トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
オリイベストみたいな感じのやつですが完成してないので後でそこそこ修正入れるかもしれません。
「ううむ……」
庭園部の部室、古いレンガ造りの建物の一室で俺は届いた手紙を広げていた。
時候の挨拶から始まり、色々と礼儀や形式に則っているのだろうすごくきちんとした達筆の文章。ぶっちゃけ読みづらくて仕方ないが、誠意に溢れているのは感じる。
パチパチと暖炉にくべた薪がはぜる音だけが小さく響いている。
冬の始まり、初霜も降りて朝晩に果樹園を歩けば足元からパキパキ音がする、そんな時期。
辞書を引き引きどうにか読み下した手紙の内容は、古くから付き合いのある老舗洋菓子店『Flowing Honey』からの契約解除の連絡だった。
前に聞いた覚えがあるが、シーズンごとに季節の果物を直接取引する契約が続くことなんと三桁年以上。お得意さんってレベルじゃねーぞというレベルのお得意さんからの残念なお知らせ。
老店主の健康問題から店を畳むことにするという、そりゃどうしようもないよなという理由も添えられて。
去年には部長と一緒に軽トラに果物積んで、郊外にあるこの店まで行ったこともあるのだ。
今年もリンゴ山盛りにして行くはずだったのだが、その矢先にこれである。
店主のお爺ちゃんわんこがすげえ歓迎してくれて、新作のお菓子だなんだ食わせてくれたり部員のみんなへのお土産も色々持たせてくれたり、楽しかった思い出があるだけにとても悲しい。
「返事を……書くべきだよなあ」
仕事のやり取りは基本メールなりキーボードで打ち込んだ書類なりでやるのでここまでさほど問題にはならなかったのだが、自慢じゃないが俺は字が汚い。
雑な性格が現れているのか不器用さのせいなのか、普通に書けば普通に汚い。
ゆっくり落ち着いて丁寧に書けば多少下手でも大丈夫ですよ、とか言われて実際丁寧に書こうとしてもへにょへにょになって判読が難しくなる。
どうしようもないタイプのヘタクソなのだ。
購買で買ってきたいい匂いのするちょっと素敵な感じの便箋を睨み、ペンを取る。
気持ちのこもった物には相応の物を返したい。だが、ううむ……心を込めたところで汚い字は汚いままなのでは?
そもそも心を込めるってなんだよ。心ってなんだ。わからん。もう何もわからん。
ペンを上げたりおろしたりしながら頭グルグルさせていたところ、パタパタとスリッパの音が耳に届く。
もう結構遅い時間で、部員のみんなは大体帰宅してると思うんだが誰だろうか。
「あ、いたいた。ワカナちゃんまだ残ってるって聞いたけどどうしたの? なにかあった?」
足音の主はミカ様だった。最近はおなじみになってきたポニテに作業用エプロンの庭園部スタイルである。
シンプルに仕事ができるため、すごい勢いで庭園部に馴染みつつあるところ。
イチカちゃんが物事の要領を掴むのが上手い、スキルとかで成功率上げるタイプの器用万能とすると、ミカ様は素のステータスが高くて結果的に何でもできるタイプって感じだ。
仕事の覚えは早いしパワーとタフネスは有り余るほどのなので外仕事も苦にしない。
事務仕事になるとそもそもうちがどちらかといえば脳筋集団なのもあって既にトップの実力だ。
比較的得意でお任せしてた3年の先輩や同期にあれこれ聞かれてさっと答えてすごいすごいとなっているのも割とよく見る光景。
本人は全然得意じゃないーなんて言ってるが、それはまあその手の能力トップクラスのナギちゃん様と予知やら勘やらチートで答え合わせから入るようなセイア様と比べたらという話。普通にできる人なのである。
そんなこんなで、最初は色々と遠慮がちだったミカ様も随分明るさを取り戻してきたように思う。後輩ちゃんたちがグイグイ行くのも大きいだろうか。
