漫画アニメ短編集&救済の物語   作:クリリ☆

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今回のお話は史実や科学的根拠を元にしたフィクションです。
できるだけ史実や科学的根拠、客観的事実で構成していますが、ある程度の自己解釈も含まれますのでご容赦ください。
ここの内容をもっと知りたい、などのご意見がありましたらお知らせください。

これは特定の宗教への勧誘ではなく、あくまで『歴史上のデータとしての聖書』を科学的に分析する試みです。
ですが、ある程度の宗教色もありますので、苦手な方はここでバックしてください。

今回のエピソードは『聖骸布(せいがいふ)』となります。よろしければ、インターネットなどで『画像検索』してみてください。聖骸布に浮かび上がる男の画像があると、物語の理解がしやすくなると思います。


【原作あらすじ紹介】
西暦2019年、世界を襲った謎の緑色の光線により全人類は石化してしまう。
それから3400年、文明は全て崩壊。ストーンワールド(石の世界)と化した世界で復活を遂げた千空は、科学文明の再興と、全人類の救済、そして怪光線の正体を暴くために動き出す。

【登場キャラ紹介】
石神 千空(いしがみ せんくう)
16歳の高校生。自作ロケットで宇宙に行くのを夢見て、日々様々な実験を行っている。
あらゆる分野の科学知識に精通しており、ストーンワールドで起こる様々な困難を科学知識を活用して乗り越えていく。服の胸元に【E=mc²】と書くほど、科学を絶対的な信条にしている。

大木 大樹(おおき たいじゅ)
千空の幼馴染みで大親友。千空の実験を日常的に手伝っている。
ストーンワールドでは無尽蔵の体力と、超人的な馬鹿力で、千空をリーダーとする科学王国で肉体労働を全般的に担う。難しい事を考えるのは苦手で、暴力反対の平和主義。



Dr.STONE【科学で聖書を解き明かせ!⑦完結】神のダイイングメッセージと託された科学のバトン

 

 

Chapter 28 『苦痛の記録(ログ)』

 

部屋を包む闇は、いよいよ深さを増していた。窓の外では風が止み、空には星が煌めいていた。モニターの青白い光が、千空の瞳の奥にある冷徹な好奇心を際立たせていた。

 

「……ところでデカブツ。お前は、なぜこの布の染みを見て『血』だと思った?」

 

千空はモニターに、聖骸布に残る生々しい血痕の拡大画像を表示させながら問いかけた。

 

「なぜって、それは……。どす黒く変色はしているが、それでもうっすらと赤いからな。直感的に、これは血だと確信したぞッ!」

 

「ククク……。だがな、そいつは科学的に見れば『おかしい』んだよ」

 

千空は椅子の背もたれに体を預け、天井を仰いだ。

 

「本当に2000年も前の血液だったら、ヘモグロビンが酸化して、炭のように真っ黒に変色しているのが道理だ。パッと見じゃ、それが泥なのか血なのか、判別すらつかねえ」

 

「……っ! ならばこの赤みは……本物の血液ではない証拠ということかッ!?」

 

「捏造を疑った連中は狂喜乱舞したぜ。本物の血がこんなに赤みを保てるはずがねえ、こいつは酸化鉄か何かを含んだ『人工的な塗料』だ、とな」

 

「……像が焼き付いたカラクリは謎のままだが、血液で偽物と判明したのか!?」

 

「ところがどっこいだ。連中は、その赤みの正体を突き止めようと、顕微鏡を覗き込んで愕然とした。そこには塗料の粒じゃなく、『ビリルビン』という成分が異常な濃度で検出されやがったんだ。こいつがアルブミンと結びつき、2000年という時を経てなお、生々しい赤みを保持し続けていたんだ」

 

「ビリルビン……? それがなぜ、この布にあるんだ?」

 

「こいつはな、拷問級の強いストレスや激しい肉体へのダメージを受け、大量に赤血球が破壊された時にしか出てこねえ『悲鳴の成分』だ。……さらに、この血痕を詳細に調べた結果、もっと唆る事実が判明した。ここには『生前の出血』と『死後の出血』が、医学的に完璧な形で混在してやがる」

 

「生前と……死後? 血にそんな違いがあるのかッ!?」

 

「ああ。心臓が動いている時の勢いのある噴出と、死んだ後に重力に従って滲み出した血じゃ、成分も広がり方も100億%違う。……いいか大樹。もしお前が贋作職人だとして、わざわざ顕微鏡レベルでしか分からねえ『生前と死後の血の使い分け』なんて、意味のねえ手間をかけるか?」

 

「……いや、そんなこと全く思い付きもしないと思うぞ」

 

「だろうな。ましてや当時は顕微鏡もねえし、生前と死後で血液の成分が変化するだなんて夢にも思わないだろう」

 

「偶然の可能性はないのか?」

 

「偶然か。中世の連中がこの血痕を偶然付けられるとすれば、方法はたった一つしかねえ。……イエス・キリストが受けたのと全く同じ手順で、一人の人間に凄まじい拷問を加えて殺し、そして死体の体温が残っているうちに、この布で包み込む。それ以外に、このミクロの履歴を偽造する手段は存在しねえんだよ」

