トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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39話 二度目の夏の終わり

 座敷でアズサちゃんとモモフレブンドド遊びをしながら待っていると、ややげっそりした顔のヒフミちゃんたちが戻ってくる。

 幸いみんな内臓ダメージはさほどでもなかったらしく、さらに少し休んだらだいたい落ち着いた様子。

 

 ちょっと離れたコンビニで買ってきたまともな食事をとると完全に復活だ。食中毒(?)でせっかくの海が台無し、ということにならなくてなによりである*1

 

 午後もリストを消化しつつ目一杯遊ぶぞ、ということで今度はスイカ割りらしい。スイカはバーガー女がお詫びにと大量に譲ってくれた。

 ためつすがめつチェックしたが、特になんの変哲もない普通のスイカな模様。

 

「海での遊びにおける定番ですね。ところで棒はどちらに?」

「スイカ割りなら私もよく知っているが、棒……?」

「スイカ割りといえば、バットや木刀のような物が必要だと思うのですが」

 

 えっ? えっ? と顔を見合わせて首を傾げるスナコンビ。なにか同じ単語で別の物事を思い浮かべているらしい。

 

「えーっと、棒のようなもの……。準備するのを忘れてしまいましたね。何か代わりになるようなものは……」

 

 ヒフミちゃんが棒状のものを探してうろつき出した。棒、棒……。ああ、と思いつきペロロ棒を掲げる。

 でっかい透明ペロロプールバッグをカバーにして、適当な紐でくくって背負っていた*2、海仕様の回転ノコギリである。

 

 全長2メートル近く、先端部はデッカイ車輪の如し。今その車輪部分はビニールバッグに印刷されたペロロのあらぬ方向を見る両目と、だらんと飛び出た舌がくっついてちょっと悪夢じみた感じになっているが……。

 バットの代用としてはあまりにゴツいけど、いつもの縦振り……刃を当てる感じじゃなくて側面のペロロの顔面でぶっ叩けばいい感じになるのでは。

 ちょうど防水カバーだから汚れないし。

 

「いえ、ワカナちゃん。ペロロ様のお顔でスイカを割るなんて、そんなことをしてはいけません」

「え、ぁえ? ……はい」

 

 ブンブン素振りしながらペロロ棒スイカ割りを提案した所、真顔のヒフミちゃんに却下されてしまう。君、普段かなりそのペロロ様を駆使して戦闘してなかったか……? 

 

「うん、それにワカナのそれは振り回すには少し重すぎるからな。こっちのほうが手軽でいいだろう」

 

 だぁんと一発。アズサちゃんがナチュラルにスイカに銃弾を撃ち込む。ビニールシートに置かれたスイカは見事に粉々になっている。

 ドヤっとした顔でアズサちゃんが語る所によると、彼女の知識ではスイカ割りはどうやら射撃競技であるようだ。なんか変な漫画でも読んだんだろうか……? 

 

「なるほど……狙撃勝負というのも面白そうです」

 

 スイカ割りをなにか勘違いしているらしいアズサちゃんの提案に、ニヤリと笑ってのっかるマシロちゃん。単にノリがいいだけじゃなくて、すっげえ悪ノリするじゃんね君……。

 

「食べ物で遊ぶんじゃない」

 

 そのままスイカで射的を始めようとした二人を、ツルギ先輩がチョップして止める。

 しかし二人のやりたいことのメインは、既にスイカ割りからスナイプ勝負に変わっていたようで、あっさりスイカ割りを放棄して、その辺の流木やら小石やら貝殻やら、適当に落ちていたものをターゲットとする射撃競技大会を始めてしまった。

 

 あっという間にターゲットが全然見えない距離まで遠くなり、しかし二人はバシバシ命中させているらしい。

 やるな、お前もな、とバトル漫画のようなやり取りをしている。

 

「あれ、あの、スイカ割り……」

 

 首をかしげるヒフミちゃんにすっとペロロ棒を渡す。ツルギ先輩はビニールシートに新しいスイカをセットし、先生は撮影位置でスタンバイ。

 

「え、えぇ……あれぇ?」

「さ、ヒフミちゃん」

 

 全力で背伸びして、タオルをヒフミちゃんの顔にどうにか巻いて、ペロロ棒の重みでふらふら歩くヒフミちゃんを右だ左だと誘導。

 

