漫画アニメ短編集&救済の物語   作:クリリ☆

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【前書き】

 本作をここまでお読みいただき、ありがとうございます。
 ふと改めて戦国自衛隊の情報を見直したんですが、伊庭(いば)がリーダーであることは間違いないのですが、サブリーダー的な存在は『矢野』、または『県(あがた)』という見方が強く、根本はもっと別の重要な役割がある事が分かりました。
 そこで1話から名前を修正いたしました。今回はサブリーダーを『県』と設定して進めます。混乱させてしまってすいません。

 それと、前話で『竜の角』が判明するのは6話と書きましたが、こちらは今回『5話』のラストで判明いたします。こちらも前話の前書きを修正させていただきました。余計な混乱を生んでしまい、すいません。
 それでは改めて、ささやかな謎解きも含めてお読みいただければ幸いです。



忍たま乱太郎✕戦国自衛隊✕ルパン三世 霧のエリューシヴ【リクエスト作品:白きたまゆらの伝説⑤】(救済)

 

  【地下通路の銃撃戦と意外な助っ人】

 

 正面の激しい砲火の音が、地鳴りのように響いてくる。

 薄暗くひんやりとした出城の地下通路を、土井半助、乱太郎、しんべヱの3人は影のように駆け抜けていた。壁に掲げられた松明の炎が、彼らの緊迫した表情をゆらゆさと照らし出す。

 

「土井先生、この先が地下牢でしょうか……!」

 

「ああ、構造からして間違いない。だが油断するな、敵も――」

 

 土井先生が言いかけた、その時だった。通路を曲がった直後、突如として三人のドクタケ忍者が姿を現した。しかも、その手には自衛隊から提供された、無機質な鉄の光沢を放つ機関銃が握られている。

 

「曲者だ! 撃てェッ!」

 

 ――ズガガガガガガガガガッ!!!

 

 狭い地下通路に、鼓膜を狂わせるほどの爆音が反響する。凄まじい連射速度で放たれた弾丸が、石壁を砕き、火花を散らしながら迫る。

 土井先生と乱太郎は瞬時に反応して壁際に身を潜めたが、あまりの轟音と光に、しんべヱが一瞬呆然と立ちすくんでしまった。

 

「しんべヱ、伏せろ!」

 

 土井先生は叫ぶと同時に、自らの身体を投げ出すように飛び込み、そのまま抱きかかえるようにして通路の曲がり角へと滑り込んだ。

 直後、彼らがいた場所の床がバリバリと激しく抉れる。

 

「ひ、ひえぇぇ……土井先生ぇ!」

 

「大丈夫か、しんべヱ。怪我はないな?」

 

 息を荒くしながらしんべヱの無事を確認する土井。しかし、しんべヱを庇った際、土井先生の頬を一発の銃弾が容赦なくかすめていた。そこからタラリと鮮血が流れ落ちる。

 

「ああっ! 土井先生、顔に傷が!」

 

「大丈夫、かすり傷だ」

 

 乱太郎がすかさず駆け寄り、手際よく懐から四角い紙を取り出した。ペリッと剥がして、土井先生の頬の傷口に慣れた手つきでパチンとそれを貼り付ける。キャラクターものの可愛い絆創膏だった。

 

「ありがとう、乱太郎」

 

「いえ! 私も保健委員の端くれですから。これくらいの応急処置なら任せてください!」

 

 乱太郎がキリッと胸を張る。しかし、緊迫した状況に変わりはなかった。

 通路の先からは、未だに不規則な威嚇射撃の音が響いている。狭い一本道で機関銃を構えられては、いくら凄腕の土井先生と言えども、真っ向から突入して切り抜けるのは不可能に近かった。

 

「しかし、これでは先に進めないな……。何か回り道は……」

 

 土井先生が歯噛みした、その瞬間だった。

 通路の奥から、ドクタケ忍者たちの短い悲鳴が聞こえた。

 

「がはっ!?」

 

「ぐえっ……!」

 