 

「いや……! さすがに、偽造のためだけに、そんな残酷なことは人間にはできまい……!!」

 

大樹の声が震える。目の前の画像が、ただの歴史的遺物から、一人の男を死に追いやった「地獄の記録」へと変貌していく。

 

「ああ。こいつは単なる信仰のシンボルじゃねえ。2000年前に実在した、ある一人の男が味わった……あまりに無慈悲な『苦痛の記録』そのものなんだよ」

 

 

 

Chapter 29 『血が語る真実』

 

大樹は圧倒され、モニターの中の静かな顔立ちを見つめた。千空はさらに画面をスクロールさせ、血痕が残る箇所のクローズアップを表示する。

 

「それだけじゃねえ。この男の解剖学的な見地が、全て1ミリの狂いもなく聖書の記述と一致してやがる。頭には茨の冠を被せられた痕、背中には無数のむち打ちによる出血、十字架を背負った時にできたと思われる肩の出血……。さらには、死亡確認時の脇腹の槍の痕。こいつから、『血液』と『血清』が混じって流れ出している事も判明している」

 

「血清……? それは血とは違うのか?」

 

大樹が身を乗り出すと、千空は空いたスペースに人体の断面図の写真を貼り付けた。

 

「血が固まった時に分離する透明な液体成分だ。聖書の記述にゃあ、イエスが十字架上で死亡した際に、兵士が脇腹を槍で突いて死を確認した。その時、傷口から『血と水』が出てきたと記録されている」

 

「水とはなんだ? 人間の体から水が出てくるというのかッ!?」

 

「極度のストレスによる心不全や外傷で、肺の周りに胸水っつう透明な液体が溜まっていたものと思われる。当時の人間に、そんな医学的知識はねえ。観察者は、訳の分からないまま見たものをありのまま『水』と記録したのさ。ちなみに血清の存在が医学的に明らかになったのは1890年だ。中世の人間に血清という概念はない。しかも『UV照射』という科学技術で発覚した痕跡を、当時の贋作職人が意図的に作ったと考えるのはあまりに非現実的だ」

 

千空はさらにペンを滑らせ、鞭のイラストを書き加える。

 

「さらにな、背部には120を超える鞭打ちの痕が残っている。これは当時のユダヤの律法『上限が39回』というのを大幅に超えてやがるんだ」

 

「それでは、聖書の記述との矛盾という事か?!」

 

「だがなデカブツ、歴史学や民俗学の研究で分かった事だが、1世紀のローマ兵は死刑囚や敵兵の捕虜を、拷問の玩具にしていたんだ。『どうせ明日には死んじまうんだ、だったら今日は俺らの好き放題楽しませてもらうぜ』ってな。聖骸布には聖書の著者ですら知り得ねえ、十字架に処せられる前の、イエスの受けた拷問の記録まで残ってやがるんだ」

 

「拷問の記録……」

 

「まさに聖書の記述を超えた、当時のリアルな通例まで記録されてやがる。しかもただの鞭じゃねえ、先端に金属球が付いた『フラグム』という鞭だ。背中の皮膚はほとんど残ってなかったんじゃないかと言われている」

 

「何故そんな惨い事を…、やった者は彼に親でも殺されたのか!」

 

大樹は千空の話に心を痛め、目に涙をうかべる。むしろこれが千空が自分を怖がらせるための、ただの作り話であって欲しいとさえ思った。だが、千空は容赦なく言葉を続ける。

 

「見てみろ、この傷の配列を。二人がかりで、両サイドから容赦なく叩き込んでやがる。……『40マイナス1』なんて生ヌルいお遊戯じゃねえ、死ぬ前提の容赦のない『無制限(アンリミテッド)な暴力』のログだ」

 

さらに、千空は自分の手首の辺りをトントンと叩く。

 

「聖書の記述を超えたログはそれだけじゃねえ。釘の痕は手首に残っている。聖書には『手と足に釘を打たれた』と記述されており、中世の聖画はどれも掌(てのひら)に釘が刺さっているが、物理的にありえねえ。掌じゃ重さで肉が裂けちまう。重力を支えるには、手首の骨の間に打ち付けるのが正しい」

 

千空は神妙な面持ちで、最後に足の部分を指差した。

 

「更には足の骨だ。十字架上で呼吸をするには、胸が目一杯広げられていて、横隔膜を動かすことができねえ。呼吸をするためには、足を踏ん張って身体を無理やり持ち上げる必要があった」

 

「なんと……。一呼吸するたびに、地獄の痛みが走るというのか……!」

 

「ああ。だから刑の執行を早める時は、足の骨を折って踏ん張れなくし、窒息死させる。だが、イエスは衰弱が激しくすぐに死んだため、足を折られなかった。……これも記録通り、聖骸布の男は足の骨が折れてねえ。それどころか死後硬直によるつま先の歪みまで確認されている」

 

千空は窓を開け放った。ひんやりとした夜風が、熱気を帯びた室内に流れ込む。

 

