トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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甘き河の流れは絶えずして5

「それではトリニティスイーツグランプリ、決勝戦を開始します! 司会進行は俺、庭園部部長軽部ワカナと」

「同じく庭園部、聖園ミカでお送りするね!」

 

 俺の自己紹介では集まった観客の一部からおぉ、とかあれが……とかなんかなんとも言えないどよめきと、普通に大会開始を盛り上げる声が。

 ミカ様がパタパタ小さく手を振るとキャーキャー黄色い声が。

 

 どうしてここまで差がついたのか。知名度・ビジュアル・女児受け・ニチアサプリンセス……。

 部活中のポニテスタイルはよその人にはわりとレアなのでそれもあるだろうか。まあともかくサクサク進行させていこう。

 

 まずはスイーツ大好き審査員団と特別審査員のお爺ちゃん、そして予選突破者のご紹介。審査員団のファンが普通に多いので妙な盛り上がりを見せつつも、改めて大会開催の簡単な経緯説明なんかもやっておく。

 トリニティ1と言われる洋菓子店の後継者探し、そしてトリニティ1の若手パティシエ決定戦。そんな話をしながら、参加者たちのキッチン入りを見守る。

 

 特設ステージには人数分の結構立派なキッチンが設置されているが、制限時間は小一時間程度で短めだ。流石に何時間もトークで場を持たせるとか無理無理なので……。

 3分クッキング形式で冷蔵庫で二時間寝かせたものがこちらになります的な、ある程度工程を終わらせた状態のものを持ち込むか、短時間で完成させられるものを作るかは腕の見せ所となっている。

 

 早速調理に入った参加者たちをカメラ切り替えながら紹介したり、何作ってるんだろうね~これはアレかみたいな話で会場を盛り上げる……。

 いやキツイなこれ! すげえ人いっぱいいる前でいっぱい喋るのめっちゃしんどい! 

 

 簡易の台本や進行表、参加者の資料なんかは用意されているがアドリブが求められる部分も多く、いちばん苦手な科目である。

 ミカ様が上手いこと話を振ってくれるからどうにかこうにかやれているが、もう帰りたい……。

 

 そもそもなんで引き受けたんだとか、プロの人雇えばいいのでは*1とかあるんだけどさ。

 目立つのは~のミカ様を引っ張り出すのに俺もやったんだからさ! というためには仕方なかった……。

 

 ミカ様は渋ったわりにそつなくこなしてるしよぉ。

 うぎぎぎぎと死にそうな内心を気合で押し込め、なんとかたぶん笑顔でどうにかこうにか制限時間を終える。

 

 ということでいざ実食タイムである。参加者1番手はスーパーパティシエロボアバンギャルドくん……ってロボじゃねーか。

 ロボ市民とかじゃなくてマジもんのロボである。出オチだよこんなん。

 

「なんだこいつ……」

「動きはすごく滑らかだったねー。見た目はダサ……ちょっと個性的だけど」

 

 会場中継では四本の腕を器用に使い、さらにドリルみたいに回転させたりしつつ素早く的確な調理を行っていた。

 見た目はクソダサ、というか顔がなんかとにかく酷いと言うか。ペッ○ーくんといい勝負してるレベルなのだが、技術力はあるようだ。

 

「……顔は関係ないわ。とにかく、食べてみてちょうだい」

 

 アバンギャルド君に随伴していた飛行ドローンが進行を促す。本人多忙につき会場に来られない製作者らしい。正体は謎。会場のミレニアムっぽい人からなにやら怒声が飛んでたから関係者なのだろうか……?

