トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
「わぁっ、ワカナちゃん可愛いです!」
よせやいよせやい。ヒフミちゃんもいっつも可愛いよ。セリナちゃんはいつもの制服じゃなくてナース服*1素敵だね。
「ありがとうございますね。ワカナちゃんも似合ってますよ」
おかえりなさいませお嬢様方、とちょっと恥ずかしい定型句で二人を歓迎したところ。フリフリエプロンドレスの俺が物珍しいのか、両サイドから挟まれて揉みくちゃにされる。
一緒に服買いに行くこともちょいちょいあったけど、基本男児ファッションチョイスしてたからね……。
事前に約束していたように、時間合わせて一緒に遊ぼうねということで俺の休憩ちょい前に集合とあいなった。
せっかくだし甘いもん食べてもらって、時間になったらそのままお出かけという予定だ。二人は俺の修行の成果を見ようというわけなのかアップルパイと紅茶のセットをご注文。さあ見よ。
「おぉ~、上手に……上手に、なりました、か?」
「以前頂いた時から、あまり変わってないように見えますね」
「味は、味はさらに良くなったから……!」
そして結局羞恥プレイなんだよね。ニッコニコの二人に挟まれて、ぐんにゃりアップルパイを机の真ん中に据えつつ写真撮影。年頃の娘さんたちはさあ、ほんと写真撮るの好きだよね。
SNSにもあげるしさあ、俺の不器用さを全世界に発信してどうする気だい?
「あっ、味はほんとに前より美味しくなってます。焼き加減とかも絶妙で」
「紅茶の淹れ方も上手になってます……。しょっちゅう怪我ばかりして、腕白坊主のようだったワカナちゃんがまるで淑女のように。私、感動しました」
ははは母さん、俺だっていつまでもガキのまんまじゃないんだぜ。いや、ヒフミちゃんは普通に美味しそうに食べてくれてさ、こういうのでいいんだよって感じなんだけどさ。
セリナちゃんはちょっとマジでママ目線みたいな慈愛顔するのやめてくれないか。幼児退行するぞ。
立派になりましたねえじゃないんだ。あーんもしなくていい。食うけど。ヒフミちゃんも対抗しなくていい。食うけど。母さんの娘でもキモい鳥の雛でもねえんだ俺は。
俺の見た目前衛芸術スイーツを十分堪能してもらったところで、ちょうどいい感じに休憩時間となり店を出る。
一旦着替えてこようと思ったんだけど、キッチンのぽわぽわちゃんにストップかけられ、そのまんまの格好で出ることに。宣伝になるから、とのこと。ついでに名札も店名入りのデカいのにチェンジされてしまった。
いつの間に用意したのか、庭園部フルーツカフェ・ワカナとポップでキュートな文字で書かれている。なんか筆跡に見覚えがあるが同期の誰かだろうか。ちょっと本格的に例のお店みたいになってない?
事の次第を説明し、アレなら着替えてくるけどと言えば、ヒフミちゃんたちもノリノリで着替えは無し。手を繋いでというか両手捕まれ連行状態で出発進行。羞恥プレイ第二弾である。
まあ可愛い子多いし、普段と違う派手な服着てる人も珍しくない。なんなら水着みたいな格好で闊歩して正実に連行されてる人とかもいる。だから俺が特別目立つわけでもないと思う、んだがどうにも落ち着かない。
普段から制服スカートだし、露出は若干増えたかなあ程度なんだけど、ヒラヒラフリフリでいかにも女の子女の子してるのが原因だろうか。
だいぶ女体生活にも慣れてきたとは言え、積極的に女らしくするみたいなことはなかったからなあ。ぐいぐいあちらこちらへ引きずられているうちに、気にする余裕もなくなってしまったけど。
3人で学園祭をめぐることしばし。食べ物関係をちょいちょいつまんだり、芸術系の部活の気合入った作品展示見たり、校舎一棟使ったガチ脱出ゲーム参加したり。聖堂提供してるシスターの人がキレ気味の笑顔で耳塞いでた、賛美歌デスメタルバンドとか、面白い催しが色々あった。
色々不安もあった学校生活だが、こうしてるとなんだろうね……。めちゃめちゃ楽しい。
たっぷり遊んだところで、ヒフミちゃんに連れられ、大ホールへ。とっておきのイベントがあるそうだ。なんとなく予想はついていたが案の定。
モモフレンズミュージカル開催のデカい看板が立ち、思ったより普通に大量のJKが開場をいまかいまかと待っていた。
自分でなんかやるを通り越して権利元の企業誘致に成功したらしく、公式イベントがガチで出張してきたのだ。だからその謎の行動力はなんなんだ。
「きゃー! ペロロ様ー!」
ステージ上で飛んだり跳ねたり歌って踊るキモい鳥に黄色い悲鳴をあげるヒフミちゃん。サイリウムをブンブン振りまわしているが意外にも浮いてない。
席が片付けられてフロアになった前の方にはわりと似た感じの熱気の人々が集まっていて、みんな大いに盛り上がっている。ヒフミちゃんは言うまでもなく、セリナちゃんも普通に楽しそう。
女子高生の考えること分かんねえ~。……いや、まあこの空気感だけでなんか楽しいってのはわかるんだけどね。ライブっていいよね……っていう。
潰されそうになりつつも、周囲に合わせて控えめにサイリウム振ってたら、周りの子が俺たちを最前列に押し出してくれた。
いやだからありがたいんだけど、親子連れとかではないんだが? 気にするなよーみたいな、いい笑顔の知らない女子とハイタッチ。ノリが良すぎる!
