トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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54話 いつもの放課後

 うぉぉ! 俺は帰ってきた! 

 

 日数的には言うほどでもないんだけど、洗脳食らってからこっちずーっと留守にしてた庭園部部室前である。

 一応今日から復帰ということはモモトークで伝えてあるが、なんか緊張するな。

 

 肝心な時に全ブッチとか何考えてんだこの野郎みたいな感じになってたらどうしよう……。

 裏事情知ってる人たち以外にはトリゲヘ戦争で普通に突っ込んで派手にぶちのめされて休養してました、みたいな感じになってるらしいけど。

 

 洗脳食らって出奔して妹と合体して世界を滅ぼす系儀式魔法使おうとしたら勇者パーティにぶちのめされて投獄されて脱獄してよその自治区で無限耐久戦してぶちのめされて救護されてました~みたいなのを正直に話すわけにもいかない*1

 つーか自分で言っててもわりと意味わかんないし……。あと一部は箝口令敷かれてるから話したくても話せないし。洗脳の下りとかね。ゲマトリア関係のことはかなりの機密なのだとか。

 

 手を出したり引っ込めたりしながらなんとなーく迷っていると、ぎぃぃと重い扉が勝手に開く。

 ぼちぼち来るだろうなと思って様子を見に出てきたのだろう、ショートカットのボーイッシュ、同期の陸上ちゃんとバッチリ目が合う。無表情に見下ろす視線。

 

 目線だけきょろきょろさせているとひょいと首根っこ掴んで持ち上げられて、部室の広間に持っていかれる。いっつもミーティングとかやるとこである。

 ぽいっと放り投げられて見渡せば、なんかすごい人が揃ってた。メンバー全員いるんじゃないか?*2

 

 俺の扱いの適当っぷりに驚いたのか、ラグに座り込んでおしゃべりしていたらしい1年ちゃんたちが目を丸くしている。

 まあちょうどいいので復帰のご挨拶はしておくか。

 

「えぇと、まーそのぉ……今回は大変ご迷惑、ご心配をおかけしまして……」

「わぁ!」「部長だ!」「お久しぶりです!」「元気ですか!」「大怪我したって聞きましたけど……」「傷とか残ったりはしてないみたいですね」「良かったぁ……」「チョーカーつけたんですか? オシャレですね」「ふわふわ!」「ぷにぷに!」「あったか!」

 

 うぉわぁあああ!? やめやめろ! 押し寄せた1年ちゃんたちに文字通り揉みくちゃにされる。

 いてぇ! どさくさ紛れにおっぱい揉んだり羽引っこ抜いたりされてないか!? なんなんだこいつら!*3

 

 しばし後、一通り囲んでぷにって満足したのか1年ちゃんたちがようやく離れた、と思ったら今度は2年の同期軍団に囲まれる。

 やっぱきちんと謝罪すべきかと口をもにょもにょさせていたら陸上ちゃんにほっぺたむにむにされた上ぱちーんされる痛え。なんか謎にドヤ顔だし……。

 

 陸上ちゃんが離れると今度はぽわぽわちゃんがボッサボサのボサになっていた髪を丁寧に整えてくれて、これでよしと良い笑顔。

 他の子達は果樹園の仕事や街路樹剪定の進捗教えてくれたり、俺が居なかった間のシフト表見せてくれたり飴玉口に放り込んできたりいやなんだどういうイベントだこれ。

 

 3年の先輩たちはへーいと笑顔で両手ハイタッチ連続。いやだからなんだよ試合に勝ったのか? よくわからないまま満足したので解散みたいなノリでみんな三々五々散っていく。

 釈然としないまま呆然としていた俺の頭頂部を陸上ちゃんがぽんぽんと叩き、ぴょんぴょんとアホ毛が跳ねる。

 

「おかえり」

「た、ただいま……!」

 

 色々雑だし意味わかんないし部長というかマスコットみたいな扱いだし……言いたいことはたくさんあったはずなのだが、なんだか全部吹っ飛んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでようやく職場復帰である。

