トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
そんなこんなで部活やったり訓練やったり誰かと遊びに出かけたりすることしばし。
ミカ様の3度目の聴聞会、最後のやつがようやく終わったらしい。そんで拘禁が終了して学業復帰を許されたとか。
ティーパーティーの席とかパテル分派のトップの地位*1だとかは無くなって、普通の生徒になるそうだが、罰則としてはそれが全てだ。
めでたい……うん、まあめでたいことなのだろう。
入学当初からずーっと偉い人だったのが、急にその立場がなくなるというのはちょっと想像できないから、その罰がミカ様にとって重いのか軽いのかはよくわからない。
個人的には偉い人ほど責任とか大変そうだから身軽になるのは悪くないじゃん? とか思ってしまうのだが……。
まあそれはともかく停学留年退学、外の世界でもわりと聞くそっちの印象だとそこまで大したことない……いや大したことかな。わりと大してるな?
でもまあ本気で人生詰むとかそういうのではないが、こっちだと市民権剥奪とかそんなレベルのやつなんだよね退学とか。それがなかったというのはめでたいことだろう。
処分明けすぐに会うならナギちゃん様とかセイア様とか、あとはそれこそ先生さんとかふさわしい人らが居るだろうし、色々生活変わって大変だろうし……。
落ち着いた頃を見計らって挨拶に行こうかなあなんて思っていたのだ。だから。
「聴聞会の判決を撤回せよー!」
「裏切り者に情けなどいらなぁい!」
「魔女を吊るし上げろー!!!」
えぇ……? なにこれは。謎のお嬢様集団がデモみたいなのをやっているのだが。
しかもバンバン空に銃撃ちまくってるし、自由落下してきた弾が当たった人が痛えとか叫んでキレて隣の人撃ったりしてるし。これもう半分暴動だろ……*2。
宇沢ちゃんに本校舎の第五裏門で限定ショコラアイスの移動販売がある、なんてのを世間話に聞いてやってきたのだが、目的のキッチンカーらしきものは見当たらない。
まあこの微妙に寒い時期に並んでまでアイス食いたいとはそんなに思わないのだが、話の種になるだろうかと仕事ついでに寄ってみたのだ。
なんでさっさと立ち去ってもいい。気分のいい言葉は聞こえてこないし……。
つーかなんなんだろうなこの人々。ミカ様にわりとガチギレしてるであろうセイア様ファンの人々*3とかナギちゃん様の部下の人達*4とかはそれぞれトップの鶴の一声で大人しくなったと聞いているから、その人らではないはず。
ミカ様の部下だった人らは遊んでるヒマなんかないはずだし……*5。
「あんたらもミカ派じゃないならここで一緒にデモしない? あのムカつく聖園ミカが引きずり降ろされる様を見届けようよ!」
「私も聖園ミカを見たことないけど、なんか面白そうだし! あはは!」
広場の反対側でなんとなく見覚えのある集団がデモ隊に勧誘されている。
つーか、えぇ……そんなことある? 花の女子高生がやることじゃねーだろ……。
勧誘されているピンクの子たちもいまいち反応が悪い。そりゃあ普通のJKは政治なんかに興味はないものだ。
いやなんかもうほんとに気分悪いわ。帰ろ……。
「うちのアイリに何すんのよ!!!」
「よく見ておくんだ……これが糖分欠乏症に陥った獣たちの危険性を証明したものだ。……つまり、全部チョコレートが悪い」
よくわかんねーしどうでもえーわ限定アイスどこだよみたいなリアクションしてたピンクの子*6たちに、デモ隊お嬢様がついにキレて黒髪の子*7に手を出したら金髪ツインテの子*8が全ギレして反撃開始したらしい。
いやなんだそれは。どうしてそうなる???
叫びに続いてお嬢様集団の先頭をポリカーボネートのライオットシールドでドゴォ! とぶん殴って昏倒させたピンクの子。
彼女がぼそっと呟いた言葉が一瞬静まり返った広場に妙に大きく響いた。
「あんた達なんなのよ!!!」
「我らショコラアイスクリーム・モンスターズ!!! 糖分不足の世界を粛清する!!!!!」
おぉ、言葉の意味はわからんがとにかくすごい自信だ……!