「現代科学でようやく判明している解剖学的な整合性を、知識のねえ中世の人間が再現するのはあまりに非現実的だ。もし仮に120もの鞭打ちの跡を、偽造のために作ったとしたら、それこそ狂気の沙汰だ」

 

 

 

Chapter 30 『誤った前提条件』

 

窓の外では、月が厚い雲に隠れ、室内の唯一の光源であるモニターの青白い光が、千空の鋭い輪郭を浮き彫りにしている。

 

千空は画面上のグラフを指先で追いながら、静かに、しかし確信に満ちた声で続けた。

 

「……ミクロの世界という『科学の聖域』に対し、捏造派は手も足も出ねえ。だからそこの整合性は捨てて別の死角から攻め込むしかない。『目に見える矛盾がたった一つでもあれば、ミクロの世界などどうでもいい』ってスタイルだ。その一つが、画像解析による『血流パターン』の不自然さだ」

 

「血流パターン……流れる血の、向きか?」

 

大樹はモニターに映し出された、聖骸布を残る赤黒い跡を凝視した。

千空はキーボードを叩き、ある実験映像を隣に並べる。それは、滑らかなマネキンの肌に赤い塗料を垂らしている、無機質な検証場面の動画だった。

 

「連中はこの実験結果を盾に、勝ち誇ってこう断定した。『重力に従って真っ直ぐ流れるはずの血液が、聖骸布では複数の方向へ分岐している。これは自然にできたものではなく、贋作職人が描き加えた人工的な造形だ』とな」

 

「それでは……! 科学的な再現実験の結果が、偽物だと言い切っているのかッ!?」

 

大樹の拳に力がこもる。千空の部屋の古びた床が、彼の重圧に軋んだ。だが、千空はその焦燥を鼻で笑い飛ばす。

 

「ククク、奴らの実験には、決定的な『前提の誤り』がある。……いいか大樹。この男は生きていた。死んだように静止したマネキンじゃねえんだよ」

 

千空は背後のホワイトボードに向き直り、十字架に吊るされた肉体の図解を、鋭いストロークで描き足していく。

 

「さっき話した通り、十字架上で窒息を免れるためには、一呼吸毎に足で踏ん張って、身体全体を持ち上げなきゃならねえ。そのたびに、身体は上下に激しく揺れ、十字架の荒い木肌に背中が擦れる。……動作を伴う肉体から流れる血が、ただ一方向へ真っ直ぐ落ちるなんて、物理法則を無視した幻想だぜ」

 

「……そうかッ! 身体が動くたびに、重力のかかる方向が変わるということかッ!」

 

大樹がハッとしたように顔を上げる。千空は頷き、さらにモニターの画像を極限まで拡大した。

 

「それだけじゃねえ。この男の背中は100を超える鞭打ちで、皮膚はもはや原形を留めてねえ。ズタズタのボロキレ状態だ。……想像してみろ。そんなクレーターだらけの荒れ果てた『地形』の上を、血液が滑らかに流れると思うか?」

 

モニターの光が千空の瞳に反射し、冷徹な計算式のように輝く。

 

「皮膚の凹凸にぶつかり、肉の裂け目を蛇行し、傷口に沿って横へ逸れる。……物理学的に見りゃ、この不自然な迷走こそが、引き裂かれた生身の肉体の上を血が伝ったという、何よりリアルな『流体の履歴』なんだよ。滑らかなマネキン肌を使ったチャチな実験じゃ、聖骸布に残る血流を再現できねえのは当然だ」

 

静まり返った室内に、千空の言葉が重く響く。大樹はモニターの中の血痕を見つめ、そこに刻まれたあまりにも緻密な、そして残酷な「物理学の跡」に言葉を失っていた。

 

 

「……前提条件のミスが指摘されている有名な検証例は、まだ他にもある。さっき話した『浅浮彫像(レリーフ)』による転写説だ」

 

「実像と浅浮彫像に布を被せて像を写し取った場合、聖骸布の画像は浅浮彫像の見た目に近い、というあの説だな! それのどこにミスがあるというんだ?」

 

大樹が画面を凝視する。千空はモニターに表示された3Dモデルのステータス欄を、ペン先でコツコツと叩いた。

 

「この検証で使われた実像のサンプル……そのプロフィールを見てみろ。『30代、男性、痩せ型、安静状態』。ククク、笑わせるぜ。こいつはただの『風呂上がりの健康体』だ」

 

千空は別のウィンドウを開き、聖骸布の画像から解析された肉体データを横に並べた。そこには、ワイヤーフレームのモデルとは似ても似つかぬ、異様なまでの「変形」を孕んだ肉体のログが刻まれていた。

 

「だが、聖骸布に刻まれた男の正体は、100億%別物だ。ガッシリした筋肉質の体型。さらには、十字架上で極限の苦痛を味わい、呼吸困難の末に絶命している。その結果、胸部の筋肉は激しく怒張し、肩は重力で外れ、脱臼状態……全身ボコボコの満身創痍だ」

 

