トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
34話 雨上がりのポストモーテム
激動の一夜から1日ごろごろして、翌日。
色々迷惑かけたところに挨拶回りしないとなあなんて思いつつ、着替えたり朝メシ食ったり。
まずはどこへ行くべきか、と悩んでいた俺だが、逆に呼び出しを食らっていた。
ティーパーティーの監察官とかいう知らない人たちからである。ていうか内部監査とかそういう仕組みあったんだ……。
絶対機能してねえだろ、なんて失礼なことを思いつつ、特にお上に逆らう気もしないので素直に出頭することに。
トリニティ特有のやたら豪華な応接室に通され、ナギちゃん様の部下の人たちと同じような格好の監察官の人たちと顔を合わせる。
出されたお高そうな紅茶とお茶菓子をいただきつつ、どういうあれなのかなあと思っていたら、ミカ様とバトることになるまでの経過を聞きたいとか。
いや、俺だってよくわかんねえよそんなの……。
しかしこの人らはなんというか、やたら丁寧というか、腫れ物扱い感がすごい。どうにも大体の事情は既に把握していて、その確認という色が強いらしい。
クッキーをポリポリしながら、半ば誘導尋問じみた感じの話の流れに乗っていく。
武器供与をエサにクーデターに賛同するも、友人が襲われていたため反旗を翻し戦闘、とかそんなわかりやすい感じのお話になるようだ。
まあね、大筋間違ってはいないし、限界オタクがメンタルの限界迎えて暴れ出したとかよりはそっちのほうが理解しやすいでしょうね……。
ついでだからと、ミカ様と面会できないかなあと頼んでみたらすごい勢いで首を振られた。我々ではちょっと判断できないと。
ミカ様は現在基本的に面会不可で、偉い人の口添えがあればどうにかなるかも、ということだった。
しかし終始お前マジかよという顔*1をされていたので、そういう問題でもないと思われる。
いやでもさあ、会いたいじゃん。というか会わなければ。
なにが言いたいとか話したいとかよくわかんねえし、申し訳ない気持ちでいっぱいだし。いや、謝るべきなのかそうでないのかも、もはやよくわからん。
でもあの人にはずっとキラキラしていて欲しいから。牢屋に一人、というのがそれにふさわしくないのはわかる。
なんのしがらみもなければ檻破壊してさらって逃げたい、みたいな気持ちすらある。
まあともかく、なんか差し入れだけでも……。というわけで寮に帰って、部室に顔だして揉みくちゃにされながらもなんとかアップルパイ作成。
冷めても美味い伝統レシピだぜ。
見た目はいつもの通り、なんかニョロニョロ謎の生き物がのたくったみたいになってるけど……。
まあ、味はいいから! 同じくいつもの通りに自分を騙しつつ、タッパーに詰めて完成。
しかしなんかやたら心配されてたみたいだけど、なんだろう。とか首を傾げてたら陸上ちゃんのチョップを食らう。昨夜の戦闘を見て
周辺で待機してたシスターフッドの人々と一緒に突入して、ぶっ倒れてた俺を回収してくれたとか。
ドッカンドッカンそれまでになくド派手にやってたからめちゃめちゃ心配だったそうな。
いや、うん。それは本当に申し訳ない。正直ちょっと楽しかったんだけど、周辺被害とかエラいことになってそうね。
意識ぶっ飛びかけてたから後半炎の制御も甘くなってそうだし。
頭を下げれば、またわしゃわしゃと撫で回される。陸上ちゃんが満足した後はぽわぽわちゃんが整えてくれた。アホ毛だけはぴょんとそれに抗い自己主張を続けるが。
……帰る場所があるというのはありがたいことだなあ。
そうして俺は、背中をポンと押されて送り出されて、目的地へ向かった。
桐藤ナギサの待つティーパーティーのテラスである。
「ごきげんよう、軽部ワカナさん。……こうして対面するのは、しばらくぶりになりますね」
「ごきげんよう。……ナギちゃん様、なんか顔色悪いですけど*2、大丈夫っすか?」
ダメ元でアポ取ったら意外にもすぐに返答をくれたナギちゃん様。
どうにも若干調子悪そうな様子だが、こうして対面することとなっていた。
常のように優雅に紅茶を嗜んでいたナギちゃん様だが、なにやら妙な表情をした後、軽くむせてケホケホと咳き込んだ。
おいおい、ほんとに大丈夫か?
「……誰がナギちゃん様ですか」
「あ、すんません。なんか混ざっちゃって……」
あ、それかぁ。なんか無意識で言ってたわ。ミカ様がナギちゃんナギちゃん言うもんだから。
そんな親しみに、ちょっとジェラシー感じつつ頭を下げる。
「まあ、呼び方はどうでもよいのですが……」
「えっ」
ナギちゃん様でええんか? いつの間にか好感度稼いだのか?