「そこだー!」

「も、もぉー! なんか思ってたのとぜんぜん違うんですけど!!!」

 

 どうにか振り下ろされたペロロの顔面はべちーんとスイカに直撃し、いい感じにボガッと割れる。先生を見ればサムズアップで、いい写真が撮れたと教えてくれる。

 うむ、スイカ割り、完遂である。

 

「あぁ、ごめんなさいごめんなさいペロロ様……」

 

 スイカの汁にまみれて顔面血まみれみたいなペロロ棒をタオルで拭う、若干ホラーなヒフミちゃんを置き去りに海の家へ。

 バーガー女から包丁借りて、割ったやつを適度な塊に切り分けて、残りのスイカは普通にカット。

 

 射撃勝負を終えて健闘を称え合うスナコンビが戻り、なぜかそのまま付いてきたバーガー女も混ざり、みんなで普通にスイカを食べた。

 ツルギ先輩は乙女顔で先生に餌付けされてるし、スナコンビはいい汗かいた後のスイカがうめえみたいな感じ。

 

 バーガー女は謎の調味料をスイカにモリモリかけて未知への探求を楽しそうに進めているし、俺はヒフミちゃんのペロロ棒アタック姿が見れて満足。

 うんうん、良いスイカ割りだったな。

 

「しゃ、釈然としません……」

 

 釈然としねえのはスイカ切ってる間にペロロ棒を砂浜にぶっ刺して謎の祭壇を作り上げてるヒフミちゃんのペロロ信仰だよ。

 砂で立派なお供物の台作ってるし、そこに一番でっかいカットスイカがいつの間にか乗ってるし。

 

 なんだ、召喚の儀式かなにかか? 

 海から噂の大怪獣ペロロジラとかがやってくるのか……? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、ビーチバレーを始めましょう!」

 

 気を取り直したヒフミちゃんがビーチボールを高らかに掲げて次のお題を宣言する。先生がコンビニに昼メシ買いに行った時についでに買ってきてくれた普通のやつである*3

 

「……ヒフミ、大丈夫? ちょっと疲れてる気が」

「だ、大丈夫です……! ただその、これで良いのかなって思ってしまって……。最初はただ、アズサちゃんに海を見せてあげたくて。できればみんなで、楽しい時間を過ごしたいなって……」

 

 謎の襲撃が頻発してるしね……若干コレジャナイ感がそこかしこにあったのは確かである。

 それはそれとして楽しんではいるが。アズサちゃんを見れば、首を傾げて。

 

「私は楽しいけど?」

 

 だよね。

 冷たそうな印象に反して、すごい素直というか。友達の友達の距離感にその場でグルグル回るような俺に、まっすぐズンズン距離詰めてくるような子というか。

 そんないい子なので、そうなるだろう。

 

「いえ、えっと、それは嬉しいのですが。なんといいますか、夏休みというのは……」

 

 うぅん、と考え込むヒフミちゃん。

 まあ、なんとなく分かるよ。普通の学生の夏休み! みたいなやつをやりたかったんだろう。去年はわりとそんな感じだったし。

 

 ヒフミちゃんは普通であることにコンプレックスがあるようで、逆に普通にこだわりがあるようにも思える。

 その普通が夏! 海! 戦車! の時点でわりとちょっとキヴォトス人との感覚の溝を感じるが……。

 

「友達とわいわい楽しく遊ぶ、というのはそうなんですが、事あるごとに銃撃戦を挟むようなものではないといいますか……」

 

「見つけたぞォ! ここにいたのかッ!」

「今度はさらに人数集めてきたからなァ!? 覚悟しやがれェ!!!」

 

 噂をすればの言葉通りに、叫び声とともにチンピラの人々がゾロゾロ現れる。あんだけボコボコにされてまだ闘争心があるとは……。

 

「応戦します!」

 

 呆然とするヒフミちゃんをよそに、戦闘態勢を整える他メンバー。まあツルギ先輩が居れば前衛は十分ってかオーバーキルだし、俺はちょっと下がっておく。

 ツルギ先輩が突っ込み、色々諦めたヒフミちゃんが乗り込んだ戦車が続き、スナコンビが援護射撃。ガンガン蹴散らしてるのであっちの心配は一切不要だな。

 

