トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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29話 地獄六層ヘルメット

 ミンミンジージーとせわしなくセミが鳴く。いよいよ夏本番と言った風情の中、俺もセミになっていた。

 まあ去年もやった果樹園中心部の摘果作業だ。クソデカいリンゴの古木に張り付いて、ひたすらちっちゃいハサミでちっちゃい実をチョキチョキするのである。

 

 今年も暑く、鬼のような日差しも容赦なく降り注いでいる。まあこの日差しがリンゴを綺麗に赤く染めてくれることを思えば、そう悪いことばかりでもないのだが。

 いや悪いわ。加減しろバカ。もうちょっとふんわり対応でお願いします……。

 

 ぶつくさわーきゃー、最初は楽しそうに文句ばかり言っていた1年生達も既に静かになっている。

 げんなりした顔でチョキチョキする機械。うんうん、しんどいよねえ。

 

 でもちょっと気張った所で早く終わるとか、そんな程度の量じゃないし、ここからしばらくずーっとひたすらこの作業なわけだから。

 心を無にしてほどほどのペースで手を動かし続ける他ないのだ。

 

 2年の同期たちは無の顔をしているし、3年の先輩たちは去年のそんな感じから脱して、もはやほんのりと柔らかい笑顔を浮かべている気すらする*1

 そりゃあ悟りも得るよなこんなもん。文句を言う体力すら惜しくなるのだから。

 

 去年の部長がやっていたように、1年生たちの限界を見極めつつ休憩宣言。

 時間測ってやってもいいのだが、単純作業で全く進まない時計を眺めるのは自分でもつらいし、体調悪そうなら早め早めに休憩するべきだしで、文字通り部員の顔色見ながらやっている。

 

 タフすぎるほどにタフなキヴォトス人たち*2だから、サウナに監禁でもしない限り熱中症で死ぬとかそういうことは無いらしい。でもふらっときてぶっ倒れるくらいはあるからね。

 10数メートルの樹上でふらっとなって、頭から落っこちたとしてもタンコブで済むあたりギャグ漫画の世界に両足突っ込んでるが。

 

 木陰でへばる1年たちに、ドでかいクーラーボックスに大量に詰めてきたスポドリやらアイスやらを配って回る。するとすぐにわらわら集まり取っていかれた。

 さながら砂漠でオアシスを見つけた旅人か、カンダタの糸に群がる地獄の亡者の如しである。

 

 ……まだまだ元気だったな。去年はマジで動く余裕すらなかったからなあ。部長の眼力の凄まじさが今更ながらに分かるというもの。

 まあ、絞りすぎてぶっ倒れられてもしょうがないし、俺はこんなもんでいいか。

 

 クーラーボックスに抱きついて、保冷剤に頬ずりしている子をべしべしぶっ叩いて追い払う。こいつら、遠慮が無くなってきたと言うか化けの皮がはがれてきたな。

 根っこがほわほわいい子たちなのは間違いないんだろうが、思ったよりノリが軽めと言うか。シスターフッドとか救護騎士団じゃなくてうちに来たのはそういうわけか、というか。

 

 ともかく2年以上にも順番に配っていく。

 いや、拝むな拝むな。ありがたやーじゃねえんだ。気持ちは分かるが。本格的になんかの宗教みたいになってきちゃうだろ。

 

 はあ、あっちいなあ。配り終えたら俺もアイスとスポドリ取って、木陰に座り込んで一息。タオルで全身の汗を拭い、棒アイスをシャリシャリ噛る。

 せっかく回復した体力をまたきゃいきゃい無駄遣いし始める1年生。それを微笑ましく眺める上級生たち。

 

 舐め終えたアイスの棒を齧りながら天を仰ぐ。リンゴの木の葉がさわさわと風に擦れ、セミの声は少し遠く。

 つらく、苦しく、しんどい。でも、ただそれだけでないものも見えてきたような気はしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて」

 

 ドォンと大きな低い音。夏祭りの花火とかではない。地雷の爆発音だ。

 しばらくしてからそれより小さな爆音もいくつか続く。少し遠いだろうか。ごそごそテントから這い出ると、周りのテントからもザッザッと人影がいくつも出てくる。

 

 影たちは屋根なし軽トラのエンジンを掛けたり、装備を確認して荷台に乗り込んだり。誰かが無線をつければ、前線の監視から賊の正確な位置情報が飛んでくる。

 うんうん、そろそろかなって思ってたんだ。

 

