トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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8話 戦の日々のはじまり

 基本木の上でセミ、あと資材運搬・機械整備・雑草防除以下繰り返し。合間合間に資格の勉強とか資格試験とか、休みにはセリナちゃんヒフミちゃんと遊園地行ったりプール行ったり映画館で謎のモモフレアニメ映画見たり、家でゴロゴロゲームしたりだけで終了した夏休み前半戦……。

 

 うん? だけっていうか、意外と充実してたかもしれないな。3人とも夏休みっぽい事したいなあみたいなのはあったらしく、予定を合わせて出かけることそれなりに多々。まあ俺は二人以外に友達いないので予定合わないと無になるのだが……。

 

 いや、庭園部の同期とスイーツ食べ放題行ったり焼肉食べ放題行ったり、先輩たちとD.U.の電気街で機械パーツ買い漁ったり色々したな。部活の延長というかほぼ常に一緒にいる人々だから友達どうのとかのカウントから外れていた。

 

 ……え、なにこれは。俺充実した学生生活を送ってる? 何か自我が根底からひっくり返されるような感覚に眩暈がする。友達いなくて隅っこでスマホ眺めてる、友達居たとしてもご同類だから一緒に遊ぶにしても地味ーにひっそりと。それが俺ではないのか。

 

 JK集団できゃいきゃい賑やか……というほど騒がしいメンバーではないが美少女ばっかで華やか。そこにパシリにされたりいじめられたりもせずわりと普通に混ざって……。どういうことだろうか。幻術なのか? いや幻術じゃない……。

 

 ……まあ、いいや。悪いことじゃないのは間違いない。めっちゃ楽しかった。陰キャ極まってるので人と一緒にいると楽しいけどなんかしんどいなあ、なんてなることもあるが、部活の作業中は黙ってたり一人だったりってこともそこそこあるからバランスは取れてる。夏休み後半戦もこんな感じで楽しく過ごせたらいいなあ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃て撃て撃てーっ! 逃がさないで! 足を潰すの! 車に手榴弾投げ込んで!」

「チェーンソー持ってる敵を優先的に! 枝切らせないでっ!」

「照明弾撃つよ! カウント3ッ! 2ィ! 1ィ!!!」

 

 ぱあっと光の玉が打ち上がり、夜闇に包まれた森を激しく照らす。上空からの光で濃い木の影が地に映る。その合間を蠢く影、影、影。丸くてでっかい頭の人型が走る。

 

 はじまりは突然だった。その日の作業も終わり、夕日に照らされながら寮に戻った後。シャワーを浴びて心地よい疲れに身を任せ、ベッドに寝転がってウトウトしていた俺をスマホがブンブン震えて叩き起こす。庭園部の全体緊急連絡で、武装して果樹園集合とのこと。

 

 何事かと思いながらドアを開けると、隣近所の同期たちも同じような不審顔。見合わせて首を傾げながらもダッシュダッシュ。俺の住んでる寮はトリニティ郊外側のわりと不便な位置にあるのだが、それだけ果樹園にも近い。

 

 そのせいか寮生にも庭園部の生徒が結構いる。一緒にご飯食べに行ったり、特に意味もなく夜中に集まって騒いで寮監の監督生にドヤされたりも……いやまあ今はそれはいいか。

 

 ともかく今までにない事態だった。武装と言われてもよくわかんないのでいつもの制服エプロン、愛銃背負って果樹園に集まれば既に銃撃戦が始まっていた。

 

「ムシャムシャヘルメット団ンンッ! 気合入れろォ!! 美味いもんたらふく食ってぶくぶくのお嬢ちゃんがたなんざ、飢えた狼の相手にゃならねえんだッ!!!」

「実がなってる枝とにかくキレッ! 急いでトラックに積め! 敵は雑魚ばっかだ適当にあしらえッ! 目標最優先!」

 

 銃声が連続し、爆音が響く。ヘルメットが持つ小型チェーンソーが唸りを上げる。太い枝が切り落とされ、ズンと鈍い音を立て地を揺らす。

 

 敵はバタバタと倒れるが、同じように味方も傷つき倒れていく。汗と草の汁と機械油で汚れていたエプロンが、血と硝煙で上書きされていく。

 

 なんにも意味がわからないがとにかく敵だ。ダッシュで敵中に突撃する。部長がなんか叫んでる気がするがよく聞こえん。頭に血が上ってどうしようもない。守らなければ、敵を倒さなければ。

 

「ぅあアぁあァアァァアァァァッッッ!!!」

 

 自分を鼓舞するためにとにかく叫んで、突っ込んで、至近距離でヘルメット野郎を撃つ、撃つ、撃つ。倒れるまでひたすら撃ち続ける。四方八方から銃撃が飛んできてめちゃくちゃ痛いが知らない。倒れたら次、偉そうなやつ、指示飛ばしてるやつを優先的に、とにかく突っ込んで撃つ。

