トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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5話 キヴォトスの風が吹く

 しばらくうんうん悩んだ結果、動物さんシリーズはなんか賢そう・強そうみたいなのがアホガキ丸出しの現状の俺にはちょっと荷が重い気がしたのでやめておくことに。選んでみたらみたで愛着湧きそうな気もするけど、結局フィーリング、第一印象を大事にすることにしようと思ったのだ。

 

 動物さんに対して最後のデザインは、銃全体のメインはマットな黒で夜空の雲間に浮かぶ星って感じのイメージ。パッと見シンプルに見えてグラデが美しくカッコイイ。じゃあこれで! ということで最後は勢いよく決定。

 

 ロボの店員さんにデザイン案を渡し細部を詰める。数日程度でできるらしい。サクサクと完成予想図みたいなのが端末上で作られて、それを見るにめっちゃいい感じ。後日受け取ることにして、満足して店を出る。

 

「いやあ、ありがとうございました部長」

 

 ホクホク笑顔でお礼を言う。部長がいなかったら今後会う人すべてにファッション弱者の烙印を押されて過ごす日々になっていたことだろう。実際ファッション弱者なのは間違いないが、最低限の擬態くらいはしたいさ。

 

「んーん。気に入ってくれたなら良かったよ……その、ごめんね」

「へ?」

 

 なにが? 帰り道を歩きながら、わりと深刻そうな顔で謝る部長にかなりのアホ面を向けてしまう。しかしどうも真面目な話っぽいのでなんとかきゅっと表情を引き締めた。

 

「庭園部にさ、ちょっと無理に引き入れちゃった感じだったし。お仕事もいきなりキツイことやらせちゃったし。私も逸材を見つけて浮かれてたかなーって」

 

 なるほど。ブラックスパルタ体制に逃げ出さないか心配になったということですね。まあ人間関係悪かったりしたらとっとと逃げ出してたかも。あとは給料……まあ高くもないけど税金と社会保険料でガッツリ引かれますみたいなのないし、寮生活だし、全然悪くない。

 

「やってみたら案外悪くないかなって感じにはなってるんで、大丈夫ですよ。でも逸材……そっすかね?」

 

 見込みがあると言われたものの、植物に詳しいとか全然なくて知識的進歩は草の根ゲリラだし、やった仕事の覚えも決していいとはいえなかった。いや死にかけて覚えたことは忘れないみたいのはあるけどさあ、それはあんまり認めたくないと言うか。あとは根本的にあんまり手際がよくないんだよね悲しいけど。やっぱシンプルパワーかな。肉体労働では評価される項目ですからね。

 

「ほら、最初にあったとき流れ弾バンバン当たっても平気そうだったじゃない」

「めっちゃ痛かったですが……」

「普通はしばらく動けなくなったり、軽く気絶とかしちゃうんだよ。訓練次第でもあるけど、耐久力高いのは強くて才能ある子の特徴なんだ。それにそういう子は力が強い子も多いから、いてくれると助かっちゃうなって」

 

 バリバリ現場作業だからねえと笑う部長。もう知ってます、身をもって。ていうかそれはやっぱり重機かなにかとしての才能があるってことだよね……。うぉおん俺は人間重機だ……。いや一芸に秀でる才能があるってのは素晴らしいことなんだと思うけど、もうちょっと華やかというかさ、なんかなかったのかしらという気にはなる。目立つより隅っこで地味にやってる方が性に合ってるのも間違いないんだけど……。

 

「あとは収穫の時期が近くなるとリンゴ泥棒と銃撃戦になったりもするから」

 

「リンゴ泥棒と銃撃戦」

 

 スッと頭に入ってこないワードチョイスやめろ。いやまあ分かるけどね。全員銃持ってて泥棒が来たらそりゃ撃ち合いにもなるだろうさ。世紀末ぅ~。

 

「多少の被害はもうしょうがないから、正実の人が来てくれるまでなんとか耐えるみたいな感じでやってきたんだけど、強い子がいてくれたらなーってずっと思ってたんだ」

 

 弱小運動部が地区大会突破したくて新入生のホープ引っ張ってきましたみたいなノリで銃撃戦。リンゴ泥棒と銃撃戦。汗と声援の代わりに硝煙と銃声。

 

「それに、トリニティの生徒を狙った襲撃とかカツアゲとかもよくあるからね……」

 

 お嬢様学校だから狙われやすいんだ、みんながお金持ちなわけじゃないんだけどねえ、なんてぼやく部長。あのさぁ……。キヴォトス! いい加減にしろキヴォトス! 

