トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
「だ、騙された~……」
入学式から1週間ほど、ぐでっと机に突っ伏す放課後。人の視線を避けるためのかつてのムーブではなく疲れからだ。高1の内容とからくしょーやろフハハとか舐めていた授業が普通に難しく苦戦していたというのもあるが、なにより部活が思ってたのと全然違ったのである。
授業時間が終われば部室に直行。初日は歓迎会ということで、先輩や同期となるメンバーと顔を合わせて、先輩方の作ったお菓子や料理でパーティ。果樹園で取れた果物を使ったというケーキやタルトは絶品だった。
スイーツ系以外の他の料理もわりとガッツリ系で舌に合い、ムシャムシャ食っては微笑ましい目で見られる羞恥プレイになったが、それはそれでなんとなく打ち解けられたので結果オーライと言えばそう。同期の子達は大体文学少女です、みたいな感じの控えめな感じ。体育会系っぽい子もちょいちょいいたけど寡黙な陸上部タイプというか、気は優しくて力持ちを地で行くような感じだったり。
全体的に雰囲気がよろしくて同期も先輩も優しそうだし、なんか小動物扱いで餌付けされてただけ感もあるが、なんとかやってけそうだなあとか思っていたのだ。
実際に活動となった瞬間ふっとんだが。
「それじゃあまずは資材運搬です。とりあえず大倉庫にまとめて色々搬入済みなんだけど、学園中で使うには不便なので各地の倉庫に小分けにして搬入するよ。ワカナちゃんもトラック一台担当してね」
「うっす。……うん?」
俺AT限定ペーパードライバー! とか叫んだにも関わらず無理やりMTの軽トラ運転させられ、無免許のまま全部で合計数トンに及ぶ大量の肥料や堆肥の運搬、荷積み荷降ろし倉庫詰めをやらされた。犯罪じゃねーのこれと思ったけど学校の敷地内なら問題ないらしい。おまけに学校の敷地がクソ広いので普通にガッツリ運転させられる。
ちょいちょいエンストするし縁石にぶつけたりしそうになるし、超顔怖い妖怪みたいな女にビビって轢きそうになったと思ったら片手で止められたりするし、終始嫌な汗が止まらなかった。助手席で横から運転教えつつ指示出す部長にこの調子なら免許すぐに取れるね~とか言われたが俺もう車乗りたくないよ……。
「次は搬入した農薬とか肥料の種類覚えようね。危ないやつもあるからしっかり頭に入れとかないとね!」
「勉強ヤダ~……」
「ついでに肥料使った爆弾の作り方も覚えようね。いざという時役に立つから」
「植木屋さんみたいなことする部活が爆弾使ういざってときってなに???」
運転地獄の次の日は真面目な座学かと思ったらテロリスト養成講座みたいなの受けさせられたり。いやおかしいだろ。しかも散々やっておいてキヴォトスでは安価に爆薬が手に入るからそんなに使う機会はないと思うよ、とか。なんだったんだよマジで! というか安価な爆薬ってなに!?
「はーい安全帯使用ヨシ! 張り切っていってみよう!」
「高い高い高い怖い怖い怖い無理無理無理おろしてぇっ!!!」
その次の日にはクソでっけえクレーンみたいなので吊り下げられたかと思えばめちゃめちゃ高い木の上で枝切りやらされたり。トリニティの校内はその辺の校舎よりでっかい数十メートル規模の立派な木が結構いっぱいあって色んなとこが並木道になってて、下から眺める分にははぇ~すっごいって感じだったんだけど、上から見下ろす景色は恐怖でしかない。常時玉*1ヒュンである。
楽しむ余裕とかは全くない。風が強い頼りない足場が揺れるめまいがするほどとにかく高いのに身一つで回りに何もなくぶら下げられる。さらに高いとこにひょいひょい枝を伝って登っていってニコニコ顔で普通に作業する部長が死神に見えたよね……。
「お、ちょっとワクワクしてるね?こういうの好き?」
「……まあ、そっすね。働く車が嫌いな男の子はいないと言うか。自分で運転したいかって言うと別っすけど。ええと、ここ引っ掛けて掘り返す……あれなんか傾いてない?」
「あぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょっとバックして踏ん張ってー、アームの向き調整してバランス取ってー……はいオーケー」
さらには折れたり枯れたりしてダメになっちゃった木を撤去しまーすとかいってショベルカー運転させられたり。木の根っこってすごいのね。普通にショベルカーの方が負けそうになってひっくり返りかけたりしたよ。横から部長がなんとかしてくれたし、高所作業よりはマシだったけど、これはこれで命の危険を感じたぞ。
あとはリンゴ園の外側の方に大量に穴開けて片っ端から新しいリンゴの苗木を植えてったり。大量の肥料と土混ぜて運んで埋めてみたいなことをひたすらやってると俺建設作業員かなにかだったかなという気分になってくる。たぶんあんまり間違っていない。
……花壇の土に花の種をちょいちょい蒔いて、鼻歌うたいながらじょうろでじゃーっと水をまく、そんな牧歌的な部活だったんじゃないんですか? 花壇とか全然見てねえよ。すべての作業が現場猫なんだよ、素人にやらせるものじゃないでしょ……。
しかし同期の子に愚痴ってみれば、え? 色んなとこの花壇確認したり、観葉植物育てるための大温室見学したりしたよなどと謎の発言。確かに同期それぞれ他の先輩について行って別行動だったが、流石にやってること違いすぎない?