 俺は俺で爆撃してざっくり数を減らすことに専念する。そろそろこのややねっとりキラキラファイアーの扱いにも慣れてきたところである。

 ペロロバッグを外し、ぎゅるんぎゅるん力強く回る丸ノコくんの側面に火の玉を一つではなく複数こねていく。

 

 気持ちとしてはピザの生地を作る感じにすると丸まっていくというか。それをちぎって分けるイメージで更に回して……。

 非常に感覚的な話なのでご説明しづらいのだが、ともかくそんなアレ。

 

 適度に溜めたらまとめてカタパルト。テコの原理を活かして密集した集団に向けて火の玉の群れをかっ飛ばす。ご照覧あれぃ!

 キラキラ輝く尾を引きながら放物線を描く火球たちはチンピラ軍団の周囲にガンガン着弾、炸裂炎上。

 

 狙った所に飛ばすのがほぼ不可能とか、威力にムラがあって扱いづらいとか、派手なだけでぶっちゃけいまいちな気もするが……攻撃範囲はとにかく広いし撃って楽しいのでこれはこれでよし。

 先生が空中投影ディスプレイ出しつつちょいちょい指示してくれるのもあり、チンピラ軍団をガシガシ燃やしていく。

 

 なんか最近、必死こいて戦わなくてもサクサクどうにかなってしまう戦闘というのは案外なかった気がする。

 強いて言うなら通学路でチンピラに絡まれるやつだが、あれは戦闘というかちょっと焼いて一瞬で終わりみたいな感じだし……。

 

 格上相手にチリチリした戦闘するよりは雑魚狩り俺ツエーしたいとは常々思っていたが、本当にそうなってしまうとあんまり面白くないものだな。

 技を工夫するにも、どんだけ適当でも当てればダウンするからやりがいがないし。

 

 これなら正実の訓練のほうがマシ……。いや、どうかな。あのキッツいシゴキを楽しんでいたのだろうか俺は。

 必要だからしょーがなくやるというスタンスだったはずが、いつの間にか脳筋集団に飲まれている……? 

 

「アタシらみたいなはみ出しものがよぉ!夏の海で、キラキラしたらダメなのかよ!」

 

 ついに泣きが入ったチンピラ水着女子が叫ぶ。どこに行ってもやられてばかり、ここまでコテンパンにされて黙ってられない。

 明日からまた明るい気持ちで頑張るために……!

 

「このまま一生! 負けたままで! 生きたくない!! てめえらに勝つッ!!!」

 

 リーダー格っぽいチンピラが叫び、生き残りのチンピラたちも鬨の声をあげる。なんでこんなしつこいのかと思っていたが、よくわからんけどあいつらにもここに至るまでのなにやらエピソードがあるらしい。

 それはそれとしてスコーンと脳天に狙撃が直撃してリーダー格がもんどり打ってぶっ倒れたが。

 おお、無慈悲……。いやまあそうね、女子高生がキラキラするためにやることがリゾートでみかじめ料徴収とか意味わかんねえわ。キラキラ(物理)にしてやろう。

 

 溜めて溜めて、さっきよりさらにド派手に大小の火球を大量にかっ飛ばす。

 視界に映る浜辺がまるごと輝く火の海になったようだった。賊の供養には少々豪華すぎたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばし後、アフロのチンピラ軍団が引き上げたところでようやく本題のビーチバレー開始となった。

 みんなルール知らないようだったが、俺はおっぱいぶるんぶるん揺れるタイプのゲームで履修済みだったのでざっくり説明。2対2になるだけで大体体育の授業でやるバレーと一緒だからわりと簡単だ。

 

 グッパーしてチーム分け、メンツを変えつつ何試合かやってみたが……。

 ツルギ先輩はなんか爆撃みたいなサーブしてくるし、俺もなんか気合い入れたら火の玉(物理)サーブ撃てたし、ヒフミちゃんは普通に光って踊って回るいつものペロロ召喚してブロックするし、だいぶカオスな試合模様となった。

 いやなんでだよ?