 ドサリ、ドサリと、重い身体が地面に倒れ込む音が二つ。

 何が起きたのかと土井先生たちが角からそっと覗き込むと、そこには驚くべき光景があった。さっきまで機関銃を構えていた三人のドクタケ忍者のうち、二人が白目を剥いて卒倒している。そして残る一人の忍者が、彼らの首の後ろにピシッと手刀を当てた姿勢のまま佇んでいた。

 

「……裏切りか?」

 

 土井先生が警戒して懐に忍ばせてあった『チョーク』に手をかけた。

 すると、その生き残ったドクタケ忍者は、なぜかドクタケ頭巾の上からかけていた不自然なサングラスを指先でクイッと外してみせた。さらに口元の布をサラリと引き下ろす。

 現れたのは、端正で爽やかな青年忍者の素顔だった。

 

「――お怪我はありませんか、土井先生」

 

「えっ……利、利吉くん!?」

 

 土井先生が目を丸くして叫んだ。そこにいたのは、山田伝蔵先生の息子であり、売れっ子のフリー忍者として名高い『山田利吉(やまだ りきち)』だった。

 

「利吉くん、どうして君がこんなドクタケの出城にいるんだい?」

 

「ただの偶然ですよ。私は別のクライアントからの任務で、この出城に隠されているというある高名な『密書』を探すために、数日前からドクタケ忍者になり済まして潜入していたんです。まさか先生方が、自衛隊なんて不思議な連中と組んで正面から攻めてくるとは思いませんでしたがね」

 

 利吉は苦笑しながら、倒れたドクタケ兵から手際よく機関銃を没収していく。

 

「ちょうど良かった! 利吉さん、実はきり丸が行方不明なんです。学園を出るときには一緒だったんだけど……何か知りませんか!?」

 

 乱太郎の必死の問いかけに、利吉はふっと表情を引き締め、深く頷いた。

 

「ええ、知っています。先ほどドクタケ忍者たちが、『一人で潜入してきた忍たまを捕まえた』と、地下牢に連行されていくきり丸くんを目撃しました」

 

「本当かい! 一人で潜入した理由はともかく……無事なんだね!」

 

 土井先生の目に、安堵と、それ以上の強い闘志が宿る。

 

「よし、それじゃあ案内するよ。きり丸を助け出しましょう!」

 

 

 

  【地下牢での再会】

 

 利吉という心強い味方を得た一行は、一気に通路の奥へと進んだ。

 最奥の重々しい鉄扉の前には、二人のドクタケ忍者が槍を構えて厳重に見張りをしていた。

 

「誰だッ!」

 

「私ですよ。八方斎様からの伝達が――」

 

 利吉はドクタケの頭巾を被り直したまま、自然な足取りで近づくと、見張りが油断した一瞬の隙を見逃さなかった。

 目にも留まらぬ速さで二人の顎を掌底で突き上げ、脳震盪を起こさせて一瞬で気絶させる。流れるような無音の不意打ち。さすがはプロのフリー忍者、無駄が一切ない。

 

「ふぅ。……よし、鍵は手に入りました」

 

 利吉が身ぐるみを剥いで奪い取った大きな鉄の鍵を差し込み、ガチャン、と重々しい音を立てて牢獄の扉が開け放たれる。

 

「きり丸!!」

 

 土井先生を先頭に乱太郎としんべヱが中に飛び込むと、薄暗い牢の床に、ぽつんと座り込んでいるきり丸の姿があった。

 

「……え? 土井、先生……? 乱太郎、しんべヱも……!?」

 

 きり丸は驚きで大きな目をさらに丸くし、助けに現れた家族のような存在を呆然と見つめるのだった。

 土井先生の表情は、いつになく厳しく強張っていた。きり丸の無事を確認した直後、地下牢の空気を震わせるほどの本気の怒声が響く。

 

「――どうして一人で勝手な行動をしたんだ、きり丸!!」

 

「ど、土井先生……」

 

