ある休日の朝、コナンと蘭と小五郎はリビングで朝食をとっていた。テレビからはニュースが流れている。その内容は『私人逮捕系ユ―チューバー涙の謝罪』などと報じられていた。蘭はそれを見ながら、トーストをかじっているコナンに言った。
「ねえコナン君、私人逮捕系ユ―チューバーって何?」
「痴漢とか、覚せい剤の売買とかの現場を取り押さえるような動画を撮ってユ―チューブにアップする人の事だよ。普通は犯罪者を捕まえるのには逮捕状が必要なんだけど、現行犯だと一般人でも逮捕状無しで逮捕する事ができるんだ。それを私人逮捕って言うんだよ」
「さすがはコナン君、よく知ってるね」
「先日ボクも同じ事を疑問に思ってさ、新一兄ちゃんに聞いたらそう教えてくれたんだよ」
「でもそれって良い事じゃない。私人逮捕をした人がどうして悪い事をしたみたいに報じられてるの?」
「時には強引に犯罪をでっちあげたり、もしくは誤認逮捕しちゃったりして、名誉棄損で訴えられちゃう事もあるんだって。まあ、いつもいつも犯罪の現行犯なんて簡単に見つかるものじゃないからね」
「それだったらコナン君が動画配信とかしたら、毎日のように殺人事件に出くわすからネタには困らないんじゃない」
蘭は半分冗談で言った。しかし、それに小五郎が即座に反応した。
「おお、それだ! この眠りの小五郎の推理過程をリアルタイムで動画に収めれば、かなり面白い動画になるぞ。実際、殺人事件の現場で事件を解決しても、雀の涙程度の金一封しかもらえないからな。ユ―チューバーとして再生数を稼げれば、大金が稼げるに違いない!」
「ええ~、不謹慎だよおじさん」
「何を言っている。これはいわばパトロール、平和維持活動の一環だ。眠りの小五郎が常に街に目を光らせているとなれば、みんなビビって殺人事件なんて起こさなくなる。これは米花町の平和のためなんだ!」
「う~ん」(事件を解決してるの、本当は全部オレなんだけどな・・)
コナンは小五郎に見えないようにそっぽを向いて苦笑いを浮かべた。
そうして、あれよあれよと話は進み、小五郎はユ―チューバーのチャンネルを開設した。そしてコナンの眼鏡には阿笠博士の協力により動画の撮影用のカメラが取り付けられた。
これで簡単なスイッチの切り替えで、コナンが見たものがいつでも動画に配信される手はずとなった。
「で、なんでボクが撮影係なの?」
「なんでってそりゃ、オレは推理で忙しいからに決まってるだろ。いいか小僧、オレのカッコ良いシーンを撮り逃すなよ」
そう言いながら小五郎は鼻歌交じりで髪型を軽く整える。
「ではさっそく出かけるぞ」
「どこへ行くのおじさん?」
「とりあえず、まずは辺りを軽くドライブだ。まあ、お前さえいればいつでもどこでも殺人事件に遭遇するからな。いわばお前は殺人事件を呼ぶための撒き
(蘭といい、おっちゃんといい、サラっと人が気にしてる事を言うよなあ。そのせいで一部の界隈から死神扱いされてるってのによ・・)
そうして小五郎の運転で、目的なくとりあえずドライブする事になった。そうして車を走らせる事およそ30分、ついにその時は来た。
小五郎が赤信号で停車していると、そばのビルから人が落下してきた。激しい衝撃音と共に、地面に叩きつけられる。
「これは事件か!? よし坊主、カメラを回せ!」
小五郎は車を路肩に寄せて止まると、すぐに落ちて来た人のもとに駆け寄る。そして生死を確認すると、完全に絶命していた。
「駄目だ、即死だ」
そうしてすぐに通報され、警察と救急車がやって来た。そうして警察で確認すると、どうやらそれが自殺らしいという事が確認された。
現場に駆け付けた目暮警部が小五郎に事件の概要を説明する。
「被害者は45歳の男性、どうやら最近事業に失敗して金策に翻弄されていたようだ。そしてついには行き詰まって自殺したらしい。彼の部屋からは遺書も発見されている。どうやら事件性はないようだな」
「なるほど、自殺ですか」
小五郎はちょっとガッカリしたような顔をする。一方、コナンは被害者の身体を観察し、あるものに気付いた。犠牲者の首に縦に爪で引っ搔いたような傷跡を発見した。
(これは、
※吉川線
コナン読者ならお馴染みのネタ。首を絞められた時に抵抗して首に縦にできる、引っかき傷などの抵抗痕。
コナンが小五郎を見据えると、小五郎は自殺と聞いてガッカリしており、捜査をしようともしなかった。
(まったく、少しは自分で確認しろよなぁ・・)
「ねえおじさん、この男の人の首に、何だか引っ掻いたような跡がない? これってさ、何とか線って言うんじゃなかったっけ?」
