トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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35話 地上の星に涙川

 トリニティの監獄……というとなんかこうジメジメ湿った暗くて陰鬱ななんかヤバそうな所を想像するが、ナギちゃん様に連れられてきたそこは、わりと普通の建物だった。

 

 他の教室棟なんかと変わらない、レンガ造りの立派な建物。中も別になんの変哲もない感じで、言われなきゃ牢屋だとかわからないだろう。

 地下の方にはいかにもな牢屋もあるそうだが。

 

 ナギちゃん様が担当者と二言三言話すと、その人の案内のもと、上階の偉い人用の牢へと向かう感じに。

 ナギちゃん様の後ろに隠れる俺のこともちらっと見られたが、特に何も言われなかったのでそのままてこてこついて行く。

 

 通り過ぎる部屋の窓やらドアやらはがっしりした鉄格子で覆われて、なんとなく重苦しい雰囲気。でも室内の調度類なんかは普通に豪華で、そもそも広いし、なんなら俺の寮の部屋より立派じゃね、みたいなのを横目に進む。

 

 ほとんどの部屋、牢屋は使われていないようだったが一箇所だけ、明かりが漏れている。そこが目的地だったのだろう。

 そこにたどり着くと、案内の人はナギちゃん様に鍵を渡して一礼し、そのまま立ち去った。

 

「では、先に私がミカさんとお話をしてきます。……あまり楽しくない内容になるかもしれませんから、ワカナさんは少し待っていてください」

「あ、はい」

 

 そう言って、ナギちゃん様は牢屋の中に入っていった。

 あ、一緒にお話って感じじゃないんだ。しかし楽しくない話って……あの二人でそんな風になるなんてことあるんだろうか。

 

 こうしてミカ様が捕まってしまったことは確かに、なんというか、全然楽しい話ではないけどさ。

 でもミカ様も、ナギちゃん様も、お互いに重すぎるほどに相手のことを想っているように見えた。

 

 ああ、そうか。お邪魔虫の俺抜きでお話したいということか? 俺は一応ミカ様のお友達……お友達? なんだろう。俺はミカ様のなんなのか……。

 

 いやまあひとまずそれは置いておこう。またお腹ぐるぐるする。

 ともかく関係者として俺を連れてきてはくれたけど、とりあえず二人っきりで話すと。

 むーん。むらむらジェラシー。

 

 ちぇーと不貞腐れてドア横の壁によっかかる。ペロロ棒がやや邪魔だがクソデカ羽がクッションになってわりと落ち着く体勢。

 まあ、それは確かにしょうがないし、3人でお話とか俺が地蔵*1になるの分かりきってるし、いいんだけどね。

 いいんだけどさ、ちぇーだよ。ちぇー。

 

「わぁっナギちゃんじゃん! いらっしゃい!」

「……み゛っ!?」

 

 びっくりして喉奥で小さく叫んで、ちょっと壁からずり落ちる。普通に部屋の中のミカ様の声が聞こえてしまった。

 え、こういうとこって普通、すごい防音みたいになってるもんじゃないの……? 

 

 古い建物だから、そういうのないのだろうか。なんなら普通の部屋より声が通るくらいだ。ナギちゃん様も牢獄常連ということもなかろうし、その辺気づいていないらしい。

 普通に話し始めてしまったようで、二人の声が耳に届く。

 

 距離を取って、聞かないようにするべきか。マナーだよね。

 

「……」

 

 だが、俺はゆっくり静かにその場にずり落ちて、床に座り込んだ。

 ……だって気になるもーん! 俺にとってはそれこそ楽しくない話になりそうだが! 幼馴染会話が気になる! 

