トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

50 / 62
50話 あまねく奇跡の一欠片

「ふんぎぎぎぎっ! どらぁ!!! ……あっ!?」

「ほら、気をつけて!」

 

 丸ノコくんで腹ぶち抜いたと思ったが、微妙に浅くて倒しきれていなかったらしい。

 デカイやつ、アンブロジウスが崩れ去りながらも振り下ろそうとした爪が宇宙爆発で上半身ごと消し飛ばされる。

 

「すんません!」

「疲れたなら一回下がって休んでいいよ?」

「だいじょーぶっす!」

 

 ミカ様は基本バルバラさんを出オチさせることに集中しており、処理が追いつかないザコの攻撃もほぼ全ての攻撃を捌き切っているのでダメージ自体はあんまり無いようだ。でも長時間油断できない戦いを連続することは神経をすり減らすようで、疲労の色が濃い。

 俺は正直あんまり大丈夫じゃないが、雑魚掃除をサボるわけにはいかないだろう。

 

 それにしてももう何体倒しただろうか。

 ハイレグねーちゃんたちは一度に出てくる数が多く、復活も早いので3桁超えて軽く4桁は焼いたんじゃねーかなという感触がある。

 それだけやってもまだまだわさわさ出てきて、尽きる気配はまるでないが。

 

 アンブロジウスは復活やや遅めだが2~3体セット出現するし後方で砲台やろうとするし近づくと爪振り回すしで実にめんどくさい。

 炎ばら撒きと床の残り火で出オチさせられるハイレグねーちゃんたちと違って、耐久も火力もまあまあるのでちょっとのミスで負傷がたまって非常におつらい。

 

 正実で長時間戦闘を継続する訓練みたいなのも何度かやったが、やはり訓練と実戦では消耗度が違う。先が見えない状態でひたすら戦い続けるのはマジでキッツい。

 本来、ガチの戦闘というのは短くて数秒、長くても5分もあれば決着が着くものだ。いかにスーパーキヴォトス人といえど全速力で動ける時間はそう長くない。銃で撃たれていてぇで済む防御力でも百発千発撃たれりゃ流石にぶっ倒れる。

 

 正実での訓練……というかツルギパイセンハスミパイセンとか強力なエース(ネームド)除いた一般メンバーで俺を倒せ! みたいなミッションでの有力な手段は持久・包囲・狙撃戦だ。

 まとめて蹴散らされないようにしつつ、分散して攻撃し続けとにかく休ませない、みたいな。

 

 今まさに亡霊軍団にそれをやられているわけだ。

 当然こっちとしてもそれを崩す手段は訓練で色々考えてやったわけで、手札はある。指揮官狙いの突撃首狩り戦術とか人質作戦とか地形破壊で迂回するとか。

 

 しかし今回はそのどれも使えない。指揮官の赤い女ははるか遠くだし、幽霊相手に人質もクソもないし、今回の任務は敵を後ろに通さないことなので機動戦というわけにもいかない。

 途中でミカ様に聞いたが、先生とリーダーちゃんが赤い女をぶちのめして姫ちゃんを救出するまで亡霊軍団を引き付けることが勝利条件。死ぬまで殺すとは言ったものの、残念ながら力押しで突破できる気配はさっぱりないので先生頼りだ。

 

「ふんぬっ!」

 

 ハイレグ集団のリスポンに合わせて炎を溜めて、両手でガツンと地面を突き刺し大爆発。

 至近距離でないと威力は激減だがハイレグ倒すには十分だし、全方位に炎を撒き散らせる便利技だ。

 

「げげっ」

 

 炎の壁を破って爪が迫る。表面焦がしながら突撃してくるアンブロジウス。至近距離でリスポンしてそのまま近接戦を選んだらしい。どうにか丸ノコくんの柄で受けるが体勢不利で押し倒される。

 なーんか地味に段々賢くなってるような気がするぞこいつら。バルバラさんもリスポン利用でミカ様に奇襲かけたりしてたし。全部見切られてたけど。

 

