トリニティ総合学園庭園部へようこそ!   作:一生ホームアローンマン

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9話 伝説って?

 翌朝、セリナちゃんに湿布とか包帯を取り替えられる。というか一晩でほぼ全て完治していたので大体取れた。結構ボコボコの痣だらけだったんだが、寝たら治るってRPGの勇者かなんか? 微妙に残っていたおデコの傷に絆創膏貼られて終了だ。柄はカバとウサギの間の子みてーななんかピンクの謎の生き物。

 

「ピンキーパカさんですって」

 

 ピンキーパカさんらしい。そしてアルパカらしい。ヒフミちゃんにもらったんですと、絆創膏の箱を掲げて薄く微笑むセリナちゃん。ピンクならなんでもええんかキミ。いや、キモい鳥と違ってまあまあ可愛らしいか。モモフレンズとやらの中ではまともにマスコットキャラしてる方。

 

 しかし絆創膏の紙箱に並んでるこいつら、かわいさ打率3割くらいなんですけど……*1。いいんすかね、マスコットキャラクターとして。

 そして特大ファールのキモい鳥を愛してるヒフミちゃん、君のそこだけはわからん。でも紙箱のキャラ絵の中で唯一ペロロとメガネかけたドクターペロロで2体いるから、もしかして人気キャラなのか……? やっぱりおかしいのは俺……? 定期的に自我を揺るがせてくるキモい鳥から目をそらし、紙箱を返して立ち上がる。

 

「特に問題はないのでこれで退院、ですけど……本当に無茶はしないようにしてくださいね。治るからといって、傷ついていいなんてことはないんですから」

「はい……」

 

 帰り際、結構ガチめに心配されてしまった。基本いつもにこやかなセリナちゃんから笑顔が消えて、ちょっと悲しげな顔をしている。まあね、そりゃあ痛いのもキツいのも俺だってやだよ。そうしたいのは山々なんだ。

 でも、いざという時にこそ人間の本性がでるという。頭空っぽ突撃おバカが本質なのが発覚してしまった。そりゃあ自分が賢い立ち回りのできる器用な人間だなんて、はじめから思ってなかったけどさ。こうなるとあとは初めっから全部投げ捨てて逃げるか、黙って火中に突っ込むかのどっちかじゃないか、なんて思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セリナちゃんと別れ、救護騎士団の医療棟を出てとりあえず寮へ。それから着替えて果樹園に向かう。台風の時に田んぼを見に行く気持ちってこんなんだろうか。昨夜は真っ暗で何が何だかわかんなかったし無我夢中だったしで、被害状況みたいなのはさっぱりわからないのだが、双方銃撃ちまくって大暴れして何事もないってことはないよなあ。

 

 寝て起きて多少メンタルリセットされたかと思えば、あのヘルメット野郎どもぶっコロがしてやりたいという怒りがぐわぐわ押し寄せてふらふらする。戦闘中は完全にこれ一色だったような気がする。

 

 思ったよりも俺という生き物は闘争本能に溢れていたようだ。戦うと元気になるなあ! いや、ならねーわ。一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやりたい。

 

 憎たらしいほどに夏の日差しと蝉の声は平常運転で、ぐわぐわミンミンふわふわだ。早くも熱中症にでもかかったかというくらい妙な調子。しかし、キヴォトス人の頑丈ボディはそれくらいでどうこうできるもんじゃない。たぶんメンタル的なアレなのだろう。

 

「ひょわっ!」

 

 うつむき加減でふらふら歩いていると、急に頭をぽんぽんやられて思わず叫ぶ。叫んだ俺に逆にびっくりしたらしい庭園部の先輩がわっと叫ぶ。先輩集団の先頭の一人が俺の頭をやったらしい。全員クソ眠そうだ。

 

 聞けば昨晩の襲撃の後、敵が戻って来ないか警戒して夜番していたそうだ。幸い何事もなかったが、過去にはそういう戦法でごっそりやられたこともあったとか。

 敵味方双方マジで激ヤバ紛争地帯みたいなムーブするじゃん……。

 

 調子悪そうだけど大丈夫~? とか、昨日は頑張ってたとか、絆創膏可愛い~とか、ひとしきり俺を揉みくちゃおもちゃにしてから、私らは寝ると帰っていく先輩方。

 

 去り際にみんなで順繰りに俺と軽くハイタッチして、ナイスファイトと笑顔で健闘を称える。まるで遠征試合終わった後の部活のようだ。いや部活は部活だけどさ

 

 でも違うよね? なんか普通の爽やか運動部みたいな空気感出すイベントじゃないでしょギャングの襲撃と銃撃戦は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キヴォトス人のメンタルについて考えて宇宙になりながらも、ようやくたどりついた大果樹園。いつもと違って知らない人がウロウロしていて、どうにも落ち着かない様子だ。

