トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
20話 小さな奇跡の出発点
何がなんだかよくわからないうちに、気づけばよくわからん知らない部屋で、でけえ猛禽類系羽つき金髪巨乳ロリになっていた。巨乳というか、細くてちっこい割に乳は普通にあるからデカく見えるというか。
まあそんなのにもいい加減慣れたものだ。ブラジャーつけるのにだいぶ覚悟が必要だったのも、そこそこ前までの話。
1年だ。
なんにもない殺風景だった寮の部屋も、ずいぶん賑やかになった。胡乱な瞳でこちらを見やるウェーブキャットさんグッズの群れ。ヒフミちゃんに貰った他のモモフレンズグッズや、セリナちゃんと交換したグッズやプレゼント。
庭園部の人達にもらった植物の図鑑や栽培の指南書、小物や花瓶に、ずぼらな俺でも安心な長持ちするアセビの切り枝。あとはよくわからん謎の水晶埴輪やトーテムポールなんかの置物類。
ガンラックには散弾銃と丸ノコくん。しっかり磨いた銃身はピカピカで、カーテンの隙間から差し込む朝の日差しで艶々と輝く。回転刃にかぶさったキモい鳥は、ベチャッと潰れた顔であらぬ方を見つめている。
クローゼットには最初制服しかなかった。今は普通の私服も増え、滅多に着ないのにやたらとフリフリの服もちょっとだけ。作業用のエプロンや季節の装備なんかの部活用の服もたくさんぶら下がっている。
棚には散弾銃の弾や整備用品類、装備固定用のハーネスベルトがきちんと並べて置かれ、大量の教科書やBD、授業関連のものはテキトーに隅っこに積まれている。
壁のコルクボードには庭園部のみんなや、ヒフミちゃんセリナちゃんと事あるごとにとった写真がいっぱい。自分で撮ったり、送ってもらったのをプリントサービスで印刷したやつだ。
外国かぶれ乙ってなもんだけど、嬉しかったことばかりで、見ているだけでその気持ちが蘇ってくるのだから仕方ない。
最新のは卒業式でべちゃべちゃの顔の俺と、泣き笑いのみんな。嬉しいばかりじゃないけれど、1年過ごして、びっくりするくらいたくさんのものを手に入れた。
制服に着替え、姿見の前に立つ。調子を確認するように、鏡の中の軽部ワカナがニカッと笑いかける。
ややボサボサ気味の短め金髪を雑に撫で付け、クソデカ羽をざっくりブラッシング。ベルトを巻いて、エプロンを羽織り、銃と丸ノコくんを装備したら準備完了。
今日から2年生。キヴォトスでの、トリニティ総合学園での、2年目の生活が始まる。
「こらっ」
「ふごっ!?」
入学式に続く始業式でいきなり居眠りかましてしまった俺は、セリナちゃんにひっぱたかれて目を覚ます。ガチ寝ではなく半分意識飛んでるくらいの感じだったから、イビキはかいてなかった……と思うんだけど。
いやだってしょうがないじゃん。お話が長いよ~、えっとナギサ様? 校長先生かっつーの。まあロボ教員たちはそんな偉くないみたいだし、生徒会長が実際校長先生ポジションみたいなんだけどさあ。
時候の挨拶トリニティの歴史の話から始まって、マナーやらトリニティ生として自覚を持って~みたいななんやらで2~30分くらい話してなかった? ちょいちょい給水タイム挟むしよぉ~*1。
狐耳シマエナガの人*2もそこそこ長かったらしかったけど一人で尺取りすぎだろ。いや、狐耳の人が真犯人か? セイア様。
あの人話がまだるっこしくて、全体的に何言ってんだかわかんねえんだよなあ。妙に抽象的だったり、唐突によくわからん経典の引用とか挟んでくるし、微妙に不安にさせる未来予想みたいなの語るし……。
