トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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53話 溢れ出す存在しない未来の記憶

 ミレニアムから帰宅してしばし。やっぱりこっちが落ち着くね。まあほんとに慣れ親しんだ寮の自室にはまだ帰れてないんだけど。

 とはいえミネ団長の寮室も別に居心地が悪い訳ではない。

 

 実は結構偉いらしいし、育ちの良さみたいなのがそこかしこに見える人ではあるんだけど、わりと庶民派というか。高価な調度とかじゃなくてファンシーグッズ的なのが部屋の中のそこそこの割合を占めてるし。

 かといって部屋がピンクに染まるみたいな感じではなく、基本は落ち着いた実用重視な雰囲気というか。必要なものと趣味のものの配分がなんとなく俺の自室と似てるので親近感が湧くというか。

 

 ミネ団長、俺のウェーブキャットさんデカ抱き枕やウェーブキャットさん柄猫パジャマに興味津々だったりもするし、妙に気が合うところがあるのかもしれない。

 まあ色々しっかりしてる団長に比べて大体雑な俺なので、そんなこと言ったら一緒にするなと思われそうだが……。

 

 ともあれ、そんな団長との生活もそろそろ終わりだ。

 ミレニアムで専用装備をもらって、暴走の心配はひとまずなしということになり晴れて保護観察処分も終了。以前と同じ生活にようやく戻れることになる。

 

「短い間でしたが、少し寂しくなりますね……」

「俺も、なんか思いの外居心地良くて長居したくなっちゃいましたが……流石にそろそろ帰らないと。忙しいかと思いますが、今度セリナちゃんやハナエちゃんも誘ってどっか遊びに行きましょう」

「ええ、普段は救護騎士団の活動に専心していますが、たまには息抜きも必要ですしね。近いうちに必ず」

 

 この後はティーパーティー、ナギちゃん様とお話してから正式に保護観察処分を解かれ、自由の身になる予定だ。

 俺の身元引受人みたいな感じだったミネ団長とツルギパイセンからの許可もさっさと出てる、というか全体的に形式的なもんだったようだ。ともあれツルギパイセンの方にも後で顔出さないと。

 

「それではワカナさん、困ったことがあればいつでも頼ってください。救護が必要な場に救護を。それが私の、私達の信念ですから」

「ありがとうございます、ミネ団長。騎士団にはもうだいぶお世話になっちゃってますけどね」

 

 今生の別れか? みたいなノリで固くハグしてくる団長を抱き返して、お互いに背中をぽんぽんして笑顔で別れた。

 団長を迎えに来ていたのか、いつの間にか室内に居たセリナちゃんともなぜかハグして、ついて来ていたらしいハナエちゃんとも流れでハグした。

 

 サッカーの試合でゴールでも決めたのか? ハナエちゃんはよくわかんないけど楽しそうだし、みたいなノリだったが俺も何もわからない。

 団長とは身長差の関係で呼吸困難アタックになるし、ハナエちゃんとは俺のがちょっと低いくらいだから乳合わせになるしで朝からおっぱい祭りである。

 なぜかもう一回セリナちゃんにハグされた。うむ、程よいサイズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごきげんよう、ワカナさん。ミレニアムでの特殊装備の受領は無事に済んだようですね」

 

 ティーパーティー所有の校舎のバルコニー。一応手続き等はあるものの、基本的には決定事項の通達。

 ナギちゃん様本人でなくとも、部下の人が書類何枚か俺んとこ持ってきて手続きすれば終わってた状態。

 

 それでもこうしてお茶会が開かれたのは、お互いの近況報告を含めて、純粋にお話したいという気持ちが双方にあったからだろう。

 ミカ様はまだ移動や面会すら自由にできない身の上。ナギちゃん様から様子を聞きたいというのは大いにあった。

 

 むしろ書類関係の用事のほうがおまけで、いつかの圧迫面接なんかとは違う至極穏やかな空気でお茶会が始まる……はずだったのだが。

 

 大きめの丸テーブルの一角から暗黒の瘴気が放たれているような幻視。

 いつもの豪華なマイ椅子に座り紅茶を嗜むナギちゃん様も、伏せた目蓋がなんとなくピクピクしている気がする。

 

