トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
「なんだか、久しぶりな気がしますね。こうしてワカナちゃんを診るの」
お神輿わっしょい1年生ズから、無事セリナちゃんにパスされた俺。ド深夜にも関わらずなぜか準備万端待ち構えられていた。
そのまま大浴場に叩き込まれて現在わしゃわしゃ洗われている。
確かになんか久しぶりのこの感じぃ……。セリナちゃんはやっぱり腕まくりしただけで、俺だけ全裸なのがなんだか羞恥心を煽りまくるが。
優しくも力強い手付きで、体中の煤やら泥やら機械油やら、わりとベッタリドロドロだったのが洗い流されていく。実に気持ちが良い。
「まあ、定期的にお世話にはなってたけどね……」
「ええ、それは確かに。訓練であんなに怪我するのはどうかと思いますが」
なぜかしばらく来てなかったような気はしたが、実際はそうでもなかった。正実との訓練でツルギ先輩にぺしゃんこにされて救護騎士団に運ばれることがちょくちょくあったので。
あの人基本はまともなんだけど、戦闘中にテンション上がるとわけわかんなくなっちゃうんだよね。ハスミ先輩は俺が強くなった証拠だ、なんて言って苦笑いしてたけど。
宇沢ちゃんとの訓練はちゃんとしてるというか、普通に教えてくれてた頃のツルギ先輩の真似してるだけでいい感じになるんだけどね。
締めに実戦形式もやるけど、基本俺がほどほどに攻撃して宇沢ちゃんが受けるみたいな感じで、ガッツリ怪我するようなのじゃない。
正実は実戦形式がほんとにキッツいマジの実戦想定なのやめていただきたい。雑魚狩りして高笑いしたい……。
もしそんなこと言ったら、それじゃ訓練の意味ないだろとかマジレスされるんだろうなあ。
「……なんか、機嫌いい?」
「そうかもしれません。ワカナちゃんがちゃんと先輩やってるんだなあっていうのを見れて、ちょっと嬉しくなっちゃいました」
なんとなく普段よりふわっとしたセリナちゃんに尋ねると、そんな風に言われる。無様にひき逃げアタック食らって……それも2回も! そんでお神輿わっしょいされるのはちゃんと先輩やれてるか?
あとあの子ら、めっちゃうるさくしてセリナちゃんに怒られてたし。俺が大変だとか車に轢かれてボロボロだとか。
ちょびっと轢かれたくらいでキヴォトス人がどうにかなるわけないのにねえ。大げさにし過ぎだってのよ。
お行儀が悪くて申し訳ない。普段はまあまあお上品にしてる気がするんだけど、深夜の病院とか一番ダメなとこででっけえ声出すんだもんなあ。
「それだけ慕われているということです。後輩さんたちが連れてこなかったら、ワカナちゃん来なかったんじゃないですか?」
「や、そのぉ……」
ちょっと火傷したかなくらいだったからな。特に何もしないで、せいぜい部室のボロシャワーで洗うついでに冷やすくらいで寝てただろうか。
軽く炎上(物理)したくらいじゃ、カプヌ作ってたら手にお湯かかっちったあっちぃ! くらいのノリで済んじゃうんだよねえ。数日かからず勝手に治るし。
「ちょっとした怪我でも、遠慮なく来てくださいと、何度も、何度も、言ってるんですけどねえ……」
「あぁあぁぁあぁぁぁ~……」
その羽を丁寧に丁寧にこしょこしょ洗われ、沁みて痛気持ちよくてくすぐったくて悶絶する。なんだこのテクは。さらに腕を上げたな、セリナちゃん……。
全身丸洗いが終わるとバスタオルでわしわし拭かれ、ホコホコ湯気を出しつつ一息。脱衣場に置かれた扇風機の風が気持ちいい。頭にバスタオルをぐるぐる巻かれてぽんぽん脱水。
下着履いてバンザイしてシャツを通され、背空きの上着のボタンを止められ、短パン履いて完成だ*1。
