漫画アニメ短編集&救済の物語   作:クリリ☆

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ドラゴンボール【リクエスト作品:転生高齢者は孫悟飯を救いたい③】(救済)

 

  【始まりの地『パオズ山』】

 

 西の都の青空を飛び立ってから、すでに数時間が経過していた。

 コックピットから見える景色は、近代的なビル群から緑豊かな田園風景へ、そして次第に人間を拒むような険しい未開の大自然へと姿を変えていく。

 ゴウゴウとエンジンの駆動音だけが響く狭い機内で、私はじっと操縦桿を握り締めながら、胸の奥のざわつきを抑えかねていた。

 

 満月は明日……。もう時間の余裕はほとんどない。悟空が大猿化するトリガーは『満月を見る』こと。今日中に御飯さんに会って対策を立てねばならない。

 

 飛び続けておよそ半日。太陽が大きく傾き始めた頃、ようやく目的の空域へと到達した。

 眼下に広がるのは、中国の山水画を思わせるような、細長く切り立った奇岩と独特な雰囲気の山々。――間違いない、ここがパオズ山だ。

 

 所々に濃い霧のようなものが立ち込めており、上空からの視界は決して良好とは言えなかった。うかつに近づけば激突しかねない険しさだったが、ブリーフ博士が取り付けてくれた最新のナビゲーションシステムが、霧の奥にあるかすかな地形のディテールを正確に捉えていた。画面に表示される誘導線に従って高度を下げていくと、深い木々の合間に、ぽつんと佇む小さなお堂のような一軒家が見えてきた。

 

 あった……! あそこだ!

 

 私は周辺の安全を確認しながら、家のすぐ横にあるわずかな開けた地面へと、慎重に飛行機を着陸させた。

 エンジンを切り、静寂が戻る。私はブリーフ博士から渡されたサブマシンガンを両手でしっかりと構え、周囲を厳重に警戒しながらタラップを降りた。博士の言葉が頭をよぎり緊張したが、幸いなことに、付近に凶暴な猛獣や怪鳥の気配はなかった。あたりを包むのは、どこか厳かで、それでいてどこか懐かしい山の空気だけだった。

 

 銃の安全装置を確認し、肩に担ぎ直す。

 深呼吸をしてから、私はその小さな家の前に立ち、意を決して木製の扉をノックした。

 

 コン、コン。

 

「――ごめんください」

 

 静かな山奥に、私の声が響く。中からトコトコと歩く足音が聞こえ、やがてゆっくりと扉が開いた。

 

 

 

  【感動の対面】

 

 そこから顔を覗かせた人物を見た瞬間、私の胸は激しく震え、言葉を失った。

 オレンジ色の武道着に身を包み、頭には中華風の帽子。白い髭を蓄え、目尻には深い優しそうな笑いシワを刻んだ小柄なお年寄り。

 

 ――孫悟飯さんだ。本物の、孫悟飯さんだ。

 

 前世の漫画の紙面やテレビの画面越しに、何度もその慈愛に満ちた姿を見てきた。捨てられていた赤ん坊の悟空を拾い、実の孫のように惜しみない愛情を注ぎ、最期は彼を守るようにして理不尽な運命に命を奪われてしまった、世界で一番優しいおじいちゃん。

 

 九十歳まで生きた前世の私から見れば、目の前の彼はまだ私より少し若いのかもしれない。それでも、その佇まいから溢れ出る圧倒的な「温かさ」と「包容力」に、私はかつて自分の祖父に対面した時のような、深い敬意と愛おしさが込み上げてきて、危うく涙がこぼれそうになるのを必死に堪えた。

 

 私はここに、この人を救うために来たのだ。絶対に、死なせはしない。

 

「おや……? これはこれは、こんな山奥にお客さんなど珍しいのう。しかもまだ少年じゃないか」

 

 悟飯さんは、背中にサブマシンガンを背負った十五歳の見知らぬ少年に驚きつつも、一切の敵意を見せず、むしろ朗らかに微笑みかけてくれた。その懐の深さに、私は居住まいを正し、深く一礼した。

 

「突然の訪問、本当にすみません。私は『炒飯』と申します。……孫悟飯さん、あなたに、どうしてもお伝えしなければならない『大事なお話』があって、ここまで来ました」

 

「ほほう、わしに用事かね? こんな老いぼれに、一体どのような話じゃな?」

 

「はい。……あなたの『生死』に関わる、とても重大な話です」

 

「わしの生死、だと…?」

 

