トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
文化祭が終わればあっという間に秋の深まり。あちらこちらの並木道が綺麗に紅葉したと思ったら風が冷たくなってきて、冬の足音がダッシュで近づいてくるのを感じる。
げんなりすること甚だしい定期テストとかいうイベントも、とんでもねえ勢いで距離を詰めてきている。まことに嬉しくない積極性。
日々真面目に予習復習とかやってるヒフミちゃんたちと違い、一夜漬けバンザイな俺は今回も苦戦が予想されます。
でもまあ前回なんとかなったし、キヴォトスの学問の要領も掴んだし、なんとかなるやろガハハ。なんてのんきしてたら早めのお勉強会開幕である。
なんか遠慮がなくなってきたというか、雑に扱っても構わないキャラが板についてきたというか。マジで机に縛り付けられるとは思わなかったよ。
1学期に赤点いくつか取ったのがセリナちゃん的にアウトだったみたいですね……。ヒフミちゃんもあはは……といつもの苦笑い。
でも積極的に異を唱えないあたり、この扱いもしょうがないって感じなんですね。いいじゃねえかよ赤点の1つや2つ、結局なんとかなったんだしさあ。
「ワカナちゃんに先輩と呼ばれるのは、あまり楽しくなさそうですから」
「えっとぉ、そうですね……。トリニティはわりと成績不良に厳しいので……。内容も学年が進むほど当然難しくなりますし、今からギリギリラインを低空飛行というのは、将来的に墜落の可能性が非常に高いかと……」
冷たい笑顔でぺしぺしするセリナちゃんと、メーデー案件*1をほのめかすヒフミちゃん。
まあ、言ってることは分かるよ。たしかにね。将来のためにももっと余裕を持ってテストパスできる実力を身につけるべきだ、といいたいんだろ。ド正論さ。
「でも勉強したくねえ~……」
長引く夏休みボケである*2。一ヶ月以上ほとんど勉強しなかったしぃ、その後は文化祭の準備ばっかりやってたしさ。そりゃもうやりたくなくなるさ。
夏休みの宿題も、生徒の自主性に任せる系なのか少なめだったから、終わり3日くらいで特急仕上げしたし。
「頑張りましょうね」
俺の戯言をスルーして、ドサドサ参考書を積むセリナちゃん。医療関係の勉強と比べたら、まあ大したことないんだろうかね。
夏を越えて、根本的な学習能力にも磨きがかかった感じがするよこの子。今回の定期テストは既に余裕があるようで、俺をきっちり仕上げると息巻いている。無慈悲である。
「私も夏休みにちょっとサボりすぎちゃった感じがしますし……頑張らなきゃですね」
「……うぃ~」
悲しみのうめきをあげる俺をよしよししてくれるヒフミちゃん。ああ、このまま一生甘やかされたい。
ヒフミちゃんの夏休みは俺らとお出かけ以外もイベント三昧だったようで、実際成績はちょっと落ち込み気味みたい。それでも俺よりははるかに余裕があるのだが。アベレージ80くらいから70半ばに落ちたような感じ。
息を吐きながら机にべしゃっと脱力する俺を、背後からセリナちゃんがぐいっとして背筋をしゃきっと伸ばし、手にペンを持たせる。ああ、逃れられない。
母さん、いまちょうどやろうと思ってたところだぜ。それなのにこんなんじゃ、やる気なくなっちまったよ。
「そうですか。では苦手な数学から。まずは前回範囲の復習をして基礎の固め直しですね」
「ぁ~……」
聞く耳持たねえ。こ、こんな断固たる感じでしたっけセリナちゃん? 夏合宿とかでなんかあったんかな。普通に忙しくも楽しかったみたいな話は聞いてるけど。
しかしこれ以上無駄話をする気はないらしく、にっこり微笑むばかり。
まあしょうがない。やるならやらねば。実際留年して見た目だけじゃなくて内実共に後輩扱い、とかなったらかなりキツイものがあろう……。俺は観念してペンを動かし始めた。
そんな感じで暫くの間、春頃やったのよりちょっとスパルタ風味マシマシの勉強会で苦しみ、その甲斐あってかなんとか赤点なしでテストを切り抜ける俺だった。
まだまだ低空飛行気味だったけど、終わってみればめっちゃ褒めてくれるし、お疲れ様会ということでめちゃうまスイーツも食べに行くし。
なんだろうね、次も頑張んねえとなあって感じになっちゃうよね。……順調に育成されてる感がすごい。朱に交わればの逆バージョンというか、来年あたりマジでお嬢様学校の優等生になってるかもしれん俺。