 

「みんなと一緒にでかけた時とか、そういうことがあったら守ってあげてね」

「はい……」

 

 俺はついていけるだろうか。治安のないこの世界のスピードに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでやや不安を抱えつつも部長と一緒に学園に戻り、その日は寮でぐっすり寝た。寝て起きたらまあそんなに恐ろしいこともないだろう常識的に考えろよなとメンタルリセット。正常性バイアスとも言う。結局銃撃戦なんてイベントのときだけだったし、たまーになんか派手な祭りやってんなくらいの気持ちでいこう、そう思った。

 

 

 

 そして数日後、マイ銃も手に入りホクホク顔である。一等星が輝くボディをベルトに付けて、腰の後ろに固定。うーん、カッコイイ。ベルトから外して鏡の前で構えたりポーズを決めたりした俺はニヤリと笑った。こんなに強そうな俺に喧嘩を売ってくるやつなど居るまい。せっかくなので一度行って覚えた中心市街にご飯食べに行ったりしようじゃないか。

 

 しかしその後1ヶ月ちょいで、フルフェイスヘルメット被った集団のコンビニ強盗に巻き込まれるとか、いかにも不良でござるみたいなロンスカスケバン集団にカツアゲされそうになるとか、メシ食ってたら急に変な女が海原雄山みたいなこと叫んで店が爆発するとか、建設作業員っぽい集団がただ今より温泉開発を開始する! とか意味不明なこと叫んだと思ったら建物丸ごと爆破されるとか……。

 

 寮周辺から遠くへお出かけすることを覚え、さらに強そうな銃装備に浮かれた俺はキヴォトスの素敵な治安を嫌というほど体感し、やや世紀末の風に染まりつつあった。

 

 

 

 

 

「ふしゅるー、ふしゅるるる…… ひんっ!」

 

 教室のイスに体育座りで持ち慣れてきた愛銃を抱き、周囲を警戒する俺の頬にペタペタと濡れた脱脂綿が触れる。傷に沁みた痛みとアルコールの冷たさで思わず悲鳴。

 

「あの、ワカナちゃんは一体どうしたんです?」

「今朝もまた何か事件に巻き込まれたようで……怪我は軽いかすり傷程度でもうほとんど治ってますけど、一応治療しておきます」

「なるほど……私絆創膏持ってるのでどうぞ」

 

 謎のキモい鳥*1リュックから取り出した謎のキモい鳥絆創膏をヒフミちゃんがセリナちゃんに渡す。セリナちゃんはそうですね、こっちのほうが可愛いかも、と取り出しかけた普通のピンク無地絆創膏を救急箱に戻してキモ鳥のやつを俺の頬にぺたりと貼り付けた。

 

 可愛い可愛いとキモい鳥に盛り上がるJK二人。お前らのほうが可愛いよ。鳥は可愛くないです。現世の小中高と違ってクラスメイトでも四六時中一緒というわけでもないのだが、人当たりの良さマックスの二人にはコミュ障ロリがあまりに頼りなく見えたらしく、構われすぎて今ではこんな感じである。

 

「……ちょっと朝メシ食いに出かけたら襲撃されたんすけど、治安おかしくないかな???」

「トリニティは正実や自警団の人がよく見回りをしているので、キヴォトスの中ではわりと治安が良い方だと思いますけど……」

「そうですね。私たち救護騎士団のお仕事も現場に出るばかりではなく、病院でのボランティア活動なども多いです」

 

 首を傾げる二人。ええ、なんで? やや正体不明感のあるセリナちゃんはともかく、ヒフミちゃんなんかいかにも不良集団に絡まれそうなのに。装備を整えようが見た目ロリで貧弱一般人に見えるのか、俺はめちゃめちゃ絡まれます。大体テンプレ不良みたいな奴はザコいので痛いの我慢して耐久任せに適当に突っ込んでショットガンバンバン撃てば制圧できるんだけど、痛いものは痛いのであんまりやりたくない。

 

「私はその、危なそうなところには近づかないようにしていますし、危ないことになったらペロロ様に助けていただいてその隙に逃げるので……」

 

 こいつは一体何を言っているんだ、イカれているのか? と思ったが、またキモ鳥リュックからなにか地雷のようなものを取り出すヒフミちゃん。投げるとキモい鳥バルーンが一気に膨らんでとても目立つ囮になってくれるのだとか*2。あととても可愛くてカッコよくて素敵だとか。いや、それはない。

 

 しかしキモい鳥……ペロロ様とやらの話をするヒフミちゃんは非常に情熱を持って、というかオタク特有の早口なので何も言わないでおいた。武士の情けである。藪を突かないだけとも言う。

 

「私の場合、救護騎士団に攻撃を仕掛けてくる方はあまりいませんので、参考にはならないかもしれないですね」

 

 そりゃそうよね。物騒な世の中でいつ世話になるかわからないのに医者を襲うやつはいない。救護騎士団の制服着てれば安全だろう。それでも“あまり”いない、なあたりが世紀末キヴォトスクオリティだが。そしてなぜかヒフミちゃんは何かを察したような顔をしていたが、他になんか理由でもあるのかな*3

 

「ただ、そうですね。ワカナちゃんのお話を聞くに、トリニティ自治区の外に結構出かけているのでは?」

 