 

 アバンギャルドくんが足元のキャタピラをキュラキュラさせながら変な形のお盆に乗せたケーキを運んでくる。参加者たちの奇抜さに対してモノ自体はかなりオーソドックスなチョコレートケーキだ。

 

「では」

 

 いただきますと審査員一同に司会席の俺らもケーキを食べはじめる。ふむふむ……うん、なんかふつー。いやフツーに美味いんだけどなんかパンチに欠けるというか。

 あとちょっとビター目で大人の味というかなんというか。JKボディに合わせてか、俺の舌はもっと甘ったるいのを求めているんだ。

 周囲を見渡せば大体似たような反応だろうか。悪くないんだけどもう一つ……みたいな。自信満々だった飛行ドローンさんはその結果にちょっと動揺している。

 

「悪くはないのですが……まあトリニティでお店を出すなら標準的な味というところでしょうか」

「最低ラインは超えているが、他に勝ろうと思うならもう一つなにか欲しいというところだね。ロボットによる調理、というのがそれに当たるかもしれないが今回の審査項目は一応料理自体のみだからねえ」

「……そもそも人型である必要がないような。腕以外は不要なのではないでしょうか? ああ、そういえばロボットで作るというだけなら企業が工場の産業ロボットでやっていることですし、あまり新規性もないような気がしますね」

 

 ハスミパイセン・セイア様はやや辛口、そしてサクラコ様が人型ロボットのロマンをぶん殴って〆た。

 飛行ドローンはショックを受けたように傾いた。おお、もう……。

 

「あはは……えっと、そうだね。ロボットの動き自体はすごかったから……。予選での獲得票はその辺が評価されたんじゃないかな」

 

 フォローのようでトドメのようなミカ様の苦笑いが刺さり、ドローンは高度をズルズルと下げていった。

 

「ま、まあ俺も今時職人の手仕事じゃなきゃ絶対ダメだとか言うつもりもないし……人間と同じような、それ以上の多様な動きができるってのは可能性を感じるな。ロボット自体というより、それ動かしてる人のパティシエとしての腕のほうが足りないのがデカいんじゃないかと思う。どっかちゃんとしたとこと提携するなりすればな、伸び代は大いに感じたよ、うん」

 

 お爺ちゃんのまともなフォローにドローンはどうにか立ち直り、失礼するわ、と飛び去っていった。

 その後をペコリと丁寧に頭を下げたアバンギャルドくんが追っていった……。

 

「えーっと、で、では二番手はこちら」

 

 次の参加者を呼んだらペロロが来た。あのデカい着ぐるみのペロロである。

 手羽先を観客席に向けてフリフリ、軽快なステップを踏みつつのご登場に会場の一部からドでかい声援が上がる。ヒフミちゃんソロじゃないあたりわりとマジで人気はあるらしい……。

 

 ってゆーかなんだよ! 仮装大会じゃねーぞ!? お菓子作りの大会だぞ! イロモノしかいねーのかよ! 

 そんな俺の心の叫びをよそにペロロ着ぐるみはどうやってんだかよくわからないが手羽先を華麗に操りケーキを配膳していく。

 

「うわぁ……これは、すごいね?」

 

 まぁね、調理過程を見てたから分かるわけだけどね。このペロロは大体完成していたのを持ち込んで会場では飾り付けだけするという感じだった。

 

 ペロロケーキである。

 

 ケーキの上に乗っかっている砂糖の人形がペロロとか、パンケーキにフードプリンター*2で顔が印刷されてるとかそういうのでもなく。

 こぶし大のペロロフィギュアとでも言うべき存在が皿の上にデデンと鎮座していた。

 

 どこ見てんだかわからないロンパった目も、やたら長いはみ出た舌のテラテラした質感も完全再現であった。

 モモ社脅威の技術力ぅ、ですかねぇ……。

 

 寄ったカメラで会場の大型モニターにその姿が大写しになると会場から大きなどよめきが。感心してるのと普通にビビってるので半々くらいだろうか。俺もちょっとこれにフォークを刺すのは躊躇う。

 しかしまあこのままペロロと睨み合っていてもしかたない。意を決してざっくりいくと悲鳴が上がった。いやなんでだよ、しょうがないだろ。

 