 力づくで押しのけて丸ノコくんを突き出し顔面を粉砕するも、ペアで出てきたやつが前衛ごと焼くつもりか炎弾の構え。

 こっちは甘んじて受けるしかなさそうだ。体力の疲弊、とっさの判断力の鈍り、おまけに弾薬も不足してきている。

 

 ミカ様とまたガチンコやるつもりだったから、弾は必要以上に大量に持ってきていた。しかし戦闘が長引きすぎて流石に底を突きそうである。

 弾数無限の丸ノコくんがなければとっくに素手喧嘩(ステゴロ)に移行していただろう。

 

 炎弾を翼でガードしていると、その間に後衛アンブロジウスに宇宙が刺さり爆発四散する。こっちの不手際の後始末をしてもらうことがどんどん増えててマズい。

 サンキューとハンドサインを送れば、問題ないよと笑顔で返しつつバルバラさんをぶん殴っているミカ様。

 倒したガスマスクから弾を調達していたようで、あちらも今のところ弾切れの様子はない。それに最初から徒手格闘混ぜて節約していたし、その辺しっかり計算しているのだろうか。

 

 ショットガンは炎と違って衝撃力があるため牽制に便利なのだが、それがやりづらくなってライフで受けながら突撃する場面が増えた。

 小傷が増え、体力が削られ、突撃の足が鈍り、さらにダメージが増える。

 

 完全な悪循環だが俺は遠距離の決定力に乏しいため、ちいかわ戦法*1を続けざるを得ない……。

 いや……水着? 水着なら遠距離に大火力投射が可能……脱ぐか? 脱いで下着姿ならイけるか? で、前衛は完全にミカ様に任せて半裸重爆撃マシーンになるべきか??? 

 

「ぬぉおぉぉぉ!?」

 

 ボケっとしてたらまた復活してきたハイレグ軍団にカンカン撃たれる。最初なら痛くも痒くもなかったが、ダメージ重なったせいか普通にちょっと痛い。

 急いで丸ノコくんを地面に叩きつけ、全方位ファイアーで殲滅する。

 

 危うく戦場で露出狂になるとこだった……! 文字通り血迷い! 

 下着で水着同等の効果があるかわかんないし、いけたとしても水着の粘性高めファイアーは速射性に難がある。四方八方から次々わさわさ出てくるハイレグ集団を焼くにはそんなに適さないだろう。現状維持しかない! 

 

「ワカナちゃん、本当に大丈夫? ちょっとくらいだったら私一人でもなんとかなると思うから、下がって休憩して……」

「ダイジョブっす!!!」

 

 死角にリスポンして襲いかかるバルバラさんとの格闘戦を素早く制して、顔面接射宇宙爆発でトドメを刺したミカ様が声をかけてくれる。

 冷静に考えたら普通にお言葉に甘えて休むべきなのかもしれない。もはや気力だけで動いている。

 

 でもだ。ミカ様も、バルバラさんを圧倒しているようで紙一重。細かい傷や汚れはいくつも見て取れる。

 それに手練との戦闘に神経を使うのはよく知っている。こちらを気遣うような笑顔だが、疲労は隠しきれていない。

 

 この人を一人にしたくないし、一人で居たくもない。前に出る。

 煌めく炎(こころ)は水のように溢れ流れ燃え盛り、爆発の時を待っている。

 

 瘴気が集う。小さなものがホールのそこかしこに。大きなものが後方に。中くらいのものがそれに紛れるように。

 息を整え、炎の剣を振り上げる。

 

「どらぁああああ!!!!!」

 

 地面に突き刺し、大爆発。まだまだ、まだ戦える! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふにぃぃぃぃ……うぎぎぎぎぎっ! ぐがぁあぁぁあぁあああああああ!!!!!」

 

 更に戦い、戦い、戦い続け、どれだけ経っただろうか。絞り出すように丸ノコくんを回し炎をばらまく。

 ホールに鳴り響く金属音も前よりやや鈍い。疲労がこんなとこにも出てきてるらしい。ハイレグすらうち漏らしが増えてきた。

 

