トリニティ総合学園庭園部へようこそ! 作:一生ホームアローンマン
「おわぁ~……」
トリニティ大果樹園外縁部、トリニティ自治区の辺境の一番端っこに位置する、そして以前にリンゴの苗木を植えたところにやってきていた。苗木は植える時点でも太ももくらいの高さはあったが、そこから2倍以上ニョキニョキ伸びている。手をかざして背を比べてみるが……僅差で俺のほうが高いか。アホ毛分でギリ勝利。
まあ最初に見かけたやつに勝ったと言うだけで、たくさん植えてそれぞれ育ちはまちまちなので俺より余裕で低いやつもいればガッツリ追い越されてるのもいるのだが。
特に成長が早い品種ということだが、こうもスクスク育たれるとなんか生命の神秘みたいのを感じるよね。葉っぱもまばらにしか生えてなかったのに今はわさわさ青々生えまくっている。健康そうで何よりだ。手持ちの草刈り機で周辺の雑草を丁寧に刈り、規定量の肥料を根本にまく。元気に育てよ~。
なんだかんだありつつ、トリニティ総合学園は夏休みに突入していた。俺も無事に……いやまあちょこちょこ赤点ギリギリだったりギリアウトなところを、夏休みに食い込まない追試やレポートで勘弁してもらったりしつつも、どうにかこうにか定期試験を乗り越えていた。ロボ教員の蔑んだような目が堪えたぜ……。
でも他にも絶対お嬢様学園の劣等生いるだろと思っていたら、ちょうどよく昔の学校みたいに廊下にテストの点数張り出されてるという情報が。意気揚々と俺より下のやつに会いに行こうと掲示板を見に向かったけれども、残念ながら成績優秀者のみの発表だった。いや周りに俺の点数がバレなくてよかったというべきか。お馬鹿さんのプライバシーには配慮していただけたらしい。
せっかくなのでざっと眺めてみればセリナちゃんはけっこう上の方、ヒフミちゃんは張り出された中で真ん中やや下あたりって感じ。そしててっぺんには燦然と輝く全教科満点とかいうバケモノが鎮座しておられる。浦和ハナコ……そういや新入生代表とかでも挨拶してた人な気がする。接点ないのでピンクでおっぱいデカかったことしか覚えてないけど、すげー奴も居たもんだ。
まあともかくも夏休みである。いつもは瀟洒な*1トリニティのお嬢様方もこの時ばかりはと浮かれ騒ぎ、そこかしこで銃撃戦が発生したり、同じく浮かれて乗り込んできた不良集団が暴れてたりそいつらを正実がシメてたり。大量のセミ先輩たちが迫真のBGMを流しまくる中、銃声と爆発音が色を添え、キヴォトスの夏を華々しく演出していた。
そんな中、我らの果樹園は平和そのものである。聞こえる爆音は遥か遠く、自然の音の方がデカい。トリニティの中心部からはガッツリ外れているし、草と木と鳥と虫くらいしかいないし、関係者以外立入禁止以前によっぽどの暇人じゃなければ夏の日差しを乗り越えてこんなとこまで来ない。日傘さして近所を優雅にお散歩する暇なお嬢様とか、外周走ってるスポーツ少女ならたまにみかけるけどそんなもん。そして日差しはともかく、湿度やや控えめで日本の夏と比べたら天国みたいな気候だぜトリニティ。
まあそうは言っても動けばたらりたらりと汗が流れる外作業。今日も今日とて首に巻いたタオルで額を拭き拭き、軽トラと猫車でタラタラ肥料を運ぶ。ガッツリ動いたらぶっ倒れそう。でも大丈夫、やることはこういう細々したことだけで過酷な作業はみんなドローンくんがやってくれるのだ。科学の力ってスゲー。
リンゴってほっとくと意外にも鈴なりにたくさん実がなってスーパーで売ってるようなデカいのにはならないので、余計なのを切り落としまくって間引いて栄養を集中させる必要がある*2。春に小さくて可愛らしい白い花がバーって咲いて、夏前にそれらが小さい実になって、その大半切り落として、気が早い品種のやつだと夏の後半には大きなリンゴが収穫可能という話。
つまり強い日差しの下無数の小さいリンゴの実をひたすら切り落とすというとんでもねえ地獄の刑罰みたいな作業をする必要があるのだが、これを飛行ドローンくんがやってくれる。プロペラでブンブン飛んで映像認識で必要なの残していらないのをバンバン切り落とす。すごい! 賢い!