 

 愛銃を敵のお腹に押し付けて撃つ。ほんとは顔面にぶち込んでやりたいがでけえフルフェイスのヘルメットに弾かれそうだから、こっちで勘弁してやるぜ。

 

 敵のライフルもフルオートで至近距離からガンガン飛んできて何が何だかわけがわからない脳みそが揺らされる。知らない、撃つ。倒れた、次。

 

 叫び声、銃声、エンジン音。爆炎、土煙、照明弾の切れ間の真っ暗闇。何もわからない。でも、とにかくひたすらに突き進み戦い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何人倒した? 数字を数えられない。いっぱい倒したような気もするし、撃たれるばっかで全然だったような気もする。とにかく痛いの我慢して走る、突っ込む、撃つ。リロードが上手く出来ない。弾落っことした。弾がない。

 

 仕方ないのでヘルメット野郎に突っ込んで蹴り飛ばして、ぶん殴って、銃床でホームラン。冗談みたいにヘルメットが夜空高くに消え、素顔を晒した元ヘルメットはぶっ倒れた。ゲラゲラ笑いながらヘッドバットでもう一人。ヘルメットの上から脳天ぶち抜いて気絶させる。俺のおでこは鋼鉄製だ! 

 

「応援部隊到着までわずかです! 後少しだけ耐えて!」

「……潮時だ! 車出せ! いいから出せ! 十分だ!」

「逃さないで! ……あぁ」

 

 大量の枝を積んだピックアップトラックの不規則な影、枝ごとリンゴ泥棒をやった奴らの車列が闇夜に消えていく。勝どきをあげる声が遠ざかる。どやどやと正義実現委員会の闇に紛れる黒セーラー服が、今更になって大量に現れた。

 

 規則正しく展開した正実の大部隊。仲間に置いていかれたマヌケなヘルメットたちがよろよろ逃げだすのを追い打ち、無謀な反撃を試みる奴を丁寧に刈り取り、意識を失った彼女らを拘束していく。

 

 たらりと額から流れた血が片目を塞ぐ。血と汗にまみれて張り付く前髪が気持ち悪い。終わったのだろうか。無我夢中の全力で動き回り、はじめて本当の、本格的な戦闘の渦中に置かれ……緊張の糸が切れたようだ。そこから全く記憶がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでリンゴ泥棒と農家がマフィアの抗争みたいな銃撃戦してんだよ!!! いてえっ!」

 

 知らないベッドから飛び起きたとたん、ごちんとおでこをぶつけて悶絶する。横のイスには同じくおでこを押さえるセリナちゃん。看病してもらってる所、唐突に飛び起きたアホによって二次被害を受けたらしい。マジで痛そうでちょっと涙目である。本当に申し訳ない。

 

「……。……いえ、私は大丈夫ですから。それよりワカナちゃんです。特に大きな問題はないと思いますけど、意識ははっきりしてますか?」

「んん? ……うん、大丈夫かな。なんか体中あちこち痛いけど」

 

 しばし間があってからセリナちゃんが問う。言われて自身の体を確かめるが、視界は良好だ。特に頭がふらふらするとかもない。

 

「どれも軽い打撲程度ですから、すぐに治ると思います。庭園部の部長さんから落ちちゃったリンゴいっぱいいただいたので、ワカナちゃんもどうぞ」

 

 首をぐるぐるしたりしつつ全身の様子を確認していると、スッと爪楊枝に刺さったリンゴが一切れ差し出されたのでパクっと食う。んむ、まだちょっと青い感じだが美味しい。トリニティのリンゴはキヴォトスでも人気のブランドだ。あっ、地味に女の子にあーんをされて……いや餌付けじみたことされるのわりとよくあったわ。特別感ナシ。嬉しいやら悲しいやら。

 

「えーと、えーと……それで、なにがどうなったの?」

「トリニティ外部の不良集団、自称ムシャムシャヘルメット団*1による大規模な襲撃があり、庭園部及び警邏中の正義実現委員会巡回小隊がトリニティ郊外・果樹園外縁部で戦闘。双方半壊、正義実現委員会の救援に伴い不良集団は撤退。負傷者の収容・倒れた襲撃犯の捕縛が終わったのが1時間ほど前です。庭園部の皆さんも倒された方は多かったですがほとんど軽傷。今まで意識を失ってたのはワカナちゃんだけですね」

 

 語彙力ゼロのふわふわ疑問符にサクサク回答してくれるセリナちゃん。わりとよくあるんだろう。既にナースさんが板についている感じでカッコイイな。俺も植木屋と農家と修理工と……用務員のおじさんみたいなスキルが板についてきた気はするが。

 

「というか、ぶっ倒れてたの俺だけ? みんなタフっすね……」

 

