トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
煌めく炎をバラ撒いた。奥へ奥へと一直線に突撃してくるイカレポンチの襲撃者ども。これまで出会った誰とも比べ物にならない狂気がその瞳に宿っているのがはっきり見える。
ボンネットに給食部とデカデカ書かれた横断幕でクソダサになったオープンカーが加速する。
角付き金髪デカチチ運転手と視線がぶつかる。誘導のために炎を薄くした左でもない、逆に濃くした右でもない。
炎幕を見据えて愉快そうに笑い真正面、そのまま突き進んで俺にひき逃げアタックかましつつ突破しようってぇ腹なのがよーくわかった。
「なめんじゃねぇよ……ッ!」
振り上げ、全力で叩きつけた丸ノコくんがジャストミート。給食部の文字を真っ二つに斬り裂き全てを破壊する。
車が爆発し、襲撃者のうち前二人は華麗に飛び降りる。後ろの一人はなんか鈍臭くて普通に爆発に巻き込まれ、よくわからんけどなぜか簀巻きになってる、なんとなく見覚えある気がする顔と一緒にぶっ飛んだ。
打ち負けはせんよ、当たるのであれば。そう言わんばかりに丸ノコくんが甲高い勝利の咆哮を上げる中、爛々と光る獣の瞳が2対。
チリチリになった頭をはたいて消火しながらハンバーガー食ってるなんかよくわからんアホが一人。ちょっと火がついた簀巻きで、泣きわめきながらびったんごろごろしてる謎の生き物が1体。テラカオス。
だがなんにしてもこの先に通すわけにはいかない。トリニティ設立以前からのリンゴの古樹林。トリニティの、庭園部の宝だ。あっちが大事じゃないわけじゃないが、外側の普通のリンゴの木たちとはわけが違う。絶対に守らなければならない。これまでにない覚悟を抱き、俺は襲撃者たちと対峙した。
遡ること数日、ゲヘナ学園自治区内某所。美食研究会の新入部員、ゲヘナ学園1年生・獅子堂イズミはもっしゃもっしゃとリンゴを丸のままかじっていた。2年の
まあアカリの方は剥く速度も食べる速度も尋常でなく、ぽいぽいと袋に投げ込んだ皮や芯のゴミが山になっているので上品とは遠いが。リンゴ一個を一通りウサギさんにしてからちまちま食べ始めたハルナが、満腹満腹とお腹を擦るイズミに尋ねる。
「このリンゴ、かなりモノが良いようですけど、どうしたんですの?」
「前と一緒の路地裏で移動販売してたやつだよ~。だいぶ値上がりしちゃってたけどね」
ああ、とハルナは頷く。イズミとアカリはしばらく前にも同じようにリンゴを大量に買ってきたことがあった。その時はまだ熟しきっておらずやや酸味があったが、今回のものは完熟だ。非常に美味。
「トリニティ産のリンゴの略奪品でしたか。普通に買うとかなりお高いですものね……」
そもそも普通の果物でもちょっと高いのにトリニティ産、それをゲヘナで購入するとなれば倍率ドドンだ。指先をペロペロしているイズミにペーパーおしぼりを渡しつつぼやく。
質が良いのは認めるが、ハルナの価値観からしてややボッタクリ価格に踏み込んでいる正規品はあまり買う気になれない。
その辺のスーパーを毎度爆破するほど暇ではないが、スイーツ店などの起爆査定に引っかかりやすくなる一品である。値段にふさわしいだけの調理がなされていなければドカンだ。
黒舘ハルナはいわゆるテロリストのレッテルを貼られていた。料金以下のマズイメシを食わせるレストランには、代金代わりにC4*1でお支払いなんてしょっちゅうだった。彼女に言わせれば食というものに対し真摯に向き合っているだけ、なのだが。
「略奪品はお手頃価格で良かったんですけどね。トリニティの警備が厳しくなったらしく、流通量が減って値上がりしてます。風紀委員の摘発も厳しくなったとかで、以前より大っぴらなとこで売らなくもなりましたし……」
「連邦生徒会の仲介でトリニティ・ゲヘナが共同歩調を取る何かがある、という話の一環ですわね、恐らく」
トリニティ総合学園とゲヘナ学園、不倶戴天の仲である二校の関係改善を進めるためのエデン条約。連邦生徒会長が中心に進めるそれは一般には秘されていた。
しかし目ざとい者たちにはなんかやってんなくらいには輪郭が見えており、飲食流通関連に特殊な情報網を持つ彼女たち美食研究会も、見えている者の一つだった。