散発的だった暴力沙汰がチョコレートのせいで(?)一気に爆発。一瞬でどいつもこいつも盲滅法撃ちまくる修羅場と化した*9。
火付け役たるピンクの子たちはなんかよく分からないけど謎に強くお嬢様軍団をガンガンボコっている。前衛のピンクちゃんが盾を構えてがっしり防ぎ、後衛の猫耳ちゃん*10がマカロンモリモリ食いながらバンバン狙撃、そしてチョコミントと小型ミサイルの雨あられ。
デモの監視をしていた正実ちゃんたちが必死で戦闘をやめてくださーいとなだめているが、そんなのに聞く耳のあるまともなやつはもはやどこにもいなかった。
うーんこれはスカッとトリニティ。
微笑ましい気持ちで銃撃戦を眺めていると流れ弾がスコーンとおデコに当たって弾けた。デコピンくらいのほんのり痛み……。
いや流れ弾じゃねえわ。デモ隊の乱闘見てニヤけてたのがお嬢様方のお気に障ったらしい。何人かがこっちを指差してなんか言っている。
おう上等だよ。
「ンダッコラァー!!! ヤンノカクラー!!!」
「なんなのよあんた! ウザったいなあ! 邪魔!!!」
お上品なヤク○スラングで警告も済ませ、さらに追撃の鉛玉が飛んできたので焼くことに。
背中からひょいとペロロ棒を取り出した俺に、狂人を見る目をするお嬢様軍団。うんまあ……お気持ちは分かりますわよ。
バサッとペロロカバーを外せば出てくるゴッツい刃がずらりと並んだ丸ノコくんにギョッとした顔をするお嬢様方。
うん、お気持ちはよく分かりますわよ。しかし時既に時間切れ。
悪あがきの銃弾を無抵抗で受けカンカン素で弾きながら頭上に掲げた丸ノコくんをぎゅるんぎゅるん回し回し炎を溜めて。
わりと頻繁に見かける額に縦線走ったイチカちゃんの終わった顔*11を横目で眺めつつレンガ敷の地面に叩きつける。
「どぉりゃぁあぁああああ!!!」
着弾、爆発。
煌めく炎のドームが高速で膨れ上がり、弾けて無数の輝く火の粉を散らす。雪のように舞い散る炎の中で立っているのは、いい仕事したぜと額を拭う俺と、ビックリしてるピンクの子たちと正実の子たちだけだ。
乱戦時の敵味方判定はわりとファジーというかあんまり意識しないでもふわっと俺の気分に合わせて勝手にやってくれたりするのだが、他は全員ムカつくやつで敵判定だったらしい。
そして敵判定で炎爆発を耐え抜いた猛者はいなかったということだ。ふぃ~スッキリしたぜ。
「なにが……ちっスズメ*12──いや、正義実現委員会だよ! みんな走って!」
「派手にやるねえ、リンゴ農家の人。世界平和とショコラアイスクリームに乾杯……それでは、アディオス」
なぜか猫耳の子が正実の子たちを見て血相変えてダッシュで逃げだし、なんかよくわかんねー事を呟いたピンクの子もそれに続いた。
こんくらいの戦闘日常茶飯事だし、被害者です顔してたら特にお咎めなしで終わるもんだが……。前科者かなにかなのだろうか。ええと、そう、スイーツ部だかなんだかの子たち。
そういえば宇沢ちゃん見てたのあの子らか? グラサンでわかんなかったがメンツに覚えが。
なんだかんだちょいちょい縁があるような気がするが、意外とまともに話す機会に恵まれないな……。
「ワカナちゃん、何やってんすか……」
「正当防衛っすよイチカちゃん。ほらおデコ撃たれちゃってさ、いてーいてー」
「虫刺され程度の跡もなくピカピカっすよ」
ため息つきつつ近づいてきたイチカちゃんに前髪を上げてアピールするも、ペシペシやられて相手にされない。
イチカちゃんはスマホで応援要請から救護運搬に切り替えと連絡している。後に引かない程度の