新年度始まりにふさわしくないでしょマジ。
それに引き換えミカ様よ。3分きっかり、挨拶・トリニティの素敵な所・新入生歓迎の言葉と極上スマイル。
華があるよねやっぱ。こういうのでいいんだよって感じ。外部からの入学生っぽい子達はキラッキラした目で見てたよね。
まあお嬢様お嬢様してる人たちはわりとシラッとしてて、逆にセイア様を熱の籠もった目で見てたり、ナギサ様の話聞いてうんうん頷いてたりしてたから好みの問題なのだろうか。
いかにも噛み合わなそうなメンツだが、案外あの3人でバランスが取れてるのかもしれない。
「ティーパーティーの方々のことはともかく、ワカナちゃん、あなたもこれから勧誘でしょう?」
「あ、そっか。もうなんだ」
式典が終わり、新入生はそれぞれのHRクラスで色々説明。その後本校舎周りに設置されたブースを巡って、部活や委員会の勧誘をという具合だ。
在校生の我々は勧誘する側として精を出すこととなる。長机やイスの運び出しなんかは既に終わっているから、あとは移動するだけだ。
「セリナちゃんは副部長だっけ? 俺もなんか知らないけど部長でさ。ガラじゃないと思うんだけどね、マジで」
3年生が卒業し、部長も不在となった庭園部ではなぜか俺が部長になっていた。特攻隊長とか先手大将とか鉄砲玉とかならまあわかるんだけどなぜ。
それに俺より真面目できちんとした子いっぱいいるしさあ。というか俺より雑な奴があんまいねえ。
「私は特に役職付きになったというわけではありませんが、2年生のまとめ役のような立場ではありますね。そしてまあ、ワカナちゃんが部長になったのは、こういうのが理由でしょう」
「???」
スマホを操作して渡してくるセリナちゃん。動画が再生待ちになっている。タイトルは……。
「恐怖! お嬢様校トリニティに潜む首狩り族?」
再生してみればいつかのリンゴ泥棒視点で俺との戦闘が映っている。チラチラ映ってる仲間を見るにヘルメット団の誰かがメットにカメラ仕込んでたんだろうか。夜間だが俺がばんばん火を焚いているのでわりと見やすい。
ちょっとイっちゃった目をした羽根付きロリが、ドでけえ殺人ピザカッターとそっから上がるキラキラファイアー振り回しながら大暴れしている様子がよく撮れている。
荒い音声の哄笑もありまるで悪魔のようだ。いや、自分を奮い立たせるためとかそういうのであって、別に楽しくて笑ってるわけじゃないんだけどさあ。
○お嬢様の姿か? これが……
○普段はもっと可愛らしいですよ
○大昔に生息していたユ×ティナ聖徒会の異端審問官みたいでした*3
○キラキラファイアー綺麗
○普通に怖い
○首狩り族さんの武器は一体どういう仕組みで動いてるんでしょうか!
○気合でしょ
おお、コメントが絶賛の嵐だよ。首狩り族とか異端審問官とかよぉ……。普通に恥ずかしいしなんかマズイのではこれ? イメ損的な何かで訴えられない? むしろ俺が訴える側か? 肖像権!
動画が進むと、丸ノコで斬り伏せられた仲間のヘルメットたちがバタバタと倒れついには潰走。逃げ遅れた撮影者の視界に高速回転するノコギリ刃が大写しになり、ブツリと途切れて動画は終了した。
○あ、悪魔たん……
○やられてる方が悪魔定期
○エグ
○リンゴ泥棒の末路
○草
○この子内進組じゃないし別にお嬢様じゃないよ
○トリニティ生としてこの品の無さはいかがなものでしょう
○マジでトリニティ総合学園の品格を損ねてます
○一皮むけばみんなこんなもんですわよガハハハハ!