俺としてはそもそものお嬢様お嬢様した雰囲気と、圧迫面接の経験でかなり苦手なんだけど……。でもメンタルぶっ壊れながらナギちゃん様ナギちゃん様言ってた*3せいで謎に気安くも感じている、という妙な状態なのだ。
「さきほど報告を確認しました。昨日までのあなたのこれまでの行動もおおよそ、改めて把握したところです」
カチャリ、とカップをソーサーに置き、深く深くため息をつくナギちゃん様。
な、なんすか……?
「怪しい経歴に怪しい行動、日夜戦闘に明け暮れ、ゲヘナ学園嫌いを公言して憚らず……出身校の百鬼夜行連合学院の生徒らしき者と接触し! 実際にクーデターへの加担を約束していて! その主犯がミカさんで!! 挙句の果てにヒフミさんに味方してミカさんを裏切って!!!」
段々とヒートアップしつつ目が据わっていくナギちゃん……ナギサ様。
いやこれ全然好感度上がってねえわどん底だわそりゃそうか。ナギサ様は紅茶を一口含んで一旦クールダウンしつつ続ける。
「あなたは一体何がしたかったのですか。何を考えているのですか。どうしてそうなったのですか。私にはさっぱりわかりません」
「すんませんほんとすんません……」
俺だってわかんねえって言ってんじゃん! 目を伏せて再びでけえため息をつくナギサ様。
なんか百鬼夜行に本格的に探りを入れてたとか、陰陽部部長の策謀家*4がどうとかめっちゃグチグチ言われてしまった。
そういやなんかお客さん来てたなあ……。クーデターとは1mmも関係なかったんだけど。
うんまあそうね、客観的にみてクソほど怪しいやつだよね俺。ライブ感で生き過ぎたかもしれない。
「少し前までの私は、補習授業部の後はあなたをいかにして排除するか、ということにずっと頭を悩ませておりました」
「あ! それ!」
補習授業部のことについては今までなんにも知らなかったのだが、監察官の人と話してたら実は全員の退学がかかってたとか聞いてド肝を抜かれたばかりである。
この世界学籍が市民権みたいなもんなので、退学という処分はハチャメチャに重い。
そんな中で補習授業部のみんなはずっと頑張ってたのかと思うと心臓キュってなる。
「ヒフミちゃんはナギちゃん様のことソンケーしてたのに! なんでそんな酷いことできるんすか! 許さんぞマジで!」
「……ええ、本当に。許されないことをしました」
なんか勢いで非難の言葉が出てしまったが、あっさり認めるナギちゃん様。あ、しかも勢いでまたナギちゃん様言ってしまった。
開き直っているとか反省のポーズとかでもなく、悔恨の念を滲ませる姿に、その勢いが一気にしぼむ。
「補習授業部の方々にはそれぞれ謝罪をし、容れていただきましたが、それでなかったことになるというわけでもありません。償いは今後の行動で示すのみです。具体的にどうすれば、というのはまだわかりませんが……今はトリニティの、この学園の皆さんのために全力を尽くすことがそうなると信じます」
「……すんません。余計なことを言いました」
マジでどこから目線で非難してるんだって感じだもんね……。
頭を下げる俺を、手で制するナギちゃん様。
「いいえ。友人が酷い扱いをされたならば憤るのは当然のこと。ええ……怒りも、非難も、私が当然受け止めるべきものです」
そうかな。当人同士でごめんね・ええんやでが済んでるんなら、外野がとやかくいうことでもない気がするけど……。
ヒフミちゃんとかコハたんなんか、いかにもあっさり許しちゃいそうだから納得だし。
神妙な顔をしているナギちゃん様にそんなことを言うわけにもいかず、さりとてじゃあ好きなだけ文句言うわなんてわけもなく。
口をモニョモニョさせて、間を持たせるために紅茶を含んだ。
「ワカナさん、あなたにも、庭園部の方々にも謝罪をせねばなりません」
「へぁ?」
なんかあったっけ。やらかしたのは俺ばかりのような……。
「クーデターへの加担を決意するほどの窮乏を見逃しました」
「あ、あぁ~……」
それかぁ。まあ確かに元をたどればそこに行き着くような気がしないでもないけど、もっと言えばゲヘナの連中が悪いよという話で。
あとは怪しすぎる俺にお金あげられませんってのもまあ真っ当で。
ナギちゃん様を恨むどうこうとかは、別にそんなにないんだけども。
いや、うちの子たちのことを思えば、そこをなんとかしてくれよというのはあったか。
「あなたと相対するのに疑念のみをもってし、誠実さの欠片もない対応をしました。本当に、申し訳ありません」
「いや、いや、そりゃ、あの状況じゃしょーがないですって!」
怪しさと迂闊さの塊みたいな俺が悪いのに、そんな頭下げられても困る。
やめてくれやめてくれと何度も言って、ようやく顔を上げてくれた。
「あの、ほんとに、ナギちゃん様を恨んでるとかそういうのはないですから。クーデター話を承諾したのも、ナギちゃん様が憎いからとかじゃなくて……その場のノリというか」
「その場のノリ」
ああ、神妙な顔が一瞬で無に!