 ちょっとぶりの果樹園はそろそろ落葉が本格化して黄色い落ち葉のカーペットが敷かれ、晩生種のリンゴの収穫がどんどん行われているところだった。

 

 去年俺もやった運転席ぶった切り軽トラでドローンくんと一緒の収穫作業を一年ちゃんたちがやっている。

 何人か夏の間に免許とっていたのだ。俺みたいにとにかく運転しろスタートとかじゃなくて普通に教習所通ってだが。

 

 秋晴れの温い日差しにウトウトしている姿はまあ共感を禁じえないものである。

 俺が見ているのに気づいてハッと背筋を伸ばしたりしていたが、別に事故ったりしなきゃちょっとくらいお昼寝したっていいくらいさ。とりあえず苦笑いで手を振り、果樹園巡りに戻る。

 

 本校舎の方は戦闘で結構バカスカぶっ壊されたらしく、今もすごい勢いで復興が進められていたが、こっちの方は本当にそもそも被害が少なかったようだ。

 果樹園もその周りも大したダメージはない様子。火事場泥棒じみたゲヘッパリの襲撃もあったようだが、地雷原で食い止めることができたとか。

 

 作業日誌にもちょっと前に追加の地雷敷設を行ったことが書かれていた。簡易の図の敷設図には撃退に協力してくれたというガスマスクレオタードのちびキャラが落書きされている。

 なんというか、さんざっぱらリスキルした相手でもあるもんだからどういう感情を持てば良いのか分かんねえ……。

 

 作業者の所を見れば、地雷設置ももう1年中心にやったようだ。以前やった時はなんというかピクニックのノリで大丈夫かって感じだったけど、今回はしっかり問題なくやれているようである。

 なんつーかあれだね、ほんとに戦力になってきたなあ。若者の成長は早い……。今年もあと数ヶ月で終わりだし……えっマジ? もう? 嘘でしょ……? 

 

 年末が押し寄せてくる衝撃に軽く宇宙猫してしまったが、ともかくも仕事に入る。

 去年俺がやってた仕事の多くは1年ちゃんたちができるようになっていたので、俺は別なことをやる余裕があるわけだ。

 

 せっかくだしと去年あんまできなかったわりと優雅な感じの温室勤務を希望してみた所、じゃあこれ全部覚えてきてねとか分厚い植物図鑑に温室管理の手引やら何やらをボンと渡されたので撤退した経緯がある。

 南国の変な植物とか貴重な花とかたくさんあるのであっちもあっちで普通に大変なのだ。肉体労働も外回り組と比べたらマシってだけで結構あるし。

 

 部長に引っ張り回されて流れで果樹中心の勤務になってたけど、適性見られてたのかもしれんな……。

 まあやることはいくらでもあるのだ。剪定作業はもっと寒くなってからだが、今の時期は無限に発生する落ち葉の処理をしなければならない。

 

 というわけでブロワーと掃除ロボットを軽トラに積んで大通りへ向かうことに。

 赤黄に染まった街路樹の葉がゆるやかな風に揺られハラハラと舞い落ちる中、お嬢様っぽい生徒たちや普通のJKっぽい生徒たちが談笑しながら行き交っている。

 

 日差しが暖かいからだろう、道の端に置かれたベンチに座って読書なんかしてる子もいる。

 うーん、すっげえ平和……。ちょっと前までミサイル直撃とか二大校でほぼ開戦とかやってたとは思えない景色である。

 

 まあ普段から平和な光景が一瞬で銃弾飛び交う激戦地に変わるのもそう珍しいことではないのだが……。

 キヴォトスに暮らす生徒たちにとっては、あれもちょっとデカいイベントくらいのもんだったのだろうか。

 

 ちょっと前まではこんな世紀末お嬢様学園の空気に、いつまで経っても慣れない慣れないと思っていたものだが、今となってはここが帰るべき場所だなんて感じて落ち着いているのだから不思議なものだ。

 大まかには掃除ロボに任せ、隅っこや細かい所をブロワーでぶっ飛ばして落ち葉を集めていく。

 

