トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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2話 庭園部へようこそ!

 しばらく静かな階段でぼけーっとしていたが、流石にいつまでもこうしていても仕方ないと立ち上がる。とにかくその辺をうろついてみよう。そう思ってパタパタとセーラースカートをはたいて、別に汚れてもなかったけど埃を落とし、トリニティ本校舎を出た。

 

 外に出てみれば来るときも見たでけえ噴水があったり、植木に植え込み、花壇が上品に整えられ、綺麗なレンガ敷の広い道。建物もどれも古いけど立派な感じでなんたら様式とか名前ついてそうな無駄に凝ったデザイン。はえーすっごいとは思うが、場違い感が拭えない。

 

 あちらこちらできゃいきゃいしている少女たちは案外みんな年相応で、おほほですわよごきげんようみたいなあからさまなお嬢様は思ったより居なくて、どの子もわりと普通の女子高生だ。でも平均的にちょっとお上品かなみたいな雰囲気があって、やっぱりどうにも馴染めそうな気がしない。

 

 あちらを見てもこちらを見ても美少女だらけと思い直せばちょっとテンションおかしくなってくるが、知らない人たくさんいるところに馴染めぬボッチハートと合わさって最終的にはなんとなく平常常態に落ち着いた。

 

 ひとまずさきほどチェックしたヤバそうな部活は避けてうろうろしてみると、上級生らしきお姉様方がぽんぽんチラシをくれる。しかし大声を上げて呼び込みをするとか、無理やり引っ張っていくとかそういうのはなく、よければどうぞという感じが基本の優しいスタイルだ。騒いでいるのはむしろ新入生の集団だったりして、そんな彼女たちを私たちも去年こんな感じだったわねえと言わんばかりに在校生の人々は微笑ましそうに眺めている。

 

 あぁ~なんかいかにも青春って感じ……。

 

 わりと灰色の青春しか経験のない俺はじわじわ継続的なダメージを受ける。しかしなんか知らないがモラトリアムよもう一度となったからにはできれば楽しく過ごしたい。趣味や勉学に熱中するでもなければ帰宅部はやめておけと散々ネットでも言われていた。ゆるーい部活もまあまあ虚無といえばそうだが……。

 

 地味で、穏やかで、なんとなく輪に入れて楽しそうな……そんな楽園、やっぱりないのだろうか。いや、楽園なんて大仰な言い方をするから無さそうな気がしてくるのであって、隅っこの方でちょっと落ち着ける自分の居場所、居ていい場所。そんなのならなんとかなるのではないか。しかしもらったチラシが積み重なるばかりでピンとくるようなところはない。

 

 探してみればマジであったお嬢様部カッコガチみたいなところはもう論外だし、元から面識があったらしい新入生と在校生がきゃいきゃいしていて人間関係固まりきってるみたいなとこはやっぱり入りづらいし、パッと見で既にイカれて……おトチ狂いあそばされてるザマスね……みたいなとこも無理無理の無理だし。

 

 やっぱり怪しいながらも大きいところに行くのが無難なのだろうか。そう思って中小部活のゾーンを脱しようとしたとき、タタタタタッと花火のような、何かが弾けるような音と物が壊れる破砕音が連続する。

 

 単純にデカい音にビクりと体を跳ねさせながら、何事かと思ってそちらを向けば、特になんの前触れもなく銃撃戦が始まっていた。まるで意味がわからんぞ。あまりにも非ィ現実的な光景にフリーズしてしまう。

 

「紅茶部と珈琲部が案の定戦闘を始めたぞ!」

「だからあの配置はマズイって言ったのに!」

「流れ弾が来る! 応戦して!」

「誰か正実に通報を!」

 

 飛び交う怒号。各部活ブースのテントやイス、テーブルが銃弾で破壊され破片が飛び散る。悲鳴があがり逃げ惑う新入生。慣れた在校生が倒した机を遮蔽に反撃を開始する。広がる戦闘、止まらない混乱。そして巨大な爆発音。

 

「パンジャン*1部の展示がやっぱり爆発したぞ!?」

「生物部のブルーピーコック*2が逃げた!」

「正実はまだか!」

 

 もはやなにがなんだかわからない。新入生たちもさすがのキヴォトス人というべきか、みんな物陰に隠れたり伏せたり、なんなら反撃したりしている中、俺はその場を右往左往することしかできなかった。どうすりゃええねん銃撃戦での身の施し方なんて知らんぞ。FPSもゲロゲロ酔うからあんまやらないし! 

