トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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22話 小春日和に涙雨

 植え込みの中から発見したのはエロ本、というか薄い本であった。まあ薄いエロい本だからどっちでも間違ってはいないだろうが、なんにしてもそんなもんがここにあるのは明らかに間違っている。

 

 無言で叫んでちょっとすっきりしたけど、ともかく誰かに見られたらまずい。拾ってしまった薄い本を放置するわけにもいかないし、とりあえずちょっと奥の人目につきにくい木の陰に座り込む。

 

 表裏を確認してみればちょっと土で汚れているが、落っことしただけですくらいの綺麗な状態だった。雨に降られたりしてる様子はないから、ごく最近落としたか捨てたかしたものだろう。

 

 表紙には絡み合う美形の男女、というか大人の男と幼い少女という感じだろうか。女の子は細くてちっちゃい美少女。版権モノなのかどうかは……ちょっとわからん。

 キヴォトスの二次元はありとあらゆるものにパロっぽさを感じてしまって全然わかんねえんだ。でもなんとなくオリジナルっぽい気はする。

 

 男の方もしっかり書き込まれ、ちょっと細マッチョな感じが女性向けっぽいなあという印象。局部こそ見えていないもののガッツリ肌色で、隅っこには18禁のマークも刻まれている。

 

 ぱらぱらとめくってみれば、前半はちょっと強引な男とツンデレ気味な少女の恋愛模様。やや突飛な展開が多かったが、これだけならまだ微笑ましいで済む感じ。

 しかし後半はガッツリヤることヤッていた。

 

 普通にアカンやつである。正実に見つかったら捕まりそう。エロ本所持がどこまで罪になるのかは知らんけど、品行方正淑女教育を掲げるトリニティだ。結構重いかもしれない。

 

 まあエロ自体は結構普通にあるんだ。電子媒体ならわりと楽に手に入る。レッドウィンターとかミレニアム中心に熱き心の同志たちが日々販売サイトに力作を出品している。

 現物の通販や即売会もその辺の学校ではこっそりやってるみたいだし、ブラックマーケットとやらに行けばけっこうエグいやつも手に入るとか聞く。

 

 しかしトリニティ校内でこれは……どうなんだろう。俺が知らないだけで薄い本品評お嬢様部とか存在するのだろうか。もう一度最初に戻って今度はじっくり読んでみる。

 うーん、絵は上手いがそういうことに使うなら導入が長すぎて冗長だし、男は顔なんか無い方がいい。悪くはないが、ピンと来ないな。

 

 そもそもこの体になってから精神的にはともかく性欲自体がそんなでもないから、マジでなんともいえないな……。

 ほんとに名作って感じなら拾って帰るのもありだったかもしれないが、そこまでして欲しくない。でもこれ正実に持ってくわけにもいかないよな。

 

 いや、他の物と混ぜてしれっと落としもんです~つって渡すのがベストなのかなあ。放置して他の子に発見させちゃってもアレだし、捨てるのは探してる持ち主がいるかもしれないし。

 

 ああ、正実の落とし物担当の子に見せるのもアカンか。去年は一年の真面目そうな子がやってたし、今年も多分そんな感じだろう。

 ……ハスミ先輩あたりに直で渡すか? あんなガーターベルト丸出しのドスケベスタイルで普通に練り歩いてるくらいだし、理解はあるよな。

 

 うん、そうだな。そうしよう。

 

 そう思って薄い本を閉じた俺の耳に、がさごそと木の葉や枝のこすれる音がする。おや、とそちらの方に目をやれば、パンツ丸出して植え込みに頭突っ込んでるちっちゃいピンクのがいた。

 

「無い、無い、無い。なんでぇ……」

 

 泣きそうな声でボソボソ呟きながらあっちをごそごそ、こっちをごそごそ。なるほど、これはもう明らかだろう。学内でエロ本持ち歩いてたやべーやつのご登場である。

 

 しかし俺にも武士の情けというもんがある。幸いエロヤバ娘はこちらに気づいていない。あの子の近くの植え込みの影にでもそっと放り込んで撤退すれば、誰も傷つかずに済むだろう。

 涙目になりながら頭に葉っぱつけてる少女が、再び頭を突っ込んだタイミングを見計らって……。

 

「ぶえっくしょい!」

「ひゃあっ!?」

 

 エロ娘がごそごそやって土埃立ててたせいだろうか、鼻ムズムズすんなと思った瞬間にはでけーくしゃみをかましていた。そして飛び上がってこっちを振り返ったエロ娘とバッチリ目が合い、ついで俺が手に持ってたお探しの物にも気づかれる。

 

「あ~、その……良いご趣味ですね?」

「あ、うぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! バカエッチスケベ変態死刑ぇよ死刑ぇ!

