トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
ミレニアムサイエンススクール。比較的新興ながら我らがトリニティ、そしてゲヘナと並び三大校と称される有力な学園だ。
その名の通り科学技術の研究に特に力を入れており、キヴォトス全土でもトップクラスの技術力を誇っている……。
って感じでウィキペディアとかにものってる情報くらいしか正直知らないミレニアムにやってきていた。例のやつができたと知らせを聞いて受け取りに来たのだ。
まあ正直おとーちゃ……ゲフン。クソ親父のモモトーク見るにもう大丈夫だろみたいな気持ちはあるんですけどね。対外的にというか、俺以外の人間に俺が暴れない保証を見せるというか、そういう意味合いでね、洗脳防止装置とやらはまあもらっとくべきかなと。
ミレニアムとは一応農機具輸入関連でここの企業のカタログもらったとかそんくらいしか関わりないし、実際来るのは初めてになる。
ああ、あとはゲーセンに導入されてるミレニアム製のゲーム遊んだとかそれくらい……。
旅行好きというか、いろんな自治区を巡って食べ歩き~とかやる生徒もそこそこいるらしいが、俺はそんなにトリニティから出たことがない。見知らぬところに出かけてく楽しみよりめんどくささとかが勝るっていうか……。
なので長距離列車にごとごと揺られて……実際は無音かつ高速のちょい近未来な鉄道だったのでそんなに情緒のあるものではなかったが、ともかくも若干緊張しつつこの地に立ったのだ。
先生経由で話は通ってるらしく、迎えが来てくれるそうなのだが。見ればすぐ分かる、という話。
トリニティの時代がかった洋風建築群とは全く違う、普通のビルみたいな校舎が立ち並ぶ中で周囲を見渡す。
そこら中を飛行ドローンが飛んでたり掃除ロボが動き回っている。うちで使ってるのより数世代先のやつっぽいなんか高性能そうな感じ。
白衣着てたりグルグル瓶底眼鏡かけてるいかにも博士ちゃんみたいな子たちが、呪文のような会話をしながら集団でガヤガヤ歩き回ってたり、かと思えばピッチリしたスポーツウェアに身を包んだ集団がすごい勢いでダッシュしてたり……。他校というのは本当に雰囲気が違うものだ。
さて……目をそらしていた方へと視線を戻す。指定された待ち合わせ場所のど真ん中、見れば分かると言われるだけはある異様。
夏の気配は遠く過ぎ去り、冬の寒さも忍び寄ろうかという秋の候である。いつもの制服にエプロンだけだと、日陰に入ったとき少し肌寒い、そんな時期に。
太もも丸出しの超ミニスカ、ミレニアム生の制服みたいなもんらしいジャケットは着崩してるってレベルじゃなく肩丸出し。
そしてなによりコハたんが即死刑宣告出すレベルの黒ビキニおっぱい放り出しスタイル。なんでド真ん中にジッパーついてんの? 授乳用なの? あ~ダメダメエッチ過ぎます! 寒くないのか?
痴女である*1。
まあ痴女であろう*2。
ハナコさんは言動はアレだが見た目は清楚系なので、一目で分かるタイプの痴女とは初めて出会うことになる*3。
どうすりゃいいんだ。いいおっぱいしてんねえ! とか小粋なセクハラから入るのが礼儀だろうか? 外交問題か? 何かを試されているのか? 社会実験的な???
反応に困りすぎて固まることしばし。ちょうど約束の時間になったからだろうか、スマホをいじっていた痴女の人が顔を上げ、キョロキョロと辺りを見回す。
目が合った。数秒こちらの姿を眺め、一つ頷くと痴女の人はこちらに向かってくる。もう逃げられない。
「大きな翼に、背負ったペロロ。あなたがトリニティの軽部ワカナ?」
「アッハイ」
「私は特異現象捜査部の和泉元エイミ。部長のところに案内する。ついてきて」
「へ、あ、はい」
ピンク髪はヤベー奴しかいないのか……と戦慄していた俺にさらっと事務的対応。エイミさんは言うだけ言ってさっさと歩き出してしまう。
案外まとも……まともか? いやまあ、ちょっと取っ付きづらい感じなだけで見た目ほどのヤバさはないのかもしれない。
ほぼ初対面で際どいセクハラかましてくるとかそういうこともないみたいだし。……まとものハードルが下がりすぎているだろうか。
つーか授乳ビキニでうろついてる時点で歩くセクハラじゃないか? ミレニアムの風紀はどうなってるんだ?