「あ、うま……めっちゃ美味い」

 

 精巧なペロロケーキを自立させるためにはそれなりに硬くないといけないはずだがそのちょっと硬めの外皮の中は口内でとろけるように柔らかで、スポンジとクリームの甘さも絶妙だ。

 思わずザクザクペロロケーキを解体してバクバク食ってしまう。うっま……。

 

「ああもう、ワカナちゃんお口が……」

「あ、すんません」

 

 勢いよく食ったせいでついた口周りのクリームをミカ様に拭かれる。こんな公衆の面前でお恥ずかしい。しかもなんか謎に黄色い悲鳴が上がってるし……。

 この絵面女子校のカッコいい先輩と後輩のスキンシップ的なのというよりお母さんとキッズのソレではないかと思うんだがそうでもないのか?

 

 続いて食べ終えた審査員勢もなかなか高得点の札を上げていく。見た目のせいか口をつけるまではかなーり躊躇っていたサクラコ様もいざ食べたらニッコニコだ。

 セイア様は見た目に少々難があると少し点を下げたがそれくらいで、エンタメ界隈の巨人モモ社は腕の良いパティシエも擁しているらしい。

 

 ていうかこれいいのか? 最悪ペロロケーキがこのまま勝ってお爺ちゃんの店がモモフレケーキショップになってしまうのではないか?

 ロボ男が勝つよりはマシかもしれないが……お爺ちゃんの方を見ればやるなあとうんうん唸っている。あ、良いんだ……。

 そんな結果を受けて、ペロロは喜びのダンスを一頻り舞って大歓声を受けながらステージを降りていった……。

 

 3番手は幼女だった。

 ええと、恐らくロリ。ロリの鳥。丸々とした子供サイズの小鳥ちゃん二羽*3である。

 

 そしてえっちらおっちらピーチクパーチク運んできてくれたのは手作りクッキーとレモネードであった。

 うん、美味いは美味いな。クッキーは甘さ強めで素朴な味。レモネードは地域柄か俺的に一般的な甘いやつじゃなくて炭酸水の爽やかなやつで口の中の味リセットするのにちょうど良し。

 

 ミカ様もうわぁ懐かしいなあなんて言いながら美味しそうに食べている。

 なにかよくわからないが、キヴォトスでも子供がレモネードを作ってお小遣いを稼ぐとか売上を寄付するとかがわりと一般的な文化としてあるらしい。

 

“When life gives you lemons, make lemonade.”……そうありたいものだね*4

 

 セイア様はそう呟き、ハスミパイセンもうんうんと頷いてるし、サクラコ様は小鳥ちゃんたちはボランティア活動に熱心で教会にもよく来てみたいな演説を一席ぶっている。

 お爺ちゃんも目元が緩んで嬉しそうだ。点数も全体的にまあまあ高めの点があげられた。サクラコ様なんか10点満点だ。二羽はわぁいわぁいと喜んでいる。

 

 いや、わかるよ。これに低得点ぶちこむなんて人の心ないんか案件なのわかるけどさ。

 でもさ、わりとガチな大会のはずじゃなかったのか? ステージ袖でちびっ子の手作りクッキーに敗北した飛行ドローンがショックを受けてロボに慰められてるぞ!? いいのか!? 

 

 つーかなんで本戦まで上がってきてるんだよシスターフッドの闇の力的なやつか? なんの陰謀だ?*5

 俺が巨大な見えない敵に恐れおののいているうちに4人目。

 

「わーははは! なんだなんだ、大したことのない参加者ばかり! これじゃ優勝はいただきだな!」

 

 すげえドヤ顔でイキりながら現れたのは見覚えのある……『Mensa Secunda』の太めのロボ男であった。

 今日は黒スーツではなく長いコック帽に白いシェフコート。というかあんたがパティシエだったんだ……。

 