ぽわぽわした感じの同期が、見たりお世話したりした花やらなんやらのアレが良かったコレが良かったと嬉しそうに語るのは実に微笑ましかったのだが、それはそれとして部長に問いただしてみればしれっと答える。
「見込みのある子には厳しく仕事を仕込むのが伝統なんだ♪」
昭和かな? 今平成どころか令和やぞ。
そんなこんなで現在に至るのだが。
「やめようかな……」
完全にブラック企業というか、なんか謎に幹部育成スパルタコースに突っ込まれてしまったみたいな感じである。俺も平和でまったりした平社員コースが良かった。というか初手で扱いに格差を設けるのはどうなんだ? おかしくない?
そちらも問いただしてみれば、でもワカナちゃんお花の種類とかあんまりわかんないでしょ。そんで力仕事は得意でしょ。適材適所だよ。そう言われてはぐうの音も出ない。むしろ知識量抜群のあっちが幹部コースでこっちは現場ソルジャーコースか? 寡黙陸上系の子とかは俺と似たようなことやってるみたいだけど、特になんの文句も無いようで黙々と仕事をこなしているし、余裕があれば無言でサッと手伝ってくれるイケメンぶりを発揮するし。そういうことされるとキュンてなるのねマジで。複雑。
そんな感じで人間関係はマジでいいのも困りものである。部長は作業中はぶん殴りたくなることも多々あるけど普段は優しい。コミュ障特有の複数人集まると喋れなくなる俺だけど察して話振ってくれたり、上手く喋れなくてもあんま気にしないでくれるし、他の先輩や同期らもそれ見て同じようにしてくれるし。なに、この、手厚く保護されてる感じ。ロリだから?
作業の無茶も説明自体はちゃんとしてくれるし、キツイ作業も実は字面がキツイだけで実際なんてことないんだよね。100キロとか200キロのものでもわりと軽々持ち上げられるスーパーパワーなので。キヴォトス人は程度の差はあれ総じて腕力強めっぽいが、その中でも超人的ハイパワー*2らしい俺。なろうチートだぜ。やってること土建屋だけど。
それにミスって事故っても大丈夫だって言われたけどまーそうよね。地球の貧弱一般人が死ぬような事故でもキヴォトス人なら痛ぇ! で終わりだし、色々適当になるのもそりゃそうだって感じ。そんな耐久力も人並み以上なわけだから、扱いが雑になるのもむべなるかな。
見込みがあるってのはそういうことなのかね。疲れもあんまない。陸上ちゃんが手伝ってくれること多いのはシンプル俺に振られてる仕事が多いからってのもある。あの子身長15cmくらい違う上にキュッと引き締まって鍛えられた良い体してるんだけど、俺のぷにぷにロリぼでーの方が遥かにパワーあるんだよ。マジで意味わかんねえんだ、どこ行った物理法則。
いや、キツイ作業延々続ければそりゃ疲れるし、重いもの持つのも重さというよりはバランス保つのに神経使ったりするし、高いとこ怖いし、気疲れはする。いまぐでってるのも精神力が尽きたためである。今日は部活休みなんでいろいろ吹き出てきた感じ。
「そういえば給料出たんだよなあ」
この世界、なぜか部活で給料が出る。キヴォトスでは学生というだけで最低限の生活は保障されている*3ようだが、そこそこ以上にいい暮らしがしたかったら部活なりバイトなりなんなりしてねということらしい。それを思えば部活を辞めるのはいかにも悪手。バイト面接なんて心臓に悪いことできる限りやりたくない。これでええんか感がめっちゃあるのだが、ひとまず続けるしかないだろうか。
「とりあえず、お出かけすっかな~」
「ええ、適度なリフレッシュは健康のためにも重要ですから、とても良いと思います」
「ぬんっ!?」
現状を棚上げして軽く伸びをし、気を取り直した瞬間、至近距離から声をかけられてずっこけそうになる。入学当初の普通のセーラー服から救護騎士団デザインに制服が改造され、さらにピンクになったセリナちゃんであった。