他校の風紀を特に意味もなく憂いつつ、スタスタ先を進むエイミさんを追う。
頭一つ分身長に差があるので追いつくのも一苦労……と思ったが案外そうでもなかった。アズサちゃんばりの無表情無感情に見えるが、意外と気遣いの人なのだろうか。
動く歩道やらエレベーターやらエスカレーターやら行きつ戻りつ上がったり下がったり、やたらと複雑な道筋を辿りながら進んでいく。
もう自力で帰れる気しねえな……とか思ってたらエレベーターの中でエイミさんが話しかけてくる。
「部長は、あなたのこと気にかけてる」
「……えっと?」
どういうアレだろうか。今回の件、特異なんちゃらの部長さんが俺のために洗脳防止装置を作ってくれるって事しか知らない。
先生の紹介だし滅多のことはあるまいと高を括っていたが、思えばミレニアムと言えばとりあえず製品に自爆装置を取り付けようとするマッドサイエンティスト集団*4である。
もしかして俺、これからナニカサレテしまうのだろうか? 多額の借金を作った覚えはないぞ? 弁護士はどこだ!
「ミレニアムには……あなたと似た出自の子がいるから。その子も今は普通に楽しくやってるけど、一時は本当に大変だったんだ。それに部長の友達が絡んでて……」
どうやら普通に真面目な話だったようだ。似た出自……キヴォトスでは案外人造人間が一般的だったりするのだろうか。
そもそもロボとか二足歩行の犬猫とか雀とかが普通に一般市民でございという顔してその辺歩いてるし……。
まあ、生徒はみんな普通に両親から生まれてきてるようなのでそんなことはないだろうが。
大体寮生活なので知り合いの家族と会うなんてことはないが、たまに聞くところによると特に変わったことはない感じ。
特別な生まれ。造られた命。何も関係ないなら心躍るワードが、今はなんとなくお腹にずしりと重い。
俺は俺だと決めたし、スッパリ割り切ったつもりではあるけど、心というのはそこまでシンプルにできていないのだろうか。その子も、何か重たいものを抱えているのだろうか。
「まあともかく、変なことしか言わないと思うけど悪人ではないから、部長」
それだけ、と言って再び黙り込むエイミさん。無表情で読みづらいが、その部長さんとの信頼のようなものが見える。
痴女スタイルから何から間違いなく変な人だが、悪い人ではないだろう。その人が信頼する人なら、その人も。
「先生さんの紹介なら、って感じだったんすけど……改めて、お世話になります。よろしくお願いします」
「私はただの案内だから。色々やるのは部長とヴェリタス*5、あとエンジニア部*6。そっちに言ってあげて」
「っす。ではそちらにも後で改めて」
バッサリなようでなんとなく気を使われているような、そうでもないような。不思議とそんなに気まずくない二人きりの移動が終わり、目的地に着く。
どことも知れぬ地下深く。サーバールームのような、大量のモニターやよくわからん機械がわさわさ並ぶ、冷却のためだろうこの季節なのに冷房でひんやりとした部屋で、俺はその人と対面した。
「直接会うのは初めてになるでしょうか、軽部ワカナさん」
曲線を主としたスタイリッシュで機械的な車椅子に座った、エルフ耳の女性。
白に近い灰の髪と瞳、そしてそれに合わせたコーディネートだろうか、服装もやたらと白い印象を受ける人だった。その人はにっこりと微笑んで。
「新雪のように高潔で清水の如く透き通るミレニアムの清楚な高嶺の花でありみなさんの憧れである“全知”の学位を持つ眉目秀麗な傾国の完璧Beautiful Girlにして超天才清楚系病弱美少女ハッカー明星ヒマリです。よろしくお願いしますね?」
こいつすっげえ変なやつだぜ!?
やりきったぜみたいなドヤ顔でこちらを向く謎エルフをエイミさんはジト目でちょっと見てからスルーして、部屋の隅に置いてあった冷蔵庫に向かう。
そして冷凍庫らしき棚をパカッと開けて大量に詰まっていたガリガリ君を一本引き抜きシャクシャクやり始める。寒くねえのかな……?