 

 最終的にはシンプルに上手いマシロ、パワー最強かつ普通に上手いツルギの正実コンビが勝率トップを記録した。

 パイセンの爆撃サーブ返せるのが俺とヒフミちゃんのペロロ様だけだったからな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩も交えつつ、ビーチで遊ぶことしばし。すっかり日も傾いて、空はオレンジと暗い青の二色に染まっていく。水平線の向こうへ沈んでいく夕日を眺め、楽しい祭りの終わりが近づくのを感じながら、しばらくみんなでぼんやり。

 そして、最後のミッションである花火のために、俺とヒフミちゃんで買い物に行くことに。

 

「んじゃ、行こっか」

「はい。お昼ごはんを食べたのとは違う海の家に花火をたくさん扱っているところがあるそうなので、そこに行ってみましょう」

「おっけー」

 

 遊んでた所からは少し離れているらしい目的地に向けて、ペタペタとビーサンを鳴らして歩き出す。まだ日の明るさが残る夕間暮れ、ちらほらと街灯が点きはじめていた。

 

「……ワカナちゃん」

「んー?」

 

 昼間の暑さとはうってかわって、心地よい風が吹いている。同じくペタペタと音を鳴らし、少し後ろを歩くヒフミちゃんの気配。

 なんとなく、元気なさげだろうか。流石に疲れちゃったのかな。

 

「ワカナちゃんは、その……楽しかったですか?」

「うん」

 

 久々に遊んだーって感じはしたよね。部活メンツと遊びに行くことはちょいちょいあったが、ノリが違う感じというか。

 部活とか関係なしの、シンプルに友だちと遊ぶっていうのは別腹と言うか。

 

「セリナちゃんも来れればよかったんだけどねー」

「ええ、それは本当に……そうなんですけど」

 

 イツメンで集まりたかった気持ちはあるよね。正実メンツも面白い人々だし、アズサちゃんもいい子だしで悪いというわけではないのだが。

 あ、お土産どうしよう。ちょうどいいから行先で買うか。なんか面白いもんあるといいな。

 

「その、ワカナちゃんは……本当に楽しかったですか?」

「ヒフミちゃん?」

 

 ペタリ、ペタリ。足を止める。振り向けば、大きめのモモフレビニールバッグを抱えたヒフミちゃんも足を止めている。

 こちらを見る目は、なんとなく不安げで。え、え? なんだ? 俺なんかやらかした? 

 

「ええと……あの夜に、私のいい子ちゃんな所が嫌いって言われたのが、ずっと気になってまして」

「ふぉぇ!?」

 

 言ってない! 言ってないよそんなこと!? いや言ったか!? そうとれなくもないか!? 

 

「いえその、ごめんなさい。セリナちゃんはきちんとお話して、そういうことではなかったって、聞いて。私の方もきっとそんなのじゃないって、頭では分かってるんですが。やっぱりその、心当たりといいますか……」

 

 ヒフミちゃんは暗い顔で続ける。

 セリナちゃんに聞いたんなら分かるでしょ!? 好きって言ったじゃん! 俺が光属性でダメージ食らうタイプってだけの話だよ! 

 

「普通で、地味な私ですが、その……なんと言いますか。そういういい子ちゃんな行動をして嫌がられることですとか。好きなものを目にするとちょっとだけ抑えが効かなくなってしまって、引かれてしまうこととか、ちょくちょくありまして」

 

 あはは……といつもの苦笑いも力なく。小中時代にそういうことがあったのだろうか。よくわかんないけど女子特有のあれこれ的な……? 

 いやでもヒフミちゃんを好きな人は光属性のいい人だしヒフミちゃん嫌いなやつは闇属性の悪いやつだよ。

 そんなんと付き合う必要ないって、いやマジでマジで。あっ、自分にも半分くらい言葉のナイフが刺さる……! 

 

「ワカナちゃんはモモフレンズもそんなに、大好きということもないみたいですし。……本当は迷惑に思われていたのかなあ、なんて、思ってしまったりして」

 

 また、キレのない苦笑い。ごめんなさい。なんだか、めんどくさいことを。忘れてください。

 そう言って、また歩き出そうとするヒフミちゃん。

 

 なんだろう、なぜ、そんな。

 俺とヒフミちゃんの間には劇的ななにかがあったわけではなかった。

 なんとなく面倒を見られて、なんとなく仲良くなって、なんとなく一緒に遊んで。穏やかな人だから、声を荒らげて喧嘩をするようなこともなかった。

 