「……ふぅ。いえ、そうですね。積もり積もったものがあり、少しのきっかけで衝動的に踏み出した。そういうことですね。言語感覚が少々アレなだけで」
紅茶を再び口に含みつつ、一人納得するナギちゃん様。おや、これなんかバカにされてない?
「ともかく、ご寛恕いただけるなら幸いです。ついでに今後の話、といいますか、庭園部の防衛についての見通しを話しておきましょう。本来ならば、これを一番最初にしておくべきでした」
そういったナギちゃん様に、ファイルに入った資料を渡される。いや、機密情報とか赤字でデカデカかいてあるんすけど。
ほんとに見ていいのかこれ。EDEN TREATY、エデン条約の資料か。
「必要な部分だけの抄本です。トリニティ、ゲヘナ、D.U.に跨る越境犯罪の捜査等に関する取り決めについて」
はへぇ。なんのこっちゃと思いつつペラっとめくるが……うーんさっぱりわからん。
なんかそれっぽいことが硬い言葉でごちゃごちゃ書いてあるが、つまりどういうことだってばよ。
お役所書類は軽く一読したくらいじゃ全然頭に入ってこないから困る。
「……つまるところ、トリニティの正義実現委員会、ゲヘナの風紀委員会、ヴァルキューレ警察学校での犯罪捜査についての協定です。現在は名目上、連邦生徒会規則に則る形で連携が行われていますが、トリニティ・ゲヘナ間の対立により有名無実化し、越境犯罪は半ば野放しとなり、自治領境界付近の治安悪化につながっています」
「なるほど。それでリンゴ泥棒がどうにかなると……」
いや、なるかなあ。あいつら別にそういうの関係なく攻めてきてるような……。
上から下まで、規則とか法律とかそんなで縛れるような感じ微塵もない
「もちろん、現場レベルでの連携がすぐに上手くいくとも、短期間で劇的に治安が改善するとも思っておりません。ただ、はじめの一歩を踏み出すと言うだけの話です。ですが、その越境犯罪の調査に関してという名目で正義実現委員会の予算を増やすことはできますし、そこからそちらにさらに手を割いていただくことも可能と考えています。そして、時間をかければ治安自体の改善も見込めるでしょう」
ああ、なるほど。正実はうちとは全然規模が違って人員もお金もあるけど、それでもトリニティ全域には足りないくらいだったもんね。
その辺を装備で補っていくと。
「庭園部を特別扱いというのは難しいですが、そういった形で間接的に、というやり方は可能です。そういうことで、ひとまず納得してもらえるでしょうか」
「あ、はい。正直、エデン条約で良くなるどうのこうのは俺も信じてなかったんですけど、そういう話なら……」
ゲヘナの風紀委員については、無法地帯の警察組織なんてマフィアとおんなじじゃない? とか、大魔王みたいなのがトップなんだから魔王軍じゃんねみたいなイメージしかない*5。
それと協力するから大丈夫なんて言われたらアレだが、正実の人たちはきっちりやってくれるからな。
「ありがとうございます。詳しいことはまた実際に事が進んでから、経過報告という形でしましょう」
今度は軽く息をつき、話を締めるナギちゃん様。紅茶のおかげかお菓子のおかげか、それとも溜め込んだなんかを吐き出したからか、顔色は少しだけ良くなったように見える。
「……では、難しい話はこの辺にして、本題に。ミカさんと面会したいということでしたが、それはなぜ?」
そういえば面会の許可貰いに来たんだった。なぜ、なぜと言われても会いたいからとしか……。
勢いだけで行動しているため動機の言語化ができぬ。うんうん悩んでいると、呆れたようにナギちゃん様が口を開く。
「ワカナさんの行動は、流れを見ると支離滅裂です。ですが場面場面を見れば、まあなんとかわからないこともありません」
し、支離滅裂……。そこまで言う?