それはそれとして謎の長広舌にいつまでも固まっているわけにもいかない。ちょっとおかしいくらいがキヴォトスでは平常運転だたぶん。
称賛の声が聞こえませんね? みたいな疑問顔をしているヒマリさんに一応挨拶を返す。
「軽部ワカナっす。洗脳防ぐアイテムを作ってもらえたってことで……」
「ええ、正確には洗脳防止ではなく本来の機能へアクセスしようとする特殊な波長へのジャミングで……いえ、技術的な細かいことはいいでしょう」
なんか物陰から黄色い眼鏡の人が説明が必要でしょうか! とか叫びながら飛び出して直後にエイミさんに雑に押し戻されてた気がするが、誰も気にしてないので気にしないことにする。
「普段からこれを付けて過ごしていただければ、あなたに対する干渉は不可能になるでしょう」
ヒマリさんが取り出したのは、細い首輪……チョーカーってやつだろうか。
オシャレ上級者じゃないと身に着けられないタイプのアイテム……!
受け取って、しげしげと眺める。なんとなく高級感のある素材で上品というか、よくわかんないけどいい感じな気はする。
撫でたりさすったりしている俺を躊躇っていると見たのか、ヒマリさんは続けた。
「ご不安はあるでしょうが、あなたの心身の健康に害を及ぼすことはない……少なくとも意図してそうすることは決してないと、誓いましょう」
さっきまでおちゃらけ謎エルフだった人が、酷く真剣な様子で言う。
ああ、なるほど。全然考えてなかったけど、確かにこれが別口の洗脳装置とかだったらヤベーことになるな。
ミレニアムの科学力はキヴォトス1ィ~! だし変なもの仕込まれてたとしてもわからない可能性は高い。
まあ流石のミレニアムでもあのゲマトリアの技術を簡単に超えられる気はしないが。あっちはなんか科学ってよりオカルト入ってるし……。
「……え?」
「どうすかね」
似合うかな? 特に気負いなく、サラッと黒い革のチョーカーを首に巻く。
機械っぽさはないし厚みもないけど、中にはいろいろ入っているのだろうか。軽く撫でてみるが違和感はない。
「うん、いい感じ」
アイスの棒を咥えた痴女が無表情にサムズアップ。ファッション的な意味でエイミさんに肯定されるとむしろ不安になるんだが……。まあいいや。
先生の紹介でもあるし、ヒマリさんは直接戦ったわけじゃないからたぶんだが、あの時俺を助けてくれた一人だと思うし。クソ親父……よくわからんキモいマネキン野郎みたいな見た目でもなきゃ疑わないぜ。
「色んな人に助けてもらって、ここにいます。借りばっかりたまってどうしようって感じなんですが……」
「……いえ。誰かがそこにあることが罪だなどということは絶対に、誰にも言わせたくありません。だから、あなたも楽しく過ごしてくだされば、それがなによりです」
目を伏せて、マジな感じでそう言った後、それに報酬はトリニティや先生から頂く予定ですから、などと言ってニヤリと笑うヒマリさん。
なにか俺の知らないところで政治的ななんかが動いているのかもしれない。ほんとにね、どっか腕っぷしで働いて返せるタイミングがあればいいのだが。
「さて、話は終わっただろうか!? 終わったね! ではこちらの話も少し聞いてもらおう!」
「ぬぉっ!?」
物陰からさっきの黄色い人とともに紫髪の……なんかうさ耳っぽい謎の浮遊ユニットが頭上に浮いてる謎の人が出てきた。
ヘイローの一部……か? いやなんか違う気がするぞ。ヘイローは浮遊ユニットの間に普通のがあるし。
「彼女はエンジニア部部長のウタハさんです。ソフト部分は私が作成しましたが、ハード面に関してはエンジニア部にお任せしました」
「うん。餅は餅屋ということだね。機構としてはかなりシンプルな形になったね。非常に興味深い仕事だったよ。……少々、いや大いに心残りがあるんだが」
今からでもこっちにしないかい!? といいながらなんかデカイヘルメットを取り出すウタハさん。
チョーカーのプロトタイプかなんかだろうか。
「防弾・全天候対応は当然として高性能レーダーと頭部バルカン砲に小型ドローン射出装置も搭載した逸品だ! 自爆機能は当然デフォルトで付けてある!」
「オプションパーツでアイレーザーや頭頂部ドリル、口から火炎放射やミサイル発射機能を追加することも可能ですよ! お得!」
こいつら噂のマッドサイエンティストだ!
