漫画アニメ短編集&救済の物語   作:クリリ☆

48 / 50

【前書き】

本作は初の、読者様からのリクエスト作品です。リクエスト本当に感謝です。

さて、最初は別の作品のリクエストをいただいたのですが、私がその作品を知らなかったのと、DMMで視聴する事ができなかったため、一度お断りしてしまいました。しかし、それでも腐らずに改めて挙げてくださったリクエストが本作となります。
なお、ベースは『ドラゴンボール』となります。

『天寿を全うした男が、東の都の資産家として原作より前の時代に生まれ、資産家として孫御飯を始めとする様々な不遇キャラを救って回る』という話で、更に細かいプロットもあったのですが、それを全て取り入れると独立した『超長編小説』になってしまうため、短編として、今回は『孫御飯を救う』という一点にオールインさせてもらう流れで了承をいただきました。

いただいたプロット通りにはいけなかった点は本当に申し訳ないのですが、私の力量不足という事でご容赦ください。とにかく、全力は尽くさせていただきました。
それでは本編へどうぞ。




ドラゴンボール【リクエスト作品:転生高齢者は孫悟飯を救いたい①】

 

  【プロローグ:最高の終焉と最低の再出発】

 

 私は、とある大正生まれの高齢者だ。

 戦中、戦後の激動の時代を駆け抜け、ガムシャラに仕事をして、いつの間にやら(よわい)を重ねた。

 

 定年後の日々に彩りを添えたのは、孫という小さな生命との触れ合いだ。オムツを替え、拙い言葉を交わし、遊び相手まで何でもこなし、その成長を眩しいものとして見つめる。そして何より、共に夢中になったのは『ドラゴンボール』を見る事だった。

 

「悟空のように、どんな苦難にも勇敢に立ち向かう、元気で逞しい少年に育ってほしい」

 

 そんな願いを抱きながら、毎週テレビの前に並んで孫の横顔を眺めていたものだ。

 

 やがて巡りきた『九十歳』の春。痛みも苦しみもない、枯れ葉が地面に落ちるような穏やかな『老衰』であった。

 意識が遠のく中、散々見送ってきた私が、いよいよ見送られる側となった。葬儀会場からのいよいよ出棺の時、あの小さかった孫が、まるで悟空のように大きく健やかに育ち、私の遺影の前でボロボロと大粒の涙を流して泣いていた。

 

 孫の涙、それは旅立つ私にとって最高のはなむけだった。

 

 ああ、平凡だったが、これ以上ないほど幸せな、本当に良い人生だった。そう満足して、いよいよあの世へ旅立とうとした、その時だった。

 

 

 

「……オギャア、オギャアアアッ!」

 

 どこからか、ひどく耳障りな赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。一体どこの家の子だろう。そう思った瞬間、凄まじい衝撃が私を襲った。

 

 ……違う。泣いているのは、私自身……?

 

 慌てて視界を動かそうとするが、首がまったく回らない。目の前はひどくぼやけ、自分の意思とは関係なく涙が溢れてくる。視界に飛び込んできた我が手足は、驚くほど小さく、赤ん坊特有の弾力を持っていた。

 

 まさか、来世に『輪廻転生』したというのか……!?

 

 おいおい、死んだばかりだというのに、なんとも(せわ)しない。どうやら私は、前世の記憶をそっくり持ったまま、別の人間として生まれ変わったらしい。

 

 今世は一体どんな時代で、どこの国なのだろう。私の前世は生粋の日本人であり、日本語しか話せない。できれば日本だと助かるのだが……。

 だがまあ、白衣を着て慌ただしく動く周囲の大人たちの口からは、はっきりと聞き慣れた言葉が漏れていた。

 どうやら言葉の壁に苦しむ心配はなさそうだ。ならば、この『第二の人生』、一体どんな運命が私を待ち受けているというのだろうか。

 

「元気な男の子ですよ!」

 

 そんな朗らかな声と共に、大きくて温かい手が一人の男へと私を渡した。男は相好を崩し、壊れ物を扱うような手つきで嬉しそうに私を抱き上げる。仕立てのいい上等な服の擦れる音が耳元で響いた。どうやら彼が、今世における私の『父親』らしい。

 無事に生まれて良かったと、私が安堵の息を漏らそうとしたその瞬間、父親はとんでもないことを言い出した。

 

「よしよし、お前の名前は『炒飯(チャーハン)』だ。元気に育てよ」

 

 ……はっ?