 

 ものすごい速度で飛びついてきたエロ娘が薄い本を奪う。まあ特に抵抗することもないのでそのまま渡すが、どうしたものだろうか。

 思春期にエロ本落として知らない人に見られるとか、ガッツリトラウマ案件じゃんね。でも、こんな時どうしたらいいかなんて全くわからないよ。

 

「これは! その……違うの! 没収品、そう! 没収品なんだから! ほら、これ見れば分かるでしょ」

 

 いそいそと鞄に本をしまったエロ娘は、何も聞いてないのに言い訳を始める。そしてほらほらと言いながら肩丸出しの小さな体をアピールしてくる。サイズ間違ったのかしらってくらい制服あってないんだが。

 

 萌え袖可愛いね、注文間違えたの? そのわりにスカートはちょっと前傾姿勢取ったらガッツリめくれる超ミニだしよぉ。その十字架みたいなのはなんだ?*1 エロ死刑囚はおまえじゃい。

 

「だからぁ! この黒のセーラー服を見なさいよ! 私は正義実現委員会のエリートなの! 違反品を没収するのも当然の業務なんだから……だから、なにもおかしくないってこと!」

 

 ボケっとした顔をしていた俺にまくしたてるエロ娘。確かに言われてみれば正実の改造制服っぽい。いや、大体の人は黒と赤なのに黒ピンクだから微妙にパチもんっぽいんだけど……。まあいいか。

 

「お、おう、せやな。じゃあそういうことで……」

「ちょっとぉ! 絶対信じてないでしょ! 本当なんだからね!?」

 

 キャンキャンわめきながら掴みかかってくるエロ娘。なんでだよ穏当に済ましてやろうとしてるんだから黙って見送れよ。

 俺のようなちっこい見た目に反してハイパワーとかは無くて、普通にか弱い。ぶん投げるなりなんなり、やろうと思えばできるだろうが、どうしたものか。

 

 「ぅあぁあぁぁ……もう、ダメ。言い触らされて、学校生活終わるんだぁ……」

「いや別に言わねーよ……てゆーかお前の名前も知らねえよ」

 

 黙って困っているとエロ娘は元気に叫んでいたのが一転、グスグス泣き始めた。まあ確かに学校エロ本バレはキツい。最悪転校モノである。でもほんと困るからやめて欲しい。

 

 「下江コハル……」

「名乗ってんじゃねーよバカ!!!」

「バカじゃないもんっ……!」

 

 素直か! 思わず飛び出た罵倒を受けて、本格的にボロボロ泣き始めたエロ娘……コハルは袖で涙を拭き拭き芝生にへたり込む。

 顔は耳まで真っ赤だし、目元も擦るから赤くなっている。

 

 あーあーもう、もはや何事もなく、お互い何も見なかった他人として別れる路線は不可能だろう。

 仕方ないのでエプロンのポッケからタオルを出してぽんぽん拭いてやる。汗拭き用だが今日はまだ使ってないしいいだろ。

 

「泣くな泣くな、エロ本くらい大したことねーよ。誰だって持ってる。俺だって寮のノーパソに色々入ってるよ。……学校には持ってこねーけど」

「うわぁあぁぁぁあぁぁぁん!!!」

 

 いかん、つい余計なことを言ってしまった……。デリカシー皆無発言で、さらに激しく泣きわめくコハル。

 初対面の人と普通にお話するのもしんどいが、泣く子をあやすのはもっと難易度高い。俺が母性発揮するのは無理だ。誰か助けてくれ。

 

 

 

「コハル?」

 

 天に祈りが通じたのか、母性の塊みたいなのがヌッと木陰から現れた。エロテロリスト、じゃなくて正実のハスミ先輩である。どうやらコハルは自称でなく正実の一員だったようで、二人は知り合いの様子。

 助かった助かった。後は任せて撤退しよう。

 

「は、ハスミ先輩……うぇっ、うわぁぁあぁぁぁぁ……」

「ワカナさん、まさかコハルに何か……」

 

 なんでだよ。ハスミ先輩の顔見た瞬間ギャン泣きが激しくなるコハルに*2、それを見て険しい眼差しを向けてくるおっぱいもといハスミパイセン。

 いや、見りゃ分かるだろ慰めてたじゃん! 分かれ! 分かってくれ! これ以上状況を混迷させるな! 