その間人間はクーラーの効いた部屋でのんびりしながら、枝に引っかかっちゃったとか、充電ホームに戻る前にバッテリー切れで立ち往生とか、たまーのトラブル対応をしてあげるだけでいいというわけだ。
めちゃめちゃ広大な果樹園を他の仕事もしながら少人数で管理できるのは、こういうテクノロジーの恩恵があるからなわけだね。ちょっと前にやったけど農薬の散布なんかも空中からバーってやって完了だったし。
他には草刈りも広いとこは全部ロボが自動でやってくれる。細かいとことかどうしても人間がやってあげないといけない作業はそれなりにあって、聞いてた通り忙しいは忙しいのだが、一日中炎天下でお仕事なんてことはないのだ。素晴らしい。
そしてドローン監視作業中なんのアイス食べようかなんて考えながらウキウキで部室に戻った俺は、クソ高いハシゴのてっぺんでクソ強い日差しにさらされながらちまちま小さい実をひたすら切り落とすとかいう地獄の刑罰みたいな作業をしていた。
「なんでだよ! どこ行ったテクノロジー!!!」
叫ぶ俺にお隣の木に同じように張り付いた部長からご説明。働くドローンくんたちを優雅にモニターしながら部室で涼もうとした俺を小脇に抱えて連行した張本人である。他の部員たちもほぼ全員ハシゴで木の上に張り付いてセミになったり、普通に木登りで上がってたりする。
「ドローンで作った果物には“ぬくもり”がないから……」
「ウソでしょ!?!!?」
地獄に落として欲しいぬくもり理論に悲鳴をあげた俺に、あははウソウソと笑う部長。この人たまに普通に人が悪いから困る。でも嘘ならこの状況は何なんすか。ドッキリなら早く冷房空間に返して欲しい。木陰はかなりマシなんだが直射日光が当たると暑い、キツい。
「新しい方のリンゴの木はちゃんと間隔空けたりして機械が通せるように植えてるんだけど、こっちはそういうのない時代のやつだからどうしてもね。手作業の必要があるのです」
あぁ~……なるほど。今いるのは果樹園の中心部、ドーナツで言えば真ん中の穴、ちょうど前にも聞いためっちゃ古くからリンゴ園だったエリアだ。外側のと比べるとほんとに同じリンゴの木なのかよというくらいぶっとくてデカい古木がわさわさ密集して生えている。実際品種が全然違うんだよ~なんて小話を聞きつつチョキチョキチョキチョキ。小さい実を数え切れないほどに切り落とす。
自分のハサミの音。近くの部員たちのハサミの音。少し遠くから蝉の声。汗が流れる。服が濡れて気持ち悪い。チョキチョキチョキチョキ。単純作業で無限に思えるほどの時間が過ぎる。自分含めて部員たちは次第に元気がなくなり口数も少なく、ハサミが閉じる金属音だけがひたすらに時を刻む。
……発狂しそうだ!
ちょうどそんなタイミングで部長の号令のもと大休憩。同期のメンツは皆俺と同じようにぐったり倒れてうんざり顔をしているが、上級生は誰もが悟ったような顔でグビグビスポドリを飲んでいる。やっぱりこれ修行か何かなのですか?