「こういうのはどんな些細なことでも手続きに従ってきちんとやらなきゃいけないんすよ。ワカナちゃんのことは……正当防衛と暴動鎮圧協力ってことにしておきますけど」
「へへっ、やったぜ。話分かるからイチカちゃん好き」
「まったく、調子いいっすねーほんともう……」
べしべしチョップされあうあうする俺を横目に、ぞろぞろやってきた一般正実ちゃんたちにテキパキ指示をだしていくイチカちゃん。
ぶっ倒れてプスプス煙を上げながら積み重なっていたお嬢様軍団があっという間に運ばれていく。手慣れてるなあ。
「ワカナちゃんも、今はちょびっと微妙な立場なんすから。あんま今まで通りに暴れちゃダメっすよ」
「はぁい」
イチカちゃんは正実2年のトップなのでわりと事情通……というか俺に関するあれこれも全部把握しているようだ。
微妙な立場、というのはまあそういうことだろう。
表立ってなにか言われるようなことはないが、事情を知る人間の中には俺を危険視する人もいる、と。シスターサクラコの暗黒オーラを思い出す*13。
まあ暴れるなと言われても、今回みたいなことがあって我慢できるかというと別なのだが……。
「そーいうとこ、ワカナちゃんのいいとこで悪いとこっすよねぇ……」
「ひゃめれー」
俺の内心を見透かしたのか、両手でホッペタサンドしてもにゅもにゅするイチカちゃん。
じっと見つめる顔が良い……糸目キャラのくせに気軽に開眼するよなこの子。
「今度の訓練では本気ツルギ先輩プラス選抜狙撃部隊VSワカナちゃんソロでメニュー組んでみましょうか。そんくらいやったらちょっとは反省するっすかね?」
「やめやめろ! パイセン一人相手に手も足も出ずボコられてたのが見えなかったのかよ!」
「本気出した先輩相手にちょっとでもまともに戦闘になってる時点でおかしいんすよねえ。……思えば本気の先輩をしっかり援護するって中々得難い経験な気がするっすね。冗談抜きでマジでやりましょうか」
「やめろぉ! 死にたくナーイ! 死にたくナーイ!!!」
イチカちゃんが手帳にサラサラと何事か書き留めている。え、本気? ほんとにやるの? いくらなんでもイジメじゃない?
次回の訓練はちょっとお腹痛くなって欠席する予定ができたっぽいですね……。
まあ、うん。そんな感じで一件落着みたいな空気出してたけど、ちょっと焼いたくらいで懲りるような人々ではなかったらしい。デモはその後も連日続いているそうだ。
マジで片っ端からこんがりさせてやろうかという気にもなったが、デモ隊を焼くとかいう字面のヤバさと……別にどんだけデモやろうが決定が覆ることはないという話もナギちゃん様やハスミパイセンに聞いたので、今のところは大人しくしている。
最高裁判決みたいなもんで、誰かのお気持ちでどうこうなるもんではないらしい。
聴聞会きっちりやって罰則決まって本人が受け入れたんだからそれで終わりだ、そう言われたので一安心。
しかしそれはそれとしても……どうにも信じがたい、というか絶対嘘でしょと思うのだが……なんだか、ミカ様がいじめられているとかいう噂を聞いてしまった。
あのミカ様を? 不祥事おこしたとはいえイジメ? 恐竜絶滅させそうな謎パワー*14持ってるお人だぞ? 命が惜しくないのか???
どうにもならないほどの恨みを晴らすために、決死の覚悟で、自分の“運命に”決着をつけるためにミカ様に挑むッ! とかならまあギリわからなくもないが……。
そこまで恨んでそんな覚悟キメてそうな人があのお嬢様軍団にいるとは到底思えないし、噂は噂だよな……?
