漫画アニメ短編集&救済の物語   作:クリリ☆

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忍たま乱太郎✕戦国自衛隊✕ルパン三世 霧のエリューシヴ【リクエスト作品:白きたまゆらの伝説⑥完結】(救済)

 

  【竜の角破れる時】

 

 ――ズガァァァァン!!!

 ――ズドォォォォン!!!

 

 ドクタケ出城の前に、絶望の爆音が連続して轟いた。

 矢野陸士長らの駆る61式戦車は、まさに地上に降り立った鋼鉄の悪竜だった。戦国時代の木柵など、その巨大なキャタピラの前には防壁の役すら果たさず、マッチ箱のように容易く踏み潰されていく。

 

「撃て! 撃ち続けろ! この戦が俺たちが天下人になる第一歩だ!」

 

 砲塔のハッチから身を乗り出した矢野が、狂気に満ちた声を張り上げる。

 主砲が火を噴くたびに、戦場に激烈な爆風と土煙が舞い上がり、ドクタケ兵も自衛隊員も、そして忍たまたちも、文字通り蜘蛛の子を散らすように四方八方へと逃げ惑うしかなかった。

 

「ひええええ! 敵わない、あんな化け物、どうすればいいんだ~っ!」

 

 前線にいた下級生たちが頭を抱えて悲鳴を上げる。

 どれほど優れた忍びの体術であっても、数tの鉄塊と、音速を超える砲弾を前にしては無力に見えた。戦況は完全に、近代兵器という圧倒的な「力」に支配されようとしていた。

 

 だが、その絶望の戦場に、場違いなほど明るく豪快な笑い声が響き渡った。

 

「がはははは! いいねえ、実にいい勢いだ! これぞまさに、男の鍛錬にふさわしい!」

 

 土煙を割って飛び出してきたのは、会計委員長、潮江文次郎(しおえ もんじろう)だった。

 あろうことか彼は、まっすぐにこちらを向いた戦車の主砲の正面へと躍り出たのだ。

 

「おいお前! 何を考えている、下がれ!」

 

 伊庭(いば)三尉が叫ぶ。

 しかし、容赦なく放たれた次の一発――赤黒い炎をまとって迫り来る、死の砲弾。その恐怖の塊を前にして、不敵にニヤリと笑うと、自らの両腕を綺麗に揃えて前に突き出した。忍術学園名物、恐怖の「バレーボール」の構えである。

 

 ――ドガァァァンッ!!

 

 凄まじい衝撃波。しかし、文次郎の超人的な筋肉と体術は、飛んできた砲弾の威力をその両腕で見事に吸収してみせた。そればかりか、柔らかく膝を使い、砲弾を真上へと高く放り上げたのだ。完璧な「レシーブ」だった。

 

「な、何ィっ!?」

 

 戦車の中の矢野が、信じられないものを見たというように目を見開く。

 

 上空へと跳ね上がった砲弾の落下点に、すかさず滑り込んできたのは、中在家長次だった。長次は無表情のまま、頭上に両手を掲げると、指先だけでその熱い砲弾をピシャリと捉え、寸分の狂いもない軌道で横へと弾き出した。流れるような「トス」。

 

 その完璧なトスの先に、猛烈な勢いで空中へ跳ね上がった影が一つ。体育委員長、七松小平太(ななまつ こへいた)が、これ以上のない最高のタイミングで空中へと静止する。

 

「いけいけどんどーん!!」

 

 バチンッ!!! と、戦場全体に人間技とは思えない打撃音が炸裂した。

 小平太の強烈な「アタック」によって叩きつけられた砲弾は、あろうことか発射された時以上の速度で弾き返され、61式戦車のすぐ目の前の地面へと突き刺さり、大爆発を起こした。

 

 ズドォォォォン!!!

 

 直撃こそ免れたものの、至近距離での爆風により、数十tの戦車の巨体がグラリと大きく揺らぐ。現代の軍人たちの常識を遥かに超越した、忍たま最上級生による奇跡の「排球連携」だった。

 

「チッ、仕留め損なったか、ならばッ!」

 

 小平太は再び戦車の前に躍り出る、その両手には無機質な鉄の光沢を放つ二丁の苦無が握られている。

 

「戦車を止めるにゃ、足元をすくうのが一番よ! いけいけどんどーん!」

 

 小平太は戦車の進行方向へと回り込むと、信じられない速度で地面へと両手の苦無を突き立てた。

 

 ――ザザザザザザザザザザザザザッ!!!

 

 もはや人間の動きではない。残像が残るほどの超高速で二丁の苦無が振るわれるたび、大量の土砂がまるで噴水のように空中へと跳ね上がり、たちまちの内に幅数メートル、深さ数メートルに及ぶ巨大な「落とし穴」を掘り上げてみせた。

 

「なっ、バカな、いつの間にあんな穴が――制動(ブレーキ)が間に合わんッ!」

 

 操縦手の悲鳴が車内に響く。

 急ブレーキをかけるも、数十tの慣性は止まらない。

 ズガガガガと土の斜面を削りながら、61式戦車の前部が、小平太の掘った巨大な落とし穴へと完全に突っ込み、斜めに傾いた状態でズドンと停止した。キャタピラは空を切り、駆動輪が虚しく空回りする。

 