 クソ暑摘果作業をいつものようにやって、1年たちを帰して。

 その後、交代交代で果樹園にテント張っての泊まり込みをしていたのである。実は去年も先輩たちがやってたらしい。

 

 初動の遅れはそのまま被害の拡大につながるから合理的……とはいえよくぞそこまで、という感じ。そしてそこまでやってすら勝てるかどうかわからない、というのは本当にしんどかっただろう。

 

 今年はミカ様のプレゼントもあるし、俺もよほどのやつが来なければ負けない自信がある……いや、例のヤバテロリスト集団にまた大軍率いて来られるとちょっと怖いが、まあそんくらいだし。

 キャンプもキツイ作業かと言えば、夕方一回帰ってシャワー浴びるし、キラキラ焚き火でみんなでメシ作ったりするし。普通に楽しくやってしまった。

 

 部長達は、どんな気持ちでキャンプの夜を過ごしていたのだろう。いや、まあなんだかんだで同じように楽しくやってたのかな。そんな気もする。

 でも、悲しくて悔しくて辛かったのもきっと間違いない。だからもう、そんな夜の無いように。

 

 流石に寝苦しいから外していたボディベルトを付けて、銃と丸ノコを背中にセット。ペロロカバーは最初から外しておく。学園内移動用の原付きに跨り、号令一下出撃だ。

 

「最初が肝心だ。すべてを焼き尽くそう」

 

 おぉ、と頼もしい鬨の声があがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃあこりゃあッ!?!!?」

「地雷原だ! ウカツに動くなッ!!!」

「止まったらマトだろうがボケェッ!!! とにかく突撃しろッ!!!!!」

「バカ! 足潰されたんだから終わりよ! 撤退を……!」

 

 おぅおぅ、混乱しておる。夜の草原に多数の頭でかい人影が右往左往している。例のヘルメット団とやらだろうか。

 あ、また一人地雷踏んで爆発した。爆音と情けない悲鳴が闇夜の原っぱに吸い込まれていく。

 

 今年もやってきたらしいリンゴ泥棒ギャング団。彼女らのピックアップトラックの車列は、果樹園の敷地よりはるか彼方で立ち往生している。

 どうやら先頭の車両が上手いこと対車両地雷にひっかかって全部止まったらしい。

 

 規模的には去年の最初のやつと同じくらいだろうか。大規模な襲撃だが、こうなったらもはやどうしようもあるまい。

 逃しても厄介だから、纏めて一網打尽にしてしまおう。

 

「俺は突っ込むから、みんなは地雷原の外から狙撃で援護をよろしく」

 

 哨戒やってくれてた正実の小隊の一部、面識ない感じの子たちはおい正気かみたいな顔してたが、うちの人々は慣れたもの。

 しょーがねーなあみたいな顔してさっさと配置についてくれている。

 

 炎で巻くには少し遠いんだよね。ある程度しっかり距離を詰めたい。そして対人地雷は大して痛くないし、対車両・戦車地雷は軽い俺には作動しない。

 つまり脳筋全力突撃が最善の選択肢ということだ*3

 

 原付から降りて走り出す。背中から丸ノコくんをバチンと外してギュンギュン回す。

 溢れる炎と甲高い金属音に敵が気付くが、迎撃は散発的。ダッシュで進むうちにいくつか地雷を踏むが、足元の爆発を利用してむしろ加速する。

 

 翼を広げ、飛ぶように駆ければ、敵が体勢を整える間もなく射程距離だ。

 丸ノコくんの回転も最高潮。気合を入れてぶん回し、煌めく炎を振りまいてやる。周囲はまさしく火の海となった。

 

「ぎゃぁあぁあぁぁぁぁ!?」

「ぅあ゛っちぃぃぃぃ!?」

「例のやつが出たぞォッ!!!」

「ああっもうっ!!! 動けるやつは後ろのクルマに戻りなさい! 2番めは使うっ!」

 

 明るく照らし出された敵に向けて、後方からの射撃も始まる。うむ、車列まるごと炎幕で飲めたし、マジで被害無しで全滅させれるかもしれん。

 ちょっとウキウキしながらショットガンも取り出し、適当に撃ちながらさらに前進……。

 

「ブッツブれなさいッ!!!」

「ッ!? うぉおォォォッ!!!?!!?」

 

 爆発炎上して止まっていたトラックの脇を抜け、無事だったらしい後方のトラックが爆音とともに突撃してくる。

 ちょうど対戦車地雷踏んだらしく、爆発炎上ジャンプしながらだ。

 