「ごきげんよう、軽部ワカナさん。シスターフッドの代表を務めております、歌住サクラコと申します」

「は、はぃ。よろしくお願いしますぅ……」

 

 もちろん、ご存知ですわよね? みたいな微笑み。言うなればヤク○のメンチと一緒である。

 威嚇、威圧の軽いご挨拶(ジャブ)。俺みたいな貧弱一般人は震え上がるしかない。

 

 いやまあ喧嘩したらたぶん勝てるんだけど、そういう問題じゃないのよ。雰囲気が明らかにカタギじゃないもんこの人。

 マリーちゃんからは真面目でいい人みたいな話聞いてたけどさあ、真面目ってこの場合一度獲物を捕らえたら絶対逃さないとかそういう暗黒街系のニュアンスじゃない? こえーよ。

 

 当のマリーちゃんもティーパーティーの人に混じって給仕役をしていたりするんだけど。紅茶淹れてくれたぜ。たぶんお高くて美味しいやつだと思うけどこの状況で味よくわからんよ……。

 そんな感じでマリーちゃんもこっちがサクラコ様にビビりまくってるのを察して困り顔だ。

 

 さらに問題としては、今朝なぜか感動の別れをしたはずのミネ団長も普通にここにいることである。

 いや、うん? なんで? まあ団長は優しいしちょっと仲良くなったし別にいいけど、ほとんどナギちゃん様との個人的なお茶会みたいなノリって話じゃなかったっけ? なんでトリニティ3巨頭会談みたいになってんのこわ……。

 

「先程ぶりですね、ワカナさん。来る予定ではなかったのですが、サクラコさんも来ると聞きましたので。お二人にいじめられていないか心配になりました」

 

 ストレートぉ! 団長基本いい人なんだけどそういうとこあるよね! 歯に衣着せねえっていうかさあ! 

 ナギちゃん様の顔色悪くなってきたしサクラコ様も笑顔でマガジンマーク*1飛ばしまくってるよぉ! 

 

「いじ……この会は本当にそういうものではないのですが……」

 

 ナギちゃん様が微妙に頬を引きつらせながら反論する。うん、まあ俺は分かってるんだけど。

 ミネ団長とサクラコ様はしらーっとした目でナギちゃん様を見ている。し、信用ねえんだなこの人……。

 

「まあ、悪意の有無は問題ではありません。今回お邪魔させていただいたのはワカナさん、あなたのお考えを聞かせて頂きたいと思ったからです」

 

 マリーやヒナタから話は聞いていましたが、いい機会と思いましたので、とサクラコ様が切れ長のルビーの目をこちらに向ける。

 俺の考えと言われましても。今晩のご飯と明日の下着のことくらいしかないぞ。

 

「今回の一連の事件でティーパーティーは大きく影響力を落としました。ミカさんは退学処分は免れたとしてもティーパーティーとしての立場を維持することは不可能でしょう。セイアさんは……」

「以前と比べたらお体はとても良くなられました。ただ、激務には未だ耐えないでしょう」

 

 職務に復帰するにしても、段階的になるかと。サクラコ様の言葉にミネ団長が続ける。

 うん、なんかよくわからんけどトリニティ上層部が色々大変らしいというのは聞いてた話だ。でも俺あんま、てか全然関係なくない? 俺がいないとこでするべきじゃんそういう話?

 

「言ってしまえば、落ち目のティーパーティーが、固有の武力と伝統的権威を備える庭園部を引き込むことでの再起を図っている。そう見えてしまうのですよ、今回の件は」

「へぇあ!?」

 

 えぇ、なにそれは。うちはなんというか普通の果樹農家なんでそういうのちょっと全然意味分かんないっていうか……。

 古くからある部活だってのは聞いてたけどさあ、リンゴ農家に権威もクソもっていうか……。

 

「庭園部のリンゴ園は、トリニティ成立以前から存在する一つの聖地とも言えます。その管理者にも、ある種の神聖を感じるというのはさほどおかしな感覚ではないでしょう」

「古くから続いているということはそれだけで一つの価値を生む。そういうことはありますね」

 