「
しゅるしゅると一つにつながった皮が落ち、手のひらの上で4つに割ったリンゴの芯を取り除いていくアカリ。
「ええっ!? それは困るよ! 私まだトリニティの伝説のリンゴ食べてない!」
「伝説?」
綺麗にカットしたリンゴを一瞬で消滅させながらアカリは首を傾げる。イズミはアカリも聞いてたじゃん! と憤りながらリンゴ売りの不良に聞いた話をリピートする。
曰く、トリニティの果樹園の最奥には、ティーパーティーなどの権力者しか食べられない特別なリンゴが存在すると。それを食べると未来が見えるようになるだとか、最強の力を手に入れるだとか、誰よりも賢くなれるだとか、そんな噂があるらしい。門外不出、伝説のトリニティのリンゴ。
「そんなの絶対美味しいじゃんね! 絶対食べたいよ私!」
「うーん、眉唾。そもそも噂ですら味に言及がないのはどうなんです? 酸っぱい葡萄じゃないですけど、あったとしても地獄のように不味いかも」
「それはそれで珍味! 食べたい!」
拳を振り上げヒートアップしていくイズミに、苦笑するアカリ。珍味ゲテモノの類すら愛するこの後輩には、ちょっとついていけない所があった。
だが、ウサギさんをしゃくしゃくかじる音が止まったので、ふと見ればハルナは思案顔。まさかこの与太話を信じるのだろうか。
まあ噂程度の情報でも美食を求めて東奔西走はよくあることだが、流石にあまりにも荒唐無稽じゃないか。しかし怪訝な顔をしたアカリにハルナは首を振る。
「別にそんなおとぎ話のようなものがあるとはわたくしも思いませんわ。ですが、トリニティ内部でしか流通していない品があるとは聞いたことがありますの」
「やっぱり! 伝説のリンゴはあったんだ!」
ひゃっほうと叫びながら小躍りしだすイズミを横目に、上級生二人は微笑みを交わす。
「それならまずは情報収集からですね」
「ええ、わたくしはいくらか知り合いを当たってみますわ。アカリさんたちは情報元の方たちとお話してきてくださいな」
「了解です、では後ほど」
「ええ」
思い立ったら即行動。はしゃぎ回るイズミの首根っこを捕まえたアカリが軽く手を振って立ち去り、ハルナは馴染みの裏社会の人間に連絡をとる。
数日後には、トリニティ果樹園襲撃に関わっていたムシャムシャヘルメット団及び複数の不良グループが暴力と恐怖により全てまとめ上げられ、一大襲撃計画が立てられた。
果樹園の奥深くに眠る門外不出のリンゴの実在も、確度の高い情報が入手されている。
2桁に届かんばかりの武装トラックがエンジン音を響かせ、その先頭には幌を外した給食部のホルヒ108*4。
伝説のリンゴを手に入れたとして、丸かじりだけというのもなんだし色々調理できる人間が必要だなあ、ついでに足も欲しいなあと思っていた折、ちょうどいい所に居たので車ごと拉致られた給食部の愛清フウカの愛車だ。本人も簀巻きのまま後部座席に積まれ、猿轡越しにフガー! と泣き叫んでいた。
後部座席のイズミはニコニコと笑い、運転席のアカリは朗らかに、しかし獣のような笑みを浮かべ、助手席で立ち上がったハルナは大胆不敵に微笑んだ。
知られざる美食を求めて、いざ出発の時。これほど昂ぶることのあるものか!
「皆様、ご健闘をお祈りいたしますわ」
口角を吊り上げたハルナが銃口を遥か遠く標的に向け、出陣を宣言する。砂煙を上げて車列が進む。彼女たちは美食研究会。ゲヘナでも、否、キヴォトス全体でも指折りの凶悪テロリスト集団である。
ぽけーっと口が半開きになっていたことに気づき、別に誰が見ているわけでもないが表情を引き締める。とはいえ夏の暑さが和らぎ、気持のいい風が吹き始めた秋晴れの午後。
屋根も窓も消滅した軽トラの元窓枠に顎をのっけながら、ドローンくんたちがブンブン飛び回るのを眺めるだけのお仕事。
休みボケもまだまだ続き、授業終わりの昼メシがいい感じに消化されてきたのかすこぶる眠い。その辺の木陰に寝っ転がって、お昼寝でもしちゃおうかしら。そんな気分である。
「平和だー……」
「敵襲ーッ!!!」
「だーッ!?」
突如として大音声の無線通信。激しく動揺しつつもまくし立ててくる敵の陣容は、これまでで一番デカかった襲撃よりもさらに大規模。
嘘でしょ!? こんな真っ昼間から!? 正気か!?