「……ッ! つまり、身体のラインそのものが、サンプルとは根本的に違っているということか!」

 

「そういうことだ。重力と苦痛で変形した凄惨な『死体』と、リラックスした『健康体』。体格も前提条件も、サンプルとイエスじゃ月とスッポンほどもかけ離れてやがる。……そんなおキレイなサンプルで、『聖骸布の画像は生身の人間よりもレリーフの方に似ている』なんて言われても、『だから何だ?』としか言いようがねえ」

 

千空はホワイトボードの隅に、殴り書きで「浅浮彫像」と書き殴り、『?』を付ける。

 

「あまりにもお粗末すぎて、ガチの検証ミスなのか、それとも『捏造』という結論を先に決めてから、自分の結論に合致するサンプルを用意したのか、疑いたくなるレベルの茶番だぜ。発想自体は悪くねえ、だが科学を名乗るなら、まずはその『極限状態の肉体』を正確にトレースしてから検証すべきだ」

 

大樹は、モニターに映る無機質な3Dモデルと、その横に並ぶ生々しい血痕の跡を見比べた。科学の名の下に行われたはずの検証が、いかに「前提の誤り」によって実施されていたかを考えると、何だかやるせない思いに駆られた。

 

「誤った前提が誤った結論を導き出す。真実を解き明かすための科学が、かえって人を惑わせる……。科学は扱う人間の解釈一つで人を真実に導く事も、誤った方向に導く事にも繋がってしまうのか。科学者というものは責任重大だなッ!」

 

 

 

Chapter 31 『逆転の工程(プロセス)』

 

部屋の空気は、いよいよ冷徹な青さを帯び始めていた。千空はモニターを消し、ホワイトボードに立てかけた一本のマーカーを指先で弄んだ。

 

「……ところでデカブツ。もしお前が、歴史に名を残すレベルの凄腕の贋作職人だとして、全力で最高品質の捏造品を作るならどういう手順を踏む?」

 

千空の唐突な質問に、大樹は太い眉を寄せて考え込んだ。

 

「俺が、偽物を作るだと……? まあ、よくは分からんが、まずはその象徴的な『男の像』を焼き付けてから、その傷口の位置に合うように、上から血痕を重ねていく……それが普通だろう。順番を間違えれば、血の位置がズレて台無しだッ!」

 

「ククク、100億点の正解だ。効率と完成度を考えりゃ、その手順が最も合理的だ。……だがなデカブツ、この聖骸布はその逆だ。『血痕が先、その後に像』が焼き付いてやがんだ」

 

千空の言葉に、大樹は目を見開いて絶句した。

 

「……な、何だとッ!? 像もない真っさらな布に、あんな正確な位置へ先に血を付けたというのか!? そんなこと、製作の難易度が上がるだけではないのか!!」

 

「ああ。これこそが聖骸布の謎における最大の『急所』だ。偽造説を支持する連中にとっちゃ、喉に刺さった魚の骨みてえな不可解なポイントだぜ。合理的じゃねえどころか、最高品質を目指す職人が意図してやる作業じゃねえ」

 

「しかし、なぜその順番が分かったのだ? 重なり合っているのなら、どちらが上かなど……」

 

「そりゃ、顕微鏡でミクロの層(レイヤー)をぶち抜いて見たからだ。……いいか、聖骸布の血痕を剥がしてその下を覗くと、そこには一切の『焼き付き(変色)』がねえ。 焦げ跡ひとつない、まっさらな素の繊維があるだけなんだよ」

 

「……実は、血痕に隠れて『見えないだけ』ではないのか?」

 

「いいや。もし先に像が焼き付いてりゃ、その上から血を被せても、繊維自体の変色は確認できる。だが、実際には血が『盾』になって、その下の繊維を守ってやがるんだ。つまり、血が先に布に染み込んでいたからこそ、後から来た焼き付きがその部分だけブロックされた……。物理的なログが、そう証明してやがる」

 

千空はホワイトボードに、布の断面図を描き、血が防壁となってエネルギーを遮断するイメージを書き殴った。

 

「仮に、だ。もし中世の贋作職人が何らかの意図をもって先に血痕を付けたとする。そしてその後に完璧な位置にネガ像を焼き付けたとして、だ。その場合、血痕の上には焼き付きの跡が刻まれるだろうぜ。しかし聖骸布は血痕だけをミリ単位で避けて超々精密な焼け付けがされてやがる」

 

「聖骸布。一体……、どれだけ常識外れの事実が発覚すれば気が済むんだ……」

 

「地味な話だが、この工程の順序は100億%疑いようがねえ物理的な事実なんだよ。捏造説を支持する連中にとっちゃ、これほど悩ましい『非合理的な手順』もねえだろう。……レリーフからの転写では、血痕だけを避けての焼き付けはできねえ」

 

そう言うと千空は、ホワイトボードの中央に鎮座し続けたあの数式を力強く見つめる。

 

「さて概ね情報は出揃った。ここからはいよいよ、今最も熱い仮説に入るぜ」

 

 

 

Chapter 32 『高次元への特異点(シンギュラリティ)』

 