「矢野さん! 戦車が、走行不能です!」

 

 暗転した車内で、隊員の必死の叫びが響く。

 

「チクショー! 忍術学園の上級生は、どいつもこいつも化け物か……!」

 

 ハッチを蹴り開け、煤まみれになりながら外へと這い上がってきた矢野。しかし、その頭上には、すでに無数の銃口と、鋭い抜刀の刃が突きつけられていた。

 それだけではない。矢野の背後からは、城内でのルパン一味との戦闘により、衣服をすべて失って全裸のまま、必死に股間を隠しながら逃げ出してきたドクタケ側の隊員(堀たち)も、すでに忍たまたちの手によって一網打尽にされていた。

 

「動くな。そこまでだ、矢野」

 

 煤煙の中から静かに歩み出てきたのは、伊庭三尉だった。自衛隊の残存部隊、そして山田先生や学園長までもが、矢野たちを完全に取り囲む。

 矢野をはじめとする反乱分子、そして全裸の隊員たちは、全員が容赦なく後ろ手に縛り上げられ、地面へとへたり込まされた。

 

「矢野。お前の野望も、これで終わりだ」

 

 伊庭が冷徹な声で告げる。

 

「くっ……、殺せ!」

 

 地面を睨みつけ、悔しげに歯噛みしながら矢野が言い放った。その言葉に、伊庭は静かに首を振った。

 

「いいや。お前をここで殺すのは俺の役目じゃない。お前は現代に連れ帰って、軍事裁判、いや、しかるべき裁判を受けてもらうぞ」

 

 それを聞いた県(あがた)が、少し驚いたように問いかける。

 

「いいんですか、伊庭三尉。このまま連れ帰るのは危険では……」

 

「ああ、いいんだ、県。俺たちは未来の法治国家に生きる人間だ。どんな悪党であれ、私刑(リンチ)は許されない。こいつの裁きは、現代の法律と、裁判に委ねよう」

 

 伊庭のその言葉には、戦国という狂気の時代に流されず、自分たちが「未来の人間」であるという誇りと理性が、毅然と込められていた。

 

 

 

  【大泥棒のハッタリと、消える忍者】

 

 その頃、ドクタケ出城の外――。

 夕闇が迫る戦場を見下ろすようにそびえ立つ、巨大でどこか不格好な石像があった。ドクタケ城主・木野小次郎竹高の姿を模した、あの悪名高き巨大彫像である。

 その頭頂部に、ルパン三世、次元大介、石川五ェ門の3人は不敵に立ち並んでいた。

 

「おーい! 魔毛の野郎ーーっ! 聞こえてんだろ!」

 

 ルパンが両手をメガホンのようにして、虚空に向かって大声で叫ぶ。

 

「取ってきてやったぞ! てめえの欲しがってた戦国のタイムマシン、『白きたまゆら』をよぉ!」

 

 そう言ってルパンが懐から取り出し、天にかざしたのは、先ほど宝物室で見つけたばかりの大粒の『ダイヤモンド』だった。戦国の夕日に照らされ、まばゆい輝きが周囲を照らす。

 直後、彫像の周りの空間がぐにゃりと歪み、激しい電子音とともに、光の粒子をまとったあのタマゴ型のタイムマシンが上空へと姿を現した。中には、狂気的な笑みを浮かべた魔毛狂介が乗っている。

 

「ヒャーッハッハッハ! 見つけたかルパン! やはり私が見込んだ通りの大泥棒だ! ……だが、それが手に入ったならば、もうお前は用済みだ!!」

 

 魔毛がルパンをこの時空から消し去るべく、手元の操作パネルに指をかけた、まさにその瞬間だった。

 

「おのれルパン! そいつはドクタケの物だーっ!」

 

 彫像の足元から、空気を読まないドクタケ忍者が数名、刀を振りかざしてルパンへと襲いかかってきた。

 

「おっと、危ねえ!」

 

 ルパンはニヤリと不敵に笑うと、手にしたダイヤモンドを、突撃してくるドクタケ忍者に向けてビシッと力強くかざした。

 

 ――ドォォォォンッ!!!

 

 刹那、凄まじい爆発音とともに、白い煙幕が辺り一面に激しく立ち込めた。

 魔毛が「何ごとだ!?」と目を凝らし、やがて風に吹かれて煙幕がさっと晴れたとき――そこには、さっきまで確かに存在していたドクタケ忍者の姿が、影も形もなく、綺麗さっぱり消え去っていた。

 

「な、何だと……!?」

 

 魔毛の顔から余裕の笑みが消える。

 

「どうだい魔毛! お前が現代で俺たちにやった事と、全く同じことをしてやったぜ! こいつ(ダイヤモンド)の力で一瞬にして過去に戻り、今のドクタケ忍者の『ご先祖様』を消しちまったのさ! だから、今ここにいた忍者は存在自体が消滅したんだよ!」

 

「貴様っ……! 小癪な真似を!」

 

「まだまだ行くぜぇ!」

 

 ルパンが叫ぶと、再び別のドクタケ忍者が「であえー!」と彫像の影から飛び出してきた。だが、ルパンが再びダイヤモンドをかざすと、またしてもにわかに激しい煙幕が上がり、その忍者の身体も露のように一瞬で消え失せてしまった。

 