それはいいのか悪いのか。そんな事を考えつつの庭園部のお仕事である。
秋冬は植物なんて大方枯れてしまうもんだろ、と暇そうな感じがするかもしれない。実際温室とか以外の草木は休眠状態に入り、春を待つ。
だがそれに対して人間の方は結構忙しい。もちろん収穫は終わってるし、盗るものもないので強盗団とバトルする必要はない。だが、それ以外の作業が普通に多いのだ。
鮮やかに衣替えした広葉樹たちが、すぐに落ち葉を無限かよってくらい降らせてくるのはもちろんだが、ほとんどの木は剪定作業を春頃までに終わらせないといけない。
植木は綺麗に形を整えて見栄えがよく、通行の妨げにならないように。果樹は作業がしやすく、たくさん実がつくように。きちんと考えて枝を切る必要があるのだ。
落ち葉は袋背負ったドラム缶みたいな感じの掃除ロボくんがあらかたやってくれるのだが、例によって細かいとこの仕上げは人力だ。竹箒で掃いたり、風ぶわーっと吹き出す業務用のデカいブロワーで隅っこの方に山にして、丸ノコくんで焼却処分。
別に落ちてるまんま火つけてもいいんだが、1回やったら普通に通報されて消防車は来るし正実でハスミ先輩に怒られるしで散々だった。事件事故と紛らわしいから目立たないようにやれとのこと。
日常的にマジカルファイアーしてるから慣れきって感覚麻痺していたようだ。言われてみれば火に巻かれてるロリは普通に通報案件よね……。
枝切りの方もある程度はドローンくんがやってくれる。ただ、高いとこのぶっとい枝バッサリやるとかそういうのは任せられないし、例によって果樹園の中心エリアは人力だしで、やっぱり大まかにやってもらって仕上げは人間って感じになる。
まあ夏の作業と違ってモコモコ着込むのでそんなに辛くない。それに枝切り作業自体が結構楽しかったりもする。プラモ作るとかパズルゲーム解くのとかに似た感じがあるかもしれない。
彫刻のすごい人の話みたいに、あるべき形を作ってくというか、ぐっちゃりしたジェンガをいい感じに引っこ抜いていくというか。これに関しては俺のセンス×も発揮されないようで、人並みにできるしね。
しかしまあ枝切り自体の作業量もさることながら、とにかく大量の枝を処分する必要に駆られるのが本当の問題である。
こちらも焼却処分するとか、細かく刻んで肥料にするとかあるのだがなんにせよ運ばないと話にならない。軽トラでバターになるまでひたすら往復……。
「というのが去年までの話なんだよね!」
「はぁ……」
ややテンション高めの部長に連れられ果樹園へ。すでにそこかしこに枝の山ができている。本来なら軽トラバターなのだが。
「さあ、やっちゃって!」
「……うーす」
丸ノコくんを背中から引っこ抜き、ぎゅるぎゅると回し始める。あんまテンション上がらないので初速遅めだが、それでも段々と回転数が上がり火花が散る。
一定速度を超えた瞬間ボッと輝く炎が上がり、回転する刃が炎を纏う。うん、めっちゃカッコイイ、神秘的な光。
そしてそれをそっと枝の山に突っ込むと、ボワッと一気に燃え上がる。輝く炎のキャンプファイアー。……キャンプファイアーか、こないだは楽しかったなあ。
やや虚無的な表情になりつつ、次から次へ火をつけていく。不思議な力で延焼はしない。燃やすべき枝の山だけを綺麗に灰になるまで燃やし、なんの未練も残さずさっと消える。
トリニティ総合学園庭園部に古くから受け継がれてきた伝説の武器、煌めく炎の回転剣。
「冬場はこれがあるとほんっと楽なんだよね!」
「……ソッスネ」
伝説の武器、ゴミ処理にて最強。
枝も落ち葉もその場で燃やし尽くすから輸送効率どころか輸送が消える。燃やすものを選べる機能の応用なのか、温度もわりと自在。自分には全然熱くないみたいな感じで今まで使ってたけど、普通の焚き火っぽくあったかくすることもできる。
冬場の作業に大助かりだ。ついでにアルミホイル巻いて突っ込めば焼き芋もいい感じに焼ける。じゃがバターもできる。冷蔵倉庫から出してきたリンゴの丸焼きもだ。
いや、いいんだ。休憩タイムに焚き火当たるのも、みんなで焼き芋食うのも楽しいさ。喜んでもらえるのも、頼ってくれるのも嬉しいさ。でもなんか違くない? 伝説ってなんだよ。
部長筆頭に3年の先輩たちはめちゃめちゃ懐かしそうにしている。いいけどさ、これでようやく伝統の復活だ、みたいな感じになるのはどうなの?