 おかしいよぉ! なんか変なこと言ってるサクラコ様にミネ団長も同調する。

 ナギちゃん様も特にツッコミはないようなので、なんだ? 間違ったことを言ってるわけではないとでも言うのか。

 

「ユスティナ聖徒会の時代にも、リンゴ園は不可侵とするという古くからの盟約があったようですから、我がシスターフッドとも無関係とは言えません」

 

 あ、それで居たのあのハイレグさん達……いやでもだからなんだってんですかよ。そりゃなんか去年部長と倉庫入った時ふるーい契約関連の書類とかが魔導書みてえな本にまとまってんのもチラッと見たけどさあ。

 そんな昔の話まで把握できないし責任持てないっていうか……。直近の業者さんとの取引契約くらいだよ把握できてんの。

 

「私は、ワカナさんを政治的な問題に巻き込むつもりはありません。……間違いなく向いていませんからね」

 

 何かを思い出すように斜め上を見ながら呟くナギちゃん様*2。そうだそうだ言ったれ言ったれ~! 面倒はゴメンだぜ! 

 

「あなたはそうでも、あなたの派閥の方はそうではないでしょう、ナギサさん。ティーパーティーの権威を取り戻したいと考えている方は多いのでは?」

「それは……」

 

 秒で負けるナギちゃん様。もうちょっと頑張ってくれ。部下の統制くらい完璧だぜとか言ってくれ。

 というか結局なにが言いたいんだよサクラコ様はよぉ~!? 

 

「あなたに政治参加の意思があるのか、ということだと思いますよワカナさん。正当な権威とツルギ委員長に次ぐ武力を備えたあなたは、今のトリニティでは人を集めまとめ上げる旗頭になりうる。ナギサ様の支援もあればある程度の勢力を築くことは不可能ではないでしょう」

 

 ミネ団長がそう言って、サクラコ様も小さく頷く。

 いやいやいや、ないないない。そもそも俺はその、アレだし……。ぶんぶん首を振る俺にミネ団長は微笑む。

 

「手続き上の不正があったことは確かですが*3……あなたの出自についてはトリニティ上層部では把握しています。私が保証し、先日改めて正式に生徒として認められました」

「そもそもあなたはトリニティに伝わる神器の一つ……回る炎の剣の所有者であり、担い手として認められた者でもある。古い権威の象徴としてこれほど分かりやすいものもありません」

 

 サクラコ様の暗黒微笑もこちらに向けられる。

 なぁに!? なんなのぉ!? 怖いよぉ! これが位打ち*4ってやつなのぉ!? 

 

「もちろん、これは今だからこそ……ティーパーティーの権威が失墜し、政治的混乱が生じているからこそ、新興勢力が立つ目があるというだけのこと。平時ならばお話にもならないでしょう」

 

 いやぁ乱世乱世ってやつですかね。なんというか、その辺の感覚からちょっとよくわかんないんだよね、権威が失墜とか。

 なんか大変そうだなあ以上の感想が出ないというか。たぶん一般生徒みんなそんな感じだと思うんですけど。

 

「……つまりは、このトリニティの政治的混乱冷めやらぬ中で、さらに波風を立てる可能性があるあなたに釘を差しに来たのです。ティーパーティー、シスターフッド、そして救護騎士団……新たな三頭体制がようやくある程度形になってきたのですから、これ以上掻き乱されてはたまりません」

 

 俺のよく分かってない顔で色々察したのか、単刀直入に分かりやすく言ってくれるサクラコ様。

 最初からそう言ってくれ。そもそもそんな立てよ国民みたいなのできる気もやる気もないっすよ。向いてない向いてない。

 

 首をぶんぶん振る俺にサクラコ様はようやく一息ついて、優雅な所作でケーキを一口。

 あ、ダークオーラが消えた。すげえ幸せそうに甘いもん食うなこの人……。

 

「さて、それはどうでしょう。志ある方の参画はむしろ好ましいと考えますが」

「!?」

 

 何いってんだよ団長ぉ! いやまじで急に何を言い出すの? 