 

 今、何と言った? 聞き間違いか? 私の耳の機能がまだ未発達なだけか?

 

 チャーハン、炒める飯と書いて、炒飯!? おい冗談だろ、頼むから冗談だと言ってくれ! 我が子の人生の最初を飾る命名に、大衆中華の定番メニューを選ぶ親がどこにいる!

 私は全身に力を込め、そんなふざけた名前は御免だと必死に抗議の声を上げようとした。手足をバタつかせ、全身で拒絶を示そうとした。しかし、生まれたばかりの赤ん坊の抵抗など、そのすべては『泣き声を上げる』という一事のみに集約されてしまう。

 

「オギャアアア! アギャアアアッ!!(ふざけるな、改名しろ!)」

 

「まぁまぁ、炒飯、素敵な名前ね」

 

 ベッドの上から、疲れを見せつつも慈愛に満ちた笑みを浮かべてそう言った女性――恐らく私の『母親』だろう。彼女までもが、その正気を疑うような名前を快く受け入れている。

 

(バカか、バカなのか、こいつらは揃いも揃って『馬鹿夫婦』なのかー!)

 

 私が必死に涙を流して泣けば泣くほど、その夫婦は「元気が良くていい子だ」と言わんばかりに、ますます幸せそうに顔を見合わせて笑うのだった。我が第二の人生は、およそお目にかかれないレベルの『キラキラネーム』と共に、最悪のスタートを切ることとなった。

 

 

 

  【ここはドラゴンボールの世界】

 

 そうして『炒飯(チャーハン)』という、前世の感覚からすればあまりにも業の深いキラキラネームを授けられて始まった第二の人生も、気づけば十五年という歳月が経過していた。

 

 最初はとんでもない名前をつけられたと絶望したものだが、成長するにつれて、実際はそんなことはないのだと理解し始めた。どうやらこの世界、誰もが当たり前のように日本語を喋っているが、私の知る『日本』ではなかった。それどころか、地球であって地球ではなかった。

 

 結論から言おう。信じがたいことだが、ここは私が生前、孫と共にテレビにかじりついて見ていた『ドラゴンボール』の世界なのだ。

 

 天津飯に餃子(チャオズ)、ヤムチャ、ウーロン、プーアル……。思い返せば、中華由来の飲食物が人名にそのまま使われることなど、この世界においてはごく一般的な、むしろありふれた事象だったのだ。私の『炒飯』という名も、この空気になじませてみれば、至極真っ当な響きを持っていた。

 

 

 私が最初にこの世界の違和感に気づいたのは、赤ん坊の頃の『紙おむつ』がないことだった。どこを探しても使い捨ての手軽なものはなく、あるのは洗濯して使い回す、いわゆる『布おむつ』だけ。この時点で、私が孫の世話をした現代の日本ではないと直感した。

 

 次に確信を得る決定打となったのは、売買に使われる『通貨』だった。大人たちが買い物の際、お金の単位を『ゼニー』と呼んでいたのだ。どこかで聞き覚えがあるなと記憶の糸を手繰り寄せた瞬間、脳裏にドラゴンボールの映像が鮮烈に蘇ったのだ。

 

 

 

  【孫悟飯を救いたい】

 

 この世界がドラゴンボールの世界だと完全に理解した時、私の胸の奥底から、どうしても抑えきれない、魂の叫びとも言える強い感情が湧き上がってきた。

 この第二の人生において、私が何としても成し遂げたい『悲願』。それは――悟空の育ての親である、あの『孫悟飯』を救うことだ。

 

 思えば、前世で私が孫と一緒にドラゴンボールのアニメを見始めたとき、私はすでに七十歳をとうに越えていた。

 人生の晩年を迎えていたからだろうか、私は作中に登場する老齢のキャラクターたちに、ひどく強い『親近感』を抱いていたのだ。中でも武天老師こと『亀仙人』の全盛期さながらの八面六臂の活躍には、毎週のように胸を躍らせていた。同じ高齢者仲間として、「自分もまだまだやれるんだ」と、衰えゆく肉体に計り知れない力を分けてもらったのを今でも鮮明に覚えている。