いやでも微妙に心惹かれるな。絵面最悪のロボヘルメット団だが、そういういかにもバカバカしいメカメカした感じ、嫌いじゃない……!
「全部却下して最低限の機能のみで作り直させたよ。普段遣いするものそんなゴテゴテさせるなんて合理性ゼロだよね」
排熱も最悪だし、といいながらマッド集団をべしべし隅っこに追いやるエイミさん。あぁあぁぁ~~~と情けない悲鳴とともに追いやられるマッド集団。
まあ、それはそうなんですけどね……。ロマンに惑わされてこっちにしますとか言ったら絶対後悔するやつだけど、頭部バルカン砲とか絶対役たたないやつだけど……!
隔離されていく紫マッドと目が合うと、彼女は不敵にニヤリと笑う。ロマンは不滅だ、そう言っているかのようだった……。
「……失礼いたしました。まあ、腕は確かなのです、彼女たちは。完成品のそちらには余計な機能はついていないのでご心配なく」
「あっはい」
首に巻いたチョーカーをいじって見るが、たしかに隠されたボタンとかはないし、特に秘密のコマンドで変形したりするような素振りもない。
安心安全なような、残念至極なような……。
「そして、謎のセールストークではなくこちらが本題なのですが……」
そう言ってヒマリさんが車椅子の手元のキーボードを操作するとわりとよくみかけるタイプのドローン、空飛ぶルンバみたいなやつがふよふよやってきた。
俺の右斜め後ろあたりで滞空して留まる。ミレニアムの最新式のようで、うちで使ってるやつのようにブンブン唸る音もせずごく静か。反重力装置かなんか使ってんの? みたいな。技術格差ぁ~……。
「一応、そのチョーカーが正常に動作しているかどうかモニタリングをさせてください。半日ほどそのドローンを連れ歩いていただければ」
「時間かかるかもって聞いてましたけど、そういうことですか」
「ええ、特別なにかする必要はなく、普通に過ごしていただければ大丈夫なので」
ゲーセンで遊ぶとかショッピングするでもよし、ミレニアム見学をするもよし、好きに過ごしていいらしい。
俺はどちらかというと未知の場所にわくわくするより安全なホームに引きこもりたい派閥。なんで近未来学園見物にそこまでテンション上がらないが、本場ミレニアムのゲーセンはまあまあ興味あるな……。
「お話は終わったでしょうか!!!」
さっきと違う声がまた物陰から飛び出してくる。やたら長い床に付きそうな……っていうか付いてるな。めちゃめちゃ髪の長い女の子だ。
ドでかいなんかよくわからない謎の機械を背中に担いでいる*7。
「アリスはアリスです! 私の妹のような人が来ると聞いて、とても楽しみにしていました!」
ロリっぽい雰囲気の割に結構デカいアリスちゃん*8がずずいと距離を詰めてくる。
おめえのような姉を持った覚えはねえ。いやマジで誰。心当たりがない。いや、俺と似たような境遇の子ってのが……?
それにしても近い近い近い。ほとんど抱きしめるような勢いで両肩に手を置かれる。
思春期の少女特有の……樹脂の匂いが香る*9。んんん? ガンプラでも作ってたのかしら。
「ああ、えっと……アリスちゃんは、そのぉ」
「アリスと呼んでください。そして、はい。アリスはロボットです」
軽っ。ニコニコしながら言うことじゃねえだろ!
俺の微妙な顔を見て、アリスは笑みを変えないまま言う。
「アリスはロボットで、勇者でメイドで、そしてミレニアムのゲーム開発部の部員です」
「……そっか」
よく分からんのが色々間に挟まってなにがなんだかさっぱりだが、とにかく大丈夫なのだろう。たぶんきっと色々あったのだろうけど。
「アリスは自分がなりたいものになっていいと言ってもらえたので、そうすることにしました。ワカナがもしそうでないなら私が言おうと思っていたのですが……」
あなたも大丈夫そうですね、という言葉に頷く。自分の居場所はちゃんとあるのだ。
「それなら良かった。では、憂いなくミレニアム観光に出発できます。アリスが案内しますから!」
人と変わらない柔らかい手に手を握られて……いや力強っ!?