「ここは戦場なんだぞ! 一歩間違えればお前自身の命がないばかりか、お前を捜すために仲間や忍術学園の皆を、さらなる危険に晒すことになるんだぞ! なぜそれが分からん!」

 

 きり丸が土井先生を見ると、顔には血の滲んだ絆創膏が見えた。自分を助けるために、実際に命の危険を省みずにここまで来てくれた事を察する。

 きり丸はギュッと拳を握り締め、地面を見つめたまま唇を震わせていた。いつもなら「すんませーん」と軽口で誤魔化すはずの少年が、今にも溢れそうな涙を必死に堪えている。

 

「……だって、だってさ……」

 

 きり丸の声が、小さく微かに震えた。

 

「俺、どうしても『白きたまゆら』が欲しかったんだ……。どうしても、誰にも渡したくなかったんだよ……!」

 

「なぜそんなものを欲しがるんだ? お宝を売って大儲けするためか? いつもの内職のつもりだったというのか!」

 

「違う、違うよ!!」

 

 きり丸は叫ぶと同時に、堪えきれなくなった涙をボロボロと大きな目から溢れさせた。袖で何度も顔を拭うが、涙は次から次へと溢れて止まらない。

 

「だって……それがあれば、時間を超えられるんだろ!? 過去に行けるんだろ!?……だったら、俺の父ちゃんや母ちゃん、村の皆が戦で死ぬのを……! 燃え盛る炎の中で死んでいくのを、救えるかもしれないじゃないかっ!!」

 

「――ッ!!」

 

 その悲痛な叫びに、地下牢の空気が凍りついた。

 乱太郎もしんべヱも、そして側に佇む利吉も、かけるべき言葉を失って立ち尽くした。

 

「俺は、ただ……大好きだった人たちを、助けたかったんだ……!」

 

 きり丸は冷たい床に両手をつき、子供のように声を上げて泣きじゃくった。

 いつもがめつく、どんなに過酷な環境でも笑って逞しく生きている「摂津のきり丸」という10歳の少年の胸の奥に、どれほど深く、癒えない傷が刻まれていたか。

 

 土井先生は、その涙をじっと見つめていた。

 土井先生もまた、きり丸と同じだった。幼い頃に戦によって家を焼かれ、両親を失った戦災孤児なのだ。幾度となく枕を涙で濡らし、夜空を見上げては『もしもあの時、両親が生きていたら』と、不可能な願いを繰り返したか分からない。きり丸の、胸を引き裂かれるような今の気持ちが、誰よりも痛いほどよく分かった。

 もはや、教師としての小言など、何一つ見つからなかった。土井先生は静かに床に膝をつくと、泣き叫ぶ小さな身体を、折れんばかりの力で、強く抱き締めた。

 

「きり丸……」

 

「土井、先生……っ、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 

「きり丸。……私たちに、お前のその強い願いを、行いを止める権利なんてないのかもしれない。……でもな、私はお前と出会えて、この忍術学園でお前と一緒に過ごした時間を、心から幸せだったと思っているんだ」

 

 土井先生の胸の中で、きり丸の身体がびくりと跳ねた。

 

「私もです! きりちゃん、私もきりちゃんと、しんべヱと一緒に三人組でいられて、毎日すっごく楽しいよ!」

 

 乱太郎が涙を浮かべながら、きり丸の背中に飛びついた。

 

「僕だってそうだよ! きり丸、僕のおやつ、いつでも半分分けてあげるから!」

 

 しんべヱも涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、二人の上からきり丸をぎゅっと抱きしめる。

 

「乱太郎、しんべヱ……」

 

 土井先生は必死に自らの涙を堪えながら、きり丸の頭を優しく撫で、精一杯の言葉を絞り出した。

 

「いいか、きり丸。もしお前のご両親が生きていて、村が平和なままだったら……私たちは、お前と巡り会えなかったかもしれない。乱太郎とも、しんべヱとも、他のみんなとも、出会えなかった。だから……ご両親が死んでしまったことは、本当に悲しくて、理不尽なことだ。だけど――だからといって、お前の『今』を、どうか不幸だとは思わないで欲しいんだ……」