「引っ掻いたような跡?」
小五郎が改めて遺体を確認すると、コナンの言う通り、確かに首に引っ掻いたような傷跡があった。
「これは、吉川線?!」
「ほう、吉川線か。それじゃこれは…」
言葉を続けようとする目暮警部を小五郎が遮った。
「ちょっと待ってください警部。この先は私に言わせてください。吉川線とは、」
「毛利君、わしだって捜査一課の刑事だ。説明されなくても吉川線くらい当然知っているぞ」
「いえ目暮警部。中には知らない者もいると思うので説明させてください」
「何を訳の分からない事を言っておるのだね」
「まあまあまあ、いいからいいから」
小五郎は笑って誤魔化した。そしてコナンに向けて言った。
「吉川線、これは
小五郎はコナンの方にビシっと人指し指を突き出して宣言する。もちろんコナンの眼鏡を通して撮影されている動画のためだった。
(ようし決まったぜ、これでチャンネル登録者数も爆上げだw)
小五郎は内心ほくそ笑みながら捜査を開始する。しかし、謎は全く分からなかった。
一方、小五郎とは逆に、コナンはすでに事件の全貌をほぼ把握していた。途中、小五郎にヒントを出すが、小五郎はちっとも真実に行きつかない。止むを得ず、いつものように麻酔銃で小五郎を眠らせてしまう。そして、蝶ネクタイの変声機で事件の全貌を喋ろうとした瞬間、コナンはハッとする。
(あ、ヤベえ、オレは今眼鏡を通して動画の撮影中だ。もしこれで喋ったら変声機の声だけじゃなく、マイクがオレの地声まで拾っちまう。どうする・・!?)
コナンが迷っていると、目暮警部が小五郎に言った。
「おい毛利君、いつまで待たせるんだ。早く説明したまえ、犯人は一体誰なんだね?」
目暮警部が小五郎の身体を揺すると、座るように眠っていた小五郎の体勢が崩れ、そのまま地面に転がってしまう。しかも転がりながらもなお眠っていた。
(ああー、ヤベえ、眠りの小五郎が本当に眠っているのがバレた!)
コナンは滝のような汗がダラダラと流れる。
「おい毛利君、眠りの小五郎が本当に眠ってどうする。早く起きんか!」
「ああー、待って待って待って、最近おじさん動画配信の活動も始めたらしくて、忙しくて疲れちゃってるんだよ」
「しかしだなあ」
「ええっと、ボクさっきおじさんから大まかな概要を教えてもらったから、事件の事がだいたい分かるよ。おじさんに代わってボクから説明するね」
そうして、何とか誤魔化してコナンの口から推理の説明をし、無事に犯人は逮捕されたのだった。そして、動画の方は大いに盛り上がり、初回の配信だけでもチャンネル登録者数が10万人を超える勢いで増えていった。
そして、コメントには『コナンって、小五郎から何か事件の事教えてもらったっけ?』、『むしろ邪魔だから大人しく撮影だけしてろって言われてたような』、『ってか、むしろコナンが本体じゃね?』など、鋭い指摘をする声もあったが、何千ものコメントに紛れて消えていった。
そうして数日後・・。
「ようし坊主、今日も事件を探しに出かけるぞ!」
「ええー、また行くの?」
「当たり前だろ。間隔が空くと視聴者が離れるからな。まあ、事件さえ発生すれば後は全部オレに任せておけ。お前はただ撮影してるだけでいいからよ」
(いや、全部オレが推理してるんだけどな・・)
コナンは小五郎に見えないように小さくため息を吐いた。
おしまい。
おまけ
コナンと蘭はとある殺人事件現場に来ていた。そこで謎の液体を発見する。
(この臭いは、アーモンド臭!?)
コナンはその液体を少し指で掬って舐めてみる。
「間違いねえ、これは青酸カリ!! うっ、グフッ・・」
「コナン君が致死量いった~(ToT)」
※青酸カリがアーモンド臭がするのは、胃酸と結びついたためで、実際の青酸カリは無味無臭です。殺人事件現場にある物を口に含むのは大変危険なので、良い子のみんなは絶対に真似しないでね!
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おまけのおまけ☆
コナンはグラスに注がれた液体の匂いを嗅ぐ。すると、そこからアーモンド臭がしてきた。
「蘭姉ちゃん! アーモンド臭がする、こいつは危険だ!」
「何言ってるのコナン君、これはただのアーモンド効果よ」
そう言うと蘭は美味しそうにグラスの中身を飲み干した。
「なんだ~、紛らわしい・・」
米花町、そこはアーモンド臭がするだけで真っ先に青酸カリの混入が疑われる、日本で最も危険な町。訪れる際は細心の注意を払ってください。
おしまいw