トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
春の日をぽけーっと平和に過ごしている。
世間ではなんか連邦生徒会長が失踪したとか、連邦生徒会の何とかが停止したとかでしばらく停電になったりとか、矯正局とかいう刑務所みたいなとこから凶悪犯が脱獄したとか。
連邦捜査部シャーレってのができて、外の世界から“先生”が着任してそれらをなんとかしたとか。色々ニュースが多い新年度だ。
停電以外は特に俺には関係ないが、外から来た先生ってのはちょっと気になるね。みんな割と普通に受け入れてるけど外の世界ってどういうことなんだよ。そもそもこの世界はなんなんだ?
歴史の授業とかもあったけどさ、あとは神学とか地学とか、それっぽい情報もそれなりに勉強したけど、よくわかんねえんだよなあ……。
俺の頭が悪いのか研究が進んでないのか、ふわっとしてて意味不明というか。賢い人ならわかってるのかね。まあ気になってもどうしようもないのでそれは置いておこう。
ともかく先生とはちょっとお話してみたい気持ちがあるよね。前世の記憶がありますとか言ったらドン引きされそうだけど、現世の新作ゲームの話とか聞きたい。
転生前にアーマードコアの新作がやれなかったのは痛恨事である。話だけでも聞きたい。マジで。あとまあ知らない美少女よりは知らないおじさんの方がまだ話せそうだし……。
と言っても、なんかすげー忙しく大活躍してるらしいから、俺みたいな一般生徒に構う暇はないだろうか。
そんな感じで世間では色々有ったらしいけど、トリニティには関係なく、特に何事もなく平和……。
いや関係あるわ。なんか諸々の影響で全国的にすごい勢いで治安悪くなってるらしくて、その煽りを受けている。
去年もたまーにあったけど、トリニティ生狙った不良の襲撃……カツアゲとか誘拐がめっちゃ増えてるらしい。最近もちょいちょい焼いてるわそれっぽい集団。
去年はノルマ終わったら三々五々解散って感じだったが、最近は部活終わりは集団下校にしている。
2年生以上はそんなに狙われることないし、自衛もできるから心配ないが、新入生はほわほわしてるからな。わりとちょっかいかけてくる連中が多いのだ。
不良がほわほわちゃんたちのやめてくださいを無視して絡むと、1年生集団にも埋もれる背丈の俺が、宝箱に擬態する系モンスターよろしくポップして全員燃やす仕組みである。
意識があれば、丸ノコくんでゆっくりトドメを刺してトラウマ刻んでる*1。
無限湧き不良が最近はさらに大量に湧いてるわけで、効果の程は知れないが一応ね。
1年ちゃん達には引かれるかなあと思ったけど、案外普通にキャイキャイちやほやしてくれる。雰囲気に反してすげえ肝据わってんね君ら……。
不良の襲撃といえば戦車持ち出されたこともあった。体育の授業で使うこともあったけど、街中で出てくるのはめったになかったから流石にビビったよね。
丸ノコくん一発でスクラップだったから、思ったより大したもんでもなかったけど*2。
そういう戦車とか戦闘ヘリとか装甲騎兵みたいなロボとか、違法兵器の流通もすごいことになってるらしい*3。
……あんま平和じゃねえな! 去年のキヴォトスくんも大概だったけど今年のキヴォトスくんやべーわ。新年度早々気合い入りすぎだろ。
去年ニュースとか眺めてると、連邦生徒会長すごい! 系のプロパガンダかよみたいなのがちょいちょい流れてたけど、実際マジのやり手だったのかもしれない。
行方不明になった瞬間元々なかった治安がさらに崩壊って。元の酷さと会長の有能さが凄まじい。
しかしこの世界、治安が悪いとは言っても全体的にポップでキュートと言うか、撃たれても痛えで済むから、そんな致命的な奴って全然聞かない。そんな中で行方不明って、何か本気でヤバいアレなのかな感。
闇の組織的なのに消されてしまったんだろうか、連邦生徒会長。
まあ、一般市民Aの俺にどうこうできる領域の話ではないだろうから、こっちも気にしてもしょうがないんだけどね~……。
「おはようございます、ワカナさん」
「はい、おはようさん。ご注文の品持ってきたよー」
ぼんやりとりとめのない思考をやめ、軽トラを止めて降りる。そこに待っていたのは新入生でシスターフッドの伊落マリーちゃんだ。
新入生って言っても内部進学で、元からシスターフッドと関わりがあったらしく、早くも色々表立って精力的に働いている。