 

「いや別になんでもないっすよ! なーコハたん! 俺ら仲良しだしぃ!?」

「こんなやつ知らないもん!!!」

 

 泣きながら叫ぶコハルに、ますます俺への視線が鋭くなるパイセン。確かに俺名乗ってすらいねえよ! 

 でもさあ! 事情を色々話したら行き着く先はエロ本じゃん!! なんでもないことにしとけよおバカ!!! 

 

「ワカナさん……もしかしたら、コハルが失礼を働いたのかも知れません。しかし、コハルは正義実現委員会の大切な一員です。それをこれほど傷つけたとあらば、例えあなたでも許すことは出来ませんよ……!」

 

 半ギレハスミ先輩の怒気に気圧され、さらにボロボロ涙を流すコハたん、それを見てさらに怒りのボルテージを上げる先輩。

 その怒気を向けられてるのは俺なんだよね。二人で勝手に永久機関を形成しないで欲しい。本当に本当にやめて欲しい。

 

 定期的な訓練でさあ、ちょっとは仲良くなったと思ってたのは俺の気の所為だったのか? 

 そりゃああんまし個人的な雑談とかはできなかったし、してもゲヘナディストークに本気の相槌うつくらいだし、ぼっちの仲良し判定と常人のそれとは違ったのかもしれない。

 

 でもこんな窮地にまで追いやられるいわれはないぞ……!

 

 

 

「おい」

「痛っ! ……ツルギ、何をするんですか」

 

 俺のほうが泣きそうになっていた所、本物の救いが遅れて現れた。ハスミ先輩を探しに来たらしいツルギ先輩である。

 キレてるハスミ先輩より平常時のこの人のほうが怖いんだけど、戦闘時はともかく普段はよっぽど冷静だ。

 

「コハル、顔を洗ってこい。もうすぐ訓練の時間だ」

「は、はいっ!!!」

 

 ビシッと姿勢を正したコハたんは、ツルギ先輩の指示を受け猛ダッシュで離脱していった。

 俺も逃げたいよ。変なことにはならないと思うけどさあ。途中すっ転びながらも視界から消えていくちっちゃいの*3から視線を戻すと、赤い瞳が正面からギョロリと睨む。心臓がすくむ思いだ。

 

「ワカナ、いじめたのか?」

 

 ぶんぶん首を振る。

 

「事情は言えないのか」

 

 ガクガク頷く。

 

「私たちで助けになれることは?」

「えっとそのぉ、本人の心の問題と言うか……」

 

 心というか性癖とか迂闊さ? まあ俺もなんでエロ本持ち歩いてたのかは知らない。あの様子からしてマジで没収品とかではなく私物なのは明らかだろうが。寮が相部屋で持ち歩くしかないとか? 

 

「ならいい。手間をかけた。ハスミ、行くぞ」

「だから痛いですよツルギ。ワカナさん、申し訳ありません。コハルは……少し難しいところがありますが、期待している子なので」

 

 言うこと言ってハスミ先輩にボガッと2発目のパンチを食らわせた後、さっさと立ち去るツルギ先輩。マジで頼りになる人である。

 しかしあの貧弱小型犬娘コハたんが期待の新人とは、どういうことだろうか。疑問が顔に出たのか、ハスミ先輩が続ける。

 

「実行力としての力ももちろん重要ですが、この名の通り、いかにして正義を成すか、それこそが我々にとって最も大切なことです。コハルには確かな正義感と人として正しい良心、他者に流されずそれを貫く力があります。今はまだ何もかも未熟ですが、将来はきっと正実を背負って立つ人間になると確信しています。ワカナさんもよければ気にかけてあげてください。では……」

 

 そう言うとハスミ先輩はツルギ先輩を追って駆けていった。ものすごいベタ褒めするじゃん……。

 それ悪く言おうと思ったら、空気読まずに正論連打でいじめられるタイプの学級委員長だよね。……ああ、それで思春期こじらせてあんな感じになってるんだろうか。

 委員長気質とエロ本能が正面衝突してセルフ死刑囚に……。

 

 まあ、ちらっと話してギャンギャン泣いてるのを見ただけの俺の意見など、勝手な想像にしかならないか。

 それに気にかけろと言われても、学年も部活も違えば会う機会なんてそうそうないしな。草葉の陰からコハたんのご活躍とご健勝をお祈りしています。

 