その分ノリと勢いで変なことやって爆発するみたいな案件もぽつぽつ出てきたが、まあそこはご愛嬌と言ったところか。
ともかくお手紙についてカクカクシカジカご説明。
「ふぅん……あ、このお店知ってるよ。ティーパーティーのお茶会とかイベントでここのお菓子出ること結構あったんだけど……そっか、やめちゃうんだ……」
達筆で埋められた便箋をぱらりぱらりとめくってそう言うミカ様。
やっぱ老舗だけあってすごいとこだったらしい。
「えっと、それじゃせっかくだしミカ様お返事書いてくれませんか。俺字ぃきたねーし印刷だと味気ないんで……」
「えっと、こういうのは新入りの私じゃなくて、直接付き合いのあったワカナちゃんが書いたほうがいいと思うけど……。あ、そうだ。それじゃこうしよっか☆」
いいこと思いついたとひょいと俺の脇に手を入れて持ち上げたミカ様は、椅子に座って俺を戻す。ミカ様の膝上ポジションである。
柔らかいしあったかいし良い匂いするしちょうど耳元囁きになって脳みそゾワゾワするし。
結構頻繁にぬいぐるみ扱いでひょいひょい振り回されるのだが、この感触いつまで経っても慣れない。
いや自分でもどうかと思うんだが、特に誰もツッコミ入れないので最近若干定位置になりかけている……。
「はい、ペンしっかり持って~」
「へぇあっ!?」
頭ぽわぽわしていた俺の手を上から握って、二人羽織状態のままミカ様はサラサラと便箋に時候の挨拶などを書き込んでいく。
手紙読んだ時の気持ちやらエピソードトークやら根掘り葉掘り聞かれ、ぽつぽつ答えたそれが恐らくなんかいい感じに変換されてまたサラサラ。
ちょっと丸っこいが綺麗な字で小一時間もしないうちに返信が完成していた。
閉店悲しいとかお菓子めっちゃ美味しかったですとか、俺が普通に書いたら小学生の読書感想文みたいになりそうだった内容がなんとなく格調高い文章になっている。
「はい、こんな感じでオッケーかな。一応ワカナちゃん直筆ってことで」
「ズルな気もするけど、まあそういうことにしといてください……」
ていうかすごいな。やはりこういうお手紙スキルは偉い人には必須だったりするのだろうか。
「マナーと礼法の授業でやったと思うけど……」
「……?」
全く記憶にない顔をしていたらしょうがないなあと頬をブニブニされる。
いや言われてみれば1年の頃なんかそんなのあったなあという気もする。
でもそんないかにもなお嬢様スキルなんて一生使わねえだろうなあと思うじゃん。
テスト終わったら秒で忘れるじゃん義務教育の敗北。いや一応高校生だけど。
上流階級っぽい礼儀作法なんて俺には全く無関係なものだと思っていたが、案外必要だったりするのだろうか。
ナギちゃん様とか何をするにも所作が綺麗だし、ミカ様も雑というかカジュアルに見えて細かいとこキチンとしてるし。
そういう人たちと一緒にいるなら俺もしっかりしないとなのだろうか? できる気しねぇけど……。
「絶対必要ってわけじゃないけど、お友達相手じゃなくて外の大人の人相手だし、誤解は無い方がいいからねー」
お手紙とかはフツーにワカナちゃんが自分の言葉で書いても問題ないっていうか、そっちの方がいいくらいかもだけど一応ね、と続けるミカ様。
「ナギちゃんなんかはこういうのを相手のための思いやりっていうし、私はあると便利なツールだと思うけど……ワカナちゃんは飾らない感じが素敵だから、どうだろうね」
飾らないというか色々雑すぎて概ねノーガード状態というか……。
まーあんまり気にしなくていいんじゃないと言うミカ様にブニブニされつつ、便箋を畳んで封をして、ポストに出せる状態に。
「と、ともかく。ありがとうございますミカ様。これでお爺ちゃんにちゃんとしたお手紙出せる……」
「うん。それじゃ今度の休みに一緒にお見舞い行こうね」