 

「ふぎゃっ!」

 

 心のなかで悪態つきまくっていると唐突に衝撃。側頭部がじんじん痛い。撃たれた? 頭を? 弾が当たったらしい所が熱を持ってくる。そのままふらついてバランスを崩し、すっ転んでさらに頭を地面に打つ。2倍じんじんしてめっちゃ痛い。ていうか、頭、銃で撃たれて……えっ? 

 

「あぁぁああぁぁぁ……! 死ぬんだぁ~……!!!」

 

 こ、こんなところでリア充にもなれず何も得ず、人生空虚な敗北者? いやだぁ……。情けない悲鳴を漏らしながら地面でゴロゴロ丸まっていると、グイッと引っ張り上げられ、そのまま肩に担がれる。

 

「ちょっとごめんね!」

「ぐぇっ」

 

 お米様抱っこですごい速さで移動していく。お腹に肩が食い込んで痛い。なになになんなの誘拐されたの? お手頃サイズのロリだからさらわれてしまったの? ウソでしょ撃たれて死んだと思ったら今度は薄い本展開なの? ブッダファック! 寝ているのですか! 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほい。もう大丈夫」

「ひんっ」

 

 べしゃっとベンチに寝かされて、こちらを覗き込む誘拐犯と目が合った。背は高め、長めの黒髪を背中で緩く括って、ほわっとした優しげな顔。セーラー服に丈夫そうな作業用エプロン。田舎の親戚の美人のお姉ちゃんとかそんなのの理想形みたいな感じといえばいいだろうか。

 

「私、庭園部の部長。大変だったね新入生ちゃん」

 

 本当にね。なんか知らないが危険な状況は脱しているようで、銃撃戦の音は遠い。きょろきょろ辺りを見回したあと座り直した俺に、ぽんとミネラルウォーターのペットボトルが手渡される。

 

 当たり前だが別に誘拐犯でも無さそうな雰囲気だったので素直に受け取り、ごきゅごきゅ一気飲みしてようやく一息。俺、TSしてお嬢様学校に放り込まれたかと思ったら紛争地帯だったでござるの巻。いやマジでどういうことだよ。

 

 連れてこられた先は少し離れたところにあった庭園部という部活のブースだったようだ。中小部活の中でもさらに地味というか扱いが悪いというか、そういう感じで騒動から離れた位置にあったため影響が少なかったらしい。そして遠くから響く銃声が、一時さらにド派手になり爆音もドッカンドッカン連続したかと思えば完全にやむ。

 

「……正実が鎮圧したみたいだね。あそこは人が多いし毎年有望な新入生いっぱい入ってるからなあ」

 

 うらやましー、なんて言いながら自分もペットボトルの水をこくこくと飲む部長。俺ほど適当というか、まあ言ってしまえばお下品なガブ飲みではないが、なんか普通というか、お嬢様味を感じない雰囲気だ。

 

「えっと……助けてくれてありがとうございます。死ぬかと思った」

「いいえ、どういたしまして。外部生の子でしょ? 私も最初はあんまり馴染めなかったから、親近感あって眺めてたらアレだったからさ」

 

 小競り合いくらいはしょっちゅうあるけど、派手になるのはやっぱイベントごとだからかねえ、なんて恐ろしいことを続ける部長。やっぱり紛争地帯じゃねえか。しょっちゅうあるんじゃねえよ銃撃戦が。

 

「キヴォトスの中じゃトリニティはお上品な方だけどね。戦闘も全然慣れてなかったみたいだし、キミはずいぶん平和な学区から来たみたいだ」

「まあ、そっすね……」

 

 現代日本だもん平和だよそりゃ。本当の所を話すわけにもいかないと言うか、自分でもよくわかってないのでもごもごしながらペットボトルを両手で抱えてため息をつく。部長は特に深く突っ込むこともなく、なんとなく納得して同情してくれたのか俺の肩をポンポン叩く。先行きの不安が人間関係だけじゃなくなって、もうやっていける気がしないよ。

 

「すぐに慣れるよ。キミは銃撃も流れ弾くらいじゃ全然効いてないみたいだったし、なんなら正実に入ってもいいかもね」

「ムリムリムリ無理っす……!」

 

 バカなことを言うんじゃねえよ紛争地帯の治安維持組織とかどう考えても命紙吹雪の軽さだろ! そんな思いを込めながら首をブンブン振れば、部長はしょうがないなあとばかりに苦笑い。

 

「入ってみれば案外いい感じになると思うけどなあ。どっか他に気になる部活とか委員会とかはあった?」

「いや、なんかどこも馴染めなさそうで」

「うーん、そうだねえ……内部進学の子で固まってたりお嬢様~って感じだったりだもんね」

 