 もちろん、これは裏で仕組まれたルパンの「かくかくしかじか」の作戦である。ドクタケ衣装に変装した乱太郎、きり丸、しんべヱがタイミングを合わせて煙幕の宝禄火矢を放ち、襲いかかったフリをした利吉が、超一流の隠れ身の術と変わり身の術で変装した乱太郎たちごと一瞬で物陰へと連れ去るという、忍術学園総出の「超スピード神隠しトリック」なのだった。

 

「消えるぜぇ! 俺に近づいた奴は、みーんな歴史の彼方に消えちまうんだぞォ!」

 

「……なるほど、間違いなく本物の『白きたまゆら』らしいな!」

 

 魔毛は完全に騙され、眼下のダイヤモンドを欲望のギラついた目で見つめた。

 

「だが、そんな時間移動の手段、最初からタイムマシンを持つこの私に通用すると思っているのかね!?」

 

「あぁ、分かってるよ。だからよぉ……こいつは無条件で、てめえにくれてやるぜ!!」

 

 そう言うと、ルパンは手の中のダイヤモンドを、誰もいない彫像の下に投げ捨てた。

 

「ああっ!? 馬鹿者! そんな、タイムマシンを雑に扱うんじゃないっ!!」

 

 魔毛は慌てて操作パネルを操作し、タイムマシンを瞬間移動させた。

 キィンという電子音とともに、放り投げられたダイヤモンドの軌道の先へと一瞬で先回りし、空中できれいにその宝石を両手でガシッと掴み取る。

 

「ハハハ! 手に入れたぞ! これですべての時代は私の――」

 

 魔毛が掴んだ宝石を凝視し、本物かどうかチェックしようと、わずかに注意がそちらに向いてしまった。

 

 ――その、一瞬の隙。

 

「――そこだッ!!」

 

 夕闇の木々の中から、爆発的な踏み込みとともに、一条の影が虚空へと跳ね上がった。

 忍術学園の誇る凄腕実戦教師、土井半助である。

 驚異的な跳躍力で空中を舞った土井先生は、宙に浮いていた魔毛のタイムシンの座席へと、正確無比に飛び移ってみせた。

 

「あ、貴様ぁっ!? 」

 

 気配に気づいた魔毛が驚愕して振り返る。

 

「お前がいくら瞬間移動できると言っても、出てくる場所さえ分かればどうとでもなるさ!」

 

 体術において、土井先生の右に出る者など忍術学園にもそうはいない。ましてや、現代や未来の科学力に頼り切り、ろくに身体を鍛えてもいない魔毛狂介など、土井先生の敵ではなかった。

 土井先生は流れるような身のこなしで魔毛の背後に回り込むと、その両腕を強引に引き絞り、完璧な極め技で身動きを封じた。

 

 みしり、と骨が鳴るような音が響き、魔毛のタイムマシンは完全にコントロールを失った。

 

「さっすが土井先生、ナイスな早業だ」

 

そうしてタイムマシンの全機能が完全に停止し、機体は静かに地上へと不時着した。

 

「ぐ、うおっ……離せ! 離さぬか! この野蛮な過去人がぁっ!」

 

「これで終わりだな、魔毛。お前の歪んだ野望も、ここまでだ」

 

 土井先生の凛とした一喝が、戦場の夕暮れに響き渡るのだった。

 

 

 

  【悪党たちの夢の跡】

 

 ドクタケ出城の正面広場には、すでに多くの人々が集まっていた。

 夕暮れの中、松明の炎がパチパチと音を立てて周囲を照らし出す。

 そこへ、がっくりと肩を落とした魔毛狂介が、土井先生と利吉によって引き連れられてきた。魔毛の腕は、先ほどの自衛隊の反乱分子たちと同様に、頑丈な麻縄で後ろ手にきつく縛り上げられている。

 

「おい、並べ。大人しくするんだ」

 

 伊庭が厳しい声で促す。

 広場の中央には、すでに忍たまたちに捕らえられた矢野陸士長をはじめとする反乱自衛隊員たち、そしてルパンに身ぐるみを剥がされて全裸のまま縄でグルグル巻きにされた堀一等陸士たちが、一列にズラリと並べられていた。

 そこへさらに、未来の犯罪者である魔毛狂介が付け加えられる。

 

「くそっ……! この私が、こんな時代遅れの連中に不覚を取るなど……! ルパン、お前、あの宝石は偽物だったな!?」

 

 縛られたまま、魔毛が地面に転がるダイヤモンドを睨みつけて叫ぶ。

 

「へへっ、気づくのが遅せえんだよ。ありゃ何の変哲もねえただのダイヤさ。『白きたまゆら』はお前自身が発明したタイムマシンを指してたんだよ」

 

「そんな、それじゃ俺のやってきた事は……」

 

「ああ、全くの無駄骨だったって訳だ」

 

 彫像から飛び降りてきたルパンが、ジャケットのポケットに手を突っ込みながら、いたずらっぽくウインクしてみせる。

 

「矢野に、魔毛か。時代を狂わせようとした悪党どもが、綺麗に揃ったな」

 

 次元がタバコに火をつけながら、並んだ男たちを見下ろした。

 

「伊庭三尉、これで本当に、すべて解決……ですね」

 

 県(あがた)が、安堵のため息をつきながら、縛られた反乱分子たちを見張る。

 

