トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
「なんなんすかね、これ……」
とりあえず持ってみる。腕力的には全然問題ないが、デカくてずっしりと重い感じ。全長2メートルくらいあるだろうか?
柄の絡み合う蔦のような彫刻は滑り止めのグリップでもあるのか、ちっちゃい手には太めだが案外とよく馴染む。金属っぽいけど、触るとほんのり温かい謎素材だ。
車輪部分はいじってみればギィと擦れるような音を立てて少し回る。太陽というか燃え盛る炎というか、そんな感じの車輪。外周に並ぶ翼のような刃は鈍く、触れれば切れる、なんてものではないが、高速で回ればなんでもガリガリ削ってくれそうな分厚い頼もしさがある。
武器……まあ武器なのだろう。伝説の武器。魅力的な響きではあるが、銃弾飛び交う戦場でちょっと柄が長い回転ノコギリ持って何をしろと……?
いや、持ってるだけで身体能力が跳ね上がるとか、弾丸が逸れてくとか、そういうスペシャルなパワーがあるのかもしれない。なにしろ伝説だし……!
「ぎゅんぎゅん回って炎を吹き出す回転ノコギリだよ。炎で遠距離攻撃みたいなのもできるんだけど、使ってた先輩は基本的にダッシュで突っ込んでブンブンして直接殴ってたかなあ」
豪華な鈍器じゃねえか! 伝説の鈍器! その先輩とやら完全にイカれてるよぉ……!
「私が1年生の頃の3年生……2個上の先輩でね*1。カッコよくてさあ……。不良の人たちが来るのは毎年のことなんだけど、先輩がバッと飛び込んでブンブンすると、あっという間に蹴散らされてね。すごかったんだよ……」
えぇ、ちいかわ戦法じゃん……。こんなんじゃダメだと思ったそばからそんなんで無双しないでくれよ。頭おかしなるで。
「それでね、先輩がいる間は、先輩を恐れてよっぽど気合の入った不良の人じゃないとリンゴ泥棒なんか割に合わないって感じで、今より被害が全然少なくてね。……でも、先輩の後は使える人がいなかったから。私もダメで、それで段々襲撃の頻度や、規模が大きくなって今に至るって感じ」
先輩とやらについて語る部長の目はキラッキラしていて、憧れの人だったんだなあというのが言わずとも知れた。そして自分の話になるとズーンと沈む。
穏やか、お茶目、余裕があって大人びた人。そんな風に思っていたけど、そりゃあそうだよな。なんだかんだで高校生だもんね。子供さ。コンプレックスやらなにやらも、そりゃあったんだろう。
「これをワカナちゃんに渡すのは、本当にどうかなって思ってたんだ。君ならきっと使える。でも、他人に恐れられる怖い人になることは、君にとって良いことなのかなって」
まあこんなもんブンブンするバーサーカーとかそりゃ怖いわ。俺だってお近づきにはなりたくない。使えと言われても拒否っただろう。ちょっと前までなら。
「……先輩のこと、私はただただカッコイイ人だと思っていたけど、戦い方の見た目がアレだから悪く言う人も結構いたらしくてね。君みたいに優しくて、臆病な子がそういう風になるのはどうなんだろうって」
優しくて臆病。そうかな……。そんな風に思ってたんだ。どっちにも異を唱えたいぞ。すごいダメそうじゃん。
「俺は、良いと思いますよ。俺の顔見ただけで不良がビビって逃げるみたいなの」
覇気でバタバタザコ敵が倒れるみたいなの超カッコイイじゃんね。まさにそういうものに俺はなりたかった。誰もが一度は夢見る地上最強。多少見てくれが悪くても、全然構わないさ。
「あはは……うん、そう言うよね。……そうだね、ずっと泣いてるよりきっと良い」
泣いてないが?
丸ノコ持ってない方の手を引かれ、倉庫の外に出る。部室は果樹園からちょっと離れたところにあるレンガ造りの古めかしい建物で、周囲には当然大したものがない。
変な鈍器……一応刃物付いてるから、なんだろうね、ポールウェポン? ともかくこいつをブンブンしても特に迷惑にはならないだろう。さあ試してみて、と部長が言うのでよしと柄を握るが、ん……?