 あーわかるわかるとうんうん頷く部長。みんな似たような感想を持つものなんだろうか。意外と生粋のお嬢様みたいなのは少なくて全校で言ったら3割くらいなんだけどね、なんていいながら部活紹介パンフレットを開いて、ここはガチ、こっちはエセ、などと部活ごとのお嬢様比率を教えてくれる。ティーパーティーとかいう生徒会みたいなのや一部のおハイソな部活を除けば、実際庶民率が高めらしい。

 

「はぁ~……うーん、でもなんかどこもピンとこなくて」

「なにか趣味とか、好きなことはないの?」

「ゲー……いや読書、とか?」

 

 正直に答えればネトゲソシャゲたまにコンシューマーゲーにネットサーフィンとかになる実質無趣味人間が、ご趣味はとか聞かれることほどつらいこともない。ついと目をそらしながら答えれば、ベンチから立ち上がりすっと位置を動かして視線の先へホーミングしてくる部長。エプロンについたリンゴと太陽を合わせたようなロゴマークが視界の真ん中から離れない。しばらく遊んで満足したらしい部長さんはえっへっへと笑いながら俺の横に座り直した。大人っぽく見えて妙におちゃめな人である。

 

「えっとねー、読書系の部活はちょっと派閥抗争が激しいから、ある程度ガチ勢じゃないと居心地良くないかもね」

「やっぱそんな感じなんすね……」

 

 なんとなく垣間見えた印象が正しかったらしい。やっぱ帰宅部かなあ。灰色青春の気配が俺を掴んで離さないのを感じる。美少女になったとて中身陰キャではダメダメというわけか。

 

「それじゃあせっかくだし、うち入る?」

「うち?」

 

 ああ、そういえばこの人部活勧誘やってる上級生だったよ。全然そんな気配ないから忘れていた。ブースに他の人もいないし。つーか庭園部ってなに? 庭球部の仲間かなにか? いやまあ普通に庭のお手入れみたいな感じだろうか。それにしたって部活としちゃあ変な名前だが。

 

「結構古くからある部活でね、元々はすっごい大庭園を管理してたらしいんだけど……ともかく、学内のこういう植木とか、花壇のお花のお世話したり~って感じの部活です」

「お花……」

 

 部長が腕を振ってそこかしこにある街路樹を指しながら言う。確かに立派で見事だが、正直あんまり興味ないかなあ。植物なんて小学生時代に朝顔育てたくらいしか記憶に無いぞ。

 

「地味ーな土いじりだから、お嬢様~みたいな人とか、パリピウェ~イみたいな人は全然いないよ。控えめな子が多いし、きっと仲良くなれると思う。あとリンゴとか果物の木も育ててるから、収穫の時期は食べ放題!」

 

 俺の微妙な顔を見てズラズラメリットを並べてくる部長。うーん、くだもの食べ放題はいいかも。普通に甘いもの好きだし、買うと高いもんね。そして友達、それは大いに魅力的。部長さんがこんなこと言ったところで実際仲良くなれるかは相手次第、俺次第だからなんとも言えないし自信も全く無い。でもこのまま帰宅部になったらガチのマジでそのまま引きこもりスーパーボッチコースまっしぐらなのは間違いない。

 

……まあ、嫌になったらやめればいいし、これもなにかの縁だろうか。

 

 庭園部という言葉を頭の中で何度か反芻してみれば、思いのほか心惹かれるものがあるような気もする。不思議な魅力があるというか、無意識がここ行っとけと言ってるというか。案ずるより産むが易し。天啓に身を任せるのもたまにはいいだろう。

 

「えっと、それじゃあよろしくお願いします。軽部ワカナっす」

「やった! よろしくねワカナちゃん!」

 

 

庭園部へようこそ! 

 

 

俺の両手を握ってぶんぶん振る喜びようにちょっと早まったかなあと思わないでもないが、ニッコニコの美人の姉ちゃんを見て悪い気がするわけもなく、そのまま庭園部に入ることを決めたのだった。

*1
Panjandrum。紅茶キメた人々が作る自走式巨大陸上爆雷。どこで爆発するかは走らせてみるまでわからない。

*2
紅茶キメた人々が開発した核地雷。冬季の電気回路保温のため生きた鶏を用いた。ここではその名を冠した謎の生物兵器を指す。




英国面オリ部活は特にシナリオに関わるわけではないネタ要素ですが最近のヒフタン愛用品とか見るにトリニティ生は思った以上に紅茶キメてるのでたぶんあると思います。
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