文化祭イベントということで、参加者はほとんど女子高生。前方で盛り上がってる我々は、トリニティ生の中でも割と普通のJK集団だろうか。周りの方でゆったり見ている人たちは、この手のイベントに慣れてないのかむしろこっちの熱量が変なのか。
でもなんかガチお嬢様っぽい人々がちょっと遠くで控えめにペンライトフリフリしてたりもするし、モモフレンズマジで侮れないファン勢力があったりするのでは、という気もしてくる。
ペロロ様ミュージカルのストーリーは愉快な日常編みたいなとこから一転、暗雲立ち込める怪しい展開へ。急に人が変わったように態度を変えるペロロ様の友人たち、身に覚えのない罪。
正体不明の恐怖に苛まれ崩れ落ちるペロロ様。滲む涙が哀愁を誘う。
ヒフミちゃんはものすごい勢いで感情移入しているのか、既に泣きそうな顔。しかしそれはそれとして手際よくカバンから3人分のサイリウムを取り出してチェンジさせる。
前半の赤黄系の明るい色から、青や紫などの寒色系だ。明かりを振る動きも小さく縮こまるように。
周囲のJK軍団もごく自然に同じことやってるので、モモフレンズイベント参加者にはスタンダードなスキルなのだろうか。俺とセリナちゃんも見よう見まねで一緒に動く。
何もかもを失い、酒浸りの荒れた生活をおくるペロロ様。このままダメになってしまうのか、そう思われた時現れるは頑固者のスカルマン!
鉄拳一発酔い醒まし、彼すら己を裏切るか。哀叫するペロロ様に告げるは一言、俺はお前を信じると。
固く結ばれた友情に、再び立ち上がるペロロ様。友人たちの誤解を解き、謎を暴き、ついには真実にたどり着く。敵の姿は己自身と瓜二つ。同じ姿で違う鳥。すべてはペロロ様の人気を妬んだ偽ペロロの策謀だった。いま最後の戦いが始まる……。
いや、なんだこれ。わりと普通に面白いぞ。面白いと言うか、できが良い。トリニティ大ホール音響がとにかく良くて、着ぐるみも全然安っぽくなくて謎にキビキビ動くし、なによりライブ感一体感で盛り上がる。
こ、これが、これがペロロ様。そしてモモフレンズ……。なんだかヒフミちゃんがドハマリする理由が分かってきたかも……と思った瞬間俺は舞台に吊り上げられていた。
「ひぃぎゃぁああぁぁあぁぁぁぁ!?!?!!!」
暗黒渦巻くような悍ましき光を放つ偽ペロロの青白い舌が、俺をぎゅるんと捕まえる。幼気なちっちゃいのを人質に取った偽物に怒りを燃やすも何も出来ないペロロ様。
舌の動きと質感がとんでもなく生物的でキモすぎて、思わずガチの悲鳴をあげてしまった俺に、会場はどっかんどっかん大盛り上がりだ。
「ワカナちゃーん! 視線、視線くださーい!!!」
ヒフミちゃんがカバンから取り出したデケえカメラで謎の粘液にまみれた俺の勇姿を連写している。謀ったか!? この急にヒーローショーみたいになる流れ知ってたなあなた達!?
心配してくれてるのはセリナちゃんだけ、ヒフミちゃん筆頭に周りのJK軍団のテンションは最高潮。
目からビームでペロロ様たちを苦しめる偽物。ついにはトドメと思われた瞬間、舞台袖からにょーんと伸びてきた長い胴の猫が、俺を偽物の舌から弾き飛ばす!
わぁ~! ウェーブキャットさん! ウェーブキャットさんありがとう! そのまま空中で抱きつくとにゅっと縮んで回収される。
今だ! と言わんばかりに……いや、言ってないかもしれない、ちょっと気の抜けたに゛ゃーんという声とともに、ペロロ様のペロペロラッシュで偽物は倒された。
いや、おい、ホンモノの方もなんかねっとりした汁飛んでんだけど! どうなってんだよ! だからどういう仕組みで着ぐるみの舌が伸びて汁分泌してんだよ!