 

 亀仙人の作中での活躍は枚挙に暇がない。その中でも一番の見せ場は、やはり『天下一武道会』で悟空を直接対決の末に下した一戦であろう。

 弟子たちが優勝して若さゆえに天狗になり、武の道を疎かにしないように。そんな不器用で深い親心から、師匠自らが『ジャッキー・チュン』として大会に参加し、決勝戦の舞台で悟空と激突したのだ。しかも、戦いの途中で満月を見て大猿に変身・暴走してしまった悟空を元に戻すため、最大出力の『超かめはめ波』で月そのものを破壊するという荒技を披露。極限まで体力を消耗するという凄まじいハンデを背負いながらも、最後は執念で勝利を掴み取った。

 

 あの泥臭くも圧倒的に格好いい背中には、同じ老人として本当に勇気をもらったものだ。もしかしたら、私が前世で死ぬ直前まで病気もせずピンピンしていられたのも、あの亀仙人から貰った『生命力』のおかげだったのかもしれない。

 

 だが、亀仙人の華々しい活躍の影で、もう一人の偉大な老人――悟空の育ての親である『孫悟飯』は、物語が始まった時点で、すでにこの世を去っている。しかもその死に様は、あまりにも不遇で、残酷としか言いようがないものだった。

 何と、たまたま満月の夜に小便のために目を覚まし、外へ出てしまった幼い悟空が『大猿』に変身。我を失って暴れ回った結果、何も知らぬまま、大好きな育ての親をその巨大な足で踏み潰し、死に追いやるという最悪の結末を辿ってしまったのだ。

 

 原作での彼の唯一の見せ場といえば、占いババの力によって一日だけ現世に呼び戻され、仮面を被って悟空と戦ったエピソードくらいだ。そこで格上の武道家としての面目を保ち、涙の再会を果たすものの、やはり生きては戻れないその場面には落涙を禁じ得なかった。

 

 あの孫悟飯は、そんな風にあっけなく死んでいいキャラクターではないのだ。何よりも『最愛の孫に殺された』というその事実が、毎週孫を膝の上に乗せてアニメを見ていた私の胸を引き裂いた。

 自分の命を奪った大猿の正体が、自分が愛した孫そのものだと知ったとき、悟飯さんは一体どんな気持ちで息を引き取ったのだろう。そして、きっと彼も、あのかわいい孫のこれからの『成長』を、その目で見届けたかったはずなのだ。

 

 助けたい。あの温かい老人を、絶対に助けたい。

 その強い衝動と決意こそが、ただの元老人に過ぎなかった私を突き動かす最大の原動力となっていた。

 

 

 

  【冒険の始まり】

 

 ドラゴンボールの世界であると、その事実を受け入れた私が、次に何よりも気になったのは、現在の『時系列』であった。

 今頃、あの孫悟空たちはどこで何をやっているのだろう。パオズ山で孫悟飯と暮らしているのか、それともすでにブルマと旅立ったのか。それだけが気になって仕方がなかった。

 

 だがこれも、日々の生活の中から大まかに推理することができた。この世界には、あのカプセルコーポレーションの代名詞とも言える『ホイポイカプセル』が、まだ存在していないのだ。自動車でも飛行機でも、あるいは小型の家程度なら、ポケットに収まる小さなカプセルに収納して持ち運べる。そんな夢の超便利アイテムが、街のどこを見渡しても影も形もない。

 

 私の生まれ育った家は、どうやら東の都でも名の知れた『資産家』のようだった。経済的にこの上なく恵まれているはずの我が家でさえ、移動には普通の大きな車を使い、ガレージに駐車している。

 

 ある日、たまらず父親に「車などをポケットサイズに小さく収納できるカプセルはないのか」と聞いてみた。すると父は、

 

「ははは、子供の『想像力』は豊かだなぁ!」

 

 と、愉快そうに一笑しただけだった。

ここから推測するに、ホイポイカプセルはまだこの世に開発すらされていない。つまり、今はブルマが旅に出る『原作よりずいぶん前の時代』である。私はそのことを完全に確信した。

 

 ならば、と私は腹を括った。少なくとも『ホイポイカプセル』が世に出回るまでは、自身の牙を研ぐための成長期間に充ててもいいだろう。そうして東の都で、日々をのびのびと過ごしながら、肉体を鍛える基礎作りに励んだ。