前の使用者だったという部長の先輩、やべーやつやべーやつとばかり思っていましたが、あなたも、なんかこのもにょもにょする感じを抱えて芋を焼いていたんですか……?
特に文句も無さそうな丸ノコくんよ、今はどこにいるかもわからない先達よ。誰も答えてはくれない*3。
……ああ、焼き芋うめえ。
伝説の焼き芋の冬を過ごして年の暮れ。
クリスマスは、街頭でチャリティ募金をするというセリナちゃんに会いに行ったり、クリスマスイルミネーション綺麗なとこをみんなでぶらぶらしたり。手編み手袋帽子もらったりプレゼント交換したり、あとは庭園部でもパーティしたり。
年末にはペロロ様年越しライブでヒフミちゃんと一緒に叫び、そのまま初詣行ったりした。レンタル衣装の店で振り袖借りて、3人で神社へ。
クソほど動きにくくて自分で着るのはもういいかな、という感じだが、やっぱみんなで並ぶと華やかでいいね。新年早々絡んでくるスケバン集団を爆竹代わりに燃やしつつ、お願いごとは今年も楽しく過ごせますように。
ヒフミちゃんは俺と一緒で、セリナちゃんは世界が平和でありますように。スケールがデケえや。おみくじは末吉で、ヒフミちゃんは大吉引いていた。
不思議パワーのある世界だし、ちょっと入念にヒフミちゃんを拝んでおくことにしよう。なむなむしてたらほっぺたにゅいんと引っ張られたぜ。へっへっへ~。
正月だしなんか豪華な美味いもんを、と思ってうろついてたら凶悪テロリスト集団とニアミスしたのでダッシュで逃げて、結局いつものファミレスで正月の朝メシだった。
まあみんなで食べれば何食っても美味いよね。いやそもそもファミレスのメシ普通に美味いから文句なかったわ。入ろうとしてた高級料理店は案の定爆破されていた。
冬休みも明け、短い3学期。テスト対策にいつものように勉強会。ついには主要科目がアベレージ70を越え、圧倒的成長を感じつつバレンタインで友チョコ交換したり、ほんのり暖かくなった冬の終わりに新しい苗木を植えたり。
ああ、1年が終わっていく。
学校生活というものがこんなに色鮮やかだったなんて知らなかった。だから。
「う゛え゛ぇえ゛ぇぇぇ……」
「ああもうワカナちゃん、そんなに泣かないで」
「泣゛い゛てね゛っす……」
涙と鼻水ボロボロで、みんなで用意したでっかい花束を部長に押し付ける。ああ、いやだいやだ。ずっと終わらなければいいのに。何も変わらなければいいのに。
片方の腕で花束を抱え、もう片方の手でそっと涙を拭ってくれる。
「ありがとう、ワカナちゃん。私はあんまり良い部員でも、部長でもなかった」
ふるふる全力で首を振る。先頭に立ってみんなを引っ張っていくような、そんなわかりやすいリーダーではなかった。でもいつもそっと背中を押してくれるような人だった。
「私ができた一番の仕事は君を連れてこれたことだったな。……君にとって本当に良かったのかは、今でもわからない。けど、庭園部を好きになってくれて、いつも必死で頑張ってくれて、すごく嬉しかった。心配事も少しはあるけど……みんないい子だから、きっと大丈夫。安心して卒業できるよ」
卒業。その言葉にまた嗚咽が止まらなくなる。居なくなってしまうんだ。今生の別れというわけではない。けれど、四六時中一緒だったような今までの日々は確実に終わってしまう。
「キツくてしんどいこともいっぱいあったけど、楽しいこと、たくさんあったよね。ずっと……先輩たちも私たちも、みんなが守って、絆いで、託してきたんだ。君にもそうして欲しい。私たちが過ごしてきた庭園部を」
「……はい゛」
頭を撫でて、強くハグして。
「お願いね」
部長は涙ぐむ他のみんなも抱きしめて、俺は他の卒業生たちにも抱きしめられて。そうして、先輩たちはトリニティ総合学園を去った。
なんでこんなに悲しいんだろう。誰かとわかれることなんて、何度も経験してきたはずなのに。生まれて初めて、ナイフを突き立てられるような胸の痛み。
泣き疲れ、声も涙も枯れ果てて、俺は泥のように眠った。
ちょっとダッシュ気味ですがようやく1年目終了!
一旦停止してクリスマス正月バレンタインをがっつりやろうかとも思いましたが、とりあえず本筋を進める感じで……。
ということでぼちぼち原作時間軸に入っていきます。タイムスケジュールの把握があんまりできてないんで色々ふわっとしそうですが……。