 サクラコ様のダークオーラが一瞬で復活したし、ナギちゃん様もマジかよこいつみたいな顔してんじゃん。

 

「トリニティの三頭体制はそもそもトップ同士が互いに監視し合い、一勢力の暴走の抑止とするもの。様々な外的要因もあったとはいえ、今回の件はその一角が崩れたことがそもそもの発端と言えるでしょう」

 

 結局なにがどうなってそうなったのか詳しくは把握してないんだけど、セイア様の“死”から色々タガが外れたみたいな話だったっけ。

 んでそのセイア様を匿ったのがミネ団長……なにか思うところがあるのだろうか。

 

「不向きな方を、無理に担ぎ出すようなことをすべきではないと思いますが」

 

 そうそう。ダークオーラ強いけどそこは完全同意ですよ。

 

「誰かのために身を投げ出して戦うことを選べる心延え、率直で好ましい人柄。新たなトリニティに必要なのはむしろこのような方ではないかと私は思います」

 

 やめやめろ! なんだその……そんな風に思ってたんすか? 顔面に血液が! 

 別にそんな綺麗なもんじゃなくてノリと勢いで生きてるだけなんすけど……。

 

「人柄だけで(まつりごと)はできませんよ。ミネ団長」

「理想は掲げ続けねば、妥協と腐敗で崩れ落ちるだけ、私はそう思いますが。サクラコさん」

 

 うわぁすげえバチバチしてる! 交わした視線で火花が散るのが見えるようだ……。

 ナギちゃん様は顔色クッソ悪くしつつ悟ったような顔で目をそらしてるしよぉ。もしかしてこの二人いっつもこんな感じなんですか? ホーリーナイトとダークプリーストで同じ天は仰げないんですか……? 

 

「私としては一般生徒としてこれまで通り穏やかに過ごされることを望みます。正義実現委員会として政治活動には一切関わらないツルギ委員長や、歴代の庭園部の方々のように」

「……まあ、本人を置き去りにして盛り上がっても仕方ありませんね。ワカナさん、あなたがこのトリニティを良い方向に変えたいと望むなら、私もナギサ様も支援を惜しまないでしょう。それだけは伝えておきます」

「勝手に巻き込まないでほしいのですが……私も基本的にはサクラコさんに同意します。楽しいことはあまりありませんからね、偉くなるというのは。もちろんワカナさんが本気だというなら助力はしますが」

 

 いや、もうほんと勘弁してください。むつかしい話は分かんねえんだ。

 首をぶんぶん振る俺にサクラコ様は満足げに頷いた。それはそれで怖いリアクションなんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だいぶ話がそれてしまいましたが、本題に戻りましょう」

 

 ナギちゃん様がジトっとした目で話しそらした下手人二人を見やるが、サクラコ様は話は済んだとばかりにスイーツパクパクモグモグしてるし、団長も優雅な所作で紅茶を楽しんでいる。

 うーん、強い。

 

「まずは、ワカナさんの保護観察処分について。先生からも色々とお話をうかがいましたが、ミレニアム製特殊装備の受領をもって終了となります。正直な所、私の理解を超える部分も多かったのですが……」

 

 実際ね、わりとオカルト入ってるというか、クソ親父関連はちょっと意味不明が過ぎるとこあるから仕方ないね……。

 事務官の人が差し出してきた書類を斜め読みしてサイン。これで正式に自由の身ということらしい。

 

「まあセイアさんも問題はないと判断したようなので、この話はこれで終わりということでいいでしょう」

「うん。ワカナの暴走の危険はもはやないと言っていいだろう」

「うぉっ!?」

 

 俺の横からニュッと出てくる狐耳がナチュラルに返事を返す。

 だいぶ前に遠目でちらっと顔見たことあるだけ……あとパンフに写真のってたっけ? まあそんくらいなので自信はないが、この人がセイア様のはず。

 

「ごきげんよう、セイア様。お加減はいかがでしょう」

「ありがとう、ミネ団長。今日の体調はかなりいいようだ。お陰で少し寝過ごしてしまった」

 

 突然現れたセイア様に、マリーちゃんがちょっとわたわたしながら椅子を追加したり紅茶淹れたりしている。

 セイア様はごく自然にそれを受け入れる偉い人ムーブ……っていうかまた場の偉い人濃度が上がったぞどうなってんだ。

 

「やぁワカナ。うん、顔色はいいね……瞳も澄んでいる。君も元気になったようで安心したよ。一時は見ていられないほどだったからね……」

「ふぇぁ!?」

 

 真横に座ったセイア様がなぜか俺の頬を挟み、至近距離から顔を覗き込んでくる。

 近い近い近い! ほとんど知らない人の顔がいい! やや茫洋とした金の瞳が! やたらいい匂いがする! 