 生存時間が増えたアンブロジウスたちの攻撃が激しくなり、ミカ様もバルバラを瞬殺するのが難しくなってきたようだ。やや持久気味に戦っている。

 それでも俺へのフォローを適宜飛ばしてくれるから頭が上がらない。どうにかそれに応えたい、応えたいのだが……。

 

 どうにも限界が近いようだ。もう無理感がすごい。軽いミス一つで雪崩を打って決壊してしまいそうな戦況。

 先生は、まだ来ない。やられちまったとは思いたくない、というかあのよくわからん“大人のカード”があって負けることはないだろう。赤い女がしぶとく粘っているのかなんなのか。

 

 まともに動けないので紙一重、頬を裂かれ翼を燃やされながらもアンブロジウスたちを砕く。

 ミカ様もガトリングの弾幕を受けながらも必殺宇宙爆発でなんとかバルバラを撃破。あちらも気持ち宇宙の煌めきが弱い。大きなダメージは無いようだが、傷や汚れが増えている。

 

 再びの出現に備え、呼吸を整える僅かなタイミング。

 次か、その次に来る波は耐えられないだろう。なにか手はないか……! 

 

「ワカナちゃん」

「なんすか……ぁあああああああああ!?

 

 唐突に襟首掴まれてぶん投げられる。ホールの先、通路にゴロンゴロンと転がり込んで、通路の天井に銃撃。

 ガラガラと天井が崩れてくる。先程の再現だ。なにすんじゃごるぁ!?

 

「ここまでほんとにありがとう。嬉しかったよ……こんな私でも、助けてくれる人達がいるんだって」

 

 積み上がる瓦礫の向こう、小さな声が不思議とよく聞こえた。

 

「約束破ってごめんね」

 

 でも、ここは私が守るから

 

 バカ! バカ! 超おバカ! 

 さっきの今じゃねーか! 一緒に帰るって言ったじゃねーか! あんたはいっつもそうだ! そんなんばっかりだ! 一人で、勝手に!!! 

 悟って生まれ変わったみたいにキラキラして見えたのも気のせいか! なんも変わってねーじゃねーか!!!!! 

 

「ぅぐっ……!?」

 

 さっきと同じに瓦礫を粉砕して再突入してやろうと思ったが、膝から力が抜けて立ち上がれない。

 手が震えて炎の剣も上手く持てず取り落とす。

 

 自分で思うよりはるかにギリギリだったらしい。すぐそばに居るのにそこまで行けない。

 ざわりざわりと再び亡霊たちが湧き出そうとする気配。このままではあの人は囲まれて、嬲られて……死?

 

 どうにか、なんとかしないと……! 

 この世界めっちゃファンタジーみたいな顔して、飲めば一発で元気になる回復薬みたいなのは無い。いや、コンビニで売ってるとかまことしやかに囁かれてるのを聞いたことあるけど、手元にはない。

 

 立てない。動けない。それでも何か……回復? 

 思い出す。洗脳食らった俺は自然にそれができていたはずだ。先生との戦闘では大体キャンセルされていたが、確かに。

 

 拒絶と抱擁の火。楽園の守護者の権能。

 敵対者を焼き尽くし、自らと守るべきものを癒やす煌めく炎。

 

 なんとか這いずって転がる炎の剣に手を添える。

 ナイフのようなノコギリ歯が僅かに回り、炎は出る。だが、これはいつものやつだ。

 

 回復、回復……! あの時はどうやって出していた? 

 恍惚と高揚に包まれていたあの時を思い出す。気持ち悪くてゲロ吐きそうだ。

 

 あの炎は、あれはなんだったんだ? 

