【前書き】
1作目の『劇場版 忍たま乱太郎』の公開日が『1996年6月29日』だそうです。
今作は劇場版 忍たま乱太郎1作目の設定を多く活用している事から、『劇場版 忍たま乱太郎 公開30周年記念作品』にしたいという思いを込めております。
そこで、最終話を6月29日になるよう調整しております。
こんなにピッタリ『30周年』に重なるなんて、リクエストをいただいたタイミングが神がかっていたなあと、小さな奇跡のように思っております。
もし本作を6月29日以前に、リアルタイムでご覧になられている読者様がいらっしゃれば、是非この小さな奇跡を一緒に体験していただければ幸いです。
【タイムスリップの真相】
小松田の絶望的なまでに空気が読めない、かつ予想外すぎる乱入によって、その場に満ちていた一触即発の不穏な空気は完全に毒気を抜かれていた。良く言えば緊張感が解れ、庵には柔らかい弛緩した空気が流れた。
伊庭(いば)はいち早く頭を切り替え、腰の拳銃からそっと手を離した。現時点で目の前の大怪盗と対立するメリットは何一つない。何より、この異常事態を打開するための情報収集が最優先だ。
「……学園長殿。確かに今は、彼の言うとおり未来人同士でいがみ合っている場合ではありません。状況を把握するためにも、少しでも彼らと情報を共有すべきだと判断します」
「うむ、そうじゃな。小松田くんのおかげで、なんだか戦う気が失せてしまったわい」
学園長が苦笑しながら長槍を戻すと、ルパンは待ってましたとばかりにニカッと笑った。
「そうこなくっちゃあな! それに、少なくとも俺たちは、あんたらがここに飛ばされちまった『原因』について、ちょっとした心当たりがあるんだよねぇ」
「原因を知っているだと? ……どういうことだ」
伊庭の眼光が鋭く光る。一歩前へ踏み出し、強い威圧感をもってルパンへと押し迫った。
「まさか、お前たちが俺たちをこんな時代へ追いやったのか!?」
「おっと、落ち着けって隊長さん! むしろ俺たちだって大迷惑を被ってる被害者なんだぜ? ――よし、それじゃあ俺たちに起こったことを、ありのまま話してやるよ」
ルパンは両手を挙げておどけてみせてから、一呼吸おいて、いつになく真面目なトーンで語り始めた。
「まず、ジイさんがさっき読み上げた古文書の伝承――あれな、実は俺たちのいた未来の世にも、そっくりそのまま残ってるんだ。歴史の闇に埋もれた謎の詩としてな。で、俺たちお宝専門の泥棒としては、伝承にある『青き炎』ってフレーズが気になってよ。恐らくは時価数十億、いやそれ以上の価値がある青い宝石――サファイアの類いに違いないと踏んで、そいつを探してたわけ」
「何だと。青き炎とは、宝石のことなのか……?」
伊庭が呟くと、ルパンは「おそらくな」と人差し指を立てた。
「で、その手がかりを追っている最中に、いつもの通り『銭形のとっつぁん』に見つかっちまってさ。そりゃあもう必死に車を飛ばして逃げてたんだ。……ところが、その逃走の最中に、とんでもねえ不可解な現象が起こりやがった。俺たちの周囲を走ってた車の運転手たちが、目の前で突如として『消えた』んだよ」
「運転している人間が、いきなり消えただと……!? どういう意味だ?」
根本二曹が驚愕の声を上げるが、ルパンは重々しく首を横に振った。
「いいや、文字通り『存在ごと消滅』したのさ。ドライバーを失った車が暴走して、俺たちの逃走経路を塞ぐもんだから大パニックさ。……で、そんな神業みてえな真似を引き起こした張本人がいる。名前は『魔毛狂介(まもうきょうすけ)』。ヤツは、俺たちがいた21世紀よりも、さらに遙か先の未来、『28世紀』からやってきた天才科学者だ」
「俺たちより、さらに未来の科学者……」
伊庭の顔に、これまでにない戦慄が走る。
「魔毛のヤツは、自分で作り上げたタイムマシンを悪用して、その時消えたドライバーたちの『先祖』を過去の時代で殺してまわったんだ。過去が変わっちまったせいで、未来にいる子孫の存在そのものが、因果律の彼方へ消し飛びやがった。タイムパラドックスってやつさ」
ルパンの口から語られるSFの領域の話に、伊庭も根本も、そして通信機越しに聞いている門前の隊員たちも息を呑んだ。自分たちがタイムスリップしたこと自体が異常だが、未来には時間を兵器として操る狂気の科学者がいるというのか。
「その魔毛の野郎が、俺たちを追い詰めた挙句『白い光』を発生させやがった。俺たちはその光に吸い込まれるようにして、気づけばこの時代に真っ逆さま。……恐らく、あんたら自衛隊も、演習地か移動ルートが俺たちの逃走経路のすぐ近くに重なってたんだろ。ヤツの歪めた時空の裂け目に、偶然巻き込まれちまったってわけだ」
ルパンは話を終えると、やれやれと肩をすくめた。