「ああ。あとは、俺たちの『未来』へ連れ帰るだけだ」

 

 夕闇が完全に戦場を包み込み、連合軍の松明の炎が赤々と燃え盛る中、後ろ手に縛られた悪党たちの処遇についての話し合いが始まった。

 矢野陸士長ら反乱部隊は、伊庭三尉の宣言通り「現代の裁判」にかけるため連れ帰ることで決着がついた。

 

「さて、それじゃあ……この魔毛の野郎はどうするか?」

 

 ルパンが顎をさすりながら、地面にへたり込んでいる魔毛狂介を見下ろした。

 

「ふむ……。タイムマシンを使った歴史改変犯罪など、俺たちがいた現代の法律でも裁きようがないな。罪状を証明する事すらできん」

 

 伊庭三尉が腕を組み、難しそうな顔で眉をひそめる。

 

「まあ、悪党の末路にはこいつが相応しいか」

 

 ルパンはニヤリと冷酷な笑みを浮かべると、ジャケットの懐から愛銃ワルサーP38を滑らかに引き抜き、その銃口をぴしゃりと魔毛の眉間に突き付けた。

 

「ヒィッ!? 助けてくれ、命だけは、命だけはぁっ!」

 

 さっきまでの傲慢な態度はどこへやら、魔毛は涙目になって無様に命乞いを始める。

 引き金に指がかかったその時、後ろで静観していた忍術学園長・大川平次渦正が「うむ」と一歩前に進み出た。

 

「ルパン殿、その男の処遇……わしに任せてもらえんか?」

 

「ん? どうするんだよ、じいさん。こんな危険な狂人、野放しにゃできねえぜ?」

 

 ルパンが不思議そうにワルサーを少し下げる。

 

「案ずるな。我が忍術学園で、こやつのひん曲がった性根を一から鍛え直してやろう。……そうじゃな、一年生からやり直しじゃ!」

 

「――は!? い、一年生だとぉっ!?」

 

 魔毛が裏返った声で絶叫した。IQ400を誇る天才科学者であるこの自分が、10歳前後の子供たちに混ざって忍者の基礎の基礎から学ばされるというのだ。これ以上の屈辱はない。

 

「ひゃーっはっは! そいつはいいや! お前にはお似合いだぜ魔毛。それじゃ、頼んだぜじいさん!」

 

 ルパンはケラケラと笑いながらワルサーを懐に収めた。

 

 

 

  【戦国に残る決意】

 

 魔毛の処遇が決まり、いよいよ別れの時が近づいていた。

 伊庭三尉が時計を確認すると、来たときと変わらず『5時18分』を指していた。

 

「では、我々はそろそろ……元の時代へ帰還する準備にかかる」

 

「――待ってください、伊庭三尉!」

 

 緊迫した声で引き止めたのは、隊員の一人である根本一等陸士だった。

 

「どうした、根本?」

 

 伊庭が怪訝そうに問いかける。

 

「伊庭三尉……俺は、この時代に残りたいと思います!」

 

「お前、正気か!?」

 

 県が慌てて割って入る。しかし、根本の目は真剣そのものだった。

 

「分かっています。……ですが、実は昨日、近くの村で戦で親を亡くした『戦災孤児』の子供たちに出会ったんです。その子たちは、誰の助けもなく、幼い者たちだけで身を寄せ合って必死に生きていました。……それを見た時、俺は放っておけなかった。だから、その子たちの『兄貴』になって一緒に生きてやるって、約束しちまったんです。……駄目でしょうか!」

 

 根本の悲痛とも言える訴えに、その場にいたきり丸が、そして土井先生がハッと胸を突かれたように目を見開いた。戦国という不条理な時代で必死に生きる孤児たちの姿は、他ならぬ彼らの過去そのものだったからだ。

 伊庭三尉はしばし沈黙し、根本の固い決意が宿る瞳をじっと見つめていた。やがて、ふっと優しい笑みを漏らす。

 

「……分かった。根本、お前の本日付での除隊を許可する」

 

「三尉! ありがとうございます!」

 

「伊庭三尉! それなら、俺もこの時代に残らせてください!」

 

 続いて声を上げたのは、もう一人の隊員、三村一等陸士だった。

 

「三村、お前までか。……理由は聞くまでもないな。あの村娘と、一緒に生きていく気か?」

 

「はい! 俺は彼女と添い遂げたいです!」

 

 三村が顔を真っ赤にしながらも、堂々と胸を張る。

 

「……よし。良いだろう、お前も本日付で除隊だ! 二人とも、それぞれの愛する者のためにしっかり生きろ」

 

 伊庭の度量に感服しつつも、県は不安を隠しきれずに囁いた。

 

「いいんですか、伊庭三尉? 彼ら二人がこの戦国時代に残ることは……歴史を、俺たちの『未来』を大きく変えてしまうかも知れませんよ」

 

「構わんさ、県」

 

 伊庭は夕空を見上げ、晴れやかな顔で言った。

 

「俺は、今の俺たちが生きていたあの未来が、人類が正解を選び抜いた末にたどり着いた最高の形だとは到底思っていない。むしろ……彼らがこの時代に種を蒔くことで、もっと良い、もっと素晴らしい未来が生まれるんじゃないかと、そう思っているんだ」