相変わらず気配遮断で急に声をかけてくるがマジでやめて欲しい。心臓止まるわ。ちなみに庭園部の制服は普通のセーラー服の上に厚手の作業用エプロン付けただけです。実に地味な変化。
「どこに行くんですか?」
「あ~、モールで買い物っすかね。銃を、新調したいなって」
前々から考えていたことであるし、しばらく学校に通って周囲を見渡してみれば、わりとみんなゴツい銃を持っている。アサルトライフルが基本で、スナイパーライフルとかショットガン持ってる子がそこそこみたいな。たまーにロケランとかミニガンとか担いでる子もいるし、ハンドガンにしてもすげえ大口径だったりする。俺みたいなちっちゃいハンドガンは少数派っぽい感じだ。いかにも頼りないし、お守り代わりにしてももうちょっと格好をつけたい。
「なるほど。自分専用の銃を持つとウキウキしますもんね」
チャキっとピンクピンクしたアサルトライフルを掲げて見せてくるセリナちゃん。先端になぜか銃剣みたいに注射器がついている謎の銃だ。あれはなんなんだろうか。敵にぶっ刺すんだろうか……。まさかそれで味方の治療とかするわけではあるまいな。
朗らかな笑顔のセリナちゃんに曖昧な苦笑いで返し、救護騎士団のお仕事に行くという彼女と別れ、てこてこ歩いて教室を出る。勉強しないといけないこと、勉強したいことがいっぱいあるんです、なんて目をキラキラさせて言うセリナちゃんがあまりにも眩しすぎた。どうやら看護系の勉強をめちゃめちゃやっているらしい。怪しいやつなんて思ってすいません。
いや、ガチの神出鬼没で怪しいのは間違いないんだけどさ。悪い子ではないんだろうなあというのはひしひしと身に染みている。ヒフミちゃんともどもめっちゃ構ってくれるし、他の子との橋渡しと言うかフォローもしてくれるし、お陰でなんとなーくクラスにも溶け込めた気はします。
しかし、そんなセリナちゃんみたいに熱を持ってやりたいことなんてこれまであっただろうか俺は。新作ゲーム? 確かに一時的な熱量はあるけど同じものかと問われればどうなんだろうか。人生の目標、みたいなのとは違うよね。ヒフミちゃんはヒフミちゃんで部活はやってないけどすごく熱中してる趣味があるらしいし……ほんとに思春期の学生みたいな悩みが出てきたな。いや、そのものなんだけどさ。
そんな事を考えながら歩いていると、ブルブル震えるスマホにメッセージ。タイミングを測っていたかのような部長からのモモトーク*4だった。
遊びに行かない? って話で、モールで買い物したいと言えばじゃあ一緒に行こうということで、そういうことになった。タイミング測っていたというか、連続で部活やって最初の休みだしってことだろうか。
気を使われていると言えばそうだし、順調にプライベートまで含めて絡め取られているとも言える。やはりブラック……? アットホームな職場です(本当)
しかしまあ、色々ぐちぐち並べてみたものの、何を言ったところで庭園部の活動に早くも愛着と充実感を覚えつつあるのも事実だった。
こうして廊下を歩いていても、花瓶に活けてある花や、各教室にある鉢植えの観葉植物がよく目に入る。実はこいつら、元は庭園部が育ててた奴なんだって。校舎内の植物の管理自体は美化委員がやっているそうだが。
そして窓から外を見下ろせば、そこかしこに綺麗に整えられた街路樹や植え込み、大きな花壇には季節の花が咲き乱れ……。そんなものには全然興味なんてなかったはずなのに。トリニティの風格ある建築と合わさって、感性鈍い俺でもふとした瞬間息を呑むほどに綺麗なのだ。
その中を生徒たちが笑いながら歩いていくのは、ほんとになんかのイメージ映像みたい。こういう美しい景色を作り出す、それに少なくともちょびっとは関わっている。そこに情熱を感じる……なんてことはないけれど、ただ、あんまり悪くないことのようには思う。
一般人感覚で死にそうになるようなのはマジで勘弁して欲しいけどさ。
今のところクソ雑魚だけど基礎スペック自体は高めのワカナちゃん。最終的にはそれなりに強くなる予定です。