トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
「こんにちは!!! トリニティ自警団の超新星! 宇沢レイサ!! 改めてご挨拶申し上げます!!!」
うるせえ!
数日後、なぜか再び宇沢ちゃんとエンカウントしていた。というか向こうがこっちを探してきたようだ。まあ変なペロロ棒を持っているロリとかいう特徴ありすぎの身なので、いくらでも見つけようはあるだろうが……。
「先日はお世話になりました! あなたがかの有名なトリニティの
なんだって??? クソデケえ声でそんな中二病二つ名呼ぶんじゃねえよ。……もしかしてあの動画経由? 広まってんの? 嘘でしょ……?
「こちら、お礼の品になります! お納めください!!」
そう言って宇沢ちゃんが差し出したのは、飲む牧場ミルクであった。えぇ、と引いていた所、ふと見るとちょっと離れた物陰から数名の下級生がハラハラしながらこちらを見ているのに気づく。
宇沢ちゃん、普通に友達いるんじゃん!*1 心配して損したぜ。
「えへへ、それでですね、実はインクイジターさんにお願いがありまして。最近私宇沢レイサ、シャーレの部員になることが決まったのです。せっかくですから、もっともっと先生のお役に立ちたいと思い……そのためには修行あるのみ! ということで、またインクイジターさんに稽古をつけていただきたく……!」
わぁ、エグい! 距離の詰め方がエグい! 物理的にも近い! ニッコニコで一気に来るじゃん……。なにかこう、非常に既視感を感じるムーブなんだよなあ。
そしてその全力タックルで失敗して、物心両面、十歩くらい離れたところから話しかけるような感じになるまでがデフォだ。
ああ、同族嫌悪のような共感性羞恥のような、シンプルに黒歴史を見せつけられているような。……まあ俺とは違って宇沢ちゃんは可愛げがあるが。
しかしなんだ、その先生だかについて語るときだけメス顔じゃん! 乙女か! そのキャラで!?
手を払って逃げるのは簡単だ。背中がムズムズしてあんまり一緒にいたくない。このキラキラ笑顔を曇らせるのは気が引けるが、そうなった時に慰めるであろう友達っぽいのもいる。
それに正直わりとマジで忙しい。もうちょっと先だが部長会議があるから、ぼちぼち準備をしなければならない。あと俺が適当なことやるより、正実ブートキャンプとかに放り込んだほうが間違いなくきちんと成長するだろう。
断る理由はいくらでもある。だが一応、確認。
「俺はちょっと色々アレだから。正実とか、自警団って言ってたしそっちの先輩に教わるとか、ちゃんとした人に世話になったほうがいいと思うんだが」
「あっ。いや、それは、そのー……」
確か2年に自警団の有名な人いたよな*2、とか思いながら提案すれば、急に歯切れの悪いお返事。あー……うん、やっぱり?
わかるよ。頼み事とかお願いごととか、超しんどいもんね。最初の一歩のハードルがとにかく高いんだ。コミュ障特有のシンパシー。
とりあえずこっちから一歩踏み込んだから、宇沢ちゃん的には俺が一番頼みやすいのだろう。……まあ、そうだな。あれだけ色んな人に優しくされて、それで他人に優しく出来ないのかって話だよね。
「オーケー。大したことはできないけど、訓練に付き合うくらいなら構わんよ」
「えっ、あっ……いいんですか?」
最初の勢いが消えかかってた宇沢ちゃんに、再びパッと火が灯る。ぎゅっと両手で俺の手を握り上下にブンブン。同時に真上から宇沢レイサをよろしくお願いします! などとデケえ声が振り下ろされる。
み、耳が……。若干早まった感もあるが、固唾をのんで見守っていた物陰の宇沢フレンズもホッと一息、安心したような笑顔を浮かべている。宇沢ちゃん自身もニッコニコだし……まあいいか。
それに、アレだ。宇沢ちゃんにシャーレの事聞けばいいしな。ちょうどいいわ。
ヒフミちゃんがどんな様子かとか、先生とやらがどんな人物かとか、入ったばっかりなら忌憚のない意見を聞かせてくれるだろう。
いや、先生について乙女顔してた時点で中立性はちょっと怪しいが。まあヒフミちゃんセリナちゃん以外の第三者意見なのは間違いないし……。
というわけでちょっと移動しベンチでお話することに。せっかく飲み物ももらったしな。
「食いな!」
「えっ、いえその……はい、ええと、いただきます」
もらってばっかもなんなので、おやつに食べようと思ってたじゃがりこみたいなやつを差し出す。宇沢ちゃんは遠慮していたが、蓋開けてぐいと押しつければ、観念したようでぽりぽり食べ始める。
並木道のベンチに二人で並び、俺は飲む牧場ミルクをちゅーちゅーし、宇沢ちゃんはポテトをぽりぽりしている。物陰の宇沢フレンズもついてきて見守っている。
あっちもなんか食ってんな……コアラのマーチみたいなモモフレンズのやつじゃん。レアな絵柄があるとかで、一時期ヒフミちゃんたちとひたすら食ってた思い出。
あ、写真撮ってる。まさか出たのか、伝説の盲腸手術後ペロロ……*3。
いやまあそれはいいんだ。とりあえずシャーレについて聞いてみよう。ニュースで流れてるような通り一遍のことと、ちょっと怪しい噂しか知らないからな。
なんでも当番と称して、美少女を日替わりでとっかえひっかえ呼び集めていかがわしいことをしてるとかなんとか。いやいくらなんでもヤバすぎんだろどうなってんだ。もしかして宇沢ちゃんのメス顔も?