 掃除ロボの袋がいっぱいになったら本来であれば軽トラに積み込んでいくところだが、こっそり木陰でキラキラファイアー。灰にしてしまえば積載運搬の手間1/100である。

 以前ド派手にやって怒られた記憶があるのでこそこそやっているが、やってるそばから舞い散る木の葉を見るとやはり丸ごと火を放ちたい衝動にちょっと駆られる。

 

 なんとなくムズムズしてしまい、手のひらで受け止めた葉に火をつける。

 キラキラと輝いて燃え上がり、残った灰も風に吹かれてサラサラと消えていく。

 

 いつの間にやら丸ノコくんからだけじゃなくて自分の体から火起こせるようになってたんだよね*4。人体発火現象。

 まあ火力はほんとに大したことないし、ちょっと暗いとこで灯りにくらいしか使い道はないが……。

 

 いや、もうちょっと慌てるべきなのか? メラメラの実を食ったわけでもないのにどっからでもキラキラファイアー出る全身敗北者人間に……。

 ボケっとアホなことを考えながら落ちる木の葉を2枚3枚と燃やしていると、読んでた本から顔を上げた文学少女っぽい人に見られてパチパチと拍手を頂いてしまった。いや手品ではないです。

 

 気まずくなって逃げ出そうとしたが、絶賛労働中のお掃除ロボくんを置き去りにするわけにもいかず。

 なんとなく期待した空気で定期的にチラチラとこちらを見る文学少女さんを全力でスルーしつつ、どうにか落ち葉掃除を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕事終わりには1年ちゃんたちと同期たちに誘われ買い食いへ出かけることに。

 夏前くらいまではいかにも初々しい空気を振りまいて不良誘引マシーンの如しだった1年ちゃんたちだったが、修羅場をくぐり抜けたのせいだろうか。きゃいきゃいきゃぴきゃぴした空気は変わらずも、なんとなく隙のない歴戦の気配を漂わせている。

 

 ピッカピカだった背負ったマイ銃にもしっかりと使い込んだ感じが滲んだようだ。あとは分かりにくくしてるが腰後ろのケースにナタ差してる子が複数いたりもする。

 いつの間にやら後輩に森林ゲリラ殺法を仕込んだらしき陸上ちゃんがニヤリと笑う。て、てめぇ……。イケメンだから後輩人気やたら高いんだよなこいつ。これがNTRか……。

 

 ぽわぽわちゃんもうちの部には珍しくお嬢様~って感じだから尊敬を集めてるし。

 俺だけだよ後輩にぬいぐるみかなんかみたいに思われてんの。

 

 よーしパパたまには先輩らしいとこ見せちゃうぞ。今日は俺のおごりじゃー! 

 目的のスイーツ店近くでそう宣言するとわーきゃー俺を称える後輩ちゃんたち。うーん気持ちいー! 

 

 人数多いのでお財布的にまあまあな打撃だが、色々のお詫びの気持ちも含めてということで……。

 今日のお目当てはクロッカンシュー。パッと見なんか揚げ物かなにか? みたいな感じに見えるが、ザクザクした食感の細長いシュークリームとかいう中々新感覚のやつである。食べ歩きしやすいのが○だとか。

 

 店先に近づき注文しようと思ったら見覚えのある人影……っていうかハスミパイセンだった。見間違えるハズのないスーパーデラックスなシルエット*5

 おまけにトッピングマシマシのデラックスなやつを5つも抱えている。どうやらあっちも俺と同じことしてるようだが、レベルが違った。こっちは普通のやつ奢るだけでもまあまあ覚悟がいったというのに……。

 

 先輩キャラとしての格の違いを見せつけつつ併設の店内カフェに入っていくハスミパイセン。

 なんとなくウィンドウ越しに眺めていると、なんか奢るとかじゃなくて全部自分用のしかもおかわりだったらしく席で待っていたツルギパイセンにチョップ食らって悶絶していた。何やってんだあの人。

 

 まあともかくこっちはこっちで普通に全員分のシュークリーム買って……と思ったら会計でスッと後ろから金出してくるイケメンムーブ。

 陸上ちゃんが出したのは2/3、ぽわぽわちゃんもお財布出しているのでそういうことだろう。

 

 負担かけてしまっただろう二人にも詫びの気持ちとしてって感じだったのだが、突っ返そうとすればデコを突かれて動きを封じられ、仕方ないので甘えることに。

 その後みんなで近所の公園に移動。夕日が落ちるまで食べて駄弁って帰宅となった。大変美味しゅうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、違うんです」

 

 なにが? 