ぐいと引っ張られる勢いのまま部屋を飛び出すことになった。
「それではワカナさん、いずれまたどこかでお会いしましょう」
アリスに引きずられながら、清楚に微笑むヒマリさんに別れを告げ、食べ終わったアイスの棒をガシガシしているエイミさんに手を振り返す。
待ってくれ体を調べさせてくれ、そっちの回転ノコギリも非常に興味深い、徹底検査、解剖、分解……謎の叫びや危険なワードも背中に投げかけられた気がしたが、ピシャッと閉じる扉に遮られて何も聞こえなくなったので気のせいだろう。
ということでそのまま半ばダッシュするような勢いでミレニアムの各地を巡ることになった。
ミレニアム最新とかいうクソ速揺れなしモノレールに乗り込んで、あの建物はなんとかであっちのはなんとかと楽しそうなアリスの話を聞きながら。ちょいちょい降りてはおすすめの所だという建物にも入る。
クソデカ3Dプリンターとかめちゃくちゃ大量のサーバーとかよくわからん機械がいっぱいあるとことか、アリスが俺を連れて入ろうとしたら普通に怒られたミレニアムの中枢ビルだとか、エナドリ箱買いしてる死んだ目の生徒がぞろぞろ並んでるヤバい売店だとか……。
ヤバいのは店ではなくこの学園自体か?
よくわからんけどアリスはやたらと顔が広いようで、どこに行っても色んな人に声をかけられた。そして俺を妹分だと紹介するもんだからなんかそういう扱いになりつつある。
次から次へと知らない人に会って話すという、陰の者には中々つらい状況なので俺も適当に流したのがよくなかったかもしれない。
写真とかめっちゃ撮られたし、アリスもノリノリでポーズするから一応JKとしてはノらざるを得ないし、SNS上でどうなってしまうのか心配である。
まあミレニアムの人とは普段交流ないし妹扱いでもなんでもいいんだが、終始こんな感じだったのがなかなかしんどい。アリスは記憶とか全然ない状態で稼働開始したそうで、非常に天真爛漫というか、近くにいると眩しくて仕方ないのだ。
一通り巡り終わる頃にはもうぐったりだ。肉体的にはさほどだがメンタル的に。近未来バリバリのミレニアムは綺麗だし面白かったが、やっぱなんとなく肌に合わない感じがする。
こうしてアウェイにいるとレトロ趣味のトリニティが恋しくなる。なんだかんだ、あの学園そのものがホームになってたんだなあと実感するばかりである。おうち帰りたい……。
「ワカナ、お疲れですか? もっと体を鍛えたほうがいいかもしれませんね。アリスは日々O-フィットアドベンチャー*10で鍛えていますよ!」
ドヤっとした顔で両手をぐいぐい押し込むジェスチャーをするアリスのほっぺをブニブニしておく。
あうあうする様が実に可愛らしいが結構毒舌というか、普通言いにくいようなことをわりとズバズバ言うところもあるので油断ならぬロボである。
「今更だけど、俺はちょっと……人が多いとこ苦手なんだよ」
「そうなんですか? ユズに似てますね。アリスは人が多いほうが基本好きですが」
ユズイズ誰。ともかくアリスは俺の要望を受けて目的地を変えたようだ。ビル街からちょっと離れた辺鄙なところに彼女の所属するゲーム開発部の部室があるらしい。
ミレニアムのゲームと言えば大型筐体の体感型みたいな未来っぽいイメージがあるが、ゲーム部はレトロゲーム専門なのだとか。
アリスが部室に置いてあるというタイトルを並べるが、パチもんとは言え俺の知ってる有名ゲームに似たようなのが大体あるようだ。
俺の体感的にはレゲーと言うかリアルタイムでプレイしたやつも混じってたりするが……とにかく気が合いそうな集団じゃないか。
最新作や未来っぽいゲームもいいもんだが、やはり青春時代を共に駆けたタイトルたちは格別だ。
まだ見ぬゲーム部員の人々にちょっとわくわくしながらアリスについて行く。最新技術の追求こそが主流のミレニアムでレトロゲーム趣味はあんまりメジャーではないらしく、やや場末っぽい雰囲気の場所にゲーム部の部室はあった。
「ただいまかえりました!」
「お、おじゃましまーす……」
「邪魔するなら帰ってー!」
「!?」
アパートの一室のような部屋に入り、声をかけた瞬間、関西のおばちゃんのような返答が即座に返って来る。
ビビった俺にずいずい近づいてくる影。アリスはさっさと靴を脱いで脇の洗面台に手を洗いに行ってしまう。
「ふぅん、この子が例のアリスの妹? あんまり似てないね……ていうかおっぱいデッカ! え? デッカぁ!? 私とそんなに身長変わらないのにこのおっぱいは何!?*11」
「ふぎゃっ!?」
玄関先で初対面の金髪猫耳になぜかすごい勢いでおっぱいを揉まれている。
なんだぁ!? また新手の痴女か!?