これで、自衛隊の時計が止まり、謎の白い霧(光)に包まれてタイムスリップした理由のすべてに、最悪な形で説明がついたのだった。
【ドリームチーム結成】
伊庭はルパンの荒唐無稽とも言える話を頭の中で整理し、冷徹に状況を噛み砕いた。
「なるほど……。つまり、我々がこの時代に落とされた全ての元凶は、その魔毛狂介という狂気の科学者というわけだな」
「そういうこと。だが、あの野郎がこの戦国時代で一体何を企んでるかまでは、流石の俺様にもまだ分からねえ。……ただ一つだけ確かなことがある」
ルパンは不敵に、ニッと口角を上げた。
「近代兵器をフル装備した自衛隊の小隊まで巻き込んじまったのは、魔毛の野郎にとっても完全に想定外のはずだ。言い換えるなら、俺たちとあんたらが手を組めば、ヤツを出し抜けるチャンスがグッと広がるってことさ」
伊庭は腕を組み、しばし沈黙した。
背後に立つ根本二曹と視線を交わし、胸元の無線機から聞こえる門前の隊員たちの息遣いを感じ取る。現状、自分たちだけではタイムスリップの手がかりさえ掴めないのは事実だ。
やがて、伊庭はゆっくりと腕を解き、ルパンを真っ直ぐに見据えた。
「どうやら、ここではお前たちと協力するしかないらしいな」
「ご理解感謝するぜ、隊長さん」
「それに我々自衛隊は作戦行動のプロではあるが、伝承やオカルトじみた『謎解き』は専門外だ。あの古文書の謎を解き明かし、元の未来に帰るためには、世界を股にかけるお前たちの知恵を借りることになる」
「そいつは任せときな。お宝探しが本業だからよ」
ルパンが差し出した手を、伊庭が迷いなく握りしめる。
こうして、日本の国防を担う自衛隊と、世界最高の大怪盗ルパン一味という、未来の世でも決して交わるはずのなかった二つの勢力が、戦国時代の忍術学園で奇跡の共闘体制を結んだのだった。
【魔毛狂介現る】
その時だった。
突如として庵の庭先へ、激しい稲妻のような閃光が走り抜けた。あまりの眩しさに、全員が思わず外へと目を向ける。
光が収まったそこには、奇妙な卵形ともロケットともつかない、丸みを帯びた金属製の円盤型メカが、音もなく宙に浮かんでいた。
「なんじゃ……これは面妖な……」
あまりに時代錯誤で異質な物体に、さしもの学園長も驚きの声を上げる。すかさずルパンが、苦々しい表情で吐き捨てた。
「お出ましだ。あれが魔毛のタイムマシンだ」
宙に浮いた円盤のハッチがプシューと開き、中から白衣をまとった長髪の男――魔毛狂介が気取った仕草で姿を現した。
「やあルパン。宝探しは順調かね?」
「てめえ、魔毛……! 何しに来やがった」
「なあに、君たちに『絶望』ってやつを教えてやろうと思ってね」
「何だと?」
不敵に笑う魔毛を、伊庭と根本が鋭い眼差しで睨みつける。しかし魔毛は自衛隊の存在を気にする風もなく、ルパンを見下ろして不敵な笑みを浮かべる。
「ククク、お前の行動はすべて私の掌の上だということだよルパン。貴様はあえて泳がせているだけに過ぎないのだ」
「てめえ、俺たちに宝探しをさせて、一体何がしたいんだ?」
「知れたこと。貴様が見つけたタイムマシン――すなわち『白きたまゆら』を、この私が横取りするのだ!」
「横取りだと!?」
「そうさ。お前たちはトリュフを探す豚というわけだ。せいぜい頑張って、その優秀な鼻で『白きたまゆら』を見つけ出すことだな!」
これにはルパンも眉をひそめ、納得がいかないといった風に問い返す。
「……へっ、解せねえな。てめえはすでにタイムマシンを持ってるじゃねえか。何でわざわざ俺たちに別のタイムマシンを探させる?」
「やれやれ、持たざる者の貧弱な発想だな」
魔毛はわざとらしく肩をすくめ、自慢げに両手を広げた。
「いいか? タイムマシンなどという奇跡の技術は、この世で私一人が独占するからこそ価値があるのだ。私以外の時間跳躍手段など、この世にあってはならないのだよ!」
その言葉を聞いたルパンは、一瞬の沈黙の後、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
「……なるほどな。つまりてめえは、自分じゃその『白きたまゆら』とやらを見つけられなかったから、俺たちの知恵に頼らざるを得ないってわけだ?」
「ぐっ……!?」
図星を突かれ、魔毛の顔が分かりやすく動揺に引きつる。だが、すぐに咳払いをして気を取り直した。
「ふ、フン! 何とでも言え! 貴様らは所詮、短い時間しか生きられない過去の人間だ。過程などどうでもいい。最後に勝利した者が歴史の勝者なのだよ!」
「そうてめえの思い通りにはさせねえよ!」
それまで静観していた次元が、電光石火の早業で懐からコンバット・マグナムをぶち抜いた。照準は寸分の狂いもなく魔毛の眉間を捉え、銃声が轟く――!