「ほぇ?」
「行かないの? お手紙にも書いちゃったけど」
なにそれ聞いてない。いや書いてあったのか? 書いてあったような、なかったような……。
回りくどい表現わかんねえんだ。
「行っていいんすかね。邪魔だったり迷惑になったり……」
「そんなことないと思うけど、仮にそうだったらちょっと挨拶だけしてすぐ帰ってくればいいよ」
そ、そんなもんなのか? あと口実というか、仕事で行くとかじゃなくて人に会いに行くというのはちょっと俺的にハードル高いところがあるんだが……。
いやこの場合はお見舞いが口実になるのか? 仕事で1回会っただけとはいえ良い人(?)だったのは間違いないし会いたくないわけでもないんだけど。
「ということでこの日はワカナちゃんとデートでけってーい!」
「デ……! りょ、了解っす……」
ニコニコしながらスマホのスケジュールアプリの画面を見せてくるミカ様。
共有できる設定になってたやつなので俺も確認すると、デカいピンクのハートマーク付きでデートの日程が書き込まれていた。
うおぉ、なんかすげえムズムズする……。
いやまぁミカ様としては軽いジョークみたいなもんなんだろうが、推しにデートとか言われると爆散しそうになるんだとわかって欲しいめっちゃ楽しそうに予定立ててる姿にでなんも言えぬ。
部活帰りに買食いとかは既にちょいちょいやってるんだけどね。
改めて一緒に出かけるというのはまた違うものがあるよね……。
「お見舞い品は~、パティシエにお菓子ってのもなんだし、お茶っ葉とかがいいかな? またお給料も入ったしちょっと良い紅茶買って……」
「や、それは俺が出しますんで」
庭園部の給料はそんなに悪いものではないのだが、生粋のお嬢様の金銭感覚には全く耐えられなかったらしく、前回ミカ様のお財布が即死して涙目になっていたのも記憶に新しい。
俺もいい感じの羽飾りとかプレゼントされてしまって嬉しいけど大丈夫か? って感じだったが案の定だったのだ。
「んん、でも私が言い出したことだし……それにね! 先生に相談したらお小遣い帳アプリ入れようって言われて、おそろいのやつ使ってるから! へーきへーき!」
大丈夫かよとジト目で見ていたらわたわたと手を振り、ほらほらとまたスマホを見せてくる。
確かに先月分はマジで一瞬で消えていたが今月はかなりセーブしているご様子。とはいえ微妙に衝動買いの形跡もあるが……。
「まあそれは良いことっすけど、ともかく俺が出します。なんならナギちゃん様が送ってくるやつ横流しでもいいですし」
なんか闇取引染みた俺宛てに来るナギちゃん様からミカ様への荷物だが、その中でもいかにも高そうな紅茶の茶葉は結構な量を占める。
渡してもミカ様が一人じゃ飲みきれないからと言って部室に置いてくから共有物みたいになってるが。
トリニティ生らしくうちの子たちも紅茶党が多いので職場環境向上に繋がっている模様……とまあそれはいいのだが。
ミカ様がそれはちょっとと首をひねっているのでナギちゃん様にモモトーク。
知人へのお見舞いに渡して良いかと問えば構いません、その方にもお大事になさるよう伝えてください、と秒で返ってくる。
少し遅れてセイア様からもセカンドフラッシュよりもオータムナル*1の方が喜んでもらえるだろうと助言が。
誰に渡すかとかナギちゃん様から送られてきた茶葉で封切ってないのどれとか何も言ってないんだが、勘の一言で大体正解引いてくるからなあの人……。
ちなみにナギちゃん様とのモモトーク交換もセイア様経由で勝手に行われていた。メールでやり取りするのがいい加減面倒になったのでちょうどよかったけど。
傍から見ればいかにも陰謀渦巻いてそうなティーパーティートップ3のトークグループだが案外アホみたいな話題も多かったり……。