「ちょっとお姉ちゃんなにやってんのさ……ほんとに大きいね。胸だけじゃなくて翼も大きい。質感すごいな。私も触ってもいいかな。触るね。トリニティの人の翼って興味あったけど触る機会なかったから。つるつる滑らかなようでふわふわ……面白いな、こういう感触なんだ。付け根は腰の辺りで、服のスリットから出してるんだね……なるほど、こんな風になってたんだ。キャラデザの資料になりそう。写真とスケッチも残しておかないと」
ピンクの金髪猫耳に痴女られたかと思えば、それを咎めに来たと見せかけてもっとじっくり体中ねっとり触る緑の金髪猫耳。目の色以外は同じ顔、双子だろうか。
ピンクのパイ揉み継続に加え、緑に背中の翼穴から手を突っ込まれ、際どいラインまで怪しい手付きで撫で擦られる。なんか変な声出そう。
「や、やめっ! やめろォー!! このロリ痴女どもがッ!!!」
「痛ぁーッ!?」
「あうぅ……」
玄関先での双子コンビネーション痴女行為に流石にキレた俺は猫耳たちのデコに張り手かまして振り払う。
バチンバチーンとデカい音出すの重視でぶっ飛んで怪我とかしないようなやつだが、それなりに効いたらしく涙目だ。
「さっそく仲良くなったようですね。嬉しいです」
ハンカチで手を拭き拭き戻ってきたアリスがにこやかにそう言う。
俺は顔真っ赤に制服乱れまくりで事後状態、猫耳ツインズはおデコ真っ赤で涙目なんだが、どの辺に仲良くなった要素を見出した?
「さあさあワカナもこっちへ」
ダッシュで逃げるべきかとも思ったが、アリスに背を押されて洗面台へ。
お客さん用のコップどうぞなんて渡されて、手洗いうがいも済ませたら完全に帰るタイミングを逃していた。
「ミドリです。グラフィック全般担当してます。貴重な参考資料が目の前にあったからつい。ごめんね、ワカナちゃん」
「モモイだよ。企画、シナリオ、ゲームデザイン全般担当! アリスの妹なら私達の妹同然だし! おっぱいくらい揉ませるべきじゃん!?」
「何言ってんのお姉ちゃん」
室内に通され改めて互いに自己紹介。猫耳ツインズはよくみたら猫耳ヘッドホンツインズだったようだ。
謎のジャイアニズムを発動させた姉の方の頭をべちんとぶっ叩く妹の方。姉はやべーやつだが妹はまともなようだ。
……いや、まともかなあ。さっきのあれはちょっとなあ。
キヴォトスでよくいる一見まともそうに見えて実はふつーにやべーやつ案件なのでは……。
「モモイはおっぱい揉みたいんですか? アリスのおっぱい揉みますか?」
「私と変わんないちっぱい揉んでも楽しくないでしょーが」
ない乳を寄せて上げるアリスに呆れ顔のモモイ。いや、なんかおかしいな?