千空は、小指で耳をほじりながら不敵な笑みを浮かべた。

 

「聖骸布を巡る戦いは、今や単なる『真贋論争』の次元を超えちまってる。偽物だと信じる連中は、いまだに中世の技術でどうにか捏造する方法を模索してやがるが……本物説を支持する科学屋どもは、とっくに次のフェーズに移行してやがんだよ」

 

「次のフェーズ……? まさか、製作過程以外の何かに踏み込もうというのかッ!?」

 

「ああ。この聖骸布、画像が精密すぎてな。……像や血痕に滲みもかすれも1ミリもねえ。つまり被写体を布から『引き剥がした跡』がねえことが分かってきた」

 

千空はホワイトボードに、布と肉体が重なる簡略図をササッと描き殴った。

 

「引き剥がした跡がない? ……一体、どういう意味だ千空!」

 

「ハッ、そのままの意味だデカブツ。もし液体のついた被写体を布で包んで、後からそれを取り出したなら、布の繊維に血痕の破壊や、構造物の剥離、像の滲(にじ)みが残る。だが、この布にはそいつが一切ねえ」

 

「ま、まさか……中のものが消えてしまったとでもいうのかッ!?」

 

「ククク、そのまさかだ。本物説を支持する科学者の一部はそう見てるぜ。遺体が瞬時に高出力のエネルギー体に変化して布を通り抜けた。その際に布に自身の像を焼き付けたとな。……だがよ、仮にそうだとしたら、物理学上の巨大な壁にぶち当たる」

 

千空は自分の服の襟元を指で弾き、ホワイトボードの中央に大きく書かれた『E=mc²』の数式を指し示す。

 

「アインシュタインの導き出した『質量とエネルギーの等価性の法則』だ。質量とエネルギーは変換可能で、その値は等しいっつう物理の鉄則中の鉄則だ。……だがよ、もし人間一人分……約70キロの質量が、一瞬で全てエネルギーに変換されたらどうなると思う?」

 

千空は不気味に目を細め、指をパチンと鳴らした。

 

「万が一にもそうなったら、核爆弾すら鼻で笑うレベルの、超巨大な大爆発(ビッグバン)だ。エルサレムどころか周辺一帯が消し飛んでなきゃおかしい。だが現実にゃ、そんな爆発は起きなかった」

 

「そ、そうだな! そんな爆発があったら、聖骸布など1欠片も残らないだろうしな」

 

「ああ、爆発は起きなかった。……だがよ、聖書には興味深い記述があるぜ。遺体が消えたその瞬間、『墓穴を塞いでいた巨大な岩が動くほどの激しい震動』があったとな。……ここからが、研究者の唆る仮説だ」

 

千空はホワイトボードに書かれた『11次元』の文字を丸で囲む。

 

「放出された莫大なエネルギーの大部分は、この3次元には留まらなかった。……残りのエネルギーは、全て『高次元』へと逃げ、移動したと仮説を立てた。……さっき話した、『超弦理論』の世界だ」

 

「超弦理論……! つまり、11次元の世界にエネルギーが流れ込んだというのかッ!?」

 

「ククク、100億%の確証はねえが、筋は通る。つまり聖骸布は、3次元と高次元を繋ぐ『特異点(シンギュラリティ)』の物理的な証拠品なんだよ。こいつを解析すりゃ、高次元の構造を解き明かすための最強のヒントになる。そう見てる研究者は少なくねえ」

 

千空は窓の外、広大な宇宙を睨みつけるように見上げた。

 

「科学の世界には『オッカムの剃刀』という言葉がある。『説明は単純なほど真実に近い』という考え方だ。『イエス・キリストが復活した際に高エネルギー体になって布に像を焼きつけながらすり抜けた』という仮説は、それ以上にないほどシンプルで、しかも聖骸布から導き出される観測データと完全に合致するんだ」

 

 

 

Chapter 32 『高次元の存在と40日間の時間差(タイムラグ)』

 

「ところで千空、その、復活したイエスはその後どうなったのだ?」

 

「……復活したイエスか。ああ、あいつはその後、40日間ほど弟子たちと一緒に過ごしたと聖書に記述されている。だがな大樹、その様子が死ぬ前とは……『物理的に』様子が違ってやがるんだ」

 

「どう違うんだ? 同じイエスではないというのかッ!?」

 

「中身(ソフト)は同じだろうが、器(ハード)の次元がズレてんだよ。死ぬ前のイエスは11次元の力を行使して物理現象を自在に操れたが、肉体そのものは3次元に縛られていた。……だが、復活後の描写は、肉体そのものが高次元へと移行(シフト)したような不可解な振る舞いのオンパレードだ」

 

千空はマーカーで、ボードに大きく「瞬間移動」、「認識阻害」と記述する。

 

「まず一つ目。『瞬間移動(テレポーテーション)』だ。鍵をかけた密室にいた弟子たちのど真ん中に突如現れたり、逆に目の前で煙のように消えたりしてやがる。壁をすり抜けたんじゃねえ。次元の狭間を通って、別の座標へショートカットしたと考えれば、3次元の住人(俺たち)にはそう見える」