 

「……ん? 君とこうして話すのは何度目だったかな。少し前まで夢と現実の境が曖昧だったのでね。記憶が定かでない」

「初対面だよ馬鹿野郎!」

 

 鼻がくっつきそうなほど近いセイア様をどうにか押しのけて椅子ごと離れる。なんなんだこの電波ちゃんは!? 

 そして思わず飛び出した罵倒に周囲の事務官さんの一部が殺気立つ。セイアちゃんファンの方!?*5 勘弁してくれマジで! 

 

「おや、そうだったかな? まあいい。すべて君にとっては明日の出来事だろうが……私にとっては、つい昨日のできごとさ」

 

 クスクスと笑いながら離れた分の距離を詰めてくるセイア様。

 いやなんでだよ! 周囲を見渡しても団長はニコニコしてるしサクラコ様はひたすら食ってるしナギちゃん様は目をそらして紅茶を飲んでいる。助けろ! 

 

「君の火が世界(キヴォトス)を滅ぼすのを何度も見たよ。未だ到来しない不可解な滅びとはまた違う……単純至極な暴力による破壊。選んで焼く炎は選ばなければ何もかもを燃やし尽くす浄火だ。焼け焦げた地平に立つ君は、本当に悲しい生き物だった」

「は……? な、なにを……」

 

 微妙に瞳孔開いた目でじっとこちらを見つめる金髪ロリ……微妙に属性被ってんな。言葉にすれば同じ金髪でもあっちはサラッサラのロングでこっちはパサパサくせっ毛ショートだけども。

 いやそんなことはどうでもいいんだコイツ何言ってんだ意味がわからない分かりたくない怖い。

 

「セイアさん。ワカナさんが困っていますから。きちんと順序立ててお話してください」

 

 流石に見かねたのか、ナギちゃん様が助け舟を出してくれた。

 ぐいぐい距離を詰めてきていたセイア様がちょっと離れる。ちょっとだけだが。

 

「ああ、すまないね。君の“あり得たかもしれない未来(if)”の話だよ。今は消えた選択肢の先だ。先生に私の怯えを看破されるまでは、終わってしまう未来ばかりを見ていたから……。しっかりと探求すれば、そうでない未来も見えた。こうしている君だ」

「はぁ……」

 

 結局よくわからないのだが、とにかくノストラセイアの大予言的なのが外れたということだろうか。

 あえて出さずにしまっておいてくれそんなもん。

 

「まあともかく、同じミカ被害者の会としてこれから仲良くやっていこうじゃないかということだよ、ワカナ」

「被害者て。俺はスタートは助けてもらったとこだし、その後は基本俺から突っかけてるんすけど……」

 

 つーか冗談でもそんなん言わんでくれぇ。セイアちゃんファンの人々が微妙な空気出してんじゃん……。

 わりと軽いノリだから本人としてはちょっとしたジョークのつもりなんだろうけど。

 

「確かに、君には恩恵も多くあったのだろうが……色々見てきた私からすればね。被害者といい切ってしまって差し支えないと思うよ」

「どゆことですか」

 

 この人の発言、ナチュラルに電波(失礼)混じるし回りくどいし全体的によく分かんねえな……。

 首を傾げる俺にセイア様は続ける。

 

「あの子の輝きに目を焼かれなければ、君はずっと穏やかに過ごせた。適度な妥協と怠惰とぬるま湯のような優しい環境に包まれて、その他大勢(モブ)の一人として大過なく過ごしていたよ」

「いや全然ダメじゃないですか」

 

 すごいダメ人間みたいになってるじゃん……。

 