あと猫! お前もどういう仕掛けで伸び縮みしてんだああふわふわ……意味分かんねえんだよぉ~!
最初と最後に意味深な事を言うのがお約束らしいMr.ニコライさんが、自我がどうたら対話がなんたら、なんかよくわからん意味深な事を言って〆、舞台は大団円で終わった。
それに隅っこのお嬢様方が深いわぁとしきりに頷いている。ほんとに深いのか? キモい鳥のベロベロ合戦は浅い深いというよりお彼岸の向こう側じゃねえか?
その後、マスコットらしく設けられたファンサタイムにペロロ様と偽ペロロに挟まれながら3人で記念撮影したり、やっぱりあった物販コーナーでグッズ買ったりしてホールを出た。
いつものように爆買いしていたヒフミちゃんはホクホク笑顔である。
「ワカナちゃんと偽ペロロ様の写真もとってもよく取れました。あとで送りますね!」
グッズのデカい袋を両腕に下げながら、青白い舌でぐるぐる巻きで、死んだような顔をしている俺とキモい鳥オルタの写真をデジカメの画面で見せてくるヒフミちゃん。
う、嬉しくねえ……。でもウェーブキャットさんに抱きしめられてるとこのはいいね、普通に欲しいわ。
ついでなので俺もウェーブキャットさんグッズをいくつか購入。舞台袖でベタベタした汁優しく拭いてくれたりね、またちょっと好きになっちゃったよね。
お菓子作ってる時にあると便利かもなあと思ってた猫キッチンミトンとか、猫スリッパをチョイスした。セリナちゃんはピンキーパカさんにスカルマンさんグッズも買っていた。
「ちょっとうちの団長に似ていたので」
骨マスクカバに似てる救護騎士団団長とは? そんな疑問が顔に出ていたのか慌てて訂正するセリナちゃん。
「いえ、行動というか心意気といいますか、間違った人を正すことを躊躇わないところがですね……」
「正義感が強い人なんだ」
「はい。とても素敵な人ですよ」
なるほどなあ。セリナちゃんも面倒見いいし、そういう人が集まるのかもしれんね救護騎士団。なんかすごい人だと風のうわさに聞いたことはあるが、そのうち会う機会もあるだろうか。
ホールを後にし、モモフレイベントの熱気を冷ましがてら、せっかくなので救護騎士団のチャリティバザーにも行くことに。自分で店出したり寄付って形で丸投げしたりできる仕組みだ。
俺もいらない私物があったのでちょっと前にまとめて寄付させてもらった。半分ゴミ処理みてーな感じでちょっと申し訳なかったのだがどうなったかな。
「ああ、ワカナちゃんの出品だったらわりとすぐに全部売れちゃったみたいです。好事家の方がとても良い品だと言っていたとか」
「あ、そうなんだ。意外な」
「結構高値がついたみたいで……良かったんですか? ちゃんとした所に出せば、それなりのお小遣いになったと思いますけど」
そう言われるともったいなかったかなあという気がしてくる貧乏性。ぽけーっと家具や食器、ぬいぐるみやアクセサリーなどを眺めつつもちょっと後悔。
ヒフミちゃんは一旦ロッカーにクソデカ荷物を預けた後、また掘り出し物のモモフレグッズを探すべく、鷹のような目をして辺りを見回している。グッズハンターヒフミちゃんは普段と雰囲気が違いすぎる。
「ま、まあ貰い物だからさ。物の価値がわかる人の手にわたって、社会こーけんできて、それならまあ万々歳さ」
「ふふ、そうですね。医薬品や病院施設・設備の更新に使われますから、世のため人のためになるはずです」
うんうん。なんかよくわかんねーちょっとアレな感じのピンクの埴輪とか、南の島のお土産かな? みたいなトーテムポールとか、髪ボサボサの日本人形とか、マジで謎の品々だったから結構なことである。
なんとなくしばらくは身近に置いておかないといけないような気になって捨てられないのだが、一定期間過ぎたら急に邪魔になってくるので困っていたのだ。
定期的に戦術教育BDとか技術ノート*2とかと一緒に大量に匿名で送られてくるのだが、BDノートはともかく置物系はほんとに困る。
趣味でもねえしウェーブキャットさんとの調和性もゼロ……いや、ある意味変なやつ集団で味がある感じにはなってたけど、ともかくいっぱいはいらんのだ。
「謎の置物を頻繁に送ってくるって、変わってますねえ。ご親戚かなにかですか?」
「んー? ……─────そんな感じかな」