 一緒に苦難を乗り越えるとか、遠慮なしに本音をぶつけ合うみたいな、青春っぽい特別なイベントがあるなんてこともなかった。

 だからだろうか。

 

 情緒めちゃくちゃで放った言葉が、変な感じに響いてしまったのだろうか。本音ではあったが、そういうことではなかったのに。

 このまま流して、なんとなく、なんとなくで埋めてしまうこともできただろうが。

 それは嫌だった。

 

「ぇ」

 

 うつむくヒフミちゃんを正面から抱きしめて、ついでに羽でもハグ。

 水着同士で肌面積があれだし、半分犯罪ではないだろうか。いやでもしたかったんだ。許してくれ警察。

 

「あっ、あの!? ワカナちゃん……?」

「俺は、俺は……ヒフミちゃんが好きです」

 

 ぎゅっとすれば頭頂部がヒフミちゃんの顎のあたりにこすれるのを感じる。

 傍から見れば、ヒフミちゃんが黒い繭に包まれたように見えるだろうか。

 

「よくわかんないとこでとんでもない勢いでエンジンかかるのも、正直変だと思ってるけど。好き」

「えっ、あっ……はい」

 

 おずおずと、ヒフミちゃんの腕も俺の背に回される。

 普段はヒフミちゃんの方からわりと気軽にハグしてくるんだけど。

 

「変なこと言ってごめんね。あれは、俺がダメで悪いのが悪いんで……」

「……ワカナちゃんのそういうの、それこそダメですよ? 私もワカナちゃんのこと好きですから。そういうこと言ってほしくありません」

 

 フッと柔らかな息が漏れ、頭頂部に当たる。背中をぽんぽんと叩かれて。

 見上げてみれば、先程までの苦しそうな表情はなくて、ほんのりと微笑むヒフミちゃん。

 

 なんかすこぶる妙な感じになってしまったが、ともかく良かった……。

 

「ヒフミ、ワカナ?」

「ひゅい!?」

「わぁ!? あ、アズサちゃん!?」

 

 いつの間にか至近距離にいたアズサちゃんに声をかけられ、俺たちは弾けるように離れた。遅いから援軍に来たと、無表情で言いながらこちらを見つめるアズサちゃん。

 なにか誤解が生まれていないか……?

 

「ふむ、ヒフミ。私も」

「えっ? あ、はい……」

 

 両手を広げてヒフミちゃんを迎え入れるアズサちゃん。力強く抱きしめ、パシパシと背中を叩く。なんというかサッカー部みたいなアレだな……。

 アズサちゃんにはコハたん的な発想は全く無いようである。そもそもヒフミちゃん結構軽率にハグするしね。今回はなんか妙な空気になってしまったが。ともかく一安心……。

 

「よし。さあ、ワカナも」

「へぇぁ? お、俺も?」

 

 当然だ、と無表情で頷くアズサちゃんが抱きしめてくる。特に拒否る理由もないので抱き返すが、身長ほぼ変わらないのでお互い肩に顎を乗っけて戦友よ! みたいな感じに。

 な、なんなんだろうかこれは。

 

 疑問符を浮かべていると、ちょいちょいアズサちゃんの白い翼に背を突かれる。こそばゆいと思っていると、羽が抱きしめるようにパタパタ。

 ああ、はい。俺もってこと? 

 

 お互いに翼を絡めるようにハグすると、こそばゆさと暖かさでなんとなくものすごい充実感。アズサちゃんもそうだったのか、ムフーという顔で腕と翼でパシパシされる。

 あ、あれぇ? と疑問符を浮かべるヒフミちゃんをよそにしばし翼ハグが続く。微妙な沈黙の後、満足したのかパッと離れるアズサちゃん。

 

「よし。では物資の補給に向かおう。急がなければ花火作戦の時間が短くなってしまう」

 

 さあ行くぞ! と先頭を足早に歩き出すアズサちゃん。

 あっけにとられつつもペタペタ続く俺たち二人。マジでなんだったんだろうか。

 

「ハグは親愛のコミュニケーションとして特に素晴らしいものだとハナコが言っていたから。あとコハルと翼同士でやったこともあるが、ワカナのような大きい翼だと包み込まれる感じがとてもいいな」

 

 あ、そういう。やっぱり全然他意とかないやつなんだ……。

 いやまあ俺とヒフミちゃんのも、別になんかそういうのがあったわけではないですけども? 