……男が居ない世界で外から来た唯一の男って、つまりそういうことなの? ただの変な異世界だと思ってたが、薄い本とか同人ゲームとかそういうアレ? ひ、ヒフミちゃんもセリナちゃんも既に毒牙に?
お、俺のほうが先に好きだったのにっ!
「インクイジターさんもシャーレに興味があるんですか?」
戦慄を覚えつつ宇沢ちゃんにシャーレについて尋ねてみれば、うんうんと頷き何かを一人で納得した様子。いやだからそれやめろや。ムズムズするんじゃあ。
「ええ!? カッコいいのに……まあいいです。それではワカナさん、ちょうどいいですからこれからシャーレのオフィスに行きましょう。立派な訓練施設もありますし、一石二鳥ですね!」
「えっ」
待って待って、心の準備が出来てない。そんな催眠種付けおじさんみたいなのにいきなり会いとうない。ひとまず話を聞くだけでいいんだ。
二人で食って空になってたじゃがりこの空き箱と牧場ミルクのゴミを袋に詰めて仕舞うと、宇沢ちゃんは俺の思いを無視して手を握り、シャーレに向かって駆け出した。
「うお、デッカ……」
「はい! とっても立派ですよね!」
シャーレのビルのことである。マジでデカい。意味不明なくらい高い。ビルの中にはオフィスだけでなく図書館や体育館、トレーニングルームにコンビニまであるそうな。
宇沢ちゃんは駅の改札みたいなのにスマホタッチで入館するが、俺はどうしたらいいんだろう。と思ったらトリニティの学生証アプリで普通に入れた。部員じゃなくてもキヴォトスの学生なら誰でもフリーらしい。
ああ、しかしついにここまでやってきてしまった。トリニティから電車でそこそこ距離があったので、逃げようと思えば逃げられたのだが、シャーレについて最近教わったという話を楽しそうにする宇沢ちゃんを振り払うことが出来なかった。
順調に絆されている……。
ま、まあこんくらいきっかけ無ければ一生来れなかったかもだしね。いい機会と思って、しっかり調査しよう。
宇沢ちゃんから聞くところでは、怪しいところなんかなんもない健全でキヴォトス全体のために働くすごい組織みたいな感じ。
でもそういうのがこっそり邪悪な企み持ってるとか定番じゃんね。ニチアサ的なのか薄い本的なのかで、俺の命運180度くらい変わりそうだが……。
宇沢ちゃんにあっちこっち案内されつつ、“先生”に会うためオフィスを目指す。設備は充実してるし綺麗だし、誰の趣味か頭にネコミミ付けられた掃除ロボットが今も巡回している。
ちらほらと施設を利用している生徒もいるが、大きさのわりには閑散とした印象だ。箱物行政……!
若干邪悪判定の高まりを感じつつ、とうとう敵の本丸であるシャーレオフィスに着く。大体どっかの学校に出かけているかオフィスで事務仕事してるかどっちかだという。現在は在室の札がかかっているので居るようだ。
「こんにちはー! シャーレ期待の新星、宇沢レイサ! 参上しました!」
宇沢ちゃんがさっさと突撃してしまったので仕方ない、俺もその後に続く。
「こ、こんにち……ふぁっ!?」
「おぉう、二人とも元気だね~、おじさん参っちゃうよ~」
オフィスに入るとフリフリタンキニ水着のへそ出し幼女が居た。トロピカルなグラサンを装備し、来客用らしい立派なソファにはゆるい笑顔のクジラのフロートも置かれている。
いつの間にかビーチにワープしたのかと辺りを見回すが、普通にPCとかデスクとか書類棚がある事務所だ。机が少なく部屋が広いのでかなりゆったりした空間だが、断じて南国ではない。
な、なんだこれは。幼女はたははと笑いながら、顔見知りらしい宇沢ちゃんに手を振っている。
ロリ系の闇的なワードがぶわぶわ脳裏に湧き上がってくる……いや、おじさん?