 回る炎の剣が起こす火は使い手の精神性の影響を大きく受ける。先代の使い手だった部長の先輩は俺と同じような普通に燃やす炎。それより前には、回復の火を使う人も居たという。マネキン野郎がなんか言ってた。

 

 できるはずだ。なのに、できない。いつもの火がポツポツと零れるだけ。

 何かヒントは……コハたん? 回復と攻撃を同時に行っていた後輩の顔を思い浮かべる。

 

 全然関係ないかもしれないが今は手がかりはそれしか無い。あの子のメンタルなら出せる? コハたんメンタルってどんなだ? むっつりスケベか??? 

 エロいこと考えれば良いのか? この局面で!? 

 

 もうわけがわからない。ホールからくぐもった銃声が連続する。

 ああ、しょうもないご都合主義でもなんでもいい。お祈りの時間半分昼寝していたのを本気で謝る。死にたくないし、死なせたくないんだ。だから。

 

 神様、奇跡を……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、するりと回転刃が加速し、煌めく炎が溢れ出す。直感的に分かる。これは違う。

 いつもの獣の唸りのような威嚇する金属音ではなく、柔らかく静かな回転音。しかしいつも以上に大量の炎が生まれ、広がっていく。どこまでも。

 

 楽器を奏でるような優しい音とともに炎は燃え盛り、瓦礫の隙間を超えてホールに向かい染み込んでいく。溢れた分が逆流し、後方の通路も埋め尽くしはるか彼方まで突き進んでいく。

 

 最後の力を振り絞り、この身に残ったありったけ、すべてを注ぎこむ。

 体から力が抜けていく。微温いお湯に浸かったような暖かさに全身が覆われ、酷く眠い。ズタボロの体の傷が、ゆっくりと薄くなっていく。

 

 これでまだやれる……そう思う頭が霞がかっていく。傷は多少癒えても体力の限界だったらしい。

 ずっと遠くから、やや運動不足な駆け足の音が響いた気がした。前からはキラキラした銀河が回り爆ぜる音。そんなのを子守唄に、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぅあっ!? ぬぎゃーっ!!!」

 

 意識を取り戻した瞬間、体にかけられていた毛布をぶっ飛ばして起き上がり、全身筋肉痛に襲われまた布団に逆戻り。

 流石に体を酷使しすぎたらしい。翼にくるまり涙目になってひーひー言いながら痛みの波が過ぎ去るのを待つ。

 

 視線だけで辺りを見回すと、知らない天井……いや今度はほんとに知らないな。どこだここ。

 ごくごく普通の部屋……トリニティらしい豪華な感じはなく、横目にはぬいぐるみやファンシーグッズみたいなのもぽつぽつ置かれた、年頃の女子部屋って感じ。マジでどこ……?

 

 困惑していると、外からパタパタと足音が。そのままガチャリと扉を開けて入ってきたのは、誰? 

 なんとなく見覚えはあるような気はするが……。水色の長い髪に珍しいカワセミみたいな綺麗な羽。そしておっぱいがデッカい。

 

「目覚めましたかワカナさん」

「あっはい。ええと……」

「ああ、そうでした。はじめまして。私は蒼森ミネ。救護騎士団の団長を務めております」

 

 寝たままというのもアレなのでどうにかこうにか体を起こして、ベッド横に椅子を動かして座ったミネ団長と対面する。

 セリナちゃんから名前だけはわりと聞いていた。どういう人かはいまいち要領を得ないというか、尊敬できる人物ということしか知らないが。

 

「セリナからあなたのことは色々聞いているので、初めて会う気がしませんでした」

「そ、そうなんすか……」

 

 ビシッと背筋を伸ばして座り、しかし優しい笑顔で微笑むミネ団長。

 そんなセリフも相まって、なんというか友人の親御さんって感じの雰囲気。たぶん高3のはずなのだが、すげえ大人っぽく見えてなんだか気後れしてしまう。

 

「ああいや! そんなことはいいんだ! ミカ様は……!」

「ご無事ですよ」

 

 ハッと意識を失う前の状況に思い至り詰め寄るも、全く動じず即答される。

 笑みは変わらず、あの後救出のためアリウスに突入したという正実と救護騎士団を中心としたトリニティ部隊によりみんな無事に帰ってきているという。

 

