トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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17話 食欲の秋

 最後の一息の収穫のためセミファイナル。秋の気候と慣れもあり、夏の盛りより随分楽だ。お菓子作りの修業も続け、サイズを測って接客のための衣装の発注を出し、借りた教室を飾り付ける。

 

 楽しい祭りの準備は恙無く早く過ぎ、そんなこんなで学園祭だ。トリニティのお嬢様方もこの日ばかりは浮かれ騒ぎ……いや、わりかしいっつも浮かれてるような気もするが、ともかくも特別な日。

 

 迫撃砲やらなんやらでどっかんどっかん花火が打ち上げられ、中空に爆炎のアートが描かれる。舞台でバンド、の代わりに大聖堂で普段よりも盛大に賛美歌が歌われ、オーケストラも重厚なBGMを奏でる。

 演習場では思い思いに装飾された異形のパンジャンドラムたちが縦横無尽に駆け巡り、最終的には盛大に自爆する。

 

 ナニコレ感溢れているが誰もかれも楽しそうで、ここはキヴォトス、トリニティ総合学園! そんな声が目に見えるよう。各部活それぞれ気合を入れた催し物に臨み、生徒や自治区の人々、外部からのお客さんたちも笑顔で巡っている。

 

 定番の飲食系から、なんか意味不明でトチ狂ってるとしか思えないようなあれやこれやまで。あからさまにヤバそう系は遠巻きに眺めるにとどめ、楽しそうなのをちょこちょこ巡ったり、庭園部のスイーツカフェ店員やったりしつつ、俺自身思ったより平穏に文化祭の時を楽しんでいた。

 

 そうだよなあ。せっかくのお祭りだもの。やたらめったら銃撃戦やったり、燃えたり爆発したりボコボコにされたりなんて、そんなことね、あるわけないですよね。HAHAHAHAHA……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いらっしゃいませ、お嬢様方」

 

 青筋ビキビキ、口の端ヒクヒク。メタクソにキレているのを、全力で押さえつけている。心が体を暴れさせたがっている、がどうにかこうにか我慢して、平常心平常心……。

 

「ごきげんよう。3名ですわ」

「うーん、あんま面白そうな料理はないなー」

 

 へ、平常心……! 

 

「こ、こちらの席へどうぞクソ……お嬢様方」

「この店員、ちょっと態度悪いですわね」

「なんでもいいですけどメニュー端から全部お願いします~」

 

 ……! ……! あぁぁあぁぁああぁぁあああああッ! 

 

「ぶっ殺すぞてめえらどの面下げて来やがったおらぁぁぁぁッ!!!」

 

 接客用に着せられたヒラヒラフリフリのエプロンドレスと言えど、武装自体は普段通りだ。背中のベルトから丸ノコくんをバチンと引っこ抜き、ペロロカバーをバサリと外す。

 

 俺の怒りに呼応し、ギュンギュン高速回転し始める極厚の刃をスナ変な女に突きつけた。じわりじわりと溢れる煌めく炎が、ハラハラとこぼれ落ちるのを眼前にしてすら涼しい顔の変な女。それどころか、薄い笑みすら浮かべた余裕の態度。

 

 なんだぁ、てめえ……! 俺一人じゃ相手にならないとでも言うつもりかぁ……! 

 

「おやめなさい、店員さん。今日のわたくし達はただの客。せっかくのお店で争って、台無しにしてしまってもつまらないでしょう?」

「むっ……」

 

 じょ、常識的ぃ……。嘘でしょ、紙一重ギリギリぶっちぎりのやべーやつって感じだったじゃん、お前ら……。

 丸ノコくんの吠える甲高い金属音がゆるゆると止み、ダッシュで逃げて店のドアの隙間からこちらをうかがっていたハンバーガー女も、恐る恐ると戻ってきた。

 

 金髪デカチチはシラッとした顔のまま、初めから動いていない。変な女二人の目はあの時のようなギラギラした、食い殺されそうな恐ろしい色を宿してもいない。

 

「……お騒がせして申し訳ございません。ご注文を、どうぞ」

 

 投げたペロロカバーをいそいそと拾って被せ、丸ノコくんを背中のベルトに戻す。そして3人を席に通し、伝票とペンを取り出す。

 ヤバヤバテロリスト集団がなんで普通にこんなとこいるんだよとか、色々思うところはあるが、今暴れられたくないのは確かだ。

 

 今日のために借りた結構広めの教室を、みんなで可愛くオシャレな感じに装飾したり、椅子やテーブルも応接室みたいなとこから借りてきて並べたり。

 元々トリニティの調度品全般がお高い良いものばかりなので、高校の文化祭ってレベルじゃない素敵空間に仕上がっているのだ、ここは。

 