アスファルトの照り返しやヒートアイランド現象とは無縁の、もののけ姫の森みてーな古木たちの陰。作業中はキツかったけどこうして休んでると普通に涼しくて悪くない。クーラーボックスでキンキンに冷えたスポドリが美味い。終わってみれば気持ちいい汗かいたなぁみたいな感じになったし、今日はこれで終わりにして帰りませんか。
「部長、これどんくらいで終わるんですか」
「終わるまでやったら終わるよ~」
そんな気持ちでなんとなく尋ねると、タオルで体を拭いていた部長にニッコリと返された。上級生の顔は無を取得していた。1年生の同期達は絶望的な顔をしていた。俺も多分同じ顔をしている。天国のようなドローン監視業務はごく少人数ずつの交代制で、自分の番は遥か遠い。
「さぁ再開だ! 他にも仕事はあるからね、張り切ってやってさっさと終わらせよう!」
上級生はチャキチャキと、下級生は日陰から出たくない一心でノロノロと動き出す。そして再び無限チョキチョキ編である。
当然その一日で終わるはずなどなく、夏の前半まるごとこんな感じで毎日数時間木の上でセミになっていた。そりゃあ悟りもするわ。あと、庭園部が人気ない理由も心で理解できました……。
後日、小型高性能な新型ドローンを導入すればこの作業なくなるんだけどねなんて言われてじゃあ導入しろよと叫んだら予算がね、と遠い目をされて絶望した。カタログ見せてもらうと新型ドローンは現行機より二回りはお高かった。おのれミレニアムサイエンススクール絶対に許さんぞ。
賢いなあ偉いなあと思っていたドローンたちだが、型落ち大型格安品と知れたらなんだかとたんに色褪せて見えるぜ……。いやまあしっかり仕事してくれてるし偉い奴らなのは間違いないんだけどね。
きゅっきゅと土埃で汚れた外装を布で磨いたり、可動部を分解清掃したりしながらミレニアム製新型ドローンの動画を見るとマジで全然違う。全体的に近未来なキヴォトスだがその中でもさらに進んでいるのだ、ミレニアムとやらは。
ただまあ新商品の紹介動画でエンジニアの人が嬉々として自爆機能がどうたら語りだした挙げ句に実際爆発させるのは頭おかしいとしか言いようがない。民生用ってタイトルにあるけど軍用ドローンの間違いですか? 間違ってない、そう……。トリニティにもなんか似たような集団がいた気もするし、大英帝国の血が色んなところに受け継がれてるんすね……。
磨き終わったドローンくんを眺めれば、すみっこにキラリと輝くトリニティマーク。国内企業・癒着・キックバック……謎の単語が次々浮かんだが、うん、まあ最新じゃなくてもいいじゃないか。こいつらがうちの子さ。導入に関して変なアレがあるのかは知らないが実際比較的安いし堅牢で信頼性が高い。
大方の摘果作業、いらない実をチョキチョキするやつが終わり、農薬の散布も安全のために収穫が近くなったらやらないとかで彼らはしばしお役御免。清掃後は箱詰めして一旦倉庫行き。次の出番はまさに収穫の時である。
地獄の作業を経て部員の皆とはすごい一体感みたいなのが芽生えたが、ドローンくんたちにもなんとなくそんな気持ちがある。人間がえっちらおっちら中心部を終わらせてる間に面積的には数倍以上の外周部の作業終わらせてくれてるんだもんね。
ちっちゃめのドラム缶がサンタの袋持ってるみたいなシルエットの草刈りロボくんの方も分解整備。こっちはまだまだ忙しいがついでに軽く。雑草は年がら年中ニョキニョキだし寒くなっても芝生整えたりはあるからマジの真冬くらいしか休む暇がないのだとか。壊れたりすると非常に困る。ちょっとした故障なら先輩方は普通に修理できるし、軽く教わったから俺も多少ならできるのだが……。
ていうかやっぱおかしくない? 土建屋の次は整備工になるの? 秋の文化祭ではお店出すから車の免許のついでに食品衛生責任者も取ろうねとか言われたし。ああ、車の免許はまだだけど学園敷地内での練習は継続中です。だいぶ慣れてきて軽トラブンブンとばせるようになったよ。
……俺JKぞ? 花のJKが一体どこへ行こうとしているのだ? 何にならされようとしているのだよ?