 私が前世の九十年、そして今世の十五年、合わせて百五年分の魂を込めてじっと真っ直ぐに視線を合わせると、悟飯じいさんは私のただならぬ真剣な表情をじっと見つめ、その奥にある本気さを瞬時に読み取ったようだった。御飯さんの優しい目が、一瞬だけ武道家としての鋭い光を帯びる。

 

「……なるほど、分かった。話を聞かせてもらおうか。わざわざこんな辺鄙な山奥まで足を運んでくれたのじゃ、立ち話もなんじゃしな。たいしたもてなしはできんが、中に上がってくれ」

 

 私の真剣な眼差しを受け止めてくれたのか、何も言わず、快く私を家の中へと招き入れてくれた。

 案内された室内は、こぢんまりとしてはいるものの、隅々まで綺麗に手入れが行き届いていた。棚に飾られた一星球を視界の端に捉えながら、私は室内を見回した。そこに、あの特徴的なツンツン頭の男の子の姿はない。

 

「ところで……悟空はいませんか?」

 

 私の言葉に、お茶を淹れようとしていた御飯さんの手がピタリと止まった。振り返ったその顔には、先ほどまでの柔和な笑みが消え、武道家としての油断のない鋭さが宿っていた。

 

「うむ、悟空なら山へ夕食の調達に行っておるが……。それにしてもお主、悟空の名をどこで知った? 悟空の存在は、わしのお師匠様である武天老師様にしか話したことがないはずじゃが。……お主は一体、何者かね?」

 

 静かだが、ずしりと重いプレッシャーが室内に満ちる。

 ここへ来る機内の中で、私はどう説明すべきか散々考えていた。未来予知ができる能力者だと言い張るか、あるいはどこかで噂を聞いたと誤魔化すか。だが、眼前の御飯さんが持つ濁りのない瞳を見つめていると、中途半端な作り話など一瞬で見破られてしまうと確信した。

 

 嘘偽りのない、ストレートな真実を伝えること。それが一番、この人に誠意が伝わるはずだ。

 

 私は深く息を吸い込み、覚悟を決めて語り始めた。

 

「――驚かれるかもしれませんが、私はこの世界とは違う、外の世界から新しく生まれ変わった『転生者』なのです。前世では九十歳まで生きた老人でした。その前世で、私は自分の孫と一緒に、本やテレビの画面を通じて、あなた方親子の生きる世界をずっと見守っていました」

 

 御飯さんは怪訝そうに眉をひそめたが、遮ることなく私の話に耳を傾けてくれている。私はそのまま、物語の核心へと踏み込んだ。

 

「だから私は、あなたのことも、悟空のことも知っています。……そして、これから起こる凄惨な悲劇のことも。御飯さん、悟空には、本人すら知らない恐ろしい秘密があります。あの子は、夜空に浮かぶ『満月』を見ると、我を忘れて暴れる巨大な大猿へと変身してしまうのです」

 

 私の言葉に、御飯さんの目が見開かれた。

 

「大猿……? 悟空が、かね?」

 

「はい。そして、正確な時期は分かりませんが、とある満月の夜…あの子は大猿に変身し、理性を失ってこの家を、この周囲を破壊し尽くします。その時、あの子を止めようとしたあなたは、大猿の巨体に踏み潰されて――命を落としてしまう。私は、その運命を未然に防ぎ、あなたを救うためにここへ来たのです」

 

 さすがに、あまりにも荒唐無稽で突拍子もない話だ。御飯さんはお茶の入った湯呑みを置き、にわかには信じられないという様子で深く首を振った。

 

「ふむ……。君の目が嘘を言っているようには見えんが、さすがにその話はにわかには信じがたいのう。悟空がそんな化け物に変身するなど……」

 

 当然の反応だった。だから私は、自分の話の信憑性を決定づけるための『唯一の切り札』を口にした。現時点で、この世で御飯さん本人しか知り得ない、二人の過去の記憶だ。

 

「そう思われるのも無理はありません。ですが、これならどうでしょう。……悟空は、あなたが拾った当初、手がつけられないほど気性が荒い暴れん坊でしたよね? それがある日、あなたの不注意から深い谷底へと落ち、頭を強く打ってしまった。それ以来、あの子は憑き物が落ちたように、今の穏やかで優しい子になった……。そして、その時にできた傷が、今でもあの子の頭にかすかに残っているはずです」

 

「!!」

 

 御飯さんの身体が、今度こそ明確に硬直した。白い髭が小刻みに震え、絶句している。それは間違いなく、この山奥で自分と赤ん坊の悟空の二人きりの間でしか起こり得なかった、絶対の事実だったからだ。