 

 俺のマヌケ面か、アズサちゃんのムフー顔か、何かがツボに入ったらしいヒフミちゃんが抑えきれないように笑い出す。

 つられて俺もケラケラ笑いながら、急げ急げとせかすアズサちゃんについてペタペタ小走り。

 

 そのままダッシュで店に駆け込み、予算一杯花火を買い込む。アズサちゃんはなんか爆弾もいくつか見繕ってたけどまあ誤差だな! 

 

 俺もついでにお土産を……光る骸骨とかドラゴンが巻き付いた剣とかの謎定番キーホルダーに紛れ、アロハな格好のご当地モモフレキーホルダーがあったのでいくつか購入。

 夕日がすっかり沈む頃、俺たちは先生たちの待つ浜辺へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっといい空気になっていたパイセンと先生のお邪魔をしちゃったりしつつも、闇夜に包まれた浜辺で花火開始だ。ちょっと遠くにスケバンたちもいるが、あっちも花火やってるようだ。

 まあ楽しく遊んでるならなにも言うことはあるまい。

 

 手持ち花火を二刀流でぐるぐるしたり、ロケット花火をバンバン撃ったり。

 そして大量に買った打ち上げ花火にも火をつける。市販のわりにすごい立派というか、しっかり夜空に大輪の花が咲く。流石キヴォトス人、火薬の扱いはお手の物というわけか。

 

 ガンガン打ち上げていると、チンピラ軍団も対抗するように花火を増やす。うーん、華やかになっていいことだ。

 手持ちのが尽きたので俺も丸ノコくんで打ち上げに参加。適当に火球を打ち上げて爆発させたり、海面に炎で絵を描いてみたり。

 

 流石に花火みたいないい感じの爆発にはならないが、キラキラファイアー自体がとても綺麗なんで帳尻は合う感じ。

 お絵かきはシンプルに絵心がないため幼児の落書き臭。

 

 ううむ、モモフレっぽい何かはできたが……。

 個人的に納得は行かないが、ヒフミちゃんアズサちゃん筆頭にかなりウケたので宴会芸としては十分以上だったようだ。

 

 そんなこんなで花火を楽しんでいると、チンピラ軍団の様子がにわかにおかしくなる。

 なんだろうか。

 

「恐らくナパーム弾ですね」

「確かにナパーム弾は普通の花火より遥かに強力。それを花火として使うとは、考えたな」

 

 スナコンビがなんかおかしなこと言いつつうんうん納得している。ナパーム弾ってなんかすごいやばい奴じゃなかったっけ……?*4

 

「もうあれは花火じゃないと思いますが……」

「あっまた何か……ふむ、軌道が低いですね」

 

 ナパーム弾がこちらに向かって撃たれたようだ。幸い直撃コースではないが、周囲の浜辺が火の海になりそうである。

 

「良いだろう。ならば戦争だ」

 

 アズサちゃんがどっかの少佐のようなことを呟き、この夏最後の戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ黒な灰を被った浜辺を、夜通しどうにか片付けて、一同どうにか帰路につく。帰りの戦車ではグースカ寝てしまったが、俺以外も寝てたようでちょっと安心。

 学園についてから解散し、寮でさらに寝こけて起きたらヒフミちゃんから大量の写真が送られてきていた。

 

 海に放り込んでるとことか、ペロロ像のやつとか。どれもみんなめっちゃ笑顔で。

 大体先生が撮ったやつらしいが、なるほどいい腕である。帰り道の戦車内、すげえ美少女顔で寝ているツルギ先輩の腹を枕にしてよだれを垂らしている俺の写真もあった。……大丈夫かこれ。

 

 うん、まあ、それはみなかったことにして。ともかく、めっちゃ楽しかったな。

 海、良かった。

 

 最近は更新頻度低めだったコルクボードに新しい写真をバーっと貼って、収まりきらないやつをアルバムに整理して。

 またこんな感じに遊びに行けるといいなあ。エデン条約とやらが終わって落ち着いたら、みんな暇ができるだろうか。

 

 そんなことを考えつつも、りんごの収穫やら草刈りやらに、暑さにやられそうな花壇を回って水をまいたり世話したり。あとは正実と訓練したり宇沢ちゃんと訓練したり。

 いつも通りに過ごすうち、いつの間にやらエデン条約調印式の日が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、特に俺が何をするというわけでもないんだけどね」