 

 伊庭は残る決意をした根本と三村の二人の肩を、強く叩いた。

 

「いいな、根本、三村。どうせ残るんだ。……俺たちがこれから帰る未来を、今より少しでも良いものにしてみせろ!」

 

「「分かりましたーーっ!!」」

 

 二人の自衛隊員は、涙を堪えながら、これ以上ないほど見事な、誇り高き敬礼のポーズをビシッと決めた。

 

 

 

  【敬礼、そして白い光の彼方へ】

 

「それでは学園長、土井先生、忍術学園の皆さん。……大変お世話になりました」

 

 伊庭三尉の号令とともに、残された自衛隊の面々(矢野たち捕虜一派を除く)が、夕闇の中で一斉に背筋を伸ばし、敬礼のポーズを取った。その姿は、時代を超えて結ばれた熱い絆の証だった。

 

「うむ。未来の日の本を、しかと頼みましたぞ」

 

 学園長が厳かに、そして慈愛に満ちた声で言葉を贈る。

 

「了解しました!」

 

 伊庭が力強く答えたその瞬間、ルパンがタイムマシンを操作し、まばゆい純白の光が広場全体を包み込む。

 光の中に溶けていく伊庭たち自衛隊の姿。

 

「ルパン! 次元に五ェ門! お前らにも世話になったな……だが、現代で会ったら、逮捕だぞ!」

 

 光の向こうから、伊庭の笑い声が聞こえたような気がした。

 

「へっ、俺がそんなヘマするかよ。あばよ、隊長さん!」

 

 次の瞬間、眩い白い光は一筋の流星となって天を貫き、彼方の未来へと消え去っていった。あとに残されたのは、静かな戦国の夜風と、新しくこの時代で生きることを選んだ二人の男、そして大泥棒と忍者たちの姿だけだった。

 

「……行っちまったな」

 

 次元がタバコの煙を吐き出す。

 

「さて、それじゃ、俺らも行くか」

 

 ルパンが次元と五ェ門を振り返った、その時だった。

 いつもは冷静沈着、硬派を貫く石川五ェ門が、忍術学園のくの一教室の担当教師・山本シナ先生と、がっしりと固く抱き締め合って最後の別れの時を惜しんでいた。

 シナ先生の、優しく美しい大人の女性の姿をその胸に抱き留め、五ェ門は静かに声を紡ぐ。

 

「山本シナ殿、さらばだ」

 

 名残惜しさを断ち切るように腕を離すと、五ェ門はそのまま一度も後ろを振り向くことなく、足元に広がる白い光の中へと毅然とした足取りで走り去っていった。

 

「五ェ門様……」

 

 切なく微笑む若い姿のまま、山本シナはその背中を、愛おしそうにじっと見送るのだった。

 一方、広場の一角では、乱太郎が次元大介との別れを惜しんでいた。短い間ではあったが、どこか臨時の親子のようでもあった二人。

 

「じゃあねパパ、身体には気をつけてね」

 

 乱太郎が寂しさを堪え、眼鏡の奥の目を潤ませながら手を振る。

 

「お前も達者でな」

 

 次元は照れくさそうにハットを深く目深に被り直し、乱太郎の頭を大きな手で手荒く、しかし優しくひと撫でした。

 その横で、ルパンは学園長の前へ歩み寄り、懐から取り出したあの深く美しい「青き炎(サファイア)」をその手へと手渡していた。

 

「それじゃ、世話になったなじいさん。なかなか楽しかったぜ」

 

 ルパンはニッと快活に笑い、ジャケットの襟を正す。

 

「ああ、お前も泥棒はほどほどにな」

 

 学園長がサファイアを大切そうに握り締め、豪快に笑って言葉を贈る。

 

「へへっ、そいつはできねえ相談だ!」

 

 ルパンの軽口を最後に、ルパンと次元の二人の身体もまた、吸い込まれるように白い光の中へと消え去っていった。大泥棒たちは、自分たちの生きるべき現代の闇へと帰っていったのだ。

 

 

 それぞれが光の彼方へと消え去り、元の戦国の静寂が戻ってきた広場。

 しんみりとした空気を破るように、ジャリジャリ……ジャリジャリ……と、金属が擦れ合う奇妙な音が響いた。

 

「この変な銭、500年経てば使えるようになるのか。とりあえず500年取っておこうっと」

 

 きり丸が、手のひらの上で見慣れない鉄の小銭を転がしながら、ニヤニヤと現金の形に目を輝かせて呟いていた。それは自衛隊の隊員たちが帰り際、県(あがた)からもらった小銭だった。

 500年後の未来では使用可能になる、その「お宝」を、きり丸は大切そうに懐へとしまい込む。

 

 その少し後ろでは、フリー忍者の山田利吉が、満足げな笑みを浮かべていた。彼の手には、どさくさに紛れて出城の宝物室から入手した、クライアントからの依頼である『密書』がしっかりと握られている。

 

「それでは父上、これで失礼します。お身体は大事にしてください」

 

 利吉がドクタケの装束を脱ぎながら、父である山田伝蔵先生に向かって一礼する。

 

「世話になったな利吉。お前も達者でな」

 