○トリニティのリンゴ普通に美味くて好き
○たまにトラックで売ってる奴コレかよ命がけすぎんだろw
○ブラック企業*4がチンピラ集めて突撃させてるからな 末端の給料割に合わないってレベルじゃねーぞ でもリンゴつまみ食いできるから甘いもんに飢えてるやつらがわりと参加する
○ゲヘナ女子甘味に飢えがち
○去年のシーズン初めくらいまでは楽な仕事だったんだがなあ……
トリニティの人も見てんのかこれ。やだなあ。再生数結構あるしさあ。つーかセリナちゃんも見たんだよねこれ……。
「ちょっとバズってSNSで流れてきたので。普段は可愛いって書いておきましたよ」
やめろやめろお母さん、そんな謎の擁護がほしいわけじゃないわい! バーサーカー動画が拡散してるのが恥ずかしいんじゃ!
でも関連動画のサムネを見れば、やべー笑顔で大暴れのツルギ先輩とか、スナイパーライフルおでこで弾いてるゲヘナ風紀委員長とかがいるし、そっちと比べりゃそんな大したもんでもないかという気もするな……。
「まあ、こんな感じで強い方は目立ちますし、そういう人が所属しているということはその組織にとって抑止力になりますから。顔役にその方を、というのはよくある話です」
聞けば、キヴォトスでは実力があれば学年は多少無視して役職につくこともわりとあるそうな*5。
もちろん人柄や適性を重視することもあるでしょうし、兼ね備えているならそれが一番ですが。そう言って俺の頬をつんつんするセリナちゃん。
心技体兼ね備えたスーパーマンになれってことぉ? そんなん無理ですよ。
「でも、ワカナちゃんはずいぶん変わったと思いますよ。最初に会った時は地に足がついていないというか、迷子のようでしたけど。今は立つ場所を決めて、とても落ち着いたように見えます」
「そーかな……まあ、そうかも」
自分が何者かみたいな、思春期特有の悩みみたいなのはあったし、今もなくはない。俺自身俺がどういう存在なのか全然わかんない。
でも、この
それに友達がいて、仲間が居て、一緒に楽しく遊べる。それが学生の特権と言うなら、素直に楽しむのが吉というものだろう。
「セリナちゃんは~……前からずっと美人だね!」
「もう、何言ってるんですか。今日から私たちは2年生で、先輩です。後輩の見本になるようにしないといけませんよ? では、部活勧誘がんばりましょうね」
ママ味が増したよねなんて言うわけにもいかず、適当にごまかしてセリナちゃんと分かれた。
しょっちゅう面倒をかけてるせいか俺は世話焼かれるのに慣れ、セリナちゃんも俺の世話焼くのに慣れて、叱ったり嗜めたり諭したり……。あとは褒める時は褒めてくれるし。
ヒフミちゃんは一緒にがんばりましょうね、みたいなお友達感が強いんだけど、セリナちゃんは完全にママになってきてるんだよなあ。
俺が手のかからない子供に成長するべきなのか、それとも甘えてていいのか。気持ちとしては一生甘えてたいんだけど……。そうか、俺が先輩かぁ。
先輩として後輩の世話を焼く、なんてのはあんまり慣れてない。去年の部長たちみたいに、いい先輩になれるだろうか。無理としか思えないが、でも頑張らないといけない。
俺の立つ場所、俺の居場所、それを居心地の良い場所のまま守りたい。そのために何ができるか……。
ひとまず、新入部員をいっぱい獲得しないとな。
そして部活勧誘はチラシ渡しまくったり、活動の動画見せたり、作ったお菓子の写真見せたり、色々やったが全然芳しくない。
スイーツに目を輝かせていたぺったんピンクの子……なんかロリぃ雰囲気出しといて俺よりデカかったけど*6。この子は入ってくれそうな感じだったんだけど最終的にダメだった。
もうちょっと気楽にスイーツ食べ歩きがしたいとかなんとか。それはもう部活じゃなくて普通に趣味でやればいいんじゃないかな。
あとはいかにも普通の女の子って感じの子が、ミント育てたいとかいい出したり。いやミントはダメだよ。一歩間違えたらエライことになるわ*7。
プランターとかでやれないこともないけど、種こぼしたりしたらバイオハザード発生だし。しばしミント論争をした後残念そうに去っていく黒髪の子。
いやもうミント大丈夫ミント歓迎、ミントのお菓子も作るよとか言って騙くらかして入れちまえばよかったかな……。
実際ちょこっとプランターで育ててちょびっとお菓子作って、くらいならまあ絶対無理ってこともない、と思う。うーん、やっぱ勧誘向いてないのかな俺。とっさの口車が全然ダメだ。
そうしてあんまり上手くいかない勧誘を続けていると、近くのブースでやってた紅茶部と茶道部が銃撃戦を開始した。
新入生の奪い合いなのかなにか思想信条の違いで問題があったのか。唐突なバトル展開である。
あのさあ、もしかして別にお嬢様がどうとか関係ないんじゃねえの? その辺の不良チンピラレベルの沸点してない? イベント事だと発火しやすいみたいなのは聞いたけどさ、しやすいどころか100%暴れてないか?