女子同士で乳を揉み合うのは普通なのか? ヒフミちゃんとかセリナちゃんとかハグ系統のボディタッチは多かったけど、そういう直接的なのする人はあんまりいなかったぞトリニティでは*12。
通された部室内は雑然という言葉がそのまま顕現したかのごときごちゃごちゃっぷり。
流石にお菓子や飲み物のゴミなんかの虫が出そうなものだけは片付けているようだが、ゲーム機やら着替えやらがボトボト落っこちているので足の踏み場もない有様。
3人はソファの上の物を適当に重ねたり、床に落ちたものをザッと隅に追いやってクッション置いて座るスペースを作ったりしている。
なんというか生活感にあふれている。トリニティでは、っていうかミレニアムも見て回ったとこは大体そういうのゼロだったから逆に新鮮である。
知り合いはみんな寮の自室もまあまあ綺麗にしてるし。……普通の女の子ってのはむしろこういう感じなんだろうか?
「では、そうですね……脱衣麻雀というのをやりますか? 前に先生とユウカを招待してやりたいと言っていた」
「それは麻雀のルールとコンビ打ちとイカサマのやり方覚えてユウカを丸裸にするプランが整ってからだよ」
何言ってんだこいつら???
唯一の良心っぽいミドリの方を見るも、ちょっとぽやぽやした顔をして特にツッコミはない。まさか先生を脱がした所を妄想して……? やはりヤバい奴らなのではこの集団。
「とにかく、ここはゲーム開発部! 勝負はゲームで決めるよ! アリスの妹を名乗るならゲームの一つもできないようじゃ認めないからね。私が勝ったらそのおっぱいを好きにさせてもらう! そっちが勝ったらユウカの太ももを好きにする権利をやろう!」
ユウカイズ誰ぇ……。つーか妹を名乗ってない。おっぱいを好きにしようとするな。ここにいない知らない人の太ももを勝手に賭けるんじゃない。
ツッコミどころ満載だが、さあ一緒に遊びましょうとワクワク顔のアリスにコントローラーを渡されて断れず。なんかなし崩しでゲーム勝負をすることになってしまった。
「ザコがぁっ! 百年はえーんだよ!!!」
「うぎぎ、ぐぐぐ……! ば、ばかなぁ! この私が、ぜ、全敗……?」
ぐはははは。なんかデカい口叩いたわりにモモイはやたらとゲームが弱く、普通に完勝してしまった。まあ、コントローラー握った年季が違うからな。
マリカー(っぽいの)とスマブラ(っぽいの)でボコボコにし、ぷよぷよ(っぽいの)で白熱したバトルの末勝利した。パズルゲーはそんなに得意ではないのでちょうどいい感じだったな。
モモイはどちらかと言えばアクション得意なようだが全般的にあんまり上手くない。ミドリはアクション苦手気味だがパズルゲーだけやたら上手くぷよぷよは普通に負けた。
アリスは全体的に普通に上手いって感じだが動きが素直なので勝ちやすい。こちらもぷよぷよだけ負けた。
「トリニティのお嬢様がなんでこんなゲーム上手いのさぁ! おかしいじゃん!」
「いや別にお嬢様じゃないし……」
「ゲーム好きだと先生に聞いていましたが予想以上です。姉として鼻が高いですね……!」
ミドリの膝にすがって嘆く敗北者モモイとソファに座る俺の後ろに立って後方姉面するアリス。
どうもこれまで末っ子ポジションで定着していたらしく、姉ポジションが羨ましかったようだ。
「おし、そろそろいい時間だしお暇しようかな」
外はそろそろ真っ暗だし、途中で観測ドローンくんも帰宅している。
最初はだいぶアレだったゲーム部だが、久々にガッツリ対人戦できて楽しかったのでよしとしよう。
「あぁ!? 勝ち逃げする気!? 許さないよ! 次はマリパやろマリパ*13! これなら勝てる気がする! 金鉄*14でもいいよ!」
「運ゲーに頼ろうとするな! しかもクソ時間かかるやつじゃねーかやだよ! また今度な!」
ミレニアムに来て直接遊ぶってことはそんなにないだろうが、ゲムガSP*15のフレコ*16も交換したので熱帯*17はできるし、まあよかろう。
トリニティではそんなにガッツリゲームする人がいないので貴重だ。
「くっ、仕方ない……こうなれば最終手段だ! クイーン! お願いします!」
「……?」
あらぬ方に向かって叫ぶモモイ。クイーン? なんだ?