俺、というか庭園部からの物資搬入受け入れもその一つで、もう何度目かということもあり、それなりに顔見知りだ。
トリニティ学内の花壇なんかは概ね庭園部が管理してるんだけど、聖堂周りとか一部はシスターフッドの管轄。なので種とか苗とか肥料とか、こっちでまとめて購入して受け渡しみたいなのがよくあるのだ。
花壇の世話自体も好きみたいで、うちの一年の子とも仲良しのようだ。何人かで楽しそうに話してるのをちょいちょい見かける。てえてえ空間を気軽に形成するから、なんかジャンル違いの疎外感を勝手に覚えていたりもする。
まあ俺はそのきらら漫画集団より普通にちっちぇえから、ビジュアル的には混ざれるんだけどね。
でももうちょっとこの子達の心が汚れてくれないと馴染むのはちょっと無理かな感。汚れじゃなくてペロロ様がべっとりくっついてても可。
「……はい、数量の確認終わりました。大丈夫です」
「オッケー。じゃあ倉庫に積んどくね」
肥料袋をまとめて担いで、軽トラから倉庫に移していく。普通だったらフォークリフトとか使うような量でも楽々なのは我ながらありがたい。
マリーちゃんも頑張って手伝ってくれてるが、まあ文字通り一人前の働きだろうか。
一人前と言っても成人男性一人分くらいだから、JKのパワーとしては普通にすごいといえばそうなんだが、去年はヒナタ先輩がドカッと持ってくれたから超早かったのだ。
パワーは同じくらいかなって感じだったけど、ガタイが違うから俺よりいっぱい持ってたし。コケてバラ撒くことがあるのがたまにキズ。
「よーし、こんなもんだね」
「はい、いつもありがとうございます、ワカナさん」
ほどなくして作業が終わり、手についた埃をパンパン払いつつ確認。問題はなさそうだ。
うっすら汗をかいたマリーちゃんはちょっと申し訳無さそうで、いつもは修道服のフードをピンと三角形に盛り上げているキュートなケモミミがちょっとしおれている。
前任と比べてるんだろうか。向き不向きはあるもんだと思うが。
ティーパーティーのお嬢様みたいに全部そっちでやっといてくださるー、終わったらご苦労さまもう帰っていいですわー、みたいなノリまでいかれると微妙に腹立つが。あんまり気にされてもやりづらい。
「えっとぉ、うちの子たちがお世話になってるみたいで……」
「……? はい、私も仲良くしていただいて」
ああ、キョトンとしてる。会話苦手部! 仕事の話以外で何を話したらいいんだ? どうすれば年下清楚女子と楽しく話せる?
キメツか? キメツの話すればいいのか? それともペロロ様か? あのキモい鳥の良さを語ればいいのか? 理解できぬ。
「そういえば、庭園部の歓迎会の写真も見せてもらいました。ワカナさんのお菓子もとても美味しかったって」
「……正直に前衛芸術だったって言ってもいいのよ?」
ややテンパっていた俺に、するっと話を振ってくれるマリーちゃん。俺が返しやすい話題出してくれるし、そういうスキルだよね。シスタースキル。
気を使うどころか使われてるが、ともかく世間話程度はできるようになりたい所。
ちなみに俺のお菓子作りスキルだが、結局造形に関しては進歩ゼロである。味は順調にレベルアップしてるんだけどね。見た目だけが常に園児の粘土細工。
無理に整えようとすると崩壊するので、結局そのままお出しするしかない。型とかちゃんと使っても荒ぶるあたり、もはや何かの呪いのようだ。
「ふふ、そんなことないですよ。みなさん可愛いって言ってましたし、私もそう思います」
「そうかあ? まあ味はね、味はいいから……」
にっこにこしながら言ってくれるし、皮肉とかお世辞でもないんだろうなあ、という雰囲気を出すのが非常に上手いマリーちゃん。なんかもう良い人が服着て歩いてるみたいな。
守護らねばならぬ。いやまあよその子だから特になんかするということもないんだけど、気持ち的に。
「まあそのなに、うちの子らわりと控えめな子が多いから……なんかあったら教えてね。腕力にだけは自信があるので。あと、マリーちゃんもね」
「ええと、みなさんそれぞれクラスでもお友達が何人もいますから、大丈夫だと思います。……でも、そうですね。何か助けが必要な時はお願いします」
ちょっと首を傾げた後、微笑んでそう言ってくれるマリーちゃん。うーん、大人しそうだからと言って、俺みたいにほっといたらぼっちで一年過ごしますみたいな子は早々いないというわけか。