 あまりにも堂に入った小物悪役っぷりにそういうキャラ付けだと思われたのか、会場からはおぉーなどと感嘆の声が漏れている。

 いや、たぶん素なんだけどこのおっさん。

 

 まぁなんだかんだ予選突破してきてるあたり実力は確か……なのかなあ。どうなのかなあ。

 正直ちょっと公正公平なのか自信無くなってきてんだよなあ。サクラコ様をちらっと見ると暗黒微笑で首を傾げられた*6。ひぇ……。

 

 肩書としては最近巷で人気のスイーツチェーンの筆頭パティシエ。店舗数もガンガン増えてて絶好調。そんな感じのことをカンペ見ながら改めて紹介。

 するとドヤドヤドヤー! と鼻高々なロボ男である。まあ中身が恐らく真っ黒な以外は事実なんだが……急拡大は死亡フラグとか付け加えてやろうかしらとジトッと見つめる。

 

 そんなことをしているうちに部下のロボたちがえっちらおっちら巨大ななにかを持ち上げて台車に乗せ、ガラガラと運んでくる。

 まあ調理過程というか組み立てをカメラで見てたから分かるんだが……。ドーンと審査員席の前に置かれ、ロボ男が芝居がかった動作で覆いを外す。

 

 現れたのは……巨大な城、お菓子のお城であった。

 夢の国スタイルというよりはどちらかといえば写実的な感じの西洋風のお城だが、なんとなく夢の国の風韻もあり女児心を掴むこと間違い無しのデザインである。

 

 そして縦横ともに俺と同じくらいのサイズ*7で、主塔にはこれまたでっかいドラゴン、トカゲっぽい伝統的なスタイルのやつが貼り付いて男児のハートにも配慮が行き届いている……。

 全体的にキラッキラした派手なデザインだが安っぽくはなく、細部はチョコやナッツ、クッキーなんかの素材を活かして渋い色合いに。

 

 文句なしに超ハイレベルな作品であり、会場は驚嘆の声に包まれた。

 こ、こいつ……やられ役の雑魚みたいな態度しといてマジで普通に実力あるのかよ……。

 

 若干食べていいのこれ? 大丈夫? みたいな空気になりつつも、特に迷うことなくハスミパイセンが割とガッツリ食い出したのであとに続く。

 うーむ、味的にも普通に美味く、見掛け倒しということもない。味の感動ではペロロケーキだがビジュアル含めた総合点だとこっちかなあって感じだろうか。

 

 端っこの方をちまちま剥いで食ってたらドラゴンの首をボキッともいだミカ様に、ドラゴンの目玉食べていいよ?美味しい?ヒンナ?とかセイア様共々やられたりしつつも実食タイム終了。

 ハスミパイセンは量に満足したのか高評価、サクラコ様セイア様はデザインがそんなに気に入らなかったらしくやや難ありとしつつも、技巧は認めるという形で高めの得点。

 暫定1位に上り詰めロボ男は小躍りしている。む、ムカつくなあ。

 

 お爺ちゃんも腕組しつつも口だけじゃねえみたいだなと難しい顔。まあ腕がいいなら認めるって言ってたけどさあ。なんかヤじゃんねえ。

 決勝大会参加者は残り二人。ここまでだいぶイロモノ軍団だがロボ男を倒せるパティシエは残っているのか。祈るような気持ちで次の人を呼ぶ。

 

 現れたのは猫の人……やや鋭い目をした黒猫の若者。たぶん若者。なんとなく声や雰囲気が若い気がする。

 猫の人はさすらいのキッチンカーケーキ屋さんで、不定期・不特定の場所で限定ケーキを売りさばいては去っていくスイーツファン泣かせの気まぐれ屋なのだとか。猫だけに。

 

「私も前に頼んで買ってきてもらったことあるけどすごい大変だったって言ってたな~」

 

 でも人気なだけあって美味しかったよ、と笑うミカ様をサクラコ様がこいつ……みたいな目で見て*8、さらにセイア様はそっと目をそらしている*9

 権力者の横暴的なアレがあったんだろうか……。

 