しかし、銃弾が届く直前、魔毛はタイムマシンごとフッと姿を消し、瞬時に数メートル離れた別の空間へと出現した。
「無駄な抵抗は止めたまえ。そんな原始的な銃で、この私を捉えることはできん」
「チッ……やっぱり時間移動で避けてやがるか」
次元が悔しげに銃口を下げると、魔毛は高笑いを上げながらハッチを閉めた。
「ではまた会おう、ルパン! せいぜい私のために、必死になって『白きたまゆら』を探すことだ!」
強烈な閃光と共に、魔毛のタイムマシンは今度こそ完全に消え去ってしまった。
嵐の去った後のような、重苦しい静寂が庵を包み込む。魔毛の圧倒的な技術力を前に、伊庭たちもルパンたちも、これからの戦いの厳しさを予感して口を閉ざしていた。
――その、シリアス極まる静寂をぶち壊すように、小松田がひょっこり入門票を掲げた。
「安心してください学園長先生! 彼からも、ちゃーんと入門票にサインをもらってますから!」
開かれたページには、殴り書きのような文字で『まもうきょうすけ』とバッチリ書かれていた。
「…………」
一瞬の間の後、その場にいた全員(ルパン一味、自衛隊、学園長)が、示し合わせたように見事なタイミングで「ずこーーっ!」とひっくり返った。
【奪われた青き炎】
小松田の超ド級の天然泥棒対策(?)に全員で派手にずっこけた後、一同は「よっこらしょ」と気を取り直して立ち上がった。学園長も大怪盗も自衛隊も、等しく泥を払って着座し直す。
再びその場に神妙な面持ちが戻ったところで、学園長が白い髪をなでながら言った。
「ところでルパン殿。先ほど、伝承にある『青き炎』は宝石ではないか、と言っておったな?」
「まあな。絶対にそうだとは言い切れねえが、世界中のお宝を見てきた俺様の勘がそう囁いてるのさ。それがどうかしたかい、ジイさん?」
「実はのう……その『青い宝石』に、一つ心当たりがあるんじゃ」
「何だって!?」
ルパンの目がすっと細くなり、伊庭もまた身を乗り出した。学園長はバツが悪そうに頭をかきながら話を続ける。
「ああ。実はな、先日、実技授業で使うための『硝石(火薬の原料)』を商人から大量に買い付けたんじゃ。しかし、その時あいにく手元にまとまった現金がなくてのう。仕方がないから、わしが昔、現役の忍者だった頃に手に入れた……それはそれは美しい『青い宝石』を代わりに支払いに充てたんじゃよ」
「つまり、元々はジイさんの持ち物だったって事か!」
「だがしかしじゃ! 何ということか、その商人が荷を運んでいる最中に、物資もろとも、その青い宝石を『ドクタケ忍軍(ドクタケ忍者隊)』に奪われてしまったのじゃよ……」
「ドクタケ忍軍……? なんだいそりゃ?」
次元が怪訝そうにつぶやくと、伊庭が記憶をたどるように口を開いた。
「いや、ドクタケなら我々も聞いたことがある。ここへ来る途中の林で乱太郎たちが言っていた。この忍術学園と敵対し、天下を取ろうと各地で戦を画策している、この辺りでは最大級の悪党の忍者集団だ」
「つまりは、そのドクタケ忍軍が、俺たちの探している『青き炎』――青い宝石を持っている可能性が極めて高い、ってことだな」
ルパンが不敵に口角を上げると、学園長は大きく頷いた。
「うむ。しかも最近、忍たま6年生に出した宿題での報告によると、ドクタケ城の城主である木野小次郎竹高(きの こじろう たけたか)という男が、この地域一帯を完全に制圧するために、怪しげな新しい『出城』を急ピッチで築城しておるという情報が入っておる。もしかすると、奪われた青い宝石は、その築城の軍資金として出城に運び込まれているやも知れん」
「新しい出城か。……へっ、そいつは調べてみる価値が大いにありそうだな」
ルパンが次元と五ェ門に目配せすると、二人は静かに頷いた。