まあそらそうか。優しい子の周りに優しい子が集まるやさいせいかつ。
変な奴とかやべー奴とか、ちょっと喋っただけでぶん殴りたくなるような奴もたまにいるけど、いい子もいっぱいいるもんねトリニティ。大多数は普通のJKよ。
「ワカナさんも、何かお悩み事などがあれば、些細なことでも聖堂までどうぞ。解決できるかはわかりませんけれど、お聞きして、一緒に考えることはできますので」
「ん、ノーテンキに生きてるから悩みとかはあんまないけどね。困ったら頼もうかな」
「はい、ぜひ」
シスターフッドの人と一口に言っても人数多いから色んな人がいる。ちょっときちんとし過ぎてて話しかけにくかったり、逆に普通の女子高生が修道服着てるだけじゃんねみたいな、相談したら秒で話広まってそうな感じだったりとか。
色んな意味で気軽に悩み相談はしにくい印象だった。
対してマリーちゃんの、自然とじゃあそうしようかなみたいな感じになる雰囲気は貴重だろう。さほどシスターフッドの内情に詳しいわけでもない、というか全然知らんけど、マリーちゃんが重用されてる理由もわかるというものだ。
しばらくうちの子達の話とかシスターフッドの話とか、既に庭園部一年生や、マリーちゃんの方が細かいことにはよほど詳しいお花の話とか、逆にマリーちゃんがあんま知らない植木とか果樹関係の話とか、ぼちぼち雑談してから別れた。
……結局仕事の話ばっかしてるぞ!
対人能力の成長しなさに軽く絶望しつつ軽トラに戻り、次は植え込みの整備だ。
道具を取りに戻ったり仕事を続けながら、ぼんやり人付き合いのあれこれについて考える。思えば二年になって部長になって、他所の人と関わる機会が一気に増えた。
基本は事務連絡的なことがほとんどで、顔と名前覚えときゃとりあえずオッケーという感じなのだが。やっぱり仲良くなるための社交スキルみたいのを磨く必要があるのだろうか。
知らない人とはあんまり上手く話せない。ちょっと仲良くなると勢いよく距離詰めすぎてドン引きされる、みたいなタイプのコミュ障なのでそういうのはとんと苦手。
1年間の女子高生生活でその辺が改善されたかといえば、全然そんなことはない。対人関係における程よい距離感みたいなのが全然わかんない。
マリーちゃんみたいにあっちから適切な距離感を上手いこと提示してくれるというか、話し上手聞き上手みたいな人とならまあまあいい感じにできるのだが。……そりゃあまあ誰でもそうか。
セリナちゃんはハナエちゃんっていう可愛い後輩ができたとかで、楽しく指導してる話を聞くし、ヒフミちゃんはペロキチ具合が深まったらしく、一人で遠出みたいなのも増えた。
近場のイベントとかはたまに一緒に行ってるけど、予定が合わないことも多くなった。
そんな感じで、1年の頃と比べるといつもの仲良しグループもちょっと距離が空いてしまったように思える。まあ俺自身もそれこそ庭園部の仕事に部長業務が重なって忙しくなったし、誰が悪いということもないのだけど。
進級に際してクラス替えがあったが、幸いいつもの3人が分かれることはなかった。だからHRとか昼ご飯とかは大体一緒だし、距離が空いたと言うほど空いてないのかもしれない。
でもなんとなく、人間関係の移り変わりの気配を感じてふんわり不安になるというか。
それこそ、マリーちゃんに相談してみよう案件な感じだが、どうなんだろう。べったりしてないと不安ってとんでもなくめんどくさいヤツでは……。
一応先輩として恥ずかしい気持ちが勝る。でもこういう日常の細かいもやもやこそ相談すべきな気もする。そういう意図で言ってくれたんだろうし、言ってバカにされるとかもないだろうし……。
ザクザクと半端に伸びた植え込みを刈り、切った枝や葉っぱを丸ノコくんで燃やす。あとはあんまりないけどたまに植え込みに突っ込んであるようなゴミも。
落とし物っぽいのは拾って纏めといて、あとで正実に届ける。ルーチンワークだからもはや慣れたもので、考え事をしながらでも問題なく……。
「……ッ!?」
思わず叫びそうになり、ビクリと硬直する。無駄に周囲をキョロキョロ見回し挙動不審になってしまう。幸いにも誰も居ないことが確認でき、ホッと胸をなでおろす。ちょっと落ち着いたので、心の中で叫んでおく。
エロ本だぁああああああ!!!
エ駄死!
マリーと一緒にエロ本を発見する流れも考えましたが、流石に罪が深すぎるのでやめておきました。