 ミカ様は意識失った俺のことをぬいぐるみみたいに抱きかかえたまま先生と一緒にトリニティ部隊に合流したとか。

 その時イチカちゃんが撮ったという写真を見せてくれるミネ団長。間抜けな寝顔で若干涎垂らした俺が、ちょっと服は汚れてるが元気で笑顔のミカ様に抱えられている。……だいぶ恥ずかしいなこれ。

 

 ま、まあそれはともかく、良かったぁ。ミカ様マジで死にそうな雰囲気出してたもんな……。

 俺の最後の火がなんか役に立っただろうか。助けが間に合って本当に良かった。生きて帰ってこれたんならなによりだ。

 

 本当に久しぶりにあのキラキラした笑顔を見れて、それが最後だなんてあんまりにもあんまりだもの。

 神様ってやつは案外サービス精神があるらしい。今後はミサの時間とかしっかり起きていられるように頑張ろう。

 

 ……いや、そうじゃなくて。

 ミカ様も俺も、トリニティの人間はみんな無事だとして、じゃあそれ以外は? 姫ちゃんとリーダーちゃんたちは……? 

 

「えっと、それとなんすけど……」

「ええ。アリウススクワッドの方々……アツコさんという方も含めて大事はないと、先生から伺っています」

 

 会うことはできませんでしたが、と続ける団長。

 よ、良かった! 俺がこうして救出されてる以上あっちも大丈夫だったとは思ったが、確定されると安心感が違う。いやしかし。

 

「えっとその、なんというか。よく分かんないんすけど。あの子達はなんつーか……どうなったんですかね」

 

 よくわからんけど、なんかかなり悪いことをした感じな雰囲気を出していた。

 捕まってるんだろうか。捕まってたとして、どうなるんだ? 

 

「アリウスの一般生徒はトリニティで収容し私たちが救護しましたが、スクワッドの方々は行方不明……脱出し逃亡したようです」

 

 逃亡、逃亡か……。姫ちゃんと話したことを思い出す。トリニティの温室や花壇を巡り、果樹園を散歩して。どうやら、そういうことはできなさそうだ。

 ぐいとお腹を掴まれるような嫌な気持ち。

 

「アリウススクワッドは今回の件の主犯として手配されました。私含めトリニティ上層部はあちらの事情をある程度アズサさんからも聞いて把握しています。ですから本気で捕まえようというわけではなく、むしろ保護すべきと考えているのですが……ゲヘナ学園、他校も関わることですから*2。こちらで内々に処理ということもできません」

 

 救護が必要な方々を見過ごすしかない……忸怩たる思いです、と悲しげに目を伏せるミネ団長。

 セイア様をずっと守ってたって話もあるし……やっぱ救護騎士団のトップだけあって優しい人なんだなあ。

 

 それはともかく、ちょっと安心したな。悪い奴らだからあんな奴らのこと忘れろなんて、そんなふうに言われるんじゃないかともちょっと思っていたのだ。

 でもそういう感じならいつかそのうち、なんとかなるかもしれない。そうだな、希望を捨てるべきではないだろう。姫ちゃんとの約束を果たす日も、きっといつか……。

 

「そして……ミカ様については、現在療養中です。ですがさほどの怪我ではないので、近く延期されていた査問会が開かれるでしょう。そこで処分が決定されるはずです」

「処分……」

 

 そういえば退学確定だ~みたいな感じで、ずっとやけっぱちだったなミカ様。

 うぅん、どうにかならんもんなのか。キヴォトス(ここ)での退学はちょっと本気で重いからせめてそれだけは……。

 

「以前までならともかく、今のミカ様は随分と落ち着いた様子です。ナギサ様、そしてセイア様ともしっかり和解なされました。心配せずとも、そこまで重い処罰にはならないでしょう」

 

