トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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6話 みんなでお勉強会

 言い訳をさせて欲しい。

 

 俺は見た目は金髪ロリ、中身はぼちぼちの私文大学卒業社会人数年目だ。謎の力で謎に異世界転生しているが、キヴォトスは普通に現代、まあ近未来っぽい社会だ。高校生の勉強くらい、楽勝とは言わないまでもまあまあなんとか乗り切るくらいのことはできるはずだ。誰だってそう思う。俺もそう思ってた。

 

 しかしこれを見て欲しい。一年の科目だ。国語・数学・外国語・物理・生物・化学・地学・政治経済・地理・キヴォトス史・トリニティ史・音楽・美術・体育・家庭科・テーブルマナー・神学である。一部選択必修、他にも色々選択科目があるが、多くの必修科目は単位取得の必要がある。

 

 変なの混じってるなあというのがまず見て分かるだろうが、それよりも重要なのは知識系があんまり通用しないことである。キヴォトス史ってなんやねんこちとら日本史選択やぞ。国語すらなんかクセがあるというか、教科書に知ってる作者の名前が全然ねえんだ。そのわりに故事成語の元になった人物とかエピソードは半端に符合してるし意味わかんねえよ。

 

 地理とか言わずもがなで前回バレたが小学校レベルの知識も怪しい。政経もなんか妙というか学園自治の理念がどうのこうのみたいなやはり耳に馴染まない感じの内容。音楽・美術すら音楽史美術史部分は壊滅だし、一応共通してるっぽい音楽理論とかの部分はほんのり分かるがほぼ忘却の彼方だった。神学とかいう謎の科目は経典の内容読んで~みたいな覚えゲーの雰囲気はあったがやはり馴染みがなさすぎてキツイ。

 

 外国語は色々選択できるがまあ基本普通に英語で、例文とか単語集の硝煙臭が強いくらいでこれは特に問題ない。キヴォトス中どこ行っても普通に日本語通じるのになぜ外国語学ぶ必要があるのかはよくわからんが、これも教養科目ということだろうか。ラテン語なんかも選択科目であるしな。古文っていうかキヴォトス古語とかいうへにょへにょのたくった謎の文字を読む科目も選択であったりする。これは流石に取ってる人見たことないけど。

 

 ほとんどの授業はBDの映像授業で、喋ってる講師はロボとか犬とか猫とか、教科書の人物写真も美少女or二足歩行の犬猫ロボである。たまに雀とかもいる。和む。可愛い。テーブルマナーの授業BDなんかは二足歩行猫さんがナイフとフォークで上品にメシを食うおもしろ映像としか認識できず何も頭に入ってこなかった。可愛かった。

 

 なにが言いたいかと言えば現世の、キヴォトス風に言えば外の常識が邪魔して学習効率が著しく悪いのだ。俺が特別アホの子なわけではないことを是非是非理解されたい。見た目は子供、頭脳は大人を地で行く存在なのだ、俺は。

 

 え? 理系科目? まあそれは概ね現世同様らしいですけどね。元からわかんねーからなんともいえない。全部公式丸暗記一夜漬けで乗り越えて文理選択を機にバッサリ捨てたのでなんにも覚えてないです……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うーん……なんといいますか、壊滅的ですね……」

「どうしてこんなになるまで放っておいたんですか!」

 

「ぅあぁぁあぁぁぁ~……」

 

 とりあえず現状の実力を確かめようということでやった主要科目の模擬テストの結果は惨憺たる有様であった。俺の答案を眺めるヒフミちゃんは痛ましげな表情で目を伏せ、セリナちゃんにはがっくんがっくん揺さぶられ魂が抜け出る。自分でもここまでできないとは思わなかった。

 

 でも考えてもみてくれ。ほぼほぼ映像授業で自習! みたいな状況でしっかり勉強できる人間がどれだけいる? 俺みたいなやつはそんなに珍しくないはずだ。赤点ラインが低かったりするんじゃないか? 