 

「ミカさん、調子はいかがですか? なにか不便なことなどは?」

 

 ミカ様はころころと明るい調子で、それこそテラスで普通にお茶でもしているかのようなノリ。

 ナギちゃん様は少し硬く、そんなミカ様に言葉少なに応じる。

 

 再会を喜びつつも、アリウス? がどうのこうのとか*2、なんかどっかで聞いた気がするけどよく分からん内容で、でもなんとなく上滑りしているような会話が続く。

 なんか思ってたのと違うな……。

 

 その後は先生がどうのこうのとか、合わせる顔がないとか。

 あ、俺も先生さんに合わせる顔ねえな。なんかノリで炎に巻き込んでしまった気がするのだ。

 

 開幕でコハたん達を下がらせるためのやつは低火力で、キヴォトス人ならなんも問題ないやつだが一般人類にとってどうかはわからない。普通に火傷くらいしたかもしれない。

 後半はそれこそ周りを気にする余裕なんか欠片もなかったし。

 

 補習授業部関係でヒフミちゃんたちのためにめちゃめちゃ頑張ってくれてたらしいのに、マジで申し訳ねえな。

 気まずいにも程があるが、どっかのタイミングで会って頭を下げねば。

 

「ねえナギちゃん……考えようによってはさ、なんだかんだで全部上手く行ったんじゃないの? “トリニティの裏切り者”はこうして捕まった。アリウスはもう脅威にならない。これでエデン条約さえ締結できれば、ナギちゃんの望んだ平和が現実になるじゃん。ハッピーエンド、良かった良かった」

 

 朗らかに、明日の天気でも語るように適当な調子でミカ様が言う。

 そ、そうかあ? 正直今回のクーデターの件について、全容を全然把握できてなくて、二人の話もわりとちんぷんかんぷんなんだが、それでも前途多難の道の途上というのはわかる。

 

 そもそもこのキヴォトス世紀末で平和だなんて、何言ってんのよぉ! というところだ。

 ナギちゃん様も呆れて黙って……。

 

「何も良くありません……。何が良かったんですか、この状態で……ミカさんが、裏切り者で……。どうして、私のヘイローを破壊しようとしたんですか」

 

「へぇぁ!?」

 

 絞り出すような震える声で、ミカ様を問いただすナギちゃん様。

 思わず変な声出そうになり、慌てて両手で口をふさぐ。そんな、そんな、そんなわけないじゃん……! 

 

「……どうしてですか? ゲヘナが憎いからですか? それが理由で、私のことを……? それに、セイアさんの件もそうです。なぜ、どうして……」

 

 いやゲヘナ憎しだけだったら今頃俺と一緒にゲヘナ炎上させてるよぉ。ナギちゃん様のヘイロー破壊ってなんの話だよぉ。

 あの夜の戦闘がそんなんだと思ってたのナギちゃん様。あれ、あなたを拉致監禁しようとしただけで……細かい事情わかんねえけどミカ様がナギちゃん様殺そうとしたって、そんなんありえねえよ! 

 ……ミカ様は、何故かなにも言わない。

 

 ナギちゃん様は血を吐くように続ける。セイア様が死んだと聞かされてから、ずっとどんな思いでやってきたのか。

 セイア様が死に、次は自分で、残されるミカ様のためにできる限りを。

 ……やっぱりこの人愛が重いぞ? 

 

「ナギちゃん。……もう良いの。これはそんな複雑なお話なんかじゃない。ゲヘナのことが大っ嫌いな私が、そのために幼馴染をも殺そうとした。それだけの話しだよ」

 

 そんなわけないじゃん。嘘つき女。

 なんで、こんなにあなたのことを大事にしている人にそんな嘘をつく? 

 

「……何かが、あったのではないですか? 手違いが、誤解が……何か事実からは見えない、真実が……」

 

 ミカ様は笑い、空疎な軽口を重ね、ナギちゃん様の言葉を否定する。

 

「私は人殺しだよ? 気に食わないことがあったらそれくらい、当然のことでしょ? セイアちゃんがたとえ生きてたとして、私があの子を殺そうとしたって事実が消えることはない」

 

 なんでそんなこと言うの? 