それに普段もわりと普通に暴れてるしさお嬢様方。プール茶会事件とか部室棟窓外放擲事件みたいなのが定期化してるの、絶対頭おかしいよ。
とりあえず流れ弾を羽で弾きつつ警告。戦闘を停止しないと全員燃やすぞ。叫んでみたけど返ってくるのは鉛玉。あぁそうかよ。
丸ノコくんぎゅんぎゅん回して火炎をバラ撒く。なんか最近丸ノコくん調子が良くて、燃焼範囲とか速度とか前と比べてすごい良くなってる気がするんだよね。
使い込んで熟練度が上がったのかしら。
正実訓練の成果もあって全体的な戦闘力も上がってるし、その辺の一般キヴォトス人ではもはや相手にならない。暴れてたお嬢様方を全員軽くお焦げにして、庭園部ブースに帰宅。
死屍累々の有様をみて通報受けてきた正実の子たちがドン引きしてたけど、普段あんたらだってやってることだろ! 新入生もドン引きしてるしさあ! キャー素敵みたいな感じになるとこじゃねえの?
首を傾げる俺にビジュアルがね……と苦笑する同期の陸上ちゃん。丸ノコくん、初見にはあまりにも凶悪過ぎる模様。
あと庭園部は別に戦闘集団じゃないから強さに憧れるみたいな子は普通に正実に直行するとか。なるほど確かにそれはそう。
結局俺はなんの成果もあげられず、ファンネルしてた同期の子たちが何人か捕まえたり、今日もいつものように仕事してた先輩とかが新入部員連れてきてくれたくらいだった。温室で花の世話してたら逆に声かけられたんだって。
どの子もお花大好きです、みたいなふんわりした素朴な感じでとても可愛らしい。
個人的にはリンゴ泥棒を駆逐したいです、この世から一人残らず……! みたいな子が一人くらいは居ればよかったんだが。
まあゆるふわ女子も1年立てば立派な森のアサシンになるし、育成次第だよね。
いやほんと虫も殺せないみたいな感じだった同期たちがね、みんなある程度戦闘こなせるようになってるもんね。森林ゲリラ戦なら学内でもトップクラスの集団だと思う。
それに俺も喧嘩一つしたことない貧弱ボッチだったのが、いつのまにかバーサーカーみたいな扱いだ。気持ち的にはあんま変わってないつもりなんだけど。
来年の今頃には一体どうなっているだろうか。俺も、この子たちも。
2年で部長とかは大体小規模な部活なんで、原作キヴォトスの部活はたぶん普通に年功序列で役職決まってるんですが、本作ではその辺曖昧ということにしておきました。
1年目の時点でもわりとぼかしてたんですが、モブ3年部長はできる限り出したくないなあということで。
あとナギちゃん圧迫面接を1on1でやるなら部長のほうが自然かなあとかもあり。