 

「全教科60点ですよ!」

「えぇっと……現状のままですと追試・補習で夏休み没収が割りと現実的になってしまうラインかと……」

 

 無慈悲な現実を叫ぶセリナちゃんと冷や汗タラリのヒフミちゃん。ウソでしょ。みんなそんなに真面目なの? しかも夏休み没収? ちょっと待って欲しい。

 

「夏休みは部活めっちゃ忙しいって言われてるからそれは困る!」

 

 期待されているのだ。人間重機としてとか戦闘員としてとか、正直どうかと思う部分もある。しかし良くしてもらったのだから。裏切りたくない期待になりつつある。シンプルに夏休みという学生の特権を奪われたくない気持ちもある。

 

「じゃあ勉強ですね」

「はい……」

 

 間髪入れずにド正論でぶん殴って背後に立ったセリナちゃんに、上から両肩をスッと押さえつけられもはや逃れられない。なんだろうね、この不思議な凄みは。

 

 初対面時の不気味な印象は大体どっかにいってしまって、付き合ってみれば白衣の天使を地で行く優しい良い子って感じだった。そんな子がなぜこんなにも逆らえない空気を出してくるのか。まあたまにワープしたり予知能力使ったりしてるでしょってなることはあるが。

 

「私も成績は普通くらいですけど、お手伝いしますから。一緒に頑張りましょうね!」

「よろしくお願いしますぅ……」

 

 えいえいむんと気合を入れるヒフミちゃん。普通普通と言うけれど普通の基準が高いというか、何をやらせてもだいたい高水準ですよねあなた。でもおっとりしてて嫌味がなくて可愛くて、はぁ、好き。折に触れて発生するキモい鳥マシンガントークを止めてくれたら完璧なんだけどな。しかしそれを言ったらただでは済まない気がする……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外となんとかなりそうですね……」

 

 そんなこんなで夏休みを守護るため、定期テスト対策の勉強をひたすら続け、程よいところで再びの模擬テストとなった。いつもの空き教室で結果を見て結構本気で驚き顔のヒフミちゃん。主要科目の点数は4~50点台が並び、総合得点では実に4倍以上のエネルギーゲインを叩き出していた。なんだかんだで暗記系はまあまあなんとかなるのだ。そして理系も暗記科目だ*1。つまり全部なんとかなる。

 

 若い脳ミソは本気を出せばぐんぐん吸収してくれるようで、かつての惨憺たる有様が嘘のようだ。やればできる子とはこの俺のことよ。ドヤった顔を微笑ましそうに見つめるヒフミちゃんと、普通にまだまだ油断しちゃまずい点数ですからねとほっぺグリグリしながら嗜めるセリナちゃん。

 

 ここ数週間、長いことずっと一緒にいたのでさらに距離が縮まった気がする。大体こういうタイミングで距離感ミスるコミュ障発動、縮まった距離がスイングバイで一気に離れて第三宇宙速度*2なのだが、今のところその気配はない。

 

 どうにも二人がびっくりするくらい人間できてるので、本当によっぽどのことがなければ大丈夫そうである。俺がロリなのでちょっとアレでも許されてるところもあるだろうか。同学年だけどヒフミちゃん俺よりだいぶデカいんだよな……。いやヒフミちゃんが平均身長くらいで俺がちっさいだけなんだけど。セリナちゃんもヒフミちゃんよりちょびっと小さいくらいなので並ぶと俺だけボコッと凹む*3

 

 まあともかくサボりを見張る人がいて、無理矢理にも勉強せざるをえない状況に追い込まれれば、それなりにできるようになるものだ。なんか頭に入りにくかった映像授業も横からちょいちょい解説されながらだと結構わかるようになったりしたし。

 