 

 ただ、その一方で、拭いきれない不安が常に胸の奥にあった。もしも今が、悟空たちが現れる『百年前』の時代だったらどうしよう。私は物語に触れることすら叶わず、ただただ第二の人生を平穏に終えてしまうのだろうか。そんな底知れない不安から、私はとにかく、この世界の正確な『時系列』を知る方法を必死に考えていた。

 

 そこで思い至ったのが、現在のこの世界に存在するはずの『知っている者に会う』ということだ。

 

 最初に頭に浮かんだのは、武天老師こと『亀仙人』に会うことだった。数百年の寿命を持つ彼ならば、もしかしたらすでにどこかで生きている。しかし、広大な海のどこかにあるという孤島、あの『亀ハウス』へ行くのは、十五歳の子供にとってはあまりにもハードルが高すぎた。そもそも、東の都からではどの方角にあるのかすら分からない。

 

 次に考えたのが『聖地カリン』だった。恐らく場所の特定は決して難しくないハズだ。しかし、カリン様に会うためには、雲を突き抜けるほど高くそびえ立つあの『カリン塔』を、己の腕力だけで登りきらねばならない。前世が九十歳の老人で、今世はようやく十五歳になったばかりの身体だ。……いや、無理無理。絶対に途中で落っこちて死んでしまう。

 

 そうして知恵を絞り、次にひねり出したのが、『西の都』にいると思われる『ブリーフ博士』の存在だった。

 天才科学者である彼なら、すでにカプセルコーポレーションの基礎を築いているかもしれない。もしかしたら、幼い頃の『ブルマ』がもう生まれている可能性だってある。何よりも、前者の2つと違って、『西の都のブリーフ博士』の所在は、行くための『ハードル』が圧倒的に低かった。

 

「見聞を広めるために、少し遠出をしてみたいんだ」

 

 十五歳になった私は、資産家である両親にそう旅の目的を告げた。こうして私は、この世界の運命の歯車に触れるため、西の都へ行く計画を着々と進め始めたのだった。

 

 しかし、西の都へ赴くにあたって、一つだけ大きな懸念があった。

 この世界にまだホイポイカプセルが開発されていないということは、あの世界一の大企業である『カプセルコーポレーション』という社名自体が、未だこの世に存在していない可能性が非常に高かったからだ。ブリーフ博士という名だけで、あの広大な大都会から一人の科学者を探し出せるだろうか。

 

 だが、悩んでいても始まらない。とにもかくにも、まずは西の都まで行ってみよう。幸いなことに、私はこの十五歳になるまでの間、前世の詰め込み教育の記憶をフル活用して必死に勉強を重ねていた。その甲斐あって、周囲からは神童と崇められ、なんと大学までを『飛び級』で卒業してしまっていたのだ。ちょうど人生の区切りとして、自由に動かせるまとまった時間が手元にあった。

 

 さらに、この世界においては、ちょっとした裕福な家庭であれば『自家用飛行機』を個人で所有することが、決して珍しくもなければハードルも高くない。幸い我が家は東の都でも屈指の資産家である。経済的に恵まれている恩恵を最大限に預かり、私自身、すでに自由に動かせる個人用の飛行機を一台、譲り受けていた。

 旅の支度を整え、私は両親の前に立った。

 

「見聞を広めるための旅だ。少し長くなるかもしれないけれど、行ってくるよ」

 

 そう言って頭を下げる私に、今世の温かい両親は、寂しさを堪えながら満面の笑みで応えてくれた。

 

「気を付けて行ってこいよ! 炒飯!」

 

「事故や怪我には本当に気をつけてね。困ったことがあったら、すぐに連絡するのよ」

 

 自宅の庭から飛び立ち、操縦桿を握りながらふと眼下を見下ろす。そこには、豆粒のようになるまで手を振り続け、姿が完全に見えなくなるまでずっと私のことを見送っている二人の姿があった。

 

 前世の孫への愛にも似た、深い親の情愛が胸に染みる。私はその温かさを背中に受けながら、知っている者に会えるかも知れないという軽い興奮を覚え、『西の都』へと愛機の機首を真っ直ぐに向けた。

 

 

続く☆

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。