 

 きり丸の目から、先ほどとは違う温かい涙が溢れ出た。

 過去を奪われた悲しみは消えない。けれど、自分の周りには、今こんなにも自分を愛し、必要としてくれる温かい「家族」がいる。その事実が、少年の頑なな心を優しく解きほぐしていく。

 

「ごめん、土井先生、乱太郎、しんべヱ……。俺、俺もお前たちと巡り会えて、今本当に幸せだ……! ごめん、俺が間違ってた。皆を心配させてごめん……!」

 

「いいや、死んでしまったご両親を救いたいって気持ちは、決して間違っている訳じゃないぞ。……でも、今の幸せにも気付いてくれて良かった」

 

 土井先生は優しく微笑み、きり丸の涙をそっと拭った。

 失われた過去よりも、今ここにある絆を守る。きり丸の心に、本当の意味での救いが訪れた瞬間だった。

 

 

 

  【ドクタケ変装大作戦】

 

「さぁ、感動の再会もその辺にしておきましょう。自衛隊や父上たちが稼いでくれている時間は限られています。先を急ぎませんと」

 

 利吉が周囲を警戒しながら、優しく声をかける。

 

「ああ、そうだね。……ん? 待てよ……」

 

 きり丸を立ち上がらせた土井先生は、ふと牢の外に転がっている二人のドクタケ忍者を見つめ、ある名案を思いついた。

 

「そうだ。どうせ敵地に深く潜入しているんだ。このドクタケの衣装を借りてしまおう。幸い、あのヘンテコなサングラスをしていれば、顔なんてそうそう分かりはしない」

 

「おお! さすが土井先生、名案です!」

 

 乱太郎ときり丸が目を輝かせる。

 さっそく行動開始だ。土井先生と利吉は、気絶しているドクタケ忍者たちから素早く忍び装束を剥ぎ取った。そして身ぐるみを剥がされた憐れな敵忍たちを、そのまま地下牢の奥へと押し込み、鉄格子を閉めて重々しい鍵をガチャンと施錠する。これで当分は誰も出てこられない。

 

「よし、皆、着替えるんだ」

 

 全員でドクタケ忍者の装束に身を包み、例の独特なサングラスを装着する。

 大人の服を縮めて着たため、乱太郎ときり丸はダボダボ、しんべヱにいたっては横幅がパツパツで、なんだか丸っこい妙な生き物のようになっていたが、贅沢は言っていられない。

 

「よし、完璧(?)だな。ルパンさんたちが向かったのは上階だったな。合流して、この騒ぎに決着をつけるぞ!」

 

「「「おーーっ!!」」」

 

 きり丸を無事に取り戻し、絆を深めた4人と1人の偽ドクタケ忍者隊は、不敵な笑みをサングラスの奥に隠しながら、ルパン一味の向かった城の上階へと向かって、勢いよく階段を駆け上がり始めた。

 

 

 

  【宝物室の攻防】

 

 その頃、ルパン一味は出城の上階へと順調に歩を進めていた。

 通路の物陰から「であえ、であえー!」と飛び出してきたドクタケ忍者の見張りを、ルパンはひょいと身をかわして足を引っ掛け、次元が背後からガツンと銃床で殴り倒す。五ェ門にいたっては、抜刀すら執り行わず、鞘のまま敵の鳩尾を突いて軽くあしらっていく。正面の陽動が完全に効いているおかげで、上階の警備は実にもろかった。

 

「へへっ、楽勝楽勝。……お、お目当ての場所は、どうやらここらしいぜ?」

 

 通路の最奥、ひときわ重厚な観音開きの扉の前でルパンが足を止めた。

 扉の正面には、いかにもドクタケの役人が書いたような、いびつな文字の看板が掲げられていた。

 

『宝物室につき、関係者以外立ち入り禁止』とデカデカと書かれている。

 

「ふふふふふっ! 親切だねぇドクタケ城。泥棒に『ここにお宝があります』ってわざわざ教えてくれちゃって」

 

 ルパンが肩を揺らして吹き出す。

 

「よし、じゃあお言葉に甘えて、関係者以外が入らせてもらおうじゃねえか!」

 

 ルパンがニヤリと笑い、ノブに手をかけて扉を勢いよく押し開けた。

 

 ――ガガガガガガガガガガガガッ!!!