まあそんな変な話は置いといて、せっかくシャバに出られたのだからお祝いをするべきだろう。俺も宇沢ちゃんとやったお勤めご苦労さまパーティーだ。
前に用意したけど食べてもらえなかったアップルパイ、今度はきっと大丈夫なはず。
造形はやっぱどうしても若干邪神入ってしまうが……なんだかんだ何度も作ってるから味は前よりさらに良くなっている。
飲み物にドヤ顔牛くんは流石に庶民派が過ぎるので、奮発してちょっと良い紅茶を保温ボトルに入れて。
サプライズのため、ナギちゃん様に聞いたミカ様のお気に入りスペース……ちょっと外れにある庭園のガゼボ*15に向かう。
放課後はボランティアで掃除とか草むしりとかやるかそこでのんびりしてるらしい。
コスモスやダリア、サフランなんかの秋の花が咲き乱れる花壇に囲まれた小さな休憩スポット。
ここも庭園部が管理してるので、うちの子が撮った写真なんかは何度も見たことがある。お花関係は肥料運んだりの肉体労働以外あんまやらないからやっぱりあんま詳しくはないんだけどね。
果たしてミカ様はちゃんとそこにいた。ベンチに座ってぼんやりと……いや、なんというか憂い顔?
顔とシチュエーションがいいのでめちゃめちゃ絵になってるが、パッと見で元気がないのが分かるくらいに凹んでいる。
イジメの話、マジだったのだろうか。……いや、いやいや。そんな馬鹿な。
だってここの人たちはみんなこんなにも優しい。焦げ焦げにした人々のことはちょっと棚に上げて。
人が近づく気配に怯えたように、ミカ様がビクリと震える。……嘘でしょ。
「あっ……ワカナちゃん。なんだか久しぶりだね。元気してた?」
こちらを見て俺と気づいた顔には安堵が浮かび、笑顔で声をかけてくれるが、なんというか痛々しい。
あの夜、あんなにもキラキラしていたのに。復活したはずのキラキラはどこかに出かけてしまっているようだ。
「っす……えっと、その……出所祝い、じゃないっすけど」
「わぁ! 嬉しいな。ありがとー」
保冷バッグから弁当箱やらフォークやら取り出して並べていく。
なんかの時に部活の人に謎にプレゼントされた幼児向けっぽいモモフレお弁当セットである*16。
ペロロ控えめなので真っ当なファンシーグッズっぽい顔をしているのがアピールポイントだろうか。
可愛いは可愛いのだが自分で使うには……と仕舞っておいたものだが、喜んでくれそうな気がしたので引っ張り出してきたのだ。
実際、喜んでくれた。うわぁ可愛いなにそれー、みたいな。
ただ、なんとなく上滑りというか、どうしようもなく寒々しさがあるというか。なんなんだろうこの感じ。悲しみを拭えない。
「……ありがとうね。本当に嬉しいよ。でもさ、やっぱり私と一緒にいるとワカナちゃんにとって良くないっていうか……。今は周りに人居ないから、大丈夫だと思うけどさ、ね?」
困ったように微笑みながら、ミカ様はそんなことを言う。
またぁ!? アンタまたそれか? 何回目だ? セイア様も言ってためんどくさい自傷癖! 一人で勝手に暗い方へ落ちてこうとする!!!
「イジメられてるって、マジすか」
「えっ……えっと、別に、そんなことないよ? 私といると良くないってのは評判とかの話でさ」
思わず直球ストレート投げ込んだ俺に、本当になんでもないように否定するミカ様。
演技派なんだよなぁこの人。本当に何言ってるかわかんねえみたいな顔するじゃん。
でもさぁ、分かるよ。
こんだけキラキラしてなくてめちゃめちゃ凹んでたらさあ。なんかあったのは分かるさ。
「なんかあっても、ミカ様なら小指一本でぶちのめせるでしょ。なんで」
「……ワカナちゃん、ほんと人の話聞かないとこあるよね。……まぁ、うん。ちょっとね、色々あったけどさ*17」
どうみてもちょっと、の雰囲気ではない。
「でもさ、結局私の自業自得っていうか……やっぱり日頃の行い、みたいな? 仕方ないんだよ。これは私が受けなきゃいけない罰だから。ワカナちゃんは気にしなくていいの」
自業自得の末。善因善果、悪因悪果。インガオホーというのも、間違ってはいないのだろう。