 現場検証やら事情聴取やらのために来た正実の人たちらしい。それとそこら中に落ちた空薬莢やら銃弾、金属片なんかを片っ端から回収している兵器委員会*2の人。街中で銃撃戦とかあった後、あっという間に壊れたとこを修理していく地味だけどすごい人々だ。

 

 ここに建造物とかはないが、農地に鉛はヤバすぎるのでしっかり回収してくれているようだ。安全第一の野暮ったいヘルメットと作業服姿になんとなく親近感。ちょうど仕事が終わるところだったのか、庭園部の面々以外はそれぞれ帰っていく。そして正実の人と話していた部長が俺に気づいてやってきた。

 

「や、ワカナちゃん。体調はどう?」

「元気元気っす。怪我自体そもそも大したことなかったみたいで」

 

 元気元気の空元気だが、部長はそれをわかった上で無視してくれたらしい。それなら良かったと頭ぽんぽん。ちょうど叩きやすい高さにあるのだろうか、クイズのボタンのごとく気軽にやられる。

 嫌ってほどじゃないけどさあ、どっちかというと逆のポジションに付きたいというか。現状の俺がぽんぽんできる子となるとガチ幼女くらいだけど。

 

「リンゴ泥棒自体は結構やられちゃったけど、まあ仕方ないね。襲撃の規模の割にはよくしのげたほうだよ。正実の人にも褒めてもらっちゃった。不良の人いっぱい捕縛できたって」

 

 ワカナちゃんのおかげだね~と、今度はわしゃわしゃやられる。やめろやめろ褒められて悪い気はしないけど。

 

「……実際どんなもんなんすか、被害は」

「被害は去年の同規模の襲撃と比べると2割減ってとこかな。でも武装したピックアップトラック*3何台も突っ込んできてたし、ここまで大規模なのは本当にシーズン最後くらいだったんだけどね~……」

 

 てくてくと二人で襲撃のあった地点へと向かう。酷いもんだ。乱雑に枝が切り落とされ、弾痕でボコボコになった木が何本もある。落ちて踏み潰された、まだ青いりんごにアリがたかっている。

 

「木はある程度年数経ったら植え替えるし、こういうの見越して毎年多めに植えてるんだ。実はちょっと傷がついたくらいのやつは私たちで食べてもいいし、ジャムにしてもいい」

 

 枝を切られた木で、まだなんとかなりそうなやつには断面に癒合剤が塗られている。木の傷薬みたいなもんだが、これも先輩たちが作業したのだろうか。まだ死んじゃいない。

 

「虫にやられたり鳥にやられたりもあるから、結局一定数はどうしたってダメになっちゃうもんだし、それとおんなじ。だから、そーんなに気にする必要はない、んだけどさ。……がっくりきちゃうよねー」

 

「……あぁ」

 

 

 

 全部やられたってわけじゃない。広大な果樹園の全体からすればほんの一部。織り込み済みの被害。よくやった。頑張った。でも、そんな慰めに一体なんの意味があったんだろう。負けて、奪われたのだ。

 

 大きく育っていた苗木も何本も折られていた。車に突っ込まれて踏まれたのだろうか。根本からバッキリ折れてグチャリと潰れている。

 自分が仲間と汗を流して植えて、すくすくと育つのを日々見てきた木だった。

 

 ぽろぽろと涙が溢れて止まらなかった。

 

「……ワカナちゃん、泣かないで」

「泣いてねっす」

 

 別に、そんなに思い入れがあるはずじゃなかった。状況に流され流され、なんとなく入った部活で言われるままにやっただけ。特別草花が好きとかそういうのもない。世話してる植木や花の種類とかだってまだ曖昧なとこも多い。

 だけど、なんでかめちゃめちゃムカつくし悲しいのだ。

 

「……ごめんね。私がもっとしっかりして、舐められてなければきっと、ここまでにはならなかったんだけど……」

 

 ふるふると首を振る。味方がよえーから負けたじゃねえかよとか、そんなレベルの話じゃないのだ。というかそんなこと口が裂けても言えない。

 馬鹿みたいに突撃してただけの俺と違って、部長はバシバシ指示飛ばしてた……ような気がする。なにがなんだかわかんなかったけど、みんなちゃんと戦ってた。

 

 俺だけだ。俺だけアホみたいな事してた。何かを変える力があったはずだ。もっと、何か。守れたはずじゃないか。そう思うとまた涙が溢れる。ダメさ加減に嫌になる。何がちいかわだよなんともならねえんだ。

 

「あぁ、もう。ほんとに……あんまり気にしちゃダメなんだよ。しょうがない事なんだから」

 