おや、と思って改めてあちこちぺたぺた触って確かめてみたが、エンジンとかモーターとかそういうのが見当たらない。先端の車輪を保持するのに膨れてる所に付いてるのかと思ったけど、別にそういうわけでもないようだ。
スイッチとか紐、スターターロープ*2の類もないし。……これやっぱただの素敵な鈍器なのでは。
「これ、回転ノコギリと言う割に動作機構なくないっすか」
「うん。不思議な力で回るよ」
「不思議な力」
何いってんだこいつイカれてるのか? そんなファンタジーやメルヘンじゃないんだから謎の力で物が動くなんて、そんな馬鹿な。オーパーツの塊? みたいなものなんだって、とあっけらかんとしているが、それは別に動力源がいらない理由にならないだろ。
「大切な人を守りたい! とかそういう気持ちに反応してグルグルするって聞いたかな、確か」
なるほど愛・夢・希望が動力源。……そんなニチアサ女児アニメとか特撮ヒーローみたいなノリのマジカルアイテムなら形状回転ノコギリでお出しするんじゃないよ。もっとファンシーなのとかカッコイイのあっただろ。
「後はムカつく~とか、灰にしてやる~とか、潰して潰してハンバーグにしてやる~とか、そういう気持ちでグッと握るんだって言ってたかな」
落差! 猟奇的! 部長の先輩とかいうのマジでやべーやつだよ! 前と後ろが両立すんのは異常者なんだわ! 部長は懐かしいなあとか言って微笑んでるけどそれ本当にいい思い出か??? たまに急に尖った言動するの絶対そいつの悪影響だろ許せねえ!
「わぁっ!?」
「おぉ! やったね~」
回転ノコギリの軸から炎が伝い、刃先から火の粉が舞い散る。キラキラと輝きながら、ゆっくりと地面に落ちて消えるそれはまさに魔法の炎。普通の火とは違う、花火ともまた違う。煌めく炎としか言いようがないが、俺の怒りに反応したのだろうか。
マジかよと思いながらも、実際マジのマジカルアイテムなのが判明してしまったからには仕方ない。言われた通りに気合を込めて両手で握る。昨夜の事を思い出す。奪われた痛みを・怒りを・憎しみを。
カタカタと車輪が震え、ぎぃぎぃと錆を落とすようにゆっくり動き始める。一度回り始めればあとはスムーズで、ギュインギュインと見る間に回転数をあげていく。そして助言に従い思い浮かべる。
「ハンバーグにしてやる」
想像上のヘルメット野郎どもをびったんびったんこね回してやった瞬間、油に火をつけたように一気に炎が吹き出した。回転軸から炎が生まれ、回転が炎を巻き込み、渦を巻き、刃に伝いちぎれ飛んで辺り構わず吹き散らす。輝く炎が視界を埋める。
「ってあわわわわ! 火事になる!!」
とんでもねえ勢いで火を吹きながら際限なく燃え上がる車輪に、慌てて手放してしまう。適当に放り投げられた回転ノコギリは、ギャリギャリと地面を削りながらしばらく突き進んで停止した。
辺りを埋め尽くしていた煌めく炎も火の粉を散らしながら小さくなり、まるですべてが幻だったかのように消えてしまう。雑草だらけの空き地は、荒い鋸刃が刻んだ削り跡を除けば何事もない。ちょっと離れたところにいた部長も無事だ。
「その炎は持ってる人が燃やしたいものだけ燃やすんだって。だからそんなに心配しなくても大丈夫だよ」
えっ、なんかすごいね。敵味方識別できんの? 言われてみれば俺の体にも火傷一つないし、そもそも熱さもあんまり感じなかった。まさにマジカルファイアー。伝説の武器は伊達じゃない……。
いやでも敵は燃えるの? あの勢いで? おまけにこのゴッツイ車輪でぶん殴りつつ?