 しかし、期待の新人か……卒業した部長も、俺のことをそう言ってくれた。その期待にしっかり応えられているだろうか。

 新人の肩書が取れて久しいというか、俺が部長になっちゃったけど、あの人みたいになれた気はしない。もうちょっとしっかりしないとなあ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後わりとすぐに、ツルギハスミ両先輩とのいつもの訓練のはずが、なぜか正実1年との対集団戦になり、コハたんの無限範囲回復と、対物ライフルで人間狙うアホスナイパーと、普通の正実の子達の数の暴力でボコボコにされるとかいう嫌な形で再会を果たすこととなった。

 

 なんで手榴弾で回復してんだよ意味わかんねえよ。俺に当たると普通に痛えし。微妙に同じタイプのスタンド使いか?*4 めちゃめちゃ勝ち誇られて死ぬほどムカつくぜ~……! 

 

 お前エロ本のことすっかり忘れてんじゃねえだろうな。別にそれをネタにどうこうとかはしないが、ムカつくものはムカつくので全力でぶちのめしにかかる2戦目。

 

 丸ノコくんで対物ライフル全力で弾いて他すべて無視。耐久任せに前衛飛び越えコハたん強襲、至近距離からのショットガン連射で速攻ダウン。

 さらに敵中で炎バラ撒いた上、敵集団に密接して狙撃の射線を切りつつ散弾と炎で前衛全滅、狙撃弾きつつグハハと笑いながらゆったり近づき、憎きスナイパーも丸ノコくんでダウン。

 

 向こうの油断とこっちの本気で勝敗逆転である。今回みたいなの相手だと初手で無理攻めしないとリンチされて終わりだが、基本的に対多数は俺と丸ノコくんの得意とするところなのだ。

 

 ワハハと勝ち誇っていた所、意識回復後にギャン泣きするコハたんと、そこそこ顔色悪くしたスナイパーのマシロちゃんを見て、やりすぎだとツルギ先輩に殴られた上にタイマンでボコボコにされたけど。

 

 1対20くらいでリンチするのはやりすぎじゃないんですかね? と問えば私もいっつもやってるし全部勝ってると強者の発言。

 まああんたはそうだろうな! 訓練初めてから軽く半年以上経っているし、俺も見違えるほど強くなったんだけど1対1では未だ勝率0である。

 

 なんつうか経験値とか対応力とか、戦闘センスみたいなもんの違いを感じるよね……。スペック的にはある程度迫るくらいはあるはずで、ワンチャン運勝ちくらいはあってもいいはずなのだが。

 

 その後のコハたんとタッグ組んでの2対1で、死ぬほどボコられつつの耐久戦を展開してどうにか勝てたくらいである。

 二度とやりたくない、つらい。大喜びのコハたんよ、お前を守るために文字通り死ぬほど体を張った俺に、なにか言うことはないのか。

 そう聞けば私の治療のお陰で勝てたわねと超ドヤ顔。事実だけどさあ……。

 

 

 

 

 

 さらにまた別メンバーで紅白戦みたいなのやったり、ツルギ先輩とタッグでハスミマシロのスナコンビにホラー映画展開味あわせたり、まあ楽しい訓練でございました。

 

 ……なんか俺の訓練というより、俺が正実の訓練にボスエネミーとして使われてない? 基礎は身についたから今後はこんな感じ? 別にいいけどさあ……。

*1
首を中心に謎の十字が描かれている。なにかのアクセサリーなのかタトゥーのようなものなのか落書きなのか、何もわからない。設定資料ではかなり際どいところまで伸びているのが確認できるらしい。

*2
尊敬する先輩にエロ本バレる5秒前。

*3
ちなみにコハル身長148cm、ワカナ147cmで負けている。アホ毛分を入れればギリ勝てる。

*4
コハルは敵にはダメージ、味方は回復するセイなる手榴弾の使い手。範囲回復役としてとても優秀で、それを思うと正実のエリートという自称もあながち間違いではないかもしれない。




withコハルVSツルギは確実にじわじわ削る炎、無理に抜こうとすると即死飛ばしてくる回転ノコギリ、無限回復薬コハル、それを守るクソデカ翼、のスーパー害悪戦法で辛うじて勝利って感じでした。

設定的にヒナツルギネル辺りが頭一つ抜けたトップ層って感じですが、ワカナちゃんはその辺に一応食らいつけるけどまず勝てないくらいのイメージです。

キヴォトス人はわりとメンタルで戦闘力変わる気がするんで、その辺含めて相当条件整えればなんとか勝てるかもなあくらい。
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