 未遂で終わったんだからいいじゃないかとは、言わないが……殺そうとしたわけじゃないって言ってたじゃん。

 ぶっ殺してやったと、うっかり死んじゃったと、危うく死ぬところだったと、全部ぜんぜん違うだろ。

 

「どうして……私は……」

「“私はあれだけ長い間一緒にいたのに、気づかなかったのか?”……その答えは私よりも、ナギちゃんの方がよくわかってるでしょ?」

 

 にこやかに、朗らかに、明るい調子で突き放す。

 

「“私たちは他人だから”ね、分かるわけないじゃん?」

 

 なんでそんな酷いこと言うの。

 

「……今日は、帰ります」

「うん、気をつけてねナギちゃん。お見送りはしてあげられないけど」

 

 ぎぃと、扉が開き、ナギちゃん様がミカ様の牢から出てくる。

 俺の方見て、少し潤んだ目を瞬かせ、サッとそらした。

 

「申し訳ありませんが、私は先に失礼します。鍵は受付の者に返しておいてください」

 

 目を合わせないまま、うずくまる俺の膝の上に鍵を置き、ナギちゃん様は小走りに去っていった。

 つやつやの木札がぶら下がった、長い年月をくぐり抜けてきた風格を感じるごっつい鍵だ。

 

 その重さに怯みながらも、どうにか立ち上がって、扉を目の前にする。

 どんな顔して会ったらいいかますますわかんねえ……。

 

 けど、会わなければならない。このままで終わらせていいはずがない。

 俺なんかになにができるのかとも思うけれど、それだけは確かだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、裏切り者だ」

「むぐっ……!」

 

 鉄格子のはまった分厚い扉を震える手で押し開けて、顔を出せば開口一番。

 おしゃれなティーテーブルについたミカ様の、にこやかなジャブ。

 

「今日はお客さんが多いね。次はワカナちゃんか。君がナギちゃんと一緒に来るなんて意外……でもないか。ナギちゃんも落ち着いたみたいだし、ワカナちゃんは使えるものなら何でも使うタイプだもんね?」

 

 ナギちゃん様と飲んでいたらしいティーセット、残っていたお茶菓子を適当に摘んで、ニヤリと笑う。

 

「本当、どの面下げてきたの? 私は君と話すことなんてないし、ナギちゃんに取り入るなら私なんかとお話してる暇ないよ? ちょうど今、傷心のナギちゃんを慰めてあげなきゃ」

「その、差し入れ……にお菓子作ってきて。アップルパイ……」

 

 カバンから、タッパーを取り出そうとするも、間髪入れずに遮る冷たい声。

 

「いらないよ。気分じゃないし、もうナギちゃんとお茶会したからね。こんなところで甘いものばっかり食べてたら太っちゃう」

 

 お帰りはあちら、と冷たい笑みを浮かべながら扉を指すミカ様。取り付く島もない。

 出しかけたタッパーを戻す。そして止まる。

 

「どうしたの? ほら、早く帰ってよ。私は暇を持て余してるけど、それでも嫌いな子とお茶するほどじゃないよ」

「うぐ、うぅうぅぅぅ……」

 

 嫌い、嫌いって言われたあ……。しょうがないけど。しょうがないけどさあ……! 

 

「……泣かないでよ。わかんないなあ。君のこと全然わかんない。あんなに啖呵きって、馬鹿みたいに殴りかかって来るような子なのに。そんなメソメソしちゃってさあ」

「泣゛い゛てね゛っす……」

 

 熱い汗が滴る頬を目元を袖でごしごし拭い、顔を背ける。

 はぁ、とため息をつかれる。

 

「本当にさ、なんで来たの? ワカナちゃんにはお友達たくさんいるんでしょ? ヒフミちゃんでも、部活の子でも。その子達と仲良く楽しくしてればいいじゃない。こんなところに来る必要ないよ」

「俺は……俺はあなたに会いたかった」

 