元凶である魔毛狂介のタイムマシンの行方、そして未来へ帰る鍵となる『青き炎』。すべての線が、そのドクタケの出城へと繋がりつつあった。
「とはいえ、敵の防衛陣地に生身で突っ込むのは、流石の俺様でもちっとばかり骨が折れる。まずはその出城の形なり、警備の配置なりが分かるとありがてえんだがねぇ」
ルパンが顎をさすりながら言うと、学園長が不敵に笑う。
「ほっほっほ、それなら心配いらんぞ。外観ならば、6年生への宿題で提出させたスケッチがある」
「……宿題、ですか?」
伊庭は一瞬、耳を疑った。
先ほど門前で乱太郎たちを見た時は、時代錯誤な衣装を着込んだただの子供たち、あるいは微笑ましい「忍者ごっこ」の延長のような印象すら受けていた。しかし、この老人は「宿題」という極めて日常的な名目で、生徒たちに実戦さながらの過酷な『敵情視察(偵察行動)』を行わせているのだ。
(遊びや冗談ではない。ここは、紛れもなく本物の『忍び』を育成するための教育機関なのだ……)
伊庭は改めて、この飄々とした学園長の底知れなさと、その真剣な姿勢を肌で感じ、背筋が引き締まるのを覚えた。
「これ、小松田くん! 6年生の宿題の、ドクタケ出城の写本を持ってきておくれ!」
「はーい! ただいま持ってきます!」
廊下をバタバタと走る足音が聞こえたかと思うと、小松田が息を切らせて一冊の分厚い和紙の帳面――スケッチブックを縁側へと広げた。
「どうぞ! 6年生の先輩たちが、敵に見つからないよう命がけで描いてきた力作です!」
「どれどれ……」
一同がそのスケッチを覗き込んだ瞬間、庵の空気がピキッと凍りついた。全員の顔が、驚愕というよりは、あまりの視覚的インパクトに言葉を失って引きつっている。そこに描かれていたのは、異様というほかない、あまりにも悪趣味なデザインの城だった。
なんと、出城の最も高い天守閣部分には、城主である『木野小次郎竹高』の、あの脂ぎった不気味な顔面が巨大な彫刻となってそのまま備え付けられていたのだ。空を睨みつけるような巨大な顔が、城壁と一体化してぬっとそびえ立っている。
「な、なんだぁ……この悪趣味な顔面城は……」
ルパンが目を点にし、次元は呆れたように煙草をくわえ直す。五ェ門にいたっては「……奇怪なり」と眉をひそめて刀の柄に手をかけた。
だが、その不気味なスケッチを凝視していた伊庭の脳裏に、先ほど学園長が読み上げた古文書の一節が、激しい閃光となってフラッシュバックした。
「……天にそびえる、眼」
伊庭の呟きに、ルパンがハッと息を呑んだ。
「っ……! そういうことかよジイさん! 天守閣のてっぺんにある、あの馬鹿デカい顔の『眼』のことか……!」
「うむ。いまだ『竜の角』の謎は解けておらんが……これで、学園から奪われた『青き炎』と、あの出城の『天にそびえる眼』の2点が、完全に一本の線で繋がったな」
ここまでの符号の一致は、もはや単なる偶然では片付けられない。
いよいよ、あのドクタケ城の怪しげな出城に、自分たちをこの時代へ縛り付けている時空の歪み――『白きたまゆら』を引き起こす、何らかの重大な関連があることを、その場にいる全員が確信した。
「決まりだな。あの顔面野郎の鼻っ柱をへし折って、お宝と未来への切符、まとめて奪い返してやろうじゃねえか」
ルパンがニヤリと大怪盗の不敵な笑みを浮かべる。伊庭もまた、鋭い軍人の目付きで頷いた。
「ああ。これより我々自衛隊も全面協力する。ドクタケの出城へ向け、作戦行動を開始するぞ」
【裏切りの芽】
こうして、忍術学園から奪われた『青き炎(宝石)』と『硝石』の奪還、そして未来へ帰る手がかりの捜索を目的とした、ドクタケ出城への合同潜入・攻略作戦が瞬く間に立案された。
「作戦はシンプルだ。俺たち自衛隊と忍術学園の面々が、正面から派手に出城へ攻め込み、敵の戦力を引きつける。……つまりは陽動だ」