 庭園部の方への復帰と合わせて正実の訓練参加も再開することになり、久しぶりに……いや先日シュークリーム屋で見たばっかだが、ハスミパイセンと顔合わせ。

 

「私はこれまで幾度となくダイエットのためにスイーツ断ちを行ってきた……いわばベテランです。だから、あれはなにかの間違いなんです」

 

 一生禁煙できない人みたいなこと言い出すじゃん……。ツルギパイセンも斜めな顔でこいつ……みたいな視線をハスミパイセンに送っている。

 

「まあ、その……たまにはありますよねドカ食い気絶したくなるときも」

「えぇ、えぇ! たまには、いいですよね!」

 

 適当に相槌を打つとすごい勢いで食いつかれる。そんなに自分に甘いイメージはないのだが、この人スイーツ関連だとタガが外れるよな。

 たまにじゃねーだろみたいな顔してツルギパイセンがチョップ。軽い調子だったがゴスッと重い音がしてハスミパイセンは悶絶している。

 

 そして俺にも適当なこと言うなと言うようにぱちんとデコピン。こちらは軽い音相応のちょっと痛いくらい。力加減は完璧だ。

 ともかくも頭を下げてご挨拶。

 

「エデン条約からこっちずーっとご迷惑かけっぱなしだったみたいで、マジで、すんません。アリウスからの救出とか、あと保護観察の身元引受とかも……」

 

 正実はトリニティの主戦力だから当然エデン条約調印式の時の地上戦のメインだ。

 アリウス自治区掃討作戦でも救護騎士団と一緒に主戦力だったと聞いている。

 

 ズタボロの体を押して駆け回った先生と、一晩戦い続けてクタクタのミカ様と、ミカ様に抱えられてグースカ寝てた俺を保護したのはイチカちゃんだと聞いている。

 戦後俺の身元引受人はミネ団長がやってくれてたけど、ツルギパイセンも立場としてはほとんど同じ……騎士団寮じゃなかったら正実の寮で暮らすことになってたかもしれない。

 

 万一俺が暴走した時に少なくとも足止めは余裕っていう戦力的な意味合いもあっただろう。

 でも同時に、とんでもなくめんどくさいことになってた俺の面倒をみてもいいと言ってくれた人たちということでもある。頭が上がらない。

 

「それくらいはな」

 

 若干申し訳なさげ? にツルギパイセンが言う。どういうことだろうか。

 

「……こほん。肝心な時にあまり力になれませんでしたからね。アリウス自治区の制圧もセイア様とナギサ様のご決断がなければできませんでしたし……正義実現委員会(われわれ)はティーパーティー傘下の治安警察機構という立場上、基本的には事が起きた後の事後処理しかできませんから……」

 

 そりゃまあ名前の通りに正義を掲げて好き勝手やってたらそっちの方がヤバいし……パンフ見て絶対カルト集団だと思った入学当初が懐かしい。

 見た目や看板に反してびっくりするくらいまともなんだよなあこの人たち。

 

「まあ、いい。表に出ろ」

「アッハイ」

 

 〆られるわけではなく正実の詰め所から訓練場へ向かうだけである。いやまあある意味マジで〆られるのだが……。

 久しぶりだし優しい内容だといいなあ。

 

「腕を上げたのは見れば分かる。これならもう、加減は必要ないかもしれんな。……ふっふふふ

 

 あぁあぁぁ~ダメそう。なんか知らんけどめっちゃテンション上がってるし……。

 なんでそんな漫画の武人キャラみたいなスキル持ってんだよナチュラル強者がよぉ。

 

 実際、ハイレグ軍団との死闘を超えてかなり動きが洗練された気はする。翼利用の高速変則機動一晩だけで何百回やったかしれないよ。

 しかしそうは言ってもパイセンよりは弱いらしいバルバラさんにもまあまあボコられる程度なので……やっぱ無理じゃね? 手加減はしっかりして欲しくね? 