 

「うおっとォ!?」

 

 開いた瞬間、看板の抜けた空気とは打って変わり、鼓膜を震わせる本物の銃火が炸裂した。

 ルパンは慌てて首を引っ込め、扉の陰へと飛びのく。直後、彼が立っていた背後の木壁が一瞬にしてハチの巣に変えられ、木屑が激しく飛び散った。

 

「ちっ、これじゃ中に入れねえ! 待ち伏せされてやがる!」

 

 宝物室の入り口は、ドクタケのおまぬけさとは完全に無縁の、鉄壁の要塞と化していた。

 中には固定された頑丈な三脚に据え付けられた機関銃と、それを構える自衛隊員が3名、完全に引き金を引いた状態で待ち構えていた。

 矢野がここを最重要拠点と見なし、配置した銃器のプロフェッショナルたちだ。入り口の狭い空間は完璧にロックオンされており、ネズミ一匹通る隙もない鉄の弾幕が張られている。

 

「どうするルパン、これじゃ入れねえぞ?」

 

 次元が壁に背を預け、愛銃のシリンダーを確認する。

 

「いや、正面がダメなら……。ここは拙者に任せてもらおう」

 

 静かに進み出たのは、石川五ェ門だった。

 五ェ門は弾丸の嵐が吹き荒れる入り口をそっと離れ、宝物室の側面の土壁へと素早く回り込む。そして、愛刀・斬鉄剣の柄にそっと手をかけた。

 

 呼吸を整えること一瞬。

 

 閃光が走る。次の瞬間、ギガガガと不気味な音を立てて、宝物室の頑丈な土壁が綺麗な四角形にくり抜かれ、ドサリと内側へ倒れ込んだ。五ェ門の手によって、完全に想定外の「新しい入り口」が作られてしまったのだ。

 

「な、何ィっ!?」

 

 側面から突如として現れた五ェ門の姿に、機関銃を乱射していた自衛隊員たちの動きが、驚愕のあまり一瞬だけ完全に停止した。プロとしての確実な防衛体制を敷いていた彼らにとって、壁そのものを切り抜いて侵入してくる剣士など、完全に計算外だった。

 

「ハァッ!!」

 

 そのわずかな隙を、稀代の剣豪が見逃すはずがない。

 五ェ門は風を置いて飛び込むと、目にも留まらぬ高速の居合いを放った。

 

 ――ザザザザザザザザッン!!!

 

 激しい金属音が宝物室に響き渡る。五ェ門がやたらめったらバラバラに切り付けた瞬間、自衛隊員たちが頼みにしていた固定式機関銃が、まるで大根か何かのように細切れにされ、床へバラバラと崩れ落ちた。

 

「おのれ、これならどうだ!」

 

 武器を失った隊員たちが、すぐさま咄嗟の判断で懐の小銃(拳銃)へと手を伸ばす。

 

――ババァン! ババァン! ババァン!

 

 しかし、彼らが引き金を引くより早く、部屋の外から次元大介のコンバット・マグナムが火を噴いた。放たれた3発のマグナム弾は、狂いのない正確さで隊員たちの手元を撃ち抜き、その小銃だけを綺麗に空中へと弾き飛ばした。

 

「しまっ――」

 

 完全に丸腰となり、動きの止まった3人の自衛隊員。その中心を、再び五ェ門の身体が滑るように通り抜ける。

 すれ違いざま、空間を十文字に切り裂くような、あまりにも繊細で容赦のない超高速の剣閃が幾重にも煌めいた。

 

 ――チィン。

 