敵は収穫の終わっていないエリアに向けて部隊を複数に分けつつ全速力。分散進撃・現地集合でかなり巧妙なルート取りをされたらしく、日中の明るい時間にも関わらず発見が遅れた。準備時間は少なく、どう考えても戦力が足りていない。
近場を巡回してた正実の人たちも急行してくれたが、それでも焼け石に水感は否めない。正実本隊が部隊編成を終えて来るまで、なんとしても耐えなければならない。
軽トラとドローンくんたちを手早く片付けて持ち場にダッシュ。果樹園の外側、荒野から既に盛大なエンジン音が響く。もはや隠す気ゼロの全速力で敵の車が向かってきているのだ。
接敵まではもう間もなく。周囲の庭園部の仲間も、正実の人たちも、激戦の予感に表情を強張らせている。
そういう俺自身もわりとビビっている。いやおかしいでしょ。なんでど○ぶつの森からいきなりマッド○ックスなんだよ。先頭の車で立ってる変な女が上機嫌でなんか叫んでるし。
……いや、なんにしてもぶちのめすだけだ。
全員ボコボコにしてトラウマ刻んで、トリニティマーク見たらションベン漏らすようにしてやらあ。怯え心にビンタして、愛銃と丸ノコくんの柄を強く握りしめ、戦意を高めながらその時を待つ。
「……! ワカナちゃん、移動して!」
やや後方、高い木の上から指揮官兼スナイパーやってる部長から指示が飛ぶ。伝えられた移動ポイントはめちゃめちゃ後方。普通に戦闘区域外だろう。え? なんで? とにかく俺突っ込んで大暴れしないと無理でしょあんなん。
しかし、困惑する俺を叱咤する部長の様子があまりにも切羽詰まっていたので、よくわからんながら全力ダッシュで移動する。
移動終了くらいのタイミングでちょうど戦闘が始まった。木々の間から爆炎が上がり、激しい銃声が響く。どう考えても多勢に無勢。守備側の地形有利も多少あるとは言え、広すぎてまともな陣地を構築するのは不可能だからゲリラ戦的にならざるを得ない。
夏を超えて俺も俺以外の一年生も鍛えられたのは確かだが、やっぱ厳しいようだ。押されている気配がする。今回の襲撃は、どうやらヘルメット軍団とスケバン集団の混成大部隊のようだ。
宗旨変えしたのかチェーンソーの音は聞こえないから、またバシバシ切られてるということはなさそうだが……。とりあえずこっちの防衛部隊を倒してから人数任せに盗りまくろうという腹だろうか。
怒りで頭に血がのぼるのを感じながら思案する。どうするか。命令無視して今からでも前線に突っ込むべきか。だが、部長が意味ないことをするとは思わない。
迷った末にその場でグルグル回りだした俺の方へ、エンジン音が爆速で近づいてくる。
枝をへし折り木々の隙間を無理やり抜けて一直線。
ああ、今までこんな奥まで来る奴らは居なかった。クソ広い果樹園の奥に踏み込むほどに、侵入も撤退も難易度が上がり、時間もかかり、正実本隊の戦力にぶつかる可能性が高くなる。
地味に先輩たちが仕掛けているトラップの密度も上がるし、奇襲ポイントも増えるから、なんなら庭園部だけでもかなりの打撃が与えられるかもしれない。
だから来なかった。不良どもも外縁のリンゴを漁るだけ。普通の頭がついてたらそれで十分、むしろベストと判断するだろう。
普通の頭がついてないやつらが来る。
丸ノコくんの回転数を上げ輝く火を灯す。なるほどここは最終防衛ライン。果樹園の中心、古い森に入るならばここを通るだろうと俺を置いたのだ。数瞬後、枝を突き破り正面に飛び出してきたクソダサオープンカーを睨みつけた。
食品関係扱うならこいつらとのバトルは避けられないよなということで美食研の皆さんに来てもらいました。
ゲヘナは眼鏡アルちゃんの高校デビュー・ハルカのいじめ・カヨコの留年・カヨコとアコの関係とか便利屋関連に、ハルナとアカリのなんかあったらしい関係とか、とにかく過去を匂わせる伏線が多いので過去編がほんとに気になりますね。
本作ではその辺わかんないんで今とあんまり変わってない感じでお届け。눈_눈