「いいや。多くの中に埋没することは何も悪いことじゃあないよ。ほとんどの人間はそのぬるま湯の中で各人それぞれふさわしい苦楽を抱えて生きるのが普通なのだから。特別な力、巨大な力などある種の呪いでしかない……もちろんこれは個人の価値観による所もあるだろうが」

「……」

 

 まあ、なんというか……ミカ様もナギちゃん様も、そしてセイア様も特別な立場と特別な力のせいで酷い目にあったようなところはあるんだろうが……。

 ミネ団長もすごく微妙な顔をしている。団長は力あるものはノブレス・オブリージュみたいなのを果たすべきみたいなのがナチュラルにあるんだろうが、予言の力のせいで長期間寝っぱなしだったセイア様も間近で見てるわけで……。

 

「君が力を望まなければ、あのゲマトリアも君を単なる観察対象の一つとして放置したままでいただろう。奇跡のようなめぐり合わせがなければそのまま世界を滅ぼす怪物になってしまうような立ち位置に置かれることもなかった」

「け、結果オーライってことで……」

「うん。そうだね」

 

 あら? あっさりと頷くセイア様。結局なにが言いたいんだよぉ。

 

「奇跡でもなんでも掴み取ったならそれが答えだ。私もあそこにいたのだよ。あの至聖所(バシリカ)*6に、精神を囚われて」

 

 意味分かんねー、意味分かんねーけど……セイア様がマジなのは分かる。

 両手を包むように握られる。俺とセイア様のちっちゃい手と手が重なり合う。

 

「ふっきれて、少しだけ大人になって……それでも、どこまで行っても結局のところ私達はただの子供だ。だから」

 

 なにかを悟ったような顔をして、かつてのようにキラキラ輝いて。

 ああ、そうだ。それでもあの人自分だけで勝手に死のうとするような人だし。それはたぶんきっと、大人の責任とか、そういうのとは違うものだ。

 

「ミカを、あの子を一人にしないでくれてありがとう」

「私からもお礼を、ワカナさん。大切な友人を守っていただいて……本当にありがとうございます」

 

 ナギちゃん様もガチトーン。団長は笑みを深め、サクラコ様も流石に空気読んだのか食うのをやめ……いや最後にマカロン一個口に含んでモグモグしだしたが。

 まあそれはいいとしてふるふると首を横に。

 

「俺は、俺もあの人を一人にしたくなかっただけです。それに最初はぶん殴ってやろうと思って脱獄しましたし……」

「ああ、気持ちはよく分かるとも。我がまま気まま自分勝手の考えなし。常に衝動で動いて事を過つ。おまけにめんどくさい自傷癖がいつまで経っても治らない上、口が悪くていつも一言余計だ。私も引っぱたいてやろうかと思うことが頻繁にある」

「え、ええと……まあ否定はできませんっすけど」

 

 すげえ笑顔でボロクソ言うじゃん……。ナギちゃん様も苦笑いながらフォローなし。

 ちょっとアレな人だと思わなくもないが、親しい人たちにそこまで言われるほどなのかミカ様……? 

 

「……まあ、実を言えばミカは放置していても先生さえいればほとんど自力で生還したんだがね。あの子は少々おかしなくらいに強いから」

「!?」

 

 だ、台無し! なんで今それ言った!? すごい感動的な場面だったじゃん! そこで俺いなくても大丈夫だったよとか知ってても言うなよ! 

 サクラコ様がまた本格的にケーキ再開したぞ!? 

 

「だがそのルートだとミカは先生にドロッドロに依存していた。ある意味当然とも言えるがちょっと引くくらいに」

「やめやめろ!」

 

 そんな寝取られ同人誌みたいな話は聞きたくねー! 

 

「そしてその未来(ルート)を避けたことでミカは先生とワカナにそうなった場合の半分半分程度の重さで依存し、執着している」

「!!?!?」

 

 ドロッドロの半分でドロッくらいかなと、指を広げて重さを表現するセイア様。いやわかんねーよ。

 それにさっきから妙な驚愕情報連続で叩き込んでくるんじゃねーよ怖いわ! 