 五ェ門が刀を鞘に収めると同時に、奇妙な音が部屋に響いた。

 自衛隊員たちが「くっ、お見事……」と口々に呟き、観念したように直立不動の姿勢を取る。刹那。

 ハラハラハラ……と、彼らが身に付けていた自衛隊の迷彩服、防弾ベスト、ベルト、下着に至るまでのすべてが、細かな紙吹雪のようにバラバラに裂け散り、床へと崩れ落ちた。ものの見事に、3人揃って完全なる全裸にされてしまったのだ。しかし、そこは鍛え上げられた本物の軍人。衣服をすべて失い、一糸まとわぬ姿になっても、彼らは局部を隠そうともせず、軍人としてのプライドを保ったまま、胸を張って堂々と立っていた。

 だが、奇妙な静寂のなか、時間差で最後の破滅が訪れる。

 

 真ん中に立っていた堀一等陸士の顔に、辛うじてまだ残っていた現代の「サングラス」。それが――パキッ、と小さな音を立てて真っ二つに割れ、床に落ちた。

 

「あ……」

 

 サングラスという、顔を隠す「最後の砦」を失ったその瞬間。堀の脳裏に、それまで軍人精神で抑え込んでいた現代人としての猛烈な恥ずかしさが、津波のように一気にこみ上げてきた。

 

「い、いやんっ!!」

 

 突然、堀はクネクネと内股になり、両手で必死に胸と股間を隠した。釣られるように残りの2人も「うわあああ!」と顔を真っ赤にし、全身を必死に隠しながら、ドタドタと情けない悲鳴を上げて部屋の奥へと逃走していった。

 

 静まり返った宝物室。

 五ェ門は、逃げていく全裸の背中を冷ややかな目で見送ると、ぽつりと寂しげに呟いた。

 

「……また、つまらぬ物を斬ってしまった」

 

「いやいや五ェ門、ナイスだぜ! これでお宝は俺たちのモノだ!」

 

 ルパンが笑いながら部屋に足を踏み入れ、乱雑に置かれたお宝の箱へと目を輝かせるのだった。

 

 

 

  【二つの宝石と、奇妙な再会】

 

 ドクタケ兵の全裸逃走によって静まり返った宝物室で、ルパン、次元、五ェ門の3人は、うずたかく積まれた金銀財宝や古文書をひっくり返していた。

 

「ちっ、金ピカの茶釜だの、成金趣味の屏風だのは山ほどあるが、お目当てのモンがねえな……」

 

 次元がタバコを咥え直しながら、乱雑に箱をあさる。

 

「いや、待て。……これだぜ、次元」

 

 ルパンが宝物棚の最奥から、周囲の派手な財宝とは一線を画す、古びた桐の箱を見つけ出した。厳重に巻かれた真田紐を器用に解き、そっと蓋を開ける。

 中には、絹の布に包まれた二つのまばゆい輝きが並んでいた。一つは深海の如き妖しい光を放つ「青い宝石」。そしてもう一つは、光を鋭く乱反射させる大粒の「ダイヤモンド」だった。

 

「お、こいつは……間違いねえ、じいさん(学園長)の宝石だ。こいつは返してもらうぜ。あと、こっちのダイヤモンドは手間賃として、俺がありがたーく頂戴しとくわ」

 

 ルパンがニカッと笑って二つの宝石をジャケットの懐にしまい込んだ、その時だった。

 バタバタと騒がしい足音が廊下から響き、宝物室の入り口に、ずんぐりむっくりした体型のものを含む、怪しいドクタケ忍者の一団がなだれ込んできた。

 

「チッ、新手か……!」

 

 次元が瞬時に腰のコンバット・マグナムを引き抜き、銃口をピシャリと先頭の忍者に向けた。五ェ門もまた斬鉄剣の柄に手をかける。

 緊迫した空気が走った瞬間、ドクタケ忍者のうちの一人が、慌てて両手を大きく振った。

 

「パパ! 待って、私たちですよ!」

 