ま、まさか男の娘なのか? 着ている水着は明らかに女児用だが……この幼女が先生なのか? 水着露出ロリおじさん先生!?
やっぱそういう趣味なのかこの世界の神は!
「レイサちゃんはこの間の説明会ぶりかな? そっちの子は初めましてだね~、アビドス高校3年、
「あっ、えっと、トリニティ庭園部の軽部ワカナっす。よろしくお願いします……」
「トリニティ自警団! 兼! シャーレ部員! 宇沢レイサです!!!」
おめーにゃ聞いてねえ! ドヤ顔で胸を張る宇沢ちゃんに、ほにゃっとした笑顔でなぜか拍手を送るホシノさん。どうやら先生ではなく普通に生徒らしい。よかった……。
いやよくねえわ! つまりこれって先生とやらが美少女を水着で侍らせてる催眠おじさんってことじゃん!
「あ、あの、その格好は一体……?」
「これ? いやあ、正面からツッコまれたの久しぶりだね。別に変なアレってわけじゃないんだけど~……色々都合が良くて?*4」
ナニをするのに都合が良いと言うのだよ! 戦慄した俺は思わず丸ノコくんに手をかける。この巨大な
と、その瞬間、ガチャリと奥のドアが開き、ちょっと眠そうな顔をした男性が出てくる。中肉中背、特徴のない顔立ち、おじさんとお兄さんのちょうど境目のような年格好。
敢えて特徴を述べるなら、人の良さそうな顔をしてるなあというところであろうか。ひとまずテンプレ催眠おじさんという感じではないようだが……。
「おや、先生ごめんね~、起こしちゃった? 仮眠の時間はもうちょっとあるけど」
「うん、レイサの声が聞こえたから」
「あっ、ご、ごめんなさい。うるさくしてしまって……」
「いいや、レイサとお話したかったからね。起こしてくれてよかったよ」
ちょっとよれたYシャツ姿の男性、先生はごくごく自然な様子でぽんぽん歯の浮くようなセリフを並べ、宇沢ちゃんの頭をぽんぽん撫でた。
宇沢ちゃんはえへへと笑い、ホシノさんはちょっと羨ましそうにしている。
な、なんだぁ……? やはり催眠おじさんなのか? 一般男性がそんなJKに懐かれることある???
「君は……」
め、目をつけられた……。催眠の予兆が来たら全部燃やそう。ペロロ様を1枚犠牲に助かろう。ヒフミちゃんも許してくれる。
スッとさり気なくガード体勢に入ったホシノさんには悪いが、まとめてぶっ飛ばそう。叩けば催眠も解けるさ。
「レイサの友達かな?」
「え」
「あっ……」
別の意味で緊張が走る。特に他意なく質問したのだろう先生はぽやっとした顔をしている。
この、出会ってすぐの絶妙な距離感の状態を表現する言葉を我々は持たないというのに。
顔見て名前聞いてちょっと話したらアミーゴみたいなパリピじゃねえんだ。友達というのはな、ステップを踏む必要があるんだ。
でも、じゃあなんと答える。
知り合い? そんなそっけない言葉で確定させるのか? 不安そうにちょっとぷるぷるしてる宇沢ちゃんと俺の関係を?
ただの先輩後輩? 今のところ、これが一番近いように思う。感覚的には正しい。
けど、友達じゃないよと、そう言うのか? 先生と話してニッコニコだった宇沢ちゃんを一発で曇らせる正しい言葉を、言えるのか。
「と、友達っす!」
「やっぱり! レイサは良い子だから、すぐに友達いっぱいできると思ってたんだ。スイーツ部の子たちとも仲良くなったもんね」
あれこれ飲み込んで出した言葉に、パッと不安顔が明るくなった宇沢ちゃん。タックルばりの勢いで距離を詰めてくる。そして先生はスマホで俺と宇沢ちゃんをパシャパシャ撮っている。いやなにやってんだあんた。
「いい画だったからね。モモトーク教えてくれれば後で送るよ?」
「や、それはちょっと……」
「そう? それじゃあレイサに送っておくから」
ひとしきり写真を撮り終えた先生は、良かったねえ良かったねえと宇沢ちゃんをわしゃわしゃしている。
なるほどこれが催眠の正体か。欲しい言葉を欲しい時にバンバンくれるタイプ。
意図的なのか天然なのかは知らないが、特に邪な気配もないし、ただの良い人おじさん……お兄さんなのかもしれない。
俺がすっかり気を抜いたのに気づいたのか、ホシノさんも最初のふにゃっとした雰囲気に戻る。
「えっと、それで君は……」
「トリニティ2年、庭園部部長の軽部ワカナっす。よろしくおねがいします」
満足するまでわしゃったらしい先生に自己紹介。
「うん、私はシャーレの先生です。よろしくね、ワカナ。ところで今日はどうしたのかな? レイサと遊びに来たなら歓迎するし、何か相談事があるなら聞くけれど……」