 

 まあ美少女に依存されるとかちょっと嬉しいけどさあ。

 ちょっと嬉しいけど、リアルで依存関係ってまあまあキツイんじゃねーかなって……。

 

「うん。変な感じにこじらせるとすこぶる厄介なことになるのは間違いない。程々に、良い塩梅で構ってやってくれたまえ」

「程よくとか言われても……」

 

 なにその古のギャルゲーの爆弾処理みたいな……。

 

「未来視の力は失ってしまったから、もはや確実なことは何も言えないがね。君ならきっと大丈夫さ、ワカナ」

 

 存在しない記憶に基づく謎の信頼ぃ……。

 ナチュラルに未来にあったらしい思い出トークを混ぜて混乱させてくるセイア様に、慣れた様子で的確にツッコミ入れるナギちゃん様と慣れた様子で普通に受け入れてるミネ団長。

 

 ミカ様の近況もようやく聞けたが、特に落ち込んだりしてるってこともなく粛々と聴聞会の準備したり出席したりしているそうだ。

 聴聞会が終わって自由の身になれるまではもうしばらくかかるようだが、ひとまず退学とかの重い処分はなく、大体予想通りに終わりそうとのこと。

 あとはなんかまた優雅に日替わりロールケーキを楽しんでるとかなんとか……。元気そう? まあ元気そうで一安心。

 

 そんな話をしているとダークオーラサクラコ様も、満足するまで甘味を貪ったのか会話に混ざり始めるも、なんか全てに裏がありそうに聞こえる。

 そっとフォロー入れるマリーちゃんだが闇の衣が濃すぎて彼女の光の波動でも照らしきれていない……。

 

 しかしまあ君だけが癒やしだぜ。ミネ団長もなんかサクラコ様といるとおかしくなるみたいだし……。

 軽い手続きとお話だけのはずだったのがアホほど疲れる謎の権力者茶会になってしまったが、マリーちゃんのベールの下でピコピコ揺れる三角耳を頼りにどうにか生き延びた。

 

 ええいや、セイア様もそりゃ立派な三角狐耳だけどさ。ナマ耳だけどさ。

 えっ、触っていいの? じゃあ遠慮なく……おお、素晴らしいふわふわ。代わりに羽を? 減るもんじゃないしお好きにどうぞ。ハッ!? ファンクラブの人から殺気が!? 

*1
!? 不良漫画で不良がメンチ切るときに飛び交うやつ。ゲヘナではその辺の不良がキレながら飛ばすがトリニティでは偉い人が笑顔で飛ばす。

*2
この子ミカさんにちょっと似たとこあるからなあという顔。

*3
マエストロ、黒服による入学書類その他のほぼ完璧な偽装工作により入学しているがまあ経歴詐称である。

*4
おバカをやたら出世させて失脚させるという暗黒貴族殺法。実際はなかったらしい。

*5
セイア率いるサンクトゥス分派。エデン条約編でやらかしがないため現状ティーパーティー最大勢力になる。

*6
アツコがエロ磔されてたベアおばとの決戦のバトルフィールド。ちょっと広めにミカワカナがVSバルバラ軍団やってた辺りまで観測できたことに。




ということでティーパーティー回でした。
サクラコ様と会ってトリ夏イベ2の伏線だったり、ミカ・セイアちゃんの今後の新イベあった時にフックになりそうななんかだったり。ともかく未来に向けて回収するかわかんないけど一応伏線を投げておこうみたいな感じでした。
ちなみにスイーツパクパクモグモグサクラコ様は二次創作概念ですがこの人の好物全部甘いものとかいうスイーツ部状態なので根拠はあったりします。
あとワカナちゃんはミネ団長の救護面を知らないのでシンプルいい人だと思ってます。

セイアちゃんはエデン編で結構出番が多いんですがその大半が先生の夢の中で、実際はほぼほぼ寝ているという状態なので今回実質本作初登場でした。ここまで来たらもう出さなくてもいいんじゃないかという気もしましたが早期実装を祈って存在しない記憶とともに登場です。
とりあえずミカにワカナちゃん投げとけば大人しくなる(たまに連鎖爆発するけど)ので被害担当艦として好感度高めでした。
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