自分でもどうしてこうなったみたいなのはあるけどさあ、俺だって基本は理性的に合理的に行動してるつもりなんだけどなあ*6。
「ミカさんはあなたを置いて外部勢力と結託し、あなたの友人であるヒフミさんを攻撃し、あなたのゲヘナ学園攻撃の使嗾も無視し、結果的に戦闘。特別棟の体育館が崩壊するほどの激しい戦いになりました」
崩壊て、マジ? 確かに床ボロンボロンになってた気がするし、壁にもガンガンホームランした宇宙爆発が直撃してたけど……。
いやまあそれはどうでもいいか。コラテラル・ダメージというやつ。キヴォトスではよくあることだ*7。
「あなたがクーデターの約束を裏切ったとも言えますが……逆にミカさんがあなたを裏切ったとも言えます。あなた方はそこで決裂したのでしょう? それがなぜ?」
決裂、決裂か。俺はヒフミちゃんと敵対するミカ様に味方することはできず、ミカ様は俺と二人の
相容れず、道を違え、戦った。確かに決裂したのだろう。
意識を失う前に見た最後の笑顔は、それを許してくれているように思えたが、冷静になってみればただの気のせいかもしれない。
こんだけ思い通りにならないやつ、嫌いになってもなんもおかしくないだろう。つーかそもそも好かれてたってのが思い上がりでは? 良くしてもらったけど、ただの手駒にそんな感情……。自分で考えてお腹がぐるぐるしてくる。
「でも、俺は……それでも。ミカ様のことが好きなので」
一番キツい時に、助けてくれた。誰もが諦めろと、仕方ないよという時に、手を差し伸べてくれた。
そのキラキラした姿は脳髄に刻み込まれて忘れられない。
うつむき加減に絞り出すように言った言葉に、ナギちゃん様は微笑んだ。
「……そうですか。経緯はどうあれ、こんなことがあってもあの子を、ミカさんを好きだと言ってくれる方がいるのは嬉しいことです」
なくなりかけた紅茶を継ぎ足して、遠くどこかを噛みしめるようにしばし、瞑目。
「ミカさんは、小さな頃はどちらかといえば引っ込み思案な子で……思いつきで突飛なことをするのや、ふとした時にズケズケ物を言うのは変わりませんけれど」
急に過去バナを始めるナギちゃん様。……な、なんだあ? 幼馴染マウントか?*8 そういやミカ様とナギちゃん様は幼馴染とか聞いたことあったけどさあ。
ヒフミちゃんとのおでかけデッキで対抗してもいいんだが? 新カードは少ないけど、去年分の弾はたっぷりあるんだからな?
「私が手を引いて歩いて、私がこの子を守らねばなんて、ずっと思って……。いえ、一人で勝手に何処かへ飛んでいってしまうような今でも、そんな気が抜けていないのかもしれません」
な、なんだよ、惚気か?*9
俺だって本当はそういうのになりたかったのに。遠くから眺めるだけじゃなくて、手を繋いで一緒に歩いて。前でも、後ろでも横でも、なんでもよかった。
ナギちゃん様はすっかりその手が離れてしまったと思っているのだろうか。
寂しげな目は、不安に少し揺れていた。
「私も、ミカさんと話さなければならないことがあります。あなたもそうならば、断る理由はありません」
ナギちゃん様が立ち上がる。なんとなく常に座って紅茶飲んでるイメージだったが、すっと背筋の通った美しい立ち姿。
やっぱマジモンのお嬢様なんだなあこの人。
「会いに行きましょう、ミカさんに」
そういうことで、ミカ様との面会が叶うこととなった。
俺も、ミカ様と会うことに不安はあるが、それでも顔を合わせて、言葉を交わさねば。
俺の今の気持ちを伝えたいし、あの人が今何を考えているのか知りたいのだ。
ルビコン3からごきげんよう、大変お久しぶりです。
アーマードコアの新作発売前に書いて投稿して心置きなく旅立ちたかったんですが全然書けなくて遅くなりました。
とりあえずAC6のチュートリアルだけは終えましたが、普通にたっぷり1時間以上かかって草生えますよ。ヘリがというかヘリのミサイルが強すぎる。
時間かかったわりに色々あってあんまり書けなかったんですが今回更新は6話4~5万字くらい、ウィッシュリストはさんで調印式の直前までという感じになります。
ウィッシュリストは当初は本編終了後にやれたらやろうかなくらいの気持ちだったんですが、事が起きる前に幸せ日常回を突っ込んだほうが具合が良かろうということで、ワカナちゃんも海に行ってもらうことにしました。正実メンツ含めてなんだかんだ全員知り合いというのもありますしね。
それで今回はナギちゃんとお話回です。ナギちゃんは基本的に不遇なポジションにいますが、ミカへの愛がやたら重い人なのでその辺は多少出しつつ仲良くしておきたいなあということでご出馬。
ハナコと一緒にサクラコ様経由でも良い気はしましたが、ミカとの関係を考えてこっちに。