 ま、まあともかくケーキを作ればあっという間に売り切れ必至の人気パティシエらしい。スイーツ部が推している店を持たない夢追い人集団の中では間違いなくトップの人だという。

 夢追い人の人たちは夢を追っているだけあって実力もピンキリ。

 結局本戦まで勝ち残ったのはこの人と次の人だけなのだが、大会の趣旨的にどうにかどっちかに勝ってほしいもんである。

 

 などと思いつつケーキに手を出そうとした所、会場の隅っこで爆音が響く。びっくりしてそちらを見やれば、ヤバテロリストがこのケーキを強奪しようと駆け出して……秒で鎮圧されていた。

 なんか3人分のかつてテロリストだった塊をパイセンがズルズル引きずりながら去っていく。流石だぁ……*10

 

 速攻で対処されたとわかり会場の注目も正面に戻る。ちょっと爆発するくらいは日常茶飯事のキヴォトスらしい一幕である……いやいいのか? 爆発から秒で日常に戻って。

 若干疑問に思う心が残っていないこともないが、そんなことより眼の前の絶品ケーキに手を付けたい。

 

「あっ……すご、うま……」

「ねー、すっごい美味しいよねこれ。それに、前より腕上がってるかも」

 

 語彙が消滅してうま、うま……しか出てこないがとにかく美味い。見た目にはロボ男ほど凝ってはいないが華やかで美しい、完成されたフルーツケーキだ。

 このケーキに合うように特別にブレンドされたらしい紅茶でちょいちょい口の中リセットしつつ、ひたすらにフォークでちまちまケーキを崩す。

 背後でセイア様が超長文で講評しているのをBGMに、ミカ様と美味しいねー、ねー、の脳死会話をしつつもぐもぐ。

 

 あっという間に食べ終わってしまったハスミパイセンは絶望的な顔をしているし、サクラコ様はなんとダークオーラが消えさって実にご機嫌な様子。聖属性のケーキ……! 

 お爺ちゃんもにこやかに何度も頷いている。そうそうこういうのでいいんだよという感じ。

 

「お前さん、色んなとこから誘われて全部断ってるって話だったじゃないか。今日はどういう風の吹き回しだい? その気があるのか、単なる気まぐれか……」

 

 おヒゲ……というか口元の毛についたクリームをぺろりと舐めて、お爺ちゃんが猫の人に尋ねる。

 

「俺ぁ根っからの根無し草でね。腰を落ち着けるなんざ性に合わねえ……だが、トリニティ1の看板盗る前に消えられちゃあ甲斐がないってもんだぜ」

「……なるほど、なるほどね」

 

 スカウトを断り続ける流離いのアウトローパティシエだったらしい猫さんがプイと顔を背け、お爺ちゃんは福福と笑う。

 これは、決まりかな? 

 

 審査員組の採点も文句なしのほぼ満点で、大会1位は猫の人に更新。ぬわんだとぉ、とステージ袖で僅かな天下だったロボ男が叫ぶ。

 そしてなんか腕を振り回して部下のロボたちに何やら指示しようとしていたが、いつの間にか救護テントから戻ってきていたツルギパイセンがジーッと見ている。

 

 それに気づいてヒェッと息をつまらせたロボ男はスンと大人しくなった。これが抑止力というものか……。

 予選で食べられなかったらしいお客さんたちの羨ましそうな視線とともに盛大な拍手が送られ、猫の人はクールに笑った。

 

 後はもう消化試合かなあちょっと悪いなぁという空気の中、最後の人が登場する。

 犬の人……お爺ちゃんに似ている、というか同じ犬種? だろうか。なんとかテリアとかそんな感じの、モサモサで非常にわかりにくいが、たぶん青年。

 

 やや緊張した面持ちの彼が出してきたのは……はちみつりんごケーキだ。

 見たところ普通にいい感じだが、猫の人の後だとちょっと物足りなくも思える。

 