 山田先生もまた、プロの忍びとして完璧に仕事をやり遂げた息子の姿を、誇らしげに見送った。利吉は影のように、静かに戦場の闇へと消えていった。

 

 

 

  【「今」を生きる選択】

 

 やがて、一同の視線は広場の中央に遺された、魔毛狂介のタマゴ型タイムマシンへと集まった。

 学園長の手には、先ほど自衛隊の伊庭三尉たちから「最後に破壊してくれ」と預かっていた、緑色の無骨な手榴弾が握られていた。

 

「では、こいつは破壊するぞ」

 

 学園長が厳かにそう言うと、ピンに指をかけ、時空を超える狂気の機械をじっと見すえる。

 その様子を見ていた乱太郎は、ふと隣に立つきり丸の顔を覗き込み、その肘をツンツンと優しく小突いた。

 

「いいの、きりちゃん。タイムマシン、壊されちゃうよ?」

 

 タイムマシンが破壊されれば、きり丸が一度は切に願った「過去に戻って両親を救う」という可能性は、永久に失われることになる。乱太郎は親友の心を心配しての問いかけだった。

 だが、きり丸の表情に、もう迷いはなかった。きり丸は学園長の手元を見つめたまま、静かに、しかし確かな声で言った。

 

「いいんだ。もしタイムマシンに頼っちまったら、もうお前らと肩を並べて笑い合えない気がするんだ」

 

 失われた過去にすがるのではなく、今ここにある乱太郎やしんべヱ、土井先生たちとの温かい「今」を、自分の足で生きていく。それが、きり丸の出した本当の答えだった。

 

「わーい、ありがとうきり丸」

 

 しんべヱが嬉しそうに微笑む。

 

「ああ、こっちこそな」

 

 きり丸もまた、いつもの少年の顔に戻って、優しく頷き返した。

 

「――ハアッ!!」

 

 学園長の手によって安全ピンが引き抜かれた手榴弾が、タイムマシンの座席へと正確に投げ込まれた。一同が素早く物陰へと身を伏せる。

 

 直後――。

 

 ズガァァァァァン!!!

 

 

 激しい爆炎と黒煙が夜空を焦がし、魔毛狂介が遺した未来のテクノロジーは、一瞬にしてただの鉄屑へと変わり果てた。これで、過去歴史を狂わせる歪んだ繋がりは、完全に断ち切られたのだ。

 立ち上る煙の向こう、赤々と燃える炎を見つめながら、乱太郎ときり丸、そしてしんべヱの3人は、しっかりと互いの手を握り合い、明日という未来へ向かって、力強く前を見据えるのだった。

 

 

 

  【現代への帰還と、いつもの追いかけっこ】

 

 ――キィィィィィン……!

 

 耳鳴りのような電子音が収まり、視界を覆っていた眩い白い光がゆっくりと霧散していく。

 肌を刺すような夜の冷気と、戦国時代には存在し得ない、ツンと鼻を突くアスファルトと排気ガスの匂い。伊庭三尉たち自衛隊員と、ルパン三世の一味が再び目を開けたとき、そこは見覚えのある現代の薄暗い国道の上だった。

 しかし、帰還の余韻に浸る隙など、一秒たりとも与えられなかった。

 

 ウーーーウーーーッ!!!

 

 突如として、夜の静寂を切り裂くけたたましいサイレンの音が鳴り響く。

 眩いばかりの無数の赤色灯がパチパチと周囲を照らし出し、あっという間に何台ものパトカーが、現代に戻ってきたばかりの彼らをぐるりと包囲してしまった。

 

「――見つけたぞルパンッ!! 急に煙みたいに姿を消しおって、どこへ隠れてやがったァーッ!」

 

 パトカーのドアを激しく蹴り開け、トレンチコートの襟をなびかせながら飛び出してきたのは、ルパンの宿敵・銭形警部だった。手にはお馴染みの手錠を握り締め、血眼になって叫んでいる。

 

「あら!? とっつぁん……! まだいたの……」

 

 ルパンがカエルを潰したような声を上げて顔をしかめる。彼らにとっては戦国時代での長い戦いだったが、現代の時間では、ほんの一瞬の出来事だったのだ。

 

「問答無用! 今度こそ逃がさんぞ、ルパン逮捕だァーーッ!」

 

「ちっ、相変わらずしつこい野郎だぜ。次元、五ェ門、ズラかるぞ!」

 

「おいおい、帰ってきた早々これかよ」

 

「やむをえん」

 

 ルパン、次元、五ェ門の3人は、銭形が突撃してくるよりも早く、脱兎のごとく全力で国道の闇の中へと逃げ出した。

 

「待てぇ! 逃がさんぞルパン! 追え! 一斉に追うんだ!」

 

 銭形の怒号とともに、大勢の警官隊がワラワラとルパンたちの後を追いかけて走っていく。

 その大騒動の最中、銭形警部は一瞬だけ足を止め、呆然と立ち尽くしている伊庭たち自衛隊の面々に向き直ると、帽子に手を当ててビシッと力強く敬礼を決めた。

 

「自衛隊の皆さん! 演習中の任務、ご苦労様です!」

 

 それだけ言い残すと、銭形は再び「待てぇ~ルパン~!」と叫びながら、凄まじい大股で夜の彼方へと走り去っていった。

 

 