 なんとか丸ノコくんを叩きつけ、ギャリギャリ激しい火花を散らして拮抗するも、それは一瞬。

 炎上しながら砕け散ったトラックの破片が正面からガンガン当たり、翼にちょっと火がついた。

 

「ぅおわぁ!? あっちぃ! どわぁあああああ!?!!?」

 

 自分の火なら火傷することがないので、すげえ久しぶりの火傷感。動揺しつつも地面をゴロゴロして火を消そうとするが、その動きで対人地雷に引っかかりぶっ飛ばされる。

 なんだこの殺人ピタゴラスイッチ! この程度で死なねえけど! 

 

げっほげほっ! ごほっ! ……あーはっはっはっは! ザマァ見なさい! ヘルメット団舐めんじゃないわよ!!! 総員撤退! 殿はうちがやる!」

「てんめぇ……!」

 

 爆発直前に上手いこと運転席から転がり出ていたらしい、とんでもねえひき逃げアタック運転手が叫ぶ。

 煤塗れで真っ黒な顔を出した上級ヘルメット野郎だ。こっちにショットガン連射しながら突撃してくる。

 

 逃がすものかと追加の炎を撒こうとするが、一気に距離を詰めてきたヘルメットに、ロンスカ翻しスパッツ丸出しの綺麗なキックで丸ノコくんの柄を蹴り飛ばされる。溜めた炎はあらぬ方へ飛んでしまった。

 

「あんたの相手はうちだっ! ヘタクソチビィッ!!!」

 

 なんたるクソ度胸。自分から丸ノコくんの間合いに入ってくるとか命が惜しくねえのか? 別に殺す気は無いけどさあ! 

 お望み通りにミンチにしてやろうと丸ノコくんをぶん回せば、軽いステップで回避される。

 

 炎上するトラックの残骸の奥で、無事なクルマが動き出す気配がする。来た道をそのまま戻れば地雷に引っかかることもないだろう。このままでは逃してしまう。

 

「あぁ! クソ……!」

「こっちだって! 言ってんでしょうがッ!」

 

 視線をそらしたところに再びショットガンの連射。まあまあ痛い。流石に無視するわけにはいかんか。……つーかこの声、動き、なんか覚えあるぞ。

 去年のつよつよヘルメットか? 出世したわけ? 順当だね! おめでとうしね! 

 

「ウスノロ! そんなの当たらないって……!?」

 

 俺だって去年の俺じゃないわい。丸ノコくんの振り回しで照準がブレるようなことはもはやない。大振りの丸ノコくんは囮だ。炎を撒いての追加ダメージもあるが、それ以上に回避先を限定する振り方を既に心得ている。

 そこにショットガンぶち込めば、勝手に全弾ヒットしてくれるって寸法だ。

 

「クッ……! これでも……くらいなさい!」

 

 おら、止まっちゃダメだぜ。ショットガン連射しながら進撃。

 ローリングで避けて的確に反撃する手腕も、スカート下から爆弾取り出して自爆覚悟でバラ撒く度胸も、お見事。お前は強いぜヘルメット野郎。

 だが甘いぞ。爆風を切り裂いてクソデカ羽がぶん殴る。

 

「どりゃぁっ!!!」

「へぶっ!?」

 

 普段は邪魔なだけだが、かなりパワーあるし近接コンボで役に立つ! 射撃! 丸ノコ! 羽パンチ! 

 リロードの隙も消せる連撃は、ハスミ先輩といざというときのためにと鍛えたものだ。

 顔面羽パンチでふっとばされて、そのままゴロゴロ転がるつよヘルメット。ダウン追撃の射撃を避けて草まみれ泥まみれだ。

 

 どうにか立ち上がろうとした瞬間を蹴り飛ばし、再び倒れた所を丸ノコくんで叩き潰す! 

 完全に体勢を崩したつよヘルは流石にもう動けない。この即死コンボを逃れた者はツルギ先輩だけだぜェ! トドメじゃあ! 

 

「隊長ォオオオオオオオッ!!!」

 

「にぎゃああああああああっ!?!!?!?」

 

 全力で勝ち誇り、つよつよヘルメット野郎に丸ノコくんを叩きつけようとしていた俺の目を、トラックのフロントライトがハイビームで焼く。

 目がくらみ怯んだ俺に、そのまま正面衝突。またひき逃げアタックかよ!? 