「友達が働いてるとこの悪い噂を聞いたので、確かめに」
ちらと水着おじさんことホシノさんに視線を向ける。先生はアッという顔をした。ホシノさんはあちゃーという顔をした。宇沢ちゃんはわしゃわしゃの余韻でぽやぽやしている。
悪い人ではなさそうだというのはわかったが、それはそれとして疑惑は残っているのだ。
「いや~、困ったねえ。先生の趣味がバレちゃったみたいで~」
「誤解! 誤解だから……!」
「でも女の子の水着好きでしょ~?」
「好きだけど!」
正直者だね! やっぱ燃やすか。
「そ、そんなゴミを見るような目しないで欲しいな……。事情が、事情があるんだ」
「聞こうじゃないか」
冷や汗ダラダラの先生をじっとり見つめながら促せば、ちょっと早口で言い訳を始めた。
「ほら、キヴォトスの生徒は気分で出せる力がすごく変わるでしょ? 普段と違う服装で気分を上げるとすごく強くなったりさ。ホシノは水着着るとすごいから……つい頼りがちになっちゃって」
「ほんとは若いもんに任せてのんびりしたいんだけどね~。先生に頼られたらしょうがないかな~って」
水着着るとすごいとかいう字面がヤバいが、うーん? まあ、筋は通っているような、そうでもないような……。むしろヤバいのは生徒側なのか?
「む、無理やりレイサに水着着せて働かせるみたいなことはないから! あくまで合意の上だから」
「え!? せ、先生がお望みとあらば……不肖私宇沢レイサ、水着も着ますが!!!」
「例え話! 例え話だから!!!」
あ、友達としか言ってないから宇沢ちゃんの話に。宇沢ちゃんもっと自分を大事にしろ。……しかしまあ、いいか。こんなアホアホな感じなら大丈夫だよな。
ヒフミちゃんもセリナちゃんも、この人の良さそうな先生と普通に仲良くしている様が浮かぶ。ちょっと、いやかなり寂しいのは確かだが。
「……ヒフミちゃんとセリナちゃんもここで部員やってるって聞きましたが、どんな感じっすかね」
「あ、同じトリニティの2年生だもんね。ヒフミは結構初期に来てくれて、セリナはシャーレの立ち上げの時からお世話になってるよ。シャーレの仕事は困ってる生徒を助けることだから、性に合ってるみたいですごく頑張ってくれてる」
二人とも良い子だから、とニコニコしながら続ける先生。よーく知ってるさ。俺はあんたより先に二人のこと好きだったもの。早々人間変わらないものだ。
だから、心配なんかいらなかったんだ。
それなら良かったと頷き、ちょっとお腹が軽くなったので先生との面談はこれで良しとする。最後に気になってたことを一つ。
「アーマードコアの新作、やりました?」
「えっ? ……えっ? ……ええと、まだ発売してないね。PVは見たよ。すごく面白そうだった」
俺の謎発言にものすごい勢いで頭を捻っていた先生だが、まあいいかと思い直したようで、事務所の大きいテレビの傍に置かれたPS5を指差す。
「買ったら持ってくるよ。ゲーム好きな子も結構いるから、良ければ一緒に遊ぼう」
「楽しみにしてます」
わりとマジで楽しみである。
先生とホシノさんに頭を下げて退室し、シャーレの運動場で宇沢ちゃんと一通り訓練。いい汗かいてシャワーも浴びて……いやマジで設備豪華だなどうなってんだ。
庭園部のクソボロシャワーとシャーレのピカピカ豪華シャワー*5を比べてちょっと悲しくなりつつ帰宅。
帰り際に宇沢ちゃんとモモトーク交換。お互いあんまり使わない機能なのでやや手間取りつつも、なんとか無事に終わらせ、写真も送ってもらった。
色々チャージしてパワー全開です、みたいなビカビカ笑顔の宇沢ちゃんと手を振って別れた。
一応先生顔見せ回。
現世とキヴォトス行ったり来たりできるのかとか、そもそも先生の存在自体もわりと謎なので色々適当なんですが。土壇場で急に会う前にワンクッション。本作中の先生的にはワカナちゃんの顔見せでもありますね。
シャーレの当番がアレなやつみたいな噂されてるのが作中にもあったんで水着ネタはやっておこうと思ったんですが、書いてるうちにハナコは本当に悪いのかという感じに。水着でうろつく生徒多すぎ問題。
まあ4コマで全裸で深夜徘徊してたんでレベルが違うのは間違いないですが……。
しかしこんなに長いことブルアカ触ってないの久しぶりなんで、むずむずしてきますね。AP消費とカフェタッチさせてくれアロナ……。