聴聞会で罰則が決まって、それで終わり。理屈の上ではそうだが、気持ちが収まらない人もいるのだろう。
だが気持ちの問題なら俺の方が収まらねえぞ。
キラキラしてろって言ったじゃん。笑ってろって言ってんじゃん。そんな全部諦めたような苦笑いをするな。
程々に構ってあげて、セイア様はそう言った。程よい距離感、潰れないように一人じゃないと伝えて。
イジメもなんか賢いやり方でどうにかして。きっとそれが正しいのだろう。
でも、そんなまだるっこしいのはヤダ。
こうしたいと、思ってしまったから。思ったようにしよう。
「ん!」
「え? えっと……?」
モモフレ弁当箱を開き、三角に切って互い違いに詰めたアップルパイの一切れを丸っこいフォークでさらに一口サイズにザクッと両断。
表面網目に組んだ生地部分が神話的にのたくり宇宙的神秘すら感じさせるそれにフォークをぶっ刺し、ミカ様に突きつける。
「ん!!!」
「え、えぇ……? えぇと、あーん」
無理やりぐいぐい押し付け、なかば口にねじ込むようにアップルパイを突きつけると、観念したミカ様がパクリ。よし、食ったな。
見た目から冒涜的な味わいを想像していたのだろうか、心底意外そうな顔で口元に手を当てながらもぐもぐしている。
味はいいんだ、味は。自分でも一切れ食って、うん、美味い。
モモフレコップも2つ出して紅茶を注ぐ。自分で買った取っ手がウェーブキャットさんになってるお気に入りのやつと、こっちは貰い物のピンキーパカさんプリントの女児向けコップだ。俺をどうしたいんだお前ら*18。
黒主体で落ち着いて見えなくもないウェーブキャットさんを取ろうとしたミカ様にピンキーパカさんを押し付け一服。
うむ、お紅茶も美味い……美味いかな? 美味いような気がする。
トリニティ生徒らしからぬ非紅茶党なので全然分からん。奮発しただけあってやっすいティーバッグのよりはずっと美味い気がするけど。
ミカ様は微妙な顔をしているが、味に不満というよりは強制女児コップへの不満なようなのでヨシ。
お互い黙々とモグモグして完食。
甘いもの食べたせいかミカ様の雰囲気もちょっと柔らかくなっている。
「全部食ったっすね」
「うん、食べたし、美味しかったけど……」
謎の強制おやつタイムに首を傾げるミカ様に告げる。
「うちには……庭園部には、果樹園で取れた果物使ったお菓子で新人歓迎会する習慣があるんすよ」
「そうなんだ……そうなんだ?」
だからなんだみたいな感じでさらに首を傾げるミカ様。
「食ったからには今日からあんたもうちの子だ!!!」
「えっ、えぇ!?」
いやその理屈はおかしいって顔するミカ様。まあ実際うちのお菓子文化祭とかでも普通に振る舞ってるし、別に食ったらうちで強制労働確定みたいな特殊効果もないんだが。
でも、今この場ではそうなる。俺がなると決めた。お前も家族だ。
「ミカ様はうちの子だし、うちの子に妙なことしたやつは全員こんがり肉にするから」
「あ、あのねワカナちゃん……気持ちは嬉しいんだけどさ、私部活とかそういうのダメだから……」
聴聞会での判決には、学業専念というのもあったな、確か。
政治活動的なのはもう一切するな的な意味合いだろうけど、まあ部活動も含むのだろう。でもボランティアはしてるじゃん。
「奉仕活動で校庭の草むしりすんのもうちで働くのも変わんねっすよ」
「いや、だからね……」
基本ガッツリ肉体労働だし夏はクソ熱いし冬はクソ寒いし、ビルメンより危険な木の上にぶら下がる高所作業もある。
生粋のお嬢様にはまあ、罰ゲームかもしれない。
「……本気で嫌なら、いいっすけど」
「嫌ではないよ。誘ってくれるのはすごく嬉しい。でもさ、部活のことならワカナちゃん一人の問題じゃないでしょ。他の子にも、きっと迷惑かかっちゃう」
「むぐっ……」
確かに、急にワケアリの人を連れてったら部の人に迷惑をかけてしまうかもしれないというのはある。
これまで散々みんなに甘えっぱなしでその上……というのもある。あるが。
「うちの子達はみんないい子なんで、大丈夫っす!」
みんなのためにミカ様引っ張ってくるのやめました、とか言ったらそっちの方が怒られる案件だと思うのだ。