流しの大きな鏡の前で椅子に座らされ、羽の火傷に薬をヌリヌリ。沁みるの我慢しちょっと震えれば、いい子いい子と頭を撫でられる。
それ以外の部分も全体的に羽用オイルで整えられて、ブラッシングまでしっかり。今までになく艶々になっている。
……なんかガチでママと幼児ムーブしてしまった気が。自然すぎて普通に従っちゃったけど。セリナちゃん終始ニッコニコだしよお。だから俺をどうしたいんだね君は。
「ワカナちゃんも、ご機嫌ですね」
「んぇ?」
ご機嫌というか、誰かに面倒見られる心地よさと、人としてそれはどうなんだ感がぶつかり合って微妙な感じなんだけど……。
「こういう時はいつも、大なり小なり悲しそうでしたから」
「……ああ~、そうかも。でも、今回は被害ゼロで完全勝利だったからね」
言われてみれば、セリナちゃんだけでなく、鏡に映ってる俺もニッコニコしていた。
頭のバスタオルが解かれ、ドライヤーでやや温度低めのぬるい風が髪に当てられ、ぴょんと立ったアホ毛がピコピコなびいている。
そうか、どんだけ上手く戦ったとしても毎回なんかしらの被害はあったもんだが、今回はほんとにゼロだ。果樹園に踏み込まれてすら居ない。
「なんか、成し遂げたぜって感じ? 今後もずっとこうありたいもんだなあ……」
「おめでとうございます、っていうのはなんだか変でしょうか。でも、努力が報われたのなら本当に良かったです」
「ん、ありがとー」
努力というかチートと言うか身売りというか*2、そんな感じなのがなんともだが……。
いやまあ、ガッツリ鍛えてなかったらなんだかんだで地雷原もゴリ押し突破されて、去年同様果樹園内部での乱戦になってたかもしれない。努力の甲斐があったというのも間違いないだろう。
俺は突っ込む以外できないから後方指揮任せてる3年の先輩、その指示に従う同期たちも上手くやってくれたみたいだし。それも1年間2年間の努力の成果。
乾いた髪がヘアブラシで整えられ、いつもはちょっとぼさっとしてた頭がキューティクル。お風呂で他にも色々手入れされてたからその効果だろうか。アホ毛だけはしぶとく生き残ってまたぴょんと跳ねているが。
最後に細かい擦り傷なんかの治療がされて、ほっぺたにウェーブキャットさん柄の絆創膏を貼られてお終いだ。なんだか懐かしいこの感じ。
「さて、それでは治療は終わり。軽い怪我なので帰ってもいいですし、夜遅いので泊まっていってもいいですが……」
「?」
なんだか含むような言い方をした後、セリナちゃんはそっと指を唇に当て、ささやく。
「ちょっと夜更かし、しちゃいませんか?」
「しまぁす!」
小声で叫んで、その晩はセリナちゃんと宿直室でパジャマパーティとなった。
深夜にジュースとお菓子をたっぷり開けるという盛大な悪事を行いつつ、結局夜明け近くまで布団に包まっておしゃべりしていた。
ヒフミちゃんは補習授業部で合宿してるし、俺も庭園部でキャンプしてるしで、セリナちゃんもお泊まり会がしたくなったそうだ。
近いうちに救護騎士団の合宿もあるけど、人数多いし責任者だしであんまり気が休まらなさそうだとか。
本当にねえ、今年はずっと大変そうで。行方不明ってどういうことなんだろうね一体。セリナちゃんは、団長さんは立派な人だからただただ心配と言っていたが。
案外そういう人が自分探しの旅に出て、アビドス砂漠で修行してたり音楽で食ってくとか言い出してたりするもんだぜ、と適当言ったらちょっとウケた。
「ご無事なら、シスターになっていてもロック歌手になっていても構わないんですけどね……」
今はともかく、団長の帰る場所を守るのみです、というセリナちゃんの目は強い決意に彩られていた。
そんだけ思われるほどの人ならどっかで遊んでるということはないだろうが、だからこそ何かあったのではと不安にもなる。