 

 普通の一般ヘルメットっぽいのは衝突の直後運転席を脱出し、俺はそのままトラックの下敷きになり引き摺られる。

 クルマと地面の間でゴロゴロ転がされ、上下左右なにがなんだかわからない。

 

 直後、背中でドカンとドでかい爆発が起きた。トラックごとぶっ飛ばされてまた転がされて、なにがなんだかわからない。めっちゃ痛い。

 

 どうも今度は俺ごと対車両地雷踏んだらしい。だから殺意が高いんだよそのピタゴラスイッチ! 痛えだけだけどよぉ! 

 体に乗った残骸を吹き飛ばしながら勢いよく立ち上がり、ふらふらしつつも周囲を見渡す。

 

「これで勝ったと思うんじゃないわよぉ~!!!」

 

 神輿のようにつよヘルメットを担いだ数名の一般ヘルメットがダッシュで逃げている。つよヘルメットは腕を振り上げ、しょーもない捨てゼリフ。

 ロケット団かなんかかテメー。毎週出てくるつもりか? お呼びじゃないぞ、マジで。

 

「ふぎゅ!?」

 

 彼女たちを待っていたらしく、ゆるゆる逃げていた後方のトラックの荷台につよヘルが雑に投げ込まれ、担いでた一般ヘルメットたちも次々飛び乗る。

 それを確認した瞬間、トラックは加速し一気にアクセルを踏み込んで逃げはじめた。

 

「待てゴルァァッ!!!」

 

 邪魔なトラックの残骸をぶち割りながら突撃し、溜めた炎を一直線に飛ばして追撃するが、ギリギリ敵の加速が間に合い届かない。

 荷台の上で、舌を出して挑発しながら夜闇に消えていくつよヘルメット。揺れた拍子に舌を噛んで悲鳴をあげて、どんどん遠ざかりすぐに見えなくなる。

 

「……。……はぁ」

 

 逃した奴ら以外の周囲の敵は、地雷と炎に、庭園部(うち)の人々の攻撃で沈黙している。どうやら戦闘終了のようだ。

 身構えている時に死神は来ないものと言うが、逆に言えば油断してたらマジですっ飛んでくるのね。酷い目にあった……。

 

 丸ノコくんと銃をバチンと戻し、頭をかく。ちょっと焦げた金髪の毛先がチリチリしていた。

 まあ、当初予定とは違ったが、果樹園への損害自体はゼロ、敵多数撃破。被害は俺が車両火災と地雷で軽く炎上(物理)しただけ。大勝利と言ってよかろう。

 

 帰り道はあえて地雷を踏む意味もないので、野生動物のごとく来たときの足跡を踏み踏み、というかジャンプジャンプケンケンパで戻る。

 緊急招集で後から来たのか、1年生たちも揃っている。

 

 この感じだったらわざわざ夜中に叩き起こさなくてもよかったかもしれんね。パジャマサンダルで銃持ってる子いるぞ。

 まあともかく戦勝を喜ぼう。いぇーいとハイタッチ……。

 

「ぬぉぉぉ!?」

「「「「「救護騎士団へ急げー!!!」」」」」

 

 かざした手を掴まれ足腰を持ち上げられ、なぜか俺もお神輿わっしょいされてダッシュで運ばれていく。

 いや別にそんなに怪我してないんだけど。普通に歩けるし……。

 

 そんな言葉を担ぎ手達が聞くはずもなく、片付けはやっとくねーと、同期たちの声に見送られ。為すすべもなく救護騎士団の医療棟まで運搬されるのであった。

*1
アルカイック・スマイル。仏像などに特徴的な口角をほんのり上げた微笑。元は古代ギリシャの彫刻様式が伝わってきたものらしく、世界の広さを感じさせてくれる。

*2
タフって言葉はキヴォトス人の為にある。

*3
なんとかなれーっ!




2年目のVSラブちゃん?戦でした。アビ夏は今初めてやって、生うごあつ聞いて謎の感動してたりするんですがラブちゃんなんか戦略SLGはじめそうな設定してますね。と思ったら百鬼夜行の夏イベがそんな感じなんでしょうか。そっちはやってないんでわかんないんですが。

最終編で出てたしトリニティに出張してきてもおかしくないよなあと思いつつ、ジャブジャブヘルメット団専属で基本海にいるのかなという気もするので、本作ではやっぱりラブちゃんっぽい謎の人物です。
まあ普通にラブちゃんということでいい気もするんですが。便利屋漫画のスパッツお腹すき……。
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