみにサルが偶然シェイクスピア全集を完成させる確率を可視化してやる。タイプライターの鍵盤数を50として、シェイクスピア全集の文字数がおよそ500万文字。つまり、50分の1の確率を500万回連続で成功させれば書き上げる事ができる訳だ、単純な計算式だな」

 

千空はボードの隅に、『1/50(0.02)の500万乗』と計算式を書き入れた。

 

「その確率は0.0000……この0を約850万個付けた後にようやく1が現れる計算だ」

 

「は、850万個……ッ!?」

 

大樹はその数字の膨大さに、言葉を失って立ち尽くす。千空はさらに具体例を畳み掛ける。

 

「ちなみに850万個の0を紙媒体に書く場合、B5の60ページの大学ノート、30行に、1行に50個ずつ0を書いて……およそ95冊だ」

 

「……95冊の大学ノートにビッシリ0.000000……と書き込まれているのか。もはや、不可能だろうッ!」

 

大樹の額から一筋の汗が流れる。千空はマーカーをホワイトボードのトレイに放り投げた。カラン、という軽い音が静かな部屋に響く。

 

「だが、偶然宇宙が組み上がる可能性はもっと低い。大学ノート95冊分どころか、宇宙にある全ての紙を用いて『0.0000…』と書き続けても、まだ0の数が足りないと言われてるんだぜ」

 

「そう考えると、むしろ猿がシェイクスピア全集を書き上げる方がまだ現実味があるな……」

 

「ククク、馬鹿言えデカブツ。仮に不眠不休で1秒間に鍵盤を5回叩き続けたって『Romeo and Juliet(スペース含み16文字)』って打つだけで宇宙の年齢(138億年)を7億回繰り返して、ようやく1回現れるかどうかの確率だ。タイトル1つでこれだ、現実の『げ』の字もねえよ!」

 

「世界の仕組みの精巧さに比べたら、宇宙の時間はあまりにも短すぎるということか……」

 

大樹の顔に、呆然とした表情が浮かぶ。千空はその視線を窓の外へと向け、かつて天才が見た真理を口にした。

 

「あのアインシュタインはこう言ってるぜ。……『神はサイコロを振らない』とな。どんな天文学的な確率も、物理法則を自在に操る高次元の存在にとっちゃ、ただの予定調和に過ぎねえからな」

 

「……皮肉な話だな。神を否定するかのように存在してきた進化論が、今では逆に神の存在を証明し始めているとは……!」

 

大樹の震える声に、千空は鋭い眼光を向けた。

 

「だが、神を信じる者は逆に進化論を否定する者が多い。結果、『宗教は非科学的』だと思われちまう訳だ」

 

「科学的には『進化論で人間を作るためには、誰かが物理法則に介入しないと無理だ』って訳だなッ!」

 

「だから、悪魔の野郎も必死なのさ。一方には『神がいるから科学的根拠を無視しろ』、もう一方には『科学的に考えれば神はいない』というニセのパッチを当て続けてやがる。……いいか大樹、悪魔が一番恐れているのは、人間が科学というツールを使って、自分たちが騙されていたことに気付くことだ」

 

千空は窓の鍵を外し、勢いよく開け放った。ひんやりとした夜の空気が室内に流れ込み、ホワイトボードに貼られた資料の端がパタパタと音を立てた。

 

「本来は科学と聖書は極めて親和性が高いのに、宗教家自らが科学のネガティブキャンペーンを行っているという訳だ。全く奴らにアインシュタインの言葉を聞かせてやりたいぜ。ヤツは言った…」

 

すると大樹は思わずずっこける。

 

「おい千空、またアインシュタインか。いくらなんでも引用が多すぎるんじゃないか!」

 

「仕方ねえだろう。それだけヤツは真理に迫っていたっつう事だ!」

 

「で、あの天才は何と言ったのだ?」

 

「アインシュタインは言った。『宗教なき科学は不完全であり、科学なき宗教は盲目である』ってな」

 

 

 

Chapter21 『試金石(リトマス試験紙)』

 

大樹はホワイトボードに書かれた「神」と「悪魔」の文字をじっと見つめる。

 

「なあ千空、何で創造主はその……自分の邪魔ばかりする悪魔を野放しにしておくんだ? その気になれば、簡単に悪魔を滅することだって可能なんだろう!?」

 

大樹が身を乗り出して尋ねる。千空は不敵な笑みを浮かべ、マーカーを指先で回した。

 

「そいつは『悪魔を利用している(ふし)』がある」

 

「悪魔を利用している……!? 神が悪魔をかッ!?」

 

「ああ。創造主の野郎は、あえて『破滅フラグ』を配置しておき、そいつを自力で回避して自分を選んだ奴を喜ぶ傾向がある。……エデンの園の禁断の果実を思い出してみろ。本当に食わせたくねえなら、最初からそんなもん置かなきゃいいだけの話だ。だが、あえて残した。……それは、人間が自由意志で自分に従うかどうかを選別する、いわば『神の試練』みてえなもんだ」

 

「神の、試練……」

 

千空は小指で耳をほじりながら、窓の外の暮れなずむ空を仰いだ。

 

「悪魔の存在はエデンの園の禁断の果実と同じだ。要は、神の国に入るのに相応しい個体を選別するための『試金石(リトマス試験紙)』として、あえて泳がせてる。……『悪魔ごときの誘惑に負けるようなヤツは、俺のシステムにはいらねえ』ってな」