セリナちゃんは仕事だけじゃなくて、そういうのともずっと戦っていたのだろうか。
「なんか俺にできることがあったら言ってね。セリナちゃんとヒフミちゃんのためなら俺、なんでもするから」
腕っぷしくらいしか役には立たんだろうけど、これに関しちゃマジだぜ。
今なんでもするって、なんて茶化されることもなく、セリナちゃんはふわりと笑って頷いた。
「いつもたくさん助けてもらっていますけれど、ええ、頼らせて欲しいことがあればきっと」
世話になるばかりで、俺ができたことなんてあっただろうか。よくわからなかったけれど、頼り甲斐をアピールするためにグッと親指を立てる。
そのあともしばらくぐだぐだお話して、夜明け近くになってようやく力尽き、少しだけ眠った。
それからしばらく。またなんか新しい動画が出回ったらしく、ちらっと見てみれば火あぶりの刑の人だのトリニティの方のちびっこターミネーターだの酷い言われようだった。
だがまあよし、存分に恐れ、忌避したまえよ。それで平和が訪れるならば安いもんだ。
実際あれから大規模な襲撃や、小規模でも車で乗り付けてくるタイプのギャング団は全く来ていない。
単にミカ様のご加護……地雷原のおかげかもしれないってか、そっちの方が普通に大きそうだけど。
しかしその手の襲撃がなくなって平和になったかと思えば、代わりにこそ泥タイプのリンゴ泥棒がちょいちょい来るようになったようだ。
浜の真砂は尽きるとも~なんてのがマジなのが嫌になるほど分かってぐったりするぜ。
こそ泥タイプは正実の巡回小隊や、うちの夜番の子たちがちょいちょい発見しては捕まえている。
少人数かつ武装も軽めだから、戦闘力としては1年の訓練相手にちょうどいいや、くらいだが隠密性がそれなりに高くて発見には苦労する。
まあ車乗りつけるのと比べたら被害はよっぽど軽微だし、欲張り過ぎてこんもりした麻袋背負ったようなやつは動きも鈍るから簡単に捕まえられるし。
リンゴ泥棒っつったらこんなもんだよね、って感じの牧歌的なやつら。なんで、まあ許せる範囲……いや全然許せないけど、ガチでキレるほどではないかなーくらい。
しかし去年はともかく、今年はどうやって来たんだよ。地雷原抜けてきたのか? リンゴ泥棒のために? 嘘でしょ……?
あまりにも気になったので、正実の取り調べに同席させてもらうことに。正実の詰め所に向かう。
1年集団にボコられたり、2年生に背後からステルスキルされたり、シンプルに俺が焼いたりでノックアウトされ、正実に引き渡されていたスケバン数名。
大体似た格好してるしマスクしてるしで誰が誰だかわかんねえけど、ともかくそいつらがめちゃくちゃ態度悪く取調室の椅子に座っていた。机に足をかけるんじゃないよ。
対面には尋問係の正実の子が座り、周囲を同じく正実一般メンバーが固めている。
普通に部屋に入った俺をアァンという感じで見た瞬間、スケバン集団がビシッと姿勢を正したのにはちょっと笑った。
こんだけゾロゾロ盗みに来るなら、ネタで色々言われてるだけでマジでビビられてる訳ではないのかなとか、ちょっと思ってたんだが。そういうわけでもないらしい。
ほっとした顔でこちらに軽く目礼した正実の子が、彼女たちへの尋問を再開する。
「では、トリニティ果樹園への侵入経路は?」
「普通に、正面から」
ぶっきらぼうに、ぼそりと告げられ、正実の子がぱっつん髪の隙間で眉根を寄せる。まあそれじゃなんもわかんねえしな。
俺は特に意味もなく羽をバサバサした。
「はっハイ! マジっす! 嘘じゃないです! 匍匐で荒野を抜けて果樹園側に侵入しましたァ!」
「なるほど……」
サラサラと調書に書き込まれるのは、匍匐前進による隠密潜入の文字。えっいや、嘘だろ?