 ヒフミちゃんは文系が得意でセリナちゃんは理系が得意というのもよかった。俺一人世話になるんじゃなくて、二人もそれぞれ教えあって勉強していたからあんまり迷惑かけて悪いなみたいな感じにもならなかった。ちゃんとした勉強会だ。とりあえず赤点回避を目指して基礎を詰め込もう、というヒフミ先生の立てた方針に従い難しいとこは後回し、取れる点を落とさない、のテストの基本もしっかり守ってこの高得点である*4。わりとなんとかなりそうな空気が醸し出されていた。

 

「あはは……この調子でいけば定期試験も乗り切れそうですね。良かったぁ」

「理数科目も公式丸暗記でしか対応できないのはどうかと思いますが……。将来的に応用問題とかで困ることになってしまいます。ひとまずはいいですけど」

 

 しゃーないやんけ。数学的思考力とか言われてもさっぱりわからんのです。ヒフミちゃんも数学はそんな感じなので俺と同じく苦笑い。ややゆるゆるとしながらも続く勉強会。時折雑談を挟む余裕すらできていた。

 

「そういや二人は夏休みの予定とかどんな感じなの? 俺は多分ずーっと部活っぽいんだけど……」

「私も部活が主になりますね。研修会や勉強会、病院などの施設訪問に待機任務……。あと夏合宿もあります」

 

 定期テストが終わればもう夏だ。草木繁る季節、草刈りとか果樹の世話で庭園部はめちゃめちゃ忙しいという話を聞いていた。あと車とか機械類とか色々免許関係もまとめて取るとかで、既に夏休みなにそれみたいな感じになりそうだった。追試補習コンボをくらうとほんとに死ぬ。

 

 セリナちゃんも救護騎士団で似たような感じで忙しく過ごすらしい。本人はすごく楽しそうだからなんも問題ないんだろうが。俺は……半々くらいかなあ。まあ自堕落に過ごすよりはいいのかも。しんどそうだけど。

 

「お二人はなんだか充実してますね……。私は帰宅部なのでそういうのはあんまりないです。ペロロ様のイベントや映画に行ったりグッズを買いに行ったりするくらいでしょうか」

「ヒフミちゃんはなんか部活入ったりしないの?」

 

 わりとなんでもできるし、どこでもやってけそうな感じがするんだが。

 

「うぅん、そうですね。いまいちピンとくる所がなくて。どれもその、素敵だとは思いますが」

「ああ、まあ確かに。変なのかキツそうなのしかないかもしれない」

「いやあ、その、あはははは……」

 

 いわゆるふつーの部活があんまないんだよねこの世界。変なのは大量にあるけど。

 

「そういえばヒフミちゃんはティーパーティーへの加入を打診されたなんて聞きましたけれど……」

「はい。でもやっぱり私には荷が重いかなと……」

 

 ティーパーティー……っていうと確か生徒会みたいなもんだっけ。なんかパンフでちらっと見たな。お嬢様オブお嬢様の集いみたいな感じなんだろうか。表紙に写ってた紅茶の人はそれっぽかったが、謎シマエナガの人とかアイドルみてーなピンクの人とかはあんまそんな感じしなかったな。

 

「まあティーパーティーはかなり権謀術数渦巻いているという話もありますし、そうですね。ある程度距離をおいたほうがいいのかもしれません。救護騎士団も基本的にそういう方針のようです」

 

 頷き、水筒の紅茶で口を湿らすヒフミちゃん。まあ趣味に全力で生きたいという感じなのかもしれない。それはそれで青春だ。しかし権力と距離を置くってなんかカッコイイな。騎士団って時点でもうかなりカッコイイんだけど。

 

「庭園部も同じような方針と聞いていますよ?」

「へぁ?」

 

 植木屋さんと果樹農家の間の子みてーな部活に権力がなんだって? みたいな顔をした俺にセリナちゃんが説明してくれる。騎士団も庭園部も基本的に伝統墨守、部の活動をしっかりやって生徒会の派閥争いには関わらない、みたいな感じでやってきたそうな。あとはシスターフッドもそんな感じだとか。

 