 歓迎されるとは思ってなかったし、こんなにストレートにバシバシ殴られるとも思ってなかったけど。

 とにかく会いたかったから会いに来ただけだった。

 

「あのさ、ナギちゃんにも言ったけどさあ。ワカナちゃんは罪に問われず、必要な物資も手に入れて、悪いやつ(わたし)が捕まって、万々歳のハッピーエンド。それで終わりなんだよ、このお話は」

「やだ!」

 

 皮肉げな笑みが消え、ぽかんと、あっけにとられたようなミカ様の顔。

 

「あんたが、ゲヘナどうこうなんかよりナギちゃん様のことが大事なのは知ってるんだよ。なんであんなこと言った!? 無理やり嫌わせて、遠ざけて! なんだよ! 俺が嫌いなら、ナギちゃん様が大事なら、その分仲良くしろよ! 笑ってろよ! 意味わかんねえんだよ……!」

 

 だってそうじゃなきゃ帳尻が合わない。俺の手を取らなかったのに、別の誰かの手も拒んで、勝手に一人になろうとして。傷つけて、傷ついて、そして俺は蚊帳の外。あんまりにもあんまりだ、そんなの。

 眉間がツンと熱い。顔中からなんか色々出てる気がする。視界が歪んでなにも見えない。

 

「……だから、泣かないでよ。本当にもう。みっともないなあ」

 

 長く息を吐く気配。コツコツと俺の側に歩いてきた人に、バフっとタオルが顔に当てられ、ぽんぽん何度か拭われる。

 視界が塞がれたままひょいと抱えられ、椅子に座らされた。なにがなんだか分からずなすがまま。

 

「ほら、ちーんして。ゆっくりね」

 

 タオルが外れると、ティッシュがまとめて何枚か鼻に当てられる。言われるがままに片方ずつ鼻をかみ。

 熱い汁が溢れて止まらない目元にもまたタオルがぽんぽん当てられて。

 

 そうしてしばらく、止まらない嗚咽が止まるまで、ずっと頭を撫でられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

「……すんません。でも、やっぱ、優しいじゃん」

 

 小さな丸いティーテーブルの対面に座らされ、呟いた俺の口にマカロンが突っ込まれる。

 うーん、美味い。お高いやつだぜコレ。

 

「あのまま泣き喚かれて、騒ぎになっちゃったらめんどくさいなって思っただけ」

「……俺は、俺が信じたいことだけ信じます」

 

 あらぬ方を見ながらぶすっと呟くミカ様に、にへっと口元が緩むのを感じる。嘘つきで、優しい人。きっとまたいつかキラキラ輝く人。

 本当のところがどうだかなんてわからないけれど、俺にとってミカ様はやっぱりそうなのだ。だから俺はそう思うことにするし、それだけでいいのだ。

 

 よくわからんまま派手に自爆した結果、欲しい物が降ってきたようだ。

 そんな俺にミカ様は再び長い溜息。ごめんなさいね。でもなんか気分いいわ。

 

「……はぁ。もういっか。たしかにね、私はナギちゃんのこと……好きだし。君のことも、嫌いじゃないよ。だけどさ、これから私は退学になるから」

「ふぇぁ!?」

 

 た、退学? な、なんでぇ? 

 

「なんでもなにも、クーデター未遂に殺人未遂。クーデターだけならともかく……セイアちゃんはきっと私を許さないし。順当なとこだよ」

「な、なんとかならないんすか」

 

 ミカ様はあっさりと首を振る。退学は重い、ハチャメチャに重いなんてのはちょっと前にも聞いたこと。

 実際退学になった人がどうなるかなんてのは分からないけど、退学になってもズッ友ダヨ! みたいなノリで済ませられる話ではないのは分かる。

 

「ならないよ。……そう、だからナギちゃんいじめてたの。私に構ったところで立場悪くするだけでなにも得るものないし。ワカナちゃんもね。君はわかってないだろうからはっきり言っとくけどさ。クーデター首謀者の囚人(みそのミカ)に会うって、変な噂たてられて足引っ張られるリスクしかない、無意味どころかマイナスしかない行為だから」