業者さんに頼むより自分たちでできたほうがなんでも安くつくからねえ、なんてことも部長がなにかの折に言ってた気がするが、やっぱりお金がないのが悪いらしい。お嬢様学園の貧乏部活ぅ……。
「これが歴史と伝統の正体だよ!」
「あ、あはは……お疲れ様です」
部活休みの日にいつもの3人で集まったファミレスにて、ぐでぐでしながら愚痴吐き中である。ヒフミちゃんは休みを活かして思う存分推し活に精を出していたとかでホクホク顔だ。今日も限定特典付きモモフレコラボメニューがあるとかでこのファミレスにやってきている。
「予算の問題はわりとどうしようもないですからね……。救護騎士団も正規の予算だけでは中々十分な活動ができないので、有志の方の寄付に頼っている状態です」
「寄付かー。うちはそれこそ果物売ったお金とかあるらしいけど、設備の更新とか機械のローンがすごいみたいな話で……」
セリナちゃんもわりと過密スケジュールこなしてるはずだが、特に疲れた様子もなくむしろ気力が充実しているように見える。これが覚悟の差というものか……。俺はもう夏バテ気味で半分とろけている。そしてJK3人集まってなぜか辛気臭い話が続きそうなことを危惧したのか、ヒフミちゃんが話を変えようとインターセプト。
「と、ともかく、今日は甘いものたくさん食べて元気を出しましょう! ほらほらペロロ様が来ましたよ! 可愛いですね!」
「あっ、本当にきちんとペロロさんの顔になってますね」
「うわぁ……」
ヒフミちゃんお目当てのコラボメニュー、キモい鳥ホットケーキがロボ店員に運ばれてきた。ヒフミちゃんは大喜びで、セリナちゃんはシンプルに造形がきちんとしてることに感心している。
普通の茶色いやつじゃなくて真っ白な生地にキモい鳥の顔がプリントされ、ラスクの羽とトサカが添えられている。確かによく出来ているが、キモい鳥がよく出来ているということはすごくキモいということなのだが、俺以外の二人は特に気にする様子もない。
そしておまけというかメインと言うか、コラボメニューについて来るランダム封入のアクスタ*3の袋を開けてみれば、なにやら青い顔で苦悶の表情を浮かべるキモい鳥。ヤバすぎるビジュアルにぶん投げたくなったが、ヒフミちゃんにさっと手を取られる。
「こ、これは! シークレットレアのお腹を壊したペロロ様! ……ワカナちゃん、非常に申し訳ないのですが、このダブってしまったコックさんペロロ様と交換していただけないでしょうか……?」
「いいよ別にトレードじゃなくてもあげるよ」
むしろ持ってってくれって感じだったが、いえそれは申し訳ないので! と無理やりコック帽とエプロン付けたキモい鳥アクスタを握らされる*4。代わりに渡した苦悶のキモい鳥を両手で持ってじっくり眺め、ヒフミちゃんはご満悦だ。
セリナちゃんはそんなヒフミさんをニコニコしながら見ているが、手元に置かれたアクスタは紙エプロンつけたお食事ミスターニコライ*5。珍しく普通に可愛いやつである。いいな……。
ヒフミちゃんがスマホでパシャパシャアクスタやホットケーキの写真を取り、3人で映るように自撮りするなど一通りJK行動をした後、いざ実食となった。キモい鳥の顔面についてきたメイプルシロップをドバドバかけてナイフを入れる。すると二段のホットケーキの間から赤いイチゴジャムがドバッと溢れ出てさながら殺害現場である。
このメニュー企画したやつ誰だよイカれてんのか……? しかしヒフミちゃんは大喜びだし、セリナちゃんも楽しそうに食べている。……もしかして俺がおかしいのか? これがカワイイってことなのか? 情緒不安定になりつつ食べたパンケーキは糖分の暴力って感じでめっちゃ美味かったです。敗北感。
その日の晩、満面の笑顔のヒフミちゃんと微笑むセリナちゃん、やや頬を引きつらせた俺の3人の真ん中にアクスタとキモい鳥パンケーキが並ぶという、若干狂気を感じる写真がモモトークで送られてきたので保存して寝た。
農業機械関連はあんまわからないんですが、収穫用のロボットとか結構色々あるみたいです。攻城櫓にロボットアーム何本も付けましたみたいなのがあってなかなかの英国面を感じたんですが、ドローンのほうが可愛げがある気がしたのでこっちを採用しました。