 

「悪魔をも利用して人間を試すとは……。それはそれで、恐ろしい存在だな」

 

「ハッ、そういや聖書には『神を恐れることは知識の始まり』なんて記述もある。……愛だの救いだの言う前に、まずはその圧倒的なパワーを『畏れ敬え』ってわけだ」

 

千空はさらに続け、ホワイトボードに「千年王国」と書き込んだ。

 

「さらに聖書の預言には、面白い記述があるぜ。……世界が一度リセットされた後、1000年間、悪魔を完全に封印し、人間が平和に暮らせる期間が設けられる。通称『千年王国』だ。だが、その後で……あえて悪魔をもう一度『解放』しやがるんだ」

 

「なんだと!? せっかく封印した悪魔を、何故わざわざ解き放つんだッ!?」

 

「そんなの決まってる、最後の最後に『ガチの選別試験』を行うためだ。1000年の平和でボケた連中の中から、それでも悪魔に騙されねえヤツを選抜する。……創造主の野郎は、1ミリの妥協も許さねえ、ガチガチの選民思想の持ち主だ」

 

「……っ! 俺はキリスト教というのは、もっと万人を救おうとする温かい宗教だと思っていたぞ……!」

 

ショックを受ける大樹に、千空はニヤリと笑い、マーカーペンをクルリと回す。

 

「そいつは『現場責任者サマ』のやり方だ。……だがよ、『総合監督(創造主)サマ』はどうやら考え方が違うらしい」

 

「現場責任者……イエス・キリストか!?」

 

「厳格で絶対的、容赦なく人間を振るいにかける創造主サマと、一人でも多くの人間を救おうと泥臭く人間界を駆けずり回った現場責任者サマ……。その現場責任者サマがこの3次元に、たった一つだけ『落とし物』を残していきやがった」

 

「落とし物、だと…?」

 

「この長かった科学談義の締めに話してやる。そいつはまさに21世紀最大の超遺物(オーパーツ)、『聖骸布(せいがいふ)』、まさに信仰と科学のドンパチの最前線だ!」

 

「聖骸布!? なんだそれは!」

 

「こいつは、イエス・キリストが十字架にかけられて死亡した際に、その遺体を包んだとされる布だ。元々はただの信仰の対象、宗教的なシンボルだったその布に、1898年、科学という名のメスが入った。すると、信じられねえ事実がわんさか出てきやがったんだ」

 

「科学のメス……。おおッ、まさしく信仰と科学の真剣勝負だな!」

 

外はもう、夕日が沈もうとしていた。

 

 

続く☆

 

 




【製作こぼれ話】
今回のエピソードは『ID論(インテリジェンスデザイン)』、『微調整(ファインチューニング)』に基づいています。
ファインチューニングは、宇宙にあるあらゆる定数がほんのちょっとでもズレていただけで、宇宙は成り立たないとする考え方で、それは『砂漠の中から特定の1粒』を見つけ出すような精度の調整だそうです。

一方で『宗教的だ』とする反論があり『疑似科学』として扱われている側面もあるようです。


【ボツネタ】
今回の猿がタイプライターでシェイクスピア全集を書き上げるというエピソードで、大樹が「たった16文字でそんなに時間がかかるハズがないだろう!」と千空に食ってかかり、「ならばてめえでも分かるように1文字ずつ検証してやるよデカブツ!」と、1文字ずつ説明するシーンも書こうと思ったのですが、テーマが悪魔なのに脱線が過ぎるのと、くどすぎるのと、大樹が千空の言葉を疑うのは、ちょっと違うなあと思い、そのシーンはボツにしました。

ですが、せっかくなので『Romeo and Juliet(スペース含み16文字)』を50個の鍵盤のタイプライターを、無作為に1秒間に5回叩くという条件で、完成させるのにかかる時間をまとめてみました。簡単そうに見えて、どれくらい絶望的な難しさかをご覧ください。

1文字目:50分の1:10秒
2文字目:10秒✕50:500秒:約8.3分
3文字目:500秒✕50:25000秒:約6.9時間
4文字目:6.9時間✕50:約14.5日
5文字目:14.5日✕50:725日:約2年
6文字目:2年✕50:約100年  大樹「たった6文字で、人の一生が終わっているだと…」
7文字目:100年✕50:約5000年   千空「文明が生まれてから現代に至るまでだ」
8文字目:5000年✕50:約25万年  千空「人類が登場して現代に至るまでだ」
9文字目:25万年✕50:約1250万年 千空「人類が猿から枝分かれした頃まで遡るぜ」
10文字目:1250万年✕50:約6億2500万年 千空「多細胞生物が誕生した辺りだな」
11文字目:6億2500万年✕50:約312億年  大樹「宇宙の誕生から2周分だと!?」
12文字目:312億✕50:約1.56兆年    千空「宇宙年齢の105周分だな」
13文字目:1.56兆✕50:約78兆年
14文字目:78兆✕50:約3900兆年
15文字目:3900兆年✕50:約19.5京年
16文字目:19.5京年✕50:約975京年(138億で割ると、およそ7億回)

パソコンの電卓を使っての手計算になりますので、計算ミスってたらすいません。大きすぎて頭がおかしくなりそうです。
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