 

 今日はもうしょうがないけど、二度と来ないでよね、なんていうミカ様に被せる。

 

「ヤです」

「あのさぁ……」

 

 呆れ顔のミカ様がマカロンを1個、2個、3個……次々と俺の口に詰め込んでくる。むぐぐ……。

 

「ナギちゃんもワカナちゃんもこれからまだまだ学園生活あるんだからさあ。もうこれで嫌な奴の顔見なくて済む! 清々した~! くらいの気持ちでいればいいんだよ」

「んぐ、ぐ……絶対ヤです」

 

 理屈は知らん! 恥も外聞もプライドもない! 嫌なものは嫌だ! 

 

 近頃頓に幼児性が増してきたというか、ちびっ子扱いが板につきすぎて中身まで侵食されてきてしまったような気がする。

 なんかタガが外れたようになってる感あるが、でも、だからこそこうしてミカ様ときちんとお話できてると思えば悪くない……かも。

 

「はぁ……。人の話を聞かない、言うこと聞かない、ガンコおバカワガママ自走式時限爆弾。ほんっとにも~、めんどくさい子」

「むももももっ……」

 

 何やらヒドいこと言われつつ、またもマカロンをポイポイ詰め込まれる。

 やめろやめろ破裂するわ。

 

「あのね、私のことはほんとにもうどうにもならないの。やらかした私を庇えば庇うほどナギちゃんの立場も悪くなるし、たとえ先生だってトリニティの自治権には口を出せない。私がホントはセイアちゃん殺す気なかったんだ~なんて言って情状酌量勝ち取る、くらいが唯一現実的なとこだけど、そうなったら誰が責任取るの? 実行犯のアズサちゃん?」

 

 むごごごご! 

 無理やりマカロン胃に押し込んで、強制的な言論弾圧になんとか対抗する。

 

「アズサちゃんは、クーデター阻止に頑張ったから無罪放免とか聞いてます。別に、みんな悪くない良かった良かったでいいじゃないっすか……!」

「そうなったら良かったけどね。それじゃセイアちゃんも、セイアちゃんとこの子たちも納得しないよ」

 

 セイアちゃんは私のこと嫌いだし、それに私と違って愛されキャラだからね~。なんて、皮肉げに言いながら、紅茶を含むミカ様。

 

「……セイアちゃんが生きてたって聞いて、そのときはすっごく安心したけどさ。思えばずっと表に出てないのは確かなわけで、ほんとに生きてるのかな。その場しのぎの嘘だったんじゃないかな、なんて思ったりもするんだ」

「セリナちゃん……救護騎士団の人が団長が保護してるって言ってたんで、そこは確かだと思います」

 

 寝起きにセリナちゃんに聞いたことと、監察官とかいう人に聞いた話くらいしかわからない。

 だから状況把握はかなりガバガバで、なんなら牢屋の中にいたミカ様よりわかってないっぽい。

 

 でもセイア様が生きてるってのはほんとに確かだと思う。いや実は死んでましたとかマジで本気でやめてくれ。

 ギャグ漫画の世界で急にガチの死人を出すな! 許さんぞ! 

 

「ふぅん……まあ、シスターフッドと救護騎士団が口裏合わせ、なんてのは無理だろうしね」

 

 俺の言に納得したのか、少し微笑んで小さく頷くミカ様。

 

「でも、それで私の罪がなくなるわけでもない。引き金を引いたのは私だもん。結局、おバカで考えなしの私が全部悪かったんだ」

「マジでやっちまったのと、未遂とじゃ、ぜんぜん違うでしょ……」

 

 困ったように笑い、首を振る。幼い子供に言い聞かせるように、穏やかに語る。

 