「いや、え? これで攻撃したらマジでハンバーグになるのでは……?」
あるいは真っ二つとか焦げミンチとか……。
「大丈夫だよ。キヴォトスの人間はそんなにやわじゃないから*3」
暗黒の未来を思い浮かべ戦慄する俺に、ニコニコ笑いながら朗らかに言う部長。ほんとか? と訝しむが、戦車の主砲くらってもちょっと寝込むくらいで済むんだから*4と返される。そりゃあまあそういうのと比べたら威力なさそうだけどさあ。
「でもノックアウトした相手に押し付け続けたりしたら死んじゃうかもしれないけど……」
ぼそっと怖いことを続ける部長。やめろやめろめっちゃムカつくけど流石に殺したいほど憎んじゃいないわリンゴ泥棒。
「ともかく、それでポコってすればほとんどの人は一発でダウンしちゃうから、強いのは間違いないよ。庭園部の歴代エースはみんなそれで活躍して、果樹園を守ってたんだって」
「はぇ~……」
嫌な伝統だなあと心底思うが……まあいいや。銃撃ちまくりながら突撃して、回転ノコギリ振り回してやたらめったら暴れる、そんなんでどこまでやれるか試してみよう*5。目指せ、泣く不良ももっと泣くワカナちゃんだ。
「そういやこれ、名前とかないんすか?」
エクスカリバー的な……。炎の剣? だしレーヴァテインとか、カッコイイのがいいぞ。
「先輩はピザカッターって言ってたなあ」
見た目! まんまだけど! そりゃねえでしょ! 庭園部に古くから伝わる伝説の回転ノコギリ“ピザカッター”……。
いやひでえよ。正式名称はどうも完全に失伝していて、歴代の持ち主は思い思いに名付けていたらしい。
しかし自分でカッコイイ名前を付けるというのもムズムズするぞ。どうしようかな……とりあえず暫定的に、丸ノコくんとでも呼ぼうか。ピザカッターはちょっと悪い冗談が過ぎる。
まあ、愛銃ともどもよろしくな。転がっていった丸ノコくんを拾い直し。刃に絡んでしまった土やら雑草やらを払い、とりあえず肩に担ぐ。
ショットガンは背中の腰あたりにマウントしてるけど、丸ノコくんも持ち歩くとなると大変かもしれない。重さは問題にならないがとにかくデカいので。下手な持ち方すると羽に刃が干渉してこそばゆいし。
新装備を得てああでもないこうでもないと持ち方を考えている俺に、今度ホルダーベルト作ってあげるね、なんて言う部長とともに果樹園へ戻る。
庭園部のメンバーはまだまだ仕事中だった。めちゃくちゃに切られた木を整えたり、枝やなんかを片付けたり、あとは破壊された外側の柵を直したり。
果樹園は広大なので、外周全部にフェンスを張り巡らせるとかそういうのは全然できていない。気持ち的には果樹園の外周に万里の長城みたいなの作って欲しいくらいだが、やっぱりお金の問題で無理らしい。
万里の長城は冗談にしても鉄条網くらいはマジで欲しいが、費用対効果的に人力で迎撃したほうが遥かにマシだとか。銃火器爆発物の類を使うハードルが低すぎる世紀末異世界の弊害である。
一応、境界を示すために膝丈くらいのしょぼい手作り感満載の柵はある。それすら無くてぽつぽつ杭が立ってたり、領境を示す石が並んでたりするだけのゾーンもある。ただまあそんなんでも本当に無いよりはマシなので、みんなで修理しているのだそう。
「それじゃワカナちゃんとピザカッターの初仕事ね」
その名称やめてくれ、デケえピザカッター持ってパフォーマンスする的なとんでもねえパリピみたいじゃないか。同期のみんながクソデカピザカッターを担いで現れた俺に困惑したり笑ったり、真剣に心配してきたりしている。
恥ずかしくなる視線は極力無視。仕事ってなんだよ、回転ノコギリらしく枝切るのかいと思ったら、指差されたのは枝の山。
普段であれば、倉庫にしまってある粉砕機にかけてチップにするとか、焼却炉で灰にして肥料にするとか、まとめて関連企業に運びこんでバイオ燃料にしてもらうとか、そんな感じで処分するのだが。
「伝説のピザカッターの炎は狙ったものだけを焼ける。つまり枝や落ち葉の処分が簡単にできるんだよ!」
両手を広げて叫ぶ部長。そんなにか? そんなオーバーリアクションするような情報? 敵味方識別がメインじゃないの? いやまあ枝集めて運んで灰にしてまた持ってきて撒いてみたいな手間がなくなるのは、確かに喜ばしいことかもしれないが……。
なんとなく飲み込めない気持ちを燃料に、枝の山に火をつける。キラキラと輝く魔法の焚き火。真夏なのに熱くなく、煙も延焼もない。しかし枝自体は着実に黒焦げて燃え尽き灰になっていく。
おぉ、と皆から歓声が上がり、倉庫から竹箒持ってきた同期が灰を掃いてみれば、その下の土に焦げ跡すらない。それどころか雑草すら普通に生き残っている。
土壌を痛めたりしない完璧で究極の焚き火だ。なぜか大きな拍手が巻き起こる。いや、宴会芸とかそういうのではない。
これがすごく便利でねえと、ヤバOG先輩の武勇伝とともに、みんなに話す部長。同期たちも、はぇ~すっごい顔である。同期たちはしきりに俺と丸ノコくんを褒めそやす。まあ、褒められて頼りにされて悪い気はしないけどさ。へへへ……。
……ゴミ処理に気軽に使われる伝説の武器ってなんだよ。その晩寮の寝床でツッコんだが、丸ノコくん本人は特になんの文句も無いようだ。豆電球のオレンジの明かりに照らされて、謎素材のボディをキラリと光らせていた。
そういえば今更ですがワカナちゃんのヘイローは金色の炎の輪っかに、中心から放射状に光が伸びてるみたいなイメージです。
まんまなのでピザカッター出すまではということで黙ってました。ある意味叙述トリック?