 

「現れたり、消えたり……。人の目には、その移動の過程を認識することができないということか」

 

「ああ、それだけじゃねえ。エマオという場所にいた弟子たちの前から消えた直後、ほとんど同時刻に11kmも離れたエルサレムに現れて別の弟子と会ったり、さらには150km以上も北にあるガリラヤの地に先回りしていたりな。徒歩や馬じゃ絶対に不可能な『同時存在』に近い移動記録がいくつも残ってやがる」

 

千空はさらにマーカーを走らせ、ボードにピラミッドの立体図を描いた。

 

「そして二つ目。高次元の視点がないと聖書を100回読んだって理解できねえ、そそる記述だ。……長年連れ添った弟子たちが、目の前にいるのがイエスだと認識できなかったという描写がある」

 

「どういう意味だ? 声だって姿だって、見間違えるはずがないだろう! 単に正体を隠していただけではないのか?」

 

「いいや、半日以上普通に会話もしてるんだぜ。にも関わらず弟子たちは目の前の人物がイエスだと認識できなかったんだ」

 

「むむう、何人もいたのなら誰か一人くらいは気付いても良さそうなものだがな……」

 

「だがな、こいつを高次元からの『投影(プロジェクション)』と考えれば、科学的に解釈可能だ。……いいか大樹、ここに『ピラミッド』があるとする。こいつを2次元の視点でそのまま底面から見れば、ただの『正方形』だ。だが、真横から見れば『三角形』になり、頂点から見りゃただの『点』にしか映らねえ」

 

「……ッ! 見る角度や現れ方によって、全く別の形に見えてしまうということかッ!」

 

「ククク、正解だ。高次元の存在を3次元の視点で捉えようとすれば、その本質の『一側面』しか見えねえ。本人が自由自在に姿の表し方(アスペクト)を操作できるなら、慣れ親しんだ弟子たちが『誰だか分からない』と戸惑うのも無理のない話だ」

 

大樹は息を呑み、ホワイトボードに描かれた図解を凝視した。神話や奇跡だと思っていた聖書の記述が、千空の言葉によって、高度な物理現象のレポートへと塗り替えられていく。

 

「聖骸布と聖書が、高次元の視点で読み解くと完全に1本の線に繋がったぞ。まさか、ここまで一貫した科学的記述がされていたとはな……」

 

「聖骸布に残るログが、あの瞬間に肉体が高次元へと移行したという説は、ただの絵空事じゃねえ。聖書の記述という『フィールドワークの記録』と照らし合わせても、驚くほど整合性が取れてやがるんだ。……そして40日後。イエスは弟子たちに知識を授け切ったのち、光に包まれて天へ昇っていったとある。……いよいよパッチ作業を終えて、3次元の空間からログアウトしたってことだな」

 

「今も……その高次元に、いるというのか……?」

 

大樹が窓の外、高く広がる星空を見上げる。そこには、人智を超えた次元の層が、目に見えないだけで確かに存在している。千空はその横顔を眺めながら、不敵な笑みを浮かべた。

 

「聖書には、イエスは『消えた時と同じように再び現れる』と言い残して消えたと書かれている。……もしかしたら今も、高次元の狭間から俺たちの会話を盗み聞きしているかも知れないぜ?」

 

「おおう、そいつは面白いじゃないか。もし本当に居るのなら、聖骸布が本物かどうか直接本人に話を聞いてみたいものだな!」

 

 

 

Chapter 33 『人間の可能性』

 

「……だがしかしデカブツ。この聖骸布の真贋論争は、これからどれだけ科学が進歩したとしても、結局は『捏造派の勝利』か、あるいは『現状のまま何も変わらない』かのどちらかで終わるだろうぜ」

 

千空が窓の外を見つめたまま、突き放すように言った。大樹は目を見開き、裏返った声で問い返す。

 

「ど、どういう事だ千空ッ!? つまり、聖骸布が本物である可能性はないと言うのか!?」

 

「いいや。仮に、全人類がひれ伏すような『決定的な証拠』が目の前に突きつけられたとしても、……それを認めない奴が必ず現れるってことだ」

 

千空は椅子を回し、再び大樹と向き合った。その瞳には、冷徹な科学者の視点と、歴史を俯瞰する冷めた知性が宿っている。

 

「前にも話しただろ。『千年王国』……イエス・キリスト自身が地上に降臨し、直接統治すると言われている時代だ。だが聖書にはこうも記されてる。……その千年の統治が終わり、解放された悪魔が再び人々を誘惑したとき、『砂の粒ほどの数』の人間が、再び神に逆らう軍勢に加わるとな」

 

「……っ! イエス自身が統治し、誰もが幸せに過ごしてきたはずの千年を経験してなお、そんなに大勢の人間が悪魔の誘惑に抗えないというのか!?」

 

「ああ。目の前に本物のイエスがいてすら、人間は疑い、裏切る。……そんな連中がだぜ? たった一枚の古い布キレを見せられて、『これは本物でした、信じてください』と言われて素直に首を縦に振ると思うか?」