「殺意の有無も、殺害の成否も、ここでは問題じゃないんだよ。誰かがセイアちゃんを殺そうとしたっていう罪があって、誰かが罰を受けなきゃならない。人殺しっていうのはそれだけ重いんだよ。……そして、その誰かは、私が一番妥当でしょって、そういう話」

「……全然わかんねっす」

 

 全く納得いかない。なんだよそれ。おかしいじゃん。

 何がおかしいのかとか、どうしたらいいのかとか、なんにもわかんないけど、とにかく嫌だ。冷たくて固くて融通が利かない現実の理屈、そんなのはこの場所(キヴォトス)にふさわしくない。

 

「君があの時、私のこと好きだって言ってくれて嬉しかったよ。本気なのもわかったしね。今日来てくれたのも、嬉しかった」

 

 身を乗り出して、また俺の頭を柔らかい手がポンポンと撫でつけた。

 

「……そういうの、ナギちゃん様に言ってください」

「ダメ。ナギちゃんと、それに私も、これでも偉い人なんだから。ドロドロしたイヤーな世界に住んでてさ、こういう風になるのもしょうがないんだよ」

 

 マカロンの最後の一つがまた口に詰め込まれる。

 

「でもワカナちゃんは違うでしょ。巻き込んじゃった私が言うのもなんだけどさ。陽当りのいいとこで、楽しい学園生活を送るのが君の仕事。だから、バイバイ。もう来ちゃダメだよ」

 

 両肩を掴まれたかと思うと、ひょいと立ち上がらされて押し出され、そのままドアの外にぽいっと放り出される。慌てて振り向けば目の前で重いドアがバタンと閉められる。

 光が見えたようで、分かりあえたようで、結局なにもできないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に、どうしようもないのだろうか。また泣きそうになりながら、鉄格子を見つめて立ち尽くす。鍵は俺が持っているから、入ろうと思えば入れるのだが。

 けれど、冷たくも、無闇に露悪的でもない、ただの柔らかい笑顔に拒絶されて。これ以上できることなどあるのだろうか。

 ミカ様の退学という現実をどうにかできないことには、なにも……。

 

「ひぃん!?」

 

 なんか突然俺の尻が撫でられ、思わず変な声を出してしまう。

 いや、尻を撫でたのではなくスカートのポッケに突っ込んであった鍵が取られたのか。硬い感触が消えている。

 

 後頭部にもにゅっと柔らかい感触。俺の背後に張り付いた何者かが、そのままドアの鍵を閉めた。

 

「なっ」

 

 なにすんじゃと怒鳴りつけようと振り返った口に、しーっと指が当てられる。

 

「こんなところで奇遇ですね。……軽部ワカナさん」

 

 なんか知らんがやたらとエロい顔でニヤリと笑う、浦和ハナコがそこにいた。

 

*1
TRPG等でひたすら黙っている会話苦手部。人狼ゲームなどではまっさきに吊るされるタイプ。二人きりならわりと話せる場合が多い。

*2
アリウス大隊がうっかり焼却されて捕縛されたため、もはやまともな戦力は残っていない、などのお話。




露悪的で自傷癖で幼馴染を突き放すめんどくさい女に泣く子を投げつける!
という回でした。
これもわりとやりたかったシーン。ミカはナギちゃんのためにナギちゃんを突き放すから本音は出ない、親しくもないハナコに本音を話すのもありえない、じゃあ誰なら?ってとこがわりとワカナちゃんのキャラ造形に大きな影響を与えた気がします。女児は最強、おはようじょ。

当初想定だとここまでではなかったはずなんですが、女子高生との楽しい交流シーンを増やした結果なんか段々精神年齢が下がってました。ワカナちゃんはおしまい。



ところでルビコン3で壁越えたりしたんですが、序盤チュートリアルのヘリが一番強くないですか。
ソルディオスみてーなのにビームで焼き殺されたり壁の上の重機に轢き殺されたり地雷で爆殺されたり色々ありましたが、やっぱヘリのミサイルが一番死んでる……。
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