「あっち側からって相当距離あるだろ……?」
「日が暮れるあたりからめっちゃ頑張ったんで。手早く盗って帰れば大体夜明け頃には帰れる計算で」
思わず口を出せば、スケバンたちはヘヘッと笑いながらマスクをズラして鼻をかく。
いや褒めてねえよ。匍匐前進で地雷原を抜けるな*3。ガチで丸々一晩かけてリンゴ泥棒をするな。その努力を別に向けろよ。
「……恵まれたお嬢様方にゃあわかんねえだろうがなーッ! アタシら貧乏人は甘いもん一つ食うにも命がけなんだよォーッ!!!」
「スーパーの半額スイーツすらたまの贅沢なんだぞォーッ!!?!?」
「学食のうっすいプリンで痩せちまった舌にィ! 濃ゆい果糖がァッ!! 恋しいんだよォォォッ!!!」
正実の子たちと一同ドン引きしてたら、突然デカい声出すのでびっくりしてしまった。
しかも叫んだ直後にグスグス泣き出すし。情緒不安定か。なんかごめんね……。
おやつに食べようと思ってとっておいたら、夏の暑さでちょっとデロっとしてしまったアルフォートを差し出すと、貪るように食べ始める。
正実の子も人数分の紅茶を淹れて、スティックシュガーと一緒に差し出していた。ズルズル飲みつつチョコを食う不良たち。
しばらく待って、ちょっと落ち着いたところで声をかける。
「まあ、しかしな。こっちとしても盗みは困るんだ。ちゃんと働いて、買って食ってくれ。分かるだろ?」
たぶんなんか貧困で大変なんだろうなあ。ゲヘナはその辺ヤバいという話も聞く*4。資金繰りに困る気持ちは大いにわかるので、声をかけてみる。
しっかり反省して頭下げるんなら、リンゴいくつか土産にくれてやって被害届取り下げとかもやぶさかでない。
俺だって鬼じゃあないのだ。ちょっとヤな感じの角女子たちだが、こいつらだって同じキヴォトスの学生……。
「え、やだよ。真面目に働くなんてバカラシーし」
「アタシにふさわしい仕事がないんだからしゃーないっつーかー」
「今はまだうちが働く時ではない……」
「てめぇらぶっこぉすぞおらぁああああああ!!!!!」
歯の隙間についたチョコを爪でカリカリしながら、クッソ舐めた態度で臆面もなく言い放ったスケバン連中をペロロ棒でホームランしようとした所、殿中でござる! 殿中でござる! と、正実の子複数人に抱きとめられる。
そのままお団子状態で正実の詰め所から強制退去することとなった。
ちょっとでも同情した俺がバカだった! やっぱあいつら嫌いだ! ゲヘナ民!!!
わりと謎な有翼生徒の背中事情。設定資料集とかに書いてあったりするんですかね。
予想としては普通にスリット開いてる感じだと思いますが、マジで童殺セーターみたいになってると嬉しいですね。セイアちゃんの制服がわりとガバっと背中開いてるんで同じ様になってる可能性は十分に……。
というか百鬼夜行の横乳スタイルが一番羽向きの格好だと思うんですがなぜか百鬼に有翼いない謎。天狗モチーフとかいてもおかしくなさそうなもんですが。
まあそれはともかく恒例のワカナちゃんのゲヘナヘイト値を溜める回でした。ブルアカの不良モブわりと面白いこと言いがちな気がするのでそんな感じで。はたから眺める分には愉快だけど関わりたくはない、そんなイメージでした。