しばしの間。……何も起こらないまま無言の時がすぎる。
「へんじがない。ただのろっかーのようだ」
「モモイのさけびは、むなしくこだました!」
「……えっと、じゃあ俺帰るね」
特に押入れに猫型ロボットが潜んでいるとかそういうこともなく、ミドリとアリスも特にフォローなし。
モモイくんを助ける者はいないようだ。
「可哀想な子を見る目をするんじゃなーい! ここに! いるの! 我がゲーム開発部最強の戦士、UZQueenがっ!」
「そっかそっか、じゃあまた今度な。アリス、今日は楽しかったよ。ありがとな。夜番の時とかもあるけど基本日が暮れてからは暇してるから、対戦したくなったらモモトークくれ」
「はい、それではまた一緒に遊びましょう!」
部室の隅に置かれたロッカーを謎にバンバン叩くモモイを無視してアリスに借りてたコントローラーやらを返し、荷物をまとめて帰宅の途につく……。
「むううううん!!! もう! ユズ! ぽっと出の末妹に完全敗北なんてゲーム開発部の沽券に関わるよ! ほら、出てきてったら!」
完全敗北したのはお前だけでほかは大体1勝2敗くらいだが……。
叫びながらロッカーをこじ開けようとするモモイ。何やってんだコイツ。
……いや、よく見ればロッカーの上にヘイローが浮いている。
中に、人が入っているのか!? 数時間ずっとゲームしてたが人の出入りはなかったぞ!? 途中トイレとかも行ったけどそれにしたっておかしい!
一体、何が出てくるというのだ……!
「……そうだね。負けたままなのはあんまりよくない、かも」
ギギィと開いた扉の隙間におデコが輝く。
伏し目がちの瞳には闘志が宿っている。
強者特有の雰囲気はまるでないか弱い姿。だが、それは擬態だ。
「へ、へへ……震えてきやがったぜ……。武者震いが止まらねえよ……!」
「対戦、よろしくお願いします」
かつてやり込んだ格ゲーのシリーズ最新作。手も足も出ず秒でストレート負けだった。嘘でしょ? 強いにしてもここまでってことある?
何度も再戦するもいずれもストレート。多少くらいつくこともあったが魅せプかなんかみたいな華麗な逆転負けを食らう。
「へっへへーん! 思い知ったか! ゲーム開発部の強さを!」
「おめーの手柄じゃねえだろうがバカ!」
なんかこの数時間で相当気安くなったモモイをぶっ叩き、テレビ前のクッションに座るユズの前に正座して頭を下げる。
完敗だ。背筋を正すしかない。
「正直、センスはあんまりないけど地道な練習の跡が見られる良いプレイでした。ただ、不利になると超必ブッパで打開しようとするのは悪い癖。読まれるブッパはただのおやつです」
「はい、ありがとうございますクイーン。精進します」
「そ、それはやめて……」
モモトークの交換なんかも済ませたし、あとはゲーム部の部員はみんなシャーレに所属してて、シャーレの休憩室もゲーム機類で占領しつつあるとか。
先生が持ってきてる“外”の世界のゲーム……彼女たちから言わせればちょっとパチもんっぽい、俺や先生からしたら本物のゲーム類もやり込んでるとかいう話も聞いたので、そのうちそっちも一緒にやろうと約束し俺はゲーム開発部の部室を後にした。
ということでミレニアム回でした。
ビジュアル的な趣味とAC4fa的な趣味とケルビムに混ざってる動物にライオンがいて聖ヒエロニムスのライオンとかいうキリスト教エピソードがあるとか色々複合要因でこれはもう首輪つけるしかないなってのが結構前からあったのでワカナちゃんは首輪付き獣になりました。
あとワカナちゃんの設定を盛っていく過程で段々アリスと被るとこ結構あるな……ってなってきたので絡ませたいなあと思ってたんですが、エデン条約編はミレニアムとの絡みほぼゼロなので最後の最後にちらっとこんな感じに。
ヒマリも対ワカナ戦を総力ガチ編成に寄せると確定→境遇的にアリスと重ねそうみたいなのもあったのでやっておきました。人情エルフなのでそういう感じになるだろうなあということで。総力戦とかでもAC6の車椅子タンクにもお世話になったので出したいから出すぞみたいな回でもありました。