いいんだ。迷惑かけた分は働いて返せば良い。俺も、ミカ様も。
ぱぱっと弁当セットを仕舞って、ミカ様の手を掴む。
「ナギちゃん様のとこ行って許可もらいましょう。先生さんにもお願いして口添えしてもらって、足りないようならミネ団長とかツルギパイセンにも頼んで……きっと大丈夫です」
「う、うん……」
軽く手を引けば大した抵抗もなく立ち上がり、逆の手で目元を隠した。
物理的にはあんなにも強いのに、メンタル的には普通の女の子なんだこの人。ちょっと乱高下激しいが。
「許可します」
「やったぜ」
すげえあっさり! ナギちゃん様に会いに行ってミカ様の庭園部加入を願い出たところ一瞬だった。
道中連絡していざとなったら説得してもらおうと通話繋ぎっぱなしだった先生さんもわぁ良かったねえとのんきしている。
「えっと、ナギちゃん? そんな簡単に……大丈夫なの? 私学業専念で勉強と奉仕活動以外だめーって話じゃ……」
「庭園部は非常に公共性の高い、委員会に近い部活動です。ミカさんの奉仕活動の代替として扱っても特に問題はありません*19」
いつものように紅茶を楽しみながら、そしてとても機嫌良さそうにナギちゃん様は言う。
まぁ確かにね。俺もそうだと思ってた。校舎周辺の植木全部世話してるもん。
花壇も大半、トリニティ自慢の大温室の管理もだし。半分公共事業だよ。
いやあ良かった良かった。さっすがナギちゃん様話が分かるぅ~!
「……本当にいいの? 迷惑じゃない?」
「まさかミカさんが他人の迷惑を気にする日がくるとは……長生きはするものですね」
「ちょっと! ナギちゃん!? 私そこまで傍若無人じゃ……ちょっとはアレだったかもしれないけど……!*20」
「冗談です。あなたの好きな会話の潤滑油というやつですよ」
顔を赤くするミカ様に、ナギちゃん様はクスクスと笑う。幼馴染同士の気安い空気。
一口また紅茶を含んで、今度は真面目な調子で。
「……贖罪の道は、薊の棘と茨に覆われていなければならない。そう言う人もいるでしょうし、私自身もそうあらねばならないのではないかと思うこともあります。……ですが、友人がその道を行くのを止められるなら止めましょう。傷つき苦しむことと罪を贖うことは別のことです」
「ナギちゃん……」
責任を取る道は身投げみたいなのじゃなくて、もっとずっと地味で真っ当な道ってアカギも言ってたもんな。
まさしく地味オブ地味で真っ当だぜうちは。
「ミカさんのこと、よろしくお願いしますね、ワカナさん」
「うす! 任せてください!」
ぐっとガッツポーズして請け負う。面倒だったり大変だったりトラブルあったりするかもしれない。
でも、潤んだ瞳をナギちゃん様に見られないようにそっぽ向いてるこの人の雰囲気がすっかり緩んでるのを見れば、それくらいなんてことないように思えるのだ。
しばらくナギちゃん様とお茶会した後、なんとなくぽやぽやと現実感のない感じのミカ様を連れて、意気揚々と部室に向かう。
古びて軋むドアを開け中に入れば、駄弁っていたらしい何人かの後輩ちゃん達がこちらを見て目を丸くする。本物のお姫様だ! なんでこんなとこに!? なんて。
うむ、姫をさらってきたのだ。ということでミカ様の方に振り返り、両手を大きく広げる。
俺がここに来たときしてもらったように。ここがきっとあなたの帰りたいと思える場所になるように。
「トリニティ総合学園、庭園部へようこそ!!!」
「~~~っ! うん!」
タックルじみた勢いで抱きしめられて、ぐるんぐるん振り回される。
勢いが弱まり足がついたタイミングで反撃、立場逆転。持ち上げてグルグルぶん回す。
ほんとに色々あったけど、これだけは変わらない。
「あの……」
「ん? どうかしたー?」
いやどうかしたじゃなくて。
仕事合間の休憩タイム。葉もまばらになった木陰に座り、秋晴れの木漏れ日にぬくもりながら……ぬいぐるみみたいに抱きすくめられていた。
耳元で脳みそ蕩ける囁き攻撃を受けながら、耳たぶだの頬だの髪に翼に、暇つぶしなのかちょいちょいいじられ。
なんだ? 新手の拷問か? しんでしまうぞ?