 一人だけ貧弱ザコザコガールみたいでちょっと恥ずかしい。ヘルメット集団が格ゲー民かよみたいな勢いでめちゃめちゃ煽ってきてたけど、その通りになっちゃったやんけとむらむら羞恥と怒りが。

 

「いえ、怪我の様子からしてワカナちゃんは普通よりとても耐久力があるくらいだと思いますよ。ただ突出しすぎて袋叩きにあったみたいですね」

「ひょわぁ!」

 

 セリナちゃんが俺の背中に貼った湿布をなぞると鈍い痛みが。剣士の恥の傷ができてしまったらしい。まあ感じからして青あざとかそんくらいだと思うが。いや、今更だけど銃で撃たれまくってこれってヤバいな。キヴォトスの民は全員ターミネーターかなにかなの? 

 

「……本当にどういう戦い方したんですか? 遮蔽物に隠れながら、仲間と連携を取って少しずつ進んでいく。戦闘の基本ですよ?」

 

 動き理解した? いや、全然……。別に責められているわけではないのだろうが、謎の古傷が痛む。そらリアル銃撃戦での動き方なんてわかんねえよ。サバゲー未経験だしFPSすらあんまやったことないぞ。対戦ゲーは頭沸騰してバカになるからそんなにやらないのだ。

 

「ひたすら突撃して、ヤーッてバンバン撃って、ぶっ倒れたら次のやつーみたいな感じで……」

 

 体育の授業でもやる銃の的当てみたいなのはまあまあできるようになったけど、慌ててる時にそんなことできないのでとにかく近づいて命中率を上げるちいかわ戦法*2にならざるを得ないのである。

 

 弾切れしてリロードしようとしたら弾落っことして射撃できねえも頻発したので、最終的に銃でぶん殴ったりもしたし。あっと思って確かめてみれば、愛銃はとても丈夫なようで傷や歪みもない。よかったよかった、実に頼りになる俺の相棒……。ベッドサイドに置いてあったマットなブラックのすべすべした銃身を抱えて撫で回す。

 

 ああ、大丈夫かこいつみたいな顔しないで傷つく。頭押さえてるのはさっきのヘッドバットの後遺症かしらごめんね。

 

「で、でもまあ突っ込んで撃ちまくって耐久勝ちは案外悪くないと思うんだよね。夢中だからビビってる暇もないし……」

「……正義実現委員会のエース、ツルギさんなんかもそんな感じと聞きますし、それはそれでありなのかもしれませんが」

 

 ほら、なんとかなれーっすればなんとかなるってはっきり分かんだね。でしょー! とドヤれば今度は脇腹の湿布を指先でグリグリされる。あぁぁ痛い痛い地味につらい痛み。

 

「ともかく、あんまり無茶はしないようにしてくださいね。今日は夜も遅いですし、そのままここで寝ちゃって構いませんから。明日の朝に一応様子を見てから退院です。今夜は大人しくしておくように」

「はぁい」

 

 そう言って頭をぽんぽんされてベッドに寝かしつけられたので、黙って従い寝転がる。ママ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えば、リンゴ泥棒と戦うってのは前々から聞いていた。泥棒っつうかギャング団の襲撃だったけど。もうちょっと覚悟を決めておくとか、何か準備しておくとか、できることがあったのかもしれない。薄い月明かりが差し込む病室で悶々とする。

 

 結局俺は役に立ったのかどうなのか。そもそもなぜ果樹農家が銃撃戦で役に立つ必要が……。でも大人しくてぽわぽわで平和の象徴みたいな同期も、無口でいちいちイケメンムーブな同期も、先輩たちも部長もみんな必死で戦っていた。そんな中で自分が役に立てたかはやっぱ気になる。

 

 戦闘の興奮からかさっきまで気絶してたせいか、中々寝付けず無意味にゴロゴロ寝返りを繰り返す。ダラダラと脳内反省会が続き、全然眠れねーと思っていたが、それでも疲れていたのだろう。いつの間にか意識は消えていた。

*1
キヴォトス各地を荒らし回る犯罪者集団、ヘルメット団の一分派。〇〇ヘルメット団というのが色々あり、悪徳企業に雇われ傭兵稼業をすることも多い。

*2
ちっちゃくて世紀末なのにか弱くて哀れなやつ戦法。なんとかなれーッ! 




初?まともな銃撃戦。今回からちょいちょい戦闘する感じになりそうです。

原作ヘルメット団はわりと正体不明で、中身は多分色々な学校の生徒が混じってるんだろうなあって感じですが、本作では中の人は食い詰めたゲヘナ生が多めということにしておきます。

一応付けておいたアンチ・ヘイトはゲヘナアンチ要素でした。
作者としてはゲヘナも好きなんですけど、話の都合上悪役になってもらいます。悪役というかクマとかイノシシとかそんな感じですが。
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