伊庭が和紙の地図の上にボールペンで真っ直ぐな線を引きながら、冷徹に告げる。
「で、その間に俺たちが、手薄になった城の内部へ忍び込み、お宝をごっそりいただくってわけだ。もっとも、最優先の目的は、まだ見ぬもう一台のタイムマシン『白きたまゆら』だけどな」
ルパンが不敵に鼻を鳴らし、次元と五ェ門もそれぞれの得物を確かめるように頷いた。表の破壊力は自衛隊が担い、裏の隠密行動はルパン一味が担う。時代を超えた奇跡の共闘は、ドクタケという共通の敵を前に、一分の隙もない理想的な二面作戦へと昇華されつつあった。
――しかし、伊庭が胸元に装着しているトランシーバーの向こう側。
作戦の大枠を通信越しに聞いていた門前の待機組の間では、伊庭のあずかり知らぬところで、どす黒く不穏な空気が音もなく鎌首をもたげていた。
ジープのボンネットに寄りかかり、遠くを睨みつけている男――矢野陸士長である。
矢野の胸中には、周囲の隊員たちとは明らかに異なる、どす黒い炎が静かに燃え盛っていた。
彼には、かつて現代の日本で、自衛隊の現状や国家への不満から『クーデター』を計画したという暗い過去があった。あと一歩で実行というところまで組織を扇動しかけたが、当時から鋭い洞察力を持っていた伊庭に事前に動きを察知され、未遂に終わらされたという経緯がある。それ以来、矢野は伊庭に対して深い屈辱と遺恨を抱き続けていた。
(せっかく、この時代において絶対的な『神の力』にも等しい近代兵器と重火器を持っているんだぞ……?)
矢野は、小隊の最後尾に鎮座する『61式戦車』の、圧倒的な威容を見つめた。
この鉄の怪物の前には、戦国時代のどんな豪傑も、強固な城壁も、ただの紙屑に過ぎない。自分たちは今、この世界のパワーバランスを根底から覆せるほどの、過剰なまでの暴力を握り締めているのだ。
(あんな退屈で、俺たちを正当に評価もしないつまらない未来に、なぜ必死になって帰る必要がある?)
現代社会に戻れば、自分はただのうだつの上がらない一兵卒だ。クーデターの傷を背負ったまま、冷遇されるだけの未来が待っている。
だが、この戦国時代ならどうだ。
この圧倒的な装備と戦車さえあれば、実力一つで世界をひっくり返し、何でも自由に手に入る。大名どころか、天下人にのし上がることだって、決して不可能な夢ではない。
仮に天下を取れなかったとしても、名のある武将の
誰に
「……フン、未来に帰るだと? 馬鹿馬鹿しい」
矢野の口元に、冷酷で歪んだ笑みが浮かぶ。
自衛隊の最新装備をフル活用し、この狂った乱世で王として君臨してやる――そのあまりにも危険な野望が、男の身を狂おしいほどに焦がし始めていた。
伊庭たちの目指す「未来への帰還」の足元で、身内の裏切りという名の時限爆弾が、今まさに静かに秒読みを開始した瞬間だった。
続く☆
【製作こぼれ話】
今回の『青き炎』ですが、実は最近、陸上自衛隊で『青い炎をバックに、擬人化した象が銃を構えて立っている』ロゴマークが発表されたのですが、『好戦的だ』などのクレームが殺到し、発表後わずか4日間で撤回されたというニュースを目にしました。
そこで、青き炎の正体をこのロゴマークを矢野が身に付けていた、という流れにしようかとも思ったのですが、それだとあまりにドクタケ側が攻められる理由がないなと思い、ボツにしました。
やはり、ドクタケ側に攻められる理由が欲しいと、こちらは劇場版忍たま乱太郎1作目と同じく『忍術学園に搬入予定だった硝石を奪われた』という事にし、そのための購入資金に学園長が持っていたサファイアで支払った。という形で、『ドクタケは攻められても仕方ない』という理由付けをいたしました。
青い炎と、象のロゴマークも時事ネタとしては面白かったんですけどね。