 ふるふる、ふるふる、首を振る。そんな言葉で済まして欲しくなかった。本当にしょうがないなんて思ってる声じゃなかった。そんな風に言わせたすべてのものが嫌だった。

 

「うぅん……わかったよ。じゃあええと、ゴホン。ワカナちゃん ……汝、力を望むか?」

 

「欲しい」

 

 ちょっと冗談めかした部長だったが、それに付き合う精神的な余裕はなかった。平坦な声で即答する俺に部長はちょっとガッカリ顔。

 

 でも、ムカつくやつらを全員ぶちのめせるスーパー・パワーが手に入るなら、心底欲しくてたまらなかったんだ。今ならきっと悪魔にも魂を売っただろう。このもやもやと渦巻く激情を暴力にして吐き出してやりたかった。

 

 ちぇーと口を尖らせる彼女に手を引かれ、果樹園を出て、庭園部の部室の傍の古い倉庫に入っていく。普段使わないものはとりあえずここに放り込んどけみたいな所だったはずだが。一体何があるというのだろう。

 

 

 

 しばらく歩いたせいでちょっと冷静になった。そんなファンタジーやメルヘンじゃないんだから、いきなりパワーアップするとかある? 

 

 いやキヴォトス住人の耐久力とか犯罪係数の高さとかはガッツリファンタジー入ってるけど、いきなり強くなるなんてのは聞いたことがない。地道な訓練でちまちま強くなるとか、あるいは虎は虎だから強いのだ的な才能の暴力の話は聞くけど。

 

「えぇと……どこやったかな」

 

 ガサゴソと倉庫を漁る部長。しょーもないガラクタみたいなのに混じって、数百年前の遺物でござるみたいな顔した怪しいアイテムがちょいちょい混じるのが怖いんですけど。え、マジで魔導書使って悪魔と契約みたいな感じになったりする? 

 

 先の展開を思い戦慄していた俺を他所に、部長はあったあったと嬉しそうにバカでかい箱を引きずり出した。棺桶みたいな箱だな。

 

 ……というかこれはマジで棺桶なのでは? うっすらと埃を被った、人間大のでけえ木の箱。足元がやや細く、頭に行くほど膨らんだ形状は吸血鬼とか入ってそうなアレにしか見えない。

 

 お、俺は人間をやめるぞぶちょォ? 

 

 シスターフッドの人々にすげえ勢いで襲われそうなんですけど、大丈夫なんですかね。あの人達なんか普通に戦闘力高そうなんだよな。訓練が正実並にガチって噂で。

 裏で対バケモノ特務機関とかやってても不思議じゃない。ていうか表立って銀の弾丸とかいういかにもなアイテム販売してる謎の組織だし……。

 

「お、おぉ……?」

「さあ、これをワカナちゃんに差し上げよう。……そのうち渡すことになるとは思ってたんだけどね。私がじゃなくて、もうちょっと後に……来年以降とかさ」

 

 特に重々しいタメとかもなく、棺桶みたいな箱をパカッと開ける部長。中から出てきたのは青白い肌の金髪美少女……とかではなく、いや、なんだろうこれ。マジでわからん。

 

 なんか棒? 長い棒の先になんかデカい丸いのが付いてるみたいな。蔦が這うような彫刻が施された棒、その先が二股に別れ、炎が踊るようなデザインの輪っかを支えている。

 輪っかというか、車輪だろうか。外周には翼みたいな、ナイフみたいな突起がずらっと付いている。

 

「庭園部に伝わる伝説の回転ノコギリ*4だよ!」

 

「ハァ?」

 

 流石の俺も思わず真顔。

 

 もっとマシなものを伝えろ!

*1
ペロロ迷わず×、ミスターニコライまあ○、スカルマン○、ピンキーパカ○、アングリーアデリー△、ウェーブキャット×よりの△、ビッグブラザー△。

*2
学園の物資・備品を管理する委員会。土木建築、戦闘で壊れた建物の修繕なども行う。

*3
即製戦闘車両、いわゆるテクニカル。ブルアカでは軽率に戦車や戦闘ヘリが出てくるのであまり見かけないが、世界観的にはそこら中ブンブン走ってそう。

*4
シスターフッドの前身となるユスティナ聖徒会が残した礼装と同じく、伝説の装備と呼ばれるものの一つ。歴史深いトリニティに伝わる神秘、その一端。




回る炎の剣って言われたらこれだよね!ということで回転ノコギリです。
ブラッドボーンの炎エンチャピザカッターが初期イメージでした。本作ビジュアルはエルデンリングのギーザの車輪を天使っぽくした感じでしょうか。

サクラコ様の覚悟が結局すごいパワーがあるのか単なる破廉恥衣装なのかわからないんで、伝説の装備的なものがブルアカにあるかは現状不明なんですが、本作ではある感じにしておきます。
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