 

 そんな願いも虚しく特に何の制限もハンデも無しのガチンコタイマンルールの模擬戦と相成った模様。

 マシロちゃんやイチカちゃんに一般正実ちゃんたちもわらわら集まってわいわい盛り上がっている。気分はコロッセオでトラとバトルする奴隷剣闘士である。

 

 見せもんじゃねーぞちくしょー*6

 ……しかしまあパイセンとの訓練が色々身になるのは事実。アンブロジウス軍団とかをサクサク始末できたのはそれこそパイセンの戦闘技術を学んでたからこそだ。

 

 あんだけの事があったのだから今後は平和に過ごしたい。そういう気持ちは大いにある。

 あるのだが……キヴォトスで平和? 何いってんのよ! って感じなのが現実だし、力を求め続けることはまあ必要なのだろう。ポジティブ! 

 

 ポジティブな気持ちになって勢いよくパイセンに挑んだ俺は速攻でさんざっぱらボッコボコにされてあっという間にダウンした。

 即落ち2コマ……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったぞ」

「あざす……」

 

 一般正実ちゃんたちが紅白戦してるのを横目にベンチでぶっ倒れていると、身だしなみを整えてきたらしいツルギパイセンがスポドリちゅーちゅーしながら戻ってきた。

 頭上に俺の分が置かれたので、どうにか身を起こして補給タイムに入る。うーん、糖分が染みるぜ……。

 

 そしてようやく俺の息が整ったのを見計らって、パイセンからぽつりぽつりと講評タイム。

 なんつーかかなりお褒めの言葉をいただけている。機動がスムーズになって耐久任せのゴリ押しをだいぶ卒業、回避とライフで受ける攻撃の取捨選択が随分上手くなってきたとかその辺が特に高評価らしい。

 

 まあねえ、上級者っつーかツワモノな人らはみんなそんな感じで動いてるし、対面だったり横だったりでずーっと見てきたわけで。

 真似しようと思ってその場でできるような器用さはないから、年がかりの訓練と実戦の末ようやくほんのり形になってきたねっていう程度なんだけど……。

 

「少しヒヤリとするところもあった」

 

 え~本当でござるかぁ~? 全部余裕で捌いてたじゃんマジで……。

 基本的に俺の戦闘スタイルはどうあがいてもちいかわ戦法……どこまで行っても突っ込んでぶん殴ってなんとかなれーッ! なので、速攻でぶちのめせる相手にはめっちゃ強いけど攻撃まともに当たらない格上とか、接近戦の土俵に入ってくれない遠距離型の強者とかには基本手も足も出ないのである。

 

 雑魚狩りピエロでごめん……*7。いやほんと格下相手には超強いんだよね俺。

 一方で格上相手には一か八かの相打ち狙いとか炎継続ダメージで判定勝利を狙う泥沼耐久戦とか、そんなのしかないのでどうしようもない。

 

 例の回復ファイアーが常時使えるようになってたら泥沼耐久戦がかなり実戦レベルで格上相手にもかなり勝負になる気はするのだが、あの夜以来さっぱり音沙汰なしである。

 セリナちゃんにナース服でも借りてみるか……? 切羽詰まった時はちょっと本気で検討すべきかもしれない案件だ。

 

「今のお前と悠長にやりあえば私が先に落ちる」

 

 あ、マジできちんと耐久戦できたら勝ち目あったんすかね。

 いつものポーカーフェイスだから結局効いてるのか効いてないのか、何度も模擬戦やってるけどいつまで経っても全然わからないのだ。

 

「攻めに逸れば隙になり、守りに傾けば押し込まれる」

 

 パイセンがぼそっと呟くそれは近接機動戦の極意みたいなやつだろうか。

 長期戦はマズいからと速攻かけてきた今日のパイセンには隙があったということになるが……マジで全然わかんなかったぞそんなもん。

 