まあともかくミカ様がナギちゃん様にお礼言ったりドヤ顔フォックススタンプ連打にキレ顔スタンプで応酬してるところにサンキューウェーブキャットを投げておく。
最近モモフレンズレースで尺取り虫みたいな動きしているのを見てわりとショックを受けているが、あれは見なかったことにしておきたい……*2。
そんなこんなで良い茶葉持って老店主のもとを訪ねることが決まったのだった。
「へぇ……立地はちょっと不便だけど、いい感じのお店だね」
「っすね。風格あるっていうか」
後日、駅前で待ち合わせして待った? いま来たとこ、など定番のやり取り遊びなどしつつ電車とバスを乗り継いで洋菓子店の前まで来ていた。
かつては賑わっていたのだろう旧市街の商店街。数十年、もしかしたら数百年の時をほとんど変わらず過ごしてきたのだろう洋風建築群。
風雨にさらされ装飾が剥げたClosedの看板がいくつもぶら下がる中に紛れてその店はあった。
小さな建物は周囲と違い屋根も壁も定期的に塗り直しているのだろう、少し褪せてしまっているが、絵本の中にでも出てきそうな可愛らしい佇まい。食欲をそそる甘い香りも漂っている。どうやら今も営業しているようだ。
「大型の契約は解除、今年度は縮小営業、来年度から休業か廃業を決める、って話だったけど……。すごい病気して動けないとかそういうのではないみたいだね」
「ちゃんとお店やってるみたいですもんね。良かった、いやあんまり良くないのかな。無理してたりしないかちょっと心配っすね……」
「まあとにかく入ってみようよ。ごめんくださーい」
ミカ様と一緒にカランカランとドアベルを鳴らしながら店の中へ入る。
店の中もあまり広くはないが、洒落たデザインの椅子や机がいくつか並べられ、店内でお菓子を食べられるようになって……。
「てやんでぃべらぼうめ! てめぇのような輩にウチの看板は預けられねえよ!!!」
「チッ! 後悔するなよ、爺さん……!」
店の奥から怒号が響き、思わず固まる。
ミカ様と二人、何事かと顔を見合わせていると、数人の男たち……兵隊っぽいロボ数体を引き連れたビジネスマンっぽいロボの人がドヤドヤと奥から出てきてこちらに向かってくる。
「邪魔だ! 見せもんじゃねえぞ!」
「きゃっ」
ドンとミカ様を突き飛ばし無理やり道を開けるロボ男……は? なんだお前ぶちのめすぞ。
お手軽必殺キラキラ紅蓮腕でミイラ男にジョブチェンジさせてやろうと伸ばした腕がぎゅっと握られ火の粉が散る。全く動けん。合気の技……? *3
「ワカナちゃんステイステイ。私は全然平気だから」
「でも……!」
「いいから。それにほら、普通の様子じゃなかったし、店長さんに話聞きに行こ、ね?」
「それは、そうっすね……」
一瞬で沸騰したハラワタがまだグツグツしているが、宥めるようにポンポンと頭を撫でられどうにか抑える。
乱暴にドアを閉めて出ていったロボたちのことはひとまず忘れて、店の奥へと向かった。
「なんだ!? 何度言われようがうちは……! っとすまんね。さっきの奴らが戻ってきたのかと……おお、庭園部さんとこの」
「はい、こんちゃっす。庭園部の軽部ワカナっす」
老店主……二足歩行わんこの人なのでぶっちゃけ年齢とか性別とかだいぶわかりにくいのだが、多分お爺ちゃんわんこに頭を下げる。
ヨークシャーテリアとかそんな感じの犬種っぽいお爺ちゃんは険しくしていた表情を崩し、よう来たよう来たと歓迎してくれた。
「覚えとるよぉ。ちんまいのにすごい力持ちで驚いたもんだ。そっちの子は初めてだね」
「はい。新入部員で、聖園ミカです」
「そうかそうか。こんな遠い所まで悪いね。どれ、お茶とお菓子でも……あいたたた」
腰を押さえてうずくまる老店主。何事かと駆け寄れば、数ヶ月前に階段から落ちて腰をやってしまったのだとか。健康不安ってそういうことかよ!