「では、季節のフルーツタルトと紅茶のセットを一つ」

 

 ニッコリと微笑んだ変な女は、落ち着いた様子でメニューを決める。マジで暴れるつもりはないようだ。しかしよく見たらすげー美人だなコイツ。

 嫌な感じのコウモリ羽生えてなかったら危なかった。あと中身知らなかったら。

 

「じゃーねー、私はねー……フルーツパフェとー、アップルパイとー、リンゴのグラッセにコーヒーで!」

「私は先程言った通り、メニューの端から端まで全部お願いしますね」

「……かしこまりました、少々お待ちください」

 

 えぇ、マジかよ。冗談抜きでメニュー全部食う気なの? 所詮学生出店の文化祭のカフェ、なんて言わせないくらい結構種類あるぞ。先祖代々……じゃないけど庭園部でずーっと受け継がれてきた秘伝のレシピ帳とかあってさ。冷蔵倉庫は元々でっかいの持ってるし、ちょっとやそっとで在庫が尽きないくらいに準備は万全なのだが。

 

 ハンバーガー女はなんか懐から出したエナジーバー既に食ってるのを除けばまとも……いやまともか? 騙されてないか? まあいいや、注文はしてるし……。

 

 とにかく金髪女だよ。こいつはなんなんですかね。そんな昔のマンガみてえな注文するやつ初めてみたよ。キヴォトス人は燃費悪くて大食いでみたいな設定は特になかったはずなんだが。

 謎のスーパーパワー持ってる人らも、特にカロリーをエネルギー源にしてるとか言うわけではないらしく、みんな食事は普通。

 

 嫌がらせか何かかなあとも思ったけど、そういう雰囲気でもないし……。不安を抱きつつもパーテーションで仕切られた厨房エリアに戻り、注文を伝える。

 

 同期のぽわぽわちゃんもめっちゃ心配してくれて、どうする、毒とか入れる?*1なんて言ってるけどおやめなさいよ。飲食店で毒はいかんでしょ。

 基本いっつものほほんと平和にお花の世話してるような温厚な子なんだが、いつの間にかキヴォトスに染まってないか? 

 

 まあとにかく、客として来たと言うからには店員としてもてなすだけだ。暴れるようならその時ぶちのめせばいい。

 閉所近距離、圧倒的に俺が有利だ。ペロロ様カバーを生贄に捧げて丸ノコぶち込めば勝てる……たぶん。

 腹を決めて、注文通りの品を配膳していく。

 

 

 

「……ふむ、ふむ。見た目はなんですが、美味しいですわね。素材の良さが活かされていて。お値段はトリニティ文化祭価格で、学生の手作りとしては少々お高いですが、まあ相応。お店の雰囲気も全体的によし。店員さんの態度で少々減点ですが……そこは目を瞑りましょう。及第点といったところですわね」

「うんうん。おいしー! 見た目はアレだけど」

「そうですねえ。見た目がちょっと幼稚園児がお手伝いしたのかな、みたいな感じですが。味は文句ないです。ボリュームもまあまあですね」

 

 ぶちのめしてえ~……! 好き勝手いいやがってよぉ。見た目がなんだってんだよぉ。終いにゃ泣くぞ。青筋ピクピクさせつつ何度も席と厨房を往復する。

 

 庭園部フルーツカフェ、ホール担当してる店員が作ったやつを優先的に出すルールなのだ。なんか怪しいコンカフェみたいで嫌なんだけど、それで露骨に売上げが変わるらしい。

 

 この世界に男というか、オスは二足歩行のわんこにゃんこみたいなのとロボしかいない。君ら人間の顔立ちとか興味あるのか? って感じだけど実際わりと喜ばれている。

 

 結局大量に作りまくって練習してもあんまり上達しなかった俺の造形技術だが、アヴァンギャルドで素晴らしい! とか偉そうなわんこのおじさんにめっちゃ褒められたりしたし。世の中なにがウケるかわかんないものだ。

 

 いやしかし、なんだ? スナ女はちまちまお上品に、バーガー女はバクバク大食いとはいえ、わりと常識的な速度で食っているのだが、金髪女は本当にどうなってるんだ? 