 

 夜、寮の自室。クロノススクールの特番なんかをダラっと見つつ、ぼんやり過ごしていた。エデン条約、トリニティとゲヘナの平和条約。無事に終わるといいのだが……。

 一応、当日は現場付近に控えてようかな。そんな事を考えていると、ふと、何かに呼ばれるようにスマホを見る。

 

 ミレニアム製ロボゲーの軽快な戦闘音が流れる。着信だ。なんだろう、なんだか違和感。

 しかし、出なければ。

 

 スライドし、電話に出る。

 

「─────ケルビム。そなたらのお披露目の時がきた」

 

 ひび割れるような、木のこすれるような、そんな人でないものの声がした。

 

「迎えをよこす。支度をして、ふさわしい装いで待つことだ」

 

「───はぁい」

 

 思考が霞む。

 知らない誰かの、知らない声。しかしなんの疑問もなく俺はそれを受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ、こんにちは。あなたが、あの人形さんが言っていた戦略兵器さんですか。案外、普通な感じなんですね……」

 

 前髪で片目を隠し、大荷物を背負った少女が卑屈な様子で、へらへらと呟く。

 

「そんな普通なあなたが、今まで楽しく、幸せに暮らしてたのに。それがあっさりなくなっちゃうんですね……。辛いですよね、悲しいですよね」

 

 ヘラヘラと嘲るように、哀れむように、しかしまるで笑っていない片目は本心を語るように。

 

「でも、それがこの世界の真実ですから」

 

 さあ、行きましょう。

 

 その夜、アリウススクワッド、槌永ヒヨリに手を引かれ、軽部ワカナはトリニティ総合学園から姿を消した。

*1
ちなみにドリンクには生命創造とかいう作中最高の神秘を誇るゲヘナ学園給食部のジュリによるマンゴーソース(暗黒)が混入していたらしい。

*2
πスラッシュ

*3
普通のやつのはずだが、ツルギの爆撃サーブにも耐える

*4
ナパームは、ガソリンをゲル状にした焼夷剤の一種。ヤバイ。




というわけでヒフアズとイチャイチャする回でした。わりと軽率に友達をハグするヒフミさんなんでワカナちゃんとはわりと既にちょいちょいやってたと思われますが、ちょっと湿っぽい感じで。

そして初見スチルでこいつ絶対サイコパスだろとか言われるヒヨリを出しつつ不穏な感じで引き。ワカナちゃん出生の秘密から3章ラスボス戦へ続きます。

これからミカがセイアちゃんにものすごい上げて下げてを食らってメンタルブレイクするわけですが、じゃあワカナちゃんもぶち折れておかなきゃということで。自己同一性の危機だあ~というアレで、ものすごい鬱展開に突入するとかではないのでご安心……いやそれが鬱展開と言えばそうなんですが。

実はちょくちょく伏線らしきものは張っていたんですが、ほんとにやるかどうかはちょっと迷いがありました。転生した理由とかそれいる?みたいな……。あとゲマトリア関連下手に触らないほうがいいんじゃ、とか……。
でもまあやっぱり自然に?折れる展開ですしついでにアリウスと絡めるしで当初予定通りにやることに。

書きはじめる前はアツコ持ってなかったんですがちょっと前にすり抜けてきてまして、園芸部作りたいとかね、出したくなっちゃうじゃん?っていうか……。
次回はサオリのお腹べしべし叩いて良いおへそだね!とか言ってミサキになんなのこの生き物……とか言われる感じになるかと思います。



燃え残ったすべてに火を付けて、ごす、俺やったよ……という感じなんですが周回して他ED見たりトロフィー集めたりしたいのでまだルビコン通いでちょっと時間かかりそうですが、次回更新はまたしばらくお待ち下さい。

あと感想評価お気に入りここすき等、いつもありがとうございます。励みになっております。ぼちぼち感想4桁行きそうでマジかよ感とともに感慨も一入。いつも楽しく読ませてもらってます。

ここすきもゲヘナ焼却宣言がえらいことになってたりして草。溜めに溜めたキメの場面がウケてるというのは作者冥利に尽きますし、それが可視化されるってすごいですよね。
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