 翼を活かした変則機動は回避と攻撃を両立するものだ。位置をずらし、テンポをずらし、相手の予想を外れ正面から不意をつく技術。

 避けるものを避け受けるものを受け攻撃を的確に差し込んでいく。その攻防に割く意識の割合で駆け引きが生まれるということなのだろうが……。なんというかそういう駆け引きに行く前段階であっという間にボコされたというか。

 

 俺も戦闘に絡めた動きとしてかなり形になっては来たものの、パイセンのそれは遥かに洗練されたものだ。

 至近で撃ち合うのにこっちが1回行動したら2~3回くらい動かれてるみたいなひでえレベルの差があるのだ。

 

「精進あるのみだな」

「はい……」

 

 まあ、本気出させたというところは評価点だろうか。しかしこの人に勝てる日なんて来るものか……。

 訓練上がりにみんなでカラオケ行ったら歌も普通に上手くてそっちですら敗北したし。デスボでメタルみたいな感じかと思ったら普通に爽やか青春恋愛ソングだし……。

 

 いやまあ趣味的にそういう感じなのは海とかでも察してたが。

 俺みたいな歌下手マンはおらんのか? と思いほとんど正実貸切状態のカラオケ店内の部屋を渡り歩く。

 

 俺が歌うとどうしてもなんか舌っ足らずというか、歌というよりおうたになっちゃうんだよなぁ。大体みんなそこそこ以上には上手いから音痴が目立って仕方ない。

 やたらと歌上手女のイチカちゃんになんかコツとかあんの? と聞いてみたところ、え? どんな曲でも1回聞いたら大体こんな感じで歌えないっすかとかナチュラルに煽られたし。

 

 ぶっ飛ばすぞこの才能マンが……! この子マジでなんでも人並み以上に器用にこなすクセにたいしたことないっすよ~みたいな顔するからな……! 

 スラッとしてスタイルもいいし、そういうので正実の後輩ちゃんたちにめっちゃモテてるし同期としてはコンプレックスを刺激されるばかりである。

 こちとら火力と耐久とゲーム以外はなんでも人並み以下の不器用人間だぞ……! 

 

「まあまあ、パフェでもどうぞ」

「いただきます」

 

 甘い。美味い。カラオケスイーツ侮れぬ味……! ハスミパイセンとスイーツモリモリ食いつつ、とにかくデカい声出せるアニソン歌って叫ぶ。

 コハたんに何やってんだこいつみたいな目で見られたが、結構盛り上がったのでよしとする。

 

 つーか似たようなことやってんのに俺とハスミパイセンで対応が全然違くないかコハたん。俺も全肯定して欲しいぞコハたん。

 いやまあほんとにされたら気味悪いからそのままの君でいて欲しいぞコハたん。

 

 そんな感じでスイーツ酔っぱらい人間*8と化してコハたんにダル絡みしてたらぶん殴られた。

 楽しかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お勤めご苦労さまです!!!!!」

「うるせえ!!!」

 

 会うなり90度のお辞儀とクソデカボイスを披露してくれる宇沢ちゃん。

 ヤク○の出所じゃねえんだぞ! いやまあ実際投獄されて脱獄したんだけども……。

 

 庭園部の活動に正実の訓練も再開して、なんとなーくこれまで通りの生活が戻ってきたなあというところ。

 以前恒例化していた宇沢ちゃんとの訓練も再開する? ってモモトーク飛ばしてみたら秒で返信が返って来たのでこの通り、またやろっかということになったのである。

 

 以前のようにトリニティの訓練施設の一角を借りて宇沢ちゃんと相対する。

 最後に見たのはそれこそ洗脳食らってたあの時以来だから、宇沢ちゃんにはなんとなーくこちらを伺うような気配がある。出会った頃は大体こんな感じで、最近はわりと打ち解けてきたかなあという感じだったのだが。

 

 訓練自体は非常に楽しい。格上にタイマンでボコられるとか指揮系統かっちりした集団に多対一でボコられるとかそういうのではないので……。

 いやまあ自分の成長という意味ではあっちのほうが重要なのだが、こっちは余裕を持って楽しめるというか。

 