「いや、本当に悪いねお客さんに……ここんとこはだいぶマシになってたんだけど、怒鳴ったらなんか変なとこに響いちまったみたいだな……」
お爺ちゃんわんこを座らせ、私がやるからとテキパキとお茶の準備はじめたミカ様の指示に従い食器を並べ、淹れてもらった良い香りの紅茶を楽しんで一息。
好きなの出していいからと、おじいちゃんわんこに言われてショーケースから持ってきた定番メニューのはちみつりんごケーキも実に美味しい。
「まあ、そういうわけでさ。短い時間なら大丈夫なんだけど長時間はな。製菓は朝から晩まで力仕事立ち仕事だし、ちょっとは治ってきたといえ、やっぱり年だから。今まで通りには続けられねえなあってことでさ……」
改めて事情を話し、本当に申し訳ないと頭を下げるお爺ちゃん。わたわたしながらやめてくれやめてくれと頭を上げてもらう。
まあ、本当に仕方のないことだ。残念ではあるが……。
「ところでその、さっきの奴らは……」
お爺ちゃんわんこは顔をしかめ、あぁと唸る。
紅茶をぐいと飲み干してから語ることにはどうも同業者、大手の洋菓子チェーン店『Mensa Secunda』の人間……ロボ? まあそこの経営者らしい。
「あいつら、ウチの看板が欲しいとかでな……」
閉店する老舗の看板を使って新ブランドを作りたい、というのが最初の話だったそうだ。
その洋菓子チェーン『Mensa Secunda』はトリニティでは比較的新しく勢力を伸ばしてきた会社で、お値段的にもどっちかといえば学生向けでリーズナブル。老舗の看板を使って高級志向の新規顧客層を開拓するぞ、ということなのだろう。
「まあ、ちっと悩んだよ。曾祖父さんの祖父さんの代からやってる店だ。人手に渡っちまっても、名前だけでも残るんならいいかもしれねえってさ。だがなあ……」
どうしたものかと悩んで答えを引き伸ばしていたら、先方はさっきのようにチンピラロボを引き連れて恫喝まがいの手段に。
どう考えてもろくなものではないからと断ることを決めたそうだ。
「真っ当な商売しそうにないっすもんね」
交渉にヤクザ者を使うとかどう考えても暗黒メガコーポで確定である。
「そうだねー……でも、本当にこのお店無くなっちゃうのは残念だよ。ティーパーティーでも御用達だったのに」
おや、とお爺ちゃんわんこは瞬きして、クシャッと笑顔を浮かべる。
愛嬌がすごい。とっさに撫でたくなるのをどうにか抑え、手はお膝。見た目わんこでも人間? だからな……。
「そうさ、よく知ってるね。お嬢さん、関係者なのかい? うちは祖父さんのころからティーパーティーさんはお得意様だから、トリニティで一番のケーキ屋だなんて言われることもあってね。そりゃあ自慢にしてたもんだよ」
「えっと、その……イベントとかで何度も食べることがあって。友達と一緒に。すごく美味しくて……」
ミカ様とお爺ちゃんがティーパーティーの行事で出されたケーキに思い出話を咲かせる。
俺も去年試食させてもらった新作ケーキがティーパーティーのクリスマスや新年のイベントで出されてたり、なんというかマジで思ってたよりすごい店だったようだここは。
一般生徒向けの食堂の方にもたまに出てたって言うから、偉い人以外もトリニティ生ならみんなここの味を知ってるかもしれない。
「……やっぱりやだな、お店無くなっちゃうの。どうにかならないのかな」
「ごめんなあ……。息子がな、家業継ぐの嫌がってよ。喧嘩別れしてそれっきりだ。そん時俺も意地になって、俺の代で店は終わりだなんて決め込んじまってさ。思えば弟子でも取って、ちゃんと育ててりゃあ良かったのかもな……」
楽しい思い出話に盛り上がり、しかし最後にしんみりした感じになってみんなでほうと息を吐く。
大切なものが無くなってしまうというのはきっと耐え難いことなのだろう。だが、どう考えても物理でなんとかできる問題ではない以上、俺にできることもない……。
「……ちゃんとしたパティシエさんがいれば、お店続けてくれるの?」