 ルパンたちが夜の国道を全力疾走で逃走するなか、不意に上空からけたたましい爆音が鳴り響いた。見上げれば、漆黒の夜空を背景に、一台のヘリコプターが低空で並走してくるではないか。ドアが開き、そこには妖艶な笑みを浮かべた峰不二子の姿があった。

 

「ルパン、大変そうね? 乗る?」

 

「もっちろ~ん、さっすが不二子ちゃん!」

 

 ルパンが満面の笑みで叫ぶと、ヘリから縄ばしごが垂らされる。3人は息を合わせてその縄に飛びつくと、一気に空へと舞い上がった。

 

「待てー、ルパン! 逃がさんぞ!」

 

 地上の銭形警部が必死に叫ぶ声が、どんどん小さく、遠ざかっていく。

 ヘリの機内に滑り込んだルパンたちに向け、不二子が小悪魔的な瞳を細めた。

 

「ところで、例のお宝は見つかったの?」

 

「はいこれ、『白きたまゆら』」

 

 ルパンは魔毛から奪い返したばかりのダイヤモンドを取り出し、軽やかに不二子へと差し出す。不二子はそれを受け取ると、満足げに微笑んだ。

 

「ありがとう、ルパン好きよ」

 

 不二子はルパンの頬に、甘いキスをひとつ落とす。ルパンがデレデレと骨抜きになっている横で、次元は深いため息をついた。

 

「やれやれ……。戦国時代まで行って、命がけでやっと手に入れたお宝を、簡単に不二子にくれちまいやがって」

 

 次元の呆れ顔をよそに、五ェ門は窓の外、遠ざかる地上を見つめながら、ぽつりと寂しげに呟いた。

 

「山本シナ殿、一目……お会いしとうござる……」

 

 戦国での激闘と別れを胸に、ルパン一味を乗せたヘリコプターは、夜の帳の彼方へ、どこへともなく飛び去っていくのだった。

 

 

 

  【金星の輝きと、動き出した時間】

 

 嵐のような警官隊が去ったあとの国道は、耳が痛くなるほどに、とても静かだった。

 遠くでかすかにパトカーのサイレンが遠ざかっていく。

 自衛隊員の一人、県がぽかんと口を開けたまま、夜の群青色に染まる空を見上げた。その瞳に、ひときわ強く瞬く美しい星の光が映る。

 

「伊庭三尉、金星が見えます。位置も、俺たちがタイムスリップする直前と、全く一緒です!」

 

「何……?」

 

 伊庭はハッとして、自らの手首に巻かれた頑丈なミリタリーウォッチに目を落とした。

 止まっていたはずの秒針が、静かに、しかし力強くチクタクと時を刻んでいる。文字盤は『5時20分』を指していた。

 

「時計も……動いているぞ!」

 

「やりましたね……! 俺たち、本当に帰ってきたんだ。元の場所に、元の時間に!」

 

 県が歓喜の声を震わせる。

 いくつかの近代装備は戦国時代に失われ、矢野たちの反乱分子はこれからしかるべき処分を受けることになる。だが、周囲の景色も、流れる空気も、あの白い光に包まれる直前と何一つ変わっていなかった。

 あまりの日常の戻り方に、あの血煙渦巻く戦国での日々や、忍術学園の子供たちと過ごした時間は、すべて自分たちが見た一場の「夢」だったのではないかとすら思えてくる。

 

「あ~……。すんません伊庭三尉、ちょっと自分、トイレ行ってきます」

 

 張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、一人の隊員が緊張感の欠片もない声を上げて、モジモジしながら国道の脇の茂みへとドタドタと駆け出していった。

 

「全く、緊張感の無いやつだ……」

 

 伊庭が呆れたようにため息をつく。

 しかし、その様子を見ていた他の隊員たちも、戦国での張り詰めた行軍から急に解放されたせいか、にわかに尿意を催し始めた。

 

「あ、俺も」「自分も行きます」「俺も俺も」

 結局、何名かの隊員たちが連鎖するようにして、立ち小便をしようと一斉に草むらの影へと向かった。

 それぞれが茂みの前に立ち、一息ついて、ズボンのチャックを下ろし、ベルトを緩めて下着をずらそうとした、その瞬間――。

 

「「「…………あ!」」」

 

 暗がりの茂みの中で、隊員たちの動きが、まるで時間が凍りついたかのように完全にストップした。

 

「おい、お前ら……どうした?」

 

 後ろで見守っていた伊庭が、妙な静寂を不審に思って声をかける。

 隊員たちは、下ろしたズボンの隙間から覗く、自らの「股間」を信じられない面持ちで見つめていた。

 そこには、現代の支給品である機能的なボクサーパンツなど存在していなかった。

 代わりに彼らの腰にがっちりと締められていたのは、戦国時代、忍術学園の忍たまたちに教わりながら、自分たちの手できつくきつく巻き付けた、あの白くて無骨な「(ふんどし)」だった。

 

「……夢じゃ、なかったんだな」

 

 誰からともなく、ぽつりと呟きが漏れる。

 ズボンを上げ、互いの顔を見合わせながら、隊員たちの口元に、どこか誇らしげで、そして最高に懐かしそうなニヤリとした笑みが広がっていく。

 褌に刻まれた戦国の泥の匂いと、確かにあの時代を駆け抜けた証。

 伊庭もまた、空に輝く金星を見上げ、胸の奥に灯った戦友たちとの絆の温もりを感じながら、新しく歩み出す現代の未来へ向かって、静かに歩き出すのだった。

 