 宇沢ちゃん耐久はともかく俺に対しては火力が足りないのでね。どうやっても負けようがないのだ基本。

 ただ、だからこそ宇沢ちゃんの成長がよく見える。夏までも訓練のたびにニョキニョキ伸びていくような感触があったが、あの夜の戦闘で本当に何段かステップを駆け上がったような印象。

 

 ショットガンで固めてからの丸ノコくんアタックは俺のお手軽必殺パターンだが、もはやシンプルなこれに捕まることはまずない。

 ショットガンを避けきれないにしても被害を軽減し、固めにハマらない動きをしっかり実践できている。

 

 天才タイプの人々が素でやってるようなやつをきちんと練習して身につけたものだ。

 逆に丸ノコくんを囮にしての炎とショットガンの削りには、ダメージレースで勝つための攻めに転じる動き。

 

 回避不能なものはそれとして割り切り、できる限り被害を軽減しつつ反撃の機会と考える。

 実際攻め勝ちできるかというとまあ無理なのだが、タイマンでなければまた変わってくるだろう。積極的な攻めは仲間のために隙を作る動きでもある。

 

 単純な組み立て、雑な攻めは確実に捌いてくるし、足技翼撃を含めたコンボもかなり対応できるようになってきた。

 翼で打つ攻撃は近距離では急に視界の外からぶん殴られるようなものでかなり奇襲性が高いはずなのだが、視野を常に広く持つことができているのだろう。普通にやって崩すのは本当にもう無理そうだ。

 

 初期は全く対応できなかった空気抵抗利用の変則機動からの丸ノコくんアタック……宇沢ちゃんには結構手軽に致命傷になるそれも、予備動作を見やすくしてあげればきちんと避けられている。

 体重移動や視線誘導、翼端だけを動かして動作を誤魔化すようなのも混ぜた本気機動は流石にどうにもならないようだが*9、あの時みたいに外部からのサポートがあれば捌いてくるかもしれない。

 

 そしてなにより一足一刀、常に丸ノコくんの射程となる致死圏内に張り付いて延々戦い続ける胆力。

 なんだかんだで丸ノコくんも長柄武器なので踏み込んだほうが逆に有利になることもあるのだが、炎と回転という触れるだけでダメージになる要素もあるのでそうシンプルな話でもない。

 

 初期の俺のようなやけっぱちの突撃ではない。しっかりと目を開け、進むべき時に進み退くべき時は退く。一つのミスが即死につながる戦場でその状態を維持し続ける。

 必死で抗い続ける宇沢ちゃんは、本物の勇気とはこういうものなのだと見せてくれているようだ。

 

 最前線に立つ者(タンク)としての技量とメンタル、宇沢ちゃんはほとんど完成に近い所まで仕上がって来ている。

 俺はどっちかというとフロントアタッカー、やられる前にヤレ! で結果的にタンクっぽくもなっているというタイプのポジションなので、本職から見たらまた違うご意見もあるかもしれないが……。

 

「お見事」

「へぶっ、うぐっ……げふぅ……いえ、まだ、まだ、全然で……」

 

 満身創痍でぶっ倒れた宇沢ちゃんの脇を抱えてベンチに搬送。

 近くの自販機で飲み物を、と思ったらなぜかある飲む牧場ミルクのドヤ顔牛くんと目が合う。

 

 一瞬手を伸ばしかけるも、流石に運動直後にそれはねーわなので普通にポカリを2本購入。大○製薬バンザイ。

 ベンチに戻って、片方を宇沢ちゃんに渡して自分の分をごきゅごきゅ飲む。うーん、美味い。

 

「本当に、元気になられたんですね……良かった」

「ん……おかげさまでね」

 

 ニッコニコしながらごきゅごきゅしてた俺を見て、宇沢ちゃんも微笑んだ。

 なんというか、マジでご心配おかけして申し訳ない。

 

 人に言えた義理ではないが、宇沢ちゃんも対人関係に臆病な子だから数少ない知り合いの俺がエラいことになって、おまけにエラい事になってる俺と死ぬほど殴りあって。

 色々と思うところがあったのかもしれない。

 

 いつの間にやら物陰からこっちを見てる人影も増えてるし……。

 いや多いな!? 前は二人だったけど、その二人に加えてなんか4人くらい別グループのが増えてるぞ!? 