「ん? あ、ああ……だがなあお嬢さん。一から育てる時間もないし、短時間でうちの味を仕込むにしても生半可な腕じゃ認められねえ。俺もこうなって心当たりはあたってみたが、腕の良い職人はとっくに良いとこに勤めてるか自分の店持ってるからな……」
「なんとかする! なんとかするから、ちょっと待ってて!」
バッと立ち上がって叫ぶミカ様に、お爺ちゃんわんこはびっくりしたようだったが、勢いに押されて頷いた。
そのままミカ様に手を引かれて店を出る。
「あ、あの……ミカ様? なんかパティシエさんに伝手とかあるんすか?」
「……ないね! 色々ある気がしたけど、考えてみたら私のそういう伝手とかコネとかってティーパーティーの肩書きありきだから全部駄目!*4 ……どうしよう、ワカナちゃん」
しばらく首をひねった後、困ったように眉根を寄せるミカ様。
おいコラ勢いだけかよ。
「俺はそれこそこのお店みたいにうちの果物納品してるとこと繋がりはありますけど……パティシエさんは大体個人店の店長さんとか跡継ぎの人だし、あとは卸売業者とか食品工場とかそういう系ですし……」
老舗洋菓子店を継げる凄腕パティシエなんてその辺からポンポン湧いてくるわけないんだよなあ。
しかしそんな話をしているうちにじわりじわりとミカ様の瞳が潤んでくる。
「入学してから最初にセイアちゃんとナギちゃんと一緒に食べたのもここのケーキだったんだ。思い出の味っていうのかな。そういうのも、いつかは無くなっちゃうものなのかもしれないけど……でも、それでも……」
ああ、もう。ほんとにもーだよ!
きっとしょうがないことなのだ。理不尽だとか、誰かの悪意だとか、そういうのではなく。いつの間にか無くなっていた行きつけの店、好きだったバンドの路線変更、生産終了したお気に入りだったコンビニの惣菜パン。
自然なこと。受け入れなきゃいけない日常の小さな絶望。
だがまあ、俺だって別にそんなに諦めがいいわけじゃない。ポケットからスマホを取り出す。
「もしもし、宇沢ちゃん? ワカナです……うるせえ! ちょっと頼み事というか、聞きたいことがあって……うん、ほら、あの宇沢ちゃんの友達の……いやそっちではなくピンクの、そうそう。その子の連絡先を……あ、そう? じゃあ頼むわ……うん、うん、はーいよろしく」
首を傾げるミカ様にグッとサムズアップを向ける。
こういうのは専門家……専門家か? いやまあたぶんそうだろ。一応ちゃんと部活として認められてるわけだし……。
ともかく専門家集団とのアポを取ることに成功したため事態が好転することは間違いないだろう。
……いやどうかな。わかんねえわ。
樹液でできたつらら食って腹壊したとかアホアホエピソード聞いているからやや不安。
だがまあ、ともかくもここで二人でうんうん唸ってるよりはいいはずだ、きっと。
超お久しぶりです。気づけば全然書けないまま1月終わっててどうにか2月中に投下できたらなあという感じだったんですが、ミカのバレンタイン良かったねえ!と言うためだけにとりあえず1話投下します。
頑張ってるところ見てるよというのは言いたかったし言って欲しかったし言ってくれて良かった!という感じ。メンタル平常ならわりとなんでもそつなくこなしそうなイメージあったんですがちょっと失敗しつつ頑張って作ってくれたというのもまた良き。ミカのスケジュール全部把握してるよはヤベえなこいつでしたが、思えば先生はわりといっつもそんな感じだから普通だな!
ミカ絆がおいたわしかったのが本作のスタート地点だったりするので、バレンタインで救済欲しいなあ、からのこれはねとても嬉しいですね。
あとは5thPVの透明感溢れまくってるトリニティ文化祭とかスイーツ部バンドとか水着アリウスとかナギちゃんの謎のロールケーキ展とか一向に来ないセクシーセイアとかまさかのドレスサオリとかとにかく色々ありましたがとにかく今年も一年楽しくブルアカ追えそうです。
オリイベストですが完成度が6~7割くらいで最終的に4万字前後くらいになりそうかなあというところで、3連休ちょっと出かけるので今月末か来月頭には完成できるかなあと言う感じです。
完成するかまた言いたいことができたら続き投下しますのでお待ち下さい。