 眉根を寄せる俺を安心させるように言うミネ団長。あ、そうなんだ。こっちもなんとかなるんだ。それなら良かった。

 ティーパーティーとしての立場は失うことになるでしょうが、と続けるミネ団長。

 

 まあまあそこはね。でもなんならミカ様偉い人向いてねーだろみたいなとこちょこちょこあったし……。

 カリスマっつーか魅力みたいなのはあるけど、行動が基本ノリと勢い任せというか。いや人のこと言えたこっちゃないけどさ。

 

 ……ていうかあれ? 他人の心配の前に俺はどうなるんだろうか。

 世界を滅ぼす寸前? までいって投獄されて脱獄して……あれあれ? ヤバくね? 罪と言うなら俺が一番アレなのでは? 

 

「あの、そういや俺は……」

「いいえ」

「むぎゅ!?」

 

 それこそノリと勢いでダッシュして頭から抜けてたけどわりととんでもないことやらかしてるよな……。

 顔を青くしていた俺は、しかしミネ団長に力強く抱き寄せられる。

 

「あなたはトリニティで普通の生徒として過ごして、あなた自身にはどうしようもない生まれによって傷ついて、苦しんで……それでも誰かのために戦うことを選んだ。そんなあなたを誰が責め、罰することができるというのでしょう!」

 

 いや罪とか罰とかその前におっぱいで呼吸がッ! 死ぬぅ! 

 

「ミネ団長、ワカナちゃんが苦しそうですから……」

「あら?」

 

 ぶはぁ! いつから居たのか、気配もなく現れたセリナちゃんが団長から俺を取りあげる。

 ぜーぜー息を吸う俺を後ろから抱きしめるセリナちゃん。ミネ団長と比べると控えめだが、確かな柔らかい感触に安心感。

 

「失礼しました。それで、ワカナさんの処遇ですね。暫定的に隔離療養、ということになっていましたが……牢が壊れたのと、あなたの意識が平常に戻ったことから私のもとでしばらくの間は保護観察になります。不便でしょうが私と、それにツルギ委員長には常に居場所がわかるようにしてください」

「はい……え?」

 

 元気になったのに申し訳ないですが、と続ける団長。……そんだけ? 最悪地下深くに封印とかまであるのではとか思ってたが。

 クソ親父のメッセージ的にはとりあえず大丈夫そうな感じはするけど、それで納得すんの俺だけだしな。暴れない保証には弱いだろう。

 

「ご不満でしょうが、そこは堪えていただくしかありません」

「ああいや、全然大丈夫なんすけど……」

 

 そんなんでええんかと首を傾げていると、ベッドに腰掛けて俺を抱くセリナちゃんがポンポンと頭を撫でる。

 その度ぴょいぴょいとアホ毛が跳ねて反逆する感触。くるくると指先でアホ毛が弄ばれる。

 

「そもそも、調印式から今日までワカナちゃんが何をしていたのか知っている人があまり居ませんから。実際に被害が出たわけでもありませんし……それこそ内々で処理、ということですね」

 

 ちょっとスマホ貸してくださいね、と言われロックを外す。するとあんま見覚えのない位置情報共有アプリが入れられる。

 ミネ団長とツルギパイセンに、セリナちゃんも登録された。あとはスマホの電池切れにだけ注意しとけばいいということらしい。

 

「先生がミレニアムサイエンススクールで洗脳を防ぐ装置を開発してもらっているそうです。完成は近日中ということなので、それの受け取りが済めば本当にほとんど自由に過ごせるようになるはずです」

「えっマジで。そんなんできるの。はぁー、すごいねぇ」

 

 ミレニアム脅威の技術力ぅ……ですかねぇ。いやわりと意味分からんな。ゲマトリアの技術は結構ファンタジー入ってるレベルな気がするんだけどなんとかなるんだ。

 ドラえもんでもいるんだろうかミレニアムには。なんとなく、ちらっと見かけた気がするやたら長い自己紹介が印象的な車椅子の人物を思い出す。

 