「庭園部は救護騎士団と並んでトリニティでも最古級の部活と言われています。残っている記録は騎士団の方が古いのでこちらが最古と言われていますが、たぶん同じくらい昔からあっただろうと。庭園部の管理するリンゴ園は古聖堂と同じく、トリニティ成立の遥か以前からこの地で重要な場所だったそうです」

「トリニティでは歴史や伝統を重んじる方が多いですから、そういう意味ではかなり強い部活と伺ったことがありますね、私も。特別なイベントの時に、ティーパーティーの方しか食べられない、トリニティのリンゴを使った秘伝のレシピなんてものもあるとか」

 

 へぇ~そうなんだ顔をした俺に、なんで部員なのに知らねえんだ顔をする二人。いや、なんか聞いた覚えはある。新入部員歓迎会みたいなので部長がそんなこと言ってたような気もする。でもフルーツタルトが美味かったことしか覚えてねえんだ。アップルパイも美味かった。

 

 でもまあ確かにその後の作業で果樹園の中でも広大なリンゴ園、その中心部の古木が残るエリアは大事なとこだから完全に部外者立入禁止とか言われたような。リンゴの木の手入れの仕方とかドローンの操縦方法とか習った時だったから、実務に必要な情報以外は吹っ飛んでたわ。

 

「ともかく、庭園部は意外と注目度が高い部活ですから、ワカナちゃんもしゃんとしてないとダメですよ」

「はぁい……」

 

 ほんとかなぁ感が拭えなかったが、ママ味あふれるセリナちゃんに口答えすることもできず、演習問題を解くペンを再び動かし始める。正義実現委員会・救護騎士団・シスターフッド、この辺がトリニティの大きな部活で実際新入部員もかなり多いみたいなのだが、それに対して庭園部は俺含めても両手の指で足りるレベルだもん。

 

「やっぱ制服かなあ」

「何がですか?」

「着るならどれよっていう……」

 

 秒で集中力をなくしてノートの隅に落書きしたのを見せる。他とは違う黒セーラー・シスター服・ナース風の改造・上に作業用エプロンつけただけ。モデルは全部ヒフミちゃん。サッと簡単に描いたが思いの外可愛くできた。前3つはいかにも特別感があるが、最後のは調理実習かな? って感じである。足りないのは三角巾だけ。あはは……と視線が泳ぐヒフミちゃん。調理実習だけはないとでも言いたいのか。

 

「作業によってはこれにヘルメットとかフェイスガードとか麦わら帽子とか付きます」

 

 基本的にはダサさ倍満である。麦わら帽だけは夏っぽくて割といい感じかもしれないが。

 

「……確かにうちやシスターフッドは制服が可愛いから入るって子が結構いますね」

 

 セリナちゃんすら目をそらす。まあそのピンク制服気に入ってる感じだったもんね。実際可愛いし。……服装改革を主張してみようかね。いやまあ俺自身はどんなカッコでも別にかまわないっていうか、エプロン羽織るだけなのは楽ちんでいいんだけど。肉体労働の道連れをもっと増やしたいというか。

 

 細く開いた窓から気持ちの良い風が舞い込む。日差しは強く、ほんのすこし汗ばむ温度。早くもこの世界で初めての夏が訪れようとしていた。

*1
文系特有の公式・演習問題丸暗記戦法。

*2
太陽系脱出。

*3
ヒフミさん158cm、セリナちゃん156cmに対しワカナは147cmを想定。

*4
まだ赤点。




キヴォトスでは実際どういう勉強してんのってのがさっぱりわからないので今回の内容はわりと適当なんですが、案外重要な気はしています。歴史とか地理とかどう考えても世界観の根本に関わってくるんで。聖書の引用みたいなのちょくちょくあったりカーマスートラが存在するという事実を我々はどう受け止めるべきなのか。

あとワカナちゃんはおバカキャラで行きたいんですが留年されたり来年補習授業部に叩き込まれたりすると困るのでやればギリギリなんとかできる子程度の学力になりました。
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