 

「むううう……! 確かにその通りじゃ。そのことはまだ武天老師様にも話しておらん。この世でわししか知らぬはず……。ふむ、転生だの未来だの、未だに狐につままれたような心持ちではあるが……これほどの事実を突きつけられては、無視するわけにはいかないようじゃな」

 

 御飯さんは腕を組み、極めてシリアスな表情で深く唸った。私の言葉が真実であると、魂のレベルで理解してくれたようだった。

 

 しかし、理屈で理解できても、自分の可愛い孫が本当に化け物になるのかという一抹の疑問は残る。そこで私は、確実な確証を得るための「次なる提案」を切り出した。

 

「御飯さん。口だけではどうしても割り切れない部分もあると思います。そこで、明日の満月の夜、あえて悟空に満月を見せ、本当に大猿に変身するかどうかを、あなたの目で確かめてみませんか?」

 

「なに? しかし、そんな危険な真似をすれば……」

 

「大丈夫です。完全に大猿になって暴れ出されては、私たちの手には負えず甚大な被害が出ます。ですから、『変身しかけたその瞬間』を狙います。身体が巨大化し始めたら、即座にあの子の『尻尾』を刃物で切断するのです。あの子の変身のエネルギーは尻尾に宿っています。尻尾さえ切れば、大猿化は強制終了され、悟空は元の姿に戻ります。変身の事実を確認し、悲劇のトリガーを排除する。これなら安全に変身を確認できます」

 

 私の綿密な作戦を聞き、御飯さんはじっと考え込んだあと、力強く頷いた。

 

「なるほど、尻尾か。確かにあの尻尾には、不思議な力があると感じておった……。分かった、君の作戦に乗ろう。一銭の得にもならんのに、こんな辺鄙な場所までわざわざ訪ねてくれた君を、全力で信じてみることにするよ」

 

 そう言って御飯さんが優しい笑みを浮かべたその時、家の外から「ただいまー!」という、元気いっぱいで、どこか懐かしい子供の声が響き渡った。

 

「じっちゃん! 旨そうな鳥を獲ってきたぞー!」

 

 家の外から、鼓膜を震わせるような元気いっぱいの声が響き渡った。私と御飯さんは顔を見合わせ、促されるようにして一緒に外へと足を運んだ。

 

 そこで私の目に飛び込んできたのは、地面にドサリと横たえられた、熊ほどもあるサイズの巨大な怪鳥が二羽。そして、その横で自慢げに胸を張っている、小さな小さな男の子の姿だった。

 

 ツンツンとあらゆる方向に尖った特徴的な黒髪。無邪気そのものの丸い目。そして尻からは、感情を示すように嬉しそうにパタパタと揺れる、茶色い猿の尻尾。

 ――孫悟空。のちに宇宙最強の戦士となる、あの少年が、今わたしの目の前に立っていた。

 

 それにしても、と私は驚愕を禁じ得なかった。まだたったの四歳である。一体どうやって、この巨体を誇り、空を飛ぶ猛禽類を二羽も仕留めてみせたのだろうか。さすがは戦闘民族サイヤ人、と言うべきか。骨格や筋肉の付き方も、四歳児のそれとは到底思えないほどに引き締まり、発育が良いように見える。

 だが、いくら身体が大きくとも、あどけない顔立ちや、じっちゃんを見上げる無垢な瞳は、紛れもなくまだ幼い子どもそのものだった。

 

 ふと、悟空が御飯さんの隣に立つ私の存在に気づき、不思議そうに首を傾げた。

 

「ん? おめえ誰だ?」

 

「こんにちは。私は炒飯と言います。よろしくね」

 

 私ができるだけ優しい笑顔を作ってしゃがみ込み、目線を合わせて挨拶をすると、悟空はニカッと太陽のように明るい笑顔を咲かせた。

 

「おぅ! オラ悟空だ! よろしくな!」

 

 こうして、私たちは無事に最初の自己紹介を済ませた。前世のテレビ画面の何百倍も眩しいその笑顔を間近で見て、私の胸の奥には、得も言われぬ愛おしさがこみ上げてくる。

 悟空はふんふんと私の匂いを嗅ぐような仕草をしたあと、人懐っこい目で尋ねてきた。

 

「で、おめえ、オラに何か用か?」

 

 その純粋な問いかけに私がどう答えるべきか一瞬迷っていると、後ろから御飯さんが助け舟を出すように、優しく微笑みながら答えてくれた。

 