 

「むむう……。確かに、本人の言葉すら信じないのなら、遺物一つで心を変えるのは難しい事なのかも知れないな」

 

「最新技術で『この布は2000年前の物だ』という、証拠が出た時も、捏造派は即座に次のゴールポストを用意した。……『中世の天才的な贋作職人が、どこからか手に入れた2000年前の古布を使って、未知の超技術で偽造したんだ』とな」

 

大樹は腕組みをしながら神妙な顔つきで首を振る。だが何かに気付いたように、ハッと目を見開いて言った。

 

「だが千空、人は経験によって変わるものだ! どんな人間でも、真実の重みに触れ、心を動かされる瞬間は必ずあるはずだッ!!」

 

大樹の真っ直ぐな瞳が、千空の冷ややかな瞳を見据える。千空は一瞬、呆れたように目を細めたが、すぐに口角をわずかに上げた。

 

「……ククク、経験、か。そいつは科学で言うところの『データの蓄積』だな」

 

「そうだ! たとえ一歩一歩は小さくても、積み重なった事実はいつか疑念の壁をぶち破るハズだ。誰の心にも、真実を求める『科学の心』が眠っているのだから!」

 

大樹の言葉に、千空はホワイトボードに書かれた複雑な検証データを一瞥した。

 

「ハッ、お前の言う通りかもなデカブツ。実際に聖骸布に懐疑的だった科学者が、研究を重ねる過程で信仰に至ったケースは少なくねえ。それに科学の歴史そのものが、古い常識をぶち壊し、人類が『間違いを認めてきた』足跡そのものだからな。天動説から地動説へ、定常宇宙論から膨張宇宙論へ……。人間が『変われない』生き物だったら、俺たちは今でも石器を握って寒さに震えてただろうぜ」

 

 

 

Chapter 34 『そこにある理由』

 

「ところで千空、お前自身は……科学者であるお前は、どっちだと思うんだ?」

 

大樹の真っ直ぐな視線を受け、千空はふっと視線を落とした。指先で前髪をいじり、思考の海を漂うように言葉を選ぶ。

 

「……俺は、『現時点での結論』に1ミリも興味はねえ。科学の世界じゃ『昨日の真実が今日のゴミ箱行き』なんて事もザラだ。ククク、……そそるじゃねえか、2000年前の現場責任者サマが残したこの挑戦状(パズル)はよ!」

 

「なるほどな。映画の途中で感想を述べ合っても意味がないからな。完結まで見終えてから感想を述べ合うべきだ」

 

「こいつに関する科学の追求はまだ終わっちゃいねえ。ただ、仮にこれが本物だとした場合、どうしても拭えねえ疑問があるんだよ」

 

「疑問……?」

 

「神の側の視点だ。いいかデカブツ、神からしてみれば、自分の姿形なんて残さない方が合理的だ。人間が勝手なイメージで畏怖したり、敬うからな。それに、あいつらは『偶像』ってのを極端に嫌う。聖骸布なんて物があれば、信仰の対象が神本人じゃなく、目の前の『布キレ』に向いちまう」

 

千空はモニターに映る静かな男の顔を親指で指し示した。

 

「しかも、聖骸布が本物か偽物かの論争が起きるたびに、自分の神性を疑われ、貶められるリスクまである。そう考えると、聖骸布が存在しているのは明らかに人間側の都合だ。神本人からすれば、迷惑以外の何物でもねえ。後世の人間が観光資源用に偽造した……っつう説の方が、よっぽど筋が通ってやがる。だが、それでも…」

 

「……それでも、聖骸布から見つかる科学的根拠は、いまだに捏造を決定づけられずにいる、というわけだな」

 

大樹は深く頷き、神妙な顔つきでしばらく沈黙した。部屋を満たす電子機器の駆動音だけが、重苦しく響く。やがて、大樹は何かを確信したように口を開いた。

 

「千空、聖書に書かれている創造主は、ノアの洪水で人類を滅ぼしたり、モーセが海を割って敵の大軍勢を沈めたりした。自分に歯向かう者には一切の容赦がない、厳格な存在に思える。もしあの情婦が、イエスではなく創造主の前に連れてこられていたら……きっと『姦淫は死罪』と、容赦なく裁かれていたはずだ」

 

千空は黙って大樹の言葉を待った。

 

「だが、このイエスという男は、創造主の代理人の割には甘いというか……あまりに人間への肩入れが過ぎるように思えるぞッ!」

 

千空は一瞬、意外そうに目を見開いた後、不敵な笑みを漏らした。

 

「ククク、案外そうかもな。総合監督サマは『ザ・ゴッド』って感じだが、現場責任者サマは、人間以上に人間らしさを感じるぜ」

 

「だとすればだ、千空! 聖骸布の存在が、たとえ自分を貶める論争の火種になるのだとしても……。それでも、これを通じて神を信じ、救われる者が一人でも多く増えることを、彼は望んだんじゃないのか!?」

 

大樹の咆哮が、夜の静寂を震わせた。千空は天井を仰ぎ、声を殺して笑った。

 