 自治区の外……え、よくわかんないどういうこと? 寮の周りは確かにほぼ絡まれることないけど、そもそもそんなに人口がない。こないだ行ったトリニティのメイン市街は遠いので別方向のちょっと栄えたとこにも行ったりはするが、どこがどこの自治区とかあんまわからん。

 

「ええと、トリニティ自治区の中はそれなりに安全ですが、他の学校の自治区やD.U.*4との境界線上は、治安組織の所轄の関係などでどうしても治安が悪くなりがちです」

 

 そういうところに立ち入らないのがトラブルを避ける基本ですよ、なんて言うヒフミちゃん。はぇぇ、そんなんあるんだ。アホ面の俺にセリナちゃんが訝しげな顔。

 

「各学園の自治区の位置や境界なんて小学校と中学校の社会科の授業でやるはずですけど……」

 

 まさかそんな……。学力小卒未満なんてそんな馬鹿なことあるわけないじゃないですか。日本の地理なら任せてくれよ。キヴォトスとかいう異世界の話は勘弁な。苦笑いに冷や汗タラタラの俺に二人は察した顔である。

 

 いやその辺の話突っ込まれると困るんだって俺も。書類上かなり遠くの謎の小中を卒業したことになってたから、経歴だけはあるみたいなんだけど。なんでトリニティに入学できたのかもわからん。転生神的な奴のパワーだろうか。寮の自室のダンボールに書類一式きっちり揃っていたし入学手続きもバッチリ済んでいた。

 

「ワカナちゃん、そういえば朝のホームルームで寝てること多かったですね」

「この間は大聖堂での礼拝のときに寝息をたててました。私がポコってして起こしましたけど」

 

 そういやなんか聖歌を歌う時間だかにセリナちゃんに叩き起こされたな。周りの人クスクス笑ってたし。お恥ずかしい……。でも放課後は部活で肉体労働、夜はゲーム三昧なので昼間寝るしかないのだ。近未来の最新ゲームがすごくてやめられない。最初は勉強もまあまあ頑張ってたんだけど、こんなのあると分かって買うお金もあったらもう……ネ? 

 

「寝不足は健康の大敵です……!」

 

 そんな言い訳をすれば銃口の先の注射器が迫る。やめろやめろ何が入ってんだその注射器! 永眠しそうでこえーよ! ハイライト消して迫るセリナちゃんをまあまあまあとヒフミちゃんが押し留めてくれてなんとか事なきを得る。でも学生が夜更かし三昧なんてわりと普通じゃない? 

 

「あはは……それはそうかもしれませんけど、ちょっと色々心配になってきましたよ、ワカナちゃん。そろそろ定期テストもありますけれど、勉強は大丈夫なんでしょうか」

「勉強……」

 

 忘れちまったぜ、そんな言葉。問いかけるヒフミちゃんから俺はスッと目をそらし、窓の外を眺める。いい天気だぁ……実にお仕事日和だね。

 

「ワカナちゃん……。ヒフミちゃん、これはちょっと」

「そうですねセリナちゃん。しばらく一緒にお勉強会にしましょうか」

 

 頷き合う二人。やめてくれ。そのうちやるから。大丈夫だって。俺には俺のペースがあるんだ。やる気が出た時にやるのが一番いいんだ。

 

 すべての命乞いは無視され簡単にドナドナされる俺。こうしてPC室とか空き教室にノーパソ持ち込んだりとかでBD流しながらお昼寝を楽しむ時間こと授業時間*5はガッツリお勉強会に変更となったのであった。

*1
ヒフミさんが愛するペロロというキャラクター。モモフレンズのリーダー格でちょっとイっちゃった目とだらんと垂れた舌がチャームポイント。

*2
光るし踊るし回るしやたら硬い。モモ社脅威のテクノロジー。

*3
ミネが壊して騎士団が治す、で有名な救護騎士団団長・蒼森ミネは現在2年で既にバリバリご活躍中。

*4
District of Utnapishtim。連邦生徒会直轄地で、キヴォトスの首都のようなエリアや空港港湾、シャーレのビルなんかもある。恐らく各学校の自治区以外はすべてD.U.扱いで、江戸幕府の天領と各藩のような関係と思われる。

*5
体育や理系科目の実験など実習系を除けばすべて映像授業なので自由度が高く、堕落するタイプの人間はダメになりがち。




固有武器
ノース・スター
庭園部部長がワカナのためにデザインしたシックな印象のショットガン。

暗い夜に君が道に迷わないように。


戦闘力上がったら出そうかとも思いましたがいつになるかわからないので貼っときます。

ヒフミさんとセリナちゃんは名前の呼び方迷ったんですが二人とも仲良くなるとちゃん付けするタイプなので全員ちゃん付けにしました。

二人は喋り方似てて、片方さん付けにしてワカナちゃんワカナさんで呼び分けたほうがセリフどっちが言ってるか格段にわかりやすくなるなあというのがあって迷ったんですが、一人だけよそよそしい感じになるのヤダ!ってなったんで。
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