 食い物が一瞬で消えていく。厨房から次のメニューを大量に持って席に運べば、前の皿は全部カラになっている。

 

 わんこそばやってんじゃねえんだぞ。果物砂糖生クリームたっぷりで、大概のメニューが結構なカロリー爆弾なはずなのだが……。食事の勢いが衰える様子もつらそうな雰囲気もない。まだまだイケるぜー! って感じの余裕の表情。

 途中気に入ったらしいメニューのおかわりもポンポン入る。ヤツの胃袋は宇宙か? 俺は小一時間ほどいい知れぬ恐怖に苛まれながら配膳を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした~!」

 

 満足! と言った様子の金髪と、金髪に触発されたのかいくらか追加で注文をしたハンバーガー女、他の奴らと違って普通の速度で食べてたが絶対量が少なかった分、流石にちょっと早めに食べ終わっていた変な女が手を合わせる。

 

「テイクアウトにいくつか包んでくださる? それとお会計を」

「……かしこまりました」

 

 スナ女は気に入ったらしいスイーツをいくつか追加で注文し*2、箱を受け取るとそのまま会計へ。

 緊張の一瞬であったが、ヤバテロ集団は普通にドカッと金を払って帰っていった。いやでもこれなんか汚い金じゃないだろうな……*3

 

「ありがとうございました。またお越しください」

 

 内心二度と来んじゃねーゾとは思いつつ、定型句で接客を完遂。まー文化祭だしね、他校の生徒が来ること自体はよくある。気持ち的に早々割り切れるものではないが、大人しく食って金払うなら文句ないわ。

 

「ええ、そうですわね……また来年

 

 フフッと笑みをこぼす変な女。その目にはあの狂気が宿っている。来年また文化祭のカフェに来る、なんてえ話じゃないのだろう。

 気を抜いた瞬間にぶっ刺してくるもんだから腰抜けそうになったわ怖。

 

「気骨のある生産者の方には敬意を表します。ですが同時に、手に入らないならばあらゆる手を尽くして奪うことに躊躇いもありません。我らはゲヘナ学園美食研究会。どうぞお見知りおきを」

 

 頭のおかしいことを並べ立て、発言とそぐわないこと甚だしいエレガントな礼をして、スナイパー変な女は立ち去る。

 意味わかんねーよ敬意と略奪は両立しねえんだよアホが*4

 ていうか給食部じゃなかったんだ……。

 

「ええ、楽しい勝負をして、勝って食べるご飯は最高ですからね~。……あなたを食べたときの甘い味、期待していますね、おチビさん?

 

 だからこええんだよこいつはよぉ! 背筋ゾワゾワするわこっち見んな! 

 金髪デカチチ角女はヘビみてえな目をして俺をねっとり見つめた後、変な女に続いた。男女のアレコレの話だったら興奮するんですけどね、物理的に食い殺されそうなのは本当に本当にやめて欲しい。

 

 キヴォトス慣れして、命の危機を感じることなんてずいぶん少なく……いやまあちょいちょいあるけど、それにしたって目を合わせただけで生存本能刺激してくるのはおかしいだろ。

 

「私は普通に痛いのは嫌なんだけどなー。でもま、レア食材のためなら仕方ないよねー。それじゃバイバイ、またね~」

 

 手を振りながら去っていくハンバーガー女。お前は普通っぽくて安心するぞ。常になんか食ってる以外はなんもヤバそうなとこなくて素晴らしい。角生えてなかったら抱きしめてたぜ。

 

 でも全員まとめてマジで二度と来るな。犯行予告してんじゃねえよ。バーガー女もタフすぎて鬱陶しいんじゃ。お前が一番厄介な敵まであるぞ。

 

 ヤバテロ集団が立ち去った後に塩まいてやったが、恐らく効力はないだろう。正実に通報するとスナイパー派遣してマークしますねとか、ガチで凶悪指名手配犯相手みたいな感じで対応してくれた。

 なんなら奴らが堂々とシャバを練り歩いてる理由がよくわからないくらいだから妥当ではあるが*5

 

 それはそれとしてハスミ先輩は犯行予告にブチバチギレてたけど。今日なにかやらかしたら二度とトリニティの領境をまたぐ気がおきないようにしますから、と頼もしいお言葉。

 ウチ以外で暴れる分には全然構わないので、是非ともキッツいトラウマを刻んで差し上げて欲しい。

*1
肥料による爆弾作成、自然物を用いたトラップ作成とともに、農薬や植物毒の人体への作用に関する知識は庭園部部員の選択科目。

*2
一緒に行こうと誘った所、絶対嫌と断られた友人눈_눈へのお土産である。

*3
資金洗浄ではない。

*4
キヴォトス人の価値観は外界人には理解しがたいものである。彼女たちの狂気とも呼ぶべき情熱は特に。

*5
一般わんこ住人すら手榴弾が日用品とのたまうキヴォトスでは、爆弾テロや食い逃げ程度では捕まらないのかもしれない。




学園祭編前編でした。

学園モノといえば、みたいなイベントですが公式イベだとたぶんまだない?晄輪大祭が2年に1回らしいので文化祭も2年に1回キヴォトス全体でやるみたいなのがあるかもですが。

それはそうとメイン更新でカンナ株高がすごい……いい女が過ぎる。
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