 

 全員グラサンにバット持った謎の集団である……。

 二人の方……写真見たことあるが宇沢ちゃんのクラスメイトの子たちもなんか謎グラサン集団に対抗してかパリピサングラスつけてるしよぉ。

 

 俺が見てることに気づいたのか、どっかで見たことある気がする先頭のピンクアホ毛サイドテールの子がグラサンをすごいクイクイして何かをアピールしている。

 いやなんだよ。なんにもわかんねえよ……。後ろの猫耳の子にぶっ叩かれて4人の方のグラサン集団は撤退していったが、マジでなんだったんだろうか。

 

 いやまあなんとなくは分かるよ。宇沢ちゃんが心配されてたんだろう。

 構図としては恐らく俺を心配する宇沢ちゃんを心配するグラサン集団……。

 

 うん、マジですげーご迷惑をおかけしたようである。

 首を傾げる宇沢ちゃんにちょっと手を振りまた自販機へ。飲む牧場ミルク……ドヤ顔の牛くんを追加で2本購入して戻る。

 

「思えば、またこうしていられるのは宇沢ちゃんのおかげだよ。……ありがとね」

「はいっ……! 本当に、本当に良かったです……!」

 

 俺と宇沢ちゃん二人、ベンチに並んで牛乳ちゅーちゅー。お腹タプタプにして帰路についた。

*1
ワカナちゃんのエデン条約編後半ダイジェスト。

*2
今更だが各学年10人程度、3~40人くらいの中小規模を想定。

*3
引っこ抜かれた羽はファンアイテムとして保存された。トリニティ生の羽はわりと第二ボタン的な扱いをされる。

*4
出自の自覚や回る炎の剣の熟練度上昇などにより生徒としての神秘がパワーアップした的なアレ。実用性としては物理無効シュロちゃんにエンチャントファイアアイアンクローキメられそう程度しかないが。

*5
実際豊満であった。

*6
参考用と称して動画も撮影されてるし思いっきり見世物である。

*7
1章美食研、2章ミカ、3章先生(自分がボス側)、4章バルバラさんと愉快な仲間たち、という感じでボス戦的なイベントを経てきたが、なんとこの主人公実質全敗している。性能盛り盛り二次創作オリ主の姿か? これが……。生き恥、敗北者……。

*8
場の空気と糖分過剰摂取でテンションおかしくなってるやつ。

*9
ツルギは余裕で捌いてくるしなんならこうやるのだともっとレベル高いのを見せつけてくる。




庭園部、正実、宇沢ちゃん回でした。
この辺は初期構想だと庭園部以外は影も形もなかったり庭園部もさらに薄味だったりしたんですが、なんだかんだ積み重なったのでエピローグ的な。
ミカにねじ込むのが目的で始めましたが、トリニティの生徒として学生らしく普通に(?)暮らすというのも結構大事な要素としてあり、部活ってやっぱ青春だよなあみたいな感じで割合が増えていきました。

庭園部関連は全員オリキャラであんま濃くするのもなあということで、陸上ちゃんとぽわぽわちゃんが準固有キャラみたいな感じにしつつ名前すら無しでやってきましたがもうちょっとなんかあってもよかったようなこんくらいでちょうどいい塩梅だったような……。

イチカは途中でTTTイベントで一気にキャラ付けされたので最初期は一応2年っぽいけどなんもわかんないしなあでスルーだったんですがこんな感じに。キレてカスミ部長をボコボコにする系イチカちゃんはワカナちゃんとかなり仲良くなれそうなオーラを感じました。

あとウイちゃん出したいなあと思って出したんですがこの人自発的に日光の下に出てこねえよな……ってなったので後から修正されて謎の文学少女になりました。紫外線は本の敵だからね仕方ないね……。

ともかく次回でエンディング。最後までお付き合いいただければ幸いです。
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