「……あ?」

 

 聞き覚えのある子供の声に、次元が引き金を引く指を止める。

 一団が揃ってヘンテコなサングラスを外すと、そこから現れたのは、乱太郎、しんべヱ、きり丸、そして土井先生と利吉の素顔だった。

 

「なんだ、乱太郎にお前たちか! 驚かせやがって。ドクタケの衣装が妙にサマになってるじゃねえか」

 

 ルパンがホッと胸を撫で下ろす。次元も「パパって呼ぶのはよせ」と照れくさそうに銃を収めた。

 

「で、どうだ? もう一人の迷子は無事に見つかったのか?」

 

「はい! すいませーん、ご心配をおかけしました!」

 

 ひょっこりと顔を出したきり丸が、すっかりいつもの調子を取り戻した様子で、頭をかきながら軽快に笑って挨拶をする。現金なもので、ルパンたちの後ろにある金銀財宝に、すでにその目がキラーンと一文銭の形に輝いていた。

 

 

 土井先生が衣服のサイズを気にしながら一歩前に出て、真剣な表情でルパンに問いかけた。

 

「それで、ルパンさん。例のものは見つかったんですか?」

 

 ルパンは一瞬、懐の宝石に手を当てたが、少し困ったように眉を下げて首を振った。

 

「いや、それがな……。じいさんの『青き炎(青い宝石)』の方は無事に見つかったんだが、お目当ての『白きたまゆら』の方が、ここには見当たらねえんだ」

 

 

 その時だった。

 ルパンの脳裏に、ピキィンと鋭い閃きが走った。名探偵をも手玉に取る大泥棒の頭脳が、戦国と未来、そしてドクタケというすべての要素をパズルのように組み合わせ、一つの完璧な悪知恵を弾き出したのだ。

 

「――そうだ。ヒッヒッヒ……良いことを思い付いたぞ」

 

 ルパンの口元が、実に悪辣で、それでいて最高に楽しそうな泥棒の笑みに歪む。

 

「もしかしたら、これを使えば、未来の科学力をカサに着た魔毛のヤツを、完膚なきまでに騙して出し抜けるかも知れねえ。お前たち、ちょっと耳を貸してくれ」

 

「え? なに、なに?」

 

 乱太郎、きり丸、しんべヱがトコトコと近づき、土井先生や利吉、次元たちもルパンを囲むようにして円を作った。

 ルパンは声を潜め、不敵な笑みを浮かべながら指を立てた。

 

「……かくかくしかじか、しかじかかくかく、ってわけよ。どうだい?」

 

 その前代未聞のトリック、そしてドクタケの変装を極限まで活かしたルパンの作戦を聞いた一同は、一瞬呆然とした後、一斉に顔を見合わせてニヤリと笑った。

 

「なるほど……! それは面白い、やってみよう!」

 

 土井先生が感心したように声を弾ませる。

 

「分かりましたーーっ!!」

 

 忍たまたちの元気な声が宝物室に響き渡った。

 

 時空を歪め、この時代を支配せんとする狂気の未来人・魔毛狂介との最終決戦に向けて、連合軍の仕掛ける「最後にして最大の罠(ステージ)」の作戦が、ついに決行されようとしていた。

 

 

 

  【現れた鉄の怪物】

 

 その頃、ドクタケ出城の正面。

 自衛隊残存部隊の放つ小銃の弾幕と、食満留三郎や七松小平太ら忍たま上級生たちの凄まじい大立ち回りによって、連合軍は完全に戦況を支配しつつあった。煙幕の向こうでドクタケ兵たちは右往左往し、防衛線は崩壊寸前。

 

 勝機が見えた、そう誰もが確信しかけたその時――。

 

 ――ズゥゥゥゥン……!!

 ――ズゥゥゥゥン……!!