バザーをうろついていたら日が暮れ初め、夕飯食べて一休みしたところで後夜祭だ。知ってる人や、なぜかこっちのこと知ってるらしい知らない人とも適当にキャンプファイアーの周りでダンスダンス。
お嬢様方はガチでめっちゃ上手くて流石って感じ。
我々庶民は見よう見まねのヘタクソダンスだが、これはこれで楽しいもんだ。箸が転げてもおかしい、二人ですっ転んだらそらもう大爆笑よ。
ヒフミちゃんと一緒にグラウンドをゴロゴロするが、ペロロ様のお陰で助かりましたって、とりあえずそれ置けや。
戦利品が詰まったクソ重ペロロリュック背負ってるからバランス崩してるんでしょうがとツッコめば、セリナちゃんも吹き出した。
はぁ、たのしー。一通りの知り合いと踊り終わって、庭園部がやってるフレッシュジュースの屋台で飲み物買って一休み。
なんとなく落ち着いてしまって、座って火を眺めていると、ふわり、視界に宇宙が踊る。
「やっほー☆ ワカナちゃん、しばらくぶり。楽しんでるねー。私とも一曲いかが?」
「……! はいっ!」
どこからともなくやってきたミカ様が、スッと俺の手を取る。ぅあぁやらか……。キャンプファイアーの熱でなく、頬がぎゅんぎゅん熱くなる。
「そうそう、上手上手~……はい、ぐるーん!」
「ぅぉわぁ!」
ヘタクソダンスしかできないのに、お嬢様レベルトップクラスのミカ様にお誘いもらっちゃって、舞い上がっちゃって、もう大変である。しかも完璧リードされてもう何がなんだかわかんねーよ。
腰を抱かれて顔がいい、いい顔が近い。しんでしまう。
「あれから君のこと少し聞いたんだけど、すっごく頑張ってる子だって。だから逆にちょっと心配だったりもしたんだけど……今日とっても楽しそうで安心したよ。楽しいのと頑張るの、セットなら大丈夫だよね☆」
「……っす。いいのかなってくらいで、だから頑張んないと」
顔を寄せてそっとささやかれ、なんとなく誰にも言えてなかったことをついこぼしてしまう。足元がふわふわと落ち着かないような、曖昧な不安。
そんな不安を吹き飛ばすように、ミカ様はニッコリと笑い、叫んだ。
「いいんだよ~! だってワカナちゃんは
「わぷっ!」
ぎゅっと一瞬、潰れるんじゃねえかってくらい抱きしめられて。
「頑張りすぎない程度に頑張って、目一杯楽しんで。それが
それじゃバイバーイ☆ と嵐のように去っていくミカ様。その後は知り合いらしいお嬢様たちに気まぐれに声かけたり、ダンスしてるトリニティ生たちを眺めてニコニコしてたり、混ざって一緒に踊ってたりする。
そんな様子をみれば、特に俺が特別なんかってわけでもないんだろうけど、もうアレよね、一生手ぇ洗わねーぞってなったよね。
なんであんなにキラキラしてるんだろう……。ずっと心臓バクバクしてるよ。
まあその後普通に土埃落とすついでに水道で洗われたが。セリナちゃんに。そしてまたぼちぼち踊って、疲れればまた屋台のものを適当に食いながら休憩して、元気が出たらまた踊って。
……そうして、トリニティ総合学園1年生としての文化祭は終わった。めっっっちゃ楽しかった。
やっぱり、こんなに楽しくていいのかなって思うくらいに。でも、いいんだろう。抱きしめられた感触が肯定してくれていた。
後に風のうわさで、というか寮帰ったら普通にニュースになってたんだけど、学園祭の出店でぼったくりやってたのにキレた美食研究会が出店を爆破。そのままマークしてた正実の人と戦闘、数十名撃破した末ツルギ・ハスミ両先輩にボコられて逃走したそうな。
いや、そこは捕まっとけよ。なぜ逃げ切れるのだよ? ミカ様からも逃走成功してたし、なんなんすかねあいつら……。
ちなみにその爆破された店は生徒がやってるとこじゃなくて、トリニティ外のスイーツ店が出したチョコフォンデュの屋台*3だったそうな。
お高いチョコ使ってると謳いながら実際はそんなでもないやつだったとか。
爆破で現場周辺チョコまみれになってるとんでもねえ様子とともに、報道はティーパーティーが食品偽装について遺憾表明、来年以降参加業者の審査の厳格化が決定~とか流している。
いや、テロは? この世界もしかして爆弾テロより食品偽装のほうが罪重いのか?
嘘だよね、キヴォトス?
こっちきてそろそろ半年以上経ったけど、俺、君のことまだ全然わかんないよ……。
色々つめつめ回。
ミカにぐるーんされたい……。