 

 

  【エピローグ:この素晴らしい未来に祝福を!】

 

 あの大騒動から、数週間が過ぎた。

 とある休日、伊庭は自宅の自室で、パソコンの画面と向き合っていた。ふと、戦国時代に残ることを選んだあの二人の隊員――根本一士と三村一士のことが、頭をよぎったからだ。

 

「……そう言えば、あいつら、どうなったかな」

 

 歴史が変わる。伊庭は県には「構わん」と言ったものの、自分たちの「今」がどう変化したのか、やはり気にならないはずはなかった。伊庭は検索エンジンに、二人の名前と、わかる限りの情報を入力した。

 検索結果が表示された瞬間、伊庭は目を見開いた。

 二人の名前は、歴史の闇に消えることなく、現代の経済界を支える、誰もが知る大企業の創業者として、その名を燦然と残していたのだ。

 

 根本は、戦災孤児を助けたいという誓いの通り、現代で言う警備保障と福祉、そして教育を一体とした巨大グループ企業の礎を築いていた。三村もまた、愛する恋人と共に生きるため、農業技術を革新し、世界中の食糧問題を解決するアグリビジネス企業の創業者として名を刻んでいた。

 

 驚くべきは、その企業の活動内容だった。

 二人の設立した企業は、それぞれの分野でトップを走りながら、利益の多くを福祉活動やボランティア団体への多大な支援へと注ぎ込んでいた。特に、戦災孤児や、困窮する子供たちの支援には、並外れた熱意を持って取り組んでいた。

 画面を見つめる伊庭の口元に、ふっと懐かしく、そして誇らしげな笑みがこぼれる。

 

「あいつら……。俺の最後の言いつけをちゃんと守ったらしいな」

 

 褌を締めた二人の、あの誇らしげな敬礼のポーズが、伊庭の脳裏に鮮やかに蘇る。彼らは戦国時代で、現代の知識と「未来人」としての理性、そして愛する者を守るという強い意志を持って、真摯に歴史を紡いだのだ。

 伊庭はさらに検索を続けた。歴史改変の影響は、思わぬところにも及んでいた。

 

 

 伊庭の指が、検索画面のある一つの名前で止まった。

 そこには、あの狂気の未来人、魔毛狂介の名前までもが、現代のIT・テクノロジー企業の創業者として、歴史に残っていたのだ。その検索結果をさらに詳しく調べた伊庭は、再び目を見開いた。

 

 魔毛が興した企業もまた、二人の隊員の企業と同様に、莫大な利益を投じて、全国にいくつもの孤児院を運営したり、子供の医療支援や福祉活動を積極的に行っていると、記載されていたのだ。

 それを見て、伊庭は思った。

 

「……なるほど。狂気の天才も、学園長や山田先生、土井先生、そして『一年は組』の面々に、骨の髄まで性根を叩き直されたようだな」

 

 きっと、毎日草むしりをさせられ、補習授業を受け、強烈な個性の子供たちに翻弄される中で、魔毛もまた、何か大切なものに気づいたのだろう。未来の力で支配するのではなく、今を生きる子供たちの未来を守るために、その知能を使うことを。

 

 

 伊庭はパソコンを閉じた。部屋の窓から、現代の東京の街並みが見える。

 彼ら三人が過去に残した足跡によって、自分たちが生きていたはずの未来は、以前よりもほんのちょっとだけ、良くなっていた。

 

「さぁて、俺らも負けてられないな」

 

 伊庭は制服に着替えた。

 あいつらが変えたこの「未来」で、自分にできること。次の「未来」が、100年後、200年後の未来人たちにとって、より良き時代であるように。伊庭は胸の奥にある戦国での絆を力に変えて、日々の自衛官としての活動を、より意欲的に、情熱を持ってこなしていくのだった。

 

 

(忍たま乱太郎✕戦国自衛隊✕ルパン三世 霧のエリューシヴ 【白きたまゆらの伝説】――完☆)

 

 





【後書き】

 この短編集、過去一番の長文を、完結までお読みくださりありがとうございます。2本目のリクエスト小説も無事に完遂いたしました。ホッとする反面、私一人では絶対生まれなかった作品なので、徐々に形になっていく過程が私自身とても興奮しました。
 また劇場版忍たま乱太郎、第一作目の公開日が1996年6月29日だったとの事で、本日でちょうど30周年。特別な記念日に完結できた事は感無量です。
 ちなみに投稿時間は17時18分、自衛隊達のタイムスリップ時間に合わせてみました。

 原作では根元を除いて全滅するハズだった自衛隊員全員の生存と、魔毛の改心、きり丸の過去との決別と、これ以上ないほどハッピーな着地点に行きついたのではないかと思います。

 死にゆく美学もありますので、中には『死ぬからこそ良い』という考えもあるかと思いますが、今後も、破滅キャラのハッピーエンドのルートを見つけていきたいなと考えております。

 そのための情報提供、リクエストも随時受付中です。ただ、現在は2作品リクエストをいただいておりますので、今のペースだと発表は少し遅れてしまう点はご了承ください。
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