「おや……これは」

「……なるほど」

「ふむ」

 

 審査員一同、黙々とモグモグ。

 なんか変わったところがあるだろうか。俺も食べてみるが、とりあえずめちゃうま! って感じではない。

 

 普通に美味いんだけどね~って感じではあるんだけど……なんか気になるところでもあるんだろうか。

 俺そんな繊細な舌持ってないのでそういうの全然わからないんだが……。

 

「これは、審査員の人たち難しいかもね~」

 

 うんうんと頷くミカ様になんもわかってない顔を向けると苦笑が返る。周囲を見渡すと生温い視線が。えぇ、分かってないのは俺だけか? 

 

「まぁ、言われてみればーって感じだと思うけどね。この人お爺ちゃんのお店のフォロワーさんだよ、たぶん」

「ご明察です」

 

 若わんこの人が少し恥ずかしそうに頭を下げる。

 なるほど、なるほど? 言われてみればこのケーキ、なんとなーくお爺ちゃんのに似てるような、似てないような。とりあえずお爺ちゃんのやつの方がずっと美味いということしかわからない。

 

「うん。『Flowing Honey』の味をどうにか再現してやろうという心意気を感じるね。そしてその試みは完成には遠いようだが……オリジナリティを盛り込もうという意図か、あるいは苦肉の策か、彼自身の色合いも確かに混ざり合って……そう、言うなれば可能性を感じさせる味わいになっていると言える。そこをどう評価するかというところだね。会場の諸君にはその将来性を評価した者も多かったようだが……」

 

 ステージ前に集まっている生徒たちの大半はセイア様の長文トークにポカーンとしているし、ミカ様はこれだからセイアちゃんはみたいな顔している。

 だが、一部の生徒は後方腕組訳知り顔でうんうんと頷いているし、舌の肥えたお嬢様方には通じるなんかなのだろうか。

 

「私は、そうですね。今、ここにある物を評価しましょう。今足りないのであれば、それを知り精進を重ねるべき。そうではありませんか」

 

 理想主義ではあるものの、意外と地に足はついている。現実を見据え、理想に向かい一歩一歩。そんな正義実現委員会の考え方の現れだろう。ダイエットの話ではない。

 スイーツ・パクパク・モンスターみたいになってるのを見ることも多いハスミパイセンだが。

 

「私は……未来の可能性、伸び代、才能……そういったものも大いに評価したいところですが」

 

 サクラコ様はちらりと会場のどこかを見つめ。

 

「期待が重荷にしかならない。そんなこともあると知っています」

 

 程々、妥当と言っていい点数を出したハスミパイセンよりは高め、しかし高過ぎはせず。そんな札をサクラコ様は掲げた。

 おぉ、またダークプリースト・サクラコから闇のオーラが消えて……。

 

 やはりこの人にもダクプリに転職するに至った*11悲しき過去とかあったりするのだろうか。

 俺がそれを知ることはないだろうが……。

 

「ふむ。二人がそれなら私は高めで出しておこう。未来の可能性を掴むこと。自らの手で道を切り開くこと。未知へと挑戦すること。それ自体を私は評価しよう」

 

 続いてスッと高得点の札を掲げるセイア様に、ミカ様はふぅんとニヤニヤした笑みを向ける。セイア様は頬を赤くしつつその視線から顔を背けた。

 なんだぁ、公衆の面前でいちゃつきやがって……。

 

 エデン条約のあれこれでむしろ仲良くなったみたいな話は聞いたけど、その辺俺はよく知らないんだよね*12

 聞けば詳しく教えてくれそうだけど、雰囲気的にセイア様の名誉のためにそっとしておくべきアレだろうか。

 