「なるほど。論理(ロジック)じゃねえ、愛ってヤツか。だが、確かにそいつは筋が通っているかもな。自分自身の神性やプライドよりも、愚直に人間を愛することを優先したってわけだ……」

 

千空はモニターの電源を切った。暗くなった画面には、月明かりを浴びて笑う二人の姿が、かすかに映り込んでいた。

 

 

 

最終Chapter 『Dr.STONE』

 

モニターの主電源が落とされ、ファンの回転音が静かに止まった。部屋は一気に闇に沈み、開け放たれた窓から差し込む青白い月光が、ホワイトボードに描かれた「神の指紋」をぼんやりと浮かび上がらせている。

 

その静寂を切り裂くように、大樹がぽつりと呟いた。

 

「……そう言えば以前、友人がこんな愚痴をこぼしていた。『もし神がいるなら、どうして世の中にはこんな不幸な事が多いんだ。神は何でもできるのに、なぜ救ってやらないんだ』とな。俺には、どう答えればいいか分からなかったんだ。……千空、お前ならどう思う?」

 

千空は窓枠に背を預けたまま、夜空の彼方に視線を投げた。数秒の沈黙の後、短く吐き出すように答える。

 

「いいや。そういうのは宗教家にでも聞いてくれよ。俺には分からねえ」

 

「そうか。……お前にも分からないか」

 

「ああ、すまないな」

 

再び訪れる静寂。大樹は少し肩を落としたが、千空の横顔は冷徹なほどに静かだった。やがて、千空が静かに口を開く。その声は、夜風に乗って大樹の胸に深く染み込んでいった。

 

「……そいつへの回答にはならねえかも知れねえが。もし、目の前に救ってやりてえヤツがいるなら、俺は神には頼らねえ」

 

千空は窓枠から立ち直り、大樹の前に立った。月明かりを背にした彼の瞳に、不敵で、かつ揺るぎない熱が灯る。

 

「……俺が救ってやる」

 

「千空……」

 

「神の野郎はよ、百数十億年かけてこのバカでかい世界を作って、今ようやく一息ついてるんだ。今の俺たちには『科学』っつう力がある。……俺がやってやるから、てめえは指をくわえて黙って見てやがれ。人間サマをなめるんじゃねえ!」

 

吐き捨てられた乱暴な言葉。だが、その声の響きには、働き詰めでようやく眠りについた父親を労わるような、不器用で深い慈愛が溢れていた。

 

大樹はその言葉を噛み締めるように聞き、やがて腹の底から笑い声を上げた。

 

「ハッハッハ! さすがは千空、頼もしいヤツだな!!」

 

「他人任せ、いや、神頼りなんか俺の性に合わねえ。もし全世界が滅んだとしたら、俺が全世界を救う!」

 

「おお! その時には俺も全力で手伝わせてくれッ!!」

 

千空は口角を吊り上げ、大樹に向かって右手を突き出した。

 

「ああ、期待してるぜデカブツ!」

 

 

 

 

 ――その数カ月後。

 

 

突如として地球を包み込んだ謎の緑色の光線によって、全人類は一瞬にして石へと変えられた。

 

それから、3700年。

 

文明が塵へと還り、森が都市を飲み、全てが石の世界(ストーンワールド)となった遥かな未来。

 

奇跡の復活を遂げた少年は、たった一人で文明の火を灯すために立ち上がった。そして、親友の石像の前に立ち、あの日と同じ不敵な笑みを浮かべて語りかける。

 

「早く復活しやがれデカブツ。俺一人の力じゃ全然足りねえ、俺にはてめえが必要なんだ……。なあデカブツ、二人でこのストーンワールドのアダムとイブになってやろうぜ…」

 

千空は未だ石像のままの大樹の肩を力強くポンと叩く。その瞳は、大樹の石からの復活を確信していた。

 

「…そして、全人類70億人の救済だ! ……そそるぜ、これは!!」

 

科学という名のバトンは、神の手を離れ、今、少年の手によって再び人類の未来へと繋がれたのだった。

 

 

おしまい☆ (『Dr.STONE』1巻へ続く)

 

 




【製作こぼれ話】
短編集の最長ストーリー、最後までお読みいただきありがとうございました。
今回は事実を元にしたフィクションという事で、色々と調べものをした時間も含めると、本作は別作品と比較すると数十倍も製作時間がかかりましたが、それはとても楽しい時間でした。

それはそうと、本日2026年5月24日は、キリスト教では『ペンテコステ(昇天祭)』と呼ばれております。十字架から復活したイエスキリストが40日間地上で生活した後、天に昇っていったのを祝う、キリスト教の三大祭事の一つです。
最終話をこの日になるよう、公開タイミングを調整させていただきました。

このペンテコステこそ、人類の『独立記念日』と言ってもいいかも知れませんね。

ちなみに残りの二つは『クリスマス(降誕祭)』、『イースター(復活祭)』です。イースターは比較的最近、急速に知名度を上げてきましたが、ペンテコステはまだまだ知名度が低いかも知れませんね。
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