ミカ様は華があるから他の子達にもモテモテで、特に温室班の熱烈オファーを受けていた。まあね、温室で優雅にお花の世話するお姫様似合うと思うよね実際。
でも俺と一緒がいいと言うので一緒にお外で肉体労働だ。ほっそいのにメタクソパワーあるから全然苦にしてなかったけど。
普段のお団子付きロングヘアをポニテにまとめて、庭園部のエプロンつけたミカ様はとてもとても良いのだが、とにもかくにも近い。
高い化粧品とか全然使えなくなっちゃってみたいな愚痴も聞いたが、そんなん関係なくやたらいい匂いだし困る困らない困る。
「イヤ?」
「全然嫌じゃないっすけど!」
嫌じゃないけどこまーる!
「ふふっ……なんか、幸せーって感じ」
……そんならまあ、いいか。
この人がニコニコしていて、キラキラしている。それだけで俺は満足だ。
「……ワカナちゃんが悪いんだからね? 絶対、離さないから」
キラキラどころか若干ダークオーラを発しながら耳元でぼそりと呟くミカ様。
色んな意味でぞわぞわと背筋に悪寒が走り身震いするがそれも一瞬のこと。ミカ様はふんふんと鼻歌を歌いながらふわふわニコニコキラキラしている。なんだ気のせいか……。
そんな俺らを通りすがりの……いや様子を見に来たんだろうか。セイア様があちゃーやってしまったねえ、みたいな顔で遠目に見ていた。
後日、モモトークにセイア様からその時の写真が送られてくる。教えてないのに当たり前のように俺のID知ってんなこの人。
俺をホールドしているミカ様は、本当にそれはもう幸せーみたいな顔をしていた。
以上!終わり!閉廷!
ということでタイトル回収してミカを幸せーにしてエンディングでした。ここだけはもう書きはじめから決まってたんですがまあ紆余曲折を経てという感じですね。こんなに長くなると思わなかった。2~30話くらいで終わるやろなあみたいな感じで書き始めたんで倍くらいになってますかね……。
ここまで長編書くのは初めてというか、2~30万字、いやもう10万字超えたくらいから既に若干キャパオーバーの兆しが見えてたような気もするんですが、公式設定と二次創作設定と自分で実際書いたやつとボツにした設定と頭の中で混ざりあってわけわかんなくなりつつあったというか。ここまで多くなると読み返すのも中々ですし……。期間的にも半年とかかかっちゃいましたし、長編書くの大変だなあというのをひしひしと噛み締めながらの後半戦でした。
それでもやってこれたのはやはりリアクションもらえる楽しさがあったからこそですね。改めまして、感想評価お気に入りここすき誤字報告等ありがとうございました。本当に励みになりました。ここが好きとかこれが良かったみたいなのはマジで嬉しいですね。
それで今後のことなんですが、そもそも書き始めるにあたって、ブルアカシナリオ全部追うとか絶対無理だからエデン条約に絞ってやろうみたいなのがありましたし、作者の脳みそ的に限界を迎えつつあるというか、最終編とか把握できてない部分が多かったりもしますしキリよくここで終わっといたほうがいいんじゃないかという気もするんですが、最終編ヒエロ戦ペロロジラ戦とかそれこそ百花繚乱編でこのシーンやりたいなあみたいな部分部分の案はあり……。どうしよっかなあという感じです。
とりあえず絆ストーリーみたいなやつとかハナコハの海イベとか救護騎士団クリスマスイベとか単発的にやれそうなやつはやるかなあみたいな気でいるんですが。あとは庭園部のオリジナルイベストみたいなのとか。今までもわりとアレでしたが不定期になんか更新できたらしていくみたいな感じになるかと思います。
ともかくひとまず本作は本編完結という感じです。
最後まで読んでくださってありがとうございました。