「悟空。炒飯くんはな、わしのお客様なんじゃよ」

 

「きゃく……? じっちゃん、客って何だ?」

 

 悟空は「お客様」という言葉の響きが珍しいのか、言葉を口の中で転がすようにして問い返した。御飯さんは、まだ世間の言葉をほとんど知らない孫のために、分かりやすい言葉を選んで教え諭す。

 

「客というのはな、遠いところからわざわざ会いに来てくれた、とても大切な人のことじゃ」

 

「そっか! じっちゃんの大切な人なら、オラにとっても大切な人だな!」

 

 悟空は深く納得したように拳をぽんと手のひらに打ち付けた。御飯さんを絶対的に信頼し、御飯さんが大切にするものは自分も大切にする。そのあまりにも純粋で健気な言葉に、私は胸がじわリと熱くなるのを感じた。

 

「そうじゃな、悟空。ちょうど良い機会じゃ。炒飯くんに『お友達』になってもらいなさい」

 

「ともだち……? 友達って、なんだ?」

 

 またしても知らない単語に、悟空はパチパチと瞬きをした。

 考えてみれば、この広大なパオズ山で、悟空は生まれてから今日まで御飯さん以外の人間を見たことがなかったはずだ。親子や祖父孫という関係以外に、人間同士が結ぶ繋がりの名前を、あの子はまだ何も知らない。

 御飯さんは優しく悟空の頭を撫でながら言った。

 

「友達というのはな、お互いに助け合ったり、一緒に遊んだりする、仲良しこよし、の関係のことじゃよ」

 

「ふーん……仲良しこよし、かあ」

 

 悟空はじっと私の顔を見つめた。私もまた、前世の九十年の人生で培った、孫を見るような温かい眼差しで悟空を見つめ返す。

 

「分かった! それじゃ、オラたちは友達だな、チャーハン!」

 

「うん、友達だね。これからよろしく、悟空」

 

 私が手を差し伸べると、悟空はその小さな、だけど力強い手で私の手をぎゅっと握り返してくれた。

 

 本来の歴史なら、悟空が初めて出会う御飯さん以外の人間で、『友達』になるのは、数年後にこの地を訪れるブルマのはずだった…。

 

 だが、今この瞬間、歴史は静かに、しかし確実に変わり始めた。

 私は、あの孫悟空の、人生における「友達第一号」になったのだ。この小さな手を、そして隣で微笑む御飯さんの命を、何があっても守り抜いてみせる。握り合った手の温もりを感じながら、私は心の中で静かに、しかし強固にその誓いを新たにするのだった。

 

 

 

  【初めての夕食と、迫る満月】

 

 その日の夕食は、まさに原始的でありながら最高に贅沢な宴となった。

 悟空が獲ってきた熊サイズの大鳥を、御飯さんが手際よく捌き、庭に組んだ焚き火で豪快に丸焼きにする。ジチジチと音を立てて黄金色の脂が滴り、香ばしい匂いがパオズ山の夜気に広がっていく。

 

 ちなみに、空を飛ぶ巨大な鳥をどうやって捕まえたのかと聞いたら、あの長さを自由自在に操れる『如意棒』で叩き落としたと、得意気に話してくれた。

 

「うほーーっ! 旨そうだぞーーっ!」

 

 焼き上がった肉を、四歳の悟空は凄まじい勢いで軟骨ごとバリバリと平らげていった。自分の体積よりも大きいのではないかと思えるほどの肉が、見る見るうちにその小さな胃袋へと消えていく。そのサイヤ人らしい異次元の食いっぷりを、私は「これがあの孫悟空の原点か……」と感動しながら眺め、御飯さんは「これこれ、炒飯くんが驚いておるぞ。もっとお行儀よく食べなさい」と微笑んでいた。

 

 賑やかな夕食が終わり、夜が更けると、悟空は満腹の満足感からか、布団に入るなり「ふー、ふー」と豪快な寝息を立てて爆睡し始めた。

 私はそっと部屋を抜け出し、静まり返った庭に出て夜空を見上げた。

 夜空に浮かぶ月は、すでにかなり真円に近く、冷たい白光で周囲の奇岩を照らしている。

 

 いよいよ、明日か……。

 

 猶予はあと一日もない。明日、この月が完全に満ちる。

 寝室から聞こえる悟空の健やかな寝息を背中で聞きながら、私は胸の奥がキリキリと締め付けられるような緊張感に支配されていた。絶対に失敗は許されない。私の百五年分の人生を賭けた戦いが、すぐそこに迫っていた。

 

 

  続く☆

 

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