 

 地響きが戦場全体の空気を震わせた。城門の奥、五色の煙幕を強引に引き裂きながら、ずっしりとした重金属の塊がその凶悪な姿を現す。

 キャタピラが土をえぐり、黒煙を吐き出しながら進み出てきたのは、伊庭たちの小隊から離反した矢野陸士長たちが駆る、自衛隊の誇る最強兵器・61式戦車だった。

 

「――撃てッ!」

 

 戦車の中から矢野の冷酷な号令が飛ぶ。

 直後、長い砲身から、鼓膜をぶち破るほどの爆音とともに主砲が発射された。

 

 ――ズガァァァァァァン!!!

 

 凄まじい閃光と爆風。放たれた砲弾は、前線に設置されていた自衛隊の防壁も、忍たまたちが隠れていた巨大な岩をも一瞬で文字通り木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

 近代兵器の頂点とも言えるその圧倒的な火力に、それまで勢いづいていた連合軍の流れが一気に止まる。

 

「矢野の野郎、ついに切り札を引っ張り出しやがったか……!」

 

 伊庭が銃を構えたまま、歯噛みしてその鉄の怪物を睨みつけた。戦国時代の足軽はおろか、超人的な忍たまたちでさえも、その圧倒的な威容と破壊力を前にして、一瞬身体を硬直させ、本能的な戦慄を覚えていた。

 

 

 

  【予言の真実と「竜の角」】

 

 誰もが言葉を失う中、前線で一人の忍たまが、モソモソと静かに、しかしよく通る声で呟いた。

 六年い組の図書委員長、中在家長次(なかざいけ ちょうじ)である。

 

「……。……なんだ、あれは。まるで……古い絵巻物で見た、異国の伝説にある『ドラゴン』のようだ……」

 

 普段は無口で無表情な長次が、図書委員長としての膨大な知識の引き出しから紡ぎ出したその言葉。それを近くで聞いていた学園長が、ハッと目を見開いた。

 

「なにぃっ!? ドラゴンじゃと!?」

 

 学園長は、この地に古くから伝わる【白きたまゆらの伝説】の一節を思い出していた。

 

 

『天にそびえる(まなこ) その懐に青き炎 竜の(つの)砕けるとき、白きたまゆら時を貫く』

 

 

 その様子を見て、すぐ側にいた伊庭の頭の中にも、バラバラだったパズルのピースが音を立てて繋がっていくような衝撃が走る。

 

「『竜の角』とは……まさか、俺たちが現代から乗ってきた『戦車』のことだったのか……!」

 

 言われてみれば、深い緑色の迷彩を施された戦車の、地を這う圧倒的な巨躯は竜のようにも見える。そして、まっすぐに前方を睨み据える長い砲塔は、天を突く竜の「角」そのものではないか。

 

「……すべては、最初から予言されていたっていうわけか」

 

 伊庭が苦笑しながら、冷や汗の流れる顎を拭う。

 

「どうしますか、伊庭三尉!」

 

 県(あがた)が、迫り来る戦車の砲撃を警戒しながら必死に叫んだ。

 

「どうもこうもない! 『竜の角砕ける時』って言われてるんだ、未来に帰るためには、あいつを破壊するしかないだろう!」

 

「破壊って……! 帰った後は間違いなく始末書ものですね!」

 

「生きて帰れなきゃ始末書もクソもないだろうが!」

 

 自衛隊員たちが極限状態のジョークを交わしながら、それぞれの武器に弾薬を装填し直す。

 敵の手に渡った最強の盾であり、最強の矛。しかし、これを突破しなければ全員の未来は閉ざされ、きり丸たちが守ろうとした「今」もまた、矢野の野望によって蹂躙されてしまう。

 

「あいつの足回りを止めるぞ! 総力戦だ、竜退治といこうじゃねえか!」

 

「うむ! 忍術学園の底力、とくと見せてくれよう!」

 

 山田先生の鋭い一喝とともに、再び忍たまたちが、そして自衛隊の残存部隊が、命を賭して戦車へと向かって一斉に走り出した。

 地を轟かせる戦車との、文字通りの最終決戦の幕が切って落とされた。

 

 

続く☆

 

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