 そんな感じで俺の処遇はそれで終わり。しばらく救護騎士団寮……このミネ団長の部屋で寝泊まりすることになるようだ。

 何かあればミネ団長とツルギパイセン中心に戦闘部隊が急行して“対処”するそうな。こわぁ。

 

 行方不明にならなければお出かけもわりと自由らしいが、しばらく大人しくしておくか……。

 調印式からこっちずーっと牢屋でうだうだしてたわけだし、挨拶回りというか生存報告というか……色んなとこに顔出す必要はあるだろう。しかしどの面下げて感がちょっとあるので心の準備をするにはちょうどいいだろうか。

 

 セリナちゃんが作ってくれたお昼ごはんを食べつつ、みんなの様子を聞く。

 調印式でゲヘナと戦争みたいになってたのの後始末がようやく終わって、みたいな感じだとか。

 

 俺は外部的には怪我で療養中ということになっているらしいので、そん時ゲヘナにつっかかってぶちのめされたみたいな認識になってるのだろうか。

 うーむ、若干不服。いやまあ洗脳食らってなかったら実際突撃して暴れて不毛に被害拡大した末にぶっ倒れてた気もするが……。

 

 ともかく、ようやくほんとに平和になったという所で、みんな元気にしているらしい。

 病院食風の薄味だが妙に美味しいセリナご飯、甘い卵焼きをかじりながらそんな話を聞いて嬉しくなる。

 ああ、ちゃんと帰ってこれたんだ。

 

「ほんとにもう……メモ一枚残して消えてしまった時は本当に心臓が止まるかと思ったんですからね?」

 

 そんなことを言えば、セリナちゃんに頬をブニブニされる。やはりあの書き置きはまずかったらしい。

 まあ何もなしよりはマシだっただろうが……。

 

「それはともかく、そういえばまだ言っていませんでしたね」

 

 お箸を置いたセリナちゃんがまっすぐにこちらを見る。俺も茶碗を置いてちょっと背筋を正した。

 

「おかえりなさいワカナちゃん。あなたが元気になって、無事にまた会えて、すごく嬉しいです」

「ん……ありがと、セリナちゃん。心配かけてごめん。そんで、ただいま」

 

 顔を見合わせて2人でほにゃっと笑い、そんな俺らの様子をニッコニコの笑顔で見ていたミネ団長に気づき、お互い顔を赤くした。

*1
血の気が多い可愛くない脳筋突撃戦法

*2
アリウススクワッドの現状はわりと謎だが、キヴォトスでの犯罪は自治区をまたぐと途端に面倒になる感じなので、ゲヘナトリニティの首脳をミサイル攻撃、の扱いがかなり政治的に厄介そうである。




ということで以上、最終決戦でした。雑魚散らし+ほんのり回復でミカのピンチ度下げ→先生への依存度ちょっと下げ、メンタルの柱が分散・安定という感じでしょうか。
本来ソロで耐えきったことを考えれば相当余裕があったはずですがその辺はまあリスポン速度とかで難易度調整されてた感じで……。

ラスト回復炎はたぶんスクワッドにも届いて、ちょっと元気にして送り出した感じです。
新イベアリウスが来るのでは?というサオリヒヨリPUがちょうど来たので将来的になんかやるかもしれませんがとりあえず描写することはなさそうなのでここに。

今回更新はここまでですが、次回以降知り合いに挨拶回りしたりミレニアムでアリスと遭遇したりしつつミカにアップルパイぶちこんでエンディング、という形になるかと思います。その後も最終編のアレとかイベスト的なのとかやるかもですが、ひとまず年内に一区切り付けられるのではないかと。

感想評価お気に入りここすき誤字報告等ありがとうございます。励みになっています。10評価が100こえてたりしてとても嬉しいです。
書いててやっぱり難しいなあとか展開変えればよかったかなあとかそういうのも色々あるんですが、まあキリのないことなのでとにかく一本形にできればと思います。エンディングまでもう一息、お付き合いいただければ幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。