 まあともかく、これでそれぞれの点数は出揃った。1位は流離いにゃんこの人、2位はロボ男、3位はペロロだ。わんこ青年は残念ながら4位となった。

 ミカ様がいい声で順位を読み上げる中、俺は凸みたいな形の表彰台に並んだ彼らにトロフィーと賞金額が書かれたデカいパネルを渡していく。

 

 猫の人は当然と言わんばかりの表情で一番上に立ち、しかしなんとなく嬉しげに尻尾が立っている。可愛い。

 ロボ男は2位でも不満なのかぐぬぬとほぞを噛み、ペロロは狭い中キレキレのダンスを踊り、会場からはさらに盛大な拍手が投げかけられた。

 後はお爺ちゃんの後継者候補決めの特別賞なのだが……。

 

 お爺ちゃんは青年わんこをじっと見つめる。入賞を逃し悔しげな、しかし少しスッキリしたような顔でもあるわんこ。

 諦めたとか、敗北を認めて打ちのめされたとかそういうのではなく、次への挑戦を決意した表情である。

 それを見てお爺ちゃんは苦笑いを浮かべ、視線をずらすとにゃんこの人に声をかけた。

 

「わりぃね。実力で言ったらあんたで間違いないし、あんたを選ぶべきなんだろうが……」

「構わんさ。風の向くまま気の向くまま、いつも通り縁がなかったってだけのこと。しかし、簡単に勝てるようになっちゃあつまらないぜ?」

「そこはきっちり仕込むよ。未熟もんだが、根性はありそうな顔してるしな」

 

 びっくりしたような顔をしている青年わんこに近づき、お爺ちゃんわんこは彼の手を取る。

 並べてみるとマジで似てるな……実は親子……いや、祖父と孫だったりするのか? 

 

「うん、その通り。彼は店主の孫でね。彼の父、店主の息子は甘い物なんか大嫌いで通してたんだが、奥さんはこっそり彼に誕生日やクリスマスごとに店のケーキをね。店主の息子……父をぎゃふんと言わせるほどのお菓子を作るのが彼の目標だそうだ。ロマンだね」

「うぉ、く、詳しいね柚鳥ちゃん……」

 

 お菓子のお城の残りをバリボリ食ってたスイーツ部*13となんか復活して勝手に食ってるテロリストの集団からにゅっと出てきた柚鳥ちゃんはふふんと笑う。

 

「この街の甘い物好きなやつは大体友達さ」

 

 またにゅっと引っ込んでいく彼女を他所に、特別審査員賞が発表される。

 びっくりして尻尾を丸める青年の背をお爺ちゃんがバシバシ叩き、会場中からは再び温かな拍手が湧き上がる。

 

「めでたしめでたし、これでハッピーエンドだね~」

 

 パチパチと手を叩きながら、ミカ様が微笑む。が、それも長くは続かない。

 

「って言えればよかったんだけど」

 

 覚えてろよぉ~と叫びながら駆けていくロボ男。ギャグっぽいしそういうキャラなのかなと観客は笑っているが、まあやらかすんだろうなあ。

 流石にトリニティの中心部近く、ツルギパイセンもいるような所でおっぱじめるようなイカれた度胸はないようだが、郊外なら別。そういう話なのだろう。

 あとなんか地味にトロフィーと賞金はきっちり持ってってるし。もらえるものはもらうタイプなのね……。

 

「彼らが攻めてくるのは3日後の夜だね。彼自身はわりとこの大会で勝つ気でいたようだが、バックの方は最初から暴力でカタをつけるつもりだったみたいだね。既に着々と準備を整えている」

 

 おわぁ!? 急になんだよもう。今度はいつのまにか審査員席からこちらににゅっと移動して来た藪からフォックス。

 ちなみに諜報部の情報を元にした予測と私の勘によるものだから精度は期待してくれていい、などと言うセイア様。勘だけでもだいぶ当たるって話だが、裏も取ってあるというならほとんど確定だろう。

 

「目標は店主と後継者になった彼、そして果樹園だ。果樹園にはいつもの不良集団の仕業と見せかけて……というか彼らを雇った上でかなりの兵器を投入するつもりのようだ。郊外の手薄な地域を攻撃し、その後君たちに防衛兵器やPMCの売り込みをかけて繋がりを作るつもりらしい。こうなるともはや店主たちの方はおまけだね」

「ガバガバマッチポンプじゃないっすか」

 

 心底げんなりした顔で言うとセイア様はくすくす笑った。

 

「普通の大人は、子供を侮るものらしいよ。実際我々はそうされても仕方ないほどに未熟だが……」

「まあね、流石にいつまでもそうじゃないよ~ってとこ、見せてあげないと」

 

 あの目だ。獲物を定めた恐ろしい目。ただ、かつてと違い少し楽しげでもある。

 

「それに今度は……今度も一人じゃないしね」

 

 ちょんと鼻を突かれたので頷く。まあね、元からどこでも着いてく気だったけど、うちの子になった以上は余計にね。

 地獄の底でも一緒に行くよ。

 

 俺のヒーロー、アイドル……いやなんかもうよくわかんないけど眩く輝くずっと見ていたい人*14

 そしてなおかつ、駆け出すことを覚えた幼児のような、目を離すことのできない人でもある*15

 

「ああ、もう……ほんとにワカナちゃんは、そういう目をするから……!」

 

 辛抱堪らぬといった感じでぐわしと抱きしめられる。

 うご、うごごごご……全身が砕けそう……!*16 でもなんかそれも本望という気もする……! 

 

「君らねぇ」

 

 セイア様がペシペシとミカ様の頭を叩き、ハッとしたように少し力が緩められた。

 

「もはや未来(さき)が見えない以上これは単なる勘働きによる忠言だがね。君たちは二人っきりでなにかしようとするとろくなことにならないから、今回のように周りを巻き込むようにしたまえよ?」

「な、何言ってるのセイアちゃんはもう!」

 

 まるで私達二人じゃ何をするにも危なっかしいみたいじゃない、まさしくそうだが、などと言い合う二人。

 いやまあテンション普通のミカ様は結構ブレーキきいてるし、俺も地獄の底でもとは言ったけど積極的に行きたいわけじゃないから止められそうなら止めるし。

 別にそんな危なっかしいわけでもないと思うんだけどね*17

 

 ともかくもトリニティスイーツグランプリは大盛況で幕を閉じた。

 スイーツ部の面々が若わんこをわっしょいわっしょいぶん投げる勢いで胴上げする中、少なくとも表面上は。

*1
報道関係の学園としてクロノスジャーナリズムスクールがある。

*2
食用インクで食べ物に絵や写真を印刷できる。コラボカフェなんかでもよく使われるようだ。

*3
コトリでない。動物タイプの市民。

*4
辛いことがあってもくじけず前向きに頑張ろう的なことわざ。

*5
普通に来場者投票で勝った。

*6
不正はなかった。

*7
147cm

*8
噂は聞きつつも食べられたことはなかった。

*9
一緒に食べた。

*10
ちなみにジュンコは午前中の予選時点でココが一番オススメの店と聞いてダッシュで並んで確保していた。

*11
してない。

*12
よくわかんねえけど突撃・なんか知らんうちに洗脳・そのまま投獄・勢いで脱獄・エンディングは気絶、とかしてた奴。

*13
残りはスタッフが美味しくいただきましたのスタッフ。

*14
脳を焼かれている。

*15
同じような感想を持たれている。

*16
耐久力。

*17
二人でテンション上がったらもうどうにもならないやつである。




色々ネタを詰め込んだ決勝回でした。
今回に4千字くらいのバトルがくっついて終わり!の予定でしたが、分量のバランスがアレなのと流石にもうちょっとエピローグっぽいのやったほうがいいかなということで分割してエピローグ追加してもう1話で最後になります。